JP3910555B2 - 中空担体及び機能性粒子、並びにそれらの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、塩基性炭酸マグネシウムからなる新奇で特殊な形状を有する中空担体、及び該中空担体を利用した機能性粒子、並びにそれらの製造方法に関する。より詳しくは、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶の管状凝集粒子からなる中空担体、及び該中空担体に香気物質、栄養剤、食品添加物、医薬、農薬、肥料等を内包する機能性粒子、並びにそれらの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】
特許第1207124号公報
【特許文献2】
特開昭61−31314号公報
【特許文献3】
特開平2−208220号公報
【特許文献4】
特開平3−97618号公報
【特許文献5】
特許第1635418号公報
【特許文献6】
特許第2602444号公報
【特許文献7】
特開平6−285358号公報
【特許文献8】
特開平7−196305号公報
【特許文献9】
特開平7−196314号公報
【特許文献10】
特開平10−5577号公報
【特許文献11】
特開平10−202093号公報
【特許文献12】
特表2000−500113号公報
【0003】
マグネシウムの炭酸塩には、炭酸マグネシウム(菱苦土鉱、マグネサイト)、ドロマイト(苦灰石、白雲石)、塩基性炭酸マグネシウム、正炭酸マグネシウム等がある。炭酸マグネシウムはMgCO3、ドロマイトは炭酸カルシウムとの複塩でCaMg(CO3)2という組成を有する。これら2者はいずれも天然の鉱石として産するが、塩基性炭酸マグネシウムは天然には産出しない。
【0004】
塩基性炭酸マグネシウムは、工業的に大量に利用されており、化学式はmMgCO3・Mg(OH)2・nH2Oで表される。この化学式におけるm及びnの値については、製造条件等によって変化し一定のものではないが、mは3〜5、nは3〜8のものが一般的である。また正炭酸マグネシウムはMgCO3・nH2O(n=3)という組成を有しているとされている。
【0005】
塩基性炭酸マグネシウムは、通常、薄片状微細結晶の不定形凝集粒子として得られ、嵩密度は0.2〜0.3g/mLと低く、比表面積は10〜40m2/gで比較的高いなどの特性をもつ。このような特性を活かして塩基性炭酸マグネシウムは、ゴム、塗料、製紙、医薬品、化粧品、建材、窯業原料などの分野で利用されている。特にゴム用フィラーとしては、配合した天然ゴムに透明感を与える、ゴムの強度を向上させるなどの特性を有している。
【0006】
塩基性炭酸マグネシウムの製造方法としては、塩化マグネシウム等の可溶性マグネシウム塩と炭酸ナトリウムとの反応を利用したソーダ灰法、可溶性マグネシウム塩と炭酸アンモニウムとの反応を利用した炭安法、水酸化マグネシウムと炭酸ガスとの反応を利用したガス法などが知られている。いずれの方法においても、マグネシウム源と炭酸源との反応により中間生成物として得られる正炭酸マグネシウム(化学式MgCO3・nH2Oで表され、n=3のものが一般的)あるいは重炭酸マグネシウム(Mg(HCO3)2)を長時間熟成することによって塩基性炭酸マグネシウムを生成させる。
【0007】
塩基性炭酸マグネシウムに関する研究開発は古くから行われてきており、例えば、特許文献1においては、正炭酸マグネシウムを含有する懸濁液を適切な温度条件にて熟成することにより、短時間でかつゴム用フィラーとして優れた性能をもつ塩基性炭酸マグネシウムを製造する方法が、特許文献2においては、水溶性硫酸塩の存在下で水溶性マグネシウム源と水溶性炭酸塩とを反応させることにより、合成樹脂の填料として優れた性能をもつ塩基性炭酸マグネシウムを製造する方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献3においては重炭酸マグネシウム水溶液を循環させながら加熱することによって得られる特定吸油量及び比表面積を有する塩基性炭酸マグネシウムが、特許文献4においては正炭酸マグネシウム懸濁液をヒドロキシカルボン酸の共存下で加熱することによって得られる特定のX線回折パターンを示す塩基性炭酸マグネシウムが提案されている。さらに、塩基性炭酸マグネシウムの粒子形状に着目したものとしては、特許文献5及び特許文献6等があり、それらには、一次粒子が凝集してなる球状の多孔質粒子で、特定の嵩密度や比表面積等の性状を示す塩基性炭酸マグネシウムが提案されている。
【0009】
一方、中空状の担体としては、多孔質体、マイクロカプセル、中空体等が知られている。これらのうち中空体を利用した担体としては、シリカ等からなる無機系の中空微粒子と有機系の中空ポリマー微粒子がある。そのうち本発明と同じ無機系の中空状の担体やその担体を利用した機能性粒子としては、まず特許文献7の多孔質かつ中空構造を有する金属酸化物中空微粒子がある。
【0010】
さらに、特許文献8及び特許文献9にある内部に中空状空間が存在し、式で定義される形状係数を満足するチューブ状複合体合成無機微粒子、特許文献10の多孔性のカルシウム中空殻を有する芯物質含有カルシウム微粒子の製造方法、特許文献11のリン酸カルシウム系結晶からなる壁材を有する無機中空カプセル等がある。
【0011】
そして、これらについてさらに詳しく説明すると、特許文献7の多孔質かつ中空構造を有する金属酸化物中空微粒子とは、一種類又は複数種類の金属塩を含む溶液を平均液滴径が0.1〜500μmの液滴とし、該液滴をキャリアーガスを用いて気液混相の状態で高温反応炉内へ送り、該反応炉内部で液滴に含まれる金属塩を熱分解して多孔質かつ中空構造を有する金属酸化物中空微粒子を生成するというものである。
【0012】
特許文献8及び特許文献9にあるチューブ状複合体合成無機微粒子とは、物質Xで構成される針状及び/又は柱状粒子をコアとして、その表面にコアとは異なる物質Yで被覆し、針状及び/又は柱状粒子である物質Y処理物質X(物質Yで被覆された物質X)を調製する。調製した針状及び/又は柱状粒子である物質Y処理物質Xのコアとなる物質Xの全量又は1部を取り除き、内部に中空状空間を調製する方法が挙げられる。なお、上記の方法で被覆した物質Yが物質Xと添加物質Zとの反応により生成されるものであることが好ましいとしている。
【0013】
特許文献10の多孔性のカルシウム中空殻を有する芯物質含有カルシウム微粒子の製造方法は、食用油とカルシウム殻形成物質とを水中に添加し、高速撹拌することによりO/W 型エマルジョンを形成し、油滴と水滴の摩擦によって生じる静電気により油滴の表面にカルシウム殻を形成固化させる工程と、遠心又は濾過処理により固形物を分取して乾燥することにより食用油含有カルシウム殻を得る工程と、該カルシウム殻の食用油分をアルコール又は極性溶媒にて置換し乾燥する工程からなるというものである。
【0014】
特許文献11のリン酸カルシウム系結晶からなる壁材を有する無機中空カプセルでは、炭酸カルシウムの水性懸濁液と水溶性リン酸類あるいはその水溶性塩の水溶液を反応させ、第三リン酸カルシウムおよび/または水酸化アパタイト結晶層を炭酸カルシウム粒子表面に形成させ、ついで、水不溶性リン酸カルシウム塩あるいはその水性懸濁液を反応させ、内部の炭酸カルシウムを溶出させて、第三リン酸カルシウムおよび/または水酸化アパタイト結晶層の壁材を形成させ、粒子中心部を中空にして製造される。
【0015】
さらに、特許文献12にも、シリカの中空粒子の製造方法が開示されており、その製造方法は、活性シリカをシリカ以外の材料からできた支持体上に沈澱させ、形成されたシリカスラリーを分離し、回収されたシリカ懸濁液を乾燥し、該支持体を除去することによって稠密シリカシェルを得るものである。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
従来の無機中空微粒子担体や各種の物質を内包した機能性粒子は前記したとおり各種のものがあるが、その機能は前記したとおりであり、またその製造方法は前記のとおり複雑かつ煩雑であり、特別な処理工程を要したり、高価な薬剤類を使用しなければならないなど多くの課題を有している。そのため、より簡便な工程で製造でき機能の点においても優れた無機系の中空状の担体や機能性粒子が嘱望されている。
【0017】
このような状況の中において、本発明者らは、新奇な形状、すなわち塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子の開発に成功し、既に特許出願(特願2002−179462、特願2002−220768)した。 そして、本発明者らは、この管状の構造に着目し、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子を機能性粒子の担体として利用することにより、先の課題の解決を試みた。
【0018】
その結果、長期にわたり内包物を徐々に放出したり、その放出速度の制御、また特定環境下で内包物を放出する放出制御性、あるいは内包物質の変質防止やマスキング効果を発揮することが可能な機能性粒子が製造できることを見出し、開発に成功したのが本発明である。すなわち、本発明の課題は、独特の新規な形状を有する塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶の管状凝集粒子からなる中空担体、及びこの中空担体の形状を生かした機能性粒子、並びにそれらの製造方法を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記課題を解決するために、塩基性炭酸マグネシウムからなる新奇で特殊な形状を有する中空担体、及び該中空担体を利用した機能性粒子、並びにそれらの製造方法を提供するものである。そのうちの中空担体は、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶の管状凝集粒子からなることを特徴とするものであり、機能性粒子は前記中空担体に1種以上の物質が内包されたものである。
【0020】
また、その中空担体の製造方法は二つあり、その第1は、水溶性マグネシウム塩と水溶性炭酸塩とを混合し、25〜55℃の温度で、径が0.5〜10μm、長さが5〜500μmの正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる第1ステップと、該正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液を第1ステップで正炭酸マグネシウムを生成させた温度より高い温度であって、かつ温度が40〜70℃、pHが9.5〜11.5の範囲で加熱処理する第2ステップとにより調製される塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶の管状凝集粒子からなることを特徴とするものである。
【0021】
第2は、水酸化マグネシウム懸濁液に二酸化炭素含有ガスを導入することによって炭酸水素マグネシウム溶液を調製する第1ステップと、該炭酸水素マグネシウム溶液をpH7.5〜11.0に調節して正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる第2ステップと、該正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液をpH9.0〜12.0、かつ温度30〜75℃に調節した後、前記温度範囲を維持することにより塩基性炭酸マグネシウムを生成させる第3ステップとにより調製される塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶の管状凝集粒子からなることを特徴とするものである。さらに、機能性粒子の製造方法は、前記中空担体に1種以上の物質を接触させることにより、中空担体の内部に該物質を内包させることを特徴とするものである。
【0022】
そして、本発明、特に中空担体は薄片状微細結晶の管状凝集粒子からなるものであり、それは、香気物質、栄養剤、食品添加物、医薬、農薬又は肥料等の有効物質を該中空担体の管状構造の内部に内包させることができる。また、管状という独特の形状と、その内部に有効物質を内包することにより、長期にわたる安定した徐放効果をはじめ、特定環境下で内包物を放出する放出制御性、内包物の変質防止や保護、マスキング効果という優れた特性が得られる。さらには、管の長さ、内径や厚みを制御することにより、その放出速度等を制御できるという特性をも発揮するものである。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は、それによって何等限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によって特定されるものであることはいうまでもない。その本発明は、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子からなる新奇な形状の中空担体、及び該中空担体に有効物質を内包した機能性粒子、並びにそれらの製造方法を提供するものである。
【0024】
より具体的には、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子である新奇な形状の中空担体、及び該中空担体に各種の有効物質を内包し、徐放効果、放出制御性、内包物質の変質防止や保護、マスキング効果という優れた特性を有する機能性粒子、並びにそれらの製造方法を提供するものである。なお、ここでいう塩基性炭酸マグネシウムとは、化学式mMgCO3・Mg(OH)2・nH2Oで表されるものであり、m及びnの値については特に限定はないが、通常はmの値が3〜5、nの値が3〜8の範囲に含まれる。
【0025】
そして、本発明者らが既に出願した塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子は、厚さ0.005〜0.5μm、径0.1〜10μmの薄片状微細結晶がカードハウス構造状に集合したものであり、本発明の中空担体として使用する塩基性炭酸マグネシウムとして好適である。
【0026】
この塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子は、一般に行なわれるような機械的な撹拌や、温度、pHなどの環境の変化によって、薄片状微細結晶が容易に分散してしまうような凝集ではなく、正確なところは明らかでないが、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶が集合し物理的に固定されたものである。本発明で中空担体として使用される塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子は、その形状が、外径1〜20μm、長さ5〜200μm、長さ/外径の比が2〜50、かつ内径が0.5〜5μm、内径/外径の比が0.1〜0.95であることが望ましく、この形状にすることにより、中空担体としてより優れた特性を発揮させることが可能となる。
【0027】
そして、BET法での比表面積が70〜200m2/g、または水銀圧入法により測定される細孔分布において、細孔径0.01〜100μmの細孔容積(A)が5000〜12000mm3/gであって、細孔径0.5〜5μmの細孔容積(B)との比であるB/Aが0.45〜0.85であることが望ましい。この比表面積及び細孔分布は、両者とも前記範囲にあることがより望ましく、そのことによって、管状という形状に由来する機能性粒子の中空担体としての効果がより一層効果的に発現するものである。
【0028】
本発明の機能性粒子は、塩基性炭酸マグネシウムからなる上記のような特徴を有する中空担体であり、また該中空担体の管状構造の内部に、香気物質、栄養剤、食品添加物、医薬、農薬、肥料等の有効物質を内包させた機能性粒子である。その機能性粒子は、有効成分が中空担体の管状構造内部に内包されていることにより、内包物が徐々に放出される徐放性、特定条件下で内包物を放出する放出制御性、内包物の変質防止や保護、マスキング効果といった優れた特性を発現するものである。
【0029】
例えば、徐放性を活用すると、通常では揮発したり昇華しやすい物質などを内包させることにより、長期にわたって有効成分を放出しつづける素材とすることができる。放出制御性の活用としては、酸性条件や加圧条件といった塩基性炭酸マグネシウムが分解あるいは管状構造が崩壊するような条件下で、内包物を放出するような素材とすることができる。さらに、通常では空気などとの接触により分解し易い物質等を内包させることにより、外環境との接触を抑制し有効成分の分解が抑制された素材とすることもできる。
【0030】
また、必要に応じて表面を有機高分子、脂肪酸又は脂肪酸塩により被覆することによって、内包した物質のマスキング効果や徐放効果をより一層高めることもできる。
さらに、内包させた有効成分の作用のほかに、中空担体として用いる塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子自体の特性、例えば酸性物質の中和能力や多孔性に由来する高い吸着性能などを組み合わせて活用することにより、多機能性の素材としても使用できる。
【0031】
次に、本発明の中空担体と該中空担体に有効物質を内包した機能性粒子の製造方法について述べる。中空担体の製造方法については、先に述べた薄片状微細結晶の管状構造からなる塩基性炭酸マグネシウムを製造することを特徴とする。また本発明の機能性粒子の製造方法は、該中空担体に1種以上の有効物質を接触させることにより、該中空担体の管状構造の内部に該物質を内包させることを特徴とするものである。すなわち、本発明における機能性粒子の製造方法は、管状構造という新奇な形状を有する中空担体を調製する工程と、その中空担体に特定物質を内包させる2つの工程とから構成される。
【0032】
本発明の塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶の管状凝集粒子からなる中空担体については、その製造方法は特段の制約はなく、先に述べた管状構造からなる塩基性炭酸マグネシウムが製造できればよい。前記のとおりではあるが、その中空担体は、例えば本発明者らが特願2002−179462及び特願2002−220768で提案した方法により好ましく製造できるから、本発明における中空担体の製造方法としては、両出願に記載の方法によることとした。
【0033】
前者の特願2002−179462の製造方法とは、水溶液中にて水溶性マグネシウム塩と水溶性炭酸塩とを混合し、25〜55℃の温度で、径が0.5〜10μm、長さが5〜500μmの正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる第1ステップと、該正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液を第1ステップで正炭酸マグネシウムを生成させた温度より高い温度であって、かつ35〜80℃の温度、9.5〜11.5のpHで加熱処理する第2ステップとにより薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子の塩基性炭酸マグネシウムが製造できる。
【0034】
この第1ステップにおいて使用される水溶性マグネシウム塩については、各種の水溶性マグネシウム塩が特に制限されることなく使用でき、それには塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウムあるいは酢酸マグネシウム等が例示できる。水溶性炭酸塩についても、特に制限されることなく使用でき、それには炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等が例示できるが、強アルカリの炭酸塩、具体的には炭酸ナトリウム、炭酸カリウムを用いることが、より効率よく塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を調製することができ、好適である。
【0035】
第1ステップにおいては、水溶液中にて上記したような水溶性マグネシウム塩と水溶性炭酸塩とを反応させ、正炭酸マグネシウムの柱状粒子を析出させるが、その方法としては、例えば、炭酸ナトリウム水溶液中に塩化マグネシウム水溶液を添加する方法、硫酸マグネシウム水溶液中に炭酸アンモニウムを添加する方法など、水溶性マグネシウム塩と水溶性炭酸塩とを溶液中において混合して、マグネシウムイオンと炭酸イオンとが反応する条件であればよい。その際の反応には、反応の均一性を確保するために反応液の攪拌を行うのが好ましい。
【0036】
第1ステップにおいて生成させる正炭酸マグネシウムの形状については、柱状で、その径が0.5〜10μm、長さが5〜500μmであることが望ましい。その理由は、塩基性炭酸マグネシウムが正炭酸マグネシウムの柱状粒子表面から生成することによって、管状という独特の形状が形成されると推察しているからである。すなわち、中間生成物である正炭酸マグネシウムの形状が、最終生成物である塩基性炭酸マグネシウムの形状に大きく影響するといえる。
【0037】
したがって、目的とする塩基性炭酸マグネシウムの形状、特に径と長さに応じて、正炭酸マグネシウムの合成条件を調節して、適切な形状の正炭酸マグネシウムを得ることが重要である。さらに上記形状以外の正炭酸マグネシウムの場合には、第2ステップにおいて、塩基性炭酸マグネシウムを生成させる際、その生成に要する時間が極端に長くなり製造効率が低下したり、目的とする管状の粒子が得られないことがある。
【0038】
そのようなことで、目的とする形状で、かつ第2ステップにおいて効率よく塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を得ることができる正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させるためには、水溶液中にて水溶性マグネシウム塩と水溶性炭酸塩とを反応させる温度を、望ましくは25〜55℃、より望ましくは28〜50℃の範囲とすることがよい。
【0039】
その際の温度が25℃未満であると、中間生成物である正炭酸マグネシウムの生成速度が極端に遅くなり、製造効率が低下してしまい現実的でない。逆に55℃を越えと、目的とする形状の正炭酸マグネシウムが得られなかったり、後の第2ステップにおいて、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子が得られない。なお、第1ステップにおいて生成させる正炭酸マグネシウムとは、化学式MgCO3・nH2Oで表される炭酸マグネシウムの水和物であり、n=3のものが一般的であるが、n=3以外のものであっても、上記したような形状のものであれば制限されない。
【0040】
また、第1ステップで生成させる正炭酸マグネシウムの形状を調節して、第2ステップで生成させる塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の形状をコントロールしたい場合には、第1ステップの反応条件を適宜コントロールすることによって、正炭酸マグネシウムの形状を上記した範囲内で調節することもできる。例えば、正炭酸マグネシウムの柱状粒子の径については、正炭酸マグネシウムを生成させる際の温度を比較的高くした方が、より径の小さな柱状粒子とすることができる。pHについては、第1ステップにおいて正炭酸マグネシウムの生成が開始される際のpHがより高い方が、より径の小さな正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させることができる。
【0041】
このようにして第1ステップで得られる径が0.5〜10μm、長さが5〜500μmの範囲にある正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液は、そのまま第2ステップに供しても差し支えないが、不純分として懸濁液中に溶解している可溶性マグネシウム塩の陰イオン成分や可溶性炭酸塩の陽イオン成分を回収したい場合や、これら不純分が最終生成物である塩基性炭酸マグネシウム中に残存することが好ましくない場合は、液を水などで置換し、不純分の除去を行ってもよい。
【0042】
続いて、第2ステップにおいては、第1ステップで得られた正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液を望ましくは40〜70℃、より望ましくは45〜65℃で、かつ第1ステップより高い温度で加熱処理して、塩基性炭酸マグネシウムを生成させる。この第2ステップにおける加熱処理温度は、第1ステップで正炭酸マグネシウムを生成させる際の温度より高い温度とすることが重要となり、第1ステップと第2ステップとの温度差を、望ましくは2〜35℃、より望ましくは2〜25℃、さらに望ましくは2〜20℃とすることがよい。
【0043】
なお、この温度差に関しては、第1ステップで正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる温度と、第2ステップで正炭酸マグネシウムを加熱処理する際のpHとによって、より適切な範囲があり、例えば、第2ステップのpHを10.5とする場合、第1ステップが25〜35℃の際には温度差を20〜35℃、第1ステップが35〜45℃の際には温度差を5〜25℃、第1ステップの温度が45〜55℃の際には温度差を2〜15℃とすることが好適である。
【0044】
第1ステップよりも低い温度あるいは40℃未満の温度であると、目的とする塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子が得られなかったり、反応時間が極端に長くなって製造効率が低下し現実的でない。70℃を越える温度では、生成する塩基性炭酸マグネシウム粒子の均一性が悪くなり、不定形〜球状の凝集粒子の混入が顕著になる。
【0045】
また、第2ステップにおいても、第1ステップの場合と同様に、反応の均一性を確保するため反応液の撹拌を行う方が好ましい。さらに、加熱処理する際の正炭酸マグネシウム懸濁液のpHについては、望ましくは9.5〜11.5、より望ましくは10.0〜11.5とすることがよい。それは、pHが9.5未満であると正炭酸マグネシウムから塩基性炭酸マグネシウムが生成する速度が遅くなり、製造効率が低下するばかりでなく、最終生成物中に正炭酸マグネシウムが残留することがあるからでもある。また、pHが11.5を越えると、最終生成物の粒子の均一性が損なわれ、不定形ないし球状の粒子が混入しやすくなる。
【0046】
この範囲にpHを調節するためには、第1ステップにおける水溶性マグネシウム塩と水溶性炭酸塩との量比を調節するか、あるいは第2ステップにおいて酸性物質又はアルカリ性物質を添加し調節すればよい。前者の場合、水溶性マグネシウム塩の量を増やせば酸性側に、逆に水溶性炭酸塩の量を増やせばアルカリ性側に調節することができる。後者の場合、添加する酸性物質としては塩酸、硫酸、硝酸などが、アルカリ性物質としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水などが利用可能である。
【0047】
第2ステップにおいては、塩基性炭酸マグネシウムの生成が終了するまで、加熱撹拌を継続させることが好ましい。塩基性炭酸マグネシウムの生成の終了に関しては、懸濁液のpHや導電率などを計測することによって判定することができる。例えばpHについてみると、塩基性炭酸マグネシウムの生成が継続している時点では、懸濁液のpHは少しずつ減少していくのに対して、生成が終了すればpHはほぼ一定で推移する。
【0048】
そして、後者の特願2002−220768の製造方法ついては、水酸化マグネシウム懸濁液に二酸化炭素含有ガスを導入することによって炭酸水素マグネシウム溶液を調製する第1ステップと、該炭酸水素マグネシウム溶液をpH7.5〜11.0に調節して正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる第2ステップと、該正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液をpH9.0〜12.0、かつ温度30〜75℃に調節した後、前記温度範囲を維持することにより塩基性炭酸マグネシウムを生成させる第3ステップとを有することを特徴とするものである。
【0049】
その第1ステップは、水酸化マグネシウムの懸濁液に二酸化炭素含有ガスを導入して炭酸水素マグネシウム溶液を調製する工程であり、ここで使用する原料の水酸化マグネシウムについては、特に制限されることはなく、海水に水酸化カルシウムを添加して水酸化マグネシウムを沈殿させる、いわゆる海水法により製造される水酸化マグネシウムが利用できるほか各種のものが利用できる。また、二酸化炭素含有ガスに関しても特段の制約はなく、ボンベ等から供給される二酸化炭素やそれを空気等で希釈したもの、燃焼排ガスなどの二酸化炭素を含有するものが利用できる。
【0050】
また、その第1ステップにおいては、原料とする水酸化マグネシウムの90%以上、望ましくは全量が炭酸水素マグネシウムに変化するのがよい。その理由は、炭酸水素マグネシウムに変化していない水酸化マグネシウム量が多い場合、後の第2ステップ及び第3ステップにおいて、均一な反応が阻害され、最終生成物である塩基性炭酸マグネシウムの管状の凝集粒子の粒子形状の均一性が悪化することがあるからである。
【0051】
水酸化マグネシウムから炭酸水素マグネシウムへの変化に関しては、液のpHや導電率などを計測することによって確認することができる。例えば、液のpHについては、二酸化炭素含有ガスを導入する前の水酸化マグネシウムの懸濁液のpHが9〜11程度であるのに対して、水酸化マグネシウムの全量が炭酸水素マグネシウムに変化すれば、液のpHはほぼ中性となる。第1ステップにおいては、液のpHが8以下になるまで二酸化炭素含有ガスを導入することが望ましく、pHが7.5以下となるまで導入することがより望ましい。
【0052】
水酸化マグネシウム懸濁液に二酸化炭素含有ガスを導入する際の液温についても特段の制約はないが、液温が高すぎると、炭酸水素マグネシウムの溶解度が低下してしまい、その結果として調製される炭酸水素マグネシウム溶液中に残存する未反応の水酸化マグネシウム量が多くなるばかりでなく、第1ステップの反応が完了する前に炭酸水素マグネシウムが分解してしまう現象も認められる。したがって、水酸化マグネシウム懸濁液に二酸化炭素含有ガスを導入させる際には、液温を35℃以下に保持することが望ましく、30℃以下に保持することがより望ましい。
【0053】
また、水酸化マグネシウムの懸濁液に二酸化炭素含有ガスを導入した後、未反応の水酸化マグネシウムやその他の不純分などの不溶解残渣を除去することがより好ましく、そうすることによって、不純分の少ない炭酸水素マグネシウム溶液を調製することができ、後の第3ステップにおいて、純度が高くかつ粒子の均一性の高い塩基性炭酸マグネシウムを得ることができる。
【0054】
続く第2ステップにおいては、第1ステップで調製された炭酸水素マグネシウム溶液を、pH7.5〜11.0に調節して正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる。この第2ステップにおいても、第1ステップの場合と同様に反応の均一性を確保するため反応液の撹拌を行うのが好ましい。この第2ステップにおいては第1ステップにおいて中性域に移行したpHをアルカリ側にpH調節することが必要であり、そのために第1ステップで調製した炭酸水素マグネシウム溶液に、適当量のアルカリ性物質を添加することによってpH調節する。また、調節後は、pHが7.5〜11.0の範囲にあることが必要である。
【0055】
その第2ステップにおいて、pHを前記のとおり調整する必要があるのは、pHが7.5未満であると、後の第3ステップにおいて塩基性炭酸マグネシウムの管状の凝集粒子が得られないためである。逆に、pHが11.0を超えると、正炭酸マグネシウムが不安定になり、正炭酸マグネシウムの生成が完了する前に塩基性炭酸マグネシウムが生成してしまったり、また炭酸水素マグネシウムから直接塩基性炭酸マグネシウムが生成してしまい、最終生成物の塩基性炭酸マグネシウムの粒子の均一性が著しく悪化するばかりでなく、pH調節のために使用するアルカリ性物質の必要量が多くなり、経済的にも芳しくない。
【0056】
第2ステップにおいて正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させるには、第1ステップにおいて調製した炭酸水素マグネシウム溶液をpH7.5〜11.0に調節した後、正炭酸マグネシウムの生成が終了するまで反応を継続させることが好ましい。正炭酸マグネシウムの生成の終了については、液のpHあるいは導電率を計測し、その値が安定化したことを観測することにより確認できる。
【0057】
また、その際の温度については、20〜55℃にすることが望ましく、30〜55℃にすることがより望ましい。20℃未満であると後の第3ステップにおいて、塩基性炭酸マグネシウムの管状の凝集粒子のほかに、不定形の凝集粒子が混入しやすくなる。逆に55℃を超える温度の場合においても、第3ステップにおいて粒子の均一性が悪化する傾向がある。
【0058】
第2ステップでは、前記したとおりにpHを調節し、望ましくは温度も前記したとおりに調節して、正炭酸マグネシウムの生成が終了するまで反応を継続させ、正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させるわけだが、その柱状粒子の形状としては、径が0.5〜10μm、長さが5〜500μmのものが望ましい。特に柱状粒子の径については、0.5μm未満あるいは10μmを超える場合、後の第3ステップにおいて、本発明の目的とする塩基性炭酸マグネシウムの管状の凝集粒子が得られないことがある。
【0059】
また、第3ステップで製造される塩基性炭酸マグネシウムの管状の凝集粒子の形状、特に径と長さは、第2ステップで生成させる正炭酸マグネシウムの柱状粒子の径と長さに影響されており、製造目的である塩基性炭酸マグネシウムの管状の凝集粒子の形状に応じて、第2ステップで生成させる正炭酸マグネシウムの径と長さを調節することが望ましい。正炭酸マグネシウムの柱状粒子の径と長さとを調節するには、第2ステップにおいて、正炭酸マグネシウムを生成させる際のpH及び温度を適切にコントロールすればよい。
【0060】
例えば、第2ステップにおけるpHについては、前記した範囲内で、より高いpHとすることにより、径の小さな正炭酸マグネシウムの柱状粒子を得ることができ、逆により低いpHとすることにより、径の大きな正炭酸マグネシウムの柱状粒子を得ることができる。さらに、第2ステップにおける温度に関しては、前記した範囲内で、より高い温度とすることにより、径の小さな正炭酸マグネシウムの柱状粒子を得ることができ、逆により低い温度とすることにより、径の大きな正炭酸マグネシウムの柱状粒子を得ることができる。
【0061】
また、生成させた正炭酸マグネシウムの柱状粒子を、一旦濾別、洗浄してもよく、そうすることによって、第2ステップで添加したアルカリ性物質を除去することができ、製品中に含有される不純分をより一層低減できる点で好適である。このようにして、第2ステップでは、炭酸水素マグネシウム溶液から、正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる。
【0062】
第2ステップに続く、最後のステップである第3ステップにおいては、第2ステップで得られた正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液からpH9.0〜12.0、温度30〜75℃の下において塩基性炭酸マグネシウムを生成させる。また、第3ステップにおいても、第1ステップ及び第2ステップの場合と同様に、反応の均一性を確保するため反応液の撹拌を行うのが好ましい。
【0063】
第3ステップで塩基性炭酸マグネシウムを生成させる際の温度については、30〜75℃であることが必要かつ重要である。30℃未満の温度であると、目的とする管状の塩基性炭酸マグネシウムが得られなかったり、反応時間が極端に長くなって製造効率が低下し現実的でない。75℃を越える温度では、生成する塩基性炭酸マグネシウム粒子の均一性が悪くなり、不定形〜球状の凝集粒子の混入が顕著になる。
【0064】
該ステップにおけるpHについては、9.0〜12.0とすることが必要である。その理由は、pHが9.0未満であると正炭酸マグネシウムから塩基性炭酸マグネシウムが生成する速度が遅くなり製造効率が低下するばかりでなく、最終生成物中に正炭酸マグネシウムが残留することがあるからである。逆にpHが12.0を越えると、最終生成物の粒子の均一性が損なわれ、不定形ないし球状の粒子が混入しやすくなる。
【0065】
さらに、第3ステップにおけるpHは、第2ステップにおいて正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる際のpHよりも高くすることが望ましく、より望ましくは0.3以上高くすることがよい。そうすることにより、均一性が高く、かつ種々の粉体物性に優れる塩基性炭酸マグネシウムの管状の凝集粒子を、より効率よく製造することが可能となる。この範囲にpHを調節するためには、第3ステップにおいて酸性物質またはアルカリ性物質を添加し調節すればよい。
【0066】
なお、第3ステップにおける温度及びpHは、第2ステップで生成させた正炭酸マグネシウムの形状、特に径と長さに応じて調節することが望ましく、そうすることによって、より均一な形状の塩基性炭酸マグネシウムの管状の凝集粒子を得ることができる。具体的には、正炭酸マグネシウムの径が小さい場合、第3ステップでのpH及び温度は低い方が好ましく、逆に正炭酸マグネシウムの径が大きい場合、第3ステップでのpH及び温度は高い方が好ましい。
【0067】
第3ステップにおいては、塩基性炭酸マグネシウムの生成が終了するまで、前記した範囲の温度を保持しながら、撹拌を継続させることが好ましい。なお、その際には、温度30〜75℃に調節した直後の温度を継続して維持している必要はなく前記温度範囲では変動してもよいが、変動は可能な限り少ない方が好適である。なお、塩基性炭酸マグネシウムの生成の終了に関しては、懸濁液のpHや導電率などを計測することによって確認することができる。例えばpHについては、塩基性炭酸マグネシウムの生成が継続している時点では、懸濁液のpHは低下していくのに対して、生成が終了すればpHはほぼ一定で推移する。
【0068】
上記したような方法により本発明で中空担体として使用される塩基性炭酸マグネシウムは調製されるが、元来、塩基性炭酸マグネシウムは水の存在下ではpH10〜11のアルカリ性を呈し、また酸に対しては比較的弱い物質である。用途によってはpH7付近の中性であることが必要であったり、耐酸性を要求されることもある。この場合には、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子表面をシリカやアルミナ等の金属酸化物で被覆することにより、pHを低下させたり、耐酸性を付与することも可能である。
【0069】
特に中空担体に中性域が要求される場合には、金属酸化物により表面被覆された塩基性炭酸マグネシウムのJIS K5101によるpH値が9.5以下であることが望ましい。表面被覆する金属酸化物としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化鉄、亜鉛酸化物等が使用できるが、この中でもシリカ又はアルミナは、より効率よくpH値を低下させることができ最も好適である。なお、ここでいう金属酸化物とは、無水酸化物のほかに、水酸化物や水和物などの含水酸化物であってもよい。
【0070】
塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を金属酸化物で被覆する方法は、該塩基性炭酸マグネシウムの懸濁液に、所望の金属酸化物を沈殿させるために必要な1種又は2種以上の物質を添加する方法が簡便であり、かつ効率よく金属酸化物による被覆ができ、好適である。例えば、シリカにより表面被覆する場合には、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の水性懸濁液に、適切なpH条件下において、ケイ酸ナトリウム溶液を滴下し、ケイ酸ナトリウムを加水分解させ、管状凝集粒子表面にシリカを析出させればよい。アルミナの場合には、ケイ酸ナトリウムの代わりに、アルミン酸ナトリウムなどを使用すれば、アルミナによる表面被覆ができる。
【0071】
このようにして、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子表面を金属酸化物により被覆することによりpH値を低下させることができ、アルカリ性に弱い物質であっても管状構造内部に内包することができる。さらには、耐酸性の金属酸化物であれば、酸性の物質を内包させることが可能となる。
【0072】
また、本発明の塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子からなる中空担体に、油性物質を内包する場合、該管状凝集粒子を脂肪酸又は脂肪酸塩で表面処理し親油性とすることによって、内包効率に優れる中空担体とすることができる。使用する脂肪酸としてはカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが、脂肪酸塩としては前記した脂肪酸類のナトリウム塩、カリウム塩などが使用できる。
【0073】
これら脂肪酸あるいは脂肪酸塩で塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面処理を行うには、該管状凝集粒子の懸濁液に脂肪酸又は脂肪酸塩を適量添加し撹拌した後、乾燥させればよい。脂肪酸あるいは脂肪酸塩を添加し撹拌する際には、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の懸濁液の温度を、使用する脂肪酸の融点以上、あるいは使用する脂肪酸塩の所定量が溶解する温度以上に保持することが望ましい。
【0074】
脂肪酸あるいは脂肪酸塩の添加の際には、脂肪酸の場合には該脂肪酸の融点以上に加温して液状とし、脂肪酸塩の場合には該脂肪酸塩の所定量が溶解する温度以上に加温した溶液状としてもよい。例えば、脂肪酸としてカプリン酸を使用する場合には30℃以上、ラウリン酸の場合には45℃以上、ステアリン酸の場合には70℃以上とすることがよい。
【0075】
また、脂肪酸塩の溶液を使用し、その濃度を10重量%とする場合、例えばラウリン酸ナトリウムでは35℃以上、ミリスチン酸ナトリウムでは50℃以上、ステアリン酸ナトリウムでは75℃以上とすることがよい。このようにすることによって、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面処理を、より効率よく行うことができる。
【0076】
表面処理後の乾燥については特段の制約はないが、流動層乾燥機や噴霧乾燥機(スプレードライヤー)、真空凍結乾燥機等を使用して乾燥すれば、そのまま粉末状態のものを得ることができる。そして、表面処理により親油化したかの確認は、表面処理した管状凝集粒子を水に投入した際、水をはじいて水中には分散しないことにより確認することができる。
【0077】
このように脂肪酸又は脂肪酸塩で表面処理することによって、中空担体表面を親油化することができ、油性物質を内包する際の内包効率に優れる中空担体が得られる。また、脂肪酸あるいは脂肪酸塩のほかにも、樹脂酸やチタネート系カップリング剤、シラン系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、その他各種の表面処理剤により、中空担体表面を親油化することもできる。
【0078】
このようにして調製された管状構造の塩基性炭酸マグネシウムは、その内部に種々の物質を内包させることができる。その際、管状構造の塩基性炭酸マグネシウムは、懸濁液の状態、あるいは乾燥させた後の乾燥粉の状態として利用することができる。懸濁液の状態で利用する場合、反応後の懸濁液をそのまま用いてもよいが、懸濁液中に水溶性マグネシウム塩の陰イオン成分や水溶性炭酸塩の陽イオン成分のほか、場合によってはpH調節のために添加した酸性またはアルカリ性物質に由来する不純分が含有され、用途によってはこの不純分が悪影響を及ぼすこともあるので、その場合は適宜、水やアルコール類等の他の溶媒で置換、除去すればよい。
【0079】
一方、乾燥粉の状態で利用する場合脱水工程や乾燥工程を経ることによって乾燥粉を得ればよいが、乾燥方法によっては乾燥凝集が起こって後の工程で解砕が必要となることもあり、この解砕工程で粒子形状が破壊される虞も考えられる。したがって、乾燥粉を得るためのより望ましい手法としては、生成後の塩基性炭酸マグネシウム懸濁液の溶媒をアルコールなどの有機溶媒で置換するか、あるいは脱水後にアルコールなどの有機溶媒による洗浄工程を設け、その後乾燥させる方法がよい。
【0080】
このようなアルコールなどの有機溶媒による溶媒の置換または洗浄を行うことによって、乾燥による凝集が抑えられた乾燥粉が得られる。なお、ここで用いる有機溶媒としては、塩基性炭酸マグネシウムの溶解度が低いものが好適であり、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、プロパノール、アセトンなどが使用できる。また、上記したような有機溶媒による溶媒の置換または洗浄を行わなくても、乾燥凝集が起こり難い乾燥方法を採用してもよく、例えば噴霧乾燥機(スプレードライヤー)や流動層乾燥機、真空凍結乾燥機などを用いれば、乾燥凝集の抑制された乾燥粉を得ることができる。
【0081】
続いて、このようにして調製された管状構造をなす塩基性炭酸マグネシウムに、所望の物質、例えば香気物質、栄養剤、食品添加物、医薬、農薬、肥料等の有効物質を内包させる。その際、上記したような乾燥粉を使用するのがよいが、管状構造をなす塩基性炭酸マグネシウムをスラリーのままで使用することもできる。またその内包させる方法については特に限定されないが、以下のような方法が広く適用でき、かつ比較的簡便であることより好適である。
【0082】
まず、所望の1種以上の物質を溶媒に溶解または懸濁させる。懸濁状態の場合、溶液中の粒子は次に投入する中空担体の内径より小さくなければならないので、特に固体粒子は超音波分散機等を使用して充分に分散しておくことが必要である。また濃度は高い方が管内に導入できる物質の量が増えるので好適であるが、粘度が高くなりすぎると管状構造の内部の空気と溶液や懸濁液が置換できず、時に高粘度であるが故に管状構造を壊す虞がある。
【0083】
この溶液又は懸濁液と上記した中空担体の乾燥粉を混合し、全体が均一になるように撹拌して含浸させ乾燥すればよい。管状構造の内部への溶液又は懸濁液の浸入が不十分であれば、真空ポンプやアスピレーター等を用いて減圧して管状構造内部の空気を脱気すると、内部への溶液あるいは懸濁液の浸入を促進することができる。乾燥は加温等により溶媒を気化させればよい。
【0084】
この時の加温する温度は、内包された物質の性状を充分考慮する必要があり、低温での乾燥が必要な場合は減圧状態で行なうと乾燥時間の短縮となる。こうして中空担体に所望の物質が内包された機能性粒子を得ることができる。また、中空担体は、スラリーから一旦乾燥粉を形成することなく、そのまま機能性粒子を形成するために使用することもできるが、そのことは後に詳述する。
【0085】
なお、中空担体を構成する塩基性炭酸マグネシウムそのものは、加熱により結晶水の脱水、水酸基の分解、炭酸基の分解が順に起こる。例えば、塩基性炭酸マグネシウムの化学式mMgCO3・Mg(OH)2・nH2Oにおけるnの値(結晶水の数)が8のものは、50〜100℃で3〜4の結晶水が脱水してnの値は4〜5となり、100〜250℃でさらに結晶水を失いnの値は0となる。
【0086】
250℃を超える温度となると、300〜450℃で水酸基が分解し、450〜550℃で炭酸基が分解して二酸化炭素を放出する。しかしながら、これらの変化による管状構造のダメージはさほど大きいものではない。従って内包する物質や使用する目的によっては、加熱により積極的に塩基性炭酸マグネシウムを無水物や酸化物に改質することも可能である。
【0087】
本願発明の中空担体である塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子内部に内包させる物質としては、前記したとおり医薬、化粧料、食品関連薬剤類、香料、農薬、肥料等が挙げられる。内包させる各種の成分および該成分を内包した機能性粒子の応用について以下に示す。
【0088】
医薬類に関しては種々の成分を内包させることができ、各種医薬成分が塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子からなる中空担体に内包されていることにより、徐放性、放出制御性、保護性、マスキング性等の機能性を有する医薬とすることができる。そして、本発明の中空担体に各種医薬成分を内包させた機能性粒子は、経口薬、エアゾール薬、軟膏剤、坐薬、パップ剤などに含有させることによって、上記した徐放性、放出制御性、保護性、マスキング性等の機能を有する医薬製剤とすることができる。
【0089】
経口薬としては、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤といった固形製剤のほか、シロップ剤、懸濁剤、乳剤といった液体製剤にも適用できる。固形製剤の場合、本発明の機能性粒子を含有する粉末を造粒して、錠剤、顆粒剤、丸剤等とするか、粉末状態のまま散剤として使用することもできる。液体製剤の場合には、本発明の機能性粒子を液に分散させればよい。
【0090】
エアゾール薬では、医薬成分を内包した中空担体を粉末状態のまま使用した粉末吸引剤や、液に分散させて霧状あるいはペースト状の吸入剤としてもよい。また軟膏剤あるいは坐薬では、医薬成分を内包した塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を、油脂、乳剤などの基剤と混練してペースト状又はクリーム状等にすればよい。パップ剤では、医薬成分を内包した中空担体を樹脂などと混練し、シート状に成形して湿布などに使用することができる。
【0091】
医薬成分を内包した機能性粒子の具体的用途については、内包させる医薬成分の種類によって異なるが、内包させる医薬成分としては、下記に示すような種々のものが適用できる。例えば、神経系医薬としては、抗てんかん剤、解熱剤、鎮痛剤、総合感冒剤などの中枢神経系用剤や、自律神経剤、鎮けい剤などの末梢神経系用剤等がある。生体防御機構に作用する医薬としては、免疫抑制剤、免疫促進剤、抗炎症剤、抗アレルギー剤、抗リウマチ剤、インターフェロン様剤などがある。
【0092】
循環器官用医薬としては、不整脈用剤、血管拡張剤、血管収縮剤、血圧降下剤、血圧上昇剤、抗動脈硬化症剤、高脂血症用剤、利尿剤などがある。呼吸器官用医薬としては、気管支拡張剤、鎮咳剤、去たん剤、鎮咳去たん剤、含嗽剤などがある。消化器官用医薬としては、抗消化性かいよう剤、制酸剤、健胃消化剤、抗肥満症剤、鎮吐剤、催吐剤、止しゃ剤、下剤、整腸剤、複合胃腸剤などがある。外皮用医薬としては、外皮用殺菌消毒剤、創傷保護剤、化膿性疾患用剤、鎮痛・鎮痒・収れん・消炎剤、浴剤などがある。
【0093】
代謝系用医薬としては、ビタミンA様剤、ビタミンD様剤、ビタミンB1様剤、ビタミンB2様剤、ビタミンC様剤、ビタミンP様剤、ビタミンE様剤、ビタミンK様剤、混合ビタミン様剤などのビタミン様剤のほか、カルシウム剤、無機質製剤、糖類剤、有機酸製剤、タンパクアミノ酸製剤などの滋養強壮薬や、肝臓疾患用剤、解毒剤、習慣性中毒用剤、痛風治療剤、酵素製剤、糖尿病用剤、総合代謝性製剤、尿酸代謝用剤、脂質代謝用剤、糖質代謝用剤などがある。
【0094】
本願発明の中空担体は、上記した医薬成分を内包することによって、内包した医薬成分が徐々に放出され長期にわたりその薬効を継続することができるばかりでなく、副作用の低減にも効果的である。また、空気との接触、光、熱などによって分解あるいは変質し易い成分であっても、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子内部に内包することによって、該成分の分解あるいは変質を抑制することができる。
【0095】
ただし、アルカリ性に弱い医薬成分であると、塩基性炭酸マグネシウムの性質であるアルカリ性によって、分解あるいは変質してしまうこともある。したがって、内包する医薬成分としては、耐アルカリ性の成分であることが望ましいが、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を表面処理によって低pH化したものを用いれば、この限りでない。また、内包する医薬成分を予めマイクロカプセル、ナノカプセルのように耐アルカリ性に保護しておくか、あるいは安定な乳化状態にしておいてもよい。
【0096】
さらに、経口時に苦味などの不快味を有する医薬成分であっても、該成分が塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子に内包されていることから、経口時の不快味を低減することもできる。具体例を挙げて説明すると、総合感冒薬や抗生物質等の消化器等の内蔵粘膜に刺激を与えたり、副作用が強い医薬を内包すれば、これら医薬成分が中空担体の管状構造の端部から徐々に放出されることにより、刺激や副作用を軽減することができ、かつ長期にわたって薬効を継続させることができる。
【0097】
また、ビフィズス菌などの酸に弱い有用菌類等を内包することにより、これらの成分あるいは菌類を胃酸から保護することができ、これらの成分あるいは菌類のより多くを治療目的とする患部に効果的に作用させることが可能となる。さらに、消化剤や消化酵素剤などを内包させれば、中空担体である塩基性炭酸マグネシウムが胃酸により分解された後に、これらの成分が放出される放出制御性を持つ製剤とすることもできる。
【0098】
なお、塩基性炭酸マグネシウム自体は制酸剤、緩下剤のほか、胃潰瘍・十二指腸潰瘍や胃炎、上部消化器官異常の治療薬としての薬効を有していることから、これら塩基性炭酸マグネシウム自体の効果と、その内部に内包される他の医薬成分の効果とを併せもつ医薬製剤とすることもできる。上述した経口薬以外にも、例えば、気管支拡張剤を内包した中空担体は粉末吸引剤として使用することができるほか、消炎鎮痛剤などの外皮用医薬を内包すれば、軟膏剤やパップ剤として、薬効の持続性に優れ、かつ発疹などの副作用を低減させることも可能となる。
【0099】
化粧料に関しては、下記に示す各種の保湿剤、植物抽出エキス、化粧料用薬剤、着色料、香料等を内包することができる。これら化粧料成分を内包することによって、徐放性、放出制御性、保護性、マスキング性等の機能性を有する化粧料とすることができる。植物抽出エキスとしては、収れん・清涼成分、抗炎症・抗アレルギー成分、殺菌・静菌成分、紫外線防止成分、皮膚賦活成分、保湿成分等がある。
【0100】
化粧料用薬剤としては、美白用薬剤、ビタミン剤、ホルモン剤、止痒剤、鎮痒剤、抗炎症剤、発毛促進剤、角質軟化剥離剤、収れん剤、酸化防止剤、抗菌剤のほか、ベンゾフェノン系、安息香酸系、ケイ皮酸系、サリチル酸系などの紫外線防止剤、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウムなどの紫外線遮蔽剤等がある。着色剤としては、有機合成色素、天然色素、無機系着色料、白色顔料、高分子粒子等が、香料としては、天然香料、合成香料、調合香料等がある。
【0101】
上記した化粧料成分を内包することによって、内包した化粧料成分が徐々に放出され長期にわたりその効能を継続することができるばかりでなく、空気との接触、光、熱などによって分解あるいは変質し易い成分であっても、該成分の分解あるいは変質を抑制することができる。具体例を挙げて説明すると、ビタミンなどの化粧料用薬剤を内包することにより、ビタミン類の効能である抗酸化作用が長期にわたり発現するほか、空気との接触によるビタミン類の分解や変質を抑制することができる。
【0102】
食品関連薬剤類に関しては、下記に示す各種の栄養剤、保存料等を内包することができる。これらの成分を内包することによって、徐放性、放出制御性、保護性、マスキング性等の機能性を有する食品関連薬剤類とすることができる。
【0103】
栄養剤としては、ドコサエキサエン酸、エイサコペンタエン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、α−リノレン酸、月見草油、ボラージ油、レシチン、オクタコサノール、ローズマリー、セージ、γ−オリザノール、β−カロチン、パームカロチン、シソ油、キチン、キトサン、ローヤルゼリー、プロポリス、ギムヘマ、ヘム鉄のほか、ビタミンA,ビタミンD、ビタミンE、ビタミンF,ビタミンF、ビタミンKなどの油溶性ビタミン類及びその誘導体や、ビタミンB1、ビタミンB2,ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンL、ビタミンP、ニコチン酸、パントテン酸、コリンなどの水溶性ビタミン類及びその誘導体等がある。また、酸化防止剤、脱酸素剤、防腐剤、保水乳化安定剤、防カビ剤、防ばい剤、殺菌剤等の保存料のほか、着色剤、発色剤等も適用可能である。
【0104】
上記した食品関連薬剤成分を内包することによって、該成分が徐々に放出され長期にわたりその効能を継続することができるばかりでなく、空気との接触、光、熱などによって分解あるいは変質し易い成分であっても、該成分の分解あるいは変質を抑制することができる。具体例を挙げて説明すると、酸化防止剤等の保存料成分を内包すれば、長期にわたり該成分が効果を発揮するばかりでなく、空気との接触や光・熱による分解あるいは変質を防止することもできる。さらには経口時に不快味を有するものを内包すれば、苦味や酸味等のマスキング効果をも発現させることができる。
【0105】
香料関連に関しては、下記に示す各種の香料成分を内包することができる。これらの成分を内包することによって、徐放性、放出制御性、保護性、マスキング性等の機能性を有する香料類とすることができる。また、この香料成分を内包することによって、香気や香味力を長期にわたり維持できるばかりでなく、酸化や吸湿を防ぐことにより保存性を向上させることも可能である。
【0106】
内包される香料成分としては、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツなどの柑橘類精油や、花精油、ペパーミント油、スペアミント油、スパイス油などの植物精油のほか、コーラナッツ、コーヒー、ワニラ、ココア、紅茶、緑茶、ウーロン茶、香辛料、鰹フレーバー、海老フレーバー、蟹フレーバー、ヒノキチオール、エキストラクト類、オレオレンジ類、エッセンス類、回収香、合成香料化合物、調合香料組成物等がある。
【0107】
農薬に関しては、各種の殺虫剤、昆虫忌避剤、殺菌剤、除草剤、殺そ剤、植物生長調整剤等があげられ、肥料としては硫安、塩安、硝安、硝酸ソーダ、硝酸石灰、尿素等のチッソ質肥料、過リン酸石灰、重過リン酸石灰、水溶性リン酸等のリン酸質肥料、硫酸カリ、塩化カリ、硫酸カリ苦土、可溶性カリ等のカリ質肥料の他、農薬入り肥料、木酢液なども含まれる。
【0108】
これら農薬あるいは肥料を内包した機能性粒子は、内包した農薬あるいは肥料の成分が徐々に放出されることから、長期にわたりその効果を発現する、持続性農薬や徐放性肥料などとして有効である。また、空気や水との接触により容易に分解あるいは変質し、効能が低下してしまう物質であっても、中空担体に内包することにより分解あるいは変質を抑制することもできる。
【0109】
このようにして製造される機能性粒子は、上記したような種々の物質を内包させることにより、様々な効果を発揮でき、必要に応じてさらに表面を有機高分子、脂肪酸又は脂肪酸塩により被覆して、内包した物質の漏洩防止や保護効果を高めたり、表面性状を改質することにより、多様な用途に対応し最適化することができる。
【0110】
この時に使用される有機高分子は、用途や求められる性能により適宜選択すれば良いが、親水性の溶媒が使用できる水溶性高分子を使用すれば比較的簡便に被覆できる。水溶性高分子には、天然高分子、天然高分子の変性物、合成高分子がある。天然高分子としては、デンプン質のものや、マンナン、海藻類、植物粘質物、微生物粘質物、タンパク質などが使用できる。
【0111】
より具体的には、デンプン質のものとしては、かんしょデンプン、ばれいしょデンプン、タピオカデンプン、小麦デンプン、コーンスターチ等が、マンナンとしてはこんにゃく等が、海藻類としては、ふのり、寒天(ガラクタン)、アルギン酸ナトリウム等が、植物粘質物としては、トロロアオイ、トラガントゴム、アラビアゴム等が、微生物粘質物としてはデキストラン、レバン等が、タンパク質ではゼラチン、カゼイン、コラーゲン、にかわ等が挙げられる。
【0112】
天然高分子の変性物としては、セルロース系のビスコース、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルエルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等、デンプン系の可溶性デンプン、カルボキシメチルデンプン(CMS)、ジアルデヒドデンプン等を使用することができる。合成高分子としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド等を挙げることができる。
【0113】
特に、医薬品や食品用途では、ゼラチン、カゼイン、ミオシン、コラーゲン、アルギン酸、キトサン、ツェイン、マンナン、カラギーナン、大豆蛋白、デキストリン、デンプン、カードラン、キサンタンガム等の可食性バイオポリマーが好適である。
【0114】
さらに、前記した被覆用の脂肪酸としてはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸などが、脂肪酸塩としてはこれら脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩などが使用できる。これら脂肪酸または脂肪酸塩で表面被覆することによって、機能性粒子表面を親油化できるほか、撥水性を付与することにより機能性粒子と水との接触を抑制できることから、内包された物質の水中への放出を抑制したり、放出速度をコントロールすることもできる。
【0115】
中空担体に有効物質を内包させた粒子を、これらの有機高分子、脂肪酸又は脂肪酸塩で被覆するには、有効物質を内包させた後、乾燥前に有機高分子等を適量添加して、流動層乾燥機や噴霧乾燥機(スプレードライヤー)、真空凍結乾燥機等を使用して乾燥すればよい。なお、これらの有機高分子等は単独で使用することもできるが、2種以上の物質を併用したり、場合によっては架橋させることにより、単独では得られない効果を発現させることも可能である。
【0116】
また、中空担体は、乾燥粉とすることなくスラリーのまま使用するできることも前記したとおりである。例えば水スラリーの状態にある中空担体の内部に食用油を内包させるには、食用油を直接、あるいはエマルジョンとして塩基性炭酸マグネシウムからなる中空担体の水スラリーに加え、撹拌等により全体をなるべく均一化する。次に水と食用油の沸点の差を利用して、この混合物を加温することにより水のみを蒸発させ、管状構造の内部に食用油を内包させることができる。
【0117】
この時の温度は特に限定されないが、常圧下では40℃〜沸点以下、好ましくは60〜90℃であり、40℃未満では水の蒸発に時間を要する。従って比較的短時間で水を取り除くことができ、かつ沸騰して管状凝集粒子を破壊することがない60〜90℃が好適である。また必要に応じ、この操作を減圧により低い温度の下で行なうこともできる。
【0118】
なお、中空担体をあらかじめ脂肪酸、樹脂酸、カップリング剤をはじめとする各種の界面活性剤等により親油化の処理をしておけば、比較的容易に油系統の物質を内包することができる。このようにして所望の物質を内包した後、必要に応じて水やアルコール類等の溶媒を用いて洗浄することにより、機能性粒子表面に付着した物質を取り除くことができる。
【0119】
本発明の中空担体は、前記したとおり塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶の管状凝集粒子であり、また、その機能性粒子は、前記したとおり各種の有効物質をこの管状凝集粒子と接触させてその管状構造の内部に内包させることにより、比較的簡便な手法により製造できる。この管状という独特の形状は、長期にわたる安定した徐放効果、特定環境下で内包物を放出する放出制御性、変質防止効果、マスキング効果、保護効果等という優れた特性を発現する。
【0120】
この徐放効果については、管の長さ、内径や厚みを制御することにより、その放出速度を制御できるという特性をも備えるものである。さらに、上記の機能性粒子は、必要に応じて表面を有機高分子により被覆し、内包した物質の漏洩防止や徐放効果、変質防止効果、マスキング効果、保護効果等を高めることにより、多様な用途に対応できるものである。
【0121】
【実施例】
以下において、本発明の実施例及び比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲によって特定されるものであることはいうまでもない。なお、製造実施(比較)例は中空担体に関するもの、応用実施(比較)例は機能性粒子に関するものである。
【0122】
[製造実施例1](中空担体の製造)
40℃に調節した硫酸マグネシウム7水塩水溶液(125g/L)2.0Lに、40℃に温度を維持しながら無水炭酸ナトリウム水溶液(220g/L)0.50Lを徐々に添加し50分間撹拌して、正炭酸マグネシウムを得た(第1ステップ)。この正炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ、径が1〜3μm、長さが10〜50μmの柱状粒子であることが確認された。
【0123】
続いて、第1ステップで得られた正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液(pH10.2)を加熱して、温度を55℃に保持しながら120分間撹拌して、塩基性炭酸マグネシウムを生成させた(第2ステップ)。得られた生成物を、イオン交換水及びエタノールにて洗浄、乾燥させた後、SEMにて観察したところ、厚さが0.01〜0.04μm、径0.5〜2μmの薄片状一次粒子からなる凝集粒子で、外径が1〜5μm、内径が0.5〜3μm、長さが5〜20μmの塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子であることが確認された。
【0124】
[製造実施例2] (中空担体の製造)
水酸化マグネシウムの懸濁液(30g/L)2.0Lに、その温度を20℃に保持して撹拌しながら、二酸化炭素25容量%と空気75容量%とからなる二酸化炭素含有ガスを8.0L/分の速度で30分間導入した後、不溶解残渣を除去して、炭酸水素マグネシウム溶液(pH7.3)を調製した(第1ステップ)。
【0125】
このステップに続いて、炭酸水素マグネシウム溶液に、適量の水酸化ナトリウム水溶液を添加して液のpHを8.0に調節するとともに、加熱して液温を35℃にまで上昇させ、その後も同温度に保持しながら60分間撹拌して、正炭酸マグネシウムの懸濁液を調製した(第2ステップ)。この正炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ、径5〜10μm、長さ30〜100μmの柱状粒子であることが確認された。
【0126】
引き続き、正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液に、適量の水酸化ナトリウム水溶液を添加して液のpHを10.5に調節するとともに、加熱して液温を55℃にまで上昇させ、その後も同温度に保持しながら120分間撹拌して、塩基性炭酸マグネシウムの懸濁液を得た(第3ステップ)。この塩基性炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ、厚さ0.02〜0.1μm、径1〜2μmの薄片状微細結晶からなる、内径2〜5μm、外径5〜10μm、長さ20〜50μmの管状凝集粒子であることが確認された。
【0127】
[製造実施例3] (中空担体の製造)
第2ステップのpHを9.0、第3ステップの温度を50℃とした以外は、製造実施例2と同様にして、塩基性炭酸マグネシウムの懸濁液を得た。
なお、第2ステップで生成した正炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ、径1〜3μm、長さ20〜50μmの柱状粒子であることが確認された。また、第3ステップで得られた塩基性炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ、厚さ0.01〜0.05μm、径0.2〜1μmの薄片状微細結晶からなる、内径1〜2μm、外径2〜3μm、長さ5〜30μmの管状凝集粒子であることが確認された。
【0128】
[製造実施例4] (中空担体の製造)
第2ステップのpHを10.0、第3ステップの温度を40℃とした以外は、製造実施例2と同様にして、塩基性炭酸マグネシウムの懸濁液を得た。なお、第2ステップで生成した正炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ径0.5〜1μm、長さ10〜50μmの柱状粒子であることが確認された。
【0129】
さらに、第3ステップで得られた塩基性炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ、厚さ0.005〜0.02μm、径0.1〜0.5μmの薄片状微細結晶からなる、内径0.5〜1μm、外径1〜1.5μm、長さ5〜30μmの管状凝集粒子であることが確認された。
【0130】
[製造実施例5] (金属酸化物により被覆された中空担体の製造)
製造実施例3と同様にして、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の懸濁液を得た。この懸濁液に適量のイオン交換水を加え、固形分濃度20g/Lの懸濁液2.0Lとした後、温度50℃に維持、撹拌しながら、試薬アルミン酸ナトリウム(関東化学製、鹿一級、Al2O3含有量35重量%)溶液(濃度40g/L)500mLをチューブポンプにて5mL/分の速度で添加した。
【0131】
その添加終了後15分間撹拌を続けた(塩基性炭酸マグネシウム中のMgO重量100gに対して、アルミン酸ナトリウムの添加量はAl2O3換算で20.5g)。ついで、生成物の懸濁液を濾別し、10Lの水で洗浄し、更に1Lのメチルアルコールで洗浄した後、105℃で乾燥させ、表面処理塩基性炭酸マグネシウムを得た。
【0132】
生成物をSEMにて観察したところ、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を形成する薄片状微細結晶表面に、50〜100nmの微粒子状のアルミナが付着しており、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶の表面の全体を被覆している状態であった。この中空担体の1重量%懸濁液のpHをJIS K5101に基づいて測定したところ8.6であり、中性化していることが確認された。なお、金属酸化物により被覆されていないもの
も同様に測定したところ、pHは10.5〜11のアルカリ性であった。
【0133】
[製造実施例6] (脂肪酸塩により表面処理された中空担体の製造)
製造実施例3と同様にして、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の懸濁液を得た。この懸濁液を温度50℃に維持、撹拌しながら、それに50℃に加温した試薬ラウリン酸ナトリウム(関東化学製、鹿一級)の水溶液(濃度20g/L)100mLを添加し、60分間撹拌を続けた。
【0134】
その後、懸濁液をスプレードライヤにて乾燥させて、ラウリン酸ナトリウムにより表面処理された中空担体を得た。この中空担体5gを、100mLのイオン交換水を入れた200mLビーカーに投入し、ガラス棒で1分間激しく撹拌したが、水面上に浮遊し水中には分散しなかったことから、親油化されていることが確認された。
【0135】
[製造比較例1]
15℃に調節した硫酸マグネシウム7水塩水溶液(125g/L)2.0Lに、同温度に保持しながら無水炭酸ナトリウム水溶液(200g/L)0.50Lを徐々に添加した後、混合液の温度を15℃に保持しながら3時間撹拌処理して、正炭酸マグネシウムを得た。正炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ、径が20〜30μm、長さが100〜500μmの柱状粒子であった。
【0136】
この正炭酸マグネシウムの懸濁液(pH8.5)を、20℃に保持しながら、125時間撹拌処理して、塩基性炭酸マグネシウムを生成させた。得られた生成物を、イオン交換水及びエタノールにて洗浄、乾燥させた後、SEMにて観察したところ、厚さが0.05〜0.5μm、径1〜7μmの薄片状一次粒子からなる凝集粒子で、径が10〜70μmの不定形〜楕円状の塩基性炭酸マグネシウムであることが確認された。
【0137】
[製造比較例2]
80℃に調節した硫酸マグネシウム7水塩水溶液(125g/L)2.0Lに、温度を80℃に保持しながら無水炭酸ナトリウム水溶液(220g/L)0.50Lを徐々に添加した後、混合液の温度を80℃に保持しながら、60分間撹拌処理して、塩基性炭酸マグネシウムを生成させた。
【0138】
得られた生成物を、イオン交換水及びエタノールにて洗浄、乾燥させた後、SEMにて観察したところ、厚さが0.01〜0.05μm、径0.3〜2μmの薄片状一次粒子からなる凝集粒子で、径が2〜4μmの不定形の塩基性炭酸マグネシウムであることが確認された。なお、本比較例では、反応過程において正炭酸マグネシウムの生成は確認できなかった。
【0139】
[製造比較例3]
60℃に調節した水酸化マグネシウム懸濁液(30g/L)2.0Lに、温度を60℃に保持して撹拌しながら、炭酸ガスを1.5L/分の速度で240分間導入し、塩基性炭酸マグネシウムを生成させた。なお、本比較例では、反応過程において正炭酸マグネシウムの生成は確認できなかった。
【0140】
得られた生成物を、イオン交換水及びエタノールにて洗浄、乾燥させた後、SEMにて観察したところ、厚さが0.01〜0.05μm、径0.5〜2μmの薄片状一次粒子からなる凝集粒子で、径が10〜15μmの楕円状〜球状の塩基性炭酸マグネシウムであることが確認された。
【0141】
[応用実施例1]
500mLビーカーに、製造実施例1の塩基性炭酸マグネシウム10.0gを秤取り、ナフタレンのメタノール溶液(20mg/mL)200mLを加え1時間浸漬した後、固形分を濾別、メタノールにて洗浄してから、メタノールを気化させることにより、ナフタレンを内包させた機能性粒子を製造した。同様にして製造実施例2〜4の塩基性炭酸マグネシウムについてもナフタレンを内包させた機能性粒子を製造した。
【0142】
[応用実施例2]
製造実施例1の塩基性炭酸マグネシウム10gに、1%の塩酸アルキルポリアミノエチルグリシン水溶液10gを含浸させ、インキュベーター内で30℃の温度で乾燥して水を蒸発させて、塩酸アルキルポリアミノエチルグリシンの徐放効果を有する機能性粒子を製造した。同様にして製造実施例2〜4の塩基性炭酸マグネシウムについても塩酸アルキルポリアミノエチルグリシンの徐放効果を有する機能性粒子を製造した。
【0143】
[応用実施例3]
200mlのビーカーに市販の鰹フレーバー50gを入れ、試薬α−シクロデキストリンの20%の水溶液50mlを加えて、鰹フレーバー含有シクロデキストリン水溶液を調製した。この溶液に製造実施例1で製造した塩基性炭酸マグネシウム20gを加え撹拌した後、気泡が認められなくなるまで減圧吸引を行った後、常圧に戻して自然乾燥し、塩基性炭酸マグネシウムからなる中空担体に鰹フレーバーを内包した。
【0144】
ついで、カラギーナン・グルコマンナン架橋物(6:4)の2%水溶液20mlを加え、均一になるまで混合した後、真空凍結乾燥により乾燥して、高分子(カラギーナン・グルコマンナン架橋物)により表面被覆された鰹フレーバー内包機能性粒子を製造した。同様にして製造実施例2〜4の塩基性炭酸マグネシウムについても、高分子により表面被覆された鰹フレーバー内包機能性粒子を製造した。
【0145】
[応用実施例4]
200mlのビーカーに市販のビフィズス菌(凍結乾燥粉末品、生菌数4×108/mL)10gと食用油(日本油脂(株)製「パナセート」、中鎖脂肪酸エステル)50mlとを軽く混合し、その中に製造実施例1の管状構造の塩基性炭酸マグネシウムを加えて撹拌した後、真空乾燥機で減圧することにより、ビフィズス菌を含有した食用油を管状構造の塩基性炭酸マグネシウムに内包させた。
【0146】
次に、水25mlにミルク・カルシウム10gとカゼインナトリウム5gを加えて充分撹拌した後、先にビフィズス菌を内包した塩基性炭酸マグネシウムを加えて均一になるまで混合し、真空凍結乾燥によりカゼインで表面を被覆したビフィズス菌内包機能性粒子を製造した。このようにして製造したビフィズス菌内包機能性粒子は、カゼインで表面を被覆しており、また胃酸のわずかな進入であれば塩基性炭酸マグネシウムが進入した胃酸を中和するため、経口投与された際、胃酸によりビフィズス菌が死滅する割合を低減することができる。
【0147】
[応用比較例1]
実施例1と同様にして、製造比較例1〜3の塩基性炭酸マグネシウムを使用し、ナフタレンを含浸させた粒子を製造した。
【0148】
[応用比較例2]
実施例2と同様にして、製造比較例1〜3の塩基性炭酸マグネシウムを使用し、塩酸アルキルポリアミノエチルグリシンを含浸させた粒子を製造した。
【0149】
[応用比較例3]
実施例3と同様にして、製造比較例1〜3の塩基性炭酸マグネシウムを使用し、鰹フレーバーを含浸した粒子を製造した。
【0150】
[ナフタレンの徐放性の評価]
応用実施例1及び応用比較例1で製造したナフタレン内包機能性粒子を40℃の恒温槽に入れて、ナフタリンの残存率を経時的に測定した。その結果は表1に示すように、製造実施例1で製造した管状構造を有する塩基性炭酸マグネシウムからなる中空担体を使用した応用実施例1の場合には、15日後でも20〜30%程度のナフタレンが残存しているのに対して、製造比較例1〜3の塩基性炭酸マグネシウムを使用した応用比較例2の場合には、5日後には全てのナフタレンが揮発していることがわかる。
【0151】
また、中空担体として用いた管状凝集粒子の内径とナフタレン徐放効果(ナフタレン残存率)とをみると、内径の小さなもの(製造実施例4、内径0.5〜1μm)が、最もナフタレン残存率が高く、内径の大きなもの(製造実施例2、内径2〜5μm)はナフタレン残存率が低くなっている。これは、内径が小さい方が中空担体の管状構造内部に内包されたナフタレンと外気との接触を少なくできることに起因すると考察される。したがって、管状凝集粒子の内径を変化させてやれば、ナフタレンの放出速度の制御ができることが示されている。
【0152】
【表1】
【0153】
[防黴性の評価]
応用実施例2及び応用比較例2で製造した塩酸アルキルポリアミノエチルグリシンを含浸させた機能性粒子、並びに塩酸アルキルポリアミノエチルグリシンを含浸していない製造比較例1の塩基性炭酸マグネシウム粒子の防黴性を評価するため以下の試験を行った。
【0154】
すなわち、ガラス製のデシケータの下部に水をはり、中段に置いたシャーレに上記粒子を敷き、その上にNo.5Cのろ紙をのせ、さらにその上に3cm角で厚さ1.2cmの食パンを置いた。また蓋は10%の開放状態とし、28℃に設定したインキュベーター内に保管した。その後、30日後、90日後、120日後の食パンに生えたカビの発生の有無を調べた。
【0155】
その結果は表2に示すとおりであり、応用実施例2で製造した管状構造を有する塩基性炭酸マグネシウムを中空担体として使用した機能性粒子は120日後もカビの発生は認められなかった。一方、製造比較例1〜3の塩基性炭酸マグネシウムを使用した応用比較例2の機能性粒子については、90日後からカビの発生が認められた。また塩酸アルキルポリアミノエチルグリシンを含浸していない塩基性炭酸マグネシウムでは、30日後には多量のカビが発生していた。
【0156】
【表2】
【0157】
[鰹フレーバーのマスキング効果の評価]
応用実施例3及び応用比較例3で製造した鰹フレーバー内包機能性粒子を200mlのビーカー6個にそれぞれ10gづつ、また別の200mlのビーカー6個に市販の鰹フレーバーをそれぞれ6.2gづつ量り取り、室温23℃で湿度50%の恒温恒湿室に保管した。試験開始日、3日後、1週間後、2週間後、1ヵ月後、2ヵ月後に、100mlの熱湯をビーカーに注ぎ、香気の強さを調べた。
【0158】
その結果は表3に示すとおりであり、応用実施例3の鰹フレーバー内包機能性粒子では、2ヵ月後でも強い香気を発することを確認した。一方、製造比較例1〜3の塩基性炭酸マグネシウムを使用した応用比較例3のものでは、1週間後には香気が弱くなり、2週間後には香気はほとんど感じられなかった。また市販の鰹フレーバーは、3日後には香気は弱くなり、1週間後には香気は殆ど感じられない状態であった。
【0159】
【表3】
【0160】
以上の結果から、すなわち表1〜3より明らかなように、応用実施例の機能性粒子は、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶の管状凝集粒子からなる中空担体という独特の形状に由来して、高い徐放性やマスキング効果を有していることがわかる。
【0161】
【発明の効果】
本発明の機能性粒子は、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶の管状凝集粒子からなる中空担体を各種の有効物質と接触させ管状構造の内部に内包させることにより、比較的簡便な手法により製造できる。そしてこの管状という独特の形状は、長期にわたる安定した徐放効果、特定環境下で内包物を放出する放出制御性、変質防止効果、マスキング効果、保護効果などという優れた特性を発現する。
【0162】
特に、徐放効果においては、管の長さ、内径や厚みを制御することにより、その放出速度を制御できるという優れた特性をも備えるものである。
さらに、上記の機能性粒子は、必要に応じて表面を有機高分子により被覆し、内包した物質の漏洩を防止したり、保護効果を高めることにより、多様な用途に対応できる。
Claims (14)
- 塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶の管状凝集粒子からなることを特徴とする中空担体。
- 管状凝集粒子の外径が1〜20μm、内径が0.5〜5μm、長さが5〜200μm、長さ/外径の比が2〜50である請求項1に記載の中空担体。
- 管状凝集粒子表面が金属酸化物により被覆され、かつ該被覆された管状凝集粒子のJISK5101によるpH値が9.5以下である、請求項1又は2に記載の中空担体。
- 管状凝集粒子が、脂肪酸又は脂肪酸塩により表面処理され、かつ該管状凝集粒子が親油性を示す、請求項1又は2に記載の中空担体。
- 管状凝集粒子表面が金属酸化物により被覆され、かつ該被覆された管状凝集粒子のJISK5101によるpH値が9.5以下であり、更に該管状凝集粒子が脂肪酸又は脂肪酸塩により表面処理され、親油性を示す、請求項3に記載の中空担体。
- 塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶の管状凝集粒子からなる中空担体に1種以上の物質が内包されたことを特徴とする機能性粒子。
- 管状凝集粒子の外径が1〜20μm、内径が0.5〜5μm、長さが5〜200μm、長さ/外径の比が2〜50である請求項6に記載の機能性粒子。
- 1種以上の物質が内包された中空担体の表面を高分子物質、脂肪酸又は脂肪酸塩で被覆した請求項6又は7に記載の機能性粒子。
- 内包される物質が、香気物質、栄養剤、食品添加物、医薬、農薬又は肥料である請求項6ないし8のいずれか1項に記載の機能性粒子。
- 水溶性マグネシウム塩と水溶性炭酸塩とを混合し、25〜55℃の温度で、径が0.5〜10μm、長さが5〜500μmの正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる第1ステップと、該正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液を第1ステップで正炭酸マグネシウムを生成させた温度より高い温度であって、かつ温度が40〜70℃、pHが9.5〜11.5の範囲で加熱処理する第2ステップとにより調製される塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶の管状凝集粒子からなることを特徴とする中空担体の製造方法。
- 水酸化マグネシウム懸濁液に二酸化炭素含有ガスを導入することによって炭酸水素マグネシウム溶液を調製する第1ステップと、該炭酸水素マグネシウム溶液をpH7.5〜11.0に調節して正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる第2ステップと、該正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液をpH9.0〜12.0、かつ温度を30〜75℃に調節した後、前記温度範囲を維持することにより塩基性炭酸マグネシウムを生成させる第3ステップとにより調製される塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶の管状凝集粒子からなることを特徴とする中空担体の製造方法。
- 請求項10又は11に記載の製造方法により製造された中空担体に1種以上の物質を接触させることにより、中空担体の内部に該物質を内包させることを特徴とする機能性粒子の製造方法。
- 請求項10又は11に記載の製造方法により製造された中空担体に1種以上の物質を内包させた後、高分子物質、脂肪酸又は脂肪酸塩で表面を被覆することを特徴とする機能性粒子の製造方法。
- 請求項10又は11に記載の製造方法により製造された中空担体に内包される物質が、香気物質、栄養剤、食品添加物、医薬、農薬又は肥料から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項12又は13に記載の機能性粒子の製造方法。
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