JP3931601B2 - 内歯砥石のドレス方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内歯砥石のドレス方法に係り、特に、ドレス残りを生じさせることなく内歯砥石のドレスができるとともに、内歯砥石の寿命をも延ばすことが可能な内歯砥石のドレス方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、たとえば自動車のパワートレインに用いられる、はす歯歯車の仕上加工は、内歯砥石を用いた研削装置によって行われている。この研削装置では、回転可能に支持された内歯砥石をワークのはす歯歯車に滑らせながらかみ合わせ、その歯面の仕上加工を行う。仕上加工の回数を重ねると、内歯砥石の歯面が荒れてくるので、そのときには、ワークに代えてドレスギヤを取り付け、内歯砥石の歯面を滑らかにするためのドレスを行う。
【0003】
内歯砥石は、シェ−ビング加工と同じ原理でワークを研削加工するため、内歯砥石軸はワ−ク取付軸に対し、ある軸交差角をもって配置されている。その軸交差角6は通常8°〜12°である。特開平11−138346号では、内歯砥石の寿命を延ばすため、内歯砥石のドレスを行う度に軸交差角を変化させている。つまり、内歯砥石の内径が大きくなるにしたがって、軸交差角を漸次減少させ(内歯砥石を立てて行く)、内歯砥石の新品から廃却までのドレス可能回数を増加させている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記したような従来の技術にあっては、砥石寿命は向上するものの、ドレスを行う度に軸交差角を変えているので、ドレス量が十分でないと、ドレス残りが生じる場合がある。このドレス残りの発生を防ぐためには、ドレス量を軸交差角に依らずに常に十分な量とすれば良いが(上記した特開平11−138346号では通常の2倍としている)、過剰なドレスは砥石寿命の減少に通ずるので、あまり好ましくはない。
【0005】
一方、適切なドレス量は、トライアンドエラーによって求めなければならないので、どの程度のドレス量とすればドレス残りがなくなるかが簡単にはわからない。このため、自動サイクルでドレス作業を行わせることはできない。
【0006】
本発明は、以上のような従来の技術の不具合を解消するために成されたものであり、ドレスの度に最適なドレス量を求めることによって、ドレス残りを生じさせることなく内歯砥石のドレスができるとともに、内歯砥石の寿命をも延ばすことが可能な内歯砥石のドレス方法の提供を目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記した課題を解決し、目的を達成するため、請求項1に記載の発明にかかる内歯砥石のドレス方法は、外歯型のドレスギヤを内歯砥石にかみ合わせて当該内歯砥石のドレスを行う内歯砥石のドレス方法であって、前記内歯砥石の新品時からのドレス回数に基づいて前記ドレスギヤの回転軸と前記内歯砥石の回転軸との軸交差角を演算する段階と、前記演算された交差角に基づいて、前記内歯砥石の一回あたりのドレス量を演算する段階と、前記内歯砥石の回転軸を軸交差角に設定する段階と、前記ドレスギヤを用いて、前記内歯砥石を演算されたドレス量だけ切り込む段階と、を含み、前記ドレス量を演算する段階は、前回のドレス時における前記ドレスギヤの回転軸と前記内歯砥石の回転軸との軸間距離および前回のドレス時における軸交差角を求める第1段階と、歯車基本諸元に基づいて、前記ドレスギヤの歯面座標を演算する第2段階と、前記ドレスギヤの歯面座標に基づいて、前記ドレスギヤの歯面の法線単位ベクトルを演算する第3段階と、前記法線単位ベクトルに基づいて、共役砥石歯面を演算する第4段階と、前記軸間距離と前記軸交差角に基づいて、前記ドレスギヤの歯面座標を前記内歯砥石の歯面座標に変換する第5段階と、今回のドレス時における軸交差角および仮のドレス量を入力する第6段階と、今回のドレス時における内歯砥石の歯面座標を演算する第7段階と、前回のドレス時における内歯砥石の歯面座標と今回のドレス時における内歯砥石の歯面座標とから、ドレス残りがあるか否かを判断する第8段階と、ドレス残りがないと判断された場合には、当該仮のドレス量を前記内歯砥石の一回あたりのドレス量とする一方、ドレス残りがあると判断された場合には、仮のドレス量を増加し、ドレス残りがないと判断されるまで、上記第6段階から第8段階を繰り返す第9段階と、を含むことを特徴とする。
【0012】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、ドレスギヤの回転軸と内歯砥石の回転軸との軸交差角をドレスの度に変化させるとともに、軸交差角の大きさに応じて、内歯砥石の一回あたりのドレス量を変化させ、さらに、前回のドレス時における内歯砥石の歯面座標と今回のドレス時における内歯砥石の歯面座標とから、ドレス残りがあるか否かを判断し、ドレス残りがないと判断された場合には、仮のドレス量を内歯砥石の一回あたりのドレス量とする一方、ドレス残りがあると判断された場合には、仮のドレス量を増加するようにしたので、ドレス残りの生じない最適なドレス量を得ることができ、内歯砥石の寿命を伸ばすことができる。
【0013】
また、自動サイクルでドレス作業を行うことができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる内歯砥石のドレス方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の方法が適用される歯車加工装置の構成図である。
【0015】
ワークテーブル100は、基台102上にその長手方向に移動自在に載置される。ワークテーブル100は、基台102に取り付けられた駆動モータ104で回転されるボールねじ106を介して図示A−B方向(Z軸方向)に往復駆動される。ワークテーブル100の移動位置は、駆動モータ104内に設けられている移動位置検出用エンコーダによって検出される。
【0016】
チャック装置108は、ワークテーブル100上に固定して取り付けられ、図示されていない被加工歯車またはドレスギヤを回転自在に支持する。チャック装置108は、被加工歯車またはドレスギヤを支持する主軸110を回転させるためのワーク駆動モータ112と、被加工歯車またはドレスギヤの回転位置を検出するための回転位置検出用エンコーダ114を備えている。
【0017】
切り込み装置116は、ワークテーブル100に進退自在に取り付けられる。切り込み装置116は、ワークテーブル100に取り付けられた図示しない切り込み用モータによって図示C−D方向(X軸方向)に進退駆動される。切り込み装置の進退位置は、切り込みモータ内に設けられている進退位置検出用エンコーダによって検出される。
【0018】
内歯砥石118を回転自在に支持するスピンドル装置120は、切り込み装置116に上下動および回動自在に支持される。スピンドル装置120は、砥石上下駆動装置122によって図示E−F方向(Y軸方向)に上下駆動され、また、砥石旋回装置124によって図示矢印方向に旋回駆動される。砥石上下駆動装置122は、砥石旋回装置124に回動自在に取り付けられ、砥石旋回装置124は、切り込み装置116に固定して取り付けられる。
【0019】
スピンドル装置120は、砥石上下駆動装置122のスライドヘッド126に固定して取り付けられる。スライドヘッド126は、砥石上下駆動装置122の基台130に取り付けられた駆動モータ132で上下に駆動される。スライドヘッド126の位置は、駆動モータ132に内蔵されているスライド位置検出用エンコーダによって検出される。砥石旋回装置124は、その装置に内蔵されている図示しない旋回駆動モータによって砥石上下駆動装置122を回動させ、この回動によってスピンドル装置120を旋回させる。スピンドル装置120の旋回位置は、旋回駆動モータに内蔵されている図示しない旋回位置検出用エンコーダによって検出される。
【0020】
スピンドル装置120は、内歯砥石118を回転させるためのスピンドルモータ134と、内歯砥石118の回転位置を検出する砥石回転位置検出用エンコーダ136とを備えている。
【0021】
図2は、図1に示した歯車加工装置の制御系のブロック図である。
【0022】
歯車加工装置の動作を総括的に制御する制御装置200は、ワークテーブル100を駆動する駆動モータ104、切り込み装置116を進退駆動する切り込みモータ204、砥石上下駆動装置122を回動させる旋回駆動モータ208、スライドヘッド126を駆動する駆動モータ132、被加工歯車またはドレスギヤを回転させるワーク駆動モータ112、内歯砥石118を回転させるスピンドルモータ134に接続される。
【0023】
さらに、制御装置200は、ワークテーブル100の移動位置を検出する移動位置検出用エンコーダ202、切り込み装置116の進退位置を検出する進退位置検出用エンコーダ206、スピンドル装置120の旋回位置を検出する旋回位置検出用エンコーダ210、スライドヘッド126の位置を検出するスライド位置検出用エンコーダ212、被加工歯車またはドレスギヤの回転位置を検出する回転位置検出用エンコーダ114、内歯砥石118の回転位置を検出する砥石回転位置検出用エンコーダ136が接続される。
【0024】
制御装置200に加工指令が入力されたときには、制御装置200は、この加工指令信号と上記すべてのエンコーダからのフィードバック信号とに基づいて、上記各モータの駆動を制御し、被加工歯車を内歯砥石118によって研削する。制御装置200にドレス指令信号が入力されたときには、制御装置200は、このドレス指令信号と、進退位置検出用エンコーダ206および旋回位置検出用エンコーダ210からのフィードバック信号とに基づいて、切り込みモータ204の駆動を制御し、内歯砥石118のドレス作業を行う。なお、制御装置200は、進退位置検出用エンコーダ206および旋回位置検出用エンコーダ210からのフィードバック信号を、次に説明するドレス量演算装置に送る。
【0025】
図3は、ドレス量演算装置300のブロック図である。
【0026】
ドレス量演算装置300は、歯車基本諸元記憶部310と、ドレス前中心間距離記憶部312と、ドレス前軸交差角記憶部314と、ドレス演算部316と、最適ドレス記憶部318とを備えている。
【0027】
歯車基本諸元記憶部310は、歯車の基礎円半径(RB)、位相角(φ)、基礎円ネジレ角(βb)、インボリュート関数(INV)、圧力角(α)などの、歯車の基本諸元を記憶している。
【0028】
ドレス前中心間距離記憶部312は、前回のドレス時における、内歯砥石118の回転軸とドレスギヤの回転軸との軸間距離を記憶している。この軸間距離は、進退位置検出用エンコーダ206から出力されるパルス数として記憶されている。
【0029】
ドレス前軸交差角記憶部314は、前回のドレス時における、内歯砥石118の回転軸とドレスギヤの回転軸との軸交差角を記憶している。この軸交差角は、旋回位置検出用エンコーダ210から出力されるパルス数として記憶されている。
【0030】
ドレス演算部316は、ドレス前中心間距離記憶部312に記憶されている、前回のドレス時における、内歯砥石118の回転軸とドレスギヤの回転軸との軸間距離、ドレス前軸交差角記憶部314に記憶されている、前回のドレス時における、内歯砥石118の回転軸とドレスギヤの回転軸との軸交差角、および歯車基本諸元記憶部310に記憶されている歯車基本諸元を用いて、今回のドレス時の軸交差角における最適なドレス量を求める。
【0031】
最適ドレス量記憶部318は、ドレス演算部316で求められた最適なドレス量を軸交差角の大きさごとに記憶する。つまり、交差軸角の大きさとドレス量との関係を示したテーブルを記憶する。
【0032】
ドレス量演算装置300は、図2の制御装置200に対してドレス指令信号を出力する。なお、ドレス量演算装置300には、内歯砥石118の新品時からのドレス回数をカウントする機能が備えられている。ドレス回数は、ドレス指令信号の出力回数に基づいてカウントされる。また、ドレス量演算装置300には、制御装置200からのフィードバック信号が入力される。このフィードバック信号は、内歯砥石118の回転軸とドレスギヤの回転軸との軸間距離を演算するための進退位置検出用エンコーダ206から出力されるパルス数、および、内歯砥石118の回転軸とドレスギヤの回転軸との軸交差角を演算するための旋回位置検出用エンコーダ210から出力されるパルス数に関する信号である。
【0033】
また、ドレス量演算装置300にはキーボード320が接続されているが、このキーボード320は、歯車基本諸元の入力を行うために設けてある。
【0034】
つぎに、ドレス量演算装置300によってドレス量が演算される過程を、図4のフローチャートおよび図5以降の図面を参照しながら説明する。
【0035】
まず、ドレス演算部316は、歯車基本諸元記憶部310に記憶されている歯車基本諸元を入力する。この歯車基本諸元は、キーボード320によってあらかじめ入力されている。この歯車基本諸元は、図5に示すように、歯車の基礎円半径(RB)、位相角(φ)、基礎円ネジレ角(βb)、インボリュート関数(INV)、圧力角(α)である(S1)。
【0036】
つぎに、ドレス演算部316は、ドレス前中心間距離記憶部312に記憶されている、前回のドレス時における、内歯砥石118の回転軸とドレスギヤの回転軸との軸間距離(ドレス前中心間距離A)を入力する。このドレス前中心間距離Aは、図2の制御装置200からフィードバック信号として出力される、進退位置検出用エンコーダ206から出力されるパルス数に基づいて演算される。つまり、ドレスギヤの回転軸、換言すれば主軸110の回転軸は固定されており、主軸110の回転軸と内歯砥石118の回転軸の基準位置との距離はあらかじめわかっているので、内歯砥石118の回転軸が基準位置からどの程度の距離ずれているかを進退位置検出用エンコーダ206から出力されるパルス数で演算すれば、ドレス前中心間距離Aは演算できる。この演算は、ドレス作業が行われる度にドレス演算部316で行われ、その演算結果がドレス前中心間距離記憶部312に記憶される(S2)。
【0037】
つぎに、ドレス演算部316は、ドレス前軸交差角記憶部314に記憶されている、前回のドレス時における、内歯砥石118の回転軸とドレスギヤの回転軸との軸交差角を入力する。この軸交差角は、制御装置200からフィードバック信号として出力される、旋回位置検出用エンコーダ210から出力されるパルス数に基づいて演算される。つまり、ドレスギヤの回転軸、換言すれば主軸110の回転軸は水平に固定されているので、内歯砥石118の回転軸が水平からどの程度の角度を成しているかを旋回位置検出用エンコーダ210から出力されるパルス数で演算すれば、軸交差角は演算できる。この演算は、ドレス作業が行われる度にドレス演算部316で行われ、その演算結果がドレス前軸交差角記憶部314に記憶される(S3)。
【0038】
そして、ドレス演算部316は、入力した歯車基本諸元に基づいて、下記の式を用いて演算を行い、ドレスギヤの歯面座標G(X,Y,Z)を求める(S4)。
【0039】
X=RB/cos(α)×sin(INV(α)+φ)
Y=RB/cos(α)×cos(INV(α)+φ)
Z=−φ×tan(βb)
ここで、RB:歯車の基礎円半径
α:圧力角
INV:インボリュート関数
φ:位相角
βb:基礎円ネジレ角
つぎに、ドレス演算部316は、ドレスギヤ歯面の法線単位ベクトル計算を行う。この法線単位ベクトルOEは次の演算によって求めることができる(S5)。
OE=(dG/dα)×(dG/dφ)/絶対値[(dG/dα)×(dG/dφ)]
さらに、ドレス演算部316は、共役砥石歯面計算を行う。この共役砥石歯面計算は、つぎのようにして行われる。
【0040】
求めたドレスギヤ歯面の法線ベクトルをOEとし、ドレスギヤ歯面の相対速度ベクトルをVとすると、内歯砥石118とドレスギヤとがかみ合う点では、
OE×V=0 という式が成立する。換言すれば、このかみ合う点は、ドレスギヤの歯面座標が内歯砥石118の歯面座標になる点である。つぎに、内歯砥石118とドレスギヤとの相対速度ベクトルをVとし、ドレスギヤ歯面の速度ベクトルをVG、内歯砥石118の歯面の速度ベクトルをVTとすると、
V=VG−VT となる。
【0041】
以上までの演算で、任意の圧力角α、任意の位相角φの時の法線単位ベクトルOEと、相対速度ベクトルVとが求められたので、ドレスギヤの歯面全面について、OE×V=0という式が成立する圧力角α、位相角φの値をそれぞれ求める。このようにして求めた圧力角α、位相角φの値を、ドレスギヤの歯面座標G(X,Y,Z)を求める前述の式に代入して共役砥石歯面を求める。求めたれたドレスギヤの歯面座標G(X,Y,Z)は、内歯砥石118とかみ合うドレスギヤの歯面座標である(S6)。
【0042】
そして、ドレス演算部316は、ドレスギヤから内歯砥石118への座標変換処理を行う。この座標変換処理は、次のようにして行う。
【0043】
図6に示すように、内歯砥石118とドレスギヤとの軸交差角をΣ、内歯砥石118とドレスギアとの中心間距離をAとし、ドレスギヤの歯面座標を(x,y,z)、内歯砥石118の歯面座標を(X,Y,Z)とすると、ドレスギヤの歯面座標(x,y,z)を歯面座標(X,Y,Z)に変換するには、下記の行列式を用いる。
【0044】
【数1】
Figure 0003931601
【0045】
この行列式を解くことによって、ドレスギアの座標系が内歯砥石118の座標系に変換されることになり、上記のようにして求められたドレスギヤの歯面座標から内歯砥石118の歯面座標が求められることになる。
【0046】
つぎに、ドレス演算部316は、あらかじめ定められている切込み量でドレスを行ったときに、内歯砥石118の歯面にドレス残りが生じるか否かを判断するため、ドレス前後の歯面距離dを演算する。
【0047】
まず、上記のようにして求めた既知のドレス前の内歯砥石118の歯面座標をOPとし、軸交差角をあらかじめ定められている角度だけ変更したときの、未知のドレス後の内歯砥石118の歯面座標をOPPとし、ドレス前後の歯面距離をdとすると、ドレス前後の法線単位ベクトルOEの関係は、
OP=d×OE+OPP が成り立つので、
OPP(X)+d×OE−OP(X)=0
OPP(Y)+d×OE−OP(Y)=0
OPP(Z)+d×OE−OP(Z)=0
という3つの方程式が成立する。
【0048】
ただし、OPP(X)、OPP(Y)、OPP(Z)は、ドレス後の内歯砥石118のX軸上、Y軸上、Z軸上の歯面座標である。
【0049】
これらの方程式を解くことによって、任意の内歯砥石歯面のドレス前後での歯面距離dを求めることができる。この計算は、内歯砥石118の歯面全体について行う。たとえば、歯面距離を求める点を、歯型方向5点、歯筋方向5点とすると、各歯面に対して25箇所の歯面距離dを求めることができる(S8)。
【0050】
ドレス演算部316は、求めた歯面距離dが0よりも大きいか否かを判断する(S9)。求めた歯面距離dが全てプラスであれば(S9:YES)、ドレス後の内歯砥石歯面座標がドレス前の内歯砥石歯面座標を追い越したことになるので、ドレス残りは生じないことになる。たとえば、25箇所の歯面距離を実際に求めた結果を示すのが図7であるが、この図を見ればわかるように、左歯面および右歯面ともに、求められた「砥石の距離」はすべて+であるので、この場合には、ドレス残りは生じないことがわかる。
【0051】
したがって、歯面距離dが0よりも大きければ、あらかじめ定められている切込み量でドレスを開始する。つまり、ドレス演算部316は、制御装置200に、求めた切込み量で内歯砥石118をドレスすべき指令をドレス指令信号として出力する(S10)。
【0052】
一方、求めた歯面距離dの一部でも−があれば(S9:NO)、このままドレスをすればドレス残りが生じることになるので、ドレス演算部316は、あらかじめ定められている切込み量を増加し、新たなドレス量を求める(S11)。このドレス量で再度、S8のステップの処理を行う。以上のようにして、歯面距離dが0よりも大きくなるまでドレス量の変更を行い、その変更後の切込み量でドレスを開始する。つまり、ドレス演算部316は、制御装置200に、求めた切込み量で内歯砥石118をドレスすべき指令をドレス指令信号として出力する(S10)。
【0053】
以上の処理は、ドレス作業を行う度に行われる。したがって、以上の処理が内歯砥石118の新品から廃却まで行われると、内歯砥石118とドレスギヤとの軸交差角度ごとの最適なドレス量を求めることができる。最適ドレス量記憶部318には、ドレス演算部316で求められた最適なドレス量が軸交差角の大きさごとに記憶される。つまり、図8に示すような、交差軸角の大きさとドレス量との関係を示したテーブルが記憶される。
【0054】
この図を見ると一目瞭然であるが、軸交差角の大きさによって、ドレス残りを生じない最適なドレス量があることがわかる。したがって、従来のように、ドレス残りが生じないように、軸交差角の大きさに依らずに、常に十分なドレス量(0.06mm×2倍程度)をもって内歯砥石118をドレスすることと比較すれば、本発明は、非常に合理的なドレス量の算出ができるので、オーバードレスをすることがなく、砥石の寿命を延ばすことができる。また、従来のように、ドレス残りが生じた場合の追加のドレス量をトライアンドエラーで決める必要がなくなるので、ドレス作業の時間短縮ができるだけでなく、自動サイクルでドレス作業を行わせることができる。
【0055】
図9および図10は、図8のように算出された数値を視覚的にわかるようにグラフ形式で表示した図である。図9は、ドレス残りが生じた場合を示す。この図を見れば明らかなように、左歯面および右歯面に−となる部分が存在している。したがって、このマイナスとなる部分は、ドレスがされない部分であることがわかる。図10は、ドレス残りが生じない場合を示す。この図では、左歯面および右歯面に−となる部分が存在しない。したがって、ドレスがされない部分は存在しないことがわかる。
【0056】
図11は、上記の演算を実際の歯車加工装置で行った場合の演算結果を示す図である。同図の左側の図は、軸交差角20°一定とし、中心間距離をドレス前127mmからドレス後127.06mmに変化させ、ドレス量を60μとした場合にドレス残りが生じるか否かについて検証した。この条件で演算した結果、図のように−となる部分が存在していないので、ドレス残りが生じないことがわかる。
【0057】
同図の真中の図は、軸交差角を20°から19.965°に変化させ(内歯砥石を時計方向に回動する)、中心間距離をドレス前127mmからドレス後127.06mmに変化させ、ドレス量を60μmとした場合にドレス残りが生じるか否かについて検証した。この条件で演算した結果、図のように−となる部分が一部に存在しているので、ドレス量60μmではドレス残りが生じ手しまうことがわかる。
【0058】
したがって、ドレス残りが生じないように、中心間距離をドレス前127mmからドレス後127.1mmに変化させ、ドレス量を100μmとした場合にドレス残りが生じるか否かについて検証した。この検証の結果を表わしているのが、同図の右側の図である。この条件で演算した結果、図のように−となる部分が存在しなくなったので、この条件であれば、ドレス残りが生じないことがわかる。
【0059】
つぎに、本発明の方法が適用される図1の歯車加工装置のドレス作業時の動作を説明する。制御装置200がドレス量演算装置300から出力されたドレス指令信号を入力すると、ドレスギヤと内歯砥石118が同期回転しながら切り込み装置116を前進させる。切り込み装置116が所定の位置まで前進すると、ドレスギヤと内歯砥石とがかみ合い始め、そのかみ合いがバックラッシュなしでかみ合うまで前進しつづける。制御装置200は、この状態のまま、内歯砥石118を駆動するスピンドルモータ134とドレスギアを駆動するワーク駆動モータ112に流れる電流値を監視し、その電流値があらかじめ定めてある閾値を超えたときに、進退位置検出用エンコーダ206から切り込み装置116の位置を読む。この切り込み装置16の位置は、フィードバック信号としてドレス量演算装置300に送られる。この切り込み装置116の位置から、前回のドレス時における、内歯砥石118の回転軸とドレスギヤの回転軸との軸間距離(ドレス前中心間距離A)が求められる。
【0060】
そして、今回のドレスに備えて、内歯砥石118の軸交差角が所定の角度に(今回度ドレスの角度に)設定される。軸交差角は、内歯砥石118が新品時は最も大きく、ドレスの度に、その新品時の角度から、あらかじめ定められた一定の角度ずつ(たとえば0.035°)時計回りに回転させて小さくしていく。したがって、今回のドレスが新品時から何回目のドレスであるかによって軸交差角を何度にすべきかがわかる。ドレス回数は、ドレス量演算装置300によってカウントされている。
【0061】
内歯砥石118の軸交差角が所定の角度に設定されると、ドレス量演算装置300は、その軸交差角に最適なドレス量を算出し、そのドレス量をドレス指令信号として制御装置200に送る。制御装置200は、ドレス残りが生じない最適なドレス量だけ、ドレスギヤと内歯砥石118とを同期回転させながら切り込み装置116を前進させる。この前進にしたがってドレスギヤの歯面が内歯砥石の歯面にこすれるように当たり、軸交差角が変えられた内歯砥石118の歯面をドレスして行く。
【0062】
上記の例では、前回のドレス時における、内歯砥石118の回転軸とドレスギヤの回転軸との軸間距離(ドレス前中心間距離A)を求めるために、内歯砥石118を駆動するスピンドルモータ134とドレスギアを駆動するワーク駆動モータ112に流れる電流値を監視し、その電流値から、内歯砥石118とドレスギヤがバックラッシュなしでかみ合う位置を求め、これによって、ドレス前の砥石歯面を求めたが、これ以外に、ドレス作業からドレス作業までの間に、内歯砥石118がどの程度磨耗するのかを事前に実験的に求め、それを記憶しておき、前回ドレスした時のドレス前中心間距離Aに実験的に求めておいた内歯砥石の磨耗量を加えた位置を、前回のドレス時における、内歯砥石118の回転軸とドレスギヤの回転軸との軸間距離(ドレス前中心間距離A)としても良い。このようにしてドレス前中心間距離Aを求めれば、電流値を監視する機能を制御装置200が備える必要がなくなるので、制御装置200の構成が簡略化できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法が適用される歯車加工装置の構成図である。
【図2】図1に示した歯車加工装置の制御系のブロック図である。
【図3】ドレス量演算装置のブロック図である。
【図4】ドレス量演算装置によってドレス量が演算される過程を示すフローチャートである。
【図5】歯車基本諸元の説明に供する図である。
【図6】ドレスギアの座標系を内歯砥石の座標系に変換するときの説明に供する図である。
【図7】25箇所の歯面距離を実際に求めた結果を示す図である。
【図8】交差軸角の大きさとドレス量との関係を示した図である。
【図9】ドレス残りが生じる場合の演算結果を視覚的にわかるようにグラフ形式で表示した図である。
【図10】ドレス残りが生じない場合の演算結果を視覚的にわかるようにグラフ形式で表示した図である。
【図11】実際の歯車加工装置に対してドレス残りの有無の演算を行った場合の演算結果を示す図である。
【符号の説明】
100…ワークテーブル、
102…基台、
104…駆動モータ、
106…ボールねじ、
108…チャック装置、
110…主軸、
112…ワーク駆動モータ、
114…回転位置検出用エンコーダ
116…切り込み装置、
118…内歯車型砥石、
120…スピンドル装置、
122…砥石上下駆動装置、
124…砥石旋回装置、
126…スライドヘッド、
130…基台、
132…駆動モータ、
134…スピンドルモータ、
136…砥石回転位置検出用エンコーダ、
200…制御装置、
202…移動位置検出用エンコーダ、
204…切り込みモータ、
206…進退位置検出用エンコーダ、
208…旋回駆動モータ、
210…旋回位置検出用エンコーダ、
212…スライド位置検出用エンコーダ、
300…ドレス量演算装置、
310…歯車基本諸元記憶部、
312…ドレス前中心間距離記憶部、
314…ドレス前軸交差角記憶部、
316…ドレス演算部、
318…最適ドレス記憶部、
320…キーボード。

Claims (1)

  1. 外歯型のドレスギヤを内歯砥石にかみ合わせて当該内歯砥石のドレスを行う内歯砥石のドレス方法であって、
    前記内歯砥石の新品時からのドレス回数に基づいて前記ドレスギヤの回転軸と前記内歯砥石の回転軸との軸交差角を演算する段階と、
    前記演算された交差角に基づいて、前記内歯砥石の一回あたりのドレス量を演算する段階と、
    前記内歯砥石の回転軸を軸交差角に設定する段階と、
    前記ドレスギヤを用いて、前記内歯砥石を演算されたドレス量だけ切り込む段階と、を含み、
    前記ドレス量を演算する段階は、
    前回のドレス時における前記ドレスギヤの回転軸と前記内歯砥石の回転軸との軸間距離および前回のドレス時における軸交差角を求める第1段階と、
    歯車基本諸元に基づいて、前記ドレスギヤの歯面座標を演算する第2段階と、
    前記ドレスギヤの歯面座標に基づいて、前記ドレスギヤの歯面の法線単位ベクトルを演算する第3段階と、
    前記法線単位ベクトルに基づいて、共役砥石歯面を演算する第4段階と、
    前記軸間距離と前記軸交差角に基づいて、前記ドレスギヤの歯面座標を前記内歯砥石の歯面座標に変換する第5段階と、
    今回のドレス時における軸交差角および仮のドレス量を入力する第6段階と、
    今回のドレス時における内歯砥石の歯面座標を演算する第7段階と、
    前回のドレス時における内歯砥石の歯面座標と今回のドレス時における内歯砥石の歯面座標とから、ドレス残りがあるか否かを判断する第8段階と、
    ドレス残りがないと判断された場合には、当該仮のドレス量を前記内歯砥石の一回あたりのドレス量とする一方、ドレス残りがあると判断された場合には、仮のドレス量を増加し、ドレス残りがないと判断されるまで、上記第6段階から第8段階を繰り返す第9段階と、を含むことを特徴とする内歯砥石のドレス方法。
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