JP3909063B2 - 安全性の改善された用時混合型薬液 - Google Patents

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本発明は、容器に個別に充填された用時混合型薬液に関する。さらに詳しくは、本発明は、容器に個別に充填された用時混合型薬液であって、誤投与の際の副作用が回避される薬液に関する。
従来から、慢性腎不全患者に行われる腎機能代替療法として血液透析(Hemodialysis:HD)がある。HDは透析膜を介して血液側から透析液側への溶質の拡散と濾過によって患者体内に蓄積した毒性物質(尿毒症物質)を除去し、同時に、透析中に失われた物質、例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムおよびブドウ糖、の補充を行う腎機能代替療法である。
HDは、通常1回あたり4時間前後という短い時間で全身の血液中の毒性物質を除去する治療であり、また週2〜3回の間欠的な治療であるため、1回の治療における体内環境の変化が大きく、急速な溶質除去に伴って不均衡症候群(disequilibrium syndrome)を起こしやすい治療方法である。このような副作用の影響が大きい患者に対しては、従来から血液濾過法(Hemofiltration:HF)または血液透析濾過法(Hemodiafiltration:HDF)による治療が試みられてきた。
HFは、透水性の高い膜を使用して、腎臓の糸球体において濾過により血液から原尿が作り出されるのと同様に、大量の血液を限外濾過し、そして失われた電解質等を補液(補充液)により補充することにより、溶質の除去および体液組成の補正を行う血液浄化療法である。HFでは、膜を通して水の流れに伴って物質が移動するため、膜を通過する物質であれば分子量の大きさにあまり左右されずに除去される。そのため、中分子量物質や低分子量蛋白質領域物質の除去に優れている。また、HFは、HDと比べて循環動態が安定しており、不均衡症候群をきたしにくい。さらに、小分子量物質の除去に優れたHDと中分子量物質の除去に優れたHFを組み合わせたHDFも用いられている。
さらに、現在では、膜面積が小さく血液充填量の少ない血液濾過器と専用の血液回路を用いて体外循環量を少なくし、24時間持続的にHF、HDFを施行する、持続血液濾過(CHF)、持続血液透析濾過(CHDF)なる血液浄化法も用いられている。CHF、CHDFは循環器系に負担が少なく、水分バランス、電解質酸塩基平衡の維持ができ、中心動脈栄養の輸液スペースを確保することができる。腎不全合併多臓器不全をはじめ、急性腎不全、慢性腎不全に対する腎補助、腎不全を合併していない多臓器不全、急性肝不全、重症急性膵炎、透析性のある薬物中毒などに対してCHF、CHDFが適応される。
HF、HDF、CHFおよびCHDF療法においては、HDと異なり大量の補充液の投与が必要とされる。通常1回のHF療法において、15〜20Lの補充液が4〜7時間という短時間で血管内に投与される。また、HDF療法においては、5〜10Lの補液が3〜5時間で血管内に投与される。これらの補液は直接血液中に入るため、血漿組成に大きな変動を与えない成分組成であることが必要であり、通常ナトリウム、カリウム、カルシウム、およびマグネシウムを含む電解質成分、ブドウ糖、ならびにアルカリ化剤(血液緩衝剤)を含有する。
アルカリ化剤には従来から酢酸塩または乳酸塩が用いられてきたが、血圧降下や気分不良等の副作用が頻発することから、現在では、より生体にとって負担の少ない重炭酸塩(炭酸水素ナトリウム)を配合した補液が主流になっている。
しかしながら、炭酸水素ナトリウムを配合した補液は、時間の経過と共に補充液中のカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンと重炭酸イオンが反応し、不溶性の炭酸塩の沈殿が生じる。そこで、カルシウムイオン(Ca2+)およびマグネシウムイオン(Mg2+)を含む溶液(本明細書においてB液と呼ぶ。)と重炭酸イオン(HCO )を含む溶液(本明細書においてA液と呼ぶ。)とが別々に収納された、用時混合型の補液(商品名:サブラッド−BD、扶桑薬品工業株式会社)が開発された(例えば、非特許文献1を参照)。他にも、重炭酸塩が配合される薬液としては、人工腎臓透析液、腹膜透析液、重曹(重炭酸)リンゲル液、および高カロリー輸液などがあり、その多くはカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンと重炭酸塩の反応を避けるため、複室容器に分画収容されている(例えば、特許文献1を参照)。
特開平11−197240号公報 医薬ジャーナル2002年5月号、p.154−163
例えば、上記のサブラッド(登録商標)−BDは、
B液(上室)1010mL中、
塩化カルシウム(CaCl2・2H2O) 519.8mg、
塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O) 205.4mg、
無水酢酸ナトリウム(CH3CO2Na) 82.8mg、
ブドウ糖(C6H12O6) 2.02g、および
氷酢酸(CH3CO2H) 360.0mg
を含み(pH:3.9〜4.0、浸透圧比:0.1)、そして
A液(下室)1010mL中に、
塩化ナトリウム(NaCl) 12.34g、
塩化カリウム(KCl) 0.30g、および
炭酸水素ナトリウム(NaHCO3) 5.94g
を含有し(pH:7.8〜8.4、浸透圧比:1.7〜1.9)、
使用前に上下室間の隔壁を開通してA液とB液を混合し、下室側から投与する。
かかる複室容器は、同時に配合すると変質が予想される薬剤を個別に収納する複数の区画室と、該区画室を仕切り、投与直前の薬剤混合時に、手等により区画室に外部から圧力を加えることによって破壊もしくは剥離できる連通可能な隔壁を装置している。
しかしながら、数多くの患者に対応しなければならない医療現場においては、連通可能な隔壁が剥離していない容器と剥離した容器を取り違え、連通可能な隔壁が未開封のままの用時混合型薬液を誤って投与するといった医療事故が生じるおそれがあった。
上記のサブラッド(登録商標)−BDの場合、上下室間の隔壁が未剥離の状態では下室液(A液)のみが投与される。該A液の浸透圧比(1.7〜1.9)は血液の浸透圧比(1.0)よりも高いため、該A液の単独投与によって血管痛および/または血管炎などが生じるおそれがある。また、該A液は血液よりもナトリウム濃度が高いため、該A液の単独投与によって高ナトリウム血症および高浸透圧血症(血液中のナトリウム濃度が高くなるため血漿浸透圧が上昇し、細胞中の水分が血液中に移動し、細胞中の水分が不足して起こる、脱水状態を特徴とする。)が起こるおそれがある。
一方、サブラッド(登録商標)−BDの上下室を入れ替えた場合、上下室間の隔壁が未剥離の状態ではB液のみが投与される。この場合には、低pHに起因するアシドーシス、低浸透圧による溶血現象、または低ナトリウム血症が生じるおそれがある。
従来から、未混合の用時混合型薬液の誤投与を防止するために、(i)口部のオーバーシールや容器本体に注意喚起するための表示を施した容器、および(ii)容器を3室に分画して投与側に用時混合型薬液を充填しない室を配置し、未剥離の状態では該薬液が排出されないようにした容器(特許文献1参照)などが開発されてきた。これらの容器の改良により、未混合の用時混合型薬液の誤投与が起きる可能性自体は低下した。しかしながら、未混合の用時混合型薬液の誤投与が起きた際の患者の身体への悪影響は依然として大きいままであった。
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、未混合の用時混合型薬液の誤投与が起きた場合であっても身体の負担が小さい用時混合型薬液が得られることを見出した。すなわち、本発明者らは、(i)従来のダブルバッグ式用時混合型薬液のA液の浸透圧が血液と比べて極めて高いこと、および(ii)従来の用時混合型薬液のA液のナトリウム濃度が血液と比べて極めて高いこと、の二点に着目し、A液に配合されている塩化ナトリウムの一部をB液に配合することにより、これら2つの問題点を一挙に解決した、安全性の高い用時混合型薬液が得られることを見出した。
例えば、従来の人工腎臓用補液(商品名:サブラッド−BD)のA液およびB液の浸透圧は、それぞれ514〜519mOsm/kg HOおよび33〜37mOsm/kg HOであり、これらの値は血液の浸透圧(約280mOsm/kg HO)と大きく異なる。一方、本発明の用時混合型薬液のA液およびB液の浸透圧はいずれも274〜284mOsm/kg HOの範囲内であり、これらの値は血液の浸透圧に極めて近い。したがって、過誤により未混合のまま本発明の用時混合型薬液(A液またはB液)が単独で投与された場合であっても生体への負担が少ない。
また、従来の人工腎臓用補液(商品名:サブラッド−BD)のA液およびB液のナトリウムイオン濃度はそれぞれ279.1mEq/Lおよび1.0mEq/Lであり、これらの値は血液のナトリウムイオン濃度(約140mEq/L)と大きくかけ離れている。一方、本発明の用時混合型薬液のA液およびB液のナトリウムイオン濃度はいずれも134〜146mEq/Lの範囲内であり、これらの値は血液のナトリウムイオン濃度に極めて近い。
本発明により得られる用時混合型薬液は、過誤により未混合のまま投与されたとしても生体への負担が少なく、特に血漿中ナトリウムイオン濃度、溶血率および血漿浸透圧に対する影響が少ない。また、慢性腎不全等による血液尿素窒素の蓄積や高ナトリウム血症のために血漿浸透圧が高くなった(およそ300mOsm/kg HO以上)哺乳動物(ヒトを含む)の血漿浸透圧を正常値に復することができる。
本発明の第1の実施態様において、B液中に塩化ナトリウムが含まれていることを特徴とする用時混合型薬液、好ましくは用時混合型人工腎臓用薬液が提供される。
本発明の好ましい実施態様において、少なくともナトリウムイオン、重炭酸イオン、および水を含むA液と、少なくともナトリウムイオン、クロライドイオンおよび水を含むB液からなり、A液とB液の浸透圧がそれぞれ血液の浸透圧と同等である、用時混合型血液浄化用薬液、好ましくは用時混合型人工腎臓用薬液が提供される。
本発明のさらに好ましい態様において、A液がナトリウムイオン、カリウムイオン、クロライドイオン、重炭酸イオンおよび水を含み、そしてB液が、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、クロライドイオン、酢酸イオン、ブドウ糖、氷酢酸および水を含む、用時混合型血液浄化用薬液、好ましくは用時混合型人工腎臓用薬液が提供される。
本発明の別の態様において、上記の薬液のいずれかであって、A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムおよび水からなり、B液が塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、ブドウ糖、氷酢酸および水からなる、用時混合型血液浄化用薬液、好ましくは用時混合型人工腎臓用薬液が提供される。
本発明の特に好ましい実施態様において、上記の薬液のいずれかであって、A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムおよび水を含み、そしてB液が、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、ブドウ糖、氷酢酸および水を含むことを特徴とする用時混合型血液浄化用薬液、好ましくは用時混合型人工腎臓用薬液が提供される。
本発明のさらに好ましい態様において、上記の薬液のいずれかであって、A液およびB液の浸透圧がそれぞれ274〜284mOsm/kg HOである、用時混合型血液浄化用薬液、好ましくは用時混合型人工腎臓用薬液が提供される。
本発明のさらなる実施態様において、上記の薬液のいずれかであって、A液およびB液のナトリウムイオン濃度がそれぞれ134〜146mEq/Lである用時混合型血液浄化用薬液、好ましくは用時混合型人工腎臓用薬液が提供される。
本発明の好ましい実施態様において、上記の薬液のいずれかであって、A液およびB液の浸透圧がそれぞれ274〜284mOsm/kg HOである、用時混合型血液浄化用薬液、好ましくは用時混合型人工腎臓用薬液が提供される。
本発明のさらに好ましい態様において、
A液1010mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)4.46g、塩化カリウム(KCl)0.30g、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)5.94gおよび水が含まれ、そして
B液1010mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)7.88g、塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)519.8mg、塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)205.4mg、酢酸ナトリウム(CH3CO2Na)82.8mg、ブドウ糖(C6H12O6)2.02g、氷酢酸360.0mgおよび水が含まれ、A液とB液の浸透圧がそれぞれ血液の浸透圧と同等であることを特徴とする用時混合型血液浄化用薬液、好ましくは用時混合型人工腎臓用薬液が提供される。
本発明の別の態様において、A液またはB液のいずれかが単独で哺乳動物(ヒトを含む)に投与された場合、該哺乳動物に副作用がほとんどない用時混合型血液浄化用薬液、好ましくは用時混合型人工腎臓用薬液が提供される。
本発明の好ましい実施態様において、A液またはB液のいずれかが単独で哺乳動物(ヒトを含む)に投与された場合、HF、HDF、CHFまたはCHDF開始から200分の間にわたって、該哺乳動物の血漿中ナトリウムイオン濃度の増加が0〜7mEq/Lの範囲内であり、かつ、血漿中ナトリウムイオン濃度の増減がHF、HDF、CHFまたはCHDF開始時と比べて有意に変動しない、用時混合型血液浄化用薬液、好ましくは用時混合型人工腎臓用薬液が提供される。
本発明のさらなる実施態様において、A液またはB液のいずれかが単独で哺乳動物(ヒトを含む)に投与された場合、該哺乳動物が溶血を起こさない用時混合型血液浄化用薬液、好ましくは用時混合型人工腎臓用薬液が提供される。
本発明の別の実施態様において、A液またはB液のいずれかが単独で哺乳動物(ヒトを含む)に投与された場合に、該哺乳動物において血漿中ナトリウムイオン濃度の上昇もしくは低下、および/または溶血、および/または血管炎がほとんどまたは全く観察されない用時混合型血液浄化用薬液、好ましくは用時混合型人工腎臓用薬液が提供される。
本発明の別の態様において、A液およびB液が複室容器に個別に収容された用時混合型血液浄化用薬液、好ましくは用時混合型人工腎臓用薬液が提供される。
本発明の好ましい態様において、腹膜透析液、透析型人工腎臓透析液、濾過型人工腎臓用補液または濾過透析型人工腎臓用補液として使用される、用時混合型薬液が提供される。
本発明のさらに別の態様において、HF、HDF、CHFまたはCHDFの補液として使用するための、B液が少なくとも塩化ナトリウムを含む用時混合型血液浄化用薬液、好ましくは用時混合型人工腎臓用薬液が提供される。
本発明のさらなる実施態様において、隔壁により上室と下室に区分けされ、かつ、当該下室の底部に密閉された開口部を備えた容器であって、当該下室には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、クロライドイオンおよび重炭酸イオンを含有し、かつ、血液の浸透圧と同等の浸透圧を有するA液を充填し、当該上室には、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、クロライドイオン、酢酸イオンおよびブドウ糖を含有し、かつ、血液の浸透圧と同等の浸透圧を有するB液を充填してなり、用時、上記隔壁を破壊もしくは剥離してA液とB液を混合するようにした、過誤によりA液とB液とを混合することなくA液のみを患者に投与した場合でも悪影響の少ない、用時混合型血液浄化用薬液充填容器が提供される。上記隔壁は、好ましくは、易剥離性を有する。
本発明のさらなる実施態様において、上記の薬液充填容器であって、さらに、上室の頂部に容器の係止手段を設けた、薬液充填容器が提供される。ここで、容器の係止手段とは、例えば吊り下げ用の穴である。
本発明の好ましい実施態様において、上記の薬液充填容器のいずれかであって、さらに、上室と下室の容積が同等となるように隔壁を設けた、薬液充填容器が提供される。
本発明の特に好ましい実施態様において、上記の薬液充填容器のいずれかであって、さらに、該容器が軟質の透明プラスチック製である、薬液充填容器が提供される。
本発明の極めて好ましい実施態様において、上記の薬液充填容器のいずれかであって、さらに、A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化ナトリウムを含む水溶液からなり、B液が塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、酢酸およびブドウ糖を含む水溶液からなる、薬液充填容器が提供される。
本発明の別の態様において、A液またはB液のいずれかが単独で、慢性腎不全等による血液尿素窒素の蓄積や高ナトリウム血症のために高血漿浸透圧状態となった哺乳動物(ヒトを含む)に投与された場合に、該哺乳動物の血漿浸透圧が正常値に復する用時混合型血液浄化用薬液、好ましくは用時混合型人工腎臓用薬液が提供される。
血漿浸透圧の基準値は、自由飲水の場合、287.5±4.7(平均値±標準偏差(SD))mOsm/kgH であることが知られている(Shimizu K, et al., Contrib. Nephrol., 9:42-60, 1978)。正規分布においては、平均値±2標準偏差の範囲内に全データの94.45%が含まれるので、血漿浸透圧が278.1〜296.9mOsm/kg HOの範囲内であれば正常と見なされる(浸透圧基準値)。また、血漿浸透圧がおよそ300mOsm/kgHO以上に増加した状態を高浸透圧血症とし、およそ280mOsm/kgHO未満に低下した状態を低浸透圧血症と表現されることもある。
本発明の用時混合型血液浄化用薬液を収容する容器は、2つ以上の薬液収容室を有する。例えば、本発明の用時混合型血液浄化用薬液を収容する容器は、上室(B室)と下室(A室:投与側)の間が連通可能な隔壁で隔てられている容器である。上室は、投与の際に上側に配置される薬液収容室であり、例えば図1における3'である。連通可能な隔壁の形態は特に制限はなく、例えば易剥離性を有するような弱溶着によりシール形成された隔壁、クリップ等で挟むことにより形成された隔壁、破断等により開通可能となるような連通部材を備えた隔壁などが挙げられる。これらのうち、特に易剥離的に熱溶着された隔壁部(弱シール部)でシール分画された容器が簡便性の点で好適に用いられる。易剥離性の熱溶着された隔壁部を備える容器は、一方の薬液収納室を外部から押圧することによりシール部が剥離し、薬液が無菌的に混合される。
弱シール部は、対向する2枚のフィルムシートを剥離可能に接合して構成されるもので、従来の複室容器(例えば、ダブルバッグ)の製造方法で採用されている方法によって接合することができる。例えば、弱シール部の張り合わせ面に混合樹脂を使用したり、弱シール部の位置に混合樹脂片を挟み加熱溶着したり、弱シール部の加熱温度を完全溶着温度よりも低く設定したりする方法などが挙げられる。
弱シール部を備えたダブルバッグ型の複室容器の例を図1に示す。図1において、1は本発明の薬液を収容する複室容器、2は破壊もしくは剥離可能な弱シール部、3は下室(A室:投与側)、3'は上室(B室)、4は加熱溶着部を表す。
容器1は、一方の端にゴム製等の密栓を備えた投与用口部5を、他端には薬剤投入用の口部6を備えている。図示の複室容器1は上下の2室に区画されているが、これに限定されるものではなく、3室以上であってもよい。また、複室容器や各薬剤収納室の形状、弱シール部の太さや形状についても何ら制限されるものではない。2室もしくはそれ以上の室の区画は、通常は1本の弱シール部によって仕切られるが、2本またはそれ以上の弱シール部によって仕切ることも可能である。
本発明の用時混合型薬液を収容する複室容器のフィルムシートに使用する素材としては、通常の医薬品用輸液容器に使用される合成樹脂が用いられる。例えば、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリブタジエン、ポリアミド、エチレン−メタクリレート共重合体、エチレンプロピレン系エラストマー、およびこれらの混合物等の単層または積層フイルムが用いられる。これらのフイルムは、ブロー成形法、インフレーション法、Tダイ成形法、多層形成法、共押出法等、公知の方法により成形される。
連通可能な隔壁で仕切られた複数の薬剤収納室のそれぞれに異なる薬剤が収容された形態の複室容器自体は、従来から知られている方法によって製造することができる。簡単に説明すると以下の通りである。
内層低密度ポリエチレン(0.1mm)、中間層エチレンプロピレン系エラストマー(0.3mm)、外層高密度ポリエチレン(0.1mm)の3層からなる積層フィルムシートを共押出法によって作製する。この積層フィルムシート2枚を所定の大きさに裁断し、口部5を薬剤収容室に連通した状態で挟み込み、口部6を除く外周部4および連通可能な隔壁2を加熱溶着する。
こうして製造された複室容器に、本発明の用時混合型血液浄化用薬液を充填することも、従来から知られている方法によって実施することができる。例えば、まず、薬剤収納室3へ、A液1010mL(塩化ナトリウム(NaCl)4.46g、塩化カリウム(KCl)0.30g、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)5.94g)を口部5より注入して、ゴム栓体で密封する。次に、薬剤収納室3’へ、B液1010mL(塩化ナトリウム(NaCl)7.88g、塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)519.8mg、塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)205.4mg、無水酢酸ナトリウム(CH3CO2Na)82.8mg、ブドウ糖(C6H12O6)2.02g、氷酢酸(pH調整剤)360.0mg)を口部6より注入し、その後、注入口6を加熱溶着する。そして、日本薬局方の最終滅菌法の指標に準じ、110℃、30分間の高圧蒸気滅菌処理を施して、最終製品とする。
本発明の複室容器に個別に収容された用時混合型薬液は、相互作用に起因する経時的変化による薬剤の変質を防止するために個別に収容されているのであり、したがって、塩化ナトリウムの分配によりナトリウムイオン濃度および浸透圧を所定の値に調整し得るものならば、血液浄化法に制限されることなく適応可能である。例えば、2室の区画に分画された容器において、一方の室にブドウ糖溶液および塩化ナトリウムが、他方の室にアミノ酸および塩化ナトリウムを含む電解質溶液が充填される。また、重炭酸塩含有輸液においては、一方の室に塩化ナトリウム、カルシウムおよびマグネシウム化合物含有溶液が、他方の室に塩化ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウム溶液が充填される。脂肪乳剤を配合する場合にあっては、一方の室に脂肪乳剤が充填される。
図1の複室容器に薬液が収納された後に、加熱滅菌が施される。加熱方法としては、高圧蒸気滅菌、熱水スプレー滅菌、熱水シャワー滅菌、熱水浸漬滅菌などが適用される。滅菌条件は、滅菌方法により適宜選択されるが、一般に100〜130℃、好ましくは105〜120℃で、15〜30分間加熱される。
このようにして薬液が無菌的に収納された複室容器は、外気との接触を避けるため、ガス非透過性の包材からなる外装容器内に密封収納することが好ましい。かかる目的で使用されるガス非透過性の包材には、エチレン−ビニルアルコール共重合体フイルム等、多くの種類が知られており、これらを適宜使用することができる。さらに、外装内を無酸素状態とするために、脱酸素剤を複室容器とともに収納したり、窒素ガスや炭酸ガスなどを充填してもよい。さらにピンホールを検知する目的で酸素検知剤などを同梱してもよい。
本明細書において使用される「用時混合型薬液」なる用語は、A液およびB液からなり、A液およびB液を混合した後に使用される薬液を意味する。該「用時混合型薬液」は、血液浄化剤として好適に用いられるが、これらに限定されるわけではなく、カルシウムイオン(Ca2+)および/またはマグネシウムイオン(Mg2+)と重炭酸イオン(HCO )とが反応してCaCOおよび/またはMgCOが生成することを防止するために、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンを含む液(B液)と重炭酸イオンを含む液(A液)とを別々に収容し、A液とB液を用時混合して使用する薬液であればいずれでもよい。
上記血液浄化剤は、腎不全合併多臓器不全をはじめ、急性腎不全、慢性腎不全に対する腎補助、腎不全を合併していない多臓器不全、急性肝不全、重症急性膵炎、透析性のある薬物中毒などに用いられ、腹膜透析液、透析型人工腎臓透析液、濾過型人工腎臓用補液または、濾過透析型人工腎臓用補液などが含まれる。
本明細書において使用される「人工腎臓用薬液」なる用語は、透析型人工腎臓透析液、濾過型人工腎臓用補液、または濾過透析型人工腎臓用補液を意味する。本発明の用時混合型人工腎臓用薬液は、A液およびB液からなり、A液およびB液を混合した後に、例えばHD、HF、HDF、CHFまたはCHDFにおいて使用される薬液を意味する。本発明の薬液は、好ましくはHF、HDF、CHFまたはCHDFの補液として使用される。また、本発明の薬液は治療時間の短縮を目的とするHDFの補液としても使用される。
本明細書において使用される「血液浄化用薬液」なる用語は、血液浄化法において使用される薬液を意味する。血液浄化法は、当分野において通常使用される意義と同一である。
本明細書において使用される「溶血率」なる用語は、血漿ヘモグロビン濃度を全血ヘモグロビン濃度で除した値を意味する。
本発明において使用される「浸透圧比」なる用語は、生理食塩水に対する浸透圧の比を表す。
本明細書において使用される「A液」なる用語は、少なくともナトリウムイオン、重炭酸イオンおよび水を含む薬液を意味する。好ましくは、A液は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、クロライドイオン、重炭酸イオンおよび水を含む。
本明細書において使用される「B液」なる用語は、カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンならびに水を含む薬液を意味する。好ましくは、B液は、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、クロライドイオン、酢酸イオン、ブドウ糖および水を含む。
本明細書において使用される「血液の浸透圧と同等の浸透圧」なる語は、270〜290mOsm/kg HO、好ましくは274〜284mOsm/kg HOの範囲の浸透圧を意味する。
本明細書において使用される「副作用がほとんどない」なる語は、本発明の薬液が哺乳動物(ヒトを含む)に投与された場合に、該哺乳動物において血漿中ナトリウムイオン濃度の上昇もしくは低下、および/または溶血、および/または血管炎がほとんどまたは全く観察されないことを意味する。「悪影響が少ない」、「生体への負担が少ない」および「生体への負担が軽減」なる語も同様の意義を有する。
本明細書において、「血漿浸透圧の正常値」なる語は、正常域の範囲内の血漿浸透圧値を示し、好ましくは278.1〜296.9mOsm/kg HOの範囲の血漿浸透圧を意味する。また、「血漿浸透圧が正常値に復する」なる語は、慢性腎不全等による血液尿素窒素の蓄積や高ナトリウム血症のために高血漿浸透圧(およそ300mOsm/kg HO以上)状態となった哺乳動物(ヒトを含む)の血漿浸透圧が、血漿浸透圧の正常値に復することを意味する。
次に、下記の実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は本発明の技術的範囲の限定を意図するものではない。また、下記の実施例において、次の機器および試薬を使用した。
・ダイアライザーPS-C07(膜面積0.7m2、Lot No.01Z182082、クラレ)
・持続濾過用血液回路(JCH-26S、Lot No.012942、ウベ循研)
・血液浄化装置(JUN-505、シリアルNo.UA034、ウベ循研)
・送液ポンプ
Masterflex L/S(コール・パーマー)
Watson Marlow 505Di(シリアルNo.B00005470、B00005471、ワトソン・モーロー)
・インフュージョンポンプ(STC-521、シリアルNo.8063084、テルモ)
・ポリグラフシステム(RM-7000、日本光電)
血圧測定用アンプAP-641G
血圧トランスジューサ(ライフキット、DX-312、Lot No.107087)
生体電気用アンプAB-621G
生体電気用入力箱JB-640G
カプラ用アンプAA-601H
呼吸/脈波カプラAR-650H
温度測定ユニットAW-601H
温度カプラAW-650H
・ポータブル血液分析器アイ・スタット300F(扶桑薬品工業)
・ドライケム3030(富士メディカルシステム)
・ドライケム800(富士メディカルシステム)
・微量高速遠心機(MX-150、トミー精工)
・キンダリーAF-2P号(Lot No.02D11A、扶桑薬品工業)
・アイ・スタット用カートリッジ(EG7+、Lot No.M02164B、扶桑薬品工業)
・ペントバルビタールナトリウム(ネンブタール注射液、Lot No.71758Z721、大日本製薬)
・抗生物質(結晶ペニシリンGカリウム、Lot No.7QC02P、万有製薬)
・ヘパリンナトリウム(ヘパリンナトリウム注射液、Lot No.02G08A、扶桑薬品工業)
腎不全モデル動物の作製
雄性ビーグル犬(体重10kg前後、日本農産)21頭を、扶桑薬品工業株式会社内の大動物施設の飼育室(温度23±5℃、湿度50±20%RH、換気15〜20回/hr、照明12時間(7:00〜19:00))においてステンレス飼育ケージに1頭ずつ収容して飼育した。飼料は固形飼料(CREA Dog Diet CD−5M(商標)、日本クレア)を使用し、約300g/日を摂取させた。飲料水は上水道水を使用し、飼育期間中自由に飲水させた。これらの動物の体重を測定し、ペントバルビタールナトリウム(25mg/kg、i.v.)麻酔下で背位に固定した。腹部を切開し、両腎臓を摘出した。術後、感染防止のためにペニシリンGカリウム注射液(50万単位/動物)を1日1回2日間、筋肉内投与することにより腎不全モデル動物を作製した。
実施例1
(i)上室液(B液)の調製・充填・密封
下記の表1に記載の成分分量を量り、日局注射用水にブドウ糖、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)および塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)を順次加えて溶解し、氷酢酸を添加した後、粗濾過し、濾液に注射用水を加えて定量とした。得られた液を1010mL/1010mLの無色プラスチック製ダブルバッグの上室に精密フィルターで無菌濾過後充填し、充填口をシール溶着により密封した。本明細書において、表1の処方にて作製された薬液を「実施例1の上室液(B液)」と称する。
Figure 0003909063
実施例1(続き)
(ii)下室液(A液)の調製・充填・密封
下記の表2に記載の成分分量を量り、日局注射用水に塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび炭酸水素ナトリウムを順次加えて溶解した後、粗濾過し、濾液に注射用水を加えて定量とした。得られたA液を、(i)において上室液が充填され、そして密封された1010mL/1010mLの無色プラスチック製ダブルバッグの下室に精密フィルターで無菌濾過後充填し、ポート部にゴム栓体を挿入後、閉塞により密封し、ゴム栓体ヘッド部にオーバーシールを溶着した。本明細書において、表2の処方にて作製された薬液を「実施例1の下室液(A液)」と称する。
Figure 0003909063
比較例1
(i)上室液(B液)の調製・充填・密封
下記の表3に記載の成分分量を量り、日局注射用水に塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)、塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)、酢酸ナトリウム、ブドウ糖および氷酢酸を順次加えて溶解し、粗濾過後、濾液に注射用水を適量加えて、全量を1010mLとした。本明細書において、表3の処方にて作製された薬液を「比較例1の上室液(B液)」と称する。「比較例1の上室液」は、「サブラッド(登録商標)−BD」のB液と同一の組成である。
Figure 0003909063
比較例1(続き)
(ii)下室液(A液)の調製・充填・密封
下記の表4に記載の成分分量を量り、日局注射用水に塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび炭酸水素ナトリウムを順次加えて溶解した後、粗濾過し、濾液に注射用水を加えて定量とした。得られたA液を、(i)において上室液が充填され、そして密封された1010mL/1010mLの無色プラスチック製ダブルバッグの下室に精密フィルターで無菌濾過後充填し、ポート部にゴム栓体を挿入後、閉塞により密封し、ゴム栓体ヘッド部にオーバーシールを溶着した。本明細書において、表4の処方にて作製された薬液を「比較例1の下室液(A液)」と称する。「比較例1の下室液」は、サブラッド(登録商標)−BDのA液と同一の組成である。
Figure 0003909063
定性試験
「実施例1の上室液」、「実施例1の下室液」およびそれらの混合液(本明細書において「実施例1の混合液」と呼ぶ。)の、ナトリウムイオン濃度(mEq/L)、pHおよび浸透圧(mOsm/kg HO)の測定結果を表5に示す。ここで、「実施例1の混合液」の組成は、「比較例1の上室液(B液)」および「比較例1の下室液(A液)」を混合した液と同一の組成である。表5から、「実施例1の上室液(B液)」および「実施例1の下室液(A液)」の浸透圧は、それぞれ、「実施例1の混合液」の浸透圧とほとんど同じであることが分かる。また、「実施例1の上室液(B液)」および「実施例1の下室液(A液)」のナトリウムイオン濃度も、「実施例1の混合液」のナトリウムイオン濃度とほとんど同じであることも分かる。よって、本発明の薬液が過誤により単独投与された場合であっても生体への負担が軽減され得ること、すなわち本発明の薬液の安全性、が推認される。さらに、「実施例1の上室液(B液)」のpHは3.85〜3.87と酸性であり、該B液が過誤により単独投与された場合にアシドーシスを誘発するおそれがある。よって、本発明において、B液を下室(投与側)ではなく、上室に配置することが好ましい。
Figure 0003909063
試験例1:
補液として「実施例1の上室液(B液)」、「実施例1の下室液(A液)」および「実施例1の混合液」を用いたHDFおよびHF試験
<方法1>
イヌ腎不全モデル(9頭)を無作為に3群に分け、両腎摘出2日後に動物の体重を測定し、その後、ペントバルビタールナトリウム(25mg/kg、i.v.)による麻酔(維持麻酔は5〜10mg/kg/hrとした)を行った。右大腿動脈に血圧トランスジューサに接続したカニューレを、直腸に直腸温プローブを挿入し、各々血圧および体温をモニターした。心電図の測定は第II誘導で行った。左大腿動脈から右大腿静脈に採血用ポートをつけた動静脈シャント(中央部で取り外し可能)を作製した。血液凝固防止のためヘパリンナトリウム注射液(ヘパリン)200U/kgを動静脈シャントの採血部より投与し、その後血液回路内に100U/kg/hrの用量で持続注入した。ヘパリン投与5分後にブラッドアクセスと血液回路(JCH−26S、ウベ循研)およびダイアライザー(PS−C07、クラレ)とを接続した。本試験例において、補液は、第1群には「実施例1の上室液(B液)」、第2群には「実施例1の下室液(A液)」、そして第3群には「実施例1の混合液」を用いた。また、実験終了時まで動物に電気毛布を掛け、保温した。
<方法2>
HDF試験:
方法1に続いて、血液流量40mL/min、透析液(キンダリーAF−2P号)流量100mL/min、濾液・補液流量5mL/min、除水ゼロの条件でHDFを200分間行った。続いて、血液透析濾過終了後の180分間、血液回路のみを作動させた。血液透析濾過開始の0、20、40、60、80、120、160、200、260および380分後に、採血用ポートからヘパリン加血液1.5mLを採取した。アイ・スタット300Fを用いて、採取したヘパリン加血液の血漿中ナトリウムイオン濃度、血漿ヘモグロビン濃度および全血ヘモグロビン濃度を測定した。また、測定した血漿ヘモグロビン濃度および全血ヘモグロビン濃度を用いて溶血率を算出した。結果を図2および図3に示す。
図2から、「実施例1の上室液(B液)」および「実施例1の下室液(A液)」をそれぞれ単独で用いて血液透析濾過を行った場合であっても、「実施例1の混合液」を用いて血液透析濾過を行った場合の血漿中ナトリウムイオン濃度とほとんど同じであることが分かる。よって、過誤により「実施例1の上室液(B液)」または「実施例1の下室液(A液)」のいずれかが単独投与された場合であっても、高ナトリウム血症が起こる可能性が極めて低いことが分かる。
また、図3から、「実施例1の上室液(B液)」または「実施例1の下室液(A液)」を単独投与した場合に、溶血が起こらないかまたは溶血が起こる可能性が極めて低いことが分かる。
試験例2:
補液として「実施例1の上室液(B液)」および「実施例1の下室液(A液)」を用いたHDF試験による血漿浸透圧の変化
<方法>
動物および血液回路等は、試験例1<方法1>と同様にして調整ならびに設定した。また、HDF試験における透析条件は試験例1<方法2>と同一とした。血液透析濾過開始の0、20、40、60、80、120、160、200、260および380分後に、採血用ポートからヘパリン加血液を採取した。血漿浸透圧は、計算式
Figure 0003909063
により求めた。結果を図7に示す。
図7から、「実施例1の上室液(B液)」および「実施例1の下室液(A液)」をそれぞれ単独で用いて血液透析濾過を行った場合であっても、「実施例1の混合液」を用いて血液透析濾過を行った場合の血漿浸透圧値と同程度に低下し、正常値内になることが分かる。よって、過誤により「実施例1の上室液(B液)」または「実施例1の下室液(A液)」のいずれかが単独投与された場合であっても、血漿浸透圧の改善効果が発揮されることが分かる。
比較試験1
HDF試験
イヌ腎不全モデル(6頭)を無作為に2群に分け、補液として、第1群には「比較例1の上室液(B液)」を、そして第2群には「比較例1の下室液(A液)」を用いること以外は、試験例1の方法1および方法2と同様にHDF試験を行い、ナトリウムイオン濃度および溶血率の経時的変化を測定した。ただし、血液透析濾過を200分間行った時点で試験を終了した。結果を図4および図5に示す。
図4から、「比較例1の上室液(B液)」を単独で生体に投与した場合は血漿中のナトリウムイオン濃度が経時的に低下し、そして「比較例1の下室液(A液)」を単独で生体に投与した場合は血漿中のナトリウムイオン濃度が経時的に上昇することが分かる。
図5から、「比較例1の上室液(B液)」を単独投与した場合には、溶血率が上昇することが分かる。
比較試験2
HF試験
イヌ腎不全モデル(6頭)を無作為に2群に分け、補液として、第1群には「比較例1の上室液(B液)」を、そして第2群には「比較例1の下室液(A液)」を用いること以外は、試験例1の方法1を行った。その後、血液流量40mL/min、濾液・補液流量12.5mL/min、除水ゼロの条件でHFを80分間行った。血液濾過開始の0、8、16、24、32、48、64および80分後に、採血用ポートからヘパリン加血液1.5mLを採取した。アイ・スタット300Fを用いて、採取したヘパリン加血液の血漿中ナトリウムイオン濃度を測定した。結果を図6に示す。
図6から、「比較例1の上室液(B液)」を単独で生体に投与した場合は血漿中のナトリウムイオン濃度が経時的に低下し、そして「比較例1の下室液(A液)」を単独で生体に投与した場合は血漿中のナトリウムイオン濃度が経時的に上昇することが分かる。
比較試験3
HDF試験による血漿浸透圧の比較
比較試験1HDF試験と同様に操作して動物を調整してHDF試験を行い、血漿浸透圧を測定した。結果を図8に示す。
図8から、「比較液1の上室液(B液)」を単独で生体に投与した場合は、ナトリウムイオン濃度の経時的低下(比較試験1)に伴って血漿浸透圧は正常範囲以下に低下し、低ナトリウム血症に起因する低浸透圧血症に陥っていることが分かる。一方、「比較液1の下室液(A液)」を単独で生体に投与した場合は、血漿浸透圧は高値に維持され、高浸透圧血症が改善されていないことが分かる。
試験例2および比較試験3の結果から、本発明により、誤ってA液またはB液のいずれかが単独で、慢性腎不全等による血液尿素窒素の蓄積や高ナトリウム血症のために高血漿浸透圧状態となった哺乳動物(ヒトを含む)に投与された場合であっても、該哺乳動物の血漿浸透圧が正常値に復することができる用時混合型血液浄化用薬液、好ましくは用時混合型人工腎臓用薬液が提供されることが分かる。
本発明により、過誤により未混合の用時混合型薬液が哺乳動物(ヒトを含む)に投与された場合であっても、該哺乳動物に負担の少ない、言い換えればより安全な用時混合型薬液が提供される。特に、本発明により、未混合の用時混合型血液浄化用薬液が哺乳動物に投与された場合であっても、該哺乳動物が高ナトリウム血症および/または溶血および/または血管炎を起こす危険性がない用時混合型血液浄化薬液が提供される。さらに、本発明により、未混合の用時混合型血液浄化用薬液が哺乳動物に投与された場合であっても、高血漿浸透圧状態が改善され、血漿浸透圧が正常となる用時混合型血液浄化薬液が提供される。
図1は、連通可能な隔壁を備えたダブルバッグ型の複室容器を表す。 図2は、補液として「実施例1の上室液(B液)」、「実施例1の下室液(A液)」および「実施例1の混合液」を用いて、血液透析濾過(HDF)を行った際の血漿中ナトリウムイオン濃度の経時的変化を表したものである。 図3は、補液として「実施例1の上室液(B液)」および「実施例1の下室液(A液)」を用いて、血液透析濾過(HDF)を行った際の溶血率の経時的変化を表したものである。 図4は、補液として「比較例1の上室液(B液)」および「比較例1の下室液(A液)」を用いて、血液透析濾過(HDF)を行った際の血漿中ナトリウムイオン濃度の経時的変化を表したものである。 図5は、補液として「比較例1の上室液(B液)」および「比較例1の下室液(A液)」を用いて、血液透析濾過(HDF)を行った際の溶血率の経時的変化を表したものである。 図6は、補液として「比較例1の上室液(B液)」および「比較例1の下室液(A液)」を用いて、血液濾過(HF)を行った際の血漿中ナトリウムイオン濃度の経時的変化を表したものである。 図7は、補液として「実施例1の上室液(B液)」、「実施例1の下室液(A液)」および「実施例1の混合液」を用いて、血液透析濾過(HDF)を行った際の血漿浸透圧の経時的変化を表したものである。 図8は、補液として「比較液1の上室液(B液)」および「比較液1の下室液(A液)」を用いて、血液透析濾過(HDF)を行った際の血漿浸透圧の経時的変化を表したものである。
符号の説明
1.本発明の薬液を収容する複室容器、
2.破壊もしくは剥離可能な連通可能な隔壁、
3.下室(A室:投与側)、
3’.上室(B室)、
4.加熱溶着部、
5.ゴム製等の密栓を備えた投与用口部、
6.薬剤投入用の口部。

Claims (8)

  1. 少なくともナトリウムイオン、重炭酸イオン、および水を含むA液と、少なくともナトリウムイオン、クロライドイオンおよび水を含むB液からなり、A液とB液の浸透圧がそれぞれ血液の浸透圧と同等であり、ナトリウムイオン濃度がそれぞれ134〜146mEq/Lの範囲内である、用時混合型血液浄化用薬液。
  2. A液がナトリウムイオン、カリウムイオン、クロライドイオン、重炭酸イオンおよび水を含み、そしてB液がナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、クロライドイオン、酢酸イオン、ブドウ糖および水を含む、請求項1に記載の用時混合型血液浄化用薬液。
  3. A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムおよび水からなり、B液が塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、ブドウ糖、氷酢酸および水からなる、請求項1または2に記載の用時混合型血液浄化用薬液。
  4. A液およびB液の浸透圧がそれぞれ274〜284mOsm/kg HOの範囲内である、請求項1〜3のいずれかに記載の用時混合型血液浄化用薬液。
  5. A液1010mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)4.46g、塩化カリウム(KCl)0.30g、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)5.94gおよび水が含まれ、そしてB液1010mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)7.88g、塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)519.8mg、塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)205.4mg、酢酸ナトリウム(CH3CO2Na)82.8mg、ブドウ糖(C6H12O6)2.02g、氷酢酸360.0mgおよび水が含まれ、A液とB液の浸透圧がそれぞれ血液の浸透圧と同等である、用時混合型血液浄化用薬液。
  6. A液およびB液が複室容器に個別に収容された、請求項1〜のいずれかに記載の用時混合型血液浄化用薬液。
  7. 腹膜透析液、透析型人工腎臓透析液、濾過型人工腎臓用補液または濾過透析型人工腎臓用補液として使用される、請求項1〜のいずれかに記載の用時混合型血液浄化用薬液。
  8. HF、HDF、CHFまたはCHDFの補液として使用するための、請求項1〜のいずれかに記載の用時混合型血液浄化用薬液。
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