JP3934740B2 - フィチン、フィチン酸、イノシトールモノリン酸及びイノシトールの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フィチンの製造方法及び該フィチンを原料としてフィチン酸、イノシトールモノリン酸及びイノシトールを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
フィチンはミオ−イノシトールのヘキサリン酸エステル(フィチン酸)のマグネシウム、カリウム、カルシウムなどの複塩の総称であり、植物界に広く存在する有機リン酸化合物である。フィチンは多くの植物体、特に種子や穀類に多く含まれている。植物に含まれるフィチンは、酸で抽出した後水酸化カルシウムなどのアルカリで中和沈澱して分離回収されており、この回収されたフィチン酸塩も一般にフィチンと称されている。
【0003】
本発明では、全リンと無機リンの差から有機リンを算出し、フィチン酸は全てイノシトールのヘキサリン酸エステルであるとして有機リンの値からフィチン酸を算出した。なお、リンの定量は Fiske-Subbraw法により行った。
また、フィチンを脱塩精製して製造されるフィチン酸は強い金属キレート作用を有し、EDTAより強力な金属捕捉作用を始めとして、防錆作用、抗酸化作用、缶詰のストラバイト生成防止作用など興味ある性質が見出されており、広く利用されている。
【0004】
フィチンを製造するには、まず植物からフィチンを酸で抽出することから始まる。フィチンは酸に溶解するので、無機酸または有機酸が抽出溶剤として使用される。抽出されたフィチンは酸性溶液中でフリーのフィチン酸または塩として溶解しており、これにアルカリを加えてフィチンの沈澱を形成させ、分離回収するのが一般的なフィチンの抽出分離法である。
【0005】
フィチンの沈澱方法としては、アルカリの他にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、有機溶剤など各種の沈澱剤添加法が知られている。取り扱いの容易性や価格の安さという観点から、一般にアルカリ添加法が用いられている。
しかしながら、アルカリ添加法によるフィチンの分離回収法は次のような多くの欠点が指摘されている。
【0006】
▲1▼ 得られるフィチンの沈澱は水分が多くペースト状であり、分離回収操作が非常に困難である。
▲2▼ 得られるフィチンの沈澱には蛋白質などの不純物が多く含まれる。
▲3▼ フィチンの回収率を高めるためには、pH=7.5以上とアルカリの添加量を多く必要とする(特公昭34−1984号公報)。
▲4▼ フィチンの沈澱には中和に用いたアルカリが共存するため、得られるフィチンを水に分散させるとアルカリ性を示す。
【0007】
従って、従来のアルカリ中和法で得られたフィチンを原料として、フィチン酸やイノシトールを生産するには、フィチンの純度が低いために精製工程での負荷が大きく、製造コストは必然的に高くなる。また、純度の高いフィチンを得るためには、沈澱分離したフィチンをさらに精製する必要があり、安価なフィチンの生産を困難にしてきた。
【0008】
沈澱フィチンの純度を高める方法として、沈降性の良好なカルシウム塩を得るため、予め陽イオン交換樹脂でマグネシウムなどの陽イオンを除去してから水酸化カルシウムで中和することにより、純度の高いフィチン酸カルシウムの沈澱を回収する方法 (特許公報昭37−13485号) 、除去困難な蛋白質を限外濾過法により除去する方法 (特許第2074099号) などが提案されている。
【0009】
例えば、特公昭34−1984号公報に記載のpH=7.5以上で沈澱を形成させる方法では、得られるフィチンの沈澱は水分が多くてコロイダルなペースト状を呈している。このフィチン沈澱は粘性が高いために沈澱物の分離回収操作が難しく、また乾燥操作も困難となる。フィチン酸カルシウムの沈澱を回収する方法 (特許公報昭37−13485号) でも、フィチン沈澱の性状はペースト状であり、沈澱に含まれる蛋白質が多く、この蛋白質の除去は非常に困難である。これらペースト状のフィチン沈澱物を遠心分離機で濃縮しようとすれば、沈澱の粘性が原因となってノズルが詰まるなどの障害がある。また、ペースト状のフィチン沈澱をフィルターで回収洗浄しようとすれば、目詰まりを起こして作業能率が極端に悪くなるなどの欠点があった。
【0010】
限外濾過法を併用する方法 (特許第2074099号) は高分子量の蛋白質を効果的に除く良い方法であり、アルカリ中和で得られるフィチン沈澱の純度が高くなる利点がある。しかし、沈澱の水分は多く、ペースト状を示しており、沈澱の性状を改善する効果は少ない。
いずれの沈澱形成法も分離回収困難な性状を有しており、沈澱の純度も低く、フィチン製造コストの低減には満足できる方法ではない。
【0011】
沈澱分離したフィチンからフィチン酸を製造するには、フィチンを無機酸やフィチン酸に溶解してからイオン交換樹脂などを用いて脱塩処理し、陽イオンや夾雑する陰イオンを除去してフリーのフィチン酸に転換する。さらに脱色などの精製工程を経て濃縮し、フィチン酸の製品が得られる。
【0012】
従って、沈澱分離して得られたフィチンに含まれる蛋白質や酸、アルカリなどの不純物はフィチン酸の分離・精製工程で大きい負荷となり、原料となるフィチンの純度がフィチン酸の製造コストに大きな影響を与える。純度の高いフィチンを安価に製造することが、フィチン酸の製造コストを下げる最も重要な課題である。
【0013】
一方、イノシトールはシクロヘキサンの6つの炭素に結合する水素のうち、それぞれ1個が水酸基に置換された化合物であり、9個の立体異性体が存在する。本発明におけるイノシトールとはミオイノシトールと呼ばれる天然型イノシトールを意味する。イノシトールは高等動物にとってビタミンの一種であり、脂肪やコレステロールの代謝に役割を果たす重要な物質であって、抗脂肝作用を有し、肝硬変症、過コレステロール血しょうなどに有効とされている。
【0014】
イノシトールは一般に、フィチンやフィチン酸を原料として、高温高圧下で加水分解したり、またはリン酸加水分解酵素で加水分解して製造される。前述のように、元の原料であるフィチンに不純物が多く含まれている限り、イノシトール生産の精製工程での負荷が大きく、製造コストの上昇を招いたり、製品品質の低下を招くこととなる。
【0015】
また、イノシトールモノリン酸はイノシトールの1個の水酸基がリン酸基で置換されているものであり、例えば、特開平4−243902号公報では、フッ化物微粒子の凝集物の製造における難溶性フッ化物の解コウ剤として使用されたり、また、特開平7−505616号公報では、マラリアの処置、予防の材料として効果があるとされている。
【0016】
このイノシトールモノリン酸は、一般的に上記フィチンまたはフィチン酸を加圧下で加水分解、またはリン酸加水分解酵素で加水分解して製造される。前述のように、元の原料であるフィチンに不純物が多く含まれている限り、イノシトールモノリン酸生産の精製工程での負荷が大きく、製造コストの上昇を招いたり、製品品質の低下を招くこととなる。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、フィチンの沈澱分離製造法で問題となっている沈澱の性状を分離回収操作が容易で、不純物の少ないものに改善することにより、純度が高く、より安価なフィチンを製造することである。本発明のフィチンを原料として利用すれば、フィチン酸、イノシトールモノリン酸、イノシトールの精製負荷が低減され、製造コストを大きく低減することが可能である。
【0018】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決して不純物が少なく、沈澱分離操作が容易なフィチンの沈澱を得ることがフィチン、フィチン酸、イノシトールモノリン酸、イノシトールの安価な製造技術につながることを確信して、本発明者らはフィチンの沈澱形成条件を種々検討した。
【0019】
特に、蛋白質、ペプチド、乳酸、糖類などの夾雑物質が非常に多いコーン浸漬液(CSL)を原料として、中和に用いるアルカリや塩類の種類と添加量、pH、温度などの沈澱形成への影響を調べた。単なるフィチンの回収率だけを指標とするのではなく、分離操作の容易さは濾紙を使った濾過時間の短さ、沈澱の水分含量などを指標とし、沈澱の純度は蛋白質及びペプチド由来の窒素量などを指標とし、これらを併せて評価して最適な沈澱形成条件を詳細に調べた。
【0020】
その結果、フィチン酸及び/またはフィチン酸塩類の含有液(以下、フィチン類含有液と称する)にアルカリ及び/または塩類を加えて沈澱を形成させる時、処理温度が高いほどフィチンの回収率が高いことを見出した。しかも、一定温度以上で、一定時間保持することにより、フィチン収率が高くなるだけでなく、沈澱の性状が大きく変化し、ペースト状の沈澱から粉末状に変わり、沈澱の水分が少なくなると共に濾過性能が格段に向上することを見出した。また、より低いpHで高いフィチン収率が得られ、得られるフィチンのpHが中性付近で安定し、混入する蛋白質も大幅に減少できることが分かった。
【0021】
即ち本発明は、フィチン類含有液にアルカリ及び/または塩類を添加した後、あるいはアルカリ及び/または塩類を添加しつつ、該液温を60〜140℃に加熱することにより、純度が高く、分離回収性能に優れたフィチン沈澱物を得ることを特徴とするフィチンの製造方法に関するものである。
【0022】
また、本発明は、50℃以下の温度にてフィチン類含有液にアルカリ及び/または塩類を添加した後、次いで該液温を60〜140℃に加温して保持し、加温及び保持を30分以上の時間をかけて行うことにより、分離回収性能に優れたフィチン沈澱物を得ることを特徴とするフィチンの製造方法にも関するものである。
【0023】
さらに、本発明は、生成したフィチン沈澱物の液温を50〜100℃に維持してフィチンを分離回収することを特徴とする上述のフィチンの製造方法にも関する。
さらに、また、本発明は、フィチン酸及び/またはフィチン酸の塩類含有液にアルカリ及び/または塩類を添加した液のpHを好ましくは、3〜7に調製して、フィチン沈澱物を生成させることを特徴とする上述のフィチンの製造方法にも関する。
【0024】
また、本発明は、生成したフィチン沈澱物を濾別して得られるフィチンケーキの水分が60重量%未満であることを特徴とする上述のフィチンの製造方法にも関する。
さらに、本発明は、生成したフィチン沈澱物を濾別して得られるフィチンケーキの固形分中のフィチン含量が70%以上であることを特徴とする上述のフィチンの製造方法にも関する。
【0025】
また、本発明における原料は、フィチン酸やフィチン酸の塩類、または両者を含む液体であればいかなるものでもよいが、好ましくは、コーン浸漬液及び/または米糠抽出液を使用する。
さらに、本発明は、上述のフィチン製造法によって得られたフィチンを原料として脱塩処理することを特徴とするフィチン酸の製造方法にも関する。
【0026】
また、本発明は、上述の製造法によって得られたフィチン及びフィチン酸を原料として加水分解することを特徴とするイノシトールモノリン酸の製造方法にも関する。
さらに、また、本発明は、上述の製造法によって得られたフィチン、フィチン酸及びイノシトールモノリン酸を原料として加水分解することを特徴とするイノシトールの製造方法にも関する。
【0027】
【発明の実施の形態】
本発明は分離回収が容易でかつ純度の高いフィチンを安価に製造する方法を提供するものである。
本発明では原料としてフィチン類含有液を使用する。フィチン類含有液としては、フィチン酸やフィチン酸の塩類、または両者を含む液体であればいかなるものでもよい。フィチンを含む植物の種子などやその加工品の酸抽出液、例えば、コーンの亜硫酸抽出液であるCSLや脱脂米糠の酸抽出液などが使用できる。植物から抽出したフィチン類含有液からフィチンを沈澱として回収するため、原料となるフィチン類含有液は清澄液であることが好ましい。
【0028】
フィチン類含有液に添加するアルカリは、水溶液が塩基性を示す物質であればいかなるものでもよい。例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、アミン類、二硫化炭素などが挙げられる。もちろん、これらアルカリの水溶液を添加してもよい。
【0029】
また、フィチン類含有液に添加する塩は、酸とアルカリとの中和反応で生成する化合物である。例えば、アルカリ塩としてはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などがあり、酸塩としては酸化物、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、亜硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩などが挙げられる。特に、塩酸塩や炭酸塩が好ましい。もちろん、これら塩類の水溶液を添加してもよい。
【0030】
アルカリ及び/または塩類の添加により、フィチン類含有液のpHを3〜7、好ましくはpH4〜6に調整することが望ましい。液のpHが3より低いとフィチンの収率が低くなり、pHが7より高いとアルカリや塩類、蛋白質などが不純物としてフィチン酸塩と共沈して、ペースト状の沈澱が形成されることとなる。本発明の最大の特徴は、原料のフィチン類含有液にアルカリおよび/または塩類を加えた後加温して、あるいはアルカリ及び/または塩類を添加しながら加温して、フィチン類含有液の温度を60〜140℃、好ましくは70〜120℃に高めることにある。
【0031】
加熱温度が60℃以下の低温では添加したアルカリ及び/または塩類との反応により生成するフィチン酸塩の沈澱形成が不十分となり、フィチン収率が低くなる。加熱温度が140℃以上の高温ではフィチン酸の分解が起こり、フィチン収率が低くなる。
【0032】
フィチン酸塩が形成される時の温度を60〜140℃と高くすることにより、フィチン収率が高くなるだけでなく、得られる沈澱の水分が少なくなる。沈澱の水分が少なくなると性状がペースト状から粉末状に変わって、沈澱を含むスラリーの粘度が大幅に低下する。従って、遠心分離にしろ、濾過分離にしろ、沈澱の分離回収が非常に容易となる。フィルタープレスや遠心分離機などの実装置による分離回収操作が容易となり、沈澱の洗浄も効率良く行うことができる。
【0033】
しかも、分離回収したフィチンの純度が高くなる。例えば、フィチン酸の4〜5倍も粗蛋白質を含むCSLを原料として本発明の方法でフィチンの沈澱を得ると、沈澱ケーキの固形分中の蛋白質含量は多くの場合5%未満まで減少した。
なお、フィチン類含有液にアルカリ及び/または塩類の添加を完了した時の温度は50℃以下であることが好ましい。この添加終了時の温度が50℃より高いと、フィチン酸塩の沈澱形成速度が速くなりすぎて、塩類や蛋白質等の不純物を多く含んだ状態でフィチン酸塩の沈澱が形成されることになる。このように沈澱形成が速くなって不純物を多く含んだフィチン酸塩の沈澱は、水分が多くなり、ペースト状となって分離回収が困難となる。
【0034】
また、フィチン類含有液にアルカリ及び/または塩類の添加を完了した後、加温及び保持に要する時間は、合計時間として30分より長い時間が好ましい。30分より短いとフィチン酸塩の沈澱形成速度が速くなりすぎて、塩類や蛋白質等の不純物を多く含んだフィチン酸塩の沈澱が形成されることになる。前述のように、沈澱形成が速くなって不純物を多く含んだフィチン酸塩の沈澱は、水分が多くなり、ペースト状となって分離回収が困難となる。
【0035】
さらに、フィチン類含有液にアルカリ及び/または塩類を添加し、加温及び保持して得られたフィチン酸塩の沈澱を分離回収する時、沈澱の分離操作は50〜100℃の範囲の温度で行うのが好ましい。分離操作を50℃以下の温度で行うと、一旦不溶性となったフィチン酸塩の沈澱が低温で溶解してフィチン収率が低下する。また、100℃より高い温度で分離操作を行うことは実生産上難しい。
【0036】
以上述べたように、フィチン類含有液にアルカリ及び/または塩類を添加した後、60〜140℃に加温及び保持して得られたフィチン酸塩の沈澱は蛋白質や塩類などの不純物が少なく、共存する水分も少ないため粉末状を呈して、分離操作が容易な沈澱となる。さらに、この沈澱を50〜100℃の温度範囲で分離操作を行えば、優れた分離性能が維持されてフィチン酸塩が効率的に分別回収される。よって、純度の高いフィチンがより安価に製造することができる。
【0037】
さらに、本発明の方法によって得られたフィチン酸塩は、常法に従って脱塩処理すればフィチン酸に転換することができる。通常、脱塩は溶液状態で行われるため、まず固体のフィチンを溶解する必要がある。フィチンは酸に溶解するので、塩酸、フィチン酸、硫酸、硝酸、乳酸、酢酸などの各種酸を用いて溶解させることができる。しかし、フィチン酸をフィチンの溶解に用いれば、精製して得られるフィチン酸がフィチンの溶解に利用できることになり、脱塩処理の負荷をより少なくすることができる。
【0038】
脱塩処理は常法どおり、イオン交換樹脂、電気透析、限外濾過膜、逆浸透膜などを用いて行うことができる。一般的には、イオン交換樹脂による脱塩処理が行われている。
フィチンをフィチン酸へ脱塩処理した後、着色成分を除くため脱色処理が行われる場合が多い。脱色処理は活性炭、イオン交換樹脂、無機吸着剤、有機吸着剤などが使用されるが、多くの場合、活性炭が用いられる。必要に応じて、得られたフィチン酸は所定の濃度に濃縮して製品化される。
【0039】
本発明の方法によって製造したフィチンは蛋白質や塩などの夾雑物が少ないので、フィチン酸製造の精製工程における負荷が従来法に比べてはるかに軽減される。従って、純度の高いフィチンから高純度のフィチン酸をより安価に得ることが可能となる。
次に、本発明の方法により製造された純度の高いフィチン及び/またはフィチン酸を原料として加水分解することによりイノシトールモノリン酸を製造することができる。加水分解の方法としては、例えば、高温加圧下で処理する方法とリン酸加水分解酵素で処理する方法が挙げられる。
【0040】
具体的には、高温加圧下で加水分解する方法は、フィチン及び/またはフィチン酸を含む溶液を100〜300℃の温度範囲で処理することよりなる。しかし、高温加圧処理ではイノシトールモノリン酸だけでなく、ジリン酸、トリリン酸、テトラリン酸、ペンタリン酸及びリン酸基全てが加水分解されたイノシトールなどの混合物が得られることとなる。
【0041】
その点、リン酸加水分解酵素によれば、イノシトールのジリン酸、トリリン酸は生成量が少なく、大部分はイノシトールモノリン酸である。加水分解に用いる酵素としては、フィチン及び/またはフィチン酸からイノシトールモノリン酸を生成する酵素であればいかなる酵素であってもよい。例えば、3−フィターゼ(EC3.1.3.8)、6−フィターゼ(EC3.1.3.26)(以下フィターゼと記す)を用いることができる。
【0042】
フィターゼは植物、動物、微生物に広く分布しているので、いかなる由来のものを使用してもさしつかえない。例えば、米糠、小麦ふすま、植物の種子、動物の腸、微生物などから得ることができる。微生物としては、フィターゼ産生能を有するアスペルギルス属、リゾプス属、サッカロミセス属、ムコール属などを例示することができる。
【0043】
なお、加水分解に用いるフィターゼは精製されたものである必要はなく、例えば、微生物由来の酵素の場合、培養液、微生物菌体、部分精製酵素などを用いることができる。
フィチン及び/またはフィチン酸を原料としてリン酸加水分解酵素で加水分解するには、該溶液の温度を30〜60℃に、pHを3〜6に調整し、酵素を添加すればよい。基質であるフィチン及び/またはフィチン酸の濃度は0.1〜30重量%、好ましくは2〜20重量%である。
【0044】
酵素の添加量はフィチン及び/またはフィチン酸の含量、温度、pH等反応条件に応じて変わってくる。適正量は当業者なら容易に決定できるはずである。
溶液だけでなく懸濁液でも反応は進行するので、フィチンの性質上、懸濁液を用いることができる。即ち、フィチン及び/またはフィチン酸の懸濁液には溶解したフィチン及び/またはフィチン酸が含まれ、それらがリン酸加水分解酵素で加水分解されるに従い、不溶性のフィチン及び/またはフィチン酸が溶解する。溶解したものは逐次加水分解を受けるので、不溶性のフィチン及び/またはフィチン酸は暫時加水分解を受けることとなる。
【0045】
フィチン及び/またはフィチン酸を加水分解して得られるイノシトールモノリン酸溶液には、イノシトール、イノシトールリン酸、フィチン酸、フィチンやリン酸塩などが含まれる。高純度のイノシトールモノリン酸を得るには、夾雑物を除くためイノシトールモノリン酸溶液に水酸化カルシウムなどを加えて中和し、生じた不溶性の塩類は濾過などで除けばよい。
【0046】
さらに必要に応じて脱塩、脱色などの処理を行って純度を高めることができる。脱塩処理は常法どおり、イオン交換樹脂、電気透析、限外濾過膜、逆浸透膜などを用いて行うことができる。一般的には、イオン交換樹脂による脱塩処理が行われている。
脱塩処理した後、さらに着色成分を除くため脱色処理が行われる場合が多い。脱色処理は活性炭、イオン交換樹脂、無機吸着剤、有機吸着剤などが使用されるが、多くの場合、活性炭が用いられる。
【0047】
このようにして得られたイノシトールモノリン酸は所定の濃度に濃縮して製品化されるが、濃縮液から容易に結晶を作ることが可能であり、高純度のイノシトールモノリン酸結晶が得られる。
本発明においては、フィチン類含有液にアルカリ及び/または塩類を加えて60〜140℃に加温して粉末状のフィチン沈澱を得、純度の高いフィチン及びフィチン酸を製造することができる。この純度の高いフィチン及びフィチン酸を原料とすることにより、精製工程の負荷を大幅に低減させて、かつ高純度のイノシトールモノリン酸を経済的に製造することができる。
【0048】
さらに次に、本発明の方法により製造された純度の高いフィチン、フィチン酸、イノシトールモノリン酸を原料として加水分解することにより、イノシトールを製造することができる。加水分解の方法としては、例えば、高温加圧下で処理する方法とリン酸加水分解酵素で処理する方法が挙げられる。
具体的には、高温加圧下で加水分解する方法では、原料溶液を100〜300℃の温度範囲で処理し、フィチン、フィチン酸、イノシトールモノリン酸を完全に加水分解する条件が選ばれてイノシトールが生成する。
【0049】
一方、リン酸加水分解酵素としては、フィチン、フィチン酸、イノシトールモノリン酸からミオイノシトールを生成する酵素であればいかなる酵素であってもよい。例えば、3−フィターゼ、6−フィターゼを用いることができる。
フィターゼは植物、動物、微生物由来のいかなるものを使用してもさしつかえない。例えば、米糠、小麦ふすま、植物の種子、動物の腸、微生物などから得ることができる。微生物としては、フィターゼ産生能を有するアスペルギルス属、リゾプス属、サッカロミセス属、ムコール属などを例示することができる。
なお、加水分解に用いるフィターゼは精製されたものである必要はなく、例えば、微生物由来の酵素の場合、培養液、微生物菌体、部分精製酵素などを用いることができる。
【0050】
リン酸加水分解酵素によりイノシトールを生成するにはフィターゼを単独で用いることもできるが、フィターゼに酸性ホスファターゼ(EC3.1.3.2)を共存させるとイノシトールの生成を促進することができる。フィターゼはフィチン、フィチン酸から主にイノシトールモノリン酸を生成し、イノシトールの生成は必ずしも強くない。酸性ホスファターゼはイノシトールモノリン酸を加水分解してイノシトールを生成することができる。従って、フィターゼによって生成したイノシトールモノリン酸がイノシトールに分解されるため、フィチン、フィチン酸の分解が促進されることとなる。
【0051】
フィターゼと酸性ホスファターゼを組み合わせて使用することにより、イノシトールの生成を促進することができる。この場合、両者を共存させて加水分解すると有効であるが、フィターゼを作用させた後に酸性ホスファターゼを作用させることもできる。
【0052】
植物や微生物起源の多くのリン酸加水分解酵素標品にはフィターゼと共に酸性ホスファターゼが含まれている。これらの酵素標品を用いればフィチン、フィチン酸からのミオイノシトールへの分解が前述の両酵素を共存させた場合と同様に促進される。両酵素を含む酵素標品としては微生物起源のアスペルギルス・フィカム(Aspergillus ficum)(T. R. Shieh et al., J. Bacteriology, Vol.100, p.1161-1165, 1969)や植物起源のマング・ビーン(N. C. Mandel et al., Phytochemistry, Vol.11, p.495-502, 1972)などが挙げられる。もちろん、これらの酵素標品は精製されたものが必要ではなく、部分精製酵素、培養液、微生物菌体などを用いることができる。
【0053】
フィチン、フィチン酸、イノシトールモノリン酸を原料としてリン酸加水分解酵素で加水分解するには、該溶液の温度を30〜60℃に、pHを3〜6に調整して酵素を添加すればよい。基質であるフィチン及び/またはフィチン酸及び/またはイノシトールモノリン酸の濃度は0.1〜30重量%、好ましくは2〜20重量%である。
【0054】
酵素の添加量はフィチン及び/またはフィチン酸及び/またはイノシトールモノリン酸の含量、温度、pH等反応条件に応じて変わってくる。適正量は当業者なら容易に決定できるはずである。
【0055】
溶液だけでなく懸濁液でも反応は進行するので、フィチンの性質上、懸濁液を用いることができる。即ち、フィチン、フィチン酸の懸濁液には溶解したフィチン、フィチン酸が含まれ、それらがリン酸加水分解酵素で加水分解されるに従い、不溶性のフィチン、フィチン酸が溶解する。溶解したものは逐次加水分解を受けるので、不溶性のフィチン、フィチン酸は暫時加水分解を受けることとなる。
【0056】
フィチン、フィチン酸、イノシトールモノリン酸を加水分解して得られるイノシトール溶液には、イノシトールリン酸、フィチン酸、フィチンやリン酸塩などが含まれる。高純度のイノシトールを得るには、夾雑物を除くためイノシトール溶液に水酸化カルシウムなどを加えて中和し、生じた不溶性の塩類は濾過などで除けばよい。
【0057】
さらに必要に応じて脱塩、脱色などの処理を行って純度を高めることができる。脱塩処理は常法どおり、イオン交換樹脂、電気透析、限外濾過膜、逆浸透膜などを用いて行うことができる。一般的には、イオン交換樹脂による脱塩処理が行われている。
脱塩処理した後、さらに着色成分を除くため脱色処理が行われる場合が多い。脱色処理は活性炭、イオン交換樹脂、無機吸着剤、有機吸着剤などが使用されるが、多くの場合、活性炭が用いられる。
【0058】
このようにして得られたイノシトールは所定の濃度に濃縮して製品化されるが、濃縮液から容易に結晶を作ることが可能であり、高純度のイノシトール結晶が得られる。
本発明においては、フィチン類含有液にアルカリ及び/または塩類を加えて60〜140℃に加温して粉末状のフィチン沈澱を得、純度の高いフィチン、フィチン酸、イノシトールモノリン酸を製造することができる。この純度の高いフィチン、フィチン酸、イノシトールモノリン酸を原料とすることにより、精製工程の負荷を大幅に低減させて、かつ高純度のイノシトールを経済的に製造することができる。
【0059】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例により、その技術的範囲が限定されるものではない。なお、フィチン含量は6カルシウム塩として示す。
【0060】
実施例1
フィチン酸として 1.0重量%のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)300gに水酸化カルシウム水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 4.5とし、25℃から90℃まで60分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、90℃で30分間保持してから、70℃まで冷却してアドバンテック東洋(株)製 No.131 濾紙(濾過面積 43cm2)で吸引濾過(真空度 60mmHg)した。濾過性は濾過開始から液が切れてケーキ表面が見えるまでの時間を測定して評価した。本実施例の場合、濾過時間は18秒と非常に速く、その後の洗浄も極めて容易であった。水で充分置換洗浄してから、フィチンケーキ5.0gを回収した。
【0061】
得られたフィチンケーキは粉末状であり、水分は18%と少なく、固形分中の蛋白質含量(有機窒素量より算出)は 4.2重量%しか含まれていない。また、フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分82重量%であり、原料に含まれるフィチン酸の83%がフィチンとして回収されたことになる。以下、この回収率をフィチン収率と称する。
【0062】
さらに、本フィチンケーキを30mLの水に分散させた時のpHは、5.8 と酸性を維持していた。次いで、該フィチン水分散液に、フィチン酸(和光純薬(株)製50%フィチン酸試薬)をフィチン/添加純フィチン酸=1/0.3(重量比)の割合で添加してフィチンを溶解し、H型陽イオン交換樹脂(オルガノ(株)製アンバーライト IR-120B) 100mLにSV(通液速度、時間当たり樹脂容量の通液量を1とする) 1.0で通液して脱カチオン処理した。
【0063】
得られた液を粉末活性炭で脱色処理した後、濃縮することにより50重量%のフィチン酸溶液とした。本フィチン酸溶液に含まれる蛋白質は、フィチン酸に対して0.07重量%でしかなかった。また、原料中のフィチン酸成分に対する本フィチン酸溶液中のフィチン酸成分(但し、溶解の為に添加したフィチン酸は除く)の収率は81%であった。
【0064】
実施例2
フィチン酸として 1.0重量%のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)300gに水酸化マグネシウム水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 5.5とし、45℃から80℃まで90分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、80℃で30分間保持してから、60℃まで冷却して実施例1と同様に濾過した。濾過時間は16秒と速く、その後の洗浄も容易であった。水で充分置換洗浄してから、フィチンケーキ5.2gを回収した。
得られたフィチンケーキは粉末状であり、水分は21%と少なく、固形分中の蛋白質含量は 4.1重量%であった。また、フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分82重量%であり、フィチン収率は83%であった。
【0065】
さらに、本フィチンケーキを30mLの水に分散させた時のpHは、6.3 と酸性を維持していた。次いで、実施例1と同様に、溶解、脱カチオン、脱色、濃縮して50重量%のフィチン酸溶液とした。本フィチン酸溶液に含まれる蛋白質は、フィチン酸に対して0.09重量%であった。また、原料中のフィチン酸成分に対する本フィチン酸溶液中のフィチン酸成分(但し、溶解の為に添加したフィチン酸は除く)の収率は80%であった。
【0066】
実施例3
フィチン酸として 1.0重量%のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)300gに水酸化カルシウム水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 4.5とし、30℃から110℃まで120分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、110℃で15分間保持してから、90℃まで冷却して実施例1と同様に濾過した。濾過時間は13秒と速く、その後の洗浄も容易であった。水で充分置換洗浄してから、フィチンケーキ4.8gを回収した。
得られたフィチンケーキは粉末状であり、水分は16%と少なく、固形分中の蛋白質含量は 4.0重量%であった。また、フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分83重量%であり、フィチン収率は83%であった。
【0067】
さらに、本フィチンケーキを30mLの水に分散させた時のpHは、5.8 と酸性を維持していた。次いで、実施例1と同様に、溶解、脱カチオン、脱色、濃縮して50重量%のフィチン酸溶液とした。本フィチン酸溶液に含まれる蛋白質は、フィチン酸に対して0.07重量%であった。また、原料中のフィチン酸成分に対する本フィチン酸溶液中のフィチン酸成分(但し、溶解の為に添加したフィチン酸は除く)の収率は81%であった。
【0068】
実施例4
脱脂米糠(フィチン酸として10.4重量%のフィチン類を含む)30g に 1.5%塩酸水溶液300gを加えて25℃、2時間攪拌した。固形分を濾別して除き、フィチン酸として1.0 重量%を含むpH 2.0の抽出液300gを得た。この抽出液に水酸化カルシウム水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 3.7とし、25℃から90℃まで30分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、90℃で45分間保持してから、70℃まで冷却して実施例1と同様に濾過した。濾過時間は14秒と速く、その後の洗浄も容易であった。水で充分置換洗浄してから、フィチンケーキ4.4gを回収した。
【0069】
得られたフィチンケーキは粉末状であり、水分は19%と少なく、固形分中の蛋白質含量は 2.8重量%であった。また、フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分81重量%であり、フィチン収率は72%であった。
さらに、本フィチンケーキを30mLの水に分散させた時のpHは、5.2 と酸性を維持していた。次いで、実施例1と同様に、溶解、脱カチオン、脱色、濃縮して 50重量%のフィチン酸溶液とした。本フィチン酸溶液に含まれる蛋白質は、フィチン酸に対して0.09重量%であった。また、原料中のフィチン酸成分に対する本フィチン酸溶液中のフィチン酸成分(但し、溶解の為に添加したフィチン酸は除く)の収率は70%であった。
【0070】
実施例5
フィチン酸として1.0 重量%のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)300gに水酸化カルシウム水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 5.0とし、25℃から65℃まで40分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、65℃で45分間保持してから、60℃まで冷却して実施例1と同様に濾過した。濾過時間は19秒であった。水で充分置換洗浄してから、フィチンケーキ5.2gを回収した。得られたフィチンケーキは粉末状であり、水分は24%、固形分中の蛋白質含量は4.7重量%であった。また、フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分76重量%であり、フィチン収率は75%であった。
【0071】
さらに、本フィチンケーキを30mLの水に分散させた時のpHは6.0 と酸性であった。次いで、実施例1と同様に、溶解、脱カチオン、脱色、濃縮して50重量%のフィチン酸溶液とした。本フィチン酸溶液に含まれる蛋白質は、フィチン酸に対して 0.08重量%であった。また、原料中のフィチン酸成分に対する本フィチン酸溶液中のフィチン酸成分(但し、溶解の為に添加したフィチン酸は除く)の収率は79%であった。
【0072】
実施例6
フィチン酸として 1.0重量%のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)300gに塩化カルシウムと水酸化ナトリウムの1:1混合水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 6.4とし、30℃から90℃まで120分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、90℃で30分間保持してから、80℃まで冷却して実施例1と同様に濾過した。濾過時間は15秒と速く、その後の洗浄も容易であった。水で充分置3洗浄してから、フィチンケーキ5.0gを回収した。
得られたフィチンケーキは粉末状であり、水分は18%と少なく、固形分中の蛋白質含量は 4.9重量%であった。また、フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分80重量%であり、フィチン収率は81%であった。
【0073】
さらに、本フィチンケーキを30mLの水に分散させた時のpHは 6.3と酸性であった。次いで、実施例1と同様に、溶解、脱カチオン、脱色、濃縮して50重量%のフィチン酸溶液とした。本フィチン酸溶液に含まれる蛋白質は、フィチン酸に対して0.09重量%であった。また、原料中のフィチン酸成分に対する本フィチン酸溶液中のフィチン酸成分(但し、溶解の為に添加したフィチン酸は除く)の収率は79%であった。
【0074】
実施例7
フィチン酸として 1.0重量%のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)300gに水酸化カルシウム水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 4.6とし、25℃から130℃まで90分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、130℃で20分間保持してから、70℃まで冷却して実施例1と同様に濾過した。濾過時間は20秒であった。水で充分置換洗浄してから、フィチンケーキ4.8gを回収した。
得られたフィチンケーキは粉末状であり、水分は18%、固形分中の蛋白質含量は 6.9重量%であった。また、フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分73重量%であり、フィチン収率は72%であった。
【0075】
さらに、本フィチンケーキを30mLの水に分散させた時のpHは 5.8と酸性であった。次いで、実施例1と同様に、溶解、脱カチオン、脱色、濃縮して50重量%のフィチン酸溶液とした。本フィチン酸溶液に含まれる蛋白質は、フィチン酸に対して0.20重量%であった。また、原料中のフィチン酸成分に対する本フィチン酸溶液中のフィチン酸成分(但し、溶解の為に添加したフィチン酸は除く)の収率は70%であった。
【0076】
実施例8
脱脂米糠(フィチン酸として10.4重量%のフィチン類を含む)30gに1.5%塩酸水溶液 300g を加えて30℃、2時間攪拌した。固形分を濾別して除き、フィチン酸として1.0重量%を含むpH 2.0の抽出液300gを得た。この抽出液に炭酸カルシウムと塩化カルシウムの1:1混合水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 3.2とし、30℃から90℃まで60分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、90℃で15分間保持してから、70℃まで冷却して実施例1と同様に濾過した。濾過時間は14秒と速く、その後の洗浄も容易であった。水で充分置換洗浄してから、フィチンケーキ4.1gを回収した。
得られたフィチンケーキは粉末状であり、水分は23%、固形分中の蛋白質含量は 3.7重量%であった。また、フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分76重量%であり、フィチン収率は60%であった。
【0077】
さらに、本フィチンケーキを30mLの水に分散させた時のpHは 4.6と酸性であった。次いで、実施例1と同様に、溶解、脱カチオン、脱色、濃縮して50重量%のフィチン酸溶液とした。本フィチン酸溶液に含まれる蛋白質は、フィチン酸に対して0.19重量%であった。また、原料中のフィチン酸成分に対する本フィチン酸溶液中のフィチン酸成分(但し、溶解の為に添加したフィチン酸は除く)の収率は58%であった。
【0078】
比較例1
フィチン酸として 1.0重量%のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)300gに水酸化カルシウム水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 4.6とし、25℃から55℃まで30分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、55℃で30分間保持してから、50℃まで冷却して実施例1と同様に濾過した。濾過時間は75秒であった。水で充分置換洗浄してから、フィチンケーキ8.3gを回収した。得られたフィチンケーキはペースト状であり、水分は67%と多く、固形分中の蛋白質含量は 8.2重量%であった。また、フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分62重量%であり、フィチン収率は42%であった。
【0079】
さらに、本フィチンケーキを30mLの水に分散させた時のpHは 6.0であった。その後、実施例1と同様に、溶解、脱カチオン、脱色、濃縮して50重量%のフィチン酸溶液とした。本フィチン酸溶液に含まれる蛋白質は、フィチン酸に対して0.39重量%であった。また、原料中のフィチン酸成分に対する本フィチン酸溶液中のフィチン酸成分(但し、溶解の為に添加したフィチン酸は除く)の収率は40%であった。
【0080】
比較例2
フィチン酸として 1.0重量%のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)300gに水酸化カルシウム水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 5.0とし、25℃から150℃まで120分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、150℃で30分間保持してから、70℃まで冷却して実施例1と同様に濾過した。濾過時間は38秒であった。水で充分置換洗浄してから、フィチンケーキ14.0g を回収した。
得られたフィチンケーキはペースト状であり、水分は68%と多く、固形分中の蛋白質含量は 8.3重量%であった。また、フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分37重量%であり、フィチン収率は41%であった。
【0081】
さらに、本フィチンケーキを30mLの水に分散させた時のpHは 6.2であった。次いで、実施例1と同様に、溶解、脱カチオン、脱色、濃縮して50重量%のフィチン酸溶液とした。本フィチン酸溶液に含まれる蛋白質は、フィチン酸に対して0.30重量%であった。また、原料中のフィチン酸成分に対する本フィチン酸溶液中のフィチン酸成分(但し、溶解の為に添加したフィチン酸は除く)の収率は39%であった。
【0082】
比較例3
フィチン酸として 1.0重量%のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)300gに水酸化カルシウム水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 7.5とし、25℃で30分間保持してから実施例1と同様に濾過した。濾過時間は138秒であった。水で充分置換洗浄してから、フィチンケーキ25.7g を回収した。
得られたフィチンケーキは粘性のあるペーストであり、水分は74%と多く、固形分中の蛋白質含量は12.9重量%であった。また、フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分52重量%であり、フィチン収率は86%であった。
【0083】
さらに、本フィチンケーキを30mLの水に分散させた時のpHは 8.6とアルカリ性であった。次いで、実施例1と同様に、フィチンを溶解しようとしたが、完全な溶液とはならずに懸濁液であった。よって、脱塩操作が不能となり、フィチン酸溶液の生産を中止した。
【0084】
実施例9
フィチン酸として 1.0重量%(イノシトールとして0.27重量%)のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)100kg に水酸化カルシウム水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 4.6とし、25℃から90℃まで60分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、90℃で30分間保持してから、70℃まで冷却し、バスケット型遠心分離機(型式H−122バスケット直径24cm、(株)コクサン製)を用いて濾過、水で置換洗浄してフィチンケーキ2.12kgを回収した。尚、遠心分離機の回転数は3000rpm でおこなった。
【0085】
得られたフィチンケーキは粉末状であり、水分は38%、固形分中の蛋白質含量は 4.3重量%であった。フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分82重量%であり、フィチン収率は80%であった。
【0086】
得られたフィチンケーキに水を加えて固形分濃度を10%とし、オートクレーブに入れて200℃、2時間加圧加水分解した。この分解液を水酸化カルシウムで中和した後、不溶性リン酸塩を除くため濾別した。次いで、濾液をカチオン交換樹脂(ダイヤイオンSK−1B,三菱化学(株)製)及びアニオン交換樹脂(ダイヤイオンPA−408,三菱化学(株)製)で精製してから、活性炭で脱色し、濃縮してイノシトールの結晶を生成させた。得られたイノシトール結晶を濾別して回収し、真空乾燥して得た結晶イノシトールの純度は99%(液体クラマトグラフィーによる)、夾雑する蛋白質はイノシトールに対して0.18重量%であった。原料中のイノシトール成分に対する得られた結晶イノシトール中のイノシトール純分の収率は78%であった。
【0087】
実施例10
フィチン酸として 1.0重量%(イノシトールとして0.27重量%)のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)100kgに水酸化カルシウム水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 4.5とし、30℃から130℃まで75分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、130℃で15分間保持してから、90℃まで冷却して実施例9と同様に濾過、水で充分置換洗浄してフィチンケーキ2.38kgを回収した。
【0088】
得られたフィチンケーキは粉末状であり、水分は45%、固形分中の蛋白質含量は 5.9重量%であった。フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分75重量%であり、フィチン収率は73%であった。
得られたフィチンケーキを実施例9と同様に加圧加水分解、中和、脱塩、脱色してから、結晶化して乾燥し、イノシトール結晶を得た。得られた結晶イノシトールの純度は99%(液体クロマトグラフィーによる)、夾雑する蛋白質はイノシトールに対して0.21重量%であった。原料中のイノシトール成分に対する得られた結晶イノシトール中のイノシトール純分の収率は71%であった。
【0089】
実施例11
フィチン酸として 1.0重量%(イノシトールとして0.27重量%)のフィチン類を含むCSL(pH 3.6) 100kgに水酸化カルシウム水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 4.5とし、30℃から65℃まで30分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、65℃で15分間保持してから、60℃まで冷却して実施例9と同様に濾過、水で充分置換洗浄してフィチンケーキ2.51kgを回収した。
【0090】
得られたフィチンケーキは粉末状であり、水分は50%、固形分中の蛋白質含量は 4.9重量%であった。フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分75重量%であり、フィチン収率は70%であった。
得られたフィチンケーキを実施例9と同様に加圧加水分解、中和、脱塩、脱色してから、結晶化して乾燥し、イノシトール結晶を得た。得られた結晶イノシトールの純度は99%(液体クロマトグラフィーによる)、夾雑する蛋白質はイノシトールに対して 0.22重量%であった。原料中のイノシトール成分に対する得られた結晶イノシトール中のイノシトール純分の収率は68%であった。
【0091】
実施例12
フィチン酸として 1.0重量%(イノシトールとして0.27重量%)のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)50kgに水酸化カルシウムと水酸化カリウムの1:1混合水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 6.0とし、30℃から100℃まで80分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、100℃で45分間保持してから、90℃まで冷却して実施例9と同様に濾過、水で充分置換洗浄してフィチンケーキ1.49kgを回収した。
【0092】
得られたフィチンケーキは粉末状であり、水分は55%、固形分中の蛋白質含量は4.9重量%であった。フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分80重量%であり、フィチン収率は80%であった。
得られたフィチンケーキを実施例9と同様に加圧加水分解、中和、脱塩、脱色してから、結晶化して乾燥し、イノシトール結晶を得た。得られた結晶イノシトールの純度は99%(液体クロマトグラフィーによる)、夾雑する蛋白質はイノシトールに対して0.24重量%であった。原料中のイノシトール成分に対する得られた結晶イノシトール中のイノシトール純分の収率は78%であった。
【0093】
実施例13
フィチン酸として 1.0重量%(イノシトールとして0.27重量%)のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)100kgに水酸化カルシウム水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 4.4とし、25℃から90℃まで50分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、90℃で40分間保持してから、70℃まで冷却して実施例9と同様に濾過、水で充分置換洗浄してフィチンケーキ1.93kgを回収した。
【0094】
得られたフィチンケーキは粉末状であり、水分は31%、固形分中の蛋白質含量は4.2重量%であった。フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分82重量%であり、フィチン収率は81%であった。
【0095】
得られたフィチンケーキに水を加えて固形分濃度を5%とし、これにフィターゼ(アスペルギルス・フィクウム由来、1500単位/g,シグマ社製)100,000単位を加えて50℃で一夜加水分解した。この分解液を水酸化カルシウムで中和した後、不溶性リン酸塩を除くため濾別した。次いで、濾液をカチオン交換樹脂(ダイヤイオンSK−1B,三菱化学(株)製)及びアニオン交換樹脂(ダイヤイオンPA−408,三菱化学(株)製)で精製してから、活性炭で脱色し、濃縮してイノシトールの結晶を生成させた。生成したイノシトール結晶を濾別して回収し、真空乾燥して得た結晶イノシトールの純度は99%(液体クロマトグラフィーによる)、夾雑する蛋白質はイノシトールに対して0.27重量%であった。原料中のイノシトール成分に対する得られた結晶イノシトール中のイノシトール純分の収率は79%であった。
【0096】
実施例14
フィチン酸として 1.0重量%(イノシトールモノリン酸として0.39重量%)のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)100kg に水酸化カルシウムと炭酸カルシウムの1:1混合水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 4.1とし、25℃から90℃まで60分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、90℃で15分間保持してから、70℃まで冷却して実施例1と同様に濾過、水で充分置換洗浄してから、フィチンケーキ1.97kgを回収した。
【0097】
得られたフィチンケーキは粉末状であり、水分は36%、固形分中の蛋白質含量は 4.2重量%であった。フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分82重量%であり、フィチン収率は77%であった。
【0098】
得られたフィチンケーキに水を加えて固形分濃度を5%とし、これにフィターゼ(小麦ふすまから P. E. Limらの方法により150単位/mg蛋白質の活性を有するものを調製,Biochim. Biophys. Acta , 302, 316-328(1973))80,000単位を加えて50℃で一夜加水分解した。この分解液を水酸化カルシウムで中和した後、不溶性リン酸塩を除くため濾別した。次いで、濾液をカチオン交換樹脂(ダイヤイオンSK−1B,三菱化学(株)製)及びアニオン交換樹脂(ダイヤイオンPA−408,三菱化学(株)製)で精製してから、活性炭で脱色し、濃縮してイノシトールモノリン酸の結晶を生成させた。生成したイノシトールモノリン酸結晶を濾別して回収し、真空乾燥して得た結晶イノシトールモノリン酸の純度は99%(液体クロマトグラフィーによる)、夾雑する蛋白質はイノシトールモノリン酸に対して0.30重量%であった。原料中のイノシトールモノリン酸成分に対する得られた結晶イノシトールモノリン酸中のイノシトールモノリン酸純分の収率は75%であった。
【0099】
比較例4
フィチン酸として 1.0重量%(イノシトールとして0.27重量%)のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)300gに水酸化カルシウム水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 5.0とし、25℃から55℃まで30分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、55℃で30分間保持してから、50℃まで冷却して実施例1と同様に濾過した。濾過時間は102秒であった。水で充分置換洗浄してから、フィチンケーキ10.3g を回収した。
得られたフィチンケーキは粘性のあるペースト状であり、水分は67%と多く、固形分中の蛋白質含量は 8.2重量%であった。フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分62重量%であり、フィチン収率は52%であった。
【0100】
得られたフィチンケーキを実施例9と同様に加圧加水分解、中和、脱塩、脱色してから、結晶化して乾燥し、イノシトール結晶を得た。得られた結晶イノシトールの純度は93%と低く、夾雑する蛋白質はイノシトールに対して 1.3重量%であった。原料フィチン酸のイノシトール成分に対する得られた結晶イノシトール中のイノシトール純分の収率は51%であった。
【0101】
比較例5
フィチン酸として 1.0重量%(イノシトールとして0.27重量%)のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)300gに水酸化カルシウム水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 5.5とし、25℃から50℃まで60分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、50℃で30分間保持してから、40℃まで冷却して実施例1と同様に濾過した。濾過時間は192秒であった。水で充分置換洗浄してから、フィチンケーキ12.1g を回収した。
得られたフィチンケーキは粘性のあるペースト状であり、水分は71%と多く、固形分中の蛋白質含量は10.2重量%であった。フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分47重量%であり、フィチン収率は41%であった。
【0102】
得られたフィチンケーキを実施例13と同様に酵素加水分解、中和、脱塩、脱色してから、結晶化して乾燥し、イノシトール結晶を得た。得られた結晶イノシトールの純度は87%と低く、夾雑する蛋白質はイノシトールに対して 1.3重量%であった。原料フィチン酸のイノシトール成分に対する得られた結晶イノシトール中のイノシトール純分の収率は40%であった。
【0103】
比較例6
フィチン酸として 1.0重量%(イノシトールとして0.27重量%)のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)300gに水酸化カルシウム水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 4.9とし、40℃から150℃まで30分で加熱し、フィチンの沈澱を含む懸濁液を得た。その後、150℃で30分間保持してから、85℃まで冷却して実施例1と同様に濾過した。濾過時間は42秒であった。水で充分置換洗浄してから、フィチンケーキ9.0gを回収した。
【0104】
得られたフィチンケーキはペースト状であり、水分は66%と多く、固形分中の蛋白質含量は 8.1重量%であった。フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分65重量%であり、フィチン収率は49%であった。
得られたフィチンケーキを実施例9と同様に加圧加水分解、中和、脱塩、脱色してから、結晶化して乾燥し、イノシトール結晶を得た。得られた結晶イノシトールの純度は95%と低く、夾雑する蛋白質はイノシトールに対して 1.2重量%であった。原料フィチン酸のイノシトール成分に対する得られた結晶イノシトール中のイノシトール純分の収率は48%であった。
【0105】
比較例7
フィチン酸として 1.0重量%(イノシトールとして0.27重量%)のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)20kgに水酸化ナトリウム水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 8.0とし、25℃で30分間保持した。これを実施例9と同様に濾過、水で充分置換洗浄してフィチンケーキ2.34kgを回収した。
得られたフィチンケーキはペースト状であり、水分は80%と多く、固形分中の蛋白質含量は12.9重量%であった。フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分50重量%であり、フィチン収率は87%であった。
【0106】
得られたフィチンケーキを実施例9と同様に加圧加水分解、中和、脱塩、脱色してから、結晶化して乾燥し、イノシトール結晶を得た。得られた結晶イノシトールの純度は90%と低く、夾雑する蛋白質はイノシトールに対して 1.5重量%であった。原料フィチン酸のイノシトール成分に対する得られた結晶イノシトール中のイノシトール純分の収率は83%であった。
【0107】
比較例8
フィチン酸として 1.0重量%(イノシトールモノリン酸として0.39重量%)のフィチン類を含むCSL(pH 3.6)20kgに水酸化ナトリウム水溶液(10重量%濃度)を加えてpH 7.5とし、30℃で30分間保持した。これを実施例14と同様に濾過、水で充分置換洗浄してフィチンケーキ2.12kgを回収した。
得られたフィチンケーキはペースト状であり、水分は78%と多く、固形分中の蛋白質含量は10.4重量%であった。フィチン酸の6カルシウム塩としてフィチン含量を算出すると、対固形分49重量%であり、フィチン収率は85%であった。
【0108】
得られたフィチンケーキを実施例14と同様に酵素加水分解、中和、脱塩、脱色してから、結晶化して乾燥し、イノシトールモノリン酸結晶を得た。得られた結晶イノシトールモノリン酸の純度は91%と低く、夾雑する蛋白質はイノシトールモノリン酸に対して 1.3重量%であった。原料フィチン酸のイノシトールモノリン酸成分に対する得られた結晶イノシトールモノリン酸中のイノシトールモノリン酸純分の収率は81%であった。
【0109】
【発明の効果】
本発明によって得られるフィチンの沈澱は水分が少なく、フィチン純分の多いものとなり、濾過操作が容易な粉末状のフィチンケーキとなる。よって、フィチン、フィチン酸、イノシトールモノリン酸及びイノシトールの各製造工程における精製負荷が軽減され、純度の高いフィチン、フィチン酸、イノシトールモノリン酸及びイノシトールをより安価に工業生産することができる。
Claims (10)
- フィチン酸及び/またはフィチン酸の塩類含有液にアルカリ及び/または塩類を加えてフィチンを沈澱分離する方法において、アルカリ及び/または塩類を添加した後、あるいはアルカリ及び/または塩類を添加しつつ、該液温を60〜140℃に加温することにより、分離回収が容易であり、かつ、純度の高いフィチン沈澱物を生成させることを特徴とするフィチンの製造方法。
- フィチン酸及び/またはフィチン酸の塩類含有液にアルカリ及び/または塩類を加えてフィチンを沈澱分離する方法において、50℃以下の温度にてアルカリ及び/または塩類を添加し、次いで該液温を60〜140℃に加温して保持し、加温及び保持を30分以上の時間をかけて行うことにより、分離回収が容易であり、かつ、純度の高いフィチン沈澱物を生成させることを特徴とするフィチンの製造方法。
- 請求項1または2記載の製造方法において、生成したフィチン沈澱物の液温を50〜100℃に維持してフィチンを分離回収することを特徴とするフィチンの製造方法。
- フィチン酸及び/またはフィチン酸の塩類含有液にアルカリ及び/または塩類を添加した液のpHを3〜7に調整して、フィチン沈澱物を生成させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のフィチンの製造方法。
- 請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法において、生成したフィチン沈澱物を濾別して得られるフィチンケーキの水分が60重量%未満であることを特徴とするフィチンの製造方法。
- 請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法において、生成したフィチン沈澱物を濾別して得られるフィチンケーキの固形分中のフィチン含量が70%以上であることを特徴とするフィチンの製造方法。
- フィチン酸及び/またはフィチン酸の塩類含有液がコーン浸漬液及び米糠抽出液からなる群から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のフィチンの製造方法。
- 請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法によってフィチンを製造し、次いで脱塩処理することを特徴とするフィチン酸の製造方法。
- (i)請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法によってフィチンを製造するか、または請求項8記載の方法によってフィチン酸を製造し、
( ii )次いで、得られたフィチンまたはフィチン酸を加水分解することを特徴とするイノシトールモノリン酸の製造方法。 - (i)請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法によってフィチンを製造するか、または請求項8記載の方法によってフィチン酸を製造するか、または請求項9記載の方法によってイノシトールモノリン酸を製造し、
( ii )次いで、得られたフィチン、フィチン酸またはイノシトールモノリン酸を加水分解することを特徴とするイノシトールの製造方法。
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