JP3910861B2 - 断熱屋根構造 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、野地板等の下地材と屋根葺き材との間に少なくとも断熱層と防水層が設けられた断熱屋根構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、家屋の小屋裏空間が狭い場合や、寄棟屋根等のような小屋裏換気の採りにくい場合、又は、天井を設けずに小屋裏空間を居室とする場合等に屋根の断熱が行われている。これにより夏期の小屋裏の温度上昇を防いだり、また、寒冷地における屋根のスガモリ防止等に役立たせている。
【0003】
図2は、この種の断熱屋根構造の一例であり、ここでは、屋根の外側より内側に向かって、金属製や軽量コンクリート製等の屋根葺き材1、板状の発泡樹脂成形体(断熱層)2、及びアスファルトルーフィング(防水層)3が、もや4や垂木5の上に張らた野地板6等の下地材の上に、この順に積層されている。施工上の都合もあり、通常の屋根構造では、野地板6等の下地材に釘打ち等により固定されたアスファルトルーフィング3の上に、複数枚の板状の発泡樹脂成形体2が端部同士を互いに突き合わせながら敷き詰められ、その上に、ある程度の隙間をおくようにして屋根ぶき材1が取り付けられることが多い。
【0004】
このような屋根構造において、台風時等に屋根ぶき材を通して雨水が内部に浸入するのを完全に阻止するの容易でなく、野地板の上にアスファルトルーフィング等により防水層を形成することにより、浸入した雨水が屋内へ入り込まないようにしている。上記のように、防水層の上に板状の発泡樹脂成形体を断熱層として敷き詰めた場合、断熱層の上に浸入した雨水は屋根の斜面に沿って軒先方向へ流下すると共に、屋根ぶき材と断熱層との間に形成される隙間により通気性が確保されて迅速に乾燥することから、滞留などによる格別の支障は生じない。
【0005】
しかし、万が一、断熱層である発泡樹脂成形体と防水層との間に雨水が浸入してしまった場合、双方は直接接した状態にあることから、浸入水は軒先方向へスムースには流下せず、浸入した位置に滞留しがちとなり、滞留した雨水の乾燥も遅れる。寒冷地の場合には、滞留した雨水が凍結して発泡樹脂成形体を破損する恐れがあり、また、温暖な地では屋根からの熱が滞留した雨水に長時間にわたり蓄積され、その熱により発泡樹脂成形体が早期に劣化する恐れがある。いずれにしても、断熱材の破壊が生じて断熱屋根構造として機能低下を招く。
【0006】
そのために、断熱層を形成する発泡樹脂成形体と防水層との間に雨水が浸入することは極力回避しなければならず、発泡樹脂成形体同士の接合端面は、単なる突き合わせ接合ではなく、図3に示すように、合決り接合となるように端面が形成される場合が多い。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
断熱屋根構造における断熱層を形成する断熱材は、住宅等が設置される地域、当該住宅が鉄筋コンクリート住宅か木造住宅か、などを考慮して最適のものが選定されるのが望ましい。しかし、実際は合成樹脂発泡体の製造技術や製造コストの兼ね合いから、また、軽量であることから、10〜200mm程度の厚みのスチレン系樹脂発泡成形体が断熱材として用いられることが多い。
【0008】
一般的に使用されているスチレン系樹脂発泡成形体は、ブタンやペンタン等の有機化合物を発泡剤として含む発泡性スチレン系樹脂粒子を蒸気等により加熱して得た予備発泡粒子を型内発泡成形用型のキャビティ内に充填し、蒸気等で加熱して該予備発泡粒子を型内発泡成形することによって製造される。このような発泡成形体は、発泡剤にブタンやペンタン等を用いているため、経時的に寸法変化を起こし、特に高温環境下に長時間放置した場合の寸法変化率は大きい傾向がある。
【0009】
屋根構造の場合、夏期において直射日光を受けた屋根葺き材は80℃程度の高温になる場合があり、断熱材として配置されるスチレン系樹脂発泡成形体も80℃程度まで上昇することが起こり得る。一般的なスチレン系樹脂発泡成形体では、80℃程度の高温環境下に長時間放置したときの寸法変化率(収縮を伴う熱変形)が−1.5%程度あるいはそれ以上となる場合があり、その寸法変化に起因して合決り接合部にズレが生じ、断熱層を形成する発泡樹脂成形体同士の接合端面に隙間が生じる恐れがある。接合端面にパッキンを入れたり、アルミ目地テープを貼ったりする場合でも、発泡体の収縮でパッキンとの間に隙間ができたり、アルミ目地テープの剥がれ、破れが生じて隙間が生じる恐れがある。隙間が生じると、そこから雨水が浸入して、前記のように断熱層を形成する発泡樹脂成形体と防水層との間に雨水の滞留域が形成されて、断熱材の破壊を誘起する一因となる。
【0010】
一方、ブタンやペンタン等の有機化合物に替えて、発泡剤に炭酸ガスを用いた発泡性スチレン系樹脂粒子が提案されている(特開平4−351646号公報参照)。これを加熱して得た予備発泡粒子を型内発泡させた成形品は、発泡剤に炭酸ガスを用いていることから残留ガス量は少なく、80℃前後の高温環境下に長時間放置した場合でも、寸法変化率を−0.8%程度に抑えることができる。しかし、屋根用の断熱材として用いる場合には、−0.8%の寸法変化率でもまだ不十分であり、断熱材の収縮による雨水の浸入、それによる断熱材の破壊が生じるのを完全に回避することはできない。隙間からの雨水の浸入を防ぎ、発泡樹脂成形体と防水層との間に雨水の滞留域が形成されないようにするには、寸法変化率を−0.5%以内に抑えることが望まれている。
さらに、最近問題とされているシックハウス(室内空気汚染)に係わるとされる揮発性有機化合物の含有量を低減することも求められている。
【0011】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、断熱屋根構造において、そこに断熱材として用いる発泡樹脂成形体の高温環境下での寸法安定性(寸法収縮率)を小さいものとし、それにより、冬期や夏期に断熱材に破壊が生じるのを大きく抑制することを可能とした断熱屋根構造を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手殿】
本発明による断熱屋根構造は、野地板等の下地材と屋根葺き材との間に少なくとも断熱層と防水層が設けられた断熱屋根構造であって、断熱層は、スチレン系樹脂粒子に炭酸ガスを含浸させて得たスチレン系樹脂予備発泡粒子を型内発泡成形して得た、80℃で720時間加熱したとき、その加熱前と加熱後における寸法変化率が±0.5%以内であるスチレン系樹脂発泡成形体からなることを特徴とする。
【0013】
本発明において、「80℃で720時間加熱」としたのは、前記したように、夏期において直射日光を受けた屋根葺き材は80℃程度の高温になる場合があり、断熱材として配置されるスチレン系樹脂発泡成形体も80℃程度まで上昇することが起こり得ることと、そのような温度環境の持続時間に対する安全率を大きく取ったこととによる。そのような条件下で、寸法変化率が−0.5%以内の条件を満足するスチレン系樹脂発泡成形体は、通常の断熱屋根構造において課題となる断熱材が破壊することを確実に抑制することができる。
【0014】
上記の範囲の寸法変化率を持つスチレン系樹脂発泡成形体(すなわち、本発明の断熱屋根構造における断熱層を形成するスチレン系樹脂発泡成形体)は、以下のようにして製造されるスチレン系樹脂予備発泡粒子を型内発泡することにより得ることができる。すなわち、最初に、スチレン系樹脂粒子に炭酸ガスを含浸させて発泡性スチレン系樹脂粒子とし、次工程で蒸気投入ラインと排気ラインを備えた予備発泡機内に前記発泡性スチレン系樹脂粒子を投入し、蒸気投入ラインから蒸気を0.5〜5.0kg/cm2Gの投入圧力で供給すると共に、排気ラインから蒸気を含む雰囲気ガスを排気し、かつその間、発泡機内圧力を蒸気の投入圧力より0.05〜1.0kg/cm2G低く維持しながら予備発泡させて得られるスチレン系樹脂予備発泡粒子である。
【0015】
上記の発泡性スチレン系樹脂粒子(以下、「発泡性粒子」という)を構成するスチレン系樹脂粒子(以下、「樹脂粒子」という)としては、一般に知られているスチレン系樹脂の粒状物を使用することができる。具体的には、このような樹脂粒子としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン(2官能性単量体)などのスチレン系単量体の単独重合粒子又はこれら単量体を2種以上組み合わせた共重合体粒子、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、セチルメタクリレートなどのアクリル酸及びメタクリル酸のエステル、あるいはアクリロニトリル、ジメチルフマレート、エチルフマレート、アルキレングリコールジメタクリレート(2官能性単量体)などのスチレン系単量体以外の単量体との共重合体粒子などが挙げられる。更に、これらスチレン系樹脂粒子中のスチレン成分が50重量%を超える範囲内でスチレン系樹脂以外の樹脂と押し出しブレンドして得られた樹脂粒子であってもよい。スチレン系樹脂以外の樹脂としては、ポリフェニルエーテル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ゴム成分などが挙げられる。特にスチレン系樹脂粒子としてはポリスチレン樹脂粒子が好ましい。樹脂粒子の粒径は、適宜選択でき、例えば、0.2〜5mmの粒径のものを使用することができる。
【0016】
更に、最近特に問題となっているシックハウス(室内空気汚染)は揮発性有機化合物が係わっている可能性があるとの指摘もあり、その含有量をできるだけ小さくすることが望まれている。この観点から、樹脂粒子は、残留スチレン系単量体の量ができるだけ少ないことが好ましく、樹脂粒子中に含まれるスチレン系単量体の量は0〜500ppmであることが好ましい。このような樹脂粒子を用いることにより、発泡成形体に含まれる揮発性有機化合物の量を1000ppm以下としたものを得ることが可能となる。
【0017】
樹脂粒子中の残留スチレン系単量体を低減するには、例えば懸濁重合においては、スチレン系単量体に対して0.05重量%以上の高温開始型の重合触媒を用い、最終の重合温度を115℃以上とするのが好ましい。高温開始型の重合触媒としては、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、2、2−t−ブチルパーオキシブタンなどの半減期10時間を得るための温度が100〜115℃のものが特に好ましい。ただし、これらを必要以上に用いるとt−ブタノールなど分解副生成物を含有することになるため、重合触媒の種類によって異なるが、使用量の上限は、0.5重量%であることが好ましい。
樹脂粒子の分子量は、GPC法による重量平均分子量で20万〜40万であるのが好ましい。20万を下回ると、発泡成形体の強度が低下する場合があり、40万を上回ると、十分な発泡性を得ることが難しいので好ましくない。
【0018】
上記の樹脂粒子に発泡剤としての炭酸ガスを含浸させて発泡性粒子を得る。発泡剤としての炭酸ガスは、炭酸ガス100%でもよいが、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の発泡剤を加えてもよい。他の発泡剤としては、空気、窒素などの無機発泡剤、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素、フッ化炭化水素などの有機発泡剤を混合することもできる。フッ化炭化水素としては、オゾン破壊係数がゼロであるジフルオロエタン、テトラフルオロエタンなどを使用することが好ましい。ここで、有機発泡剤は、発泡剤の全体量の20重量%を超えない範囲で使用することが好ましい。発泡性粒子中の炭酸ガスの含有割合は、1〜15重量%が好ましい。
【0019】
樹脂粒子中に炭酸ガスを含浸させるには、例えば、耐圧密閉容器に樹脂粒子を入れた後、炭酸ガスを圧入して、樹脂粒子を加圧された炭酸ガスと接触させることによって行うことができる。含浸温度は、樹脂粒子どうしが互いに合着して団塊化しない温度まで高くしてもよいが、通常0〜40℃である。樹脂粒子に炭酸ガスを含浸させるときの圧力は、10kg/cm2G以上であることが好ましく、より好ましくは15〜40kg/cm2Gである。含浸時間は、樹脂粒子が前記の炭酸ガス含有量となるように適宜調整することができ、1〜20時間が好ましく、2〜8時間がより好ましい。
【0020】
樹脂粒子に炭酸ガスを含浸させるに際し、樹脂粒子の表面には各種の表面処理剤を塗布しておくことが好ましい。そのような表面処理剤としては、例えば加熱発泡時の予備発泡粒子の結合を防止する結合防止剤、成形時の融着促進剤、帯電防止剤、展着剤などが挙げられる。
【0021】
結合防止剤としては、例えばタルク、炭酸カルシウム、シリカ、ステアリン酸亜鉛、水酸化アルミニウム、エチレンビスステアリン酸アミド、第三リン酸カルシウム、ジメチルシリコンなどが挙げられる。
融着促進剤としては、例えばステアリン酸、ステアリン酸トリグリセリド、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸ソルビタンエステル、ポリエチレンワックスなどが挙げられる。
帯電防止剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ステアリン酸モノグリセリドなどが挙げられる。展着剤としては、ポリブテン、ポリエチレングリコール、シリコンオイルなどが挙げられる。
【0022】
また、他の添加剤として、樹脂粒子中には所望によりヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモシクロオクタンなどの難燃剤、メタクリル酸エステル系共重合ポリマー、エチレンビスステアリン酸アミド、ポリエチレンワックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの気泡調整剤などを予め含有させておいてもよい。上記結合防止剤、成形時の融着促進剤、帯電防止剤、展着剤及び他の添加剤は、単独もしくは2種以上を混合して用いることができる。
【0023】
また、上記した樹脂粒子には、難燃剤を含有していることが好ましい。難燃剤を含有した樹脂粒子を得る方法としては、例えば、樹脂粒子と水との懸濁液中、水中に溶解又は懸濁した難燃剤の融点以上の温度雰囲気下で樹脂粒子中に難燃剤を含有させる方法、あるいは押し出しブレンドにより樹脂粒子中に難燃剤を含有させる方法等が挙げられる。この時に使用できる難燃剤としては、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモシクロオクタンなどが挙げられる。難燃剤含有量としては樹脂粒子全体に対して0.1〜4重量%であることが好ましく、0.5〜3.0重量%であるのが特に好ましい。難燃剤含有量が0.1重量%を下回ると、充分な難燃効果を得ることが困難となるので好ましくない。また、難燃剤含有量が4重量%を上回ると予備発泡粒子同士が合着する傾向が強くなるので好ましくない。
【0024】
予備発泡粒子は、以下のようにして製造される。上記したように、スチレン系樹脂粒子に炭酸ガスを含浸させて発泡性スチレン系樹脂粒子とし、次工程で、蒸気投入ラインと排気ラインを備えた予備発泡機内に、前記発泡性スチレン系樹脂粒子を投入し、蒸気投入ラインから蒸気を0.5〜5.0kg/cm2Gの投入圧力で供給すると共に、排気ラインから蒸気を含む雰囲気ガスを排気し、かつその間、発泡機内圧力を蒸気の投入圧力より0.05〜1.0kg/cm2G低く維持しながら予備発泡させてスチレン系樹脂予備発泡粒子を得る方法である。この方法において、炭酸ガスを含浸させる工程に次いで、直ちに予備発泡を行うことが好ましい。
【0025】
この方法、すなわち本発明によるスチレン系樹脂予備発泡粒子を製造するのに使用できる予備発泡機の一例を図1により説明する。図中、100は予備発泡機、102は撹拌モーター、103は撹拌翼、104は邪魔棒、105は発泡槽上面検出器、106は発泡性粒子輸送器、107は発泡性粒子計量槽、108は発泡性粒子投入器、109は蒸気吹込制御弁、110は蒸気チャンバー、111は凝縮水排出弁、112は排気制御弁、113は予備発泡粒子排出口、114は予備発泡粒子一時受器、115は空気輸送設備、116は内圧検出・制御装置、117は蒸気吹込孔、118は蒸気投入圧力計、119は減圧弁、120は蒸気元圧力計を意味する。
【0026】
詳細には、一定量の蒸気が常に予備発泡機100内に供給されるように、排気制御弁112などで予備発泡機100内の圧力(内圧検出・制御装置116で圧力検出)が常に供給圧力を下回るように制御を行う。例えば、蒸気の投入圧力を1.2kg/cm2G(蒸気投入圧力計118で検出)、予備発泡機内の圧力を0.8kg/cm2Gに設定した場合、予備発泡機1内の圧力を内圧検出・制御装置116にて検出し、制御信号が排気制御弁112へ送られ、排気ラインから0.4kg/cm2G圧分の圧力を抜きながら圧力の制御を行うこととなる。このように、予備発泡機100内圧力と排気制御弁112とをリンクさせて制御することにより、予備発泡機100内圧力の調整することができる。投入圧力と予備発泡機内圧力との差が、0.05kg/cm2G未満であると低密度の予備発泡粒子が得られ難いばかりか、発泡成形体の外観、内部融着が悪く、非常に商品価値の低いものになってしまう。また、1.0kg/cm2Gを超えると予備発泡時の結合が増加するばかりか、表面光沢度が低く、発泡体表面の凹凸も大きくなり好ましくない。より好ましい圧力差は、0.2〜0.8kg/cm2Gである。
【0027】
予備発泡粒子の粒径は、0.3〜10mm程度が好ましく、また、予備発泡粒子の嵩密度は、0.015〜0.5g/cm3G程度が好ましい。そして、予備発泡機内の発泡性樹脂粒子は、通常110〜160℃程度に加熱されることが好ましく、より好ましい加熱温度は110〜130℃である。加熱温度が110℃を下回ると、嵩密度0.5g/cm3以下の予備発泡粒子は得られ難いので好ましくない。また、加熱温度が160℃を上回ると予備発泡粒子同士が合着する傾向が強くなるので好ましくない。
【0028】
上記の予備発泡粒子を発泡成形することで得られるスチレン系樹脂発泡成形体(すなわち、本発明の断熱屋根構造における断熱層を形成するスチレン系樹脂発泡成形体)は、高温環境下でも長期にわたる寸法安定性に優れている。実施例にも記載したとおり、80℃で720時間加熱したときの寸法安定性(加熱前と加熱後の寸法変化率)を−0.5%以下にすることができる。また、揮発性有機化合物の含有量を1000ppm以下のものとすることができ、本発明による断熱屋根構造はシックハウス対策としても有望である。
【0029】
発泡成形法としては、特に限定されず、公知の方法をいずれも使用することができる。例えば、予備発泡粒子を成形用型内に充填し、蒸気により加熱する。蒸気との接触によって予備発泡粒子が加熱されると、予備発泡粒子は膨張するが、成形用型によって発泡できる空間が限定されているので、互いに密着すると共に融着一体化して所望の発泡成形体を得ることができる。発泡成形体(すなわち、本発明の断熱屋根構造における断熱層を形成するスチレン系樹脂発泡成形体)の密度は、0.015〜0.5g/cm3程度が好ましく、特に、0.02〜0.2g/cm3程度が好ましい。
【0030】
【発明の実施の形態】
本発明による断熱屋根構造は、野地板等の下地材と屋根葺き材との間に少なくとも断熱層と防水層が設けられていること、及び、その断熱層が、スチレン系樹脂粒子に炭酸ガスを含浸させて得たスチレン系樹脂予備発泡粒子を型内発泡成形して得た、80℃で720時間加熱したとき、その加熱前と加熱後における寸法変化率が−0.5%以内であるスチレン系樹脂発泡成形体からなること、を条件に、その他の構成は任意であり、代表的には、図2に示したような構成の断熱屋根構造である。屋根葺き材は、瓦類、金属板類、セメント系類のようなものを挙げることができ、防水層を構成する材料としては、合成ゴム系、合成樹脂系、アスファルト系のようなものを挙げることができる。
【0031】
断熱層を形成するスチレン系樹脂発泡成形体2は、好ましくは、図3に示すような端面に合決り接合となる段部が形成されるが、これに限られず、端面の形状は、図4に示すような、本実接合端面であってもよい。場合によっては、突き付け接合面であってもよい。厚みも任意であるが、通常、2000mm×1000mm×150mm程度の大きさの発泡成形体が用いられる。
【0032】
【実施例】
以下に、本発明の断熱屋根構造における断熱層を形成するスチレン系樹脂発泡成形体について、実施例及び比較例に基づき更に詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定されることはない。なお、以下に示す実施例及び比較例において、寸法変化率及び揮発性有機化合物の含有量の評価は以下のようにして行った。
【0033】
<寸法変化率>
発泡成形用型から取り出した発泡成形体(実際には、図3に示す形状の長さa:2000mm,幅b:1000mm,厚さc:150mmである発泡成形体2)を、温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室(JIS−K7100の標準温湿度状態)に24時間放置した後、JIS−K6767に従う試験サンプルとした。
【0034】
この試験サンプルを80℃に保った熱風循環式乾燥機の中に水平に置き、720時間加熱した後に取り出し、再び恒温恒湿室に1時間放置した。加熱試験前後における寸法測定はJIS−K6767に準拠して実施し、寸法変化率Pは試験サンプルの長さ寸法aの変化率で測定した。
寸法変化率P(%)=(a2−a1)×100/a1
(ただし、a1は、型内成形後に23℃、相対湿度50%で24時間放置された試験サンプルの長さ方向の寸法、a2は該試験サンプルを80℃で720時間加熱した後の試験サンプルの長さ方向の寸法である)。
【0035】
<揮発性有機化合物の含有量>
試験サンプルを50℃の恒温室で7日間乾燥させた後、以下に示す三種類の測定法によって得られた値を合計して求めた。
a.(炭素数5以下の炭化水素の測定)
乾燥後の試験サンプルを150℃の熱分解炉に入れ、揮発した炭化水素をガスクロマトグラフィーにて測定した。
ガスクロマトグラフィー(GC):島津製作所社製 GC−14B
熱分解炉:島津製作所社製 PYR−1A
カラム:ポラパックQ 80/100(3mmφ×1.5m)
カラム温度:100℃
検出器(FID)温度:120℃
【0036】
b.(炭素数6以上の炭化水素であって、ガスクロマトグラムに現われるスチレンのピークまでの炭化水素の測定)
乾燥後の試験サンプルをジメチルホルムアミドに溶解し、内部標準液(シクロペンタノール)を加えてGCにより測定した。ただし、特定できないピークについてはトルエンの検出量に換算して定量した。
GC:島津製作所社製 GC−14A
カラム:PEG−20M PT25% 60/80(2.5m)
カラム温度:105℃
検出器(FID)温度:220℃
【0037】
c.(ガスクロマトグラムに現われるスチレンの次のピークから炭素数16(n−ヘキサデカン)までの炭化水素の測定)
乾燥後の試験サンプルをクロロホルムに溶解し、ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS)にて測定した。ただし、試験サンプルを溶解しない溶剤のみの空試験を行い、空試験の検出物質量を差し引いた。更に、特定できないピークについてはトルエンの検出量に換算して定量した。
GCMS:島津製作所社製 QP5000
カラム:J&W Scientific社製 DB−1(1μm×60m 0.25mmφ)
測定条件:カラム温度(60℃で1分保持した後、10℃/分で300℃まで昇温)
スプリット比:10
キャリヤガス:He(1ml/min)
インターフェイス温度:260℃
【0038】
[実施例1]
100リットルの反応器に、純水40kg、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ2.2g、ピロリン酸マグネシウム63gを入れ水性媒体とした。次にベンゾイルパーオキサイド(純度75%)180g、t−ブチルパーオキシベンゾエート33g及びポリエチレンワックス(分子量1000)22gを溶解したスチレン44kgを撹拌しながら加えて懸濁させ、90℃に昇温して重合を開始した。比重法で測定した重合転化率が95重量%まで進行した時点で、反応器を125℃に昇温して2.5時間保持した後、常温まで冷却して、スチレン樹脂粒子を取り出した。ここで得られたスチレン樹脂粒子中の残留スチレンをガスクロマトグラフで測定したところ、414ppmであり、また、GPC法で測定した重量平均分子量は228000であった。
【0039】
スチレン樹脂粒子のうち、粒径0.7〜1.0mmのもの15kgを、内容量が30リットルの回転式耐圧容器に入れた後、展着剤としてポリエチレングリコール300を7.5g、グリセリンモノステアリン酸エステルを7.5g、結合防止剤として炭酸カルシウム30gを添加して容器を回転させ、樹脂粒子の表面に付着させた。次いで回転を停止してから容器内に炭酸ガスを圧入して、25℃、30kg/cm2Gに6時間保って樹脂粒子内に炭酸ガスを含浸させ、発泡性スチレン樹脂粒子を得た。
【0040】
こうして得られた発泡性スチレン樹脂粒子を耐圧容器から取り出し、次工程で攪拌機付き発泡機内に投入した後、投入圧力が1.2kg/cm2Gの蒸気を発泡機缶内に導入した。この時の発泡機内の圧力は0.8kg/cm2Gになるように、排気制御弁の開度を電気信号でコントロールしながら、排気ラインを使って余分な圧力を外部に逃がした(投入圧力と発泡機内圧力との差は0.4kg/cm2G)。このように、蒸気を発泡機内に連続して導入しながら予備発泡させてスチレン樹脂予備発泡粒子とした。この予備発泡粒子の粒径は2.3〜4.0mmであった。
【0041】
予備発泡してから6時間後、型締め後のキャビティ形状が、図3で示す発泡成形体2の形状に設計された発泡成形用型内に、予備発泡粒子を充填し蒸気で加熱して図3に示す形状の発泡成形体(断熱層を形成する屋根用断熱材)2を得た。密度は0.025g/cm3であった。得られた発泡成形体について、上記の評価方法により寸法変化率及び揮発性有機化合物の含有量を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0042】
[比較例1]
発泡性スチレン樹脂粒子を耐圧容器から取り出して直ちに、投入圧力が2.0kg/cm2Gの蒸気を発泡機内に導入し、発泡機内の圧力は0.8kg/cm2Gになるように(投入圧力と発泡機内圧力との差は1.2kg/cm2G)調整したこと以外は実施例1と同様にして予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の寸法変化率及び揮発性有機化合物の含有量の評価を表1に示す。なお、予備発泡粒子の粒径は2.2〜3.8mmで、発泡成形体の密度は0.025g/cm3であった。
【0043】
[比較例2]
発泡性スチレン樹脂粒子を耐圧容器から取り出して直ちに、投入圧力が0.8kg/cm2Gの蒸気を発泡機内に導入し、発泡機内の圧力は0.8kg/cm2Gになるように(投入圧力と発泡機内圧力との差は0kg/cm2G)調整したこと以外は実施例1と同様にして予備発泡粒子及び発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の寸法変化率及び揮発性有機化合物の含有量の評価結果を表1に示す。なお、得られた予備発泡粒子の粒径は1.5〜2.1mmで、発泡成形体の密度は0.050g/cm3であった。
【0044】
[比較例3]
内容積5リットルの攪拌機付き耐圧容器に、実施例1で得られたスチレン樹脂粒子のうち、粒径0.7〜1.0mmのもの2.0kg、イオン交換水2.2リットル、第三りん酸カルシウム6.0g、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2gを入れて攪拌を開始した。次に90℃に昇温した後、ブタン140gを圧入して5時間保持した。次いで、30℃まで冷却し、ブタン含有発泡性スチレン樹脂粒子を得た。取り出した発泡性粒子を乾燥後、15℃の恒温室で5日間熟成させた。そして、予備発泡時の結合防止剤としてジンクステアレート、融着促進剤としてヒドロキシステアリン酸トリグリセライドを粒子表面に被膜処理した後、攪拌機付き発泡機内に投入した後、投入圧力が0.5kg/cm2Gの蒸気を発泡機内に導入した。この時の発泡機内の圧力は0.1kg/cm2Gになるように、排気制御弁の開度を電気信号でコントロールしながら、排気ラインを使って余分な圧力を外部に逃がした(投入圧力と発泡機内圧力との差は0.4kg/cm2G)。このように、蒸気を発泡機内に連続して導入しながら予備発泡させてブタン含有のスチレン樹脂予備発泡粒子とした。この予備発泡粒子の粒径は2.2〜3.8mmであった。
【0045】
予備発泡してから6時間後、実施例1で用いたと同じ成形用型を使用して発泡成形し、密度0.025g/cm3である実施例1と同じ形状の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の寸法変化率及び揮発性有機化合物の含有量の評価結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
Figure 0003910861
以上の結果から、スチレン系樹脂粒子に炭酸ガスを含浸させて得たスチレン系樹脂予備発泡粒子の型内発泡成形品において、スチレン系樹脂予備発泡粒子として、炭酸ガスを有する発泡性スチレン系樹脂粒子を投入圧力と発泡機内圧力との差を調整して予備発泡粒子としたものを用いて発泡成形することにより、高温環境下においても長期にわたって寸法安定性が優れたスチレン系樹脂成形体が得られることがわかる。また、揮発性有機化合物の含有量も極めて少なくすることができる。特に、80℃で720時間加熱したときの、その加熱前と加熱後における寸法変化率Pは、−0.5%以下であり、上記発泡成形品は、高温環境下で高い寸法安定性が要求される、野地板等の下地材と屋根葺き材との間に少なくとも断熱層と防水層が設けられた断熱屋根構造における、前記断熱層を形成する断熱材としてきわめて有効である。
【0047】
【発明の効果】
本発明による断熱屋根構造では、断熱層に用いる発泡成形体の高温環境下での寸法安定性が非常に安定している。そのために、発泡成形体同士の隙間から雨水が不用意に浸入するのを抑えることができ、滞留した雨水の凍結や、雨水に蓄積した多量の熱により、発泡樹脂成形体が破損するを確実に阻止することができ、長期間にわたり断熱破壊の生じることのない断熱屋根構造が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で使用できるチレン系樹脂予備発泡粒子を製造するのに用いられる予備発泡機の概略説明図である。
【図2】断熱屋根構造の一例を示す図。
【図3】断熱屋根構造に用いる発泡成形体の一例を示す図。
【図4】断熱屋根構造に用いる発泡成形体の他の例を示す図。
【符号の説明】
1 屋根葺き材
2 板状の発泡樹脂成形体(断熱層)
3 アスファルトルーフィング(防水層)
6 野地板(下地材)
102 撹拌モーター
103 撹拌翼
104 邪魔棒
105 発泡槽上面検出器
106 発泡性粒子輸送器
107 発泡性粒子計量槽
108 発泡性粒子投入器
109 蒸気吹込制御弁
110 蒸気チャンバー
111 凝縮水排出弁
112 排気制御弁
113 予備発泡粒子排出口
114 予備発泡粒子一時受器
115 空気輸送設備
116 内圧検出・制御装置
117 蒸気吹込孔
118 蒸気投入圧力計
119 減圧弁
120 蒸気元圧力計
150 基板輸送容器

Claims (1)

  1. 野地板等の下地材と屋根葺き材との間に少なくとも断熱層と防水層が設けられた断熱屋根構造であって、断熱層は、蒸気投入ラインと排気ラインを備えた予備発泡機内に炭酸ガスを含浸させた発泡性スチレン系樹脂粒子を投入し、蒸気投入ラインから蒸気を0.5〜5.0kg/cm Gの投入圧力で供給すると共に、排気ラインから蒸気を含む雰囲気ガスを排気し、発泡機内圧力を蒸気の投入圧力より0.05〜1.0kg/cm G低く維持しながら予備発泡させたスチレン系樹脂予備発泡粒子を型内発泡成形して得た、80℃で720時間加熱したとき、その加熱前と加熱後における寸法変化率が±0.5%以内であるスチレン系樹脂発泡成形体からなることを特徴とする断熱屋根構造。
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