JP3911586B2 - 軸受部品およびその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、転がり軸受の軌道輪や転動体として用いられる軸受部品およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、軸受部品は、たとえばJIS SUJ2で代表される高炭素クロム鋼により形成されていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、JIS SUJ2は炭素含有量が多いので加工性が劣るとともにコストが高くなるという問題がある。また、焼入処理および焼戻し処理を施した後の炭化物の粒径が比較的に大きいため寿命にばらつきが生じやすいという問題がある。
【0004】
この発明の目的は、上記問題を解決した軸受部品を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この発明による軸受部品は、
C0.6〜0.7wt%、Si0.10〜0.20wt%、Mn0.2〜0.9wt%、Cr0.4〜1.2wt%を含み、さらにMo0.10〜0.30wt%およびV0.03〜0.10wt%のうちの1種または2種を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼により形成され、冷却速度10℃/時間での炉冷を含む球状化焼鈍処理、焼入処理および焼戻し処理を施した後の最大炭化物の粒径が1.5μm以下でかつ炭化物の量が面積率で2〜7%となされているものである。
【0006】
上記鋼における合金成分の限定理由は次の通りである。
【0007】
C:0.6〜0.7wt%
Cは焼入硬さを増大させる性質を有しているが、その含有量が0.6wt%未満であると焼入硬さが不足し、耐摩耗性が不十分になるとともに負荷容量が小さくなるという問題がある。一方、Cの含有量が0.7wt%を越えると炭化物の微細化が困難になって転動寿命にばらつきが生じるとともに、変形抵抗が増大して冷間加工性が低下する。しかも、コストが高くなる。したがって、Cの含有量は0.6〜0.7wt%の範囲内で選ぶべきである
【0008】
Si:0.10〜0.20wt%
Siは脱酸に要する時間を短縮させる性質を有するが、その含有量が0.10wt%未満であると脱酸に長時間を要し、コストが高くなる。一方、Siの含有量が0.20wt%を越えると炭化物の球状化が困難になって網状炭化物となるとともに、変形抵抗が増大して冷間加工性が低下する。したがって、Siの含有量は0.10〜0.20wt%の範囲内で選ぶべきである
【0009】
Mn:0.2〜0.9wt%
Mnは焼入性を向上させる性質を有するが、その含有量が0.2wt%未満であるとその効果が少なくなる。一方、Mnの含有量が0.9wt%を越えると靭性を低下させて加工性が低下する。したがって、Mnの含有量は0.2〜0.9wt%の範囲内で選ぶべきであるが、特に0.2〜0.5wt%の範囲内であることが好ましい。
【0010】
Cr:0.4〜1.2wt%
Crは強度を増大させる性質を有するが、その含有量が0.4wt%未満であると炭化物の球状化が困難になって網状炭化物となる。一方、Crの含有量が1.2wt%を越えるとコストが高くなるとともに強度増大効果もそれ以上は向上しない。したがって、Crの含有量は0.4〜1.2wt%の範囲内で選ぶべきであるが、特に1.0〜1.2wt%の範囲内であることが好ましい。
【0011】
Mo0.10〜0.30wt%およびV0.03〜0.10wt%のうちの1種または2種
MoおよびVはそれぞれ上記各合金成分の含有量を通常のJIS SUJ2材よりも少なくしたために生じる焼入性の低下を補うとともに、組織を微細化するという性質を有するが、Moの含有量が0.10wt%未満、Vの含有量が0.03wt%未満であるとその効果が十分には現れず、Moの含有量が0.30wt%を越え、Vの含有量が0.10wt%を越えるとコストが高くなる。したがって、Moの含有量は0.10〜0.30wt%、Vの含有量は0.03〜0.10wt%の範囲内で選ぶべきであるが、特にMo0.15〜0.25wt%、V0.03〜0.05wt%の範囲内であることが好ましい。
【0012】
上記において、冷却速度10℃/時間での炉冷を含む球状化焼鈍処理、焼入処理および焼戻し処理を施した後の最大炭化物の粒径を1.5μm以下に限定したのは、最大炭化物の粒径が1.5μmを越えると転動疲労寿命が短くなるからである。すなわち、本発明者等が実験研究を行った結果、軸受部品中の最大炭化物の粒径と転動疲労寿命(グリース潤滑時)との関係が図1に示すようになり、最大炭化物の粒径が1.5μmを越えると転動疲労寿命が短くなることが判明したからである。最大炭化物の粒径は特に1.0μm以下であることが好ましい。なお、図1中、実線は炭化物量が面積率で2%の場合を示し、破線は炭化物量が面積率で7%の場合を示す。
【0013】
また、冷却速度10℃/時間での炉冷を含む球状化焼鈍処理、焼入処理および焼戻し処理を施した後の炭化物の量を面積率で2〜7%に限定した理由は次の通りである。すなわち、本発明者等が実験研究を行った結果、軸受部品中の炭化物の量と摩耗量との関係が図2に示すようになり、軸受部品中の炭化物の量が面積率で2%未満であると摩耗量が多くなって耐摩耗性が低下することが判明し、さらに軸受部品中の炭化物の量と転動疲労寿命(グリース潤滑時)との関係が図3に示すようになり、炭化物の量が面積率で7%を越えると転動疲労寿命が短くなることが判明したからである。炭化物の量は面積率で特に3〜5%であることが好ましい。
【0014】
この発明による軸受部品の製造方法は、
C0.6〜0.7wt%、Si0.10〜0.20wt%、Mn0.2〜0.9wt%、Cr0.4〜1.2wt%を含み、さらにMo0.10〜0.30wt%およびV0.03〜0.10wt%のうちの1種または2種を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる棒鋼に球状化焼鈍処理を施し、ついで棒鋼を所定の寸法に切断した後冷間鍛造加工によりリング状とし、さらに旋削加工により所定の形状とし、ついで850℃で30〜40分間加熱した後急冷することにより焼入処理を施し、最後に160〜180℃で1〜2時間加熱することにより焼戻し処理を施して、最大炭化物の粒径を1.5μm以下でかつ炭化物の量を面積率で2〜7%とすることを特徴とするものである。
【0015】
なお、この発明による軸受部品は、たとえば次の方法でも製造することができる
【0016】
すなわち、C0.6〜0.7 wt %、Si0.10〜0.20 wt %、Mn0.2〜0.9 wt %、Cr0.4〜1.2 wt %を含み、さらにMo0.10〜0.30 wt %およびV0.03〜0.10 wt %のうちの1種または2種を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼に圧延を施して形成された棒鋼を所定の寸法に切断した後熱間鍛造加工によりリング状とする。ついで、760℃で6〜7時間加熱した後、680℃まで冷却速度10℃/時間にて炉冷し、さらに空冷することにより球状化焼鈍処理を行う。ついで、旋削加工により所定の形状とする。ついで、850℃で30〜40分間加熱した後急冷することにより焼入処理を施す。最後に、160〜180℃で1〜2時間加熱することにより焼戻し処理を施す。こうして、軸受部品が製造される。
【0017】
【作用および発明の効果】
C0.6〜0.7wt%、Si0.10〜0.20wt%、Mn0.2〜0.9wt%、Cr0.4〜1.2wt%を含み、さらにMo0.10〜0.30wt%およびV0.03〜0.10wt%のうちの1種または2種を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼により形成され、冷却速度10℃/時間での炉冷を含む球状化焼鈍処理、焼入処理および焼戻し処理を施した後の最大炭化物の粒径が1.5μm以下でかつ炭化物の量が面積率で2〜7%となされているので、従来のJIS SUJ2などの高炭素クロム軸受鋼に比べて冷間加工性に優れているとともに、軸受部品とした場合に転動疲労寿命が長くなり、しかもコストが安くなる。
【0018】
【発明の実施形態】
以下、この発明の実施例を比較例とともに示す。
【0019】
【表1】
Figure 0003911586
【0020】
表1に示す組成を有する種類の鋼からなる棒鋼に球状化焼鈍処理を施した後、各棒鋼を所定の寸法に切断し、ついで冷間鍛造加工により板状とし、さらに旋削加工により直径65mm、厚さ11mmの円板状試料を作成した。ついで、850℃で40分間加熱した後油冷することにより各試料に焼入処理を施した。最後に、160℃で2時間加熱することにより各試料に焼戻し処理を施した。そして、各試料中の最大炭化物の粒径および炭化物の面積率を測定した。その結果も表1にまとめて示す。
【0021】
また、各試料とJIS SUJ2製円板とJIS SUJ2製ボールとを組み合わせ、スラスト型転動疲労寿命試験機によって、各試料に面圧5320MPaのスラスト荷重を掛けながら、スピンドル油#60中においてJIS SUJ2製円板を1800c.p.mの速度で回転させ、JIS SUJ2製ボールを転動させることにより転動疲労寿命試験を実施し、比較例1の軸受鋼(JIS SUJ2)からなる試料のB10寿命を1とした場合の寿命比を調べた。その結果を表2に示す。
【0022】
【表2】
Figure 0003911586
【0023】
また、表1に示す組成を有する種類の鋼からなる材料に球状化焼鈍処理を施した後、各材料から直径6mm、長さ12mmの円柱状試料をつくった。そして、各試料を使用し、25℃の温度において圧縮率60%で拘束圧縮変形させたときの変形抵抗を測定し、比較例1の軸受鋼からなる試料の変形抵抗を1とした場合の変形抵抗比を調べた。その結果を表2に示す。
【0024】
さらに、上記と同様にして製造された円柱状試料を、25℃の温度において圧縮率を5%ずつ変化させて拘束圧縮変形を加え、割れの発生が認められる最低の圧縮率(限界圧縮率)を調べた。その結果を表2に示す。
【図面の簡単な説明】
【図1】 軸受部品中の最大炭化物の粒径と転動疲労寿命との関係を示すグラフである。
【図2】 軸受部品中の炭化物の量と摩耗量との関係を示すグラフである。
【図3】 軸受部品中の炭化物の量と転動疲労寿命との関係を示すグラフである。

Claims (3)

  1. C0.6〜0.7wt%、Si0.10〜0.20wt%、Mn0.2〜0.9wt%、Cr0.4〜1.2wt%を含み、さらにMo0.10〜0.30wt%およびV0.03〜0.10wt%のうちの1種または2種を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼により形成され、冷却速度10℃/時間での炉冷を含む球状化焼鈍処理、焼入処理および焼戻し処理を施した後の最大炭化物の粒径が1.5μm以下でかつ炭化物の量が面積率で2〜7%となされている軸受部品。
  2. 最大炭化物の粒径が1.0μm以下でかつ炭化物の量が面積率で3〜5%である請求項1記載の軸受部品。
  3. C0.6〜0.7wt%、Si0.10〜0.20wt%、Mn0.2〜0.9wt%、Cr0.4〜1.2wt%を含み、さらにMo0.10〜0.30wt%およびV0.03〜0.10wt%のうちの1種または2種を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる棒鋼に球状化焼鈍処理を施し、ついで棒鋼を所定の寸法に切断した後冷間鍛造加工によりリング状とし、さらに旋削加工により所定の形状とし、ついで850℃で30〜40分間加熱した後急冷することにより焼入処理を施し、最後に160〜180℃で1〜2時間加熱することにより焼戻し処理を施して、最大炭化物の粒径を1.5μm以下でかつ炭化物の量を面積率で2〜7%とすることを特徴とする軸受部品の製造方法。
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