JP3930647B2 - シアノ安息香酸の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、一般式(2)で示されるシアノ安息香酸化合物の製法に関する。このシアノ安息香酸化合物は医薬、農薬、液晶、機能性高分子モノマーなどの重要な中間体である。
【0002】
【従来の技術】
シアノ安息香酸化合物の製法は古くからいくつか知られている。ここでは代表例としてp−シアノ安息香酸の製法をあげる。
例えばp一シアノ安息香酸は古典的にはp−アミノ安息香酸をジアゾ化した後、シアン化銅を反応させるサンドマイヤー反応により合成されている(Lucasetal.,J.Am.Chem.Soc.,51(1929)2718)。また、トルニトリルをクロム酸や過マンガン酸などの強力な試薬酸化剤で酸化し合成する方法も知られている(Levine et al.,J.Org.Chem.,24(1959)115)、(Kattwinkel et.al.,Chem.Ber.,37(1904)3226)。
【0003】
最近では水系の溶媒中、一酸化炭素加圧下、パラジウムーホスフィン触媒を用い、p−クロロベンゾニトリルをカルボニル化することにより、p−シアノ安息香酸が合成できることが知られている(特開昭64−47号公報)。
また、テレフタロニトリルの片側ニトリル基をモノニトリラーゼなどの酵素を用いて生物学的に加水分解して、p−シアノ安息香酸を合成できることが報告されている(特開昭61−85194公報)。
本発明に関連のある先行技術として、テレフタロニトリルを加圧下アンモニア水でニトリル基を加水分解する方法がある(Arkhipova et a1.,J.Gen.Chem.USSR,33(1963)631)。この著者らによれば、テレフタロニトリルの片側水和で生じるp一シアノベンズアミドのアミド基が加水分解を受け、p−シアノ安息香酸ができるとしている。
【0004】
以上のような方法のうち、サンドマイヤー法は危険なシアン化銅を必要とし、シアン化水素の遊離する酸性条件下でのp−シアノ安息香酸の単離精製は危険でありかつ困難である。あるいはクロム酸や過マンガン酸などの試薬酸化剤を用いた場合は有毒な重金属廃棄物が化学量論量以上生成し、有毒な重金属を含む廃液が大量にでて環境に対する間題が多い。
またカルボニル化では、高価なパラジウムとホスフィンを用いるため経済的方法とはなり得ない。
【0005】
酵素または微生物を用いる方法では、片側ニトリル基の加水分解の選択性が十分でないうえ、反応濃度をあげることができず生産性が低い。また、テレフタロニトリルの加水分解法では、目的のp一シアノ安息香酸以外にテレフタラミン酸、テレフタラミド、テレフタル酸などの副生が避けられず、これら副生物との分離が困難である。
このように、p一シアノ安息香酸は、従来知られている技術では合成に危険があったり、原料系に高価な化合物の使用を必要としたり、合成が繁雑で副生物が生成し、高純度化合物を得るのが困難であったり、また原料の入手も容易ではないという問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、一般式(2)のシアノ安息香酸化合物を、安全で環境汚染の問題のない工業的に有利な方法により、高収率、高純度に製造することにあり、特に医農薬中間体として有用なm一またはp−シアノ安息香酸を高純度且つ高収率で製造することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、入手が容易で、安定に供給される一般式(1)のシアノベンズアミド化合物を出発原料として、ベンゼン環上のシアノ基を損なうことなくアミド基(一CONH2 )をカルボキシル基(一COOH)に変換することにより、上記目的を達成することができた。
すなわち、本発明は
[1] 一般式(1)
【化3】
(式中、一CONH2 と−Xはベンゼン環上の置換基を表わし、−CONH2 は−CNのメタ位あるいはパラ位であり、Xは塩素原子またはフッ素原子を表わし、nは0〜4の整数を表わす。ただし、nが2以上の場合、Xは同一であっても異なっていても良い。)
で示されるシアノベンズアミド化合物と亜硝酸を酸性条件下で反応させることを特徴とする一般式(2)
【化4】
(式中、一COOHと−Xはベンゼン環上の置換基を表わし、−COOHは一CNのメタ位あるいはパラ位であり、Xは塩素原子またはフッ素原子を表わし、nは0〜4の整数を表わす。ただし、nが2以上の場合、Xは同一であっても異なっていても良い。)
で示されるシアノ安息香酸化合物の製造方法、
【0008】
[2] 亜硝酸塩と酸とから亜硝酸を生成せしめる前記[1]に記載のシアノ安息香酸化合物の製造方法、
[3] 反応を、強酸性水系溶媒中、反応温度5〜60℃でおこなう前記[1]または2に記載のシアノ安息香酸化合物の製造方法、
[4] 反応を、実質的に水を含まない酸性有機溶媒中、反応温度ー10℃〜100℃で行う前記[1]または[2]に記載のシアノ安息香酸化合物の製造方法、及び
[5] シアノベンズアミド化合物1モルに対し、亜硝酸塩を少なくとも等モル〜10モル使用する前記[1]ないし[4]のいずれかに記載のシアノ安息香酸化合物の製造方法を開発することにより上記の目的を達成した。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明における反応方法は、原料のシアノベンズアミド化合物及び亜硝酸塩を水系溶媒や有機溶媒とともに反応器に仕込み、撹件下に所定の温度、所定の時間、酸性条件下で反応させることにより行われる。反応原材科の仕込みおよび反応は、加圧または大気圧下で行うことができる。使用する反応器としてはガラスあるいは耐強酸性金属容器が適する。
本発明の反応機構として、p−シアノベンズアミドからp−シアノ安息香酸への反応を例にとり説明する。
亜硝酸塩(MNO2 )とプロトン酸(HX)から亜硝酸が生成し[式(3)]、これがp一シアノベンズアミドのアミド基とが反応し、p−シアノ安息香酸ができる[式(4)]ものと思われる。
【0010】
【化5】
【0011】
【化6】
【0012】
本発明方法のシアノ安息香酸の合成に用いられるシアノベンズアミド化合物としては、無置換のシアノベンズアミド化合物としてp−シアノベンズアミド、m−シアノベンズアミドなどが挙げられ、これらはそれぞれテレフタロニトリルおよびイソフタロニトリルの片側のニトリル基の水和反応(Berther eta1.,Chem.Ber.,92(1959)2616)で容易に合成できる。
【0013】
ハロゲンで置換されたシアノベンズアミド化合物としては、4一シアノー2,3,5,6一テトラクロロベンズアミド、3一シアノー2,4,5,6一テトラクロロベンズアミドなどの塩素化シアノベンズアミド化合物があり、これらはテレフタロニトリルの塩素化により得られるテトラクロロテレフタロニトリルなどの塩素化テレフタロニトリル化合物およびイソフタロニトリルの塩素化により得られるテトラクロロイソフタロニトリルなどの塩素化イソフタロニトリル化合物の片側ニトリル基の水和反応で容易に合成できる。
4−シアノー2,3,5,6−テトラフルオロベンズアミド、3一シアノー2,4,5,6一テトラフルオロベンズアミドなどのフッ素化シアノベンズアミド化合物は、テトラクロロテレフタロニトリルなどの塩素化テレフタロニトリル化合物およびテトラクロロイソフタロニトリルなどの塩素化イソフタロニトリル化合物をフッ素化反応することにより得られるテトラフルオロテレフタロニトリルなどのフツ素テレフタロニトリル化合物およびテトラフルオロイソフタロニトリルなどのフツ素化イソフタロニトリル化合物の片側ニトリル基の水和反応で高純度品を容易かつ安全に合成できる。
【0014】
本発明で使用する亜硝酸塩としては、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウムなどを用いることができる。本発明で使用する亜硝酸塩の量は、シアノベンズアミド化合物に対してモル比で1〜10が好ましい。
反応は、酸性条件下、好ましくは強酸性の条件下で行われる。使用される酸としては、有機または無機のプロトン酸である。無機酸としては、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸などを用いることができ、特に溶媒を兼ねることができる硫酸が好適である。
また有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸などのカルボン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのスルホン酸を用いることができ、特に溶媒を兼ねることができる低沸点のカルボン酸が好適である。
本発明で使用する酸の量は、理論的には亜硝酸塩と等モルでよいはずであるが、実際の反応には反応系に存在する亜硝酸以外に過剰量のプロトン酸の存在が必要である。なお亜硝酸塩として亜硝酸ナトリウムを用いる時、添加する酸が亜硝酸に対して弱酸(酢酸など)である時は溶媒量相当の大過剰量が必要である。添加する酸が亜硝酸より遥かに強い酸の場合は、反応速度の点から1.5倍量(当量比)程度用いることが好ましい。特に溶媒を兼ねて70重量%以上の濃度の濃硫酸が最も好適である。
【0015】
本反応で用いられる溶媒系としては、水単独、含水有機溶媒などの水系溶媒、または実質的に水を含まない有機溶媒など広範囲の溶媒が使用できる。
水単独の場合は無機プロトン酸の存在下で反応を行う。含水有機溶媒の場合は通常水と均一に混合する有機溶媒を用い、無機酸あるいは有機酸の存在下で反応をおこなう。含水有機溶媒に用いることができる有機溶媒としては、ジオキサン、ジグライムなどの工一テル系、メタノール、エタノールなどのアルコール系、アセトニトリルなどのニトリル系、酢酸、プロピオン酸などのカルボン酸類が用いられる。
【0016】
実質的に水を含まない有機溶媒の場合は、塩酸ガスなど水を含まない無機酸およひ有機酸の存在下で反応をおこなうが必ずしも強酸性条件下を必要としない。この場合に用いることができる有機溶媒としてはホルムアミド、ジメチルホルムアミドなどの極性アミド系、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含イオウ系、l,3−ジメチルー2−イミダゾリジオンなどのイミダゾリドン系、ジオキサン、l,2−ジメトキシエタン、ジグライムなどの工一テル系、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2一ジクロロエタンなどのハロゲン系、メタノール、エタノールなどのアルコール系、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素系、無水酢酸、無水プロピオン酸などの酸無水物系、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸などの有機カルボン酸系などが用いられる。有機溶媒は単独で用いてもよいし、混合して使用してもよい。
【0017】
本反応に使用する溶媒量は、シアノベンズアミド化合物の重量の5〜100倍が好適である。
反応温度は、本反応の溶媒として水単独あるいは含水有機溶媒と実質的に水を含まない有機溶媒を用いた場合では異なる。
溶媒に水単独およひ含水有機溶媒を用いる場合には、添加する酸の種類及びその濃度にもよるが反応温度が低すぎると原料のシアノベンズアミド化合物の溶解度が低く反応速度が遅くなり、高すぎると原料のシアノベンズアミド及び生成物のシアノ安息香酸化合物のニトリル基が水和、加水分解を受けて収率が低くなるため、5℃〜60℃が好ましく、10℃〜30℃がより好ましい。
一方、実質的に水を含まない有機溶媒を用いた場合には、ニトリル基はプロトン酸に極めて鈍感なため分解の危険が少なく、トリフルオロメタンスルホン酸などの強い酸性条件下でも副反応が少なく実施できるためー10℃〜100℃が好ましく、0℃〜80℃がより好ましい。
また本反応の反応時間は、溶媒の組成によるが、10分〜10時間が好適である。
【0018】
反応終了後、得られたシアノ安息香酸化合物の単離精製については、反応が強酸性水溶液の場合は、シアノ安息香酸化合物は水に対する溶解度が極めて低く、シアノ安息香酸化合物は反応終了後析出する。これをろ過分離し、水洗乾燥するだけで用いたシアノベンズアミド化合物の純度を反映した純度のシアノ安息香酸化合物が得られる。
一方、有機溶媒の場合には、使用した反応溶媒によりシアノ安息香酸化合物は析出したり、溶解したままでいる。析出している場合にはろ過、水洗、乾燥するだけで単離精製できる。またシアノ安息香酸が溶解している場合は、低温、真空下で溶媒を留去し、残渣に水を加え、シアノ安息香酸を析出させ、更にろ過、水洗、乾燥する。この場合にもシアノ安息香酸化合物の純度は用いたシアノベンズアミド化合物の純度を反映する。
【0019】
【実施例】
以下に実施例を用いてさらに詳しく本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお分析は次に示す条件で行った。
【0020】
(実施例1)
70%重量濃度の硫酸水溶液l00mlに亜硝酸ナトリウム2.07gを加え溶解させた。p一シアノベンズアミド2.92gを加え攪拌させながら室温で1時間反応させた。析出した結晶をろ取し、水洗後乾燥してp一シアノ安息香酸2.77g(収率95%)を得た。高速液体クロマトグラフの分析により得られたpーシアノ安息香酸の純度は99%以上であった。
【0021】
(実施例2)
70%重量濃度の硫酸水溶液100mlに亜硝酸ナトリウム2.07gを加え溶解させた。m一シアノベンズアミド2.92gを加え橙枠させながら40℃で1時間反応させた。析出した結晶をろ取し、水洗後乾燥してm一シアノ安息香酸2.68g(収率92%)を得た。純度は99%以上であった。
【0022】
(実施例3)
p一シアノベンズアミド1.46g、酢酸20mlを混合し、室温で激しく撹拌し、続いて亜硝酸ナトリウム2.07gを加え、直ちに95%重量硫酸3g添加し、1時間激しく攪拌させた。減圧下酢酸を留去し、残査に水40mlを加えた。析出した結晶をろ取し、水洗後乾燥してp−シアノ安息香酸l.26g(収率86%)を得た。純度は95%であった。
【0023】
(実施例4)
p一シアノベンズアミド14.6g、亜硝酸ナトリウム20.7g、酢酸200m1、無水酢酸20m1を混合し、5℃で激しく撹件した。トリフルオロ酢酸35gを3時間かけて滴下し、さらに5時間激しく撹拝させた。減圧下溶媒を留去し、残査に水300mlを加えた。析出した結晶をろ取し、水洗後乾燥してpーシアノ安息香酸13.4g(収率92%)を得た。純度は98%であった。
【0024】
(実施例5)
m−シアノベンズアミド2.92g、亜硝酸ナトリウム2.76g、ジメチルスルホキシド50m1を混合し、室温で激しく撹件した。メタンスルホン酸3.95gを10分間かけて滴下し、さらに3時間激しく撹件させた。減圧下溶媒を留去し、残査に水50mlを加えた。析出した結晶をろ取し、水洗後乾燥してmーシアノ安息香酸2.57g(収率88%)を得た。純度は96%であった。
【0025】
(実施例6)
イソフタロニトリル2.56g、50重量%濃度硫酸100mlを混合し、70℃で激しく攪拌した。亜硝酸ナトリウム8.6gを1時間かけて少量づつ添加した。結晶をろ取し、結晶に水を加えた後、氷冷下、水酸化ナトリウムを加え、pH=8に調整した。不溶物をろ過した後、所得したろ液に氷冷下濃硫酸を加えpH=6に調整した。析出した結晶をろ取し、ろ液を再度pH=6に調整し、結晶を析出させ、結晶をろ取した。この操作を計3回行った。所得した結晶をあわせて、水洗後乾燥してm−シアノ安息香酸1.53g(収率52%)を得た。純度は93%であった。
【0026】
(実施例7)
テレフタロニトリル12.8g、水酸化ナトリウム2.4g、水1.5g、tert−ブチルアルコール300mlを混合し、80℃で激しく攪拌した。溶媒を留去し、亜硝酸ナトリウム16.6g、酢酸250ml、無水酢酸25mlを混合し、5℃で激しく攪拌した。トリフルオロ酢酸27gを3時間かけて滴下し、更に5時間激しく攪拌を継続した。減圧下に溶媒を留去し、残渣に水500mlを加えた。氷冷下、溶液に水酸化ナトリウムを加え、pH=8に調整した。不溶物をろ過した後、所得したろ液に氷冷下濃硫酸を加え、pH=4に調整した。析出した結晶をろ取し、水洗後乾燥してp−シアノ安息香酸10.6g(収率72%)を得た。純度は95%であった。
【0027】
【発明の効果】
本発明のシアノ安息香酸化合物の製造方法による時は、フタロニトリル化合物から容易に得られるシアノベンズアミド化合物と安価な亜硝酸塩から、危険の多い化合物または高価な原料を使用することなく、重金属などを含む環境汚染の問題のある廃液の排出もなく、また分離困難な副生物の生成もないところから高純度のシアノ安息香酸化合物を高収率で簡単に製造することができる。
Claims (5)
-
で示されるシアノベンズアミド化合物と亜硝酸を酸性条件下で反応させることを特徴とする一般式(2)
で示されるシアノ安息香酸化合物の製造方法。 - 亜硝酸塩と酸とから亜硝酸を生成せしめる請求項1に記載のシアノ安息香酸化合物の製造方法。
- 反応を、強酸性水系溶媒中、反応温度5〜60℃でおこなう請求項1または2に記載のシアノ安息香酸化合物の製造方法。
- 反応を、実質的に水を含まない酸性有機溶媒中、反応温度ー10℃〜100℃で行う請求項1または2に記載のシアノ安息香酸化合物の製造方法。
- シアノベンズアミド化合物1モルに対し、亜硝酸塩を少なくとも等モル〜10モル使用する請求項1ないし4のいずれか1項に記載のシアノ安息香酸化合物の製造方法。
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