JP3915712B2 - 偏光分離素子とこれを用いた投写型表示装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主に投写型表示装置に用いる偏光分離素子と、当該偏光分離素子と反射型の空間光変調素子を用いて構成される投写型表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
光の電気振動(或いは、これと直交する磁気振動)について、振動方向がランダムな状態である自然光に対し、特定状態に振動が偏った光を偏光を呼ぶ。液晶パネルの表示原理は偏光を利用しており、この用途には、ヨウ素や有機染料などを含ませた高分子のフィルムを特定方向に延伸し、一定方向の直線偏光の光だけを通過させ、これと直交する偏光の光を吸収するフィルム型の偏光板が広く実用化されている。
【0003】
同様の偏光機能素子として、プリズム型の偏光分離素子がある。これは、図10に示す様に、2つの三角プリズム901、902を貼り合わせて立方体形状にしたもので、例えば、片側のプリズム901の接合面には、偏光分離多層膜903を、蒸着やスパッタリング工法により形成する。これは、例えば、自然光904を入射させ、偏光分離多層膜903を通過するP偏光905と、多層膜903を反射するS偏光906に分離する。或いは、この反対に、905の方向からP偏光を入射させ、906の方向からS偏光を入射させ、これらを合成させて、904の方向に出射させる事ができる。
【0004】
尚、P偏光とは、入射光の光軸と、偏光分離多層膜903の法線907を含む平面を定義し、電界の振動面がこの平面と平行である偏光成分を示す。また、S偏光とは、電界の振動面がこの平面と直交する偏光成分を示す。一般に、三角プリズム901と902は、頂角45度−90度−45度の直角三角形を底面とする三角柱とし、これらを接合させて、立方体形状にしている。この場合、プリズムの入出射界面は光軸に直交し、ダイクロイック多層膜903への入射角は、光軸に沿った光線について45度となる。
【0005】
また、ワイヤーグリッドは、これまで主に赤外分光など比較的波長の長い光について、偏光を分離する素子として実用化されている。これは、波長オーダーの微小な金属格子構造を用いたもので、電界の振動方向がグリッド細線の長手方向と直交する偏光成分を透過させ、電界の振動方向がグリッド細線の長手方向と一致する偏光成分を反射させる。この原理に基づく偏光素子は、例えば米国特許第2,224,214に開示されている。
【0006】
近年、微細加工技術の進歩により、可視波長(400〜700nm)オーダの微小ピッチのワイヤーグリッド構造が提案されている(例えば、米国特許第6,122,103など)。これは、例えば図11に示す構造である。透明基材910の片面に、アルミニウムの薄膜を形成し、これをパターンエッチングすることで、可視の波長オーダの微小グリッド構造911を構成する。この時、微小グリッドの細線方向912について、偏波面(電界の振動方向)がこれに直交する光は透過し、偏波面が平行な光は反射する。
【0007】
また、液晶パネルなどの空間光変調素子を、放電ランプの強力な光で照明し、その光学像を投写レンズを用いてスクリーン上に拡大投影する投写型表示装置は、迫力ある大画面の映像を容易に提供する手段として広く使われている。このうち、反射型液晶パネルを使う従来構成の一例を図12に示す。これは、超高圧水銀灯などのランプ921、発光体922の放射する光を集めて照明光束を形成する凹面鏡923、照明光から不要な赤外光や紫外光を除去するUV−IRカットフィルタ924、偏光分離素子925、三原色の光に分解合成を行うプリズム合成体926、三原色のRGBに対応した3枚の反射型液晶パネル927、928、929、投写レンズ930、などから構成される。
【0008】
3枚の反射型液晶パネルには、RGBの原色光学像が偏光状態の変化として形成される。すなわち、紙面に沿った偏光の光をP偏光、紙面に直交する偏光の光をS偏光と表現し、各々の液晶パネルは、偏光分離素子925で反射されたS偏光成分の光で照明される。黒表示は、照明光のS偏光成分がそのまま保持されて反射され、S偏光として偏光分離素子925に再入射した光は、投写レンズ930に到達せず、黒表示となる。白表示は、照明光のS偏光成分が偏波面の回転作用を受け、P偏光として偏光分離素子に再入射する。P偏光は、偏光分離素子925を直進し、投写レンズに到達して白表示となる。これら2つの偏光状態の中間的な偏波面の回転により、偏光分離素子925を通過して投写レンズ930に入射できる光の強度が変調され、中間階調を表現できる。
【0009】
プリズム合成体926は、3つのプリズム931、932、933を組み合わせた所謂フィリップスタイプの色分離合成プリズムである。これは、プリズム931と932の間に微小エアギャップを設け、プリズム931のプリズム932と接する界面には、色選択反射のダイクロイック多層膜が形成される。同じく、プリズム932と933の接合面には、いずれかのプリズム界面に色選択ダイクロイック多層膜が形成される。これら2つのダイクロイック多層膜の波長選択特性を適切に選び、3枚の液晶パネルへ入出射する光をRGBの三原色光に対応させる事ができる。
【0010】
偏光分離素子925は、例えば、図10に示した誘電体多層膜による偏光分離プリズムが利用される。或いは、図11に示したワイヤーグリッド型の偏光分離板を利用できる。同様の投写型表示装置として、米国特許第6,234,634号公報、特開2002−372749号公報に開示される。
【0011】
【特許文献1】
米国特許第2,224,214号公報
【特許文献2】
米国特許第6,122,103号公報
【特許文献3】
米国特許第6,234,634号公報
【特許文献4】
特開2002−372749号公報
【特許文献5】
特開平2−250026号公報
【特許文献6】
米国特許第5,986,815号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
図10に示す誘電体多層膜を用いたプリズム型の偏光分離素子の課題を述べる。1個のプリズムで波長がおよそ430〜650nmの可視帯域の光について、良好な偏光分離特性を実現する事が難しい。すなわち、作用する波長について広帯域化が難しく、短波長側や長波長側で、偏光分離特性が低下し、良好なS偏光反射、良好なP偏光透過が得らなくなるという課題がある。また、誘電体多層膜の偏光分離特性は、入射角依存が大きいという課題がある。図10に図示したような光軸に沿った理想的な直進光線について良好な特性が得られても、これと角度を成して進行する光線、投写レンズで集光できる円錐状のFナンバ規定の光線群について、傾斜角の大きい光は、良好な偏光分離特性が得られにくいという課題がある。
【0013】
光軸と角度を成して進行する、所謂、スキュー光線は、幾何構成上の捻れ作用により、所望のP偏光、S偏光状態を得られないという課題がある。例えば、図12に示す投写型表示装置を構成し、図10に示す偏光分離素子を用いた場合を想定する。この場合、液晶パネルにとって、必要な入射光についてのS偏光の規定、出射光のP偏光の規定は、液晶パネルの法線方向に取った光軸と、偏光分離素子925に入出射する光軸を含む平面を基準に決まる、つまり、紙面に完全に平行な偏波面の光をP偏光と呼び、紙面に直交して上記各光軸を含む平面について、偏波面がこの平面方向の光をS偏光と呼ぶ。
【0014】
これに対し、誘電体多層膜925Aの入出射状態で規定される偏光分離機能でのP偏光、S偏光の偏波面方位は、スキュー光線について捻れた座標空間を持ち、この捻れ成分の要因により、スキュー光線の場合は、液晶パネルが良好なコントラストで表示変調を行うのに必要な上記各偏波面の光線が完全に得られないという課題がある。つまり、スキュー光線について、この光線の誘電体多層膜925A前後の進行ベクトルと、誘電体多層膜の法線方向を含む平面を規定する。図示した光軸について、この定義される平面と、紙面に沿った方向は完全に一致するが、スキュー光線については、捻れた平面が定義される。この捻れた平面に沿った偏波面の光が、誘電体多層膜で透過分離されるP偏光成分であり、捻れた平面に直交し、進行ベクトルを含む平面に沿った偏波面の光が反射分離されるS偏光成分となる。従って、図10に示すプリズム型の偏光分離素子は、スキュー光線を含む円錐状の拡がりを持ったFナンバ光線群について、作用を受ける液晶パネルから見て、統一的な1つの直線で規定されるP偏光、S偏光の作用効果を持たない、各光線の捻れ方位の影響により、良好な直線偏光が得られにくく、投写型表示装置を構成した場合に、コントラストの低下、表示むら、色むらなどを招くので問題がある。
【0015】
この課題に対し、液晶パネルの入射側にλ/4板などの位相差板を挿入することで、表示品位、コントラストが改善できる事が提案されている(特開平2−250026、米国特許第5,986,815)。但し、この提案は、上記捻れにより発生する光線の偏波面の乱れを補償するように位相差板を挿入するものであり、補償の効果度合いによっては、コントラストや画質の改善が不十分である。また、コストと量産性の面で実用的な位相差板は、ポリビニルアルコールやポリカーボネートの透明樹脂フィルムを、一定方向に延伸させて位相差を形成し、これを所定のリターダンス(屈折率異方性)が得られるように積層させたものが一般的である。
【0016】
この樹脂フィルムを投写型表示装置に用いると、紫外線に対する耐光性の問題で、長期使用時に特性が劣化する、透明度が低下する、焦げる、と言った信頼性の課題がある。また、使用温度条件が厳しく、多くの風量を送る冷却機能が必要、冷却すると埃が付着し画質欠陥を生じる、照射光量をあまり大きくできない、と言った課題がある。
【0017】
また、プリズム型の偏光分離素子は、これを構成する光学硝材とその温度条件に依って、その内部歪みが複屈折作用を持ち、偏光制御された所定の偏光状態が、部分的に乱されるという課題がある。これは、投写型表示装置に用いた際に、コントラストの部分むらや、色むらとなるので大きな問題がある。この為、プリズム内の熱歪みが大きくならないように、使用できる光量条件に制約を生じる。或いは、光弾性定数の極めて小さい特殊な材料を使う必要があり、これはコストと量産性の面で問題を生じる。また、光弾性定数の小さい硝材は、多くの鉛を含む場合があり、商品に採用した後、廃棄物の環境保護の面で、有害物質となり得るので問題がある。
【0018】
これに対し、図11に示すワイヤーグリッド型の偏光分離素子は、多くの優位点を持つ。例えば、入射角依存が相対的に小さく、円錐光線群に対して比較的良好な偏光分離機能を提供できる。また、作用して反射、あるいは透過させる光線について、その偏波面は、ワイヤーグリッドの細線方向に沿ったS偏光と、これと直交するP偏光成分に規定される。つまり、捻れて進行するスキュー光線についても、そのS偏光とP偏光は、光軸に沿って進行する主光線と同様の定義、考え方を採用できる。その結果、投写型表示装置を構成した場合に、コントラストや表示低下を改善できる。
【0019】
一方、図11に示す偏光分離素子を用いて、図12に示すものと同様の投写型表示装置を構成した場合、新たに以下の課題がある。ワイヤーグリッド型の偏光分離素子は、単体では偏光分離の消光比があまり大きく取れない。従って、そのままではコントラスト性能の高い表示装置を構成できない。
【0020】
また、コントラストを有利に得るには、図12の構成のまま、偏光分離素子925の位置に、45度入射となるようにワイヤーグリッド型偏光板を置くことが望ましい。すなわち、照明光をS偏光反射で利用し、液晶パネルに導く。液晶パネルからは、白表示:P偏光、黒表示:S偏光の出射光を受け、P偏光の光を透過させて投写レンズに導くとよい。このような構成を取った場合、液晶パネル〜投写レンズの結像系の光路に、所定厚みを有するガラス基材を45度に傾けて配置することになる。この場合、紙面に沿った方向に拡がる光線群と、紙面に直交する方向に拡がる光線群で、45度傾斜のガラス基材による屈折作用が異なり、スクリーン上で非点隔差を生じるという問題がある。これは、結像点の解像度を低下させ、画像の鮮鋭度を低下させるので問題がある。
【0021】
更に、図12に示す投写型表示装置は、プリズム合成体926の構成が複雑で、作りにくい、必要な精度を出しにくいという課題がある。特に、プリズム931と932の間に微小間隔のエアギャップを精度良く形成する必要があり、これが課題となる。エアギャップは、間隔が小さすぎると干渉縞や、面精度の管理が難しく、間隔が大きすぎると収差を発生させて画像の乱れを生じる。また、間隔が平行に維持できない場合も、結像性能を低下させるので問題がある。
【0022】
また、この投写型表示装置は、投写レンズのバックフォーカスが長く、レンズの後ろ玉径が大きくなる、広角化が難しい、投写レンズのコストが高くなる、という課題がある。投写レンズの後ろ玉から結像面である液晶パネルまでの間に、偏光分離素子925と、色分離合成用のプリズム合成体926を配置する光路長が必要であり、また、表示むらを考えれば、液晶パネルを照明する光と、液晶パネルから投写レンズに進行する光は、全てテレセントリック(主光線を光軸と平行にさせる)とする必要がある。投写レンズに進行する光を収束光とできないので、より一層、レンズ後ろ玉が大きく、広角化、これに伴う収差補正が難しい。
【0023】
【課題を解決するための手段】
上記問題点を解決するために本発明の偏光分離素子は、入射する光を透過するP偏光と反射されるS偏光に分離する偏光分離基材と、当該基材を挟み込んで隣接する2つのプリズム部材とからなり、前記基材は波長単位の微小な金属格子構造を配列してなるワイヤーグリッド型の偏光分離基材とするとよい。
【0024】
更に、偏光分離基材を直進するP偏光の光軸について、偏光分離素子の入射側プリズム界面と出射側プリズム界面の各々を、当該光軸に略直交させ、当該光軸に回転非対称で挿入される偏光分離基材の屈折作用による非点隔差を低減させるとなお良い。
【0025】
また、当該プリズムの1つは、平坦な光学界面領域と、光学界面領域の周囲に設けられたリブ領域からなり、リブ領域の突起頂部にて偏光分離基材のマイクログリッドを形成した基板面の周囲と接合され、光学界面領域と、マイクログリッド形成面が、所定の微小距離を介して略平行に保持されるとなおよい。
【0026】
或いは、当該プリズムの1つは、所定の微小厚さを有するスペーサ部材を介して偏光分離基材のマイクログリッドを形成した基板面の周囲と接合され、プリズムの光学界面領域と、マイクログリッド形成面が、所定の微小距離を介して略平行に保持されるとなおよい。
【0027】
上記問題点を解決するために本発明の他の偏光分離素子は、入射する光を透過するP偏光と反射されるS偏光に分離するものであって、当該素子は2つのプリズム部材を接合してなり、プリズム部材の少なくとも1つの接合面に、微小な金属格子構造を配列してなるワイヤーグリッド型の偏光分離層を形成するとよい。
【0028】
更に、プリズムの接合面に金属細線を埋め込む彫り込みグリッド、あるいは、金属細線を形成する積層グリッドのいずれかを形成するに当たり、その加工方向を接合面の法線方向ではなく、当該接合面に入射させる光線の光軸方向から加工するとなお良い。
【0029】
また、2つのプリズムの接合面には、いずれも周期Pのワイヤーグリッド構造を形成し、これを、互いに位相がP/2ずつずれるように接合させて、周期1/Pのワイヤーグリッド構造とするとなお良い。
【0030】
上記問題点を解決するために本発明の投写型表示装置は、光源と、光源の放射する光を集めて照明光を形成する集光照明手段と、偏光分離素子と、偏光の変化を利用して光学像を形成する反射型の空間光変調素子と、投写レンズ、から構成され、偏光分離素子は、入射する光を透過するP偏光と反射されるS偏光に分離する偏光分離基材と、当該基材を挟み込んで隣接する2つのプリズム部材とからなり、偏光分離基材は波長単位の微小な金属格子構造を配列して成るなるワイヤーグリッド型とし、偏光分離素子は、空間光変調素子を照明する光の光路と、空間光変調素子で変調された出射光が投写レンズに到る光路に配置されて照明光と出射光の光路弁別を行うと共に、出射光の偏光に応じて投写レンズに到る有効光束の制御を行って投写画像を形成するとよい。
【0031】
上記問題点を解決するために本発明の他の投写型表示装置は、光源と、光源の放射する光を集めて照明光を形成する集光照明手段と、偏光分離素子と、偏光の変化を利用して光学像を形成する反射型の空間光変調素子と、投写レンズ、から構成され、偏光分離素子は、少なくとも2つのプリズム部材を接合してなり、プリズム部材の少なくとも1つの接合面に、波長単位の微小な金属格子構造を配列してなるワイヤーグリッド型の偏光分離層を形成し、偏光分離素子は、空間光変調素子を照明する光の光路と、空間光変調素子で変調された出射光が投写レンズに到る光路に配置されて照明光と出射光の光路弁別を行うと共に、出射光の偏光に応じて投写レンズに到る有効光束の制御を行って投写画像を形成するとなお良い。
【0032】
【発明の実施の形態】
(偏光分離素子の実施の形態1)
図1は、本発明の偏光分離素子について、構成の一例を示す。11は偏光分離基材である、ガラス基板の片面に微小なワイヤーグリッド構造を形成した偏光分離板であり、微小金属細線の凹凸構造を可視の波長帯域レベルのピッチで構成し、可視の自然光に対し、P偏光を透過、S偏光を反射させる機能を有する。尚、図1のグリッド構造は、構成を模式的に示す為に表現したものであり、実際の外観、スケールとは一致しない。12、13は、プリズム部材である三角柱プリズムであり、偏光分離板11を挟み込んで一体化され、全体として立方体のプリズム構造としている。
【0033】
本構成に依れば、矢印14から入射した自然光は、偏光分離板11の作用により、S偏光は反射されて矢印15方向に出射し、P偏光は透過して矢印16方向に進行する。ここで、P偏光とは、入射光線の光軸と偏光分離板11の法線方向を含む平面を定義し、この平面に沿って電界が振動する光をP偏光、この平面と直交する方向に電界が振動する光をS偏光としている。ワイヤーグリッドの微小細線方向(矢印17方向)について言えば、矢印17と電界の振動が平行な成分をS偏光と呼び、これは反射されて15方向に進行する。矢印17と電界の振動が直交する光をP偏光と呼び、これは透過して16方向に進行する。
【0034】
微小なワイヤーグリッド構造のピッチと格子高さを適切に選択すれば、この偏光分離素子は、プロジェクタなどで必要な可視帯域について、良好な偏光分離特性を得ることができる。
【0035】
構成上、偏光分離板11のワイヤーグリッドを形成しない裏面界面と、三角プリズム12の隣接する界面は、屈折率整合させた透光性接着剤で接合し、不要な界面損失を減らすと良い。また、ワイヤーグリッドの形成面と、三角プリズム13の隣接界面は、微小な空気間隔を介してお互いを保持する一体構造とすれば良い。三角プリズム12、13と、偏光分離素子11の必要な光学界面には、反射防止膜を形成し、不要反射を低減させると良い。
【0036】
図1に示す本発明の偏光分離素子は、これを透過する光を結像系に用いても、偏光分離板11の基材による屈折で非点隔差を発生しない利点がある。この為に、偏光分離板11の基材屈折率と、三角プリズム12、13の硝材屈折率は、互いに近い大きさとするとなお良い。所定厚みのガラス平板基材を45度傾けて光路に挿入する場合と比較して、三角プリズムに入出射する光学界面が、光軸とおよそ直交して配置されるので、上記問題を解決できる。45度に傾斜した三角プリズムの界面と偏光分離素子11のワイヤーグリッド面の境界は、非点隔差の要因となる非回転対称の屈折作用を持つが、この作用長が非常に短いので、従来構成で問題となるようなレベルの非点隔差は発生させない。
【0037】
図1に示す構成は、45度−90度−45度の三角柱からなるプリズム部材を2個用いた立方体形状の実例を示したが、他のプリズム構成であっても構わない。2個のプリズム部材で挟持したワイヤーグリッドの偏光分離板を使い、特性と用途に適した入射角の構成とすればよい。この際、組み合わせたプリズム構成において、光軸に対し、入射界面と出射界面をおよそ直交させれば、光学界面はおよそ光軸に対して回転対称となるので、非点隔差を発生させず、結像系に用いても、良好な性能を実現できる。
【0038】
図2は、図1に示した偏光分離素子の他の構成の一例である。偏光分離板21は同様のワイヤーグリッドを形成したガラス基材であり、これを、2つの台形プリズム22、23で挟み込んで保持している。こうすれば、光線の偏光分離板21への入射角を45度より大きくできる。この場合、矢印24から入射する光線の光軸、反射されて矢印25から出射するS偏光の光軸、透過して矢印29から出射するP偏光の光軸について、必要ないずれかの光学界面27、28、29を、各光軸に直交させるとよい。図示していない他の光軸と他の界面についても、同様である。液晶パネルなどの表示素子から投写レンズに到る結像系に挿入される光軸について、その界面を当該光軸に直交する構成とすればよい。
【0039】
上記発明に依れば、ワイヤーグリッド偏光板の長所を活かし、非点隔差を発生させない応用が可能であるので、大きな効果を得ることができる。つまり、可視の広い波長帯域について良好な特性を持ち、入射角依存が小さく、スキュー光線での偏波面の捻れを発生させない、主として投写型表示装置に適した偏光分離素子を実現できる。
【0040】
(偏光分離素子の実施の形態2)
図1に示した本発明の偏光分離素子の実施の形態1は、図3に示す様な構成にするとなお好ましい。ワイヤーグリッド構造44を形成した偏光分離基材であるガラス基材41は、斜線ハッチングで図示した周囲の領域45を介して、三角プリズム42と接合させる。プリズム部材である三角プリズム42は、ガラス基材41と接合する面について、ワイヤーグリッド構造44と微小エアギャップを介して接する様に、凹部平坦面46を構成しておく。これは、接合面を微小な深さだけ掘り下げ、その平坦面を光学的に問題のないレベルまで、研磨などで良好な面精度に仕上げたものである。
【0041】
ガラス基材41の裏面は、もう1つのプリズム部材である三角プリズム43と接合させる。判りやすくするために図3では、2つの三角プリズムを分離して記載しているが、これらを、ワイヤーグリッド構造44を介して接合し、実施の形態1と同様の作用効果を得る偏光分離素子を実現できる。これは、偏光分離板41と、三角プリズム42を、精度良く、簡便に固着して保持できる構造である。
【0042】
(偏光分離素子の実施の形態3)
図4は、上記実施の形態2について、より好ましい他の実施の形態を示す。ワイヤーグリッドを構成したガラス基材41は、所定ギャップを構成する極薄のスペーサ部材51を介して、プリズム部材である三角プリズム52と接合する。図4は、判りやすくするために3つの部材を分離して記載したが、これらを一体化する事で、より構成しやすい本発明の偏光分離素子を構成できる。
【0043】
(偏光分離素子の実施の形態4)
図5は、上記実施の形態1と同様の作用と効果を得る偏光分離素子について、より簡便で好ましい構成の一例を述べる。プリズム部材である三角プリズム61と62は、互いに接合されて立方体を構成し、上述と同様のプリズム型偏光分離素子を構成する。三角プリズム61の接合面には、偏光分離基材に相当する、良好な偏光分離機能を有するワイヤーグリッド構造63を、直接そのガラス界面上に構成することで、部品点数と光学界面を削減でき、より簡便で量産性の高い偏光分離素子を構成できる。
【0044】
例えば、このようなワイヤーグリッド構造は、以下のプロセスで形成できる。まず、所謂、写真露光技術により、ガラス界面上に微小グリッド構造のパターン形成を行う。これは、感光性樹脂層をコートし、微小グリッドのマスクパターンを露光転写し、エッチングすべき領域と、加工せずに保護すべき領域(レジスト層)を形成する。パターン形成後、イオンエッチングを行い、ガラス界面のワイヤーグリッド形成領域を、所定構造で所定深さまで、彫り込み加工する。この後、アルミなどの誘電体材料を、蒸着、スパッタ、塗布工程などで、彫り込み領域に充填させ、不要部分の誘電体材料をレジスト層を一緒に除去すると良い。
【0045】
この場合、45度−90度−45度の三角プリズム61の界面64について、図6に模式的に示すような形状でワイヤーグリッド構造を形成するとなお良い。すなわち、イオンエッチングで彫り込み加工をする場合に、矢印65の方向から彫り込むのではなく、偏光分離素子として用いる場合に光軸方向となる矢印66の方向から彫り込み加工をすると良い。こうすると、界面67に直交する光軸68に沿って進行する光線について、形成されるワイヤーグリッド構造は、より好ましい格子形状として作用する。これは、界面69についてこれと直交する光軸70に沿って進行する光線についても同様である。
【0046】
例えば、図6に示すワイヤーグリッドを形成した三角プリズムを2個作成し、このワイヤーグリッド面を、互いに1/2の周期間隔を補うようにずらして精度良く接着すれば、より好ましい偏光分離素子を構成できる。このように構成した偏光分離素子75の断面模式図を、図7に示す。三角プリズム76、77は、周期Pでワイヤーグリッド構造78、79が構成された同一のものであり、これを、ワイヤーグリッド構造が互いにP/2ずつ位相がずれるようにして、接合している。こうすれば、1個あたりのプリズムに形成するワイヤーグリッド構造は、可視波長レベルの2倍の周期であっても、これを互いに1/2周期でずらせば、所望とする可視波長レベルのワイヤーグリッド構造を構成でき、より性能が良く、加工しやすい素子を得ることができる。
【0047】
(投写型表示装置の実施の形態1)
図8は本発明の投写型表示装置について、好ましい実施の形態の一例を示す。投写型表示装置は、光源を構成する超高圧水銀灯101、放物面鏡102と、UV−IRカットフィルタ104、色分離合成プリズム105、反射型の空間光変調素子である青用の反射型液晶パネル106、緑用の反射型液晶パネル107、赤用の反射型液晶パネル108、投写レンズ109、本発明の偏光分離素子110、などから構成される。
【0048】
超高圧水銀灯101は、外部から供給される駆動電源によりアーク放電を形成し、発光体103を発生させる。このランプは、高い発光効率で可視全域にバランスの良い発光スペクトルを有するので投写型表示装置に用いる上で最適なランプの1つである。発光体103の放射する光は、放物面鏡102により集光され、以降の液晶パネルを照明する照明光を形成する。照明光から有害な紫外線と赤外線を取り除く目的で、UV−IRカットフィルタ104を用いる。
【0049】
一般に、光源の放射する光を集めて照明光を形成する集光照明手段として、明るさの均一性の高い照明を実現するために、インテグレータと呼ばれる照明用の光学素子が用いられる場合が多い。これは、1組のレンズアレイを組み合わせたものや、ガラスロッドの内部で多重反射を繰り返し明るさの均一性を改善するものである。また、透過型や反射型の偏光を利用する液晶パネルを照明する場合、偏光変換光学系と呼ばれるものが用いられ、光源の直後で直線偏光に近い光を形成し、光損失を改善する方式がある。これは、光源の放射する自然光を、偏波面の直交する2つの偏光(P偏光、S偏光)に分離し、片側の偏波面を90度回転させて互いの偏波面を揃えた後に、これらの光束の光路合成を行う方式である。但し、本発明の投写型表示装置の構成と作用効果を説明する上で、上記インテグレータや偏光変換光学系は関係せず、各実施例はこれらを割愛して説明する。
【0050】
色分離合成プリズム105は、所謂、フィリップス型のプリズム合成体であり、最初の三角プリズム111の所定界面に、青反射のダイクロイック多層膜を形成している。これにより、照明光の青成分だけが反射され、対応する青表示の液晶パネル106を照明し、かつ、当該液晶パネルにて変調されて出射した光を投写レンズ109の方向に導く。また、次の三角プリズム105Aと最初の三角プリズム105Bの接合面には、微小なエアギャップが形成され、別の所定界面に形成された赤反射ダイクロイック多層膜によって反射された赤成分の光を、更に全反射させて、対応する赤表示の液晶パネル108に導く。更に、これらのプリズムとダイクロイック多層膜を直進した緑成分の光は、対応する緑表示の液晶パネル107を照明し、反射変調されて出射する緑の光は、折り返して、投写レンズ109に進行する。
【0051】
偏光分離素子110は、上述した本発明の偏光分離素子の各実施例について、いずれの構成を採用しても良い。例えば、ワイヤーグリッドの偏光分離層112を、2つの三角プリズム113、114を用いて狭持した立方体プリズム型の構成を図示している。
【0052】
偏光分離素子110に入射した光は、そのS偏光成分のみを反射し、液晶パネル106、107、108を照明する光を形成する。各々の液晶パネルでは、外部から供給される駆動信号に応じた光学像が形成され、黒表示部分はS偏光で入射した光をS偏光のまま折り返し、白表示部分はS偏光で入射した光をP偏光の状態まで偏波面を回転させて折り返す。中間の階調は、偏波面の回転が90度以下であり、P偏光成分として取り出される光量に応じた明るさとなる。変調されて液晶パネルから出射した光は、P偏光成分は、偏光分離素子110を直進し、投写レンズに入射して白表示となる。S偏光成分は、偏光分離層112で反射されて光源側に戻る。従って、黒表示となる。
【0053】
以上述べた構成は、反射型液晶パネルを用いた投写型表示装置として、一般的であるが、本発明の偏光分離素子の構成が新しく、この作用効果により、より優れた投写型表示装置を構成できる。
【0054】
例えば、図1に示した偏光分離素子を用いた場合、平板型のワイヤーグリッド偏光子を用いるので、この利点を発揮できる。つまり、入射角依存が小さく、スキュー光線に対する偏波面の捻れを発生しないので、コントラストと色むらの均一性が優れた画像を提供できる。また、平板型の偏光子であっても、前後を三角プリズムで挟み込み、全体として立方体の構造をとるので、斜めに挿入したガラス基材の屈折による非点隔差により、投写画像の解像度が劣化することを抑制できる。
【0055】
尚、45度に斜め挿入した平板型のワイヤーグリッド偏光子を単独で用いた場合であっても、その反射経路を結像系に利用すれば、非点隔差の問題は発生しない。但し、この場合、図8と光学レイアウトを変更し、P偏光を照明光側に利用し、S偏光を変調された光の出射側に利用する必要がある。しかし、これは、以下の点で表示コントラストが不利になり、白黒のメリハリのついた投写画像を提供できないという、別の新たな問題を生じる。その理由を以下に述べる。
【0056】
一般に、偏光分離素子は、透過させるP偏光の弁別比に比較し、反射させるS偏光の弁別比を高くできる特徴がある。これは、誘電体多層膜を利用した場合であっても、ワイヤーグリッドを利用した場合であっても、同様である。従って、反射されるS偏光を結像系に利用するように偏光分離素子を配置すると、黒表示として液晶パネルから出射した不要なP偏光成分が、大部分について偏光分離層を透過して除去されるものの、僅かな成分がS偏光と同様に反射されて投写レンズ側に進行し、これが黒浮き表示を生じてコントラストの低下を招く。これに対し、図8に表示したように、透過するP偏光を結像系に利用する構成は、コントラストを高くする上で有利である。つまり、液晶パネルから黒表示成分として出射する不要なS偏光成分の光を、より高い効率で反射し、光源側に戻して投写レンズに到達しないようにできる。結果として、黒浮きを抑制できる。以上の観点から、ワイヤーグリッドを利用した平板型の偏光分離素子を用いた場合、ガラス基材の屈折による非点隔差の問題は重大であり、これを改善できる本発明の偏光分離素子の構成は大きな価値がある。
【0057】
図5に示した偏光分離素子を用いた場合、作用効果は、上述と同様であり、ワイヤグリッド構造を内蔵したプリズム型の偏光分離素子をより簡便に構成できるので利点がある。
【0058】
(投写型表示装置の実施の形態2)
図9は、図8で述べた実施の形態1に対し、更に好ましい本発明の投写型表示装置の構成の一例を示す。上述した本発明の偏光分離素子を用いると共に、図8と同じ番号で指示したものは、同じ構成である。この実施例では、偏光分離素子110の照明光入射側に、プリ偏光板121を配置し、投写レンズ109側に、不要光を除去する為の偏光板122を配置している。偏光板121は、偏光分離素子110に対し、必要なS偏光成分だけを通過させ、偏光板122は、偏光分離素子110に対し、必要なP偏光成分だけを通過させる。本構成は、追加して配置して2枚の偏光板の作用により、よりコントラストが高く、黒浮きの少ない投写型表示装置を構成できる。
【0059】
【発明の効果】
以上述べたように本発明の偏光分離素子と、これを用いた投写型表示装置は、非点隔差を発生させず優れた解像度性能を実現できる、入射角依存やスキュー光線による偏波面の捻れが無くコントラストの高い画像を提供できる、など、多くの優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の偏光分離素子の一例を示す略構成図
【図2】本発明の偏光分離素子の他の構成例を示す断面模式図
【図3】本発明の偏光分離素子の他の一例を示す略構成図
【図4】本発明の偏光分離素子の他の一例を示す略構成図
【図5】本発明の偏光分離素子の他の一例を示す略構成図
【図6】本発明の偏光分離素子を作成する際の加工方向を示す略線図
【図7】本発明の偏光分離素子の他の構成例を示す断面模式図
【図8】本発明の投写型表示装置の一例を示す略構成図
【図9】本発明の投写型表示装置の他の一例を示す略構成図
【図10】従来の偏光分離素子の一例を示す略構成図
【図11】従来の偏光分離素子の他の一例を示す略構成図
【図12】従来の投写型表示装置の一例を示す略構成図
【符号の説明】
11、21 偏光分離板
12、13、42、43、52、61、62、76、77 三角プリズム
22、23 台形プリズム
41 ガラス基材
44、63、78、79 ワイヤーグリッド構造
51 スペーサ部材
101 超高圧水銀灯
102 放物面鏡
103 発光体
104 UV−IRカットフィルタ
105 色分離合成プリズム
106、107、108 反射型液晶パネル
109 投写レンズ
110 偏光分離素子
121 プリ偏光板
122 偏光板
Claims (4)
- 入射する光を透過するP偏光と反射されるS偏光に分離する偏光分離素子であって、当該偏光分離素子は2つのプリズム部材を接合してなり、前記プリズム部材の少なくとも1つの接合面に、微小な金属格子構造を配列してなるワイヤーグリッド型の偏光分離層を形成し、プリズム接合面に金属細線を埋め込む彫り込みグリッド、あるいは、金属細線を形成する積層グリッドのいずれかを形成するに当たり、その加工方向を前記接合面の法線方向ではなく、当該接合面に入射させる光線の光軸方向から加工することを特徴とする偏光分離素子。
- 入射する光を透過するP偏光と反射されるS偏光に分離する偏光分離素子であって、当該偏光分離素子は2つのプリズム部材を接合してなり、前記プリズム部材の少なくとも1つの接合面に、微小な金属格子構造を配列してなるワイヤーグリッド型の偏光分離層を形成し、2つのプリズムの接合面には、いずれも周期Pのワイヤーグリッド構造を形成し、これを、互いに位相がP/2ずつずれるように接合させて、P/2周期のワイヤーグリッド構造とすることを特徴とする偏光分離素子。
- 光源と、前記光源の放射する光を集めて照明光を形成する集光照明手段と、請求項1記載の偏光分離素子と、偏光の変化を利用して光学像を形成する反射型の空間光変調素子と、投写レンズ、から構成され、前記偏光分離素子は、前記空間光変調素子を照明する光の光路と、前記空間光変調素子で変調された出射光が前記投写レンズに到る光路に配置されて前記照明光と前記出射光の光路弁別を行うと共に、出射光の偏光に応じて投写レンズに到る有効光束の制御を行い投写画像を形成することを特徴とする投写型表示装置。
- 光源と、前記光源の放射する光を集めて照明光を形成する集光照明手段と、請求項2記載の偏光分離素子と、偏光の変化を利用して光学像を形成する反射型の空間光変調素子と、投写レンズ、から構成され、前記偏光分離素子は、前記空間光変調素子を照明する光の光路と、前記空間光変調素子で変調された出射光が前記投写レンズに到る光路に配置されて前記照明光と前記出射光の光路弁別を行うと共に、出射光の偏光に応じて投写レンズに到る有効光束の制御を行い投写画像を形成することを特徴とする投写型表示装置。
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