JP3915190B2 - 血圧監視装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、生体の動脈内を伝播する脈波の脈波伝播情報に基づいて、生体の血圧を監視する血圧監視装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
生体の動脈内を伝播する脈波の脈波伝播情報として、所定の2部位間の伝播時間DTや伝播速度VM (m/s )などが知られており、このような脈波伝播情報は、所定の範囲内では生体の血圧値BP(mmHg)と略比例関係を有することが知られている。そこで、予め測定される生体の血圧値BPと脈波伝播情報から、たとえばEBP=α(DT)+β(但しαは負の値)、或いはEBP=α(VM )+β(但しαは正の値)で表されるような関係式における係数α及びβを予め決定し、その関係式から、逐次検出される伝播速度情報に基づいて、推定血圧値EBPを求めて生体の血圧値を監視し、その推定血圧値EBPの異常時にはカフによる血圧測定を起動させる血圧監視装置が提案されている。
【0003】
【発明が解決すべき課題】
ところで、上記生体の血圧値と脈波伝播情報との関係は、心筋の状態などの中枢側の事情や、末梢血管硬さや血流抵抗の変化などの末梢側の事情の影響を受けて変化することから、異常判定の信頼性を高める目的で推定血圧値の異常を判定するための判断基準値を正常血圧値から充分に離れた値に設定する必要があるので、急激な血圧変動などに対しては血圧測定手段による血圧測定起動が遅れて、必ずしも血圧監視精度が充分に得られない場合があった。
【0004】
本発明は以上のような事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、生体の動脈内を伝播する脈波の伝播情報に基づいて生体の血圧値を監視する血圧監視装置において、高い血圧監視精度が得られるようにすることにある。
【0005】
本発明者は以上の事情を背景として種々検討を重ねた結果、血液循環動態の中枢側の情報として心拍周期、末梢側の情報として血液中の血球成分の割合(%)として表されるヘマトクリット値および末梢血管の一拍あたりの血流量を表す脈波面積を用い、その心拍周期、ヘマトクリット値、および脈波面積の変化を監視血圧異常判定の条件とすると、生体の血圧異常判定の信頼性を一層高め得ることを見いだした。本発明はこのような知見に基づいて為されたものである。
【0006】
【課題を解決するための第1の手段】
すなわち、かかる目的を達成するための第1発明の要旨とするところは、生体の一部への圧迫圧力を変化させるカフを用いて該生体の血圧値を測定する血圧測定手段と、その血圧測定手段による血圧測定値と生体の脈波伝播情報との間の予め設定された関係から実際の生体の脈波伝播情報に基づいて該生体の推定血圧値を逐次決定する推定血圧値決定手段とを備え、その推定血圧値決定手段により決定された推定血圧値が予め設定された判断基準値を越えたことに基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を起動させる形式の血圧監視装置であって、(a)前記生体の末梢部の脈波を検出する末梢脈波検出手段と、(b)その末梢脈波検出手段により検出された末梢部の脈波から前記生体の血液中のヘマトクリット値を連続的に算出するヘマトクリット値算出手段と、(c)前記推定血圧値が予め設定された判断基準値を越え、且つ前記ヘマトクリット値が予め設定された判断基準値を越えたことに基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を起動させる血圧測定起動手段とを、含むことにある。
【0007】
【第1発明の効果】
このようにすれば、推定血圧値決定手段により決定された推定血圧値が予め設定された判断基準値を越え、且つ末梢脈波検出手段により検出された末梢部の脈波からヘマトクリット値算出手段により算出される末梢側の情報を表すヘマトクリット値が、予め設定された判断基準値を越えたことに基づいて、血圧測定起動手段により前記血圧測定手段による血圧測定が起動させられる。したがって、推定血圧値に加え、ヘマトクリット値の異常が判断されて血圧測定手段による血圧測定が起動される。このヘマトクリット値は手術中あるいは手術後の脱血または人工透析中の循環血漿量の変化等の血液中の血球容積の割合の変化に起因する末梢血管の拡張または収縮による末梢血管抵抗の変化を表しているため、単に推定血圧値が異常であることに基づいて血圧測定手段による血圧測定を起動させる場合に比較して、判断基準値を正常値へ接近させることができ、急激な血圧変動に対しても遅れがなく、確実に血圧値の異常を判定でき、血圧監視の信頼性を高めることができる。
【0008】
【課題を解決するための第2の手段】
かかる目的を達成するための第2発明の要旨とするところは、前記血圧監視装置に、(d)前記生体の心拍周期を決定する心拍周期決定手段と、(e)前記推定血圧値が予め設定された判断基準値を越え、且つ前記ヘマトクリット値および心拍周期の少なくとも一方が予め設定された判断基準値を越えたことに基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を起動させる血圧測定起動手段とがさらに含まれることにある。
【0009】
【第2発明の効果】
このようにすれば、前記推定血圧値が予め設定された判断基準値を越え、且つ中枢側の情報を表す前記心拍周期、および末梢側の情報を表すヘマトクリット値の少なくとも一方が予め設定された判断基準値を越えたことに基づいて血圧測定起動手段により前記血圧測定が起動させられる。従って、推定血圧値および生体の末梢側の事情に加えて中枢側の事情も血圧測定起動の判断基準とされるので、一層判断基準値を正常値に近づけることができる。そのため、一層、急激な血圧変動に対しても遅れがなく、確実に血圧値の異常を判定でき、血圧監視の信頼性を高めることができる。
【0010】
【課題を解決するための第3の手段】
かかる目的を達成するための第3発明の要旨とするところは、前記第2発明の血圧監視装置に、(f)前記末梢脈波検出手段により検出された末梢部の脈波の面積を算出する脈波面積算出手段と、(g)前記推定血圧値が予め設定された判断基準値を越え、且つ前記ヘマトクリット値、心拍周期および脈波面積の少なくとも一つが予め設定された判断基準値を越えたことに基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を起動させる血圧測定起動手段とが、さらに含まれることにある。
【0011】
【第3発明の効果】
このようにすれば、前記推定血圧値が予め設定された判断基準値を越え、且つ中枢側の情報を表す前記心拍周期、および末梢側の情報を表すヘマトクリット値、脈波面積の少なくとも一つが予め設定された判断基準値を越えたことに基づいて血圧測定起動手段により前記血圧測定が起動させられる。従って、推定血圧値が予め設定された判断基準値を越えた場合に、推定血圧値、生体の中枢側の情報である心拍周期および末梢側の情報であるヘマトクリット値に加えて、さらに末梢側の他の情報として末梢血管の一拍あたりの血流量を表す脈波面積が判断されて血圧測定が起動されるので、より一層判断基準値を正常値に近づけることができる。そのため、より一層、急激な血圧変動に対しても遅れがなく、確実に血圧値の異常を判定でき、血圧監視の信頼性を高めることができる。
【0012】
【発明の他の形態】
ここで、好適には、前記生体の脈波伝播情報を検出するための手段として、心電誘導波形の所定部位から末梢側で検出された圧脈波或いは容積脈波の所定部位までの時間差から、伝播時間或いは伝播速度を算出する脈波伝播情報算出手段が設けられる。このようにすれば、動脈上の2部位に圧脈波センサを設ける場合に比較して時間差が大きくなり、測定精度が高められる。
【0013】
また、好適には、前記生体の末梢部位に装着され、末梢部の脈波を検出する末梢脈波検出手段が、生体組織に向かって酸素化ヘモグロビンによる吸光係数と無酸素化ヘモグロビンによる吸光係数が略同じである波長を2波長発光する光源と、その生体組織内で散乱された2波長の散乱光をそれぞれ受光する受光素子を備えた光電脈波センサであり、前記ヘマトクリット値算出手段は、その光電脈波センサの受光素子から出力された一つの波長の散乱光を表す光電脈波信号と、他の一つの波長の散乱光を表す光電脈波信号から、それぞれ交直成分比を算出し、その交直成分比の比に基づいて、予め設定された関係からヘマトクリット値を算出するものである。このようにすれば、一拍毎のヘマトクリット値が容易に検出される利点がある。
【0014】
また、好適には、前記脈波面積算出手段は、上記光電脈波センサにより得られた脈波の面積を、その脈波の周期および振幅により正規化した正規化脈波を算出するものである。このようにすれば、経時変化や個人差が解消される利点がある。
【0015】
また、好適には、前記推定血圧値決定手段により逐次算出された推定血圧値、前記ヘマトクリット値算出手段により逐次算出されたヘマトクリット値、前記心拍周期決定手段により逐次決定された心拍周期、前記脈波面積算出手段により逐次算出された末梢部の脈波面積を、それぞれ対比可能に共通の時間軸に沿ってトレンド表示する表示器が備えられる。このようにすれば、表示器に表示される推定血圧値、ヘマトクリット値、心拍周期、末梢部の脈波面積を、それぞれ対比して見ることにより、血圧測定起動手段による起動作動の根拠を確認することができるとともに、上記血圧測定手段による血圧測定が行われない期間において、生体の循環動態の様子を容易に監視することができる。
【0016】
また、好適には、生体の表皮に貼着された電極を通して心電誘導波形を検出する心電誘導装置を備え、前記心拍周期決定手段は、その心電誘導波形の所定部位たとえばR波間の時間間隔を決定するものである。
【0017】
【発明の好適な実施の形態】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明が適用された血圧監視装置8の回路構成を説明するブロック線図である。
【0018】
図1において、血圧監視装置8は、ゴム製袋を布製帯状袋内に有して、たとえば患者の上腕部12に巻回されるカフ10と、このカフ10に配管20を介してそれぞれ接続された圧力センサ14、切換弁16、および空気ポンプ18とを備えている。この切換弁16は、カフ10内への圧力の供給を許容する圧力供給状態、カフ10内を徐々に排圧する徐速排圧状態、およびカフ10内を急速に排圧する急速排圧状態の3つの状態に切り換えられるように構成されている。
【0019】
圧力センサ14は、カフ10内の圧力を検出して、その圧力を表す圧力信号SPを静圧弁別回路22および脈波弁別回路24にそれぞれ供給する。静圧弁別回路22はローパスフィルタを備え、圧力信号SPに含まれる定常的な圧力すなわちカフ圧Pc を表すカフ圧信号SKを弁別してそのカフ圧信号SKをA/D変換器26を介して電子制御装置28へ供給する。脈波弁別回路24はバンドパスフィルタを備え、圧力信号SPの振動成分であるカフ脈波信号SM1 を周波数的に弁別してそのカフ脈波信号SM1 をA/D変換器30を介して電子制御装置28へ供給する。このカフ脈波信号SM1 は、患者の心拍に同期して図示しない上腕動脈から発生してカフ10に伝達される圧力振動波を示している。
【0020】
上記電子制御装置28は、CPU29、ROM31、RAM33および図示しないI/Oポート等を備えた所謂マイクロコンピュータにて構成されており、CPU29は、ROM31に予め記憶されたプログラムに従ってRAM33の記憶機能を利用しつつ信号処理を実行することにより、I/Oポートから駆動信号を出力して切換弁16および空気ポンプ18を制御する。
【0021】
心電誘導装置34は、生体の所定の部位に貼り着けられる複数の電極36を介して心筋の活動電位を示す心電誘導波、所謂心電図を連続的に検出するものであり、その心電誘導波を示す信号SM2 を前記電子制御装置28へ供給する。なお、この心電誘導装置34は、心臓内の血液を大動脈へ向かって拍出開始する時期に対応する心電誘導波のうちのQ波或いはR波を検出するためのものであることから、第1脈波検出装置として機能している。
【0022】
光電脈波センサとして機能する反射型光電脈波検出プローブ38(以下、単にプローブという)は、生体の末梢部の脈波を検出する末梢脈波検出手段あるいは容積脈波検出手段として機能するものであり、例えば、被測定者のカフの装着されていない側たとえば左手の指尖部などの生体皮膚すなわち体表面40に図示しない装着バンド等により密着した状態で装着され、毛細血管を含む末梢動脈へ伝播した脈波を検出して光電脈波信号SM3 (光電脈波信号SV1 ,SV2 ,SV3 )を出力する。
【0023】
プローブ38は、一方向において開口する容器状のハウジング42と、そのハウジング42の底部内面の外周側に位置する部分に設けられ、LED等から成る複数の第1発光素子44、第2発光素子45および第3発光素子46と、ハウジング42の底部内面の中央部分に設けられ、フォトダイオードやフォトトランジスタ等から成る受光素子47と、ハウジング42内に一体的に設けられて発光素子44、45、46及び受光素子47を覆う透明な樹脂48と、ハウジング42内において発光素子44、45、46と受光素子47との間に設けられ、発光素子44、45、46から前記体表面40に向かって照射された光のその体表面40から受光素子47に向かう反射光を遮光する環状の遮蔽部材50とを備えて構成されている。
【0024】
上記第1発光素子44は、酸素飽和度によりヘモグロビンの吸光係数が影響される第1波長λ1 例えば660nm程度の波長の赤色光を発光し、第2発光素子45は、酸素飽和度によりヘモグロビンの吸光係数が影響されない第2波長λ2 例えば800nm程度の波長の赤外光を発光し、第3発光素子は、酸素飽和度によりヘモグロビンの吸光係数が影響されない第3波長λ3 例えば1300nm程度の波長の赤外光を発光するものである。
【0025】
図2において、1点鎖線は酸素化ヘモグロビン(oxy-hemoglobin) の吸光係数を示し、実線は無酸素化ヘモグロビン(deoxy-hemoglobin)の吸光係数を示している。これらの発光素子44,45,46は、一定時間づつ順番に所定周波数で発光させられると共に、それら発光素子44,45,46から前記体表面40に向かって照射された光の体内の毛細血管が密集している部位からの反射光は共通の受光素子47によりそれぞれ受光される。なお、発光素子44,45,46の発光する光の波長は上記の値に限られず、第1発光素子44は酸素化ヘモグロビンと無酸素化ヘモグロビンとの吸光係数が大きく異なる波長の光を、第2発光素子45および第3発光素子46はそれらの吸光係数が略同じとなる波長の光をそれぞれ発光するものであればよい。
【0026】
図3は、上記プローブ38のハウジング42の、その体表面40に対向する面を見た図である。ハウジング42の中央部には受光素子47が配置されており、前記円環状の遮光部材50が同心位置に固定されているとともに、複数個の第1発光素子44,第2発光素子45および第3発光素子46が、その遮光部材50の外側であって、1点鎖線に示す半径rの同心円に沿って順に配列されている。
【0027】
受光素子47は、その受光量に対応した大きさの光電脈波信号SM3 をローパスフィルタ52を介して出力する。受光素子47とローパスフィルタ52との間には増幅器等が適宜設けられる。ローパスフィルタ52は、入力された光電脈波信号SM3 から脈波の周波数よりも高い周波数を有するノイズを除去し、そのノイズが除去された信号SM3 をデマルチプレクサ54に出力する。
【0028】
デマルチプレクサ54は、電子制御装置28からの信号に従って第1発光素子44,第2発光素子45及び第3発光素子46の発光に同期して切り換えられることにより、前記光電脈波信号SM3 をそれぞれの発光素子44、45、46からの反射光による光電脈波信号に分別する。すなわち、第1波長λ1 660nmの赤色光による光電脈波信号SV1 をサンプルホールド回路56及びA/D変換器58を介して、第2波長λ2 800nmの赤外光による光電脈波信号SV2 をサンプルホールド回路60及びA/D変換器62を介して、第3波長λ3 1300nmの赤外光による光電脈波信号SV3 をサンプルホールド回路68及びA/D変換器66を介して、それぞれ電子制御装置28の図示しないI/Oポートに逐次供給する。
【0029】
サンプルホールド回路56,60,68は、入力された光電脈波信号SV1 ,SV2 ,SV3 をA/D変換器58,62,66へ出力する際に、前回出力した光電脈波信号SV1 ,SV2 ,SV3 についてのA/D変換器58,62,66における変換作動が終了するまでに、次に出力する光電脈波信号SV1 ,SV2 ,SV3 をそれぞれ保持するためのものである。
【0030】
電子制御装置28のCPU29は、RAM33の記憶機能を利用しつつROM31に予め記憶されたプログラムに従って測定動作を実行し、駆動回路64に制御信号SLVを出力して発光素子44,45,46を順次所定の周波数で一定時間づつ発光させる一方、それら発光素子44,45,46の発光に同期して切換信号SCを出力してデマルチプレクサ54を切り換えることにより、前記光電脈波信号SV1 をサンプルホールド回路56に、光電脈波信号SV2 をサンプルホールド回路60に、光電脈波信号SV3 をサンプルホールド回路68にそれぞれ振り分ける。上記CPU29は、血中酸素飽和度SaO2を算出するために予め記憶された演算式から上記光電脈波信号SV1 およびSV2 の振幅値に基づいて生体の血中酸素飽和度SaO2を算出する。さらに上記CPU29は、上記光電脈波信号SV2 およびSV3 の振幅値に基づいて後述する方法によりヘマトクリット値Htを算出する。
【0031】
図4は、上記血圧監視装置8における電子制御装置28の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図4において、血圧測定手段70は、カフ圧制御手段72によってたとえば生体の上腕に巻回されたカフ10の圧迫圧力が所定の目標圧力値PCM(たとえば、180mmHg程度の圧力値)まで急速昇圧させた後に3mmHg/sec程度の速度で徐速降圧させられる徐速降圧期間内において、順次採取される脈波信号SM1 が表す脈波の振幅の変化に基づきよく知られたオシロメトリック法を用いて最高血圧値BPSYS 、平均血圧値PMEAN、および最低血圧値BPDIA などを決定する。
【0032】
心拍周期決定手段73は、心電誘導装置34により得られた心電誘導波形の所定部位間の間隔たとえばR波間隔を計測することにより心拍周期RRを決定する。また、脈波伝播情報算出手段74は、図6に示すように心電誘導装置34により逐次検出される心電誘導波の周期毎に発生する所定の部位たとえばR波から、プローブ38により逐次検出される光電脈波信号SM3 (すなわち、SV1 あるいはSV2 あるいはSV3 )の周期毎に発生する所定の部位たとえば立ち上がり点或いは最大傾斜点までの時間差(脈波伝播時間)DTRPを一拍毎に逐次算出し、予め記憶される数式1から、被測定者の動脈内を伝播する脈波の伝播速度VM (m/sec )を逐次算出する。尚、数式1において、L(m)は左心室から大動脈を経て前記プローブ38が装着される部位までの距離であり、TPEP (sec)は心電誘導波形のR波から光電脈波の下ピーク点までの前駆出期間である。これらの距離Lおよび前駆出期間TPEP は定数であり、予め実験的に求められた値が用いられる。
【0033】
【数1】
VM =L/(DTRP−TPEP )
【0034】
対応関係決定手段76は、血圧測定手段70により測定された最高血圧値BPSYS とそれぞれの血圧測定期間内における脈波伝播時間DTRP或いは脈波伝播速度VM 、たとえばそのカフ昇圧期間内における脈波伝播時間DTRP或いは伝播速度VM の平均値に基づいて、数式2或いは数式3で示される脈波伝播時間DTRP或いは伝播速度VM と最高血圧値BPSYS との関係式における係数α及びβを、予め決定する。なお、上記最高血圧値BPSYS に代えて、血圧測定手段70により測定された平均血圧値BPMEAN或いは最低血圧値BPDIA と血圧測定期間内における脈波伝播時間DTRP或いは伝播速度VM との関係が求められてもよい。要するに、監視(推定)血圧値EBPを最高血圧値とするか、平均血圧値とするか、最低血圧値とするかによって選択される。
【0035】
【数2】
EBP=α(DTRP)+β
(但し、αは負の定数、βは正の定数)
【0036】
【数3】
EBP=α(VM )+β
(但し、αは正の定数、βは正の定数)
【0037】
推定血圧値決定手段78は、生体の血圧値とその生体の脈波伝播時間DTRP或いは伝播速度VM との間の上記対応関係(数式2および数式3)から、脈波伝播情報算出手段74により逐次算出される生体の実際の脈波伝播時間DTRP或いは伝播速度VM に基づいて推定血圧値EBPを逐次決定する。決定された推定血圧値EBPは、図7に示すように、前述の心拍周期RRおよび後述する脈波面積VR、酸素飽和度SaO2およびヘマトクリット値Htと共に表示器32に共通の時間軸に沿って対比可能にトレンド表示される。
【0038】
脈波面積算出手段80は、プローブ38により得られた光電脈波の面積Sをその1周期Wおよび振幅Lに基づいて正規化して算出し、正規化脈波面積VRを算出する。すなわち、上記光電脈波は、図5に示すように、数ミリ或いは十数ミリ毎のサンプリング周期毎に入力される光電脈波の大きさを示す点の連なりにより構成されており、その1周期W内において光電脈波を積分(加算)することにより光電脈波の面積Sが求められた後、S/(W×L)なる演算が行われることにより正規化脈波面積VRが算出される。この正規化脈波面積VRは、その1周期Wと振幅Lとによって囲まれる矩形内における面積割合を示す無次元の値であり、%MAPとしても称される。この脈波面積算出手段80において面積Sを算出するために用いられる光電脈波信号は、第1波長λ1 の反射光による光電脈波信号SV1 、第2波長λ2 の反射光による光電脈波信号SV2 、第3波長λ3 の反射光による光電脈波信号SV3 のいずれも用いられ得るが、酸素飽和度により吸光係数が影響されず、且つ吸光係数の絶対値が比較的大きい光電脈波信号SV2 が好適に用いられる。
【0039】
周波数解析手段82は、高速フ−リエ変換法を利用した周波数解析を予め設定された所定の区間毎に施すことにより、受光素子47から出力された光電脈波信号SV1 ,SV2 ,SV3 から、それぞれの光電脈波信号SV1 ,SV2 ,SV3 の交流成分および直流成分を決定する。すなわち、その所定区間毎の第1光電脈波信号SV1 からその交流成分AC1 および直流成分DC1 を、第2光電脈波信号SV2 からその交流成分AC2 および直流成分DC2 を、第3光電脈波信号SV3 からその交流成分AC3 および直流成分DC3 をそれぞれ逐次決定する。上記第1光電脈波信号SV1 ,第2光電脈波信号SV2 および第3光電脈波信号SV3 は、生体組織の毛細血管内の血液容積の心拍に同期した脈動に同期して変化させられるので、上記交流成分AC1 ,AC2 ,AC3 は、生体の脈拍数PR(1/分)すなわち脈拍周波数PF(Hz)に相当する周波数成分の信号電力(ワット)として得られ、上記直流成分DC1 ,DC2 ,DC3 は、直流に相当する周波数成分の信号電力(ワット)として得られる。図8には、上記周波数解析によって得られた光電脈波信号の例として第1光電脈波信号SV1 の周波数スペクトルの例が示されている。
【0040】
上記周波数解析手段82により周波数解析が行われる区間は、測定対象の生体の呼吸周期TREの半周期或いは1周期の整数倍、たとえば脈拍周期の2或いは4倍の時間の整数倍の時間に設定される。動脈内血圧は呼吸周期に同期して変動することが知られており、これにより生体組織の毛細血管内の血液容積も脈拍に同期して脈動しつつ上記呼吸周期に同期してうねり変動を生じることから、前記光電脈波信号SV1 ,SV2 ,SV3 も図9に示すようにその呼吸周期に同期する変動を受ける。そのため、上記のようにすれば、区間内の信号が平均化されて少なくとも呼吸性変動の影響が好適に解消される。
【0041】
交直成分比算出手段84は、上記周波数解析手段82により決定された光電脈波信号SV1 ,SV2 ,SV3 の交流成分AC1 ,AC2 ,AC3 および直流成分DC1 ,DC2 ,DC3 から、その交直成分比(AC1 /DC1 ),(AC2 /DC2 ),(AC3 /DC3 )をそれぞれ算出する。
【0042】
酸素飽和度算出手段85は、たとえば予め設定された数式4に示す関係から、酸素化ヘモグロビンと無酸素化ヘモグロビンとの吸光係数差が大きい波長λ1 における交直成分比および酸素化ヘモグロビンと無酸素化ヘモグロビンとの吸光係数が略同じとなる波長λ2 における交直成分比を算出する。たとえば、前記第1光電脈波信号SV1 の交直成分比(AC1 /DC1 )と第2光電脈波信号SV2 の交直成分比(AC2 /DC2 )を算出し、たとえば数式4に示す予め求められた関係から、その比R1 ={(AC1 /DC1 )/(AC2 /DC2 )}に基づいて、前記生体の酸素飽和度SaO2を算出する。なお、数式4において、Aは傾きを示す負の定数であり、Bは切片を示す定数である。
【0043】
【数4】
SaO2=A×R1 +B
【0044】
ヘマトクリット値算出手段86は、末梢脈波検出手段として機能しているプロ−ブ38により検出された末梢部の脈波から生体の血液中のヘマトクリット値Htを連続的に算出する。すなわち、交直成分比算出手段84において算出された酸素化ヘモグロビンと無酸素化ヘモグロビンとの吸光係数が略同じとなる2つの波長すなわち第2光電脈波信号SV2 の波長λ2 (800nm)および第3光電脈波信号の波長λ3 (1300nm)における交直成分比(AC2 /DC2 )および(AC3 /DC3 )より、その比R2 ={(AC2 /DC2 )/(AC3 /DC3 )}を算出し、その比R2 に基づいて例えば図10に示すような予め決定された関係から前記生体の血液中の血球濃度(%)を表す値であるヘマトクリット値Htを算出する。このヘマトクリット値Htは血圧と負の相関関係があることが知られており、ヘマトクリット値Htの変動より血圧の変動が推定できるものである。
【0045】
血圧測定起動手段92は、推定血圧値決定手段78により決定された推定血圧値EBPが予め設定された判断基準値を越え、且つ上記ヘマトクリット値Ht、心拍周期RRおよび脈波面積VRの少なくとも一つが予め設定された判断基準値を越えたことに基づいて前記血圧測定手段70による血圧測定を起動させる。すなわち、血圧測定起動手段92は、推定血圧値決定手段78により決定された推定血圧値EBPが予め設定された判断基準値たとえば血圧測定手段70による前回のカフによる血圧測定時を基準としてそれから所定値或いは所定割合以上変化したことを以て異常判定する推定血圧値異常判定手段87、ヘマトクリット値算出手段86により決定されたヘマトクリット値Htが予め設定された判断基準値たとえば血圧測定手段70による前回のカフによる血圧測定時を基準としてそれから所定値或いは所定割合以上変化したことを以て異常判定するヘマトクリット値異常判定手段90、心拍周期決定手段73により決定された心拍周期RRが予め設定された判断基準値たとえば血圧測定手段70による前回のカフによる血圧測定時を基準としてそれから所定値或いは所定割合以上変化したことを以て異常判定する心拍周期異常判定手段88、脈波面積算出手段80により算出された脈波面積VRが予め設定された判断基準値たとえば血圧測定手段70による前回のカフによる血圧測定時を基準としてそれから所定値或いは所定割合以上変化したことを以て異常判定する脈波面積異常判定手段89を備え、上記推定血圧値異常判定手段87により推定血圧値EBPの異常が判定され、且つヘマトクリット値異常判定手段90によりヘマトクリット値Htの異常が判定されるか、心拍周期異常判定手段88により心拍周期RRの異常が判定されるか、或いは脈波面積異常判定手段89により脈波面積VRの異常が判定された場合に、前記血圧測定手段70による血圧測定を起動させる。
【0046】
図11は、上記血圧監視装置8の電子制御装置28における制御作動の要部を説明するフローチャートである。図11において、ステップSA1(以下、ステップを省略する。)において図示しないフラグ、カウンタ、レジスタをクリアする初期処理が実行された後、脈波伝播情報算出手段74に対応するSA2では、カフ昇圧期間において、心電誘導波形のR波からプローブ38により逐次検出される光電脈波の立ち上がり点までの時間差すなわち伝播時間DTRPが決定され、前記数式1からその伝播時間DTRPに基づいて脈波伝播速度VM (m/sec )が算出される。
【0047】
次いで、前記カフ圧制御手段72に対応するSA3およびSA4では、切換弁16が圧力供給状態に切り換えられ且つ空気ポンプ18が駆動されることにより、血圧測定のためにカフ10の急速昇圧が開始されるとともに、カフ圧PC が180mmHg程度に予め設定された目標圧迫圧PCM以上となったか否かが判断される。このSA4の判断が否定された場合は、上記SA2以下が繰り返し実行されることによりカフ圧PC の上昇が継続される。
【0048】
しかし、カフ圧PC の上昇により上記SA4の判断が肯定されると、前記血圧測定手段70に対応するSA5において、血圧測定アルゴリズムが実行される。すなわち、空気ポンプ18を停止させ且つ切換弁16を徐速排圧状態に切り換えてカフ10内の圧力を予め定められた3mmHg/sec程度の緩やかな速度で下降させることにより、この徐速降圧過程で逐次得られる脈波信号SM1 が表す脈波の振幅の変化に基づいて、良く知られたオシロメトリック方式の血圧値決定アルゴリズムに従って最高血圧値BPSYS 、平均血圧値BPMEAN、および最低血圧値BPDIA が測定されるとともに、脈波間隔に基づいて脈拍数などが決定されるのである。そして、その測定された血圧値および脈拍数などが表示器32に表示されるとともに、切換弁16が急速排圧状態に切り換えられてカフ10内が急速に排圧される。
【0049】
次に、前記対応関係決定手段76に対応するSA6では、SA2において求められたカフ昇圧期間内の脈波伝播時間DTRP或いは脈波伝播速度VM の平均値と、SA5において測定されたカフ10による血圧値BPSYS 、BPMEAN、またはBPDIA との間の対応関係が求められる。すなわち、SA5において血圧値BPSYS 、BPMEAN、およびBPDIA が測定されると、それら血圧値BPSYS 、BPMEAN、またはBPDIA のうちの1つと、脈波伝播時間DTRP或いは脈波伝播速度VM とに基づいて、脈波伝播時間DTRP或いは脈波伝播速度VM と推定血圧値EBPとの間の対応関係(数式2或いは数式3)が決定されるのである。
【0050】
上記のようにして脈波伝播情報血圧対応関係が決定されると、SA7において、心電誘導波形のR波および光電脈波信号SM3 が入力されたか否かが判断される。このSA7の判断が否定された場合はSA7が繰り返し実行されるが、肯定された場合は、前記脈波伝播情報算出手段74に対応するSA8において、新たに入力された心電誘導波形のR波および光電脈波信号SM3 についての脈波伝播時間DTRPおよび脈波伝播速度VM がSA2と同様にして算出される。
【0051】
そして、推定血圧値決定手段78に対応するSA9において、上記SA6において求められた伝播情報血圧対応関係から、上記SA8において求められた脈波伝播時間DTRP或いは脈波伝播速度VM に基づいて、推定血圧値EBP(最高血圧値、平均血圧値、或いは最低血圧値)が決定され、且つ一拍毎の推定血圧値EBPをトレンド表示させるために表示器32に出力される。
【0052】
次いで、前記血圧測定起動手段92に対応するSA10では、たとえば図12に示す血圧測定起動判定ルーチンが実行されることにより、推定血圧値EBPが予め設定された判断基準値を越え、且つ前記ヘマトクリット値Ht、心拍周期RRおよび脈波面積VRの少なくとも一つが予め設定された判断基準値を越えたことに基づいて前記血圧測定手段70による血圧測定を起動させる。
【0053】
図12において、前記心拍周期決定手段73に対応するSB1では、心電誘導装置34により得られた心電誘導波形から心拍周期RRが算出され、図7に示すように表示器32に表示された後、前記心拍周期異常判定手段88に対応するSB2では、心拍周期RRが異常であるか否かが、たとえば前回のカフによる血圧測定時を基準としてそれから所定値或いは所定割合(たとえば上下へ5%)以上変化した状態が所定の拍数たとえば20拍以上連続したことを以て判定される。このSB2の判断が否定された場合はSB4以下が直接的に実行されるが、肯定された場合は、SB3において上記心拍周期RRの異常を示すためのRRフラグがオン状態とされる。
【0054】
次いで、前記脈波面積算出手段80に対応するSB4では、プローブ38により得られた光電脈波信号SV2 から正規化脈波面積VRが算出され、図7に示すように表示器32に表示された後、SB5において、末梢部で検出された光電脈波が正常であるか否かが判断される。このSB5は、光電脈波の形状が異常、たとえば基線の傾斜が所定以上であるもの、或いは校正が入ることによって脈波形状が途中でずれているものなどを除去するためのものである。上記SB5の判断が否定された場合はSB13以下が実行されるが、肯定された場合には、SB6以下が実行される。
【0055】
前記脈波面積異常判定手段89に対応するSB6では、SB4において算出された正規化脈波面積VRが異常であるか否かが、たとえば前回のカフによる血圧測定時を基準としてそれから所定値或いは所定割合(たとえば上下へ3%)以上変化した状態が所定の拍数たとえば20拍以上連続したことを以て判定される。このSB6の判断が否定された場合はSB8以下が直接的に実行されるが、肯定された場合は、SB7において上記脈波面積VRの異常を示すためのVRフラグがオン状態とされる。
【0056】
続くヘマトクリット値算出手段86に対応するSB8では、たとえば、図13に示す酸素飽和度およびヘマトクリット値算出ル−チンが実行されることにより、酸素飽和度SaO2と共にヘマトクリット値Htが算出される。
【0057】
図13において、SC1では、第1波長λ1 の後方散乱光を表す第1光電脈波信号SV1 ,第2波長λ2 の後方散乱光を表す第2光電脈波信号SV2 および第3波長λ3 の後方散乱光を表す第3光電脈波信号SV3 が読み込まれる。次いで、SC2においてタイマカウンタCTの内容に「1」が加算された後、SC3において、タイマカウンタCTの内容が予め設定された判断基準時間T0 以上となったか否かが判断される。この判断基準時間T0 は、後述のSC4の周波数解析の対象となる単位区間の時間幅に対応するものであり、呼吸周期TREの半周期の整数倍たとえば測定対象である生体の脈拍周期の2或いは4倍の時間の整数倍の時間に設定されている。
【0058】
当初は上記SC3の判断が否定されるので、SC1以下が繰り返し実行されることにより光電脈波信号SV1 ,SV2 ,SV3 が連続的に読み込まれる。そして、それら光電脈波信号SV1 ,SV2 ,SV3 が連続的に読み込まれるうちにSC3の判断が肯定されると、前記周波数解析手段82に対応するSC4において、上記の単位区間内の第1光電脈波信号SV1 ,第2光電脈波信号SV2 および第3光電脈波信号SV3 に対して周波数解析処理がそれぞれ実行されることにより、第1光電脈波信号SV1 の交流成分AC1 (信号電力値)および直流成分DC1 (信号電力値)、第2光電脈波信号SV2 の交流成分AC2 (信号電力値)および直流成分DC2 (信号電力値)、第3光電脈波信号SV3 の交流成分AC3 (信号電力値)および直流成分DC3 (信号電力値)が抽出される。
【0059】
次いで、前記交直成分比算出手段84に対応するSC5では、上記SC4において抽出された光電脈波信号SV1 ,SV2 ,SV3 の交流成分AC1 ,AC2 ,AC3 および直流成分DC1 ,DC2 ,DC3 から、その第1光電脈波信号SV1 の交直成分比AC1 /DC1 ,第2光電脈波信号SV2 の交直成分比AC1 /DC1 および第3光電脈波信号SV3 の交直成分比AC3 /DC3 がそれぞれ算出される。
【0060】
次いで、前記酸素飽和度算出手段85に対応するSC6では、前述の数式4に基づいて、第1光電脈波信号SV1 の交直成分比AC1 /DC1 と第2光電脈波信号SV2 の交直成分比AC2 /DC2 との比R1 ={(AC1 /DC1 )/(AC2 /DC2 )}に基づいて、生体の酸素飽和度SaO2が算出される。
【0061】
次いで、前記ヘマトクリット値算出手段86に対応するSC7では、第2光電脈波信号SV2 の交直成分比AC2 /DC2 と第3光電脈波信号SV3 の交直成分比AC3 /DC3 との比R2 ={(AC2 /DC2 )/(AC3 /DC3 )}に基づいて、たとえば図10に示すような予め決定された関係から生体のヘマトクリット値Htが算出される。
【0062】
続く、SC8では、SC6およびSC7において算出された生体の酸素飽和度SaO2 およびヘマトクリット値Htが、例えば図7に示すように表示器32に表示され、続くSC9では、タイマカウンタCTの内容が「0」にクリアされた後、本ル−チンが終了させられる。
【0063】
図12に戻って、前記ヘマトクリット値異常判定手段90に対応するSB9では、SB8(SC7)において算出されたヘマトクリット値Htが異常であるか否かが、たとえば前回のカフによる血圧測定時を基準としてそれから所定値或いは所定割合(たとえば上下へ20%)以上変化した状態が所定の拍数たとえば20拍以上連続したことを以て判定される。このSB9の判断が否定された場合はSB11以下が直接的に実行されるが、肯定された場合は、SB10において上記ヘマトクリット値Htの異常を示すためのHtフラグがオン状態とされる。
【0064】
次いで、前記推定血圧値異常判定手段87に対応するSB11では、SA9において決定された推定血圧値EBPが異常であるか否かが、たとえば前回のカフによる血圧測定時を基準としてそれから所定値或いは所定割合(たとえば上下へ30%)以上変化した状態が所定の拍数たとえば20拍以上連続したことを以て判定される。このSB11の判断が否定された場合はS13以下が直接的に実行されるが、肯定された場合は、SB12において上記推定血圧値EBPの異常を示すためのEBPフラグがオン状態とされる。
【0065】
そして、SB13では、EBPフラグがオン状態とされ且つRRフラグ、VRフラグおよびHtフラグの少なくとも一つがオン状態とされているか否かが判断される。このSB13の判断が否定された場合はSA11が実行される。このSA11では、SA5においてカフ10による血圧測定が行われてからの経過時間が予め設定された15乃至20分程度の設定周期すなわちキャリブレーション周期を経過したか否かが判断される。このSA11の判断が否定された場合には、前記SA7以下の血圧監視ルーチンが繰り返し実行され、推定血圧値EBPが1拍毎に連続的に決定され、且つその決定された推定血圧値EBPが表示器32において時系列的にトレンド表示される。しかし、このSA11の判断が肯定された場合には、前記対応関係を再決定するために前記SA2以下のカフキャリブレーションルーチンが再び実行される。
【0066】
しかし、上記SB13の判断が肯定された場合は、SA12が実行されて推定血圧値の異常表示が表示器32において行われた後、対応関係を再決定させるためにSA2以下が再び実行されることにより、カフによる血圧測定が起動される。
【0067】
上述のように本実施例によれば、推定血圧値決定手段78(SA9)により決定された推定血圧値EBPが予め設定された判断基準値を越え、且つ末梢脈波検出手段として機能するプロ−ブ38により検出された末梢部の脈波からヘマトクリット値算出手段86(SC7)により算出される末梢側の情報の一つを表すヘマトクリット値Htが予め設定された判断基準値を越えた場合は、血圧測定起動手段92(SB1乃至SB13)により血圧測定手段70による血圧測定が起動させられる。したがって、推定血圧値EBPに加え、ヘマトクリット値Htの異常が判断されて血圧測定が起動される。このヘマトクリット値Htは手術中あるいは手術後の脱血または人工透析中の循環血漿量の変化等の血液中の血球容積の割合の変化に起因する末梢血管の拡張または収縮による末梢血管抵抗の変化を表しているため、単に推定血圧値EBPが異常であることに基づいて血圧測定手段による血圧測定を起動させる場合に比較して、判断基準値を正常値へ接近させることができ、急激な血圧変動に対しても遅れがなく、確実に血圧値の異常を判定でき、血圧監視の信頼性を高めることができる。
【0068】
また、本実施例によれば、推定血圧値EBPが予め設定された判断基準値を越え、且つ中枢側の情報を表す心拍周期RR、および末梢側の情報を表すヘマトクリット値Htの少なくとも一方が予め設定された判断基準値を越えた場合にも、血圧測定起動手段92(SB1乃至SB13)により血圧測定が起動させられる。従って、推定血圧値EBPおよび生体の末梢側の事情に加えて中枢側の事情も血圧測定起動の判断基準とされるので、一層判断基準値を正常値に近づけることができる。そのため、一層、急激な血圧変動に対しても遅れがなく、確実に血圧値の異常を判定でき、血圧監視の信頼性を高めることができる。
【0069】
また、本実施例によれば、推定血圧値決定手段78(SA9)により決定された推定血圧値EBPが予め設定された判断基準値を越え、且つ心拍周期決定手段73(SB1)により決定された中枢側の情報を表す心拍周期RR、ヘマトクリット値算出手段86(SC7)により決定された末梢側の情報を表すヘマトクリット値Ht、脈波面積算出手段80(SB4)により決定された末梢側の情報を表す脈波面積VRの少なくとも一つが予め設定された判断基準値を越えたことに基づいて、血圧測定起動手段92(SB1乃至SB13)により血圧測定手段70による血圧測定が起動させられる。したがって、単に、推定血圧値が異常であることに基づいて血圧測定手段による血圧測定を起動させる場合に比較して、判断基準値を正常値へ接近させることができ、急激な血圧変動に対しても遅れがなく、確実に血圧値の異常を判定でき、血圧監視の信頼性を高めることができる。
【0070】
また、本実施例によれば、脈波伝播情報を検出するための手段として、心電誘導波形の所定部位たとえばR波から、生体の末梢部位に装着されたプロ−ブ38により検出された容積脈波の所定部位たとえば立ち上がり点あるいは最大傾斜点までの時間差DTRPから、伝播時間DTRP或いは伝播速度VM を算出する脈波伝播情報算出手段74が設けられていた。従って、動脈上の2部位に圧脈波センサを設ける場合に比較して時間差が大きくなり、測定精度が高められる。
【0071】
また、本実施例によれば、生体の末梢部位に装着され、末梢部の脈波を検出する末梢脈波検出手段として機能するプロ−ブ38は、生体組織に向かって酸素化ヘモグロビンによる吸光係数と無酸素化ヘモグロビンによる吸光係数が略同じである波長を発光する光源である第2発光素子45(λ2 800nm)および第3発光素子46(λ3 1300nm)と、その生体組織内で散乱された2波長λ2 ,λ3 の散乱光をそれぞれ受光する受光素子47を備えた光電脈波センサであり、ヘマトクリット値算出手段86は、そのプロ−ブ38の受光素子47から出力された第2波長λ2 800nmの散乱光を表す光電脈波信号SV2 と、第3波長λ3 の散乱光を表す光電脈波信号SV3 から、それぞれ交直成分比を算出し、その交直成分比の比に基づいて、図10に示すような予め設定された関係からヘマトクリット値Htを算出するものであった。従って、一拍毎のヘマトクリット値Htが容易に検出される利点がある。
【0072】
また、本実施例によれば、前記脈波面積算出手段80(SB4)は、上記光電脈波信号の面積Sを、その脈波の周期Wおよび振幅Lにより正規化した正規化脈波面積VRを算出するものである。従って、経時変化や個人差が解消される利点がある。
【0073】
また、本実施例によれば、推定血圧値決定手段78(SA9)により逐次算出された推定血圧値EBP、心拍周期決定手段73(SB1)により逐次決定された心拍周期RR、脈波面積算出手段80(SB4)により逐次算出された末梢部の脈波面積VR、ヘマトクリット値算出手段86(SC7)により逐次算出されたヘマトクリット値Htを、それぞれ対比可能に共通の時間軸に沿ってトレンド表示する表示器32が備えられるので、表示器32に表示される推定血圧値EBP、心拍周期RR、末梢部の脈波面積VRおよびヘマトクリット値Htを、それぞれ対比して見ることにより、血圧測定起動手段92による起動作動の根拠を確認することができるとともに、上記血圧測定手段70による血圧測定が行われない期間において、生体の循環動態の様子を容易に監視することができる。
【0074】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0075】
たとえば、前述の実施例では、プロ−ブ38から出力された光電脈波信号SV2 から、脈波面積算出手段80により末梢部の脈波面積VRが算出され、脈波面積異常判定手段89により、脈波面積VRの異常が判定されていたが、末梢側の情報として脈波面積VRを必ずしも用いる必要はなく、末梢側の情報としてヘマトクリット値Htのみを用いてもよい。この場合は、脈波面積算出手段80、脈波面積異常判定手段89は不要となる。
【0076】
また、前述の実施例では、心拍周期決定手段73において、心電誘導装置34により得られた心電誘導波形のR波間隔から心拍周期RRが決定され、心拍周期異常判定手段88において、心拍周期RRの異常が判断されていたが、中枢側の情報が判断されなくても一定の効果が得られる。中枢側の情報が判断されない場合は、心拍周期決定手段73および心拍周期異常判定手段88は不要となる。
【0077】
また、前述の実施例の血圧測定手段70は、所謂オシロメトリック方式で血圧を測定するように構成されていたが、コロトコフ音の発生時および消滅時のカフ圧を最高血圧値および最低血圧値として決定する所謂K音方式により血圧測定するものであっても差し支えない。
【0078】
また、前述の実施例では、心電誘導装置34により検出された心電波形の所定部位と光電脈波検出プロープ38により検出された光電脈波の所定部位との間の時間差に基づいて脈波伝播時間DTRP或いは脈波伝播速度VM が求められていたが、頸動脈或いは上腕動脈に装着された第1の脈波検出装置と手首或いは指に装着された第2の脈波検出装置との間で脈波伝播時間DTRP或いは脈波伝播速度VM が求められてもよい。
【0079】
また、前述の実施例では、光電脈波検出プローブ38は、生体の表皮に向かって照射された光の体内の毛細血管が密集している部位からの反射光を受光する、反型光電脈波センサが用いられていたが、透過型光電脈波センサが用いられても構わない。
【0080】
また、前述の実施例において、脈波伝播速度VM はR波から光電脈波の立ち上がり点までの時間差に基づいて算出されていたが、心電波形のQ波から光電脈波の立ち上がり点までの時間差を用いるなどの他の算出方式が用いられる。
【0081】
また、前述の実施例において、R波或いは光電脈波の1拍毎に血圧監視されていたが、2以上の拍数毎に血圧監視されるものであってもよい。
【0082】
また、前述の実施例において、心拍周期RRが用いられていたが、単位時間当たりの心拍数HR(1/分)が用いられてもよい。心拍周期RR(sec )と心拍数HR(1/min )とは1対1の対応関係(HR=60/RR)があるからである。
【0083】
また、前述の実施例では、脈波面積算出手段80において、光電脈波の全体の面積Sが正規化された正規化脈波面積VRが算出されていたが、その正規化脈波面積VRに代えて、たとえば図5に示すような光電脈波信号の全体の面積Sのうちの最高ピ−クまでの前半部の面積S1 あるいは最高ピ−ク以降の後半部の面積S2 を正規化したものが用いられてもよいし、図5に示すような光電脈波信号において、たとえばL・(2/3)に相当する高さの幅寸法Iを正規化したI/Wが用いられてもよい。要するに、容積脈波の面積或いは上方への尖り具合(先鋭度)を示す値であればよいのである。
【0084】
なお、本発明はその主旨を逸脱しない範囲においてその他種々の変更が加えられ得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例である血圧監視装置の回路構成を説明するブロック線図である。
【図2】図1の実施例の反射型光電脈波検出プロ−ブにおいて使用される波長λ1 ,λ2 ,λ3 と酸素化ヘモグロビンおよび無酸素化ヘモグロビンの吸光係数との関係を示す図である。
【図3】図1の実施例に用いられる反射型光電脈波検出プロ−ブの体表面に対向する面を示す図である。
【図4】図1の実施例における電子制御装置28の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】図1の実施例において、脈波面積VRの正規化の方法を説明する図である。
【図6】図1の実施例における電子制御装置28の制御作動により求められる時間差DTRPを例示する図である。
【図7】図1の実施例により求めれられる推定血圧値EBP、脈波面積VR、酸素飽和度SaO2、ヘマトクリット値Htおよび心拍周期RRを示すトレンドグラフである。
【図8】図4の周波数解析手段において解析された光電脈波信号の一例として、第1光電脈波信号SV1 の交流成分AC1 および直流成分DC1 を示す図である。
【図9】図1の反射型光電脈波検出プロ−ブの受光素子により検知された後方散乱光を示す光電脈波信号SV1 ,SV2 ,SV3 の波形を例示するタイムチャ−トである。
【図10】ヘマトクリット値算出手段において算出される比R2 {(AC2 /DC2 )/(AC3 /DC3 )}とヘマトクリット値Htとの関係を示す図である。
【図11】図1の実施例における電子制御装置28の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、血圧監視ルーチンを示す図である。
【図12】図11のSA10における血圧測定起動判定ルーチンの作動を詳しく説明する図である。
【図13】図12のSB8におけるヘマトクリット値を算出する際に作動される酸素飽和度およびヘマトクリット値算出ル−チンである。
【符号の説明】
10:カフ
32:表示器
38:反射型光電脈波検出プローブ(末梢脈波検出手段)
70:血圧測定手段
73:心拍周期決定手段
74:脈波伝播情報算出手段
78:推定血圧値決定手段
84:脈波面積算出手段
86:ヘマトクリット値算出手段
92:血圧測定起動手段
Claims (3)
- 生体の一部への圧迫圧力を変化させるカフを用いて該生体の血圧値を測定する血圧測定手段と、該血圧測定手段による血圧測定値と生体の脈波伝播情報との間の予め設定された関係から実際の生体の脈波伝播情報に基づいて該生体の推定血圧値を逐次決定する推定血圧値決定手段とを備え、該推定血圧値決定手段により決定された推定血圧値が予め設定された判断基準値を越えたことに基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を起動させる形式の血圧監視装置であって、
前記生体の末梢部の脈波を検出する末梢脈波検出手段と、
該末梢脈波検出手段により検出された末梢部の脈波から前記生体の血液中のヘマトクリット値を連続的に算出するヘマトクリット値算出手段と、
前記推定血圧値が予め設定された判断基準値を越え、且つ前記ヘマトクリット値が予め設定された判断基準値を越えたことに基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を起動させる血圧測定起動手段と
を、含むことを特徴とする血圧監視装置。 - 前記生体の心拍周期を決定する心拍周期決定手段と、
前記推定血圧値が予め設定された判断基準値を越え、且つ前記ヘマトクリット値および心拍周期の少なくとも一方が予め設定された判断基準値を越えたことに基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を起動させる血圧測定起動手段と
を、含むことを特徴とする請求項1の血圧監視装置。 - 前記末梢脈波検出手段により検出された末梢部の脈波の面積を算出する脈波面積算出手段と、
前記推定血圧値が予め設定された判断基準値を越え、且つ前記ヘマトクリット値、心拍周期および脈波面積の少なくとも一つが予め設定された判断基準値を越えたことに基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を起動させる血圧測定起動手段と
を、含むことを特徴とする請求項2の血圧監視装置。
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