JP3924178B2 - プレス用薄鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はプレス用薄鋼板およびその製造方法に関するものであり、特に380〜540MPa級の引張強度であっても軟鋼板並みのプレス成形性を得ることができる。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の燃費向上などのために軽量化を目的として、Al合金等の軽金属や高強度鋼板の自動車部材への適用が進められている。ただし、Al合金等の軽金属は比強度が高いという利点があるものの鋼に比較して著しく高価であるためその適用は特殊な用途に限られている。従ってより安価かつ広い範囲に自動車の軽量化を推進するためには鋼板の高強度化が必要とされている。
材料の高強度化は一般的に成形性(加工性)等の材料特性を劣化させるため、材料特性を劣化させずに如何に高強度化を図るかが高強度鋼板開発のカギになる。特に内板部材、構造部材、足廻り部材用鋼板に求められる特性としてはバーリング加工性、延性、疲労耐久性および耐食性等が重要であり高強度とこれら特性を如何に高次元でバランスさせるかが重要である。
【0003】
しかしながら、現状で270〜340MPa級程度の軟鋼板が使われている部材に590MPa級以上の高強度鋼板を適用することはプレス現場での操業、設備改善の前提なしでは難しく、当面は380〜540MPa級程度の鋼板の使用がより現実的な解決策となる。
380〜540MPaの強度範囲で優れたプレス成形性を得るための技術的アプローチは大きく分けて二通り考えられる。
一つは、RHやDHなどの真空脱ガス技術の発展にともない鋼中の固溶元素を低減し高純度化し成形性を向上させた鋼として低炭素Alキルド鋼に代わって軟鋼板に広く用いられるようになった極低炭素鋼やさらにTi、Nb等の添加によって鋼中の固溶C、Nをscavengingすることで飛躍的に成形性を向上させたInterstitial atoms Free steel(以下IF鋼)の技術を応用し、Mn、P、Si等の固溶強化元素で強化する方法であり、例えば特公昭59−42742号公報等に記載されている。
【0004】
もう一つは、鋼のミクロ組織中に残留オーステナイトを含むことで成形中にTRIP(TRansformation Induced Plasticity)現象を発現させることで飛躍的に成形性を向上させたTRIP鋼であり、例えば特開2000−169935号公報および特開2000−169936号公報等に記載されている。
しかし、上記に開示されている技術は以下の理由によって380〜540MPaの強度範囲で優れたプレス成形性を得るためには不十分である。
前者は、270〜340MPaの強度範囲では50%前後の高い破断伸びを示すが、Mn、P、Si等の固溶強化元素で強化すると高純度化の効果が失われ急激に延びが劣化し、440MPa程度の強度レベルでは36%前後の破断伸びである。
【0005】
一方、後者は残留オーステナイトのTRIP現象で590MPa程度の強度レベルでは35%を超える破断伸びを示すが、380〜540MPaの強度範囲の鋼板を得るためには必然的にC,Si,Mn等の元素を低減させなければならずC,Si,Mn等の元素の元素を380〜540MPaの強度範囲のレベルまで低減するとTRIP現象を得るために必要な残留オーステナイトを室温でミクロ組織中に保つことができない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、380〜540MPa級の強度範囲であっても安定して40%以上の延びもしくは18000MPa・%以上の強度−延性バランス(引張強度×破断伸び)が得られるプレス用薄鋼板およびその製造方法に関する。すなわち、本発明は、プレス用薄鋼板およびその鋼板を安価に安定して製造できる方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、現在通常に採用されている製造設備により工業的規模で生産されている380〜540MPa級鋼板の製造プロセスを念頭において、380〜540MPa級の強度範囲であっても安定して40%以上の延びもしくは18000MPa・%以上の強度−延性バランスを得るべく鋭意研究を重ねた。
その結果、C =0.0005〜0.01%、Si=0.6〜1.8%、Mn=0.1〜2%、P ≦0.1%、S ≦0.03%、を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼であって、ポリゴナルフェライトの体積率が90%以上かつフェライト平均粒径が50μm以上200μm以下でそのフェライト粒の展伸度が2以下あることが非常に有効であることを新たに見出し、本発明をなしたものである。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)質量%にて、C =0.0005〜0.01%、Si=0.6〜1.8%、Mn=0.1〜2%、P ≦0.1%、S ≦0.03%、Al=0.005〜1%、を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼であって、ポリゴナルフェライトの体積率が90%以上かつフェライト平均粒径が50μm以上200μm以下でそのフェライト粒の展伸度が2以下であることを特徴とする、プレス用薄鋼板。
(2)(1)に記載の鋼が、さらに、質量%にて、Ti=0.01〜0.1%、
を含み、さらにTi−48/12C−48/14N−48/32S≧0%
を満たす範囲でTiを含有し、ポリゴナルフェライトの体積率が90%以上かつフェライト平均粒径が50μm以上200μm以下でそのフェライト粒の展伸度が2以下であることを特徴とする、プレス用薄鋼板。
【0009】
(3)(1)ないし(2)のいずれか1項に記載の鋼が、さらに、質量%にて、
Nb=0.01〜0.1%、を含み、さらに
Ti+48/93Nb−48/12C−48/14N−48/32S≧0%、
を満たす範囲でTiとNbを含有し、ポリゴナルフェライトの体積率が90%以上かつフェライト平均粒径が50μm以上200μm以下でそのフェライト粒の展伸度が2以下であることを特徴とする、プレス用薄鋼板。
(4)(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の鋼が、さらに、質量%にて、
B =0.0002〜0.002%、を含有し、ポリゴナルフェライトの体積率が90%以上かつフェライト平均粒径が50μm以上200μm以下でそのフェライト粒の展伸度が2以下であることを特徴とする、プレス用薄鋼板。
【0010】
(5)(1)ないし(4)のいずれか1項に記載の鋼が、さらに、質量%にて、
Ca=0.0005〜0.002%、REM=0.0005〜0.02%、
の一種または二種を含有し、ポリゴナルフェライトの体積率が90%以上かつフェライト平均粒径が50μm以上200μm以下でそのフェライト粒の展伸度が2以下であることを特徴とする、プレス用薄鋼板。
(6)(1)ないし(5)のいずれか1項に記載の鋼が、さらに、質量%にて、Cu=0.2〜1.2%、Ni=0.1〜0.6%、Mo=0.05〜1%、V =0.02〜0.2%、Cr=0.01〜1%、Zr=0.02〜0.2%、の一種または二種以上を含有し、ポリゴナルフェライトの体積率が90%以上かつフェライト平均粒径が50μm以上200μm以下でそのフェライト粒の展伸度が2以下であることを特徴とする、プレス用薄鋼板。
【0011】
(7)(1)ないし(6)のいずれか1項に記載の薄鋼板に亜鉛めっきが施されていることを特徴とする、プレス用薄鋼板。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明に至った基礎研究結果について説明する。
破断伸びとフェライト平均粒径の関係を調査するために次のような実験を行った。すなわち、0.002%C−0.01%P−0.001%S−0.03%Alを基本としSi添加量を0.1〜2%の間で変化させそれに伴いMn添加量を引張強度が440MPa程度になるように調整し溶製した鋳片をいずれかの温度で熱間仕上圧延を終了して後、600℃で巻き取った素材を準備し、これらの鋼板について引張試験を行った。
【0016】
図1にSi添加量と熱間仕上圧延終了温度(FT)とAr3変態点温度との差(FT−Ar3)でフェライト平均粒径および展伸度で整理した結果を示す。さらに、得られた鋼板の破断伸びをフェライト平均粒径および展伸度で整理した結果を図2に示す。
これらの結果よりSi添加量および熱間仕上圧延終了温度(FT)とAr3変態点温度との差(FT−Ar3)とフェライト平均粒径には強い相関があり、熱間仕上圧延終了温度がAr3変態点温度+20℃以上でフェライト平均粒径が50μm以上となり、さらにこのフェライト粒径の範囲で破断伸びが著しく向上することが判明した。
このメカニズムは必ずしも明らかではないが、Ar3変態点温度が高いSi含有鋼では高温での熱間仕上圧延終了後にγ→α変態後のフェライト粒が粒成長することにより、転位の移動障壁の一つである粒界密度が減少し高い破断伸びが得られたと推測される。
【0017】
なお、フェライト平均粒径の測定法はJIS G 0552鋼のフェライト結晶粒度試験法に記載の切断法、または平均円相当径と仮定して画像処理装置等より得られる値を採用した。展伸度はJIS G 0552鋼のフェライト結晶粒度試験法に記載の測定方法に従った。また、ここでAr3変態点温度とは、例えば以下の計算式により鋼成分との関係で簡易的に示される。すなわち
Ar3=910−310×%C+25×%Si−80×%Mn
である。
次に本発明における鋼板のミクロ組織ついて詳細に説明する。
優れた破断伸びを得るためには、ポリゴナルフェライトの体積率が90%以上かつフェライト平均粒径が50μm以上200μm以下でそのフェライト粒の展伸度が2以下あることが必要である。優れた破断伸びを確保するためにフェライト単相が望ましい。ただし、必要に応じ一部ベイナイトを含むことを許容するものである。また、合計5%以下の不可避的なマルテンサイト、残留オーステナイトおよびパーライトを含むことを許容するものである。なお、ここで言うベイナイトとはベイニティックフェライトおよびアシュキュラーフェライト組織も含む。ただし、穴拡げ性を確保するためには、粗大な炭化物を含むパーライトの体積分率は5%未満が望ましい。
【0018】
一方、フェライト平均粒径が50μm未満では本発明の効果を得られず、200μm超では肌荒れが顕著になる傾向がある。従って、フェライト平均粒径は50μm以上200μm以下と限定する。二次加工性という観点からは150μm以下が望ましい。
ここで、フェライト、ベイナイト、残留オーステナイト、パーライト、マルテンサイトの体積分率とは鋼板板幅の1/4Wもしくは3/4W位置より切出した試料を圧延方向断面に研磨し、ナイタール試薬を用いてエッチングし、光学顕微鏡を用い200〜500倍の倍率で観察された板厚の1/4tにおけるミクロ組織の面積分率で定義される。
【0019】
続いて、本発明の化学成分の限定理由について説明する。
Cは、0.01%超含有していると加工性が劣化するので、0.01%以下とする。また0.0005%未満を達成するためには精錬コストの増大が著しいので0.0005%以上とする。
Siは、本発明において最も重要な元素の一つである。固溶強化元素として強度上昇に有効であるばかりでなく、鋼のAr3変態点温度を上昇させ、高温での熱間仕上圧延終了後にγ→α変態後のフェライト粒の粒成を長促進させることにより高い破断伸びを実現する。前記の効果を得るためには、0.6%以上含有する必要がある。しかし、1.8%超含有するとAr3変態点温度が高くなりすぎてγ域で圧延を終了することができなくなり塑性異方性を示すようになる。そこで、Siの含有量は0.6%以上、1.8%以下とする。
【0020】
Mnは、固溶強化元素として強度上昇に有効である。所望の強度を得るためには、0.1%以上必要である。また、Mn以外にSによる熱間割れの発生を抑制するTiなどの元素が十分に添加されない場合には質量%でMn/S≧20となるMn量を添加することが望ましい。一方、2%超添加すると強度上昇により加工性が劣化するため、2%以下とする。
【0021】
Pは、不純物であり低いほど望ましく、0.1%超含有すると加工性や溶接性に悪影響を及ぼすので、0.1%以下とする。
Sは、熱間圧延時の割れを引き起こすばかりでなく、多すぎると穴拡げ性を劣化させるA系介在物を生成するので極力低減させるべきであるが、0.03%以下ならば許容できる範囲である。
Alは、溶鋼脱酸のために0.005%以上添加する必要があるが、コストの上昇を招くため、その上限を1%とする。また、あまり多量に添加すると、非金属介在物を増大させ伸びを劣化させるので望ましくは0.5%以下とする。
Tiは、A系介在物を形成するSや侵入型固溶元素であるC、Nなどを析出物として固定し鋼の延性や時効性等を改善する効果があるので必要に応じて添加する。ただし、0.01%未満ではその効果を安定して得ることができないので0.01%以上添加する。一方、0.1%超添加すると溶融亜鉛めっきの密着性を悪くし、プレス成形時にパウダリングを起こすので、0.1%以下好ましくは0.05%以下がよい。また、Nを析出固定し二次加工性に有効なBを確保するためには、Ti−48/14N−48/32S≧0%で十分であるが、Cを析出固定し、延性に寄与するためにはTi−48/12C−48/14N−48/32S≧0%の条件を満たすことが必要である。ここで、SおよびNはCよりも比較的高温域でTiと析出物を形成するのでTi≧48/12Cを確保するためには必然的にTi−48/12C−48/14N−48/32S≧0%の条件を満たすことが必要である。
【0022】
Nbは、Tiと同様にCを析出物として固定し延性性や時効性を向上させるので必要に応じて添加する。ただし、0.01%未満ではその効果を安定して得るために不十分であり、0.1%超含有してもその効果が飽和するだけでなく合金コストの上昇を招く。従ってNbの含有量は0.01%以上、0.1%以下とする。さらに、Cを析出固定し、延性に寄与するためにはTi+48/93Nb−48/12C−48/14N−48/32S≧0%の条件を満たすことが必要である。ここでNbはTiよりも比較的低温で炭化物を形成するためTi+48/93Nb≧48/12Cを確保するためには必然的にTi+48/93Nb−48/12C−48/14N−48/32S≧0%の条件を満たすことが必要である。
Bは、固溶C量の減少が原因と考えられるPによる粒界脆化を抑制し二次加工割れを防止する効果があるので必要に応じ添加する。ただし、0.0002%未満ではその効果を得るために不十分であり、0.002%超添加するとスラブ割れが起こる。よって、Bの添加は、0.0002%以上、0.002%以下とする。
【0023】
CaおよびREMは、破壊の起点となったり、加工性を劣化させる非金属介在物の形態を変化させて無害化する元素である。ただし、0.0005%未満添加してもその効果がなく、Caならば0.002%超、REMならば0.02%超添加してもその効果が飽和するのでCa=0.0005〜0.002%、REM=0.0005〜0.02%添加することが望ましい。
さらに、強度を付与するために、Cu、Ni、Mo、V、Cr、Zrの析出強化もしくは固溶強化元素の一種または二種以上を添加してもよい。ただし、それぞれ、0.2%、0.1%、0.05%、0.02%、0.01%、0.02%未満ではその効果を得ることができない。また、それぞれ、1.2%、0.6%、1%、0.2%、1%、0.2%を超え添加してもその効果は飽和する。
なお、これらを主成分とする鋼にSn、Co、Zn、W、Mgを合計で1%以下含有しても構わない。しかしながらSnは熱間圧延時に疵が発生する恐れがあるので0.05%以下が望ましい。
【0024】
また、Nについては、本発明の効果を得るために特に限定する必要はないが、C同様に侵入型固溶元素であり延性や時効性を劣化させる元素であり、Cよりも高温にてTiおよびNbと析出物を形成し、Cを固定するのに有効なTiおよびNbを減少させる。従って極力低減させるべきであるが、0.005%以下ならば許容できる範囲なので0.005%以下が望ましい。
次に、本発明の製造方法の限定理由について、以下に詳細に述べる。
本発明は、鋳造後、熱間圧延後冷却ままもしくは熱間圧延後、熱間圧延後冷却・酸洗し冷延した後に熱処理、あるいは熱延鋼板もしくは冷延鋼板を溶融めっきラインにて熱処理を施したまま、更にはこれらの鋼板に別途表面処理を施すことによっても得られる。
【0025】
本発明において熱間圧延に先行する製造方法は特に限定するものではない。すなわち、高炉や電炉等による溶製に引き続き各種の2次製錬で目的の成分含有量になるように成分調整を行い、次いで通常の連続鋳造、インゴット法による鋳造の他、薄スラブ鋳造などの方法で鋳造すればよい。原料にはスクラップを使用しても構わない。連続鋳造よって得たスラブの場合には高温鋳片のまま熱間圧延機に直送してもよいし、室温まで冷却後に加熱炉にて再加熱した後に熱間圧延してもよい。
スラブ再加熱温度については特に制限はないが、1400℃以上であると、スケールオフ量が多量になり歩留まりが低下するので、再加熱温度は1400℃未満が望ましい。また、1000℃未満の加熱ではスケジュール上操業効率を著しく損なうため、スラブ再加熱温度は1000℃以上が望ましい。さらには、1100℃未満の加熱ではスケールオフ量が少なくスラブ表層の介在物をスケールと共に後のデスケーリングによって除去できなくなる可能性が、スラブ再加熱温度は1100℃以上が望ましい。
【0026】
熱間圧延工程は、粗圧延を終了後、仕上げ圧延を行うが、仕上げ圧延終了温度(FT)をAr3変態点温度+20℃以上とするためには少なくとも仕上げ圧延噛込み温度がAr3変態点温度+150℃以上であることが望ましい。ただし、粗圧延終了から仕上圧延開始までの間または/および仕上げ圧延中に粗バーまたは圧延材を加熱する場合は、この限りではなく仕上げ圧延噛込み温度がAr3変態点温度+100℃以上であるように加熱すればよい。さらに望ましくはAr3変態点温度+150℃以上である。
粗圧延終了から仕上圧延開始までの間または/および仕上げ圧延中での粗バーまたは圧延材の加熱は必要に応じて行う。特に本発明のうちでも優れた破断延びを安定して得るためにはMnS等の微細析出を抑制することが有効である。通常、MnS等の析出物は1250℃程度のスラブ再加熱で再固溶が起こり、後の熱間圧延中に微細析出する。従って、スラブ再加熱温度を1150℃程度に制御しMnS等の再固溶を抑制できれば延性を改善できる。ただし、圧延終了温度を本発明の範囲にするためには粗圧延終了から仕上圧延開始までの間または/および仕上げ圧延中での粗バーまたは圧延材の加熱が有効な手段となる。
粗圧延終了と仕上げ圧延開始の間にデスケーリングを行う場合は、鋼板表面での高圧水の衝突圧P(MPa)×流量L(リットル/cm2)≧0.0025の条件を満たすことが望ましい。
【0027】
鋼板表面での高圧水の衝突圧Pは以下のように記述される。(「鉄と鋼」1991 vol.77 No.9 p1450参照)
P(MPa)=5.64×P0×V/H2
ただし、
P0(MPa):液圧力
V(リットル/min):ノズル流液量
H(cm):鋼板表面とノズル間の距離
流量Lは以下のように記述される。
L(リットル/cm2)=V/(W×v)
ただし、
V(リットル/min):ノズル流液量
W(cm):ノズル当たり噴射液が鋼板表面に当たっている幅
v(cm/min):通板速度
衝突圧P×流量Lの上限は本発明の効果を得るためには特に定める必要はないが、ノズル流液量を増加させるとノズルの摩耗が激しくなる等の不都合が生じるため、0.02以下とすることが望ましい。
【0028】
さらに、仕上げ圧延後の鋼板の最大高さRyが15μm(15μmRy,l2.5mm,ln12.5mm)以下であることが望ましい。これは、例えば金属材料疲労設計便覧、日本材料学会編、84ページに記載されている通り熱延または酸洗ままの鋼板の疲労強度は鋼板表面の最大高さRyと相関があることから明らかである。また、その後の仕上げ圧延はデスケーリング後に再びスケールが生成してしまうのを防ぐために5秒以内に行うのが望ましい。
【0029】
また、粗圧延と仕上げ圧延の間にシートバーを接合し、連続的に仕上げ圧延をしてもよい。その際に粗バーを一旦コイル状に巻き、必要に応じて保温機能を有するカバーに格納し、再度巻き戻してから接合を行ってもよい。
仕上げ圧延は、熱延鋼板として最終製品にする場合においては、その仕上げ圧延後半にAr3変態点温度+100℃以下の温度域で合計圧下率25%以上の圧延を行う。ここでAr3変態点温度とは、例えば以下の計算式により鋼成分との関係で簡易的に示される。すなわち
Ar3=910−310×%C+25×%Si−80×%Mn
Ar3変態点温度+100℃以下の温度域での合計圧下率25%未満であると圧延されたオーステナイトの再結晶核の核生成が十分に起こらずオーステナイト粒の微細化が不十分となり仕上げ圧延終了後のフェライトの析出が促進されず、本発明が規定するミクロ組織が安定して得られない。より安定して本発明が規定するミクロ組織を得るためにはAr3変態点温度+100℃以下の温度域での合計圧下率を35%以上とすることが望ましい。
【0030】
仕上げ圧延終了温度(FT)はAr3変態点温度+20℃未満であるとα+γの二相域圧延となる可能性があり圧延後のフェライト粒に加工組織が残留し延性が劣化する恐れがあるのでAr3変態点温度+20℃以上とする。
本発明において巻取温度(CT)は600℃以上とする。600℃未満では、巻取後にフェライト粒の粒成長が進行せず本発明の効果を得られない恐れがある。従って、巻取温度(CT)は600℃以上と限定する。
熱間圧延工程終了後は必要に応じて酸洗し、その後インラインまたはオフラインで圧下率10%以下のスキンパスまたは圧下率40%程度までの冷間圧延を施しても構わない。
次に、冷延鋼板として最終製品にする場合であるが、熱間での仕上げ圧延条件は特に限定しない。仕上げ圧延終了温度(FT)はAr3変態点温度未満としても差し支えないが、その場合は、圧延前もしくは圧延中に析出したフェライトに強い加工組織が残留するため、続く巻取処理または加熱処理により回復、再結晶させることが望ましい。ただし、より良好な延性を得るためには、仕上げ圧延終了温度(FT)はAr3変態点温度+20℃以上であることが望ましい。
【0031】
続く酸洗後に冷間圧延された鋼板の熱処理は連続焼鈍工程を前提としている。まず、熱処理は回復温度以上Ac3変態点温度以下の温度域で行う。この熱処理温度(ST)が回復温度未満の場合には加工組織が残留し延性を著しく劣化させるので、熱処理温度(ST)は回復温度以上とする。さらに良好な延性を得るためには、再結晶温度以上が望ましい。また、熱処理温度(ST)がAc3変態点温度超では、再結晶によって生成したフェライトがオーステナイトへ変態し、冷却時にフェライトに変態するためにフェライト粒が微細化され、本発明の効果が得られない。さらにはAc1変態点温度以下では変態が起こらず再結晶したフェライトが粒成長するのでAc1変態点温度以下が望ましい。ここでAc3変態点、Ac1変態点温度とは、例えばレスリー鉄鋼材科学(1985年発行、熊井浩 野田龍彦訳、丸善株式会社)273頁に記載の計算式により鋼成分との関係で示される。回復温度以上Ac3変態点温度以下の温度域での保持時間は特に限定しないが、5秒未満では、回復または再結晶が十分に完了しない恐れがあるので5秒以上が望ましい。一方、150秒超の熱処理を行ってもその効果が飽和するばかりでなく生産性を低下させるので、保持時間は5〜150秒間が望ましい。
その後の冷却条件については特に限定しないが、通常の連続焼鈍操業条件に準ずる冷却速度で本発明の効果が得られる。
【0032】
さらにその後、必要に応じてスキンパス圧延を実施する。
酸洗後の熱延鋼板、もしくは上記の再結晶熱処理終了後の冷延鋼板に亜鉛めっきを施すためには、亜鉛めっき浴中に浸積し、必要に応じて合金化処理してもよい。
【0033】
【実施例】
以下に、実施例により本発明をさらに説明する。
表1に示す化学成分を有するA〜Gの鋼は、転炉にて溶製して、連続鋳造後、表2に示す加熱温度で再加熱し、粗圧延に続く仕上げ圧延で1.2〜5.5mmの板厚にした後に巻き取った。ただし、表中の化学組成についての表示は質量%である。また、鋼Bについては粗圧延後に衝突圧2.7MPa、流量0.001リットル/cm2の条件でデスケーリングを施した。さらに、表2に示すように鋼Eの一部については熱間圧延工程後、酸洗、冷延、熱処理を行った。板厚は0.7〜2.3mmである。一方、上記鋼板のうち鋼E−2および鋼Gについては、亜鉛めっきを施した。
【0034】
【表1】
【0035】
製造条件の詳細を表2に示す。ここで、「SRT」はスラブ加熱温度、「FT」は仕上げ圧延温度を示す。ただし、後に冷延工程にて圧延を行う場合はこのような制限の限りではないので「―」とした。また、「粗バー加熱」は粗圧延終了から仕上圧延開始までの間または/および仕上げ圧延中に粗バーまたは圧延材を加熱の有無を示した。さらに「CT」とは巻取温度を示している。ただし、冷延鋼板の場合は製造の条件として特に限定する必要がないので「―」とした。次に、「ST」とは、熱処理温度(焼鈍)、「Time」は熱処理時間である。
このようにして得られた薄鋼板の引張試験は、供試材を、まず、JIS Z 2201記載の5号試験片に加工し、JIS Z 2241記載の試験方法に従って行った。表2に降伏強度(YP)、引張強度(TS)、破断伸び(El)を示す。ここで、フェライトの体積分率とは鋼板板幅の1/4Wもしくは3/4W位置より切出した試料を圧延方向断面に研磨、エッチングし、光学顕微鏡を用い200〜500倍の倍率で観察された板厚の1/4tにおけるミクロ組織の面積分率で定義される。
【0036】
【表2】
【0037】
本発明に沿うものは、鋼A−1、A−4、B、C、E−1、E−2、Gの7鋼であり、所定の量の鋼成分を含有し、ポリゴナルフェライトの体積率が90%以上かつフェライト平均粒径が50μm以上200μm以下でそのフェライト粒の展伸度が2以下あることを特徴とする、プレス用薄鋼板が得られており、従って、本発明記載の方法によって評価した従来鋼の伸びまたは強度−延性バランスを上回っている。
【0038】
上記以外の鋼は、以下の理由によって本発明の範囲外である。すなわち、鋼A-2は、巻取温度(CT)が本発明請求項8の範囲外であるので、請求項1記載の目的とするミクロ組織が得られず十分な強度−延性バランスが得られていない。鋼A-3、鋼A-5は、それぞれ仕上げ圧延終了温度(FT)が本発明請求項9の範囲外であるので、請求項1記載の目的とするミクロ組織が得られず十分な強度−延性バランスが得られていない。鋼Dは、Siの含有量が本発明請求項1の範囲外であるので請求項1記載の目的とするミクロ組織が得られず十分な強度−延性バランスが得られていない。鋼E-3と鋼E−4は、それぞれ熱処理温度(ST)が本発明請求項11の範囲外であるので請求項1記載の目的とするミクロ組織が得られず十分な強度−延性バランスが得られていない。鋼E−5は、熱処理時間(Time)が短いので請求項1記載の目的とするミクロ組織が得られず十分な強度−延性バランスが得られていない。鋼Fは、Siの含有量が本発明請求項1の範囲外であるので請求項1記載の目的とするミクロ組織が得られず十分な強度−延性バランスが得られていない。
【0039】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明は、プレス用薄鋼板およびその製造方法に関するものであり、これらの鋼板を用いることにより安価かつ安定的に380〜540MPa級の引張強度であっても軟鋼板並みのプレス成形性を得ることができるため、本発明は、工業的価値が高い発明であると言える。
【図面の簡単な説明】
【図1】平均フェライト粒径および展伸度をSi添加量と製造条件の関係で示す図である。
【図2】平均フェライト粒径および展伸度と破断伸びの関係を示す図である。
Claims (7)
- 質量%にて、
C =0.0005〜0.01%、
Si=0.6〜1.8%、
Mn=0.1〜2%、
P ≦0.1%、
S ≦0.03%、
Al=0.005〜1%、を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼であって、ポリゴナルフェライトの体積率が90%以上かつフェライト平均粒径が50μm以上200μm以下でそのフェライト粒の展伸度が2以下であることを特徴とする、プレス用薄鋼板。 - 請求項1に記載の鋼が、さらに、質量%にて、
Ti=0.01〜0.1%、を含み、さらに
Ti−48/12C−48/14N−48/32S≧0%を満たす範囲でTiを含有し、ポリゴナルフェライトの体積率が90%以上かつフェライト平均粒径が50μm以上200μm以下でそのフェライト粒の展伸度が2以下であることを特徴とする、プレス用薄鋼板。 - 請求項1ないし請求項2のいずれか1項に記載の鋼が、さらに、質量%にて、
Nb=0.01〜0.1%、を含み、さらに
Ti+48/93Nb−48/12C−48/14N−48/32S≧0%、を満たす範囲でTiとNbを含有し、ポリゴナルフェライトの体積率が90%以上かつフェライト平均粒径が50μm以上200μm以下でそのフェライト粒の展伸度が2以下であることを特徴とする、プレス用薄鋼板。 - 請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の鋼が、さらに、質量%にて、
B =0.0002〜0.002%、を含有し、ポリゴナルフェライトの体積率が90%以上かつフェライト平均粒径が50μm以上200μm以下でそのフェライト粒の展伸度が2以下であることを特徴とする、プレス用薄鋼板。 - 請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の鋼が、さらに、質量%にて、
Ca=0.0005〜0.002%、
REM=0.0005〜0.02%、の一種または二種を含有し、ポリゴナルフェライトの体積率が90%以上かつフェライト平均粒径が50μm以上200μm以下でそのフェライト粒の展伸度が2以下であることを特徴とする、プレス用薄鋼板。 - 請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の鋼が、さらに、質量%にて、
Cu=0.2〜1.2%、
Ni=0.1〜0.6%、
Mo=0.05〜1%、
V =0.02〜0.2%、
Cr=0.01〜1%、
Zr=0.02〜0.2%、の一種または二種以上を含有し、ポリゴナルフェライトの体積率が90%以上かつフェライト平均粒径が50μm以上200μm以下でそのフェライト粒の展伸度が2以下であることを特徴とする、プレス用薄鋼板。 - 請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の薄鋼板に亜鉛めっきが施されていることを特徴とする、プレス用薄鋼板。
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