JP3909065B2 - 音響信号処理装置、音響信号処理方法、音響再生システム、音響信号処理装置の設計方法 - Google Patents

音響信号処理装置、音響信号処理方法、音響再生システム、音響信号処理装置の設計方法 Download PDF

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Description

本発明は、左右チャンネルに共通の振動板を有するスピーカにより音を再生させるための音響信号処理装置及び方法、音響再生システム、及び、音響処理装置の設計方法に関する。
従来より、音響再生システムにおいて左右のスピーカに供給する音響信号に信号処理を加えることにより、音像定位方向(聴取者が音源を感じる方向)を左右のスピーカ位置よりも拡げることができるようにする音場拡大技術が知られている。例えば、非特許文献1に開示される技術では、左右各チャンネルの音響信号に、音源から聴取者の左右の耳の位置までの伝達関数(HRTF)を畳み込むことにより、聴取者にあたかもその音源位置から音が出ているかのような音場を知覚させることができる。
また、非特許文献2には、スピーカで音響を再生する場合に、左右チャンネル間のクロストークをキャンセルする技術が開示されている。このようなクロストークキャンセル技術を非特許文献1に開示される技術と組み合わせて、左右スピーカのクロストークをキャンセルしながら、非特許文献1の音場拡大技術を用いることにより、より効果的に音像定位方向を拡げることができる。
ところで、非特許文献3には、液晶表示装置の表面をカバーする透明パネルの左右に加振器を設け、この加振器で液晶パネルを振動させることにより、この透明パネルを振動板として音響を発生させる構成のスピーカが開示されている。このようなスピーカによれば、液晶表示装置とスピーカとの一体化により省スペース化を図れると共に、音と映像が同じ場所から発生することにより臨場感を高めることができる。
D.B.Anderson et al, "The sound dimension", IEEE SPECTRUM, March 1997. M.R.Shcroeder et al, "Comparative study of European concert halls: correlation of subjective preference with geometric and acoustic parameters", J. Accoust. Soc. Am., Vol.55, No.4, October 1974. "The NXT Technology Review01"、[online]、[平成16年5月18日検索]、インターネット<URL: http://www.flatspeaker.com/nxtsound/technology/techReview.php>
図13は、非特許文献3に開示されるように左右チャンネルに共通の振動板を有するスピーカの周波数特性の一例を示す。同図に示す周波数特性は、左右の一方のチャンネルのみに音響信号を与えてスピーカ前方位置で音圧を測定したものである。同図に丸印を付して示すように、このスピーカの周波数特性には、レベルが大きく落ち込む点が多数表れる。このような特性になるのは、振動板の振動姿態が部分的に逆位相で振動することによる放射音の打消しが発生しているためと考えられる。
ところで、上記非特許文献2に開示される技術では、同文献のFIG.2に示すように、各チャンネルの音響信号に1/S及び1/(1−C)を乗ずる処理(C=A/S、Sは、左右のスピーカから聴取者の同じ側の耳までの夫々の伝達関数、Aは左右のスピーカから聴取者の反対側の耳までの夫々の伝達関数)が行われる。したがって、この技術を非特許文献3に開示される構成のスピーカに適用した場合、図13に示すようにレベルが大きく落ち込む周波数ではSの値がゼロに近く、この値による割り算が行われることになって応答の収束性が悪くなり、実用的な範囲で所望の音響特性を得ることが難しいという問題がある。
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、左右チャンネルに共通の振動板を有するスピーカにより音を再生させるにあたり、聴取者に広がりのある音場を知覚させることができるようにすることを目的とする。
上記の目的を達成するため、本発明は、左右のチャンネルに共通に設けられた振動板と、左右各チャンネルの信号に応じて前記振動板を加振する左右各チャンネルに対応した加振器とを備えるスピーカにより音を再生させるための音響信号処理装置であって、
左右チャンネルの信号が夫々入力される一対の入力端子と、
中心周波数、ゲイン、及び時間遅れが予め設定された複数のバンドパスフィルタを足し合わせて構成され、前記入力された左右チャンネルの信号を夫々通過させる一対の音場調整フィルタと、
前記入力された左右各チャンネルの信号から、前記フィルタを通過した他チャンネルの信号を減算し、その結果を前記スピーカの対応するチャンネルの信号として出力する演算出力部と、
を備えることを特徴とする。
また、本発明の一態様において、前記演算出力部の前段に、前記音場調整フィルタの位相遅延時間に対応する遅延時間を有する遅延回路を備える。このような遅延回路を設けることで、各チャンネルの信号と、他チャンネルから音場調整フィルタを通して供給される信号の位相を合わせることができ、これにより、音場拡大のための音響処理をより効果的に行える。
また、本発明は、左右のチャンネルに共通に設けられた振動板と、左右各チャンネルの信号に応じて前記振動板を加振する左右各チャンネルに対応した加振器とを備えるスピーカにより音を再生させるための音響信号処理方法であって、
左右チャンネルの入力信号を、中心周波数、ゲイン、及び時間遅れが予め設定された複数のバンドパスフィルタを足し合わせて構成されたフィルタに通過させ、
左右各チャンネルの入力信号から、前記フィルタを通過した他チャンネルの信号を減算し、
この減算した結果の信号を前記スピーカの対応するチャンネルの信号として出力する、ことを特徴とする
また、本発明に係る音響再生システムは、左右のチャンネルに共通に設けられた振動板と、左右各チャンネルの信号に応じて前記振動板を加振する左右各チャンネルに対応した加振器とを備えるスピーカと、
左右チャンネルの信号が夫々入力される一対の入力端子と、
中心周波数、ゲイン、及び時間遅れが予め設定された複数のバンドパスフィルタを足し合わせて構成され、前記入力された左右チャンネルの信号を夫々通過させる一対の音場調整フィルタと、
前記入力された左右各チャンネルの信号から、前記フィルタを通過した他チャンネルの信号を減算し、その結果を前記スピーカの対応するチャンネルの信号として出力する演算出力部と、を備えることを特徴とする。
また、本発明の音響信号処理装置の設計方法は、複数の周波数帯域i(i=1,・・・,N;Nは帯域の数)の夫々に対応したバンドパスフィルタBPのインパルス応答を測定して第1試験信号Smとするステップと、
前記第1試験信号Smの位相を反転して第2試験信号Scとするステップと、
前記第1試験信号Smを前記スピーカの一方のチャンネルに入力すると共に、前記第2試験信号Scを、時間遅れ調整器及びレベル調整器を通して前記スピーカの他方のチャンネルに入力し、前記スピーカが発生する音をステレオマイクロフォンで収音してその測定信号SL,SRを取得するステップと、
前記第1試験信号Sm又は前記第2試験信号Scに応じた音を発生する音源を前記スピーカよりも左側又は右側の位置に設置した時の音を表す信号を基準信号SL ,SR として取得するステップと、
前記測定信号SL,SRが前記基準信号SL ,SR に近似するように前記時間遅れ調整器及びレベル調整器により夫々時間遅れ及びレベルを調整するステップと、
前記調整した時間遅れを調整時間遅れτとするステップと、
前記調整したレベルの前記第1試験信号Smに対するゲインを調整ゲインkとするステップと、
前記インパルス応答δに前記調整ゲインkを掛けると共に前記調整時間遅れτだけ遅らせてインパルス応答hcとするステップと、
このインパルス応答hcを全周波数帯域について足し合わせて前記音場調整フィルタの応答hcを決定するステップと、を備えることを特徴とする。
また、本発明の音響信号処理装置の設計方法は、複数の周波数帯域i(i=1,・・・,N;Nは帯域の数)の夫々に対応したバンドパスフィルタBPのインパルス応答を測定して第1試験信号Smとするステップと、
前記第1試験信号Smの位相を反転して第2試験信号Scとするステップと、
前記第1試験信号Smを前記スピーカの一方のチャンネルに入力すると共に、前記第2試験信号Scを、時間遅れ調整器及びレベル調整器を通して前記スピーカの他方のチャンネルに入力し、前記スピーカが発生する音をステレオマイクロフォンで収音してその測定信号SL,SRを取得するステップと、
前記第1試験信号Smと、当該周波数帯域iに対応する周波数帯域についての前記スピーカよりも左側又は右側の位置から聴取者の頭部までの伝達関数HRTFのフーリエ逆変換である両耳のインパルス応答とを畳み込んだ信号を基準信号SL ,SR として取得するステップと、
前記測定信号SL,SRが前記基準信号SL ,SR に近似するように前記時間遅れ調整器及びレベル調整器により夫々時間遅れ及びレベルを調整するステップと、
前記調整した時間遅れを調整時間遅れτとするステップと、
前記調整したレベルの前記第1試験信号Smに対するゲインを調整ゲインkとするステップと、
前記インパルス応答δに前記調整ゲインkを掛けると共に前記調整時間遅れτだけ遅らせてインパルス応答hcとするステップと、
このインパルス応答hcを全周波数帯域について足し合わせて前記音場調整フィルタの応答hcを決定するステップと、を備えることを特徴とする。
本発明によれば、左右チャンネルに共通の振動板を有するスピーカにより音を再生させるにあたり、聴取者に広がりのある音場を知覚させることができる。
図1は、本発明の一実施形態である音響再生システム10のシステム構成図である。図1に示すように、本実施形態の音響再生システム10は、スピーカ20と、音響信号処理装置30とを備えている。先ず、スピーカ20の構成について説明する。
図2は、スピーカ20の断面図である。本実施形態におけるスピーカ20は、例えばパソコン用等の液晶ディスプレイ装置と一体化されており、図2に示すように、液晶ユニット22の表面をカバーする例えばアクリル製の透明パネル24と、液晶ユニット22を保持する支持枠25と透明パネル24との間に設けられた左右各チャンネルの加振器26(26L,26R)とを備えている。加振器26は例えばボイスコイルあるいは圧電素子により構成され、各チャンネルの加振器26L,26Rが夫々供給された音響信号に応じて透明パネル24を加振することにより、音響を発生させる。このように、本実施形態のスピーカ20は左右チャンネルで共通の振動板(すなわち透明パネル24)を有する構成となっている。なお、加振器26L,26Rは各チャンネルに複数個ずつ設けられてもよい。
上記図13を参照して説明した通り、スピーカ20のように左右チャンネルに共通の振動板を有する構成では、周波数特性にレベルが落ち込む点が多数現れるため、スピーカ20が発生する音の音像定位方向を拡大しようとした場合に、従前の音響処理技術を適用したのでは十分な効果を得ることができない。これに対して、本実施形態では、音響信号処理装置30によって信号処理を行うことにより、スピーカ20の再生音の音像定位方向を拡大して、聴取者に拡がりのある音場を知覚させることができる。以下、音響信号処理装置30について説明する。
図1に示すように、音響信号処理装置30は、左右各チャンネルの音響信号が入力される入力端子32(32L,32R)、遅延回路34(34L,34R)、演算出力器36(36L,36R)、及び音場調整フィルタ38(38L,38R)を備えている。入力端子32にはデジタル化された音響信号が入力される。ただし、音響信号処理装置30がAD変換器を内蔵し、入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換する構成としてもよい。各チャンネルの入力信号は、遅延回路34を通して演算出力器36に供給される。
また、左チャンネルの入力信号は音場調整フィルタ38Lを通して右チャンネルの演算出力器36Rに供給され、演算出力器36Rは、遅延回路34Rを通過した右チャンネルの信号から、音場調整フィルタ38Lを通過した左チャンネルの信号を減算(あるいは、位相を反転して加算)した信号を出力する。同様に、右チャンネルの入力信号は音場調整フィルタ38Rを通して左チャンネルの演算出力器36Lに供給され、演算出力器36Lは、遅延回路34Lを通過した左チャンネルの信号から、音場調整フィルタ38Rを通過した右チャンネルの信号を減算(あるいは、位相を反転して加算)して出力する。各演算出力器36L,36Rからの出力信号はDA変換されてスピーカ20の加振器26L,26Rに供給される。
音場調整フィルタ38は、図10に示すように、協働して所望の周波数帯域をカバーする複数のバンドパスフィルタBP1・・・BPNと、各バンドパスフィルタBP1・・・BPNのインパルス応答δ1・・・δNに所定の追加時間遅れτ1・・・τNを付加する時間遅れ設定手段と、所定の追加ゲインK1・・・KNを付加するゲイン設定手段とを有する。また、遅延回路34は、各チャンネルの入力信号の位相を、音場調整フィルタ38のバンドパスフィルタBP1・・・BPNに固有の時間遅れTに合わせて遅らせる。これにより、演算出力器36により加減される2つの信号の位相を合わせることができる。
一般に、音響再生システムにおいては、左右の各スピーカから出て聴取者の反対側の耳に入る音が存在するために音場の拡がりが小さくなり、また、左右のスピーカから反対側の耳までの音の伝達特性は周波数帯域によって異なる。これに対して、本実施形態では、左右各チャンネルの音響信号を、周波数帯域毎にインパルス応答が設定された音場調整フィルタ38に通過させて、他チャンネルの音響信号から減算(位相を反転して加算)することにより、拡がりのある音場を実現することが可能となる。
次に、音場調整フィルタ38の設計方法について説明する。
図3は、音場調整フィルタ38を設計する手順を示すフローチャートである。また、図4〜図11は、図3の各手順を説明するための図である。
先ず、図3のステップ100において、図4に示すように、例えば1/4オクターブ程度の狭帯域の試験用バンドパスフィルタBP音場調整フィルタ38のバンドパスフィルタと同一、iは帯域を表す番号であり、i=1〜N;Nはバンドパスフィルタの個数)にインパルスを入力したときの各インパルス応答を第1試験信号Smとする。各バンドパスフィルタBPの中心周波数fc、帯域幅fΔ、及び個数Nは、音響信号処理の対象となる周波数領域(例えば1000Hz〜3000Hz)をカバーできるように設定する。なお、本実施形態では、バンドパスフィルタBPとして例えば直線位相形FIRバンドパスフィルタを用いるものとする。
次にステップ102において、図5に示すように、各第1試験信号Smを逆位相に位相反転して、第2試験信号Scとする。
次に、ステップ104において、図6に示すように、第1試験信号Smをスピーカ20の左チャンネルの加振器26Lに入力すると共に、第2試験信号Scを時間遅れ調整器50及びレベル調整器52を通して右チャンネルの加振器26Rに入力し、スピーカ20から発生する音をその前方に設置したダミーヘッドマイクロフォン54で収音して、その測定信号をSL,SRとする。なお、ダミーヘッドマイクロフォン54は、人の左右両耳の位置の音圧を測定可能なマイクロフォンである。
次にステップ106において、ダミーヘッドマイクロフォン54による左右両耳の測定信号SL,SRの時間差及びレベル差が、左側の加振器24Lよりも更に左側の位置に単独のスピーカを設置した場合に測定される左右の信号(以下、基準信号という)SL ,SR の時間差及びレベル差に最も近似するように、時間遅れ調整器50及びレベル調整器52で第2試験信号Scの時間遅れ及びレベルを調整する。こうして調整した時間遅れを調整時間遅れτとし、また、調整した第2試験信号Scの最大値Mcと、第1試験信号Smの最大値Mmとの比率(Mc/Mm)を調整ゲインkとする。なお、基準信号SL 、SR は、図7に示すように、例えばダミーヘッドマイクロフォン54の左真横に、左右チャンネルが独立した通常タイプのスピーカである基準スピーカ56を設置し、この基準スピーカ56に第1試験信号Smを入力することにより予め測定しておくものとする。なお、基準スピーカ56に第2試験信号Scを入力して基準信号SL 、SR を測定してもよい。
なお、第1試験信号Smと、該当する周波数帯域についての聴取者の左真横の位置から聴取者の頭部までの伝達関数HRTFのフーリエ逆変換である両耳のインパルス応答とを畳み込むことにより、音源を左真横に置いたときと同様の信号を得ることができ、この信号を基準信号SL ,SR としてもよい。
また、上記の説明では、音源を左真横に配置するものとしたが、これに限らず、拡げたい音像定位方向に応じてスピーカ20よりも左側又は右側の位置に配置すればよい。
次にステップ108において、上記ステップ104,106で求めた各周波数帯域iの調整時間遅れτ及び調整ゲインkについて、隣接する2つ以上の周波数帯域で時間遅れ及びゲインが共に一致しあるいは所定の許容誤差範囲(例えば±10%)である場合には、それら周波数帯域を統合して一つの帯域とし共通の調整時間遅れ及び調整ゲインの値を用いる。例えば、帯域sと帯域(s+1)とで調整時間遅れτ,τs+1及び調整ゲインk,ks+1が夫々一致した場合、図8に示すように、これら帯域を統合して、統合前の各帯域s,(s+1)のバンドパスフィルタの通過帯域をカバーできる特性のバンドパスフィルタとする。このように帯域を統合した場合は、統合後の帯域を1つの帯域として帯域番号iを振り直す。
次にステップ110において、音場調整フィルタ38の各帯域iのバンドパスフィルタBP (試験用バンドパスフィルタBP も同じ)ついてインパルス応答δ 位相遅延時間T(つまり、インパルス応答がピーク値に達するまでの時間)を求める。例えば、インパルス応答が図9に示すように得られたとすれば、位相遅延時間TはTとなる。なお、バンドパスフィルタBPとして直線位相FIR形バンドパスフィルタを用いた場合は、フィルタのタップ数をMとすると位相遅延時間Tは/2タップ相当となって各帯域の位相遅延時間Tは同じ値となる。一方、直線位相FIR形以外のバンドパスフィルタを用いると、帯域によって位相遅延時間は異なる値となる。その場合には、位相遅延時間が各帯域で同じ値となるように、位相遅延時間が最も大きい帯域に合わせて他の帯域のインパルス応答を遅らせる処理を行う。
ステップ112において、バンドパスフィルタBP による遅延時間Tをキャンセルするために、遅延回路34の遅延時間を、上記バンドパスフィルタBP の位相遅延時間Tとなるよう設定する。
ステップ114において、図10に示すように、音場調整フィルタ38における各帯域のバンドパスフィルタBP (BP1・・・BPN)の時間遅れ設定手段の追加時間遅れτ1・・・τN及びゲイン設定手段の追加ゲインK1・・・KNを、それぞれ先にステップ106で得た該当する帯域iの調整時間遅れτ 及び調整ゲインk に設定することにより、インパルス応答δ 調整時間遅れτだけ遅らせると共に、インパルス応答δ に調整ゲインkを掛けて、インパルス応答hc (hc1・・・hcN)とする。
そしてステップ116において、図11に示すように、インパルス応答hc(hc1・・・hcN)を全て足し合わせて一つのインパルス応答hcとし、このインパルス応答hcを音場調整フィルタ38の通過特性とする。
このように、図3に示すフィルタ設計手順では、スピーカ20から発生する音に基づいて、音場調整フィルタ38の特性を設定するので、当該スピーカ20の音響特性に応じた最適な音場調整フィルタ38を設計することができる。その際、周波数帯域毎のインパルス応答を用いてフィルタ特性を設計するので、周波数の相違に応じた音の伝達特性の変化を考慮してより適切なフィルタ設計を行うことができる。さらに、音場調整フィルタ38の特性設定の際、基準信号SL ,SR を測定するための基準スピーカ56の位置に応じた音像定位方向が得られるので、この基準スピーカ56の位置を適宜設定することで、音像定位方向を調整することも可能である。
また、本実施形態では、左右各チャンネルの音響信号を音場調整フィルタ38に通して、他チャンネルの音響信号から減算する構成であり、上記非特許文献2の技術のように、各チャンネルの信号で除算する処理は行われない。このため、図13に示すように、周波数特性に大きな落ち込みが多数存在するスピーカ20を用いて、音像定位方向を効果的に拡大することが可能となっている。
図12は、本実施形態のシステムで生成される音をダミーヘッドマイクロフォン54で収音した際の左右信号のレベル差(同図(a))及び位相差(同図(b))の周波数特性を波形Aで示し、また、単一の音源をダミーヘッドマイクロフォン54の左真横に置いた場合の左右のレベル差及び位相差を波形Bで示している。なお、図12(a)の縦軸は、左チャンネルの信号に対する右チャンネルの信号の比率をデシベル表示したものである。また、図12(b)の縦軸は、左チャンネルの信号に対する右チャンネルの信号の遅れをラジアン表示したものであり、マイナスの値ほど右チャンネルの信号の遅れが大きいことを表す。
図12(a),(b)の波形A,Bを比較して分るように、本実施形態のシステムによれば、音源を左真横に置いた場合によく近似した左右信号のレベル差及び位相差が得られており、左真横に音源がある場合と同様の音場(つまり実際のスピーカ20の位置よりも拡がりのある音場)を再現できていることがわかる。本実施形態のシステムによる再生音を実際に人が聴いても、あたかも音源が左真横にあるような音場を知覚でき、音像定位方向が効果的に拡大することが確認できた。
なお、上記実施形態では、帯域毎に求めたインパルス応答hcを足し合わせたインパルス応答hcを有する音場調整フィルタ38を設ける構成としたが、これに限らず、各インパルス応答hcを有するバンドパスフィルタを帯域別に設け、これらのフィルタを通った信号を足し合わせて他チャンネルの信号から減算する構成としてもよく、そのような構成も本発明の範囲に含まれる。
本発明の一実施形態である音響再生システムのシステム構成図である。 本実施形態の音響再生システムが備えるスピーカの断面図である。 本実施形態の音響再生システムが備える音場調整フィルタを設計する手順を示すフローチャートである。 音場調整フィルタの設計方法において各帯域のバンドパスフィルタのインパルス応答から第1試験信号を得る手順を説明するための図である。 第1試験信号から第2試験信号を得る手順を説明するための図である。 測定信号SLi,SRiの測定手順を説明するための図である。 基準信号SL 、SR の測定手順を説明するための図である。 帯域の統合処理を説明するための図である。 位相遅延時間を説明するための図である。 各帯域iについてバンドパスフィルタのインパルス応答δからインパルス応答hcを求める手順を説明するための図である。 インパルス応答hcから音場調整フィルタの特性であるインパルス応答hcを求める手順を説明するための図である。 本実施形態の音響再生システムの再生音の周波数特性を示す図であり、図12(a)は左右信号のレベル差を、図12(b)は左右信号の位相差を示す。 左右チャンネルに共通の振動板を有するスピーカの音圧の周波数特性を示す図である。
符号の説明
BP バンドパスフィルタ
Sm 第1試験信号
Sc 第2試験信号
SL,SR 測定信号
SL ,SR 基準信号
τ 調整時間遅れ
調整ゲイン
δ,hc、hc インパルス応答
10 音響再生システム
20 スピーカ
22 液晶ユニット
24 透明パネル
26(26L,26R) 加振器
30 音響信号処理装置
32(32L,32R) 入力端子
34(34L,34R) 遅延回路
36(36L,36R) 演算出力器
38(38L,38R) 音場調整フィルタ

Claims (4)

  1. 左右のチャンネルに共通に設けられた振動板と、左右各チャンネルの信号に応じて前記振動板を加振する左右各チャンネルに対応した加振器とを備えるスピーカにより音を再生させるための音響信号処理装置であって、
    左右チャンネルの信号が夫々入力される一対の入力端子と、
    前記入力された左右チャンネルの信号を所定の時間遅れをもって夫々通過させる一対の遅延回路と、
    前記各遅延回路を通過した左右チャンネルの信号を演算処理して前記各加振器へ出力する一対の演算出力器と、
    前記入力された左右チャンネルの信号を他チャンネル側の前記演算出力器へ夫々通過させる一対の音場調整フィルタと、を備え、
    前記音場調整フィルタは、協働して所望の周波数帯域をカバーし同一の遅延時間を持つように設定された複数のバンドパスフィルタと、これら各バンドパスフィルタにそれぞれ所定の追加時間遅れを付加する時間遅れ設定手段と、所定の追加ゲインを付加するゲイン設定手段とを含み、
    前記遅延回路の遅延時間は、前記複数のバンドパスフィルタの遅延時間に対応するように設定され、
    前記演算出力器は、前記遅延回路を経て入力された左右各チャンネルの信号から、前記音場調整フィルタを経て入力された他チャンネルの信号を減算し、その結果を前記スピーカの対応するチャンネルの信号として各加振器へ出力するように設定され、
    前記時間遅れ設定手段の追加時間遅れと、前記ゲイン設定手段の追加ゲインは、以下のように設定されたものであることを特徴とする音響信号処理装置
    前記複数のバンドパスフィルタと同等の複数の試験用バンドパスフィルタBP にインパルスを入力したときの各出力をそれぞれ第1試験信号Sm とし、
    前記第1試験信号Sm の位相を反転して第2試験信号Sc とし、
    前記第1試験信号Sm を前記スピーカの一方のチャンネルに入力すると共に、前記第2試験信号Sc を、時間遅れ調整器及びレベル調整器を通して前記スピーカの他方のチャンネルに入力し、前記スピーカが発生する音をステレオマイクロフォンで収音してその測定信号SL ,SR を取得し、
    前記第1試験信号Sm 又は前記第2試験信号Sc に応じた音を発生する音源を前記スピーカよりも左側又は右側の位置に設置した時の音を表す信号を基準信号SL ,SR として取得し、
    前記測定信号SL ,SR が前記基準信号SL ,SR に近似するように前記時間遅れ調整器及びレベル調整器により夫々時間遅れ及びレベルを調整し、
    前記調整した時間遅れを調整時間遅れτ とし、
    前記調整したレベルの前記第1試験信号Sm に対するゲインを調整ゲインk とし、
    前記音場調整フィルタの時間遅れ設定手段の追加時間遅れ及び前記ゲイン設定手段の追加ゲインは、それぞれ前記調整時間遅れτ 及び前記調整ゲインk となるように設定されたものである
  2. 請求項1に記載の音響信号処理装置の設計方法であって、
    前記遅延回路の遅延時間を、前記複数のバンドパスフィルタの遅延時間に対応するように設定するステップと、
    前記音響信号処理装置における前記複数のバンドパスフィルタと同等の複数の試験用バンドパスフィルタBP にインパルスを入力したときの各出力をそれぞれ第1試験信号Sm とするステップと、
    前記第1試験信号Sm の位相を反転して第2試験信号Sc とするステップと、
    前記第1試験信号Sm を前記スピーカの一方のチャンネルに入力すると共に、前記第2試験信号Sc を、時間遅れ調整器及びレベル調整器を通して前記スピーカの他方のチャンネルに入力し、前記スピーカが発生する音をステレオマイクロフォンで収音してその測定信号SL ,SR を取得するステップと、
    前記第1試験信号Sm 又は前記第2試験信号Sc に応じた音を発生する音源を前記スピーカよりも左側又は右側の位置に設置した時の音を表す信号を基準信号SL ,SR として取得するステップと、
    前記測定信号SL ,SR が前記基準信号SL ,SR に近似するように前記時間遅れ調整器及びレベル調整器により夫々時間遅れ及びレベルを調整するステップと、
    前記調整した時間遅れを調整時間遅れτ として取得するステップと、
    前記調整したレベルの前記第1試験信号Sm に対するゲインを調整ゲインk として取得するステップと、
    前記時間遅れ設定手段の追加時間遅れと、前記ゲイン設定手段の追加ゲインを、それぞれ前記調整時間遅れτ 及び前記調整ゲインk となるように設定するステップと、
    を備えることを特徴とする方法
  3. 左右のチャンネルに共通に設けられた振動板と、左右各チャンネルの信号に応じて前記振動板を加振する左右各チャンネルに対応した加振器とを備えるスピーカにより音を再生させるための音響信号処理装置であって、
    左右チャンネルの信号が夫々入力される一対の入力端子と、
    前記入力された左右チャンネルの信号を所定の時間遅れをもって夫々通過させる一対の遅延回路と、
    前記各遅延回路を通過した左右チャンネルの信号を演算処理して前記各加振器へ出力する一対の演算出力器と、
    前記入力された左右チャンネルの信号を他チャンネル側の前記演算出力器へ夫々通過させる一対の音場調整フィルタと、を備え、
    前記音場調整フィルタは、協働して所望の周波数帯域をカバーし同一の遅延時間を持つように設定された複数のバンドパスフィルタと、これら各バンドパスフィルタにそれぞれ所定の追加時間遅れを付加する時間遅れ設定手段と、所定の追加ゲインを付加するゲイン設定手段とを含み、
    前記遅延回路の遅延時間は、前記複数のバンドパスフィルタの遅延時間に対応するように設定され、
    前記演算出力器は、前記遅延回路を経て入力された左右各チャンネルの信号から、前記音場調整フィルタを経て入力された他チャンネルの信号を減算し、その結果を前記スピーカの対応するチャンネルの信号として各加振器へ出力するように設定され、
    前記時間遅れ設定手段の追加時間遅れと、前記ゲイン設定手段の追加ゲインは、以下のように設定されたものであることを特徴とする音響信号処理装置
    前記複数のバンドパスフィルタと同等の複数の試験用バンドパスフィルタBP にインパルスを入力したときの各出力をそれぞれ第1試験信号Sm とし、
    前記第1試験信号Sm の位相を反転して第2試験信号Sc とし、
    前記第1試験信号Sm を前記スピーカの一方のチャンネルに入力すると共に、前記第2試験信号Sc を、時間遅れ調整器及びレベル調整器を通して前記スピーカの他方のチャンネルに入力し、前記スピーカが発生する音をステレオマイクロフォンで収音してその測定信号SL ,SR を取得し、
    前記第1試験信号Sm と、当該周波数帯域iに対応する周波数帯域についての前記スピーカよりも左側又は右側の位置から聴取者の頭部までの伝達関数HRTFのフーリエ逆変換である両耳のインパルス応答とを畳み込んだ信号を基準信号SL ,SR として取得し、
    前記測定信号SL ,SR が前記基準信号SL ,SR に近似するように前記時間遅れ調整器及びレベル調整器により夫々時間遅れ及びレベルを調整し、
    前記調整した時間遅れを調整時間遅れτ とし、
    前記調整したレベルの前記第1試験信号Sm に対するゲインを調整ゲインk とし、
    前記音場調整フィルタの時間遅れ設定手段の追加時間遅れ及び前記ゲイン設定手段の追加ゲインは、それぞれ前記調整時間遅れτ 及び前記調整ゲインk となるように設定されたものである
  4. 請求項3記載の音響信号処理装置の設計方法であって、
    前記遅延回路の遅延時間を、前記複数のバンドパスフィルタの遅延時間に対応するように設定するステップと、
    前記音響信号処理装置における前記複数のバンドパスフィルタと同等の複数の試験用バンドパスフィルタBP にインパルスを入力したときの各出力をそれぞれ第1試験信号Sm とするステップと、
    前記第1試験信号Sm の位相を反転して第2試験信号Sc とするステップと、
    前記第1試験信号Sm を前記スピーカの一方のチャンネルに入力すると共に、前記第2試験信号Sc を、時間遅れ調整器及びレベル調整器を通して前記スピーカの他方のチャンネルに入力し、前記スピーカが発生する音をステレオマイクロフォンで収音してその測定信号SL ,SR を取得するステップと、
    前記第1試験信号Sm と、当該周波数帯域iに対応する周波数帯域についての前記スピーカよりも左側又は右側の位置から聴取者の頭部までの伝達関数HRTFのフーリエ逆変換である両耳のインパルス応答とを畳み込んだ信号を基準信号SL ,SR として取得するステップと、
    前記測定信号SL ,SR が前記基準信号SL ,SR に近似するように前記時間遅れ調整器及びレベル調整器により夫々時間遅れ及びレベルを調整するステップと、
    前記調整した時間遅れを調整時間遅れτ として取得するステップと、
    前記調整したレベルの前記第1試験信号Sm に対するゲインを調整ゲインk として取得するステップと、
    前記時間遅れ設定手段の追加時間遅れと、前記ゲイン設定手段の追加ゲインを、それぞれ前記調整時間遅れτ 及び前記調整ゲインk となるように設定するステップと、
    を備えることを特徴とする方法
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