JP3908045B2 - チップインダクタ用酸化鉄粉末およびフェライト粉末の製造方法 - Google Patents

チップインダクタ用酸化鉄粉末およびフェライト粉末の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、チップインダクタ用酸化鉄粉末およびフェライト粉末の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
携帯電話をはじめとする携帯電子機器の普及に伴い、チップインダクタ等のチップ部品が多用されている。電子機器のさらなる高機能化、小型軽量化に対応したチップ部品についても一層の小型化が進んでいる。
積層チップインダクタは、印刷法やドクターブレード法を用いて成形したフェライト層と、印刷法で成形された内部電極を積層、焼結して製造され、導体電極間の電気的導通は、スルーホールを用いて接続する方法などにより行われている。このような積層チップインダクタは、例えば特開平4−180610号公報に開示されている。このような積層型のチップインダクタは小型化に有利であるとともに、外鉄構造をとる為に、漏洩磁束が小さく高密度実装にも適している。
【0003】
チップインダクタを構成するフェライト原料は、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化銅等を混合、仮焼、粉砕して得られる。フェライトの組成上、これらの原料のうち、最も多くの量を必要とするのが酸化鉄であり、フェライト粒子のサイズや均一性に及ぼす影響も大きい。フェライトの原料となる酸化鉄には、噴霧焙焼法等で製造された一次粒子の平均粒径が0.5〜1μm程度の酸化鉄が多く用いられている。しかし、近年のチップ部品の小型化に対応するため、より粒径が小さく、低温で仮焼できる酸化鉄が求められている。
粒径の小さな酸化鉄を用いてフェライトを作製する場合、より低温で仮焼することが可能で、仮焼後も小さな粒径を維持できる利点がある。そして次の粉砕工程で、容易に凝集を崩して小粒径化させることができるため、小型磁気素子用として好ましいフェライト粒子が得られる。
【0004】
しかし、噴霧焙焼法などの乾式法により製造される酸化鉄では、一次粒子の粒径をより小さくすることが困難である。従来の噴霧焙焼法で製造した一次粒子の平均粒径が0.5〜1μm程度の酸化鉄を用いてフェライトを作製する場合、仮焼温度を高くする必要があり、そのため仮焼工程で粒成長が促進され、粉砕時間を長くする必要がある。この結果、粉砕機器からの不純物が増加する問題もあり、磁気素子の小型化には適さない。
一方、湿式法を用いると、一次粒子の粒径が小さい酸化鉄を得やすい利点がある。しかし、湿式法では溶液中で鉄酸化物を生成させるため、乾燥工程を必要とする。酸化鉄は粒径が小さくなるほど、乾燥時に粒子同士が強固に固まって凝集粒子を形成する傾向がある。このため、乾燥工程の存在は、粒径が1〜100μmの粗大な凝集粒子が生成し、その後の解砕工程を経ても凝集粒子が残る問題がある。酸化鉄中に粒径の大きな凝集粒子を多く含む場合、仮焼温度を充分下げることができないため粒成長が促進され、粉砕時間を長くする必要が生じる。
【0005】
平均粒径が0.5〜12μmで、二次粒子を伴わず、インダクタやトランスに好適な酸化鉄は、例えば特開昭59−21527号公報に開示されている。しかし、同公報に開示された酸化鉄は、比表面積が2.31〜3.5m2 /gと小さく、酸化鉄の平均粒径が0.5〜12μmと大きいため、仮焼温度を充分に下げることができない。
また、凝集粒子の粒径が、一次粒子の10倍以下で、インダクタ等の磁心や素体材として使用される酸化鉄粉末を含む酸化物磁性材料は、特開平9−17625号公報に開示されている。しかし、同公報に開示の酸化鉄では、粒径の大きい凝集粒子の存在割合が不明である。
【0006】
個数平均径が0.05〜1.0μmの酸化鉄粒状粒子が凝集している粒子径20μm以下の凝集粒子からなる着色顔料用の酸化鉄粉末が、特開平8−259238号公報に開示されている。しかし、同公報に開示の酸化物粉末の用途は着色顔料であり、チップインダクタを含む磁気電子部品への適用は示されていない。個数平均粒子径が0.05〜1μmの酸化鉄一次粒子が凝集してなる個数平均粒子径が30〜3000μmの粒状酸化鉄凝集粒子が、特開2000−351631号公報に開示されている。しかし、同公報では、粒径30μm以上の凝集粒子の重量比率が80重量%以上であるように、凝集体は粒径が大きいことが好まれ、また、用途として、静電複写磁性トナー用材料紛、静電潜像現像用キャリア用材料紛、塗料用黒色顔料紛が挙げられている。
【0007】
したがって、一次粒子の平均粒径が小さく、かつ凝集体の粒径が小さいことにより、低温仮焼が可能なチップインダクタの製造に適した酸化鉄粉末は従来存在しなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題を解決するため、粒径が小さく、低温仮焼が可能で、粉砕性に優れたフェライトを得ることができるチップインダクタ用酸化鉄粉末を提供することを課題とする。
また、本発明は、製造時の仮焼温度が低く、かつ製造されるフェライト粒子の比表面積が大きいフェライト粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
フェライトを作製する場合の仮焼温度や粉砕性に影響する因子として、一次粒子径が広く知られている。しかし、本発明者らは、仮焼時間や粉砕性は単に一次粒子径だけでなく、凝集粒子(二次粒子)の大きさ、およびその量にも依存していることを見出して本発明に至った。すなわち、上記の課題は、以下に示す本発明により達成される。
本発明は、平均粒径0.02〜0.11μmのFe2 3 一次粒子と、その凝集粒子からなる酸化鉄粉末であって、
粒径45μm以上の凝集粒子の含有量が前記酸化鉄粉末中20質量%以下であることを特徴とするチップインダクタ用酸化鉄粉末を提供する。
また、本発明は、平均粒径0.02〜0.11μmのFe2 3 一次粒子と、その凝集粒子からなる酸化鉄粉末であって、粒径45μm以上の凝集粒子の含有量が、前記酸化鉄粉末中20質量%以下である前記酸化鉄粉末に、必要な他の金属化合物を混合して、仮焼することにより、スピネル化率が90%以上となる最低温度が740℃以下で、仮焼後比表面積が3.5m2 /g以上であるフェライト粉末を製造する方法を提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳細に説明する。
一般に一次粒子径が小さい酸化鉄を用いると低温で仮焼ができ、仮焼工程での粒成長を抑制することができるため、粉砕性に優れたフェライト粒子が得られる。しかし、単に一次粒子径を小さくするだけでは仮焼温度を充分に低下できない。仮焼温度は酸化鉄の比表面積の他に、凝集粒子(二次粒子)の粒径や量にも依存するからである。
【0011】
本発明の酸化鉄粉末は、平均粒径は0.02〜0.11μmのFe2 3 一次粒子とその凝集粒子からなることを特徴とする。本発明の酸化鉄粉末において、一次粒子の平均粒径は、0.03〜0.11μmであることがより好ましく、さらに好ましくは0.04〜0.1μmである。一次粒子の平均粒径が0.02〜0.11μmの酸化鉄を用いると、例えば噴霧焙焼法で製造された一次粒子の平均粒径がより大きな酸化鉄に比べてより低温で仮焼し、短時間で所定の粒径まで粉砕することができ、チップインダクタ用フェライト粉末として適したものとなる。
一次粒子の平均粒径が0.11μm超の酸化鉄では、仮焼温度を充分下げることができず、そのため仮焼工程で粒成長が進み、粉砕時間を長くする必要があり、粉砕機器からの不純物の混入も増加するため、チップインダクタ用として適さない。一方、一次粒子の平均粒径が0.02μm未満の酸化鉄では、仮焼温度は低下できるものの、反応性が高くなるため、粉砕時間が長くなり、その結果、粉砕機器からの不純物の混入が増加するため、チップインダクタ用として適さないものとなる。
なお、一次粒子の平均粒径の測定は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡による顕微鏡写真上の粒径を計測し、個数平均することで求めることができる。
【0012】
本発明の酸化鉄粉末は、粒径45μm以上の凝集粒子(二次粒子)の含有量が酸化鉄粉末中20質量%以下であることを特徴とする。粒径45μm以上の凝集粒子の比率の測定方法としては、例えば、100gの粉体を300mlの純水と混合し、所定の時間、振盪させてスラリー化した後、目開き45μmの篩を用いて湿式分級し、篩上に残った粉体を回収して乾燥し、重量を測定する方法が挙げられる。
粒径45μm以上の凝集粒子(二次粒子)の含有量が酸化鉄中20質量%を超えると仮焼温度を高くする必要が生じ、粉砕時間を長くすることが必要となる。この結果、粉砕機器からの不純物の混入も増加するため、チップインダクタ用として適さないフェライト粒子となる。また均一混合が難しくなるため、フェライトとしての均一性も悪くなる。粒径45μm以上の凝集粒子(二次粒子)の含有量は、好ましくは酸化鉄粉末中10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、1質量%以下であることが特に好ましい。粒径45μm以上の凝集粒子の含有量が、酸化鉄粉末中20質量%超であると仮焼時にフェライト成分であるNi,Cu,Znなどが酸化鉄中に拡散し難いため、仮焼温度を上げる必要がある。このため、粒成長が生じ、仮焼後の粉砕時間が長くなる。その結果、チップインダクタ用としては適さないフェライト粒子となる。
【0013】
本発明の酸化鉄は、BET法で測定した比表面積が、6〜60m2 /gであることが好ましい。より好ましくは、比表面積が、8〜40m2 である。酸化鉄の比表面積が上記の範囲であれば、仮焼温度を充分下げることができ、凝集粒子の粉砕時間が短くて済むことから、粉砕機器からの異物の混入が少なく、チップインダクタ用として好ましい。
【0014】
本発明の酸化鉄において、酸化鉄粉末の形態は、α−Fe2 3 単相、γ−Fe2 3 単相、またはα−Fe2 3 相およびγ−Fe2 3 相の混合相のいずれであってもよい。酸化鉄粉末の形態は、X線回折法により測定することができる。
従来の噴霧焙焼法で製造されるフェライト用原料酸化鉄は、α−Fe2 3 単相である。本発明の酸化鉄粉末の形態がα−Fe2 3 単相である場合、従来のフェライト用酸化鉄粉末と同様の特性を有しており、かつ一次粒子の平均粒径が小さいことから、チップインダクタ用原料として、好適な性能、すなわち低温仮焼性と優れた粉砕性を示す。一方、従来の噴霧焙焼法ではγ−Fe2 3 相の酸化鉄粉末を製造することができないため、フェライト用原料として用いられていなかった。本発明者らは、湿式法を用いてγ−Fe2 3 単相の酸化鉄粉末を製造し、その特性を調べることにより、チップインダクタ用原料としてα−Fe2 3 単相よりも優れた性能を示すことを確認している。
【0015】
γ−Fe2 3 単相の酸化鉄粉末は、湿式法でマグネタイト(Fe3 4 )を合成し、これを加熱酸化することにより、Fe2 3 を製造する方法において、Fe3 4 の加熱酸化温度を調節することで得ることができる。
具体的には、加熱酸化温度を180〜250℃とすることにより、γ−Fe2 3 単相の酸化鉄粉末が得られる。一方、加熱酸化温度が420℃以上の場合、α−Fe2 3 単相の酸化鉄粉末が得られる。γ−Fe2 3 単相の酸化鉄粉末は、α−Fe2 3 相の酸化鉄粉末よりも加熱酸化温度が低いため、比表面積の低下や凝集粒の生成が少なく、チップインダクタ用原料として好適な粉体特性を容易に得ることができる。
【0016】
また、加熱酸化温後が230〜460℃の場合、α−Fe2 3 相とγ−Fe2 3 相の混合相の酸化鉄粉末が得られる。この場合も、加熱酸化温度が、α−Fe2 3 単相を製造する場合よりも低いため、チップインダクタ用原料として優れた特性を有する。
【0017】
上記の特徴を有する本発明の酸化鉄粉末は、湿式法を用いて製造されることが好ましい。湿式法を用いて製造される酸化鉄粉末は、噴霧焙焼法などの乾式法で製造される酸化鉄に比べ、粒径が小さく、かつ粒径が揃っており、チップインダクタ用に適している。ここでいう湿式法とは共沈法、空気酸化法、水熱法など溶液中で鉄酸化物を生成させる反応のことを指している。また本発明の酸化鉄粉末には水溶液中で直接生成されるものの他に、湿式法で合成されたマグネタイト(Fe3 4 )やゲータイト(α−FeOOH)などの鉄酸化物を加熱することにより製造されるものも含まれる。
【0018】
湿式法で合成された酸化鉄は、ろ過により溶液を分離した後、乾燥、解砕される。湿式法で製造されたマグネタイト(Fe3 4 )やゲータイト(α−FeOOH)などの鉄酸化物を経由する場合、加熱工程を経てFe2 3 が得られる。
これらの工程のうち、乾燥工程で乾燥ケーキができる過程(水分が減少する過程)で凝集が生じる。この乾燥ケーキを解砕することにより、酸化鉄粉末(またはマグネタイト粉末やゲータイト粉末)が得られる。
マグネタイトやゲータイトなどの鉄酸化物から加熱工程を経て酸化鉄を製造する方法では、この加熱工程においても凝集が生じる。この凝集を解砕(または粉砕)することにより酸化鉄粉末を得ることができる。
【0019】
従来の噴霧焙焼法で製造された粒径の大きな(一次粒子の平均粒径が0.5〜1μm)酸化鉄の場合には、容易に粒子の凝集を解砕し、凝集が少ない酸化鉄粉末を得ることができた。また、特開平8−259238号公報に記載された湿式法で合成される顔料用の酸化鉄粉末の場合、その用途が顔料であるため、酸化鉄粉末の凝集は、特に問題とならなかった。
しかし、本発明の酸化鉄粉末のように、用途がチップインダクタである場合、一次粒子の平均粒径が小さいことが求められる。酸化鉄粉末の粒子が小さくなると、粒子同士の凝集が強くなり、例えば、粒径が1〜300μm程度の凝集体を生ずる。このような凝集体は、従来の噴霧焙焼法で製造される酸化鉄粉末に比べて解砕することが困難であり、凝集体の存在が問題となる。しかも、このような凝集体を解砕する際の困難さは、粒子の粒径が小さくなるほど(比表面積が大きくなるほど)増加する。
【0020】
このような問題に対し、本発明者らは、酸化鉄粉末を解砕および/または分級することで、粒径45μm以上の凝集粒子の含有量が酸化鉄粉末中20質量%以下になるように粒度を調整することにより、フェライト粒子の製造に使用した場合に、低温での仮焼が可能で、粉砕性に優れたフェライト粒子が得られることを見出した。
本発明の酸化鉄粉末の製造において、粒度調整に用いる解砕(または粉砕)方法としては、アトマイザ、パルベライザ等の機械的な解砕(または粉砕)方法、ジェットミルのような気流式の解砕(または粉砕)方法、乾式ボールミルによる解砕(粉砕)方法のいずれであってもよい。解砕(または)粉砕方法は、製造される粒度調整後の酸化鉄粉末の粒子径等、酸化鉄粉末に要求される条件に応じて適宜選択することができ、例えば、粒度調整後の粒子径が小さくなるほど、粉砕エネルギーの大きな方式が必要となる。
一方、分級方法としては、篩分級、または気流式の分級機などを使用することができる。
なお、解砕(または粉砕)および分級は、いずれか一方のみを実施したのでよく、または両方を実施したのでもよい。粒度調整後の粒径が小さいことが求められる場合、解砕(または粉砕)と分級を組み合わせて使用することが好ましい。
【0021】
本発明のフェライト粒子の製造方法では、本発明の酸化鉄粉末、すなわち、平均粒径0.02〜0.11μmのFe2 3 一次粒子と、その凝集粒子からなる酸化鉄粉末であって、粒径45μm以上の凝集粒子の含有量が、酸化鉄粉末中20質量%以下である酸化鉄粉末と、必要な他の金属化合物とをボールミル等を用いて混合する。
必要な他の金属化合物はフェライト粒子の製造に使用される金属化合物であれば特に限定されない。このような金属化合物としては、例えばNiO、CuO、ZnO、MgOなどの金属酸化物が例示される。
【0022】
本発明の方法において、酸化鉄粉末と、他の金属化合物とは、混合物中における酸化鉄の含有量が40〜50mol%になるような割合で混合する。酸化鉄の含有量が50mol%を超えると、Fe2+の存在により電気抵抗値が急激に低下する。電気抵抗の低下は、高周波領域で使用するとき渦電流の発生でフェライトコアでの損失を急増させてしまう。また、40mol%未満になるとフェライトの透磁率低下に伴うインダクタンスの劣化が大きい。好ましい酸化鉄の含有量は47〜49.8mol%である。
【0023】
ZnOの混合は、製造されるフェライト粒子のインダクタンスとキュリー温度に大きな影響を与える。キュリー温度は磁気素子の耐熱性を決める重要なパラメータである。ZnOを混合する場合、混合物中におけるZnOの含有量は5〜35mol%であることが好ましい。35mol%を超えるとインダクタンスは高いものの、キュリー温度が低下する。より好ましいZnOの含有量は10〜35mol%である。
【0024】
CuOの混合は、製造されるフェライト粒子の焼成温度の低下に有効である。CuOを混合する場合、混合物中におけるCuOの含有量は0〜20mol%であることが好ましい。20mol%を超えると、焼成温度は低下するがインダクタンスが劣化する。より好ましいCuOの含有量は5〜15mol%である。
【0025】
また、本発明の方法では、上記の金属化合物以外に、フェライト粒子の製造に通常使用される他の添加成分を混合してもよい。このような添加成分としては、具体的には、例えば、Si、Ca、Nb、Ta、V、Ti、Sn、Na、K、Co、W、Bi、In、Hbなどが例示される。このような添加成分の含有量は特に限定されないが、0〜25mol%程度であることが好ましい。
なお、金属化合物や添加成分は、最終的に酸化物の形態になればよく、混合時には酸化物、水酸化物、炭酸塩などの形態であってもよい。
【0026】
本発明の方法では、上記の混合物を仮焼してフェライト粒子とする。仮焼温度は740℃以下であり、700℃以下であるのがより好ましい。740℃を超えると、仮焼時に粒成長が進み、フェライト粒子の粉砕性を悪化させる。仮焼を終えるタイミングはスピネル化率が90%に到達する時間が目安になる。すなわち、本発明の方法で製造されるフェライト粒子は、スピネル化率が90%以上となる最低温度が740℃以下である。
【0027】
仮焼後のフェライト粒子は、必要に応じて通常の粉砕機を用いて粉砕してもよい。本発明の方法で製造されるフェライト粒子は、粒径が小さく、凝集が少ないため、粉砕性が優れている。本発明の方法で製造されるフェライト粒子は、仮焼後の比表面積が、3.5m2 /gと大きく、チップインダクタのような小型磁気素子を製造に使用する上で優れた特性を有している。
本発明の方法で製造されたフェライト粒子は、例えば、バインダーと混合してペーストとした後、印刷法やドクターブレード法などで磁性材層を形成させ、焼成後、積層チップインダクタ等とすることができる。
【0028】
【実施例】
以下、実施例により本発明の方法をさらに説明する。なお、実施例において、酸化鉄の評価は、以下の方法により実施した。
比表面積は、BET法により測定した。
45μm以上の凝集粒子(2次粒子)の比率評価は、100gの紛体を300mlの純水と混合して、1時間振盪させてスラリー化した後、目開き45μmの篩を用いて湿式分級し、篩上に残った残分を100℃で乾燥した後に重量測定し、初期粉体量を割り算して算出した。
一次粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡写真上の粒子200個の粒径を測定し、個数平均粒径として見積った。
【0029】
(実施例1)
塩化第一鉄溶液と塩化第二鉄溶液を溶液中のFe3+濃度がFe3+/Total- Fe=7質量%になるように混合し、水を加えて全Fe濃度2.1mol/l、溶液量10リットルに調製した。
まず、内容積30リットルの容器に、2.3mol/lのNaOH溶液20リットルを入れ、そこに窒素ガスを通気し攪拌しながら上記の塩化鉄溶液を混合した。この溶液を窒素雰囲気のまま85℃まで昇温し、温度が安定した後、空気を10l/min通気して酸化を行いFe3 4 粒子を合成した。反応が終了した後、一般的な方法で脱塩、ろ過、乾燥、解砕してFe3 4 粉末を得た。この粉末を480℃で1時間加熱酸化して酸化鉄(α−Fe2 3 )とし、粉砕機で粉砕し、分級して粗大な粒子を除去して酸化鉄粉末を得た。得られた粉末の比表面積は10.5m2 /gであった。この粉末を目開き45μmの篩を用いて分級し、篩上に残った残分から45μm以上の凝集粒子の含有量を調べたところ、酸化鉄粉末中18質量%であった。
次に、この酸化鉄粉末を用いてフェライト粒子を作製した。フェライト粒子の試作は、得られた酸化鉄粉末を用いてFe2 3 :NiO:ZnO:CuO=49:11:30:10(モル比)になるように秤量し、これをボールミルで1時間混合した後、乾燥させた。この混合物を所定の温度で2時間仮焼した。仮焼が終了した後、X線回折(XRD)により、スピネル相のピーク強度比からスピネル化率を求めた。次に、仮焼温度を変えて、2時間仮焼し、同様にスピネル化率を求め、仮焼温度とスピネル化率の関係を調査した。この関係から、スピネル化率が90%以上となる最低温度を求め、この温度を仮焼可能温度とした。
次に、仮焼可能温度で2時間仮焼したフェライト粒子(Fe2 3 :NiO:ZnO:CuO=49:11:30:10(モル比))をボールミルで粉砕を行い、途中サンプリングしながら比表面積が6m2 /gとなるまで粉砕を続けた。結果を表1に示した。表1において、仮焼後比表面積は、仮焼可能温度で2時間仮焼した後の比表面積をBET法で測定した値であり、粉砕時間は、フェライト粒子の比表面積が6m2 /gになるまでの粉砕時間である。
【0030】
(実施例2〜5、比較例1〜2)
実施例1と同条件で酸化鉄(α−Fe2 3 )を作製し、粉砕機を用いて粉砕し、空気分級機を用いて分級点を変えながら補集し、粒度の異なる酸化鉄粉末サンプルを試作した。以下、実施例1と同様な評価を行った。結果を表1および表2に示した。
【0031】
実施例1〜5と比較例1〜2の結果から、粒径45μm以上の凝集体の含有量が酸化鉄粉末中20質量%以下である本発明の酸化鉄を用いると、低温で仮焼でき、また粉砕性に優れたフェライト粒子が得られることがわかる。
【0032】
(実施例6)
硫酸第一鉄と硫酸第二鉄溶液を溶液中のFe3+濃度がFe3+/Total- Fe=20%になるように混合し、水を加えて全Fe濃度2.1mol/l、溶液量10リットルに調製した。
まず、内容積30リットルの容器に、2.5mol/lのNaOH溶液20リットルを入れ、そこに窒素ガスを通気し攪拌しながら上記の硫酸鉄溶液を混合した。この溶液を窒素雰囲気のまま90℃まで昇温し、温度が安定した後、空気を10l/min通気して酸化を行いFe3 4 粒子を合成した。反応が終了したのち、一般的な方法で脱塩、ろ過、乾燥、解砕してFe3 4 粉末を得た。この粉末を480℃で1時間加熱酸化して酸化鉄(α−Fe2 3 )とし、粉砕機で粉砕し、分級して粗大粒子を除去して酸化鉄粉末を得た。得られた酸化鉄粉末について、実施例1と同様な評価を行った。結果を表1に示した。
【0033】
(実施例7)
硫酸第一鉄溶液と硫酸第二鉄溶液を溶液中のFe3+濃度がFe3+/Total- Fe=12%になるように混合し、水を加えて全Fe濃度2.1mol/l、溶液量10リットルに調製した。
まず、内容積30リットルの容器に、2.4mol/lのNaOH溶液20リットルを入れ、そこに窒素ガスを通気し攪拌しながら上記の硫酸鉄溶液を混合した。この溶液を窒素雰囲気のまま75℃まで昇温し、温度が安定した後、空気を10l/min通気して酸化を行いFe3 4 粒子を合成した。反応が終了したのち、一般的な方法で脱塩、ろ過、乾燥、解砕してFe3 4 粉末を得た。この粉末を260℃で2時間加熱酸化して酸化鉄(γ−Fe2 3 )とし、粉砕機で粉砕し、分級して粗大粒子を除去して酸化鉄粉末を得た。得られた酸化鉄粉末について実施例1と同様な評価を行った。結果を表1に示した。
【0034】
(実施例8)
内容積30リットルの容器にFe濃度3.8mol/lの塩化第二鉄溶液10リットルと8mol/lのNaOH溶液を混合してpH5.0のFe(OH)3 溶液を作製し、80℃で3日間加熱してα−Fe2 3 を合成した。反応が終了したのち、一般的な方法で脱塩、ろ過、乾燥、解砕し、粉砕機で粉砕し、分級して粗大粒子を除去して酸化鉄粉末を得た。得られた酸化鉄粉末について、実施例1と同様な評価を行った。結果を表1に示した。
【0035】
(実施例9)
内容積30リットルの容器に、1.47mol/lのNaOH溶液20リットルを入れ、そこに窒素ガスを通気し攪拌しながらFe濃度1.05mol/l、溶液量10リットルに調製した硫酸第一鉄溶液を混合した。この溶液を窒素雰囲気のまま30℃で空気を10l/min通気して酸化を行いα−FeOOH粒子を合成した。反応が終了したのち、一般的な方法で脱塩、ろ過、乾燥、解砕してα−FeOOH粉末を得た。この粉末を200℃で1時間加熱してα−Fe2 3 とし、粉砕機で粉砕し、分級して粗大粒子を除去して酸化鉄粉末を得た。得られた酸化鉄粉末について、実施例1と同様な評価を行った。結果を表1に示した。
【0036】
(比較例3)
内容積30リットルの容器に、1.15mol/lのNaOH溶液20リットルを入れ、そこに窒素ガスを通気し攪拌しながらFe濃度1.2mol/l、溶液量10リットルに調製した硫酸第一鉄溶液を混合した。この溶液を窒素雰囲気のまま90℃まで昇温し、温度が安定した後、空気を5l/min通気して酸化を行いFe3 4 粒子を合成した。反応が終了したのち、一般的な方法で脱塩、ろ過、乾燥、解砕してFe3 4 粉末を得た。この粉末を500℃で1時間加熱酸化して酸化鉄(α−Fe2 3 )とし、粉砕機で粉砕し、分級して粗大粒子を除去して酸化鉄粉末を得た。得られた酸化鉄粉末について、実施例1と同様な評価を行った。結果を表2に示した。
【0037】
(比較例4)
内容積30リットルの容器に、1.05mol/lのNaOH溶液20リットルを入れ、そこに窒素ガスを通気し攪拌しながらFe濃度0.75mol/l、溶液量10リットルに調製した硫酸第一鉄溶液を混合した。この溶液を窒素雰囲気のまま30℃で空気を5l/min通気して酸化を行いα−FeOOH粒子を合成した。反応が終了したのち、一般的な方法で脱塩、ろ過、乾燥、解砕してα−FeOOH粉末を得た。この粉末を250℃で1時間加熱してα−Fe2 3 とし、粉砕機で粉砕して、分級して酸化鉄粉末を得た。得られた酸化鉄粉末について、実施例1と同様な評価を行った。結果を表2に示した。
【0038】
実施例6〜9と比較例3〜4の結果から、比表面積が10〜60m2 /gの本発明の酸化鉄粉末を用いることにより、仮焼温度を低減でき、粉砕性に優れたフェライト粒子が得られることがわかる。
【0039】
(比較例5)
噴霧焙焼法で製造した比表面積4.8m2 /gの酸化鉄を用いて、実施例1と同様な評価を行った。結果を表2に示した。
実施例と比較例5の結果から、本発明の酸化鉄粉末を用いると、例えば噴霧焙焼法で作製した比表面積が小さい酸化鉄粉末に比べて、低温で仮焼でき、また粉砕性に優れたフェライト粒子が得られることがわかる。
【0040】
(実施例10〜11、比較例6)
実施例1と同様の条件でFe3 4 粉末を得た。この粉末を所定温度(230℃(実施例10)、350℃(実施例11)で1時間加熱酸化してγ−Fe2 3 単相の酸化鉄(実施例10)またはα−Fe2 3 相およびγ−Fe2 3 相の混合相の酸化鉄(実施例11)を得た。これらの酸化鉄を実施例1と同様の条件で粉砕、分級して酸化鉄粉末を得、実施例1と同様にフェライト粒子の評価を行った。また、比較例6として、Fe3 4 を加熱酸化せずに用いて、同様な条件でフェライト粒子の評価を実施した。これらの結果を、表3に示した。
実施例1、10、11および比較例6の結果から、α−Fe2 3 単相、γ−Fe2 3 単相、またはα−Fe2 3 相およびγ−Fe2 3 相の混合相である本発明の酸化鉄を用いると、低温で仮焼することが可能で、粉砕性が優れたフェライト粒子を得られることがわかる。
【0041】
【表1】
Figure 0003908045
【0042】
【表2】
Figure 0003908045
【0043】
【表3】
Figure 0003908045
【0044】
【発明の効果】
本発明の酸化鉄粉末を用いると、仮焼温度を下げることができ、粉砕性に優れたフェライト粒子を得ることができる。
本発明の方法で製造されるフェライト粒子は、スピネル化率90%以上となる最低温度が低いため、仮焼温度を低くすることができ、また、比表面積が3.5m2 /gと大きいためチップインダクタ等の小型磁気素子の製造用として優れている。

Claims (2)

  1. 平均粒径0.02〜0.11μmのFe2 3 一次粒子と、その凝集粒子からなる酸化鉄粉末であって、
    粒径45μm以上の凝集粒子の含有量が前記酸化鉄粉末中20質量%以下であることを特徴とするチップインダクタ用酸化鉄粉末。
  2. 平均粒径0.02〜0.11μmのFe2 3 一次粒子と、その凝集粒子からなる酸化鉄粉末であって、粒径45μm以上の凝集粒子の含有量が、前記酸化鉄粉末中20質量%以下である前記酸化鉄粉末に、必要な他の金属化合物を混合して、仮焼することにより、スピネル化率が90%以上となる最低温度が740℃以下で、仮焼後比表面積が3.5m2 /g以上であるフェライト粉末を製造する方法。
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