WO2024127969A1 - クランクシャフト及びクランクシャフトの製造方法 - Google Patents

クランクシャフト及びクランクシャフトの製造方法 Download PDF

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なつみ 菊地
達彦 安部
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Abstract

耐割れ性及び疲労強度に優れたクランクシャフトを提供する。クランクシャフトは、化学組成が、質量%で、C:0.35~0.65%、Si:0.01~0.60%、Mn:1.00~2.00%、Cr:0.01~0.50%、Al:0.001~0.050%、S:0.010~0.100%、N:0.010~0.030%、Ti:0~0.020%、残部:Fe及び不純物であり、前記化学組成が下記の式(1)を満たし、表面の少なくとも一部に硬化層を有し、前記硬化層は、9.0体積%以上のフェライトを含み、残部がマルテンサイト及びベイナイトの少なくとも一方である組織を有し、前記硬化層のビッカース硬さが520以上である。 ([C]-0.05)/[N]-300×[Ti]≦30.0 (1) 式(1)の[C]及び[N]には、それぞれC含有量及びN含有量が質量%で代入される。

Description

クランクシャフト及びクランクシャフトの製造方法
 本発明は、クランクシャフト及びクランクシャフトの製造方法に関する。
 クランクシャフトは一般的に、鋼材を熱間鍛造によって素形材にした後、切削、研削等の機械加工を施し、疲労強度を向上させるために高周波焼入れを行った後、仕上げ加工を施して製造される。このとき、高周波焼入れから仕上げ加工までの間で長時間放置すると割れる、あるいは、仕上げ加工において割れることがあり、材料の割れ易さが問題となっている。
 国際公開第2020/004060号には、高周波焼入れクランクシャフトが開示されている。この高周波焼入れクランクシャフトは、非高周波焼入れ部の組織がフェライト・パーライトを主体とする組織からなり、高周波焼入れ部の組織がマルテンサイト又は焼戻しマルテンサイトを主体とする組織からなり、かつ旧オーステナイト粒径が30μm以下である。
 特開2018-112222号公報には、表面を高周波焼入れしたクランク軸が開示されている。この高周波焼入れクランク軸は、ピン又はジャーナルのフィレットR部とスラスト部の接続位置から頂上部のトップ部までの距離をH(mm)、接続位置からピン又はジャーナルの肩部表面における焼入れ硬化層までの距離をL(mm)、ピン又はジャーナルの直径をD(mm)とした場合に、ピン又はジャーナルの肩部の頂上部側における距離Lが、(-0.032D+6.6521)×H1/3(mm)以上である。
 特開2008-127620号公報には、少なくともクランクピンの表面に焼入れ硬化層を有するクランクシャフトが開示されている。このクランクシャフトは、クランクピンのボトムR部における表面圧縮残留応力が600MPa以上である。
 クランクシャフトに関するものではないが、国際公開第2018/008703号には、冷間鍛造前の球状化焼鈍を省略又は短時間化しても、冷間鍛造時の割れ発生が効果的に抑制された圧延線材が開示されている。この圧延線材は、フェライトとパーライトとの混合組織であり、最表層からD/8位置(Dは圧延線材の直径)までの範囲に存在する硫化物の平均面積が6μm以下であり、硫化物の平均アスペクト比が5以下である。
国際公開第2020/004060号 特開2018-112222号公報 特開2008-127620号公報 国際公開第2018/008703号
 国際公開第2020/004060号には、所定量のNbを含有させて焼入れ組織の結晶粒を微細化することで、焼割れを抑制できることが開示されている。一方、研削等の製造プロセスで応力が加わった際に生じる割れについては、同公報では検討されていない。
 本発明の課題は、耐割れ性及び疲労強度に優れたクランクシャフトを提供することである。
 本発明の一実施形態によるクランクシャフトは、化学組成が、質量%で、C:0.35~0.65%、Si:0.01~0.60%、Mn:1.00~2.00%、Cr:0.01~0.50%、Al:0.001~0.050%、S:0.010~0.100%、N:0.010~0.030%、Ti:0~0.020%、残部:Fe及び不純物であり、前記化学組成が下記の式(1)を満たし、表面の少なくとも一部に硬化層を有し、前記硬化層は、9.0体積%以上のフェライトを含み、残部がマルテンサイト及びベイナイトの少なくとも一方である組織を有し、前記硬化層のビッカース硬さが520以上である。
  ([C]-0.05)/[N]-300×[Ti]≦30.0   (1)
 式(1)の[C]及び[N]には、それぞれC含有量及びN含有量が質量%で代入される。
 本発明の一実施形態によるクランクシャフトは、化学組成が、質量%で、C:0.35~0.65%、Si:0.01~0.60%、Mn:1.00~2.00%、Cr:0.01~0.50%、Al:0.001~0.050%、S:0.010~0.100%、N:0.010~0.030%、残部:Fe及び不純物であり、前記化学組成が下記の式(1)を満たし、表面の少なくとも一部に硬化層を有し、前記硬化層は、9.0体積%以上のフェライトを含み、残部がマルテンサイト及びベイナイトの少なくとも一方である組織を有し、前記硬化層のビッカース硬さが520以上であってもよい。
  ([C]-0.05)/[N]≦30.0   (1)
 式(1)の[C]及び[N]には、それぞれC含有量及びN含有量が質量%で代入される。
 本発明の一実施形態によるクランクシャフトは、化学組成が、質量%で、C:0.35~0.65%、Si:0.01~0.60%、Mn:1.00~2.00%、Cr:0.01~0.50%、Al:0.001~0.050%、S:0.010~0.100%、N:0.010~0.030%であり、さらに、Ti:0.020%以下を含有し、残部:Fe及び不純物であり、前記化学組成が下記の式(1)を満たし、表面の少なくとも一部に硬化層を有し、前記硬化層は、9.0体積%以上のフェライトを含み、残部がマルテンサイト及びベイナイトの少なくとも一方である組織を有し、前記硬化層のビッカース硬さが520以上であってもよい。
  ([C]-0.05)/[N]-300×[Ti]≦30.0   (1)
 式(1)の[C]及び[N]には、それぞれC含有量及びN含有量が質量%で代入される。
 本発明の一実施形態によるクランクシャフトの製造方法は、上記のクランクシャフトを製造する方法であって、クランクシャフトの中間品を準備する工程と、前記中間品の硬化層を形成する領域である対象領域を920~980℃の温度である加熱温度に加熱する工程と、前記対象領域を前記加熱温度から710~760℃の温度である等温保持温度まで80℃/秒以上の冷却速度で冷却し、前記等温保持温度で80秒以上保持する工程と、前記対象領域を前記等温保持温度からMs点以下の温度まで80℃/秒以上の冷却速度で冷却する工程と、を備える。
 本発明によれば、耐割れ性及び疲労強度に優れたクランクシャフトが得られる。
図1は、実施例で行った熱処理のヒートパターンである。 図2は、表2のNo.2の鋼材の組織の二値化後の画像である。 図3は、表2のNo.4の鋼材の組織の二値化後の画像である。 図4は、硬度とフェライトの体積率との関係を示す散布図である。 図5は、曲げ疲労強度とフェライトの体積分率との関係を示す散布図である。
 本発明者は、耐割れ性に優れたクランクシャフトを開発するため、鋼材の組織及び硬度と耐割れ性との関係を調査した。なお、本明細書における「耐割れ性」とは、疲労による割れではなく、硬化層を形成後、研削等を施した際に生じる割れ(遅れ割れ)を意味する。
 クランクシャフトは一般的に疲労強度が重要であるため、疲労強度を確保するために高硬度が要求される。一方、耐割れ性の観点からは硬度が高すぎるのは好ましくない。本発明者は、鋼材の組織を制御することで遅れ割れを抑制できないかを調査した。
 具体的には、種々の鋼材に対して希塩酸浸漬下で4点曲げ試験を実施して耐割れ性を評価し、耐割れ性に優れた組織を探索した。その結果、マルテンサイト又はベイナイトを主体とする組織中に適量のフェライトを析出させた組織が、耐割れ性に優れていることが分かった。組織がマルテンサイトやベイナイトのような高硬度組織のみからなる場合や、フェライトが析出していても量が少ない場合、高硬度組織に応力が集中する。高硬度組織は亀裂に敏感であり、応力負荷が高まることで割れやすくなる。適量のフェライトを析出させることで、組織中のフェライトが均一化し、高硬度組織への応力集中を防ぎ、耐割れ性を向上させることができる。また、硬度とのバランスを適正化することで、疲労強度を保ったまま耐割れ性を向上させることができる。
 耐割れ性を確保するためには、高硬度組織の結晶粒を微細化することも有効である。結晶粒を微細化するためには、N含有量を高くすることが有効である。
 本発明は、以上の知見に基づいて完成された。以下、本発明の一実施形態によるクランクシャフト及びその製造方法について詳述する。
 [化学組成]
 本実施形態によるクランクシャフトは、以下に説明する化学組成を有する。以下の説明において、元素の含有量の「%」は、質量%を意味する。
 C:0.35~0.65%
 炭素(C)は、鋼の硬度を向上させ、疲労強度の向上に寄与する。一方、C含有量が高すぎると、耐割れ性及び被削性が低下する。したがって、C含有量は0.35~0.65%である。C含有量の下限は、好ましくは0.37%であり、さらに好ましくは0.40%である。C含有量の上限は、好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.55%である。
 Si:0.01~0.60%
 シリコン(Si)は、脱酸作用及びフェライトを強化する作用を有する。一方、Si含有量が高すぎると、被削性が低下する。したがって、Si含有量は0.01~0.60%である。Si含有量の下限は、好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Si含有量の上限は、好ましくは0.58%であり、さらに好ましくは0.55%である。
 Mn:1.00~2.00%
 マンガン(Mn)は、鋼の焼入れ性を高め、鋼の硬度の向上に寄与する。一方、Mn含有量が高すぎると、熱間鍛造後の冷却過程においてベイナイトが生成し、被削性が低下する。したがって、Mn含有量は1.00~2.00%である。Mn含有量の下限は、好ましくは1.10%であり、さらに好ましくは1.20%である。Mn含有量の上限は、好ましくは1.80%であり、さらに好ましくは1.60%である。
 Cr:0.01~0.50%
 クロム(Cr)は、鋼の焼入れ性を高め、鋼の硬度の向上に寄与する。一方、Cr含有量が高すぎると、熱間鍛造後の冷却過程においてベイナイトが生成し、被削性が低下する。したがって、Cr含有量は0.01~0.50%である。Cr含有量の下限は、好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.08%である。Cr含有量の上限は、好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.20%である。
 Al:0.001~0.050%
 アルミニウム(Al)は、脱酸作用を有する。一方、Al含有量が高すぎると、アルミナ系介在物の生成量が過大となり、被削性が低下する。したがって、Al含有量は0.001~0.050%である。Al含有量の下限は、好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.005%である。Al含有量の上限は、好ましくは0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。
 S:0.010~0.100%
 硫黄(S)は、MnSを形成し、鋼の被削性を高める。一方、S含有量が高すぎると、鋼の熱間加工性が低下する。したがって、S含有量は0.010~0.100%である。S含有量の下限は、好ましくは0.015%であり、さらに好ましくは0.020%である。S含有量の上限は、好ましくは0.090%であり、さらに好ましくは0.080%である。
 N:0.010~0.030%
 窒素(N)は、窒化物や炭窒化物を形成し、結晶粒の微細化に寄与して耐割れ性を向上する。また、結晶粒の微細化だけではなく、窒化物や炭窒化物自体が微細に分散することによっても鋼の強度を高め、耐割れ性を向上する。一方、N含有量が高すぎると、鋼の熱間延性が低下する。したがって、N含有量は0.010~0.030%である。N含有量の下限は、好ましくは0.011%であり、さらに好ましくは0.012%である。N含有量の上限は、好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.018%である。
 本実施形態によるクランクシャフトの化学組成の残部は、Fe及び不純物である。ここでいう不純物は、鋼の原料として利用される鉱石やスクラップから混入する元素、あるいは製造過程の環境等から混入する元素をいう。
 本実施形態によるクランクシャフトの化学組成は、Feの一部に代えて、Ti:0.020%以下を含有してもよい。Tiは任意元素である。すなわち、本実施形態によるクランクシャフトは、Tiを含有していなくてもよい。
 Ti:0~0.020%
 チタン(Ti)は、窒化物や炭窒化物を形成し、結晶粒の微細化に寄与する。Tiが少しでも含有されていればこの効果が得られる。一方、Ti含有量を過剰に高くしても効果が飽和する。したがって、Ti含有量は0~0.020%である。Ti含有量の下限は、好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。Ti含有量の上限は、好ましくは0.018%である。
 [式(1)について]
 C含有量が高い程、鋼の硬度が高くなり疲労強度が大きくなる一方、遅れ割れが起こりやすくなる傾向がある。そのため、C含有量に応じて、N含有量及びTi含有量を調整する必要がある。具体的には、本実施形態によるクランクシャフトの化学組成は、下記の式(1)を満たす。
  ([C]-0.05)/[N]-300×[Ti]≦30.0 (1)
 式(1)の[C]、[N]及び[Ti]には、それぞれC含有量、N含有量及びTi含有量が質量%で代入される。
 クランクシャフトがTiを含有しない場合には、式(1)の[Ti]には0が代入される。すなわち、Tiを含有しない場合、式(1)は下記のようになる。
  ([C]-0.05)/[N]≦30.0 (1)
 式(1)の[C]及び[N]には、それぞれC含有量及びN含有量が質量%で代入される。
 式(1)の左辺が30.0以下であれば、より耐割れ性の高いクランクシャフトが得られる。式(1)の左辺の上限は、好ましくは28.0であり、さらに好ましくは26.0である。式(1)の左辺の下限は、特に限定されないが、例えば20.0である。
 [組織]
 本実施形態によるクランクシャフトは、表面の少なくとも一部に硬化層(焼入れ硬化層)を有する。硬化層は、例えば高周波焼入れによって形成される。硬化層が形成される箇所は、例えばクランクシャフトのピン部やジャーナル部である。硬化層は、ピン部及びジャーナル部の一方だけに形成されていてもよいし、両方に形成されていてもよい。硬化層は、ピン部及びジャーナル部以外の場所に形成されていてもよいし、表面の全体に形成されていてもよい。硬化層はまた、クランクシャフトの表面だけでなく、芯部まで形成されていてもよい。
 この硬化層は、9.0体積%以上のフェライトを含み、残部がマルテンサイト及びベイナイトの少なくとも一方である組織を有する。
 組織がマルテンサイトやベイナイトのような高硬度組織のみからなる場合や、フェライトが析出していても量が少ない場合、高硬度組織に応力が集中する。高硬度組織は亀裂に敏感であり、応力負荷が高まることで割れやすくなる。適量のフェライトを析出させることで、組織中のフェライトが均一化し、高硬度組織への応力集中を防ぎ、耐割れ性を向上させることができる。硬化層の組織のフェライトの体積率の下限は、好ましくは10.0%であり、さらに好ましくは10.5%である。一方、フェライトの体積率が高すぎると、疲労強度が低下する可能性がある。硬化層の組織のフェライトの体積率の上限は、好ましくは16.0%であり、さらに好ましくは14.0%である。
 硬化層の組織のフェライトを除いた残部は、マルテンサイト及びベイナイトの少なくとも一方である。すなわち、硬化層の残部は、マルテンサイト、ベイナイト、及びマルテンサイトとベイナイトとの混合組織のいずれかである。
 この硬化層において、好ましくは、マルテンサイト及びベイナイトの旧オーステナイト粒径が30μm以下である。マルテンサイト及びベイナイトの旧オーステナイト粒径が30μm以下であれば、より優れた疲労強度及び耐割れ性が得られる。旧オーステナイト粒径の上限は、より好ましくは28μmであり、さらに好ましくは26μmである。旧オーステナイト粒径の下限は、特に限定されないが、例えば15μmである。
 硬化層は、ビッカース硬さが520Hv以上である。ビッカース硬さを520Hv以上にすることで、疲労強度がより向上する。硬化層のビッカース硬さの下限は、好ましくは530Hvであり、さらに好ましくは540Hvであり、さらに好ましくは550Hvである。一方、硬化層のビッカース硬さが高すぎると、割れが起こりやすくなる。硬化層のビッカース硬さの上限は、好ましくは750Hvであり、より好ましくは700Hvであり、さらに好ましくは650Hvである。
 硬化層のビッカース硬さが高い程、鋼の疲労強度が大きくなる一方、遅れ割れが起こりやすくなる傾向がある。そのため、ビッカース硬さの大きさに応じて、硬化層中のフェライトの体積率を調整することが好ましい。具体的には、硬化層のビッカース硬さと、フェライトの体積率とが、下記の式(2)を満たすことが好ましい。
  [α]≧0.0259×Hv-4.36   (2)
 式(2)の[α]にはフェライトの体積率が%で代入され、Hvには硬化層のビッカース硬さが代入される。
 同様に、疲労強度が大きいほど、遅れ割れが起こりやすくなる傾向がある。そのため、疲労強度の大きさに応じて、硬化層中のフェライトの体積率を調整することが好ましい。具体的には、前記硬化層の曲げ疲労強度と、フェライトの体積率とが、下記の式(3)を満たすことが好ましい。
  [α]≧0.0028×[M]+6.86   (3)
 式(3)の[α]にはフェライトの体積率が%で代入され、[M]には曲げ疲労強度がMPaで代入される。
 本実施形態によるクランクシャフトにおいて、硬化層以外の部分の組織は任意である。本実施形態によるクランクシャフトの化学組成の範囲では、硬化層以外の組織は通常、フェライト・パーライトを主体とする組織となる。本実施形態によるクランクシャフトの硬化層以外の部分の組織は、好ましくはフェライト・パーライトが90体積%以上であり、さらに好ましくは95体積%以上である。
 [製造方法]
 本実施形態によるクランクシャフトの製造方法の一例を説明する。以下に説明する製造方法は飽くまでも例示であって、本実施形態によるクランクシャフトの製造方法はこれに限定されない。
 クランクシャフトの中間品を準備する。クランクシャフトの中間品は、例えば次のように製造することができる。
 上述した化学組成を有する鋼を溶製し、連続鋳造又は分塊圧延を実施して鋼片にする。鋼片を熱間鍛造してクランクシャフトの粗形状にする。熱間鍛造の条件は、これに限定されないが、加熱温度は例えば1000~1300℃であり、保持時間は例えば1秒~20分である。熱間鍛造は、複数回に分けて実施してもよい。また、熱間鍛造の前後に焼鈍し等の熱処理を実施してもよい。熱間鍛造後、必要に応じて機械加工を実施する。これによって、クランクシャフトの中間品が製造される。
 クランクシャフトの中間品に、以下に詳述する熱処理を行って硬化層(焼入れ硬化層)を形成する。硬化層は、クランクシャフトの中間品の特定の箇所だけに形成してもよいし、クランクシャフトの中間品の全体に形成してもよい。以下の説明では、硬化層を形成する領域を「対象領域」という。
 まず、対象領域を920~980℃の温度である加熱温度に加熱する。この加熱によって、対象領域の組織がオーステナイト化する。加熱温度が低すぎると、均一なオーステナイトの組織とならず、冷却後に均一な組織が得られなくなる。一方、加熱温度が高すぎると、オーステナイト粒が粗大化し、冷却後の組織の旧オーステナイト粒径が大きくなる。加熱温度の下限は、好ましくは930℃であり、さらに好ましくは940℃である。加熱温度の上限は、好ましくは970℃であり、さらに好ましくは960℃である。加熱温度での保持時間は、特に限定されないが、例えば10秒~30分である。
 対象領域を加熱温度に加熱した後、加熱温度から710~760℃の温度である等温保持温度まで80℃/秒以上の冷却速度で冷却し、等温保持温度で80秒以上保持する。その後、等温保持温度からMs点(マルテンサイト変態開始温度)以下の温度まで80℃/秒以上の温度で冷却する。
 等温保持温度で80秒以上保持することによって、オーステナイト中にフェライトが析出する。等温保持温度が710~760℃の範囲から外れたり、等温保持温度での保持時間が短すぎたりすると、十分な量のフェライトが得られない場合がある。等温保持温度での保持時間の下限は、好ましくは90秒であり、さらに好ましくは100秒である。
 加熱温度から等温保持温度までの冷却速度が小さすぎると、フェライト以外の組織が生成したり、十分な量のフェライトが得られなくなったりする場合がある。加熱温度から等温保持温度までの冷却速度の下限は、好ましくは100℃/秒であり、さらに好ましくは120℃/秒である。加熱温度から等温保持温度までの冷却速度の上限は、特に限定されないが、冷却速度が大きすぎると等温保持温度に保持することが困難になる場合がある。加熱温度から等温保持温度までの冷却速度の上限は、好ましくは250℃であり、さらに好ましくは200℃である。
 同様に、等温保持温度からMs点までの冷却速度が小さすぎると、フェライト以外の組織(例えばパーライト)が生成する場合がある。等温保持温度からMs点までの冷却速度の下限は、好ましくは100℃/秒であり、さらに好ましくは120℃/秒である。等温保持温度からMs点までの冷却速度の上限は、特に限定されないが、例えば400℃/秒である。
 これによって、9.0体積%以上のフェライトを含み、残部がマルテンサイト及びベイナイトの少なくとも一方である組織を有する焼入れ硬化層が得られる。焼入れ硬化層を形成後、必要に応じて研削等の仕上げ加工を施す。以上の工程によって、クランクシャフトが製造される。
 以上、本発明の一実施形態によるクランクシャフト及びその製造方法を説明した。本実施形態によれば、耐割れ性及び疲労強度に優れたクランクシャフトが得られる。
 以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
 表1に示す化学組成を有する鋼を50kg真空誘導溶解炉によって溶製し、インゴットを作製した。このインゴットを1000℃以上の温度で熱間鍛造し、厚さ30mm、幅90mm、長さ2000mmにした後、長さ100mmに切断して鋼片を製造した。この鋼片を1000℃以上の温度で熱間圧延し、空冷して厚さ10mm、幅100mmの素材にした。これらの素材は、いずれもフェライト・パーライトを主体とする組織を有していた。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000001
 この素材に対して、図1に示す熱処理を実施した。具体的には、素材を加熱温度T1まで加熱した後、冷却速度CR1で等温保持温度T2まで冷却し、等温保持温度T2に保持時間t1だけ保持した後、冷却速度CR2で室温まで冷却した。
 熱処理後の鋼材のビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さは、1kg荷重で5点測定し、その平均を求めた。
 熱処理後の鋼材から組織観察用の試験片を採取した。組織観察用の試験片の表面を鏡面仕上げにした後、ナイタール腐食を行い、SEM観察を行った。組織の体積分率は、SEM観察によって得られた凹凸像(各試験片3視野)をペイントソフトで塗り分けし、画像解析ソフトウェアImageJを使って画像を二値化し、同ソフトウェアの粒子解析機能を使って粒子を検出することで面積率を算出し、面積率を体積率と見なした。図2は、後掲の表2のNo.2の鋼材の組織の二値化後の画像(倍率1000倍)であり、図3は、No.4の組織の二値化後の画像(倍率1000倍)である。図2及び図3において、白い部分がフェライトであり、黒い部分がマルテンサイト及び/又はベイナイトである。
 旧オーステナイト粒径は、次のように測定した。熱処理後の鋼材から採取した試験片の表面を鏡面仕上げにした後、ピクリン酸飽和水溶液でエッチングして旧オーステナイト粒界を現出させ、切片法によって旧オーステナイト粒径を算出した。具体的には、全長Lの直線を引き、この直線を横切った結晶粒の数nを求め、切片長さ(L/n)を求めた。5本以上の直線について切片長さ(L/n)を求め、その算術平均を旧オーステナイト粒径とした。
 表2に、熱処理条件、並びに熱処理後の鋼材の硬度、旧オーステナイト粒径(旧γ粒径)及び組織の一覧を示す。表2において、「M+B分率」はマルテンサイトの体積率とベイナイトの体積率の合計であり、「P分率」はパーライトの体積率であり、「F分率」はフェライトの体積率である。なおNo.3、4、11では、等温保持を行わず、加熱温度T1から室温まで冷却速度CR1で冷却した。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000002
 熱処理後の鋼材から10mm×75mm×2mmの試験片を複数採取し、塩酸浸漬4点曲げ応力腐食試験を行って耐割れ性を評価した。試験条件は下記のとおりである。
  試験法:4点曲げ、全数ゲージ法にて応力負荷
  溶液:4.1質量%塩酸溶液
  温度:室温
  試験時間:24時間
 各応力負荷条件で2回試験を行い、2回のうち2回割れたら不合格とし、1回でも割れなければ合格とした。負荷する応力を代えて試験を行い、合格となる最大の応力を「割れ試験臨界応力」とした。割れ試験臨界応力が750MPa以上を合格とした。
 回転曲げ疲労試験片による曲げ疲労強度の測定を行った。試験片は、熱間圧延前の鋼片(厚さ30mm、幅90mm、長さ2000mm)を切り出して試験片形状に加工し、表2と同じ熱処理を施した後、仕上げ加工を行って作製した。試験条件は下記のとおりである。疲労強度(疲労限度)700MPa以上を合格とした。
  試験法:小野式疲労試験
  試験片サイズ:φ12mm、切りかけ部φ8mmの試験片
  打ち切り回数:1×10
  温度:室温
  回転数:3600rpm
 結果を表3に示す。図4に、硬度とフェライトの体積率との関係を示し、図5に、曲げ疲労強度とフェライトの体積率との関係を示す。図4及び図5において、白抜きのマークは割れ試験臨界応力が750MPa以上であることを示し、中実のマークは割れ試験臨界応力が750MPa未満であることを示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000003
 表3に示すように、No.1、2、及び7~10の鋼材は、割れ試験臨界応力が750MPa以上であり、曲げ疲労強度が700MPa以上であった。
 No.3、No4及びNo.11の鋼材は、曲げ疲労強度は高かったものの、割れ試験臨界応力が低かった。これは、フェライトの体積率が低かったためと考えられる。フェライトの体積率が低かったのは、等温保持を行わなかったためと考えられる。なお、No.3の鋼材は旧オーステナイト粒径も大きかったが、これは加熱温度T1が高すぎたためと考えられる。
 No.5の鋼材は、曲げ疲労強度が低かった。これは、C含有量が低すぎたためと考えられる。
 No.12の鋼材は、曲げ疲労強度及び割れ試験臨界応力の両方が低かった。これは、フェライトの体積率が低かったためと考えられる。フェライトの体積率が低かったのは、等温保持温度が低かったためと考えられる。
 No.13の鋼材は、曲げ疲労強度は高かったものの、割れ試験臨界応力が低かった。これは、フェライトの体積率が低かったためと考えられる。フェライトの体積率が低かったのは、等温保持温度での保持時間が短かったためと考えられる。
 No.14の鋼材は、曲げ疲労強度は高かったものの、割れ試験臨界応力が低かった。これは、旧オーステナイト粒径が大きかったためと考えられる。旧オーステナイト粒径が大きかったのは、N含有量が低すぎたためと考えられる。
 No.15及びNo.16の鋼材は、曲げ疲労強度は高かったものの、割れ試験臨界応力が低かった。これは、式(1)を満たさなかったためと考えられる。
 以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、発明の範囲内で上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。

Claims (5)

  1.  化学組成が、質量%で、
     C :0.35~0.65%、
     Si:0.01~0.60%、
     Mn:1.00~2.00%、
     Cr:0.01~0.50%、
     Al:0.001~0.050%、
     S :0.010~0.100%、
     N :0.010~0.030%、
     Ti:0~0.020%、
     残部:Fe及び不純物であり、
     前記化学組成が下記の式(1)を満たし、
     表面の少なくとも一部に硬化層を有し、
     前記硬化層は、9.0体積%以上のフェライトを含み、残部がマルテンサイト及びベイナイトの少なくとも一方である組織を有し、
     前記硬化層のビッカース硬さが520以上である、クランクシャフト。
      ([C]-0.05)/[N]-300×[Ti]≦30.0   (1)
     式(1)の[C]及び[N]には、それぞれC含有量及びN含有量が質量%で代入される。
  2.  請求項1に記載のクランクシャフトであって、
     前記硬化層のビッカース硬さと、前記フェライトの体積率とが、下記の式(2)を満たす、クランクシャフト。
      [α]≧0.0259×Hv-4.36   (2)
     式(2)の[α]には前記フェライトの体積率が%で代入され、Hvには前記硬化層のビッカース硬さが代入される。
  3.  請求項1に記載のクランクシャフトであって、
     前記マルテンサイト及びベイナイトの旧オーステナイト粒径が30μm以下である、クランクシャフト。
  4.  請求項1に記載のクランクシャフトであって、
     前記硬化層の曲げ疲労強度と、前記フェライトの体積率とが、下記の式(3)を満たす、クランクシャフト。
      [α]≧0.0028×[M]+6.86   (3)
     式(3)の[α]には前記フェライトの体積率が%で代入され、[M]には前記曲げ疲労強度がMPaで代入される。
  5.  請求項1~4のいずれか一項に記載のクランクシャフトを製造する方法であって、
     クランクシャフトの中間品を準備する工程と、
     前記中間品の硬化層を形成する領域である対象領域を920~980℃の温度である加熱温度に加熱する工程と、
     前記対象領域を前記加熱温度から710~760℃の温度である等温保持温度まで80℃/秒以上の冷却速度で冷却し、前記等温保持温度で80秒以上保持する工程と、
     前記対象領域を前記等温保持温度からMs点以下の温度まで80℃/秒以上の冷却速度で冷却する工程と、を備える、クランクシャフトの製造方法。
     
PCT/JP2023/042472 2022-12-14 2023-11-28 クランクシャフト及びクランクシャフトの製造方法 WO2024127969A1 (ja)

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