JP3920641B2 - タンパク質−後期糖化反応生成物(タンパク質−age)形成の調節因子を同定する方法 - Google Patents

タンパク質−後期糖化反応生成物(タンパク質−age)形成の調節因子を同定する方法 Download PDF

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Description

【0001】
(政府助成金に関する陳述)
本発明の基礎をなす研究の一部はNIH 助成金CA43894 およびNS538496による支援を受けた。
【0002】
(関連出願)
本願は参照により本明細書に組み込まれる仮出願第60/197,829号(2000年4 月14日出願)の優先権を主張する。
【0003】
(発明の分野)
本発明はタンパク質- 後期糖化反応生成物(以下「タンパク質-AGE」という)形成の阻害剤を同定する方法に関する。この方法論は、タンパク質-AGE形成が関係する病的状態、例えば糖尿病、アテローム性動脈硬化、アルツハイマー病などの慢性神経変性疾患、皮膚光老化、および老化過程に特有な他の変性疾患に影響を与える上で興味深い物質を決定するのに役立つ。
【0004】
(背景および従来技術)
本明細書にいうグリケーションとは、還元糖および他の反応性カルボニル種によるタンパク質の非酵素的翻訳後修飾であり、これはタンパク質の機能に有害な影響を及ぼす。組織の劣化および老化は、グリケーションならびに酸化ストレスおよびUV照射が誘発する化学過程による損傷の蓄積と広く関連づけられている。糖化反応生成物およびグリケーションによって生じるAGE 生成物の長寿命タンパク質への蓄積は、長期糖尿病合併症(Thorpeら,Drugs Aging 9:69-77(1996))、アテローム性動脈硬化(Rudermanら,FASEB J 6:2905-2914(1993);正誤表FASEB J 7(1):237(1993))、アルツハイマー病(Vitek ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:4766-4770(1994))、皮膚光老化(Mizutaniら,J.Invest.Dermatol 797-802(1997))および老化過程の病理全般(Fryeら,J.Biol.Chem 273:18714-18719(1998))を含む多くの加齢性疾患に関連づけられている。高血糖症による長期糖尿病合併症は最終的には末期腎疾患などの重篤で命にかかわる病変を引き起す(Baynesら,Diabetes 40:405-412(1991))。不可逆性の微小血管合併症および大血管合併症、例えば網膜症、ニューロパシー、ネフロパシー、アテローム性動脈硬化および脳血管疾患などは全て、機構論的に、結合組織、特にコラーゲンおよびマトリックスタンパク質成分でのタンパク質-AGEの形成に関連づけられている。さらに、正常な老化過程には、もっと遅い速度で起こる同様の事象が、同じように関係しているようである(Thorpeら、前掲)。
【0005】
グリケーションと、それに続いて起こるタンパク質-AGE形成は、細胞のカルボニルストレスおよびグルコース毒性に中心的な役割を果たしている。グリケーション阻害剤であるアミノグアニジンを投与すると、実験的糖尿病を持つ齧歯類における続発性合併症が効果的に抑制される(Edelstein ら,Diabetologica 35:96-97(1992) )。しかしアミノグアニジンは、カタラーゼ(Ouら,Biochem Pharmacol 46:1139-1144(1993) )および誘導性一酸化窒素シンターゼ(Okuda ら,J.Neuroimmunol 81:201-210(1998))の強力な阻害剤であるため、長期投与すると全身毒性を示すヒドラジン誘導体である。アミノグアニジンは、その毒性プロファイルゆえに臨床使用されることはまずないだろう。したがって、グリケーションおよびグリケーションに関係する病理学的帰結を効果的に阻害する新しい化合物の同定および特徴づけが、臨床上すぐにも必要とされている。大きなコンビナトリアル化合物ライブラリーに適用することができる高スループットスクリーニングアッセイがあれば、おそらく新しいグリケーション阻害剤が同定されるだろう。
【0006】
反応性酸素種(「ROS 」)および反応性カルボニル種(「RCS 」)、特にジカルボニル化合物は、酸化ストレス、グリケーションおよびUV照射によって起こる細胞損傷の重要な媒介因子である。グリケーション、脂質過酸化、糖自動酸化および代謝の結果として発生する細胞のカルボニルストレスの起源は、例えば図1 に見ることができる。酸素依存的経路および酸素非依存的経路は、AGE 形成によってタンパク質損傷が蓄積する際の重要な中間体として、メチルグリオキサールおよびグリオキサールなどの2-ジカルボニルを含む種々の反応性カルボニル種の形成をもたらす。カルボニルストレスは、メチルグリオキサールの代謝生成によっても起こる。簡単に述べると、初期糖化反応生成物は、還元糖がタンパク質アミノ基(リジンおよびアルギニン)と反応してアルジミン(シッフ塩基付加物)を生成し、これがアマドリ転位を起こしてケトアミン付加物を形成することによって誘導される(Hodge ら,J.Am.Chem.Soc.75:316-322(1953) )。タンパク質-AGEは初期糖化反応生成物から酸化的経路によっても非酸化的経路によっても生成し、その中間体としては、グリオキサール、メチルグリオキサールおよび3-デオキシオソンなど、種々の反応性ジカルボニル化合物が提案されている(Thornalleyら,Biochem J.344:109-116(1999))。
【0007】
タンパク質-AGEには、タンパク質 Nε-(カルボキシメチル) リジン残基(CML )(Ahmed ら,J.Biol.Chem 261:4889-4894(1986))および強い蛍光とタンパク質- タンパク質架橋を引き起す能力とを特徴とするペントシジンなどの複雑な修飾の不均一な群(Sellら,J.Biol.Chem 264:21597-21602(1989))が含まれる。AGE 特異的蛍光(励起波長370nm 、蛍光波長440nm )の蓄積は総タンパク質損傷の一般的尺度であり、試験管内および生体内でのグリケーション研究に広く用いられているツールである。反応性ジカルボニル化合物はグリケーションを必要とせずに糖自体の自動酸化によって形成される場合もあり、微量の遷移金属イオン(Fe、Cu)の存在がジカルボニル化合物および過酸化水素などの反応性酸素種の形成に関連づけられている(Elgawishら,J.Biol.Chem 271:12964-12971(1996))。リジンおよびアルギニン以外のアミノ酸もグリコキシデーション(glycoxidation )によって修飾される。例えば、タンパク質の表面に露出したメチオニン残基は、タンパク質酸化に対する感受性が極めて高い(Hallら,Biochem.Biophys.Acta 1121:325-330(1992))。
グルコースはその存在量が多いため、生体内の細胞外タンパク質におけるグリケーションおよびタンパク質-AGE形成の主原因であると思われている。しかしグルコースは弱いグリケーション剤でしかなく、生理的条件下でタンパク質と化学反応を起こすには何ヶ月も、何年もかかる(Higgins ら,J.Biol.Chem 256:5204-5208(1981))。グルコースとは対照的に、グルコースより反応性の高いペントースが、細胞内タンパク質のグリコキシデーションに、糖源として関係づけられている。なぜなら、これらはペントシジンなどの蛍光性AGE の形成に関して、はるかに効率のよい前駆体だからである(Sellら、前掲)。細胞に豊富に存在するペントースはADP-リボースであり、これはNAD から複数の代謝経路によって生成する(Cervantes-Laurean ら,Biochemistry 32:1528-1534(1993);Jacobsonら,Mol.Cell Biochem.138:207-212(1994) )。初期の研究ではADP-リボース(ADPR)の核内生成を伴う経路に焦点が合わせられた。細胞核はADP-リボースによる生体内でのグリケーションの部位であるらしいことが、研究によって証明されている。DNA 鎖切断を引き起す酸化ストレスおよび他の条件は、ADP-リボースの核ポリマーの合成を刺激する。ADP-リボースの核ポリマーは迅速に代謝回転して、リジン残基およびアルギニン残基に富む長寿命ヒストンのごく近傍でADP-リボースを生成する(Cervantes-Laurean ら、前掲)。
【0008】
上に挙げた事項の他にも、組織の劣化および老化は酸化ストレス、グリケーションおよびUV照射が誘発する化学過程による損傷の蓄積に広く関係づけられている(Halliwell ら「生化学および医学におけるフリーラジカル(Free Radicals in Biology and Medicine )」Clarendon Press (1989)オックスフォード;Berlett ら,J.Biol Chem 272:20313-20316(1997))。これらはすべて反応性酸素種(「ROS 」)および反応性カルボニル種(「RCS 」)(Andersonら,J.Chem.Invest.104:103-113 (1999) )の強力な誘導因子であり、ROS およびRCS は、全般的老化およびいくつかの病的状態、例えば慢性炎症性疾患(Dimon-Gadal ら,J.Invest.Dermatol 114:984-989(2000))、乾癬および糖尿病などで起こる累積的なタンパク質損傷の重要な中間体である(Brownleeら,Ann.Rev.Med 46:223-234(1995) ;Brinkmann ら,J.Biol Chem 273:18714-18719(1998))。細胞のカルボニルストレスの反応性中間体としてのRCS は、例えばグリケーション(Thornalleyら,BioChem J 344:109-116(1999)、糖自動酸化(Wolffiら,Prog.Clin.Biol.Res 304:259-75(1989))、脂質過酸化(Fuら,J.Biol Chem 271:9982-64996 )およびUV光損傷(Mizutaniら,J.Invest.Dermatol 108:797-802(1997))などの機構的に関係した多数の経路から生じる。還元糖と長寿命タンパク質との自発的アミノ- カルボニル反応であるグリケーションは、細胞のカルボニルストレスを引き起すRCS の主な産生源である。グリオキサール、メチルグリオキサールおよび3-デオキシオソンなどの反応性α- ジカルボニル中間体は、酸化的(糖化酸化的)グリケーション反応経路によっても、非酸化的グリケーション反応経路によっても生成する。この複雑な反応経路はシッフ塩基の可逆的な形成によって開始される。シッフ塩基は初期糖化反応中にアマドリ転位を起こして比較的安定なケトアミン生成物を形成する。糖の断片化および重要な反応性中間体としてのα−ジカルボニル化合物の形成を含む一連の後続反応により、安定なタンパク質結合型後期糖化反応生成物(AGE )が生成する(Thornalleyら、前掲;Glomb ら,J.Biol.Chem 270:10017-10026(1995);Wondrak ら,Free Radical Biol.Med.29:557-567(2000) ;Landerら,J.Biol Chem 272:17810-14(1997) )。興味深いことに、RCS およびAGE は、ROS 産生を増加させ、よってROS およびRCS 産生の悪循環を形成することにより、その有害な細胞作用を発揮することができる。AGE 形成はAGE 特異的な蛍光(λex=370nm 、λem=440nm )およびタンパク質架橋の蓄積を伴うが、これらは組織における総合的タンパク質損傷の尺度である(Brownleeら、前掲)。老化したヒト水晶体クリスタリンおよび皮膚コラーゲンでは、アルギニン由来のイミダゾリウムAGE 生成物(Westwoodら,J.Protein Chem 14:359-72(1995) )、グリオキサール- リジン二量体(GOLD)およびメチルグリオキサール- リジン二量体(MOLD)(Brinkmann ら,J.Biol.Chem.273:18714-18719(1998 ))が同定されていることから、α- ジカルボニルストレスは組織の老化に関係づけられる。また、後期反応生成物 Nε- カルボキシメチル-L- リジン(CML )の直接の前駆体であるグリオキサールなどのRCS は、細胞の膜内の多価不飽和脂肪酸がフリーラジカル損傷を受けることによって生成する(Fuら、前掲)。光線性弾性線維症の太陽光線曝露損傷部でのCML の蓄積によって証明されるように、UV照射は組織のカルボニルストレスのもう一つの原因である(Mizutaniら、前掲)。したがってCML およびGOLDなどのAGE 生成物は組織カルボニルストレスの生物マーカーであるとみなすことができる。
【0009】
メチルグリオキサールは、重要なグリケーション中間体(Thornalleyら、前掲)である。メチルグリオキサールはグリコールトリオースリン酸中間体の非酵素的および酵素的分解によって、またスレオニンの異化によって、生物学的代謝産物としても生成する(Thornalleyら,Gen.Pharmac.27:565-573(1996) )。糖尿病患者の血液(Beisswenger ら,Diabetes 48:198-202(1999))およびストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットの水晶体には、メチルグリオキサールレベルの増加が認められる。高血糖条件下で培養した内皮細胞におけるAGE の形成に関する最近の研究は、メチルグリオキサールがAGE の主な前駆体であることを示している(Shinohara ら,J.Clin.Invest. 101:1142-7(1998 ))。ヒト組織には、大動脈のアテローム硬化性病巣における蛍光性5-メチルイミダゾロン誘導体(Uchidaら,FEBS Lett.410:313-318(1997))ならびに老化した皮膚コラーゲンにおけるMOLDおよび Nε- カルボキシメチル-L- リジン(Brinkmann ら、前掲)など、メチルグリオキサール由来の様々なAGE が同定されている。最近、PC12細胞(Suzukiら,J.Biochem(Tokyo) 123:353-7(1998) )および培養皮質ニューロン(Kikuchi ら,J.Neurosci.Res.57:280-289(1999))などのニューロン細胞に対するグリケーション中間体メチルグリオキサールおよび3-デオキシグルコソンの細胞毒作用がかなり注目を集めている。なぜなら、これらの中間体は、アルツハイマー病(Vitek ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.91:4766-70(1994))および筋萎縮性側索硬化症(Shinpoら,Brain Res 861:151-9(2000))などの神経変性疾患の病因への関与が疑われているからである。
【0010】
酸化およびカルボニルストレスのもう1 つの結果として、カルボニル化によるタンパク質損傷は、老化ならびに早老性疾患である早老症およびウェルナー症候群などの多くの疾患と関連づけられている(Berlett ら,J.Biol.Chem.272:20313-20316 (1997) )。ヒト皮膚線維芽細胞タンパク質におけるカルボニル基の量は提供者の年齢と強い相関関係を示す(Oliverら,J.Biol.Chem.262:5488-5491(1987))。核の酸化および糖化酸化ストレスの指標として生体内ヒストンH1カルボニル化レベルの上昇が報告されている(Wondrak ら,Biochem J 351:769-777(2000))。
【0011】
求核性カルボニル補集剤グルタチオンのような細胞カルボニルストレスの生物学的阻害剤は、治療に役立つ可能性が高い割には、極めてわずかな数しか同定されていない。しかし一部のグリケーション阻害剤はα- ジカルボニル中間体を捕獲することによってグリケーション反応を妨害する。これに対して他の阻害物質は、単に抗酸化剤および遷移金属キレート剤として作用するに過ぎず、その作用によって後期糖化酸化反応を阻害するものの、グリケーションを阻害するわけではない(Elgwash ら,J.Biochem.271:12964-71(1996) )。第1のグリケーション阻害剤群の一つで、ヒドラジン誘導体でありカルボニル試薬であるアミノグアニジンの全身投与は、実験的糖尿病を持つ糖尿病齧歯類における続発性合併症を効果的に抑制し、皮膚コラーゲンの架橋を阻害する(Edelstein ら,Diabetes 41:26-9(1992) ;Fuら,Diabetes 43:676-683(1994))。最近、求核性二座化合物フェニルアシルチアゾリウムブロミドはメチルグリオキサール毒性から大腸菌を保護することが示されている(Fergusonら,Chem.Res.Tox 12:617-622(1999))。カルボニル捕獲剤として作用する他の求核性化合物、例えばテニルセタム(tenilsetam)(Shoda ら,Endocrinol 138:1886-92(1997) )、ピリドキサミン(Onorato ら,J.Biol.Chem.275:21177-21184(2000))およびメトホルミン(Ruggerio-Lopezら,Biochem)などは、続発性糖尿病合併症の予防に関して、現在評価が行われているところである。
【0012】
潜在的α- ジカルボニル捕捉剤の試験管内スクリーニングは、AGE 蛍光によってまたはCML のような特定AGE の免疫学的定量によって評価される酸素依存的なAGE 形成の抑制を測定するという、現在使用されているほとんどの糖化酸化反応系の性質上、複雑になっている(Elgawishら、前掲;Shoda ら、前掲;Ruggiero-Lopezら、前掲)。その結果、これらのグリコキシデーション系では、抗酸化活性および金属キレート活性を持つ化合物によって、AGE 形成が効果的に阻害される。最近、AGE 蛍光およびタンパク質架橋の形成を伴うペントースによる酸素非依存的な後期糖化反応が実証されており、機構論的に反応性α- ジカルボニル中間体としてのデオキシペントソン類の非酸化的形成に関連づけられている(Litchfieldら,Int.J.Biochem Cell Biol 31:1297-1305(1999) )。
【0013】
上記のことから、グリケーションおよびグリケーションに関係する病理学的帰結を効果的に阻害する化合物の同定および特徴づけがすぐにも必要とされていることがわかる。そのようなアッセイは、例えば適切な化合物を同定するために大きなコンビナトリアルライブラリーを解析する際などに役立つだろう。このようなアッセイは上記仮出願に記載されており、本明細書にも記載する。参照により本明細書に組み込まれるWondrak ら,Biochem J.351:769-777(2000)も参照されたい。カルボニル捕捉剤として作用するグリケーション阻害剤を同定するための高スループットスクリーニング法を開発するために、ここに記載する研究をさらに行った。これらの開発に先だって、研究目的でグリケーション阻害剤を同定するために、いくつかのアッセイ法が開発されている(Khalifahら,Biochem Biophys Res Commun 257:251-258(1999) ;Rahbarら,Clin.Chem.Acta 287:123-130(1999) ;Ruggiero-Lopezら,Biochem.Pharmacol 58:1765-1773(1999) )。測定されるパラメーターは通常、AGE 特異的蛍光、タンパク質架橋およびタンパク質-AGEの免疫学的決定である。ほとんどのグリケーションアッセイは、グリケーション剤としてグルコースまたはペントースを使用するので、反応が遅くなり、結果を得るのに数週間を要する。これらのアッセイは通例、反応速度を上昇させるために、非生理的な糖濃度またはリン酸緩衝液を使用する。AGE 形成の検出レベルによって測定される感度は低く、信号対雑音比が低いためアッセイの精度も制限される。もっとも高感度なアッセイはELISA によるAGE 形成の免疫学的評価によるものである。これらのアッセイで使用されるAGE に対する抗体は極めて高価であるか、または市販されていない。したがって、タンパク質グリケーション阻害剤、例えば非酸化的タンパク質グリケーションの阻害剤を同定するために、安価で迅速で実行が容易なアッセイを利用できるようになることが、極めて望ましい。また、機構論的に抗酸化剤は同定しないがカルボニル捕捉剤のような物質は同定するアッセイを利用できるようになることも望ましい。以下の説明からわかるように、本発明者らはこのようなアッセイを開発した。
【0014】
(好ましい態様の詳細な説明)
ADP-リボースとヒストンH1は迅速かつ強力なグリケーション反応を起こすことがわかっている。この反応は本明細書に記載する発明の重要な特徴である。ADP-リボースによるグリケーション反応の化学はユニークである。これらは、図3 に示すように、詳細に解明されている。さらにこの反応は、生理的条件をまねた条件下で十分に速く進行するので(50mMリン酸緩衝液、pH7.4 ;図4 参照)、後述するようにこのアッセイは、興味ある化合物のスクリーニングに役立つアッセイとみなすことができる。ケトアミンおよび他の類似するAGE 生成物はADP-リボースでもグルコースでも形成されるが、ADP-リボースによる生成物の形成速度はグルコースによる形成よりも少なくとも1000倍は速い(Cervantes-Laurean ら,J.Biol.Chem.271:10461-10469(1996))。ADP-リボースが関与する反応は極めて速いが、これは本発明にとって重要である。ADP-リボースおよびヒストンH1が関与する反応経路は他の糖類によって開始される反応経路に似ているが、他の糖類によって開始される反応経路よりもはるかに速いことから、ADP-リボースとヒストンH1との迅速な反応の阻害剤は一般にグリケーション反応を阻害するはずであることが示唆される。例えば、グルコース、リボース、ADP-グルコースおよびADP-リボースとヒストンH1との反応を比較した一組の実験では、ADP-リボースから生成する蛍光性AGE の量は他の全てをはるかに上回った。上述の条件で行ったこのようなアッセイを表す図5 を参照されたい。同様に、ヒストンH1は優れたグリケーション標的である。図6 は、グリケーション標的としてヒストンH1とウシ血清アルブミンとを比較した実験の結果を示す。グリケーション剤としてのADP-リボースの効力はわかっている。塩基性でリジンおよびアルギニンに富むヒストンH1は優れた基質である。したがって弱アルカリ性条件(すなわち約pH9.0 )では、ADP-リボースとヒストンH1の間のインビトロ反応が数分以内に進行し、よってAGE 蛍光が生じ(Jacobsonら「グリケーション反応およびグリコキシデーション反応におけるADP-リボース」Koch-Nolte編「ADP-Ribosylation In Animal Tissues」Plenum Press(1997)の371 〜379 頁)、タンパク質架橋が起こることが観察されている。
【0015】
あるアッセイがグリケーションを阻害および/ または増進する化合物のスクリーニングに有効であるとするには、考慮している過程に対する効果がわかっている薬剤を使って、そのアッセイを検証すべきである。図7 は、既知のグリケーション阻害剤アミノグアニジンを、やはり上記の生理的レベルで試験した時に、その阻害作用が極めて迅速に検出されたことを示すデータである。したがって本明細書に記載するアッセイは、特許請求の範囲に記載するように使用することができる。
【0016】
ここに提出する追加データから、測定されるAGE 型蛍光が実際にタンパク質損傷を測定していることは、タンパク質グリケーションの標準的測定方法によって示されたことがわかる。タンパク質架橋とタンパク質カルボニル化はどちらもタンパク質グリケーションの確立された証拠である。参照により本明細書に組み込まれるSchacterら,Free Radic Biol Med.17:429-437(1994) を参照されたい。簡単に述べると、以下に説明するアッセイに従って、タンパク質架橋の形成を、12%SDS-PAGEの後、クーマシー染色および銀染色を行うことによって測定した。これらの結果を図8 に示す。ADP-リボースとヒストンH1との反応をpH9.0 で行ったところ、架橋を高感度に検出することができた。図8 においてレーン1 は時刻(以下「t 」という)=0 を表し、レーン2 および3 はそれぞれt =2 および24時間を表す。図8 において「M 」「D 」および「O 」はそれぞれ「モノマー」「ダイマー」および「オリゴマー」を表す。銀染色は好ましい架橋決定方法である。タンパク質カルボニル化はウェスタンブロット法によって決定した。具体的に述べると、BSA を1.66M グルコースと共にpH7.4 、37℃で90日間インキュベートすることによって製造したAGE-BSA は、2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(「DNP 」)による誘導体化の後、タンパク質に結合したDNP エピトープに特異的な抗体で試験することによって認識された。これはレーン2 にみることができる。レーン1 は対照として使用した無処理のBSA である。図9 において、パネルA はクーマシー染色を表し、パネルB はカルボニル免疫染色を表す。
【0017】
以下の実施例で、本発明の様々な態様および特徴が説明されていることは、当業者には理解されるだろう。
【0018】
実施例 1
この実施例で説明する実験群は二連で実施したが、そのようにする必要はないし、ここでアッセイした試料数(48)を96穴マイクロタイタープレートでアッセイする必要もないことは理解されるだろう。この実施例および他の全ての実施例を図10に要約する。
【0019】
96穴マイクロタイタープレートを使って48反応を二連で行った。1 対目のウェルは反応物ADP-リボースおよびヒストンH1を含み、阻害剤候補は何も含まない。2 対目のウェルは反応物と既知のグリケーション阻害剤アミノグアニジンを含み、陽性対照として機能する。ヒストンH1は市販されており、参照により本明細書に組み込まれるJohns ら,Biochem J.92:55-59(1964) に記載の方法に従って調製することができる。
【0020】
試験化合物は5mM の濃度で、または溶解度の限界が5mM 未満である場合はその限界濃度でウェルに加えた。反応系は50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4 )に1.5mg/mlのヒストンH1および1.0mM のADP-リボースを加えたものである。反応液量は300 μl とした。37℃でインキュベートしながら、AGE 蛍光を経時的に、355nm (励起波長)および405nm (蛍光波長)で測定した。対照と比較してAGE 蛍光が抑制される場合は、その試験化合物を陽性候補とみなした。
【0021】
図11は、阻害剤候補、すなわちシステインおよびシステインメチルエステルが同定されたアッセイ結果を表す。試験化合物が蛍光を抑制しない場合は、これを真の陰性と分類し、それ以上追求しなかった。図12に示すように、β- アラニンとアルギニンはどちらも真の陰性であることがわかった。
【0022】
偽陰性は、0 日目に蛍光を測定して自己蛍光を決定することにより、容易に決定することができる。そのような化合物はいずれも後述の二次スクリーニングで試験する。
【0023】
実施例 2
上記の実施例では真の陽性、真の陰性および偽陰性について述べた。しかし偽陽性も考えられる。これらは蛍光測定を物理的に妨害することによってAGE 蛍光の形成を抑制する。このような化合物を排除するために、以下のアッセイでは、ウシアルブミン血清のAGE 体(「AGE-BSA 」)を消光する能力について調べる。
【0024】
参照により本明細書に組み込まれるIkeda ら,Biochemistry 35:8075-8083(1996)に従って、AGE-BSA を調製した。次に、試験化合物、ADP-リボースおよびヒストンH1を含むウェルにAGE-BSA を加えて、蛍光を測定した。得られた値を、阻害 剤アミノグアニジンを含むウェルにAGE-BSA を加えた場合に得られる値と比較した。化合物候補の存在下でAGE-BSA 蛍光が低下した場合は陰性と分類し、それ以降のスクリーニングから除外する。これらの実施例で詳述するスクリーニング法の概要を図10に示す。
【0025】
実施例 3
この実施例では、実施例1 および2 のアッセイ後に陽性とみなされた化合物をさらに評価するための二次スクリーニングを説明する。具体的に述べると、上述したように各試料は2 つのウェルで試験され、そのうちの一方を上記実施例2 で試験した。使用していない試料を12%SDS-PAGEにかけ、続いてタンパク質架橋を可視化するために銀染色を行うことによって分析した。これは、グリケーションが引き起したタンパク質損傷の独立した尺度として役立つ。タンパク質損傷の欠如は、当該試験化合物が実際にグリケーションを阻害することを示す。
【0026】
蛍光を使って陽性を確認する上述のようなアッセイの結果を図13に、また架橋試験を使って陽性を確認する上述のようなアッセイの結果を図14に例示する。
【0027】
実施例 4
以下の実験例では上述したアッセイをさらに詳しく説明する。
【0028】
すなわちヒストンH1は新鮮ウシ胸腺から単離した。まず、参照により本明細書に組み込まれるWondrak ら,Biochem J.351:769-777(2000)に従って、0.14M NaClおよび0.05M Na2S2O5 (pH5 )での抽出により、新鮮ウシ胸腺の試料からクロマチンを抽出した。5 %HClO4 による抽出と1500×g での遠心分離を繰り返した後、TCA (20%最終濃度(v/v ))を添加することによってヒストンH1を上清から沈殿させた。ヒストンH1沈殿物を12,000×g での遠心分離によって収集し、脱イオン水に再懸濁した。試料を水に対して48時間十分に透析(MWカットオフ:12,000〜14,000)した後、凍結乾燥した。SDS-PAGE(12%)を使って試料の純度を分析した。この方法で収集したタンパク質は、いずれも4 ℃で保存した。
【0029】
ヒストンH1(1.5mg/ml)を、50mM KH2PO4 緩衝液(pH7.4 、37℃、微生物の成長を阻害するために0.015 %のNaN3を添加)中で、1mM ADP-リボースと混合した。この反応混合物を96穴マイクロタイタープレートに加えた。反応液量を300 μl とし、試験化合物を反応混合物に1 〜10mMの濃度で加えた。試験は二連で行った。
【0030】
λex=370nm 、λem=440nm の波長でAGE 蛍光を測定することによって、蓄積したタンパク質損傷を測定した。蛍光は阻害活性を持つ化合物の存在下で抑制される。アッセイは、AGE 化合物の幅広い励起/ 蛍光極大の範囲内で上記の条件に近いフィルター設定(λex:355nm 、λex:405nm )を使って、通常のマイクロタイタープレートで読み取った。
【0031】
蛍光はインキュベーションの開始時点および5 日間のインキュベーション後に測定した。固有の蛍光を持つ化合物は最初の測定によって同定され、それらを偽陰性とみなしたが、これらは実際には阻害特性を持っているかもしれないので、後述する第2 アッセイ段階で試験した。
【0032】
既知のグリケーション阻害剤アミノグアニジンを対照として使用した。さらにヒストンH1およびADP-リボースを阻害剤候補なしでアッセイし、ヒストンH1をADP-リボースなしでもインキュベートした。
【0033】
5 日間のインキュベーション後に、ヒストンH1/ADP- リボース混合物は、ヒストンH1が単独で生成するバックグラウンド蛍光より約20倍高いAGE 蛍光を生成した。ヒストンH1なしでインキュベートしたADP-リボースは、蛍光を生じなかった。
【0034】
この第1 アッセイ段階によって阻害剤候補が同定されたが、これらの化合物はグリケーション阻害剤ではなく蛍光消光物質である可能性もある。そこで、後述するさらなるアッセイで、これらを試験した。
【0035】
要約すると、このスクリーニングアッセイステップでは、これ以上考慮する必要のない真の陰性が同定された。グリケーションの阻害剤であるかもしれない化合物と、活性が不明な化合物も同定された。後者2 種類の化合物を以下に説明するアッセイで試験した。
【0036】
実施例 5
以下の実験例では偽陽性、すなわち蛍光消光物質を同定して、それらを実施例1 で同定された陽性候補から除外する方法を説明する。基本的には、上述した試験化合物と他の物質との混合物に、蛍光活性がわかっているAGE 修飾タンパク質を使用した。
【0037】
「AGE-BSA 」すなわちAGE 修飾ウシ血清アルブミンは、既知の蛍光活性をもっている。これは、参照により本明細書に組み込まれるTakataら,J.Biol.Chem.263:14819-14825(1988)に従って調製した。簡単に述べると、上述のアッセイで5 日間蛍光を発生させた後、1.6gのBSA および3.0gのD-グルコースを、0.05%のNaN3を含む10mLの0.5Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4 )に溶解した。その溶液を0.45μm フィルターに通して濾過滅菌し、遮光下に37℃で90日間インキュベートした。試料を水に対して透析した後、凍結乾燥した。
【0038】
上述のように、試験は反応混合物に1mg/mlのAGE/BSA を添加することによって行った。AGE-BSA 分子の固有の蛍光を消光する化合物はいずれも偽陽性であるとみなし、それ以降の分析からは除外した。
【0039】
実施例 6
次のスクリーニングステップでは、阻害剤候補をアッセイして、それらのタンパク質架橋阻害能力を決定した。この試験を行うために、5 日間インキュベートした上記実施例1 に記載の反応混合液の一部を12%SDS-PAGEで評価した。無処理のヒストンH1およびアミノグアニジンを含む陽性対照も同じ方法で試験した。全てを銀染色で可視化した。
【0040】
実施例1 〜5 に説明した実験の結果を下記の表に示す。0 日目にNADHの蛍光を測定したところ、NADHは強い蛍光性物質であること、すなわち活性が不明な化合物であることがわかった。しかしこれを架橋実験で試験したところ、阻害活性はないことがわかった。したがってこれらのアッセイの組合わせにより、この化合物は「真の」陰性であることがわかる。ルチンは偽陽性であることが確認された。なぜならルチンはAGE-BSA 蛍光を消光するが、ヒストンH1架橋を阻害しなかったからである。
【0041】
【表1】
非酸化的後期糖化反応の阻害剤のスクリーニング:
96穴マイクロタイタープレートでのAGE 蛍光
Figure 0003920641
実施例 7
求核性化合物には求電子性α- ジカルボニル中間体化合物を捕捉する潜在能力がある。例えばFergusonら,Chem.Res.Tox 12:617-622(1999)を参照されたい。したがってこれらの化合物は後期糖化反応の阻害剤として有望なはずである。L-システインメチルエステル(「L-cys-OMe 」)、L-システイン(L-Cys )およびN α- アセチル-L- システイン(NAC )など、試験したいくつかのチオール化合物は阻害活性を示したが、これらは試験した最高濃度10mMでも61%の阻害しか示さなかった。チオールの一種システアミンおよびメルカプトイミダゾール誘導体L-エルゴチオネインは、多少強い阻害を示した。一方、D,L-ホモシステインおよびNH2-L-cys-gly-COOHはAGE 蛍光を増加させたことから、これらはおそらく自分自身がグリケーション反応を起こすのだろう。D-ペニシラミンおよびD,L-ペニシラミンのラセミ混合物は試験した化合物の中で最もよい化合物だった。AGE-BSA で試験したところ、これらの化合物は偽陽性ではないことがわかった。そこで、これらの阻害能力、すなわちグリケーションが誘発するヒストンH1の架橋を阻害する能力を調べた。実際、これらの化合物の阻害効果はアミノグアニジンより強力であることがわかった。結果を図15に示す。図15には、アミノグアニジンを使った場合の蛍光と比較した蛍光および架橋分析の結果を示す。これらのデータは、1-アミノ-2- メルカプト-2,2- ジメチルエタンがファーマコフォア、すなわちAGE-タンパク質形成の阻害に関与する分子の活性部分であることを示している。
【0042】
実施例 8
D-ペニシラミンが示した阻害活性から、D-ペニシラミンは反応性カルボニル種に対して捕捉剤として作用することが示唆された。これを検証するために、生理的pHおよび生理的温度でのα- ジカルボニル化合物に対する化学反応性を評価する実験を行った。
【0043】
D-ペニシラミン(350mg 、2.3mmol )の溶液を50mlの0.2Mリン酸緩衝水溶液(pH7.4 )に調製し、そこにメチルグリオキサール(40%水溶液、620 μl 、3.45mmol)を加えた。その反応混合物を37℃で24時間撹拌した後、溶媒を減圧下で体積が半分になるまで濃縮し、次にカラムでの脱塩を行った。カラムは水で展開した。UV吸収ピークをプールし、水を減圧下で留去した。粗生成物を1.5 ×45cm QAEセファデックスカラムによる陰イオン交換クロマトグラフィー(200ml の蒸留水と200ml の0.2M NH4HCO3の間で形成される直線的勾配を適用することによって展開)で精製した。フラクションを集め、254nm での吸光度を測定した。
【0044】
1H-NMRスペクトルは以下のシグナルを示した[δH (D2O )単位ppm ]:1.03(3H,s,CH3)、1.05(3H,s,CH3)、1.90 (3H,s,CO-CH3)、3.96および3.98( ジアステレオ異性,1H,s,CH-COOH )。「MALD-TOF-MS 」による質量スペクトル分析では226Da の[M+Na]+ が見いだされた。これはC8H13NO3S の計算質量(203.26Da)に匹敵する。おそらくは最初に形成されたシッフ塩基の求核的閉環後にアルデヒド- チアゾリジン付加物が形成されたのだろう。反応物の構造については図16を参照されたい。
【0045】
1H-NMRシグナルは全て反応生成物の構造として2-アセチル-5,5- ジメチルチアゾリジン-4- カルボン酸に割り当てられた。唯一の例外は、チアゾリジン環の2 位にある極めて酸性なプロトンのシグナルが、おそらくはD2O と交換して見えない点である。アルデヒドプロトンは検出されなかったことから、メチルグリオキサールのC-2 でチアゾリジン異性体が形成された可能性は排除される。さらに、この化合物のC-NMR 分析を行ったところ、2 つのカルボニル基がδ=199ppm(CH3C=O)とδ=209ppm(COOH)にはっきりと見いだされた。
【0046】
この反応についてさらに詳しく知るために、D-ペニシラミンをフェニルグリオキサールと反応させた。上記の方法で、最終濃度10mMのフェニルグリオキサールと最終濃度20mMのD-ペニシラミンとを、50mM KH2PO4 緩衝液(pH7.4 )中、室温で反応させた。反応の進行は反応液の一部を254nm でHPLC分析することによって監視した。40分後に、フェニルグリオキサルピークから単一ピークへの90%を越える変換が認められた。生成物を分取用HPLCによって取得し、凍結乾燥し、H-NMR 分光法によって分析した。
【0047】
スペクトルは以下のシグナルを示した[δH (D2O )単位ppm ]:1.38(3H,s,CH3)、1.45(3H,s,CH3)、4.12(1H,s,CH-COOH)、7.42-7.82(5H,m,ArH)。この場合も、チアゾリジン環の2 位にある酸性プロトンに相当するシグナルは、D2O との交換が予想されるため、検出されず、アルデヒドプロトンも観察されなかった。したがって、フェニルグリオキサール-D- ペニシラミン付加物の構造は2-ベンゾイル-5,5- ジメチルチアゾリジン-4- カルボン酸と割り当てられた。
【0048】
観察された構造から、非酸化的後期糖化反応の阻害機構として、2-アシル-5,5- ジアルキルチアゾリジンの形成によるα- ジカルボニル捕獲によって、D-ペニシラミンの阻害効力を説明することができる。5,5-ジアルキル置換はチアゾリジン環の閉環に立体的に有利であり、加水分解による逆反応を妨げるのだろう。
【0049】
実施例9
この実施例で説明する実験は、モデルとしてフェニルグリオキサールを使用することにより、D-ペニシラミンおよびアミノグアニジンによるα- カルボニル捕獲の相対速度を評価するために計画した。
【0050】
10mMリン酸緩衝液(pH7.4 )中、37℃で反応を行い、続いてHPLC分析を行った。フェニルグリオキサールは50mMの濃度で使用し、D-ペニシラミンおよびアミノグアニジンは250mM および500mM の濃度で使用した。フェニルグリオキサールをUV活性α- オキソアルデヒド化合物として使用した。反応途中に採取したアリコートをHPLCで分析した。D-ペニシラミンが関わる反応については、20秒間隔で アリコートを採取し、分析までドライアイス上に保っておいた。フェニルグリオキサールと試験化合物との反応初速度を、フェニルグリオキサールの消失を経時的に追跡することによって監視した。
【0051】
フェニルグリオキサールと試験化合物との反応は二次反応であり、その速度式は
-dc/dt=(k2nd)[ フェニルグリオキサール][ジカルボニル捕捉剤]
である。
【0052】
反応物の濃度からわかるように、反応速度定数(k1st)が試験化合物の濃度に見かけ上依存し、そのために反応が擬一次反応速度に変換されるように、どの反応系にも過剰の試験化合物を含めた(1 :5 または1 :10)。
【0053】
フェニルグリオキサールに関するLog AUC 対時間のプロットにより、傾きk1st/2.303を得た。測定された1 次速度定数(k1st) を使用し、式:
k2nd=k1st[α- ジカルボニル捕捉剤]
に従って、2 次速度定数(k2nd)を計算した。
【0054】
2 次速度定数計算値を2 つの反応物比(5 :1 および10:1 )で決定したところ、それらはよい一致を示した。
【0055】
D-ペニシラミンはアミノグアニジンより60倍速くフェニルグリオキサールを捕獲した。α- オキソ置換がアルデヒド捕獲反応の進行に何らかの影響を及ぼすかどうかを決定するために、フェニルグリオキサオールに対応するアルデヒド、すなわちフェニルアセトアルデヒドとのD-ペニシラミンの反応性を、上記と同じ方法で測定した。
【0056】
D-ペニシラミンはフェニルグリオキサールの約1/14の効率でフェニルアセトアルデヒドを捕獲することがわかった。このことから、D-ペニシラミンはα- オキソカルボニル化合物をアルデヒドより効率よく捕獲すると結論される。
【0057】
実施例 10
グリオキサールおよびメチルグリオキサールなどの化合物は、例えばニューロン細胞(Kikuchi ら,J.Neurosci Res.57:280-289(1999);Shinpoら,Brain Res.861:151-159(2000))およびマクロファージ由来細胞株(Okada ら,Biochem.Biophys.Res.Commun.225:219-229(1996) )などの細胞に対して毒性であることが立証されている。そこで、α- ジカルボニル毒性を防御するα- ジカルボニル捕捉剤の能力を調べた。
【0058】
連続継代性細胞系「He-Cat」(ヒト表皮ケラチノサイト)および「CF-3」(ヒト皮膚線維芽細胞)を標準的条件で培養し、10%ウシ胎仔血清を含むDMEMに1 週間に2 回分割し、5 %CO2 を含む37℃の湿潤雰囲気下に保った。細胞を分割するために、ケラチノサイトには5 %トリプシンを、また線維芽細胞には1 %トリプシンを使用した。
【0059】
6 穴ディッシュを使って、ケラチノサイトは2 ×104 細胞/ ウェルの密度で、また線維芽細胞は4 ×104 細胞/ ウェルの密度で播種した。細胞を終夜プレートに付着させた。D-ペニシラミンまたはアミノグアニジン(各1mM )をプレートに加え、その15分後にグリオキサールまたはメチルグリオキサールを添加した。 これらのα- ジカルボニルを72時間放置した。様々な濃度のα- ジカルボニルを使用した。72時間ストレスを加えた後、細胞数をコールターカウンターで数えた。捕捉剤なしでグリオキサールまたはメチルグリオキサールを使用する培養も行った。L-アラニンは保護効果を持たないと予想されるので、L-アラニンを陰性対照として使用した。
【0060】
その結果、メチルグリオキサールの濃度が増えると、用量依存的な成長阻害が起こり、どちらの細胞株でも濃度600 μM で完全な阻害が起こることがわかった。グリオキサールはどちらの細胞タイプにも等しく影響を及ぼしたが、グリオキサールに対する感受性は線維芽細胞の方が低かった。L-アラニンは保護効果を示さなかった。アミノグアニジンはメチルグリオキサールが誘発する成長阻害から両細胞株を部分的に救出したが、D-ペニシラミンの方が優れていて、D-ペニシラミンはメチルグリオキサールの毒性をほとんど完全に遮断した。両化合物はグリオキサールによる成長阻害からケラチノサイトを保護するようだった。保護効果は図17にみることができる。おそらくは、有毒な反応性カルボニル剤の直接捕捉が原因だろう。なぜなら、細胞を保護化合物と共に24時間プレインキュベートしてからα- ジカルボニルに曝露しても、保護効果は認められなかったからである。
【0061】
D-ペニシラミンが用量依存的な細胞保護効果を示すかどうかを決定することにした。D-ペニシラミンの濃度を上げると保護作用が増進した。線維芽細胞は実際にはメチルグリオキサール活性に対してケラチノサイトよりも感受性が高く、6004M メチルグリオキサールで処理した線維芽細胞はD-ペニシラミンにより47%生き残ったのに対し、ケラチノサイトは100 %生き残ったことがわかった。図18はこれを示している。
【0062】
実施例 11
この実施例は、参照により本明細書に組み込まれるWondrak ら,Biochem J.351:769-777(2000)にも報告されている。
【0063】
ここに述べる実施例では、ヒストンH1のカルボニル化を引き起すというADP-リボースの能力を示す。グルコースが弱く反応することは上でも述べた。
【0064】
様々な還元糖をグリケーション剤として比較するために一連の実験を行った。ADP-リボースの他に、ADP-グルコース、D-リボースおよびD-グルコースを試験した。簡単に述べると、ヒストンH1を1mM の各糖と混合し、その混合物をpH7.4 でインキュベートした。7 日間のインキュベーション後に、反応液の一部を12%SDS-PAGEゲルで銀染色を使って分析した。結果を図19A およびB に示す。図19A およびB では、レーン1 は糖を添加していない対照であり、レーン2 〜5 はそれぞれD-グルコース、D-リボース、ADP-グルコースおよびADP-リボースを使った結果を表す。ADP-リボースは大量のカルボニル化を引き起し、一方、D リボースはそれより少量のカルボニル化を引き起した。D-グルコースとADP-グルコースはどちらも有意なカルボニル化を引き起さなかった。ADP-リボースおよびD-リボースが引き起したカルボニル化の量 (それぞれ0.82および0.06モル/ モル- ヒストンH1)は免疫染色と相関した。
【0065】
ADP-リボースによるヒストンH1のカルボニル化に酸化的経路が含まれるかどうかを決定するために、D-グルコースによるタンパク質のグリコキシデーションを妨害することが知られているいくつかの化合物を調べて、それらの化合物がADP-リボースによるこの作用を妨害するかどうかを決定した。試験した化合物にはアルゴン下での5mM DTPA、5mM アミノグアニジン、5mM Nα- アセチル-L- システイン、5mM マンニトールおよび100 単位/ml カタラーゼが含まれる。これらの結果を図19C およびD に示す。これらの結果は、わずかな効果を示したアミノグアニジンを除いて、上記の化合物がいずれもカルボニル化を妨害しなかったことを示している。しかしタンパク質架橋は完全に遮断されたことから、ADP-リボースによるヒストンH1のカルボニル化は、グリコキシデーションの結果ではなく初期糖化反応の結果であることが示唆される。
【0066】
上記は、細胞ストレスに影響を及ぼす物質を同定する方法に関する本発明の様々な側面を説明したものである。本明細書にいう「細胞ストレス」とは、例えば酸化ストレス、グリケーション、UV照射などによって誘発されるストレスを指す。これは結果として組織の劣化および老化につながる。好ましくは、本方法は、ジカルボニル補集剤などのカルボニル補集剤として作用し、よってタンパク-AGE生成物の形成を阻害する物質の同定に関する。同時に、これらのアッセイは酸素の不在下で機能するので、当業者は本アッセイを使用することにより、スクリーニングアッセイで、抗酸化剤を排除することができる。したがってこの方法を使用することにより、ジカルボニル補集剤を同定することができ、また化合物をスクリーニングして、それらが抗酸化剤として機能するかどうかを決定することもできる。
【0067】
上記のように、本方法では、本質的に、被験化合物または被験物質をタンパク質ヒストンH1およびADP-リボースと混合することになる。ヒストンH1およびADP-リボースは、相互作用して蛍光生成物の形成をもたらすことが知られている。ヒストンH1およびADP-リボースと混合したときに、興味ある化合物が蛍光を減少させるのであれば、その物質はタンパク質-AGE形成の阻害剤である可能性がある。逆にタンパク質-AGE形成のアゴニストも同じ方法で同定することができる。
【0068】
実施例に示すように、目的の物質は少なくとも2 種類のさらなるアッセイ、例えば当該物質をAGE-BSA ならびにヒストンH1およびADP-リボースと混合するアッセイ、およびヒストンH1分子をADP-リボースおよび目的の物質と混合した時にヒストンH1分子が架橋を起こすかどうかを決定するアッセイなどで試験することができる。
【0069】
特に興味深いのは、とりわけ求核性チオール含有化合物であるとみなされる化合物である。実施例に示すように、望ましい性質を持つ化合物がこのようにして同定された。
【0070】
化合物のグリケーションは、数多くの方法で測定できることが知られている。例えば、分子のフルクトサミン含量を決定するためのアッセイは当技術分野ではよく知られており、それらは実際のところグリケーションを決定するアッセイである。本発明では、これらのアッセイも、また他のアッセイも使用することができる。
【0071】
好ましい態様では、第1 アッセイで明らかになった結果を確認することができるように、少なくとも2 種類のアッセイを実施するが、そのようにする必要があるわけではない。さらに本アッセイは、陽性対照、陰性対照、または最も好ましくはその両方と並行して行うことができる。この場合も、使用する対照アッセイのタイプは変更することができ、それは当業者の自由である。
【0072】
本発明のアッセイに加えて、キットも本発明の一部である。これらのキットは少なくとも箱などの容器手段を含み、その容器手段には、溶液状、凍結乾燥状、粉末状、錠剤状または当業者にとって都合のよい他の何らかの形をしたADP-リボースおよびヒストンH1のそれぞれが小分けして入れられる。このようなキットは好ましくはアッセイを実施するための説明書を含み、要すれば、上述したような陽性対照試薬および陰性対照試薬の一方または両方のサンプルを含んでもよい。
【0073】
本発明の他の側面は当業者には明らかであり、ここでさらに詳述する必要はない。
【0074】
上で使用した用語および表現は限定のためではなく説明のために使用したものであって、かかる用語および表現の使用に、本明細書に示し説明した特徴またはその一部の均等物を排除する意図はなく、本発明の範囲内で様々な変更態様が可能であると理解される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 タンパク質グリケーションの概要を表す図
【図2】 ADPRが生成する経路を表す図
【図3】 ADP-リボースによるグリケーション反応の化学を表す図
【図4】 ADP-リボースとヒストンH1の間の反応が生理的条件に似た条件で迅速に進行することを示すデータ
【図5】 本発明の方法でグルコース、リボース、ADP-グルコースおよびADP-リボースを比較した図
【図6】 グリケーション標的としてウシ血清アルブミンとヒストンH1とを比較した図
【図7】 アミノグアニジンがADP-リボースによるヒストンH1のグリケーションを抑制することを示す図
【図8】 ヒストンH1/ADP- リボース反応におけるタンパク質架橋の形成を測定した図
【図9】 タンパク質カルボニル化を測定する実験で得た結果を示す図
【図10】 阻害剤の1 次および2 次スクリーニング計画の詳細を表す図
【図11】 潜在的阻害剤が同定された実験のデータを表す図
【図12】 2 つの陰性化合物、すなわちグリケーションの阻害剤でない化合物に関するデータを表す図
【図13】 偽陽性を同定するために計画したアッセイで得た結果を表す図
【図14】 グリケーションを決定し、よってタンパク質損傷を決定するための確認用架橋試験で得た結果を示す図
【図15】 グリケーションが誘発するヒストンH1の架橋を阻害する種々の化合物の能力を示す実験結果を表す図
【図16】 1H-NMRスペクトル解析で同定された様々な反応物の構造を表す図
【図17】 細胞に対するD-ペニシラミンの保護効果を決定するために計画した実験の結果を表す図
【図18】 細胞に対するD-ペニシラミンの保護効果を決定するために計画した実験の結果を表す図
【図19】 様々な糖(A およびB )ならびに阻害剤(C およびD )の効果に関する研究を表す図

Claims (8)

  1. タンパク質のグリケーションを阻害する物質を決定する方法であって、
    (i)ヒストンH1およびADP−リボースを混合し、蛍光を測定する、
    (ii)被験物質、ここで被験物質はアミノグアニジンではない、ヒストンH1、およびADP−リボースを混合し、蛍光を測定する、
    (iii)(i)および(ii)の分析において測定した蛍光を比較する、ここで、(i)に比べ(ii)で測定された蛍光における減少が、前記被験物質のタンパク質のグリケーション阻害剤としての可能性を示すものであり、
    (iv)AGE−BSAと、前記タンパク質のグリケーション阻害剤としての可能性のある被験物質とを混合し、蛍光を測定する、
    (v)(iv)で混合したAGE−BSAと等量のAGE−BSAの蛍光を測定する、
    (vi)(iv)および(v)の分析において測定した蛍光を比較する、ここで、(v)に比べ(iv)で測定された蛍光における減少が、AGE蛍光を消光する擬陽性を示すものであり、そして、
    (vii)AGE蛍光を消光しないタンパク質のグリケーション阻害剤としての可能性のある被験物質をタンパク質と混合し、前記被験物質による前記タンパク質への損傷を検出する、ここで、前記損傷の欠如は、前記被験物質がタンパク質のグリケーションを阻害する物質であることを示す方法。
  2. 前記物質による前記タンパク質への損傷を、ヒストンH1分子の架橋を検出することによって検出する請求項1に記載の方法。
  3. 前記物質が、ジカルボニル捕捉剤である請求項1に記載の方法。
  4. 前記物質が、抗酸化剤でない請求項1に記載の方法。
  5. アミノグアニジン、前記ヒストンH1およびADP−リボースを混合することによって得られる影響と比較することをさらに含む請求項1に記載の方法。
  6. 前記被験物質、ヒストンH1、およびADP−リボースを混合した約5日後に蛍光を測定することを含む請求項1に記載の方法。
  7. 前記物質が、求核性化合物である請求項1に記載の方法。
  8. 前記求核性化合物が、チオール含有化合物である請求項7に記載の方法。
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