JP3931797B2 - 高周波焼入れ用鋼材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、被削性に優れた鋼を素材として部品形状へ加工した後、高周波焼入れの表面処理を実施しても曲り、歪みが発生しにくい鋼材とそれに高周波焼入れして製作したクランク軸に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、クランク軸は強度確保の観点から表面処理を実施するのが一般的であるが、近年エンジンの高出力化に伴いピン、ジャーナルなどの平行部だけでなくフィレット部へも高周波焼入れを実施する動きがあり曲り、歪みが発生しにくい鋼材が望まれている。
【0003】
従来にあっても、高周波焼入れ性にすぐれた鋼材についてはいくつか提案されており、特開平11−236644号公報には、5〜40kHz の周波数で高周波焼入れを行う高強度および低熱処理歪み特性を備えた鋼材が提案されている。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−236644号公報、請求項1その他
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1では、Cr含有量が0.35%以下となっており、これでは、高周波焼入れ後の顕微鏡組織にて均一なマルテンサイトが得られないほか、高周波焼入れ硬化層について十分な硬度および深さが確保されないことが判明した。
【0006】
ここに、本発明の課題は、高周波焼入れ、特に50kHz 以下の周波数での高周波焼入れを行っても曲がり、歪みの発生しにくい鋼材を提供することである。
さらに本発明の具体的課題は、高出力エンジンに適用可能なようにジャーナル平行部だけでなくフィレット部にも高周波焼入れを行ったクランク軸を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の課題を解決すべく、種々検討を重ねた結果、高周波焼入れ時の曲り、歪みを低減させるためCを下げるとともに、高周波焼入れにより均一なマルテンサイトおよび焼入れ硬化層の硬さを確保するため、合金元素Crを高めることにより、高周波焼入れ時の材料性能を確保しつつ曲り、歪みを低減させることが可能であることを知り、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明によれば、Crを多く添加することにより均一なマルテンサイトが形成され、焼入れ硬化層の深さ方向における硬さのバラツキが小さくなり、このことは、例えばクランク軸に適用された場合、疲労強度の向上につながるのである。そして、その場合、焼入れ後の曲がりや歪を抑えるため、C量を低くしておくというのである。
【0009】
ここに、本発明は、質量%で、
C:0.20〜0.40%、Si:0.05〜1.2 %、Mn:0.80〜2.0 %、S:0.04〜0.3 %、Cr:0.9 〜2.0 %、Ca:0.0005〜0.02%、N:0.007〜0.025%ならびに残部Feおよび不可避不純物から成る鋼組成を備え、フェライト-パーライト組織を有し、前記フェライト-パーライト組織のフェライト率が0.1〜6.3面積%であることを特徴とする高周波焼入れ用鋼材である。
【0012】
さらに別の面からは、本発明は、質量%で、C:0.20〜0.40%、Si:0.05〜1.2 %、Mn:0.80〜2.0 %、S:0.04〜0.3 %、Cr:0.9 〜2.0 %、Ca:0.0005 〜0.02%、N:0.007 〜0.025 %、ならびに残部Feおよび不可避不純物からなるフェライト-パーライト組織を有し、前記フェライト-パーライト組織のフェライト率が0.1〜6.3面積%である鋼材を高周波焼入れして得たクランク軸である。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明によれば、高周波焼入れ時の曲り、歪みを低減させるためC量を低減させ、また均一なマルテンサイトの確保および高周波焼入れ硬化層の硬度の確保のため合金元素Crを最低限度の添加量に留める必要がある。しかしながら、前述の特許文献1に記載する発明のようにCr含有量0.35%以下では高周波焼入れ後の顕微鏡組織にて均一なマルテンサイトが得られないほか高周波焼入れ硬化層の十分な硬度および深さが確保されない。
【0015】
本発明は、高周波焼入れ時のマルテンサイト変態時の膨張低減のためC含有量を0.20〜0.40%と低減させ、一方、焼入れ性能を確保するための合金元素としてCrを添加するが、その含有量を耐摩耗性、被削性の観点から、0.9 〜2.0 %に制限するのである。
【0016】
ここに、本発明における鋼組成の成分限定理由を説明する。なお、鋼組成を規定する「%」は特にことわらない限り、「質量%」である。
C: 0.20 〜 0.40 %
Cは高周波焼入れ硬化層の硬度およびマルテンサイト変態時の膨張に対する作用を有する。
【0017】
C量の低下につれマルテンサイト変態時の膨張が低下し、また高周波焼入れ時の焼き割れは0.40%以下で発生しにくいことからCの含有量を0.40%以下とした。しかしC量が0.20%未満になると高周波焼入れ後の表面硬度が不足する等機械的性質の性能が確保できない。従って、C量は0.20〜0.40%とした。好ましくは、0.20〜0.35%である。
【0018】
Siは脱酸作用および強化作用を有する。しかし、0.05%未満ではこれらの効果が得がたい。しかし1.2 %を超えると靱性低下となり生産性を落とすこととなる。またAc3点が上がり高周波焼入れにより均一なマルテンサイトが得られなくなり表面硬度が著しく低下する。従って、Si量は0.05〜1.2 %とした。好ましくは、0.16%以上、さらに好ましくは0.20%以上である。
【0019】
Mn : 0.80 〜 2.0 %
Mnは強度および靱性を高める作用がある。更に、焼入れ性を上げてCの共析濃度を上げ初析フェライトの析出を抑制する作用も有する。これらの効果はMnの濃度が0.80%以上で得られる。一方、Mnの過剰な添加はベイナイト組織の生成を招いて耐摩耗性、被削性に悪影響を及ぼすこととなり、特にMnの含有量が2.0 %を超えると耐摩耗性および被削性の低下が著しくなる。従って、Mnの含有量を0.80〜2.0 %とした。
【0020】
S: 0.04 〜 0.3 %
Sは硫化物として析出して被削性を改善する作用がある。この効果を得るには0.04%以上の含有量が必要である。しかし0.30%を超えると熱間加工性が低下する。従って、0.04〜0.30%とした。
【0021】
Cr : 0.9 〜 2.0 %
Crはフェライト率の低減および Ac1、Ac3 変態点の低下作用を有する。またAc1 とAc3 の変態点の間隔を狭めマルテンサイト粒界へのベイナイトの析出、未固溶フェライトの残存がなくなることにより均一なマルテンサイトを得ることが可能となる。
【0022】
Cr量が0.9 %以上になるとフェライト率低減、変態点低下の効果が著しくなり均一なマルテンサイトが得られる。また高周波焼入れによる硬化層硬度も基地部近傍でも十分な硬度が得られる。
【0023】
しかしCrの過剰な添加はベイナイト組織の生成を招き、耐摩耗性および被削性に悪影響を及ぼし、その含有量が2.0 %を超えると耐摩耗性および被削性の低下が著しくなる。
【0024】
したがって、Crの含有量を0.9 〜2.0 %とした。望ましくは1.0 〜1.9 %である。
フェライト率: 0.1 〜6.3面積%
本発明によれば、フェライト率を 0.1〜6.3面積%に限定する。
【0025】
ここに、フェライト率は実施例において説明する計測法により求められるものであり、フェライト率が 0.1面積%未満となると焼入れに際しての曲がり抑制効果が十分でなく、一方、高すぎると、焼入に際して均一なマルテンサイトの生成が十分でないことがある。
【0026】
本発明にかかる鋼材を規定する鋼組成としては、さらに下記のような合金成分をさらに含有する。
【0027】
Ca:0.0005 〜0.02%
Caは被削性を高める作用を有する。この効果を得るにはCaは0.0005%以上の含有量とする。しかし、Caの含有量が0.02%を超えると前記効果は飽和しコストが嵩むばかりである。したがって、Caの含有量を0.0005〜0.02%とした。
【0030】
N:0.007〜0.025 %
Nは窒化物や炭窒化物を形成して組織の微細化、或いは析出効果に寄与する。この効果を得るにはNは0.007 %以上の含有量とする。しかし、Nを多量に添加すると青熱脆性が生じ、特にその含有量が0.025 %を超えると青熱脆性が顕著になる。
【0031】
したがって、Nの含有量を0.007〜0.025 %とした。このようにして得られた鋼材から、例えば、エンジン用クランク軸を製造するには慣用方法によってまず、熱間鍛造により成形を行い、旋削によって寸法通りに仕上げ、最終的に高周波焼入れを行えばよい。
【0032】
高周波焼入れは、使用周波数によって硬化焼入れ深さが異なり、例えば硬化深さ3.0mm 以下を目標にするのであれば、50kHz 以下の周波数で十分である。
図1は、このようにして製作されたクランク軸の一部断面の模式的説明図であり、このようにジャーナル部1およびピン部2から成るクランク軸3それ自体の形状は周知であり、本発明においても特に制限されないが、好ましくは図1に破線の丸で囲った領域で示すフィレット部4にも高周波焼入れを行うものである。
【0033】
特に、その好適態様では、フィレット部4にも高周波焼入れを行うことで、高出力エンジン用の優れたクランク軸3を構成することができる。
次に、実施例によって本発明の作用効果をさらに具体的に説明する。
【0034】
【実施例】
本例では、表1に示す化学組成を有する鋼材を150kg の真空誘導加熱炉で溶製し直径210 mmのインゴットにした。なお、表1に示す基地部α(フェライト)率は、光学顕微鏡で観察された表面のフェライト−パーライト組織1mm2 中のフェライト量を測定し、これを面積率で示したものである。
【0035】
【表1】
【0036】
上記のインゴットを通常の方法で1250℃に加熱した後、熱間鍛造して直径65mmの丸棒にした。なお、鍛造仕上げ温度は1000℃とし熱間鍛造後は室温まで大気放冷した。
【0037】
上記の直径65mmの丸棒に、通常の方法で旋削加工を施し外径60mm、内径50mm、高さ10mmのリングを作製し表2に示す3条件にて高周波焼入れを施した。
高周波焼入れ後の焼戻しは実施していない。
【0038】
【表2】
【0039】
次に、高周波焼入れ後の顕微鏡組織を調べたが、これは、作製されたリングに各条件にて高周波焼入れを施しミクロ試料を切り出し、鏡面研磨した後ナイタル液で腐食して光学顕微鏡観察して組織を判定するとともに写真を撮影し、図2に示すように、(A) 均一なマルテンサイト、(B) 不均一なマルテンサイト、(C) 未固溶フェライト残存層の厚さを材質ごとに比較することで行った。
【0040】
結果を図3にグラフにまとめて示す。
また、高周波焼入れ後の断面硬さ分布を見るために、顕微鏡組織観察に用いたリングを用いてHv硬さを測定した。
【0041】
結果は、図4にグラフにまとめて示す。
さらに、高周波焼入れ処理後の体積変化をみるために、旋削加工を施された外径60mm、内径50mm、高さ10mmのリングの高周波熱処理前後での体積を測定し変化率を求め材質ごとに比較した。なお、体積は空気中重量と水中重量との差とから求めた。
【0042】
結果は、図5にグラフにまとめて示す。
【0043】
【発明の効果】
本発明により高周波焼入れ性能を確保しつつ高周波焼入れ時の曲り、歪みを低減させることを可能とした鋼材が得られるのであり、よって本発明は産業上価値の高い発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】クランク軸の一部断面の模式的説明図である。
【図2】高周波焼入れ後の代表的顕微鏡組織写真である。
【図3】各試料についての顕微鏡組織をまとめて示すグラフである。
【図4】各試料についての断面硬さ分布を示すグラフである。
【図5】各試料についての体積変化を示すグラフである。
Claims (2)
- 質量%で、C:0.20〜0.40%、Si:0.05〜1.2 %、Mn:0.80〜2.0 %、S:0.04〜0.3 %、Cr:0.9 〜2.0 %、Ca:0.0005〜0.02%、N:0.007〜0.025%ならびに残部Feおよび不可避不純物から成る鋼組成を備え、フェライト-パーライト組織を有し、前記フェライト-パーライト組織のフェライト率が0.1〜6.3面積%であることを特徴とする高周波焼入れ用鋼材。
- 質量%で、C:0.20〜0.40%、Si:0.05〜1.2 %、Mn:0.80〜2.0 %、S:0.04〜0.3 %、Cr:0.9 〜2.0 %、Ca:0.0005〜0.02%、N:0.007〜0.025 %、ならびに残部Feおよび不可避不純物からなるフェライト-パーライト組織を有し、前記フェライト-パーライト組織のフェライト率が0.1〜6.3面積%である鋼材を高周波焼入れして得たクランク軸。
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