JP3907373B2 - 継手の溶接方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、継手の溶接方法に関する技術分野に属し、より詳細には、構造物のT継手、重ね継手にすみ肉溶接を行うに際し、アーク溶接とレーザ溶接とを複合させて溶接を行う継手の溶接方法に関する技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
図1に従来のT継手を示す。この場合、図1に示す如く、垂直の鋼板1と水平の鋼板2とは垂直に交差するように正面視でT字型に組み立てられており、鋼板1の先端面1aは鋼板2の表面に当接している。
【0003】
図1に示す如く組み立てられたT継手にすみ肉溶接を行うに際し、アーク溶接により、通常は部分溶込み溶接が行われる。
【0004】
また、従来の溶接方法として、図1に示すT継手に対して、レーザ溶接によりすみ肉溶接を行う方法も考えられる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前記従来のアーク溶接による継手の溶接方法及びレーザ溶接による継手の溶接方法には、種々の問題点がある。この詳細を、以下説明する。
【0006】
アーク溶接単独で継手の溶接を行う場合、図2(a) に示す如く、深い溶込み量が期待できないため、鋼板1と鋼板2の当接面に未溶融部分が大きく残り、継手の強度不足になる可能性があるため、所要強度を脚長で確保する必要がある。
【0007】
しかしながら、このように脚長により所要強度を確保する場合、溶接金属の断面積が大きくなることから、溶接後の収縮量が大きくなり、従って溶接変形量が大きくなってしまう。
【0008】
また、高能率で溶接を行う場合には、溶接速度は速い方がよいが、アーク溶接においては、1〜1.5m/min 以上の速度で溶接を行うと、アークが安定しなくなり、ハンピングが発生するために、高速溶接には適していない。なお、ハンピングとは、高速溶接を行った場合にビードのなじみが悪くなり、ある速度以上では数珠玉状の溶接ビードとなり、溶接不能となる現象のことと一般的にはいわれている。
【0009】
一方、レーザ溶接単独で継手の溶接を行う場合、数m/min 程度の高速で溶接を行ってもハンピングを発生することなく、健全な溶接部を得ることができる。また、図2(b) に示す如く、レーザ溶接による溶接金属の断面積は、アーク溶接によるものと比較して非常に小さいため、溶接後の変形量も小さい。
【0010】
しかしながら、レーザ溶接においては、通常フィラーワイヤを供給せずに溶接が行われ、この場合にはアーク溶接の場合のような大きな脚長を確保できないだけでなく、アンダーカットを生じる場合がある。また、フィラーワイヤを供給しながら溶接を行う場合においても、フィラーワイヤからの溶融金属の供給によって多少の余盛りを形成することができるが、フィラーワイヤの供給量には限界があることから、アーク溶接並みの大きな脚長を確保することはできない。
【0011】
そこで、レーザ溶接を行う場合には、深い溶込み深さを利用して有効のど厚を大きくすることにより、強度を確保することが試みられる。しかし、例えば図1に示す如きT継手に対してレーザ溶接を行う場合には、レーザ溶接装置の加工ヘッドが被溶接材の鋼板2に接触してしまうため、鋼板1の先端面1aに平行な方向からレーザを入射することができず、溶込み深さが深くなっても、図2(b) に示す如く、鋼板1の先端面1aと鋼板2の表面の当接面を有効的に溶融することができない。
【0012】
また、レーザ溶接においては、溶接しようとする2つの部材間にGap(ギャップ)が存在する場合には途端に健全な溶接が行えなくなるという短所がある。即ち、例えば図1に示すようなT継手に対して溶接を行う場合に、鋼板1の先端面1aと鋼板2の表面の間にGapがあり、両者間が空いていた場合には、健全な溶接を行うことができないという問題点がある。
【0013】
本発明は、このような事情に着目してなされたものであって、その目的は、構造物のT継手、重ね継手にすみ肉溶接を行うに際し、高速で溶接を行う場合でもハンピングを発生することなく健全な溶接部を得ることができ、被溶接部材間にGapが存在する場合においても健全な溶接を行うことができ、また、溶接後の変形量が小さく、高い継手強度を確保することができる継手の溶接方法を提供しようとするものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明に係る継手の溶接方法は、請求項1〜2記載の継手の溶接方法としており、それは次のような構成としたものである。
【0015】
即ち、請求項1記載の継手の溶接方法は、構造物のT継手、重ね継手にすみ肉溶接を行うに際し、アーク溶接とレーザ溶接とを複合させて溶接を行う継手の溶接方法であって、この溶接の条件を、レーザ出力:1〜50kW、アーク電流:100〜600A、溶接速度:1〜10m/min 、継手部材表面上でのアーク/レーザ間距離:2〜15mmとすることを特徴とする継手の溶接方法である(第1発明)。
【0016】
請求項2記載の継手の溶接方法は、前記アーク溶接が消耗式電極を用いた溶接方法である請求項1記載の継手の溶接方法である(第2発明)。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明は、例えば次のような形態で実施する。
構造物のT継手または重ね継手にすみ肉溶接を行うに際し、アーク溶接とレーザ溶接とを複合させて溶接を行う。このとき、溶接の条件を、レーザ出力:1〜50kW、アーク電流:100〜600A、溶接速度:1〜10m/min 、継手部材表面上でのアーク/レーザ間距離:2〜15mmとする。このような形態で本発明が実施される。
【0018】
以下、本発明について主にその作用効果を説明する。
【0019】
本発明に係る継手の溶接方法は、前記の如く、構造物のT継手、重ね継手にすみ肉溶接を行うに際し、アーク溶接とレーザ溶接とを複合させて溶接を行う継手の溶接方法であって、この溶接の条件を、レーザ出力:1〜50kW、アーク電流:100〜600A、溶接速度:1〜10m/min 、継手部材表面上でのアーク/レーザ間距離:2〜15mmとするようにしており、これにより、前記従来のアーク溶接による継手の溶接方法及びレーザ溶接による継手の溶接方法が有する問題点を解消し得、前記本発明の目的を達成し得るものである(第1発明)。この詳細を、以下説明する。
【0020】
アーク溶接単独で継手の溶接を行う場合の問題点としては、溶接変形が大きくなってしまうこと、即ち、所要の高い継手強度を大きな脚長により確保した場合には溶接変形量が大きくなること(換言すれば、脚長を小さくして溶接変形を抑制しようとすると、所要の高い継手強度が得られないこと)、及び、高速で溶接を行った場合にはハンピングが発生することが挙げられる。
【0021】
ところが、アーク溶接にレーザ溶接を複合させた場合、即ち、アーク溶接とレーザ溶接とを複合させて継手の溶接を行う場合には、ハンピングが発生し難くなり、アーク溶接単独ではハンピングが発生して健全な溶接が行えなくなる数m/min 程度(1〜1.5m/min 以上)の溶接速度においても、ハンピングを発生することなく健全な溶接を行うことができる。
【0022】
これは、アーク溶接単独で高速溶接を行った場合にハンピングが発生する要因として、溶接線方向の温度勾配が急になること、溶融金属の流れが後方の一方向になること、及び、ビード幅に対して溶着金属量が不足すること等が挙げられるが、アーク溶接にレーザ溶接を複合することにより、これらの要因が解消あるいはこの程度が軽減されるからである。
【0023】
即ち、溶接線方向の温度勾配については、アーク溶接にレーザ溶接を複合することにより、熱源が2つになるために、溶接線方向の温度勾配が緩やかになる。溶融金属の流れについては、レーザにより生成したキーホールを避けるように流れる等の作用が生じ、一方向流ではなくなる。また、ビード幅に対する溶着金属量については、レーザ溶接を複合することにより、アークの陰極点がレーザに引っ張られてアークの広がりを抑えることができ、このためビード幅が狭くなり、これによってビード幅に対する溶着金属量が適正量となるため、ハンピングが発生し難くなる。これらによって、高速で溶接を行う場合でもハンピングを発生することなく健全な溶接を行うことができるのである。
【0024】
また、アーク溶接とレーザ溶接とを複合させて継手の溶接を行う場合には、溶接後の変形量を小さく抑えることができる。即ち、アーク溶接にレーザ溶接を複合させると、有効溶込み深さによって強度を確保することができるため、同一の強度を得るのに必要な脚長が、アーク溶接単独の場合と比較して小さくなる。従って、同程度の強度の継手をアーク溶接単独および複合溶接(アーク溶接とレーザ溶接とを複合させて溶接を行う溶接)により作製した場合には、溶接後の変形量は複合溶接による場合の方が小さく抑えることができる。
【0025】
レーザ溶接単独で継手の溶接を行う場合の問題点としては、アンダーカットを生じ易いこと、フィラーワイヤを用いた場合でも大きな脚長を確保し難いこと、健全な溶接を行うことのできるGap量の範囲が極めて狭い(許容上限値が著しく小さい)ことが挙げられる。
【0026】
ところが、レーザ溶接にアーク溶接を複合させた場合、即ち、アーク溶接とレーザ溶接とを複合させて継手の溶接を行う場合には、これらの問題点を解消することができる。
【0027】
即ち、アーク溶接のワイヤによる溶融金属の供給があるため、アーク溶接の溶接条件を適正な値に調整し設定することにより、アンダーカットを防止すると共に、大きな脚長を確保することができる。
【0028】
また、Gapが存在する場合においても、アーク溶接での溶融金属によりGapを補填することができるため、Gap量の許容上限値が大きく、アーク溶接単独の場合と同程度のGap量の許容範囲で健全な溶接を行うことができる。
【0029】
従って、本発明に係る継手の溶接方法によれば、構造物のT継手、重ね継手にすみ肉溶接を行うに際し、高速で溶接を行う場合でもハンピングを発生することなく健全な溶接部を得ることができ、被溶接部材間にGapが存在する場合においても健全な溶接を行うことができ、また、溶接後の変形量が小さく、高い継手強度を確保することができるようになる。
【0030】
より具体的には、本発明に係る継手の溶接方法によれば、レーザ溶接の長所でありアーク溶接の短所である高速での溶接性(ハンピングを発生することなく健全な溶接を行い得る溶接速度の程度)および溶接変形特性(溶接変形の起こり難さ、即ち、小ささの程度)については、レーザ溶接単独の場合とほぼ同程度の性質を示すことができると共に、レーザ溶接の短所でありアーク溶接の長所である継手強度およびGap感受性(健全な溶接を行うことのできるGap量の範囲、即ち、Gap量の許容上限値)については、アーク溶接単独の場合と同程度の性質を示すことができる。
【0031】
本発明に係る継手の溶接方法での溶接条件についての数値限定理由を、以下説明する。
【0032】
レーザ出力:1kW未満の場合、アーク溶接とレーザ溶接とを複合させて溶接することの効果が希薄になったり、所要の溶込み深さが得られなくなる場合がある。一方、レーザ出力:50kW超の場合、出力過多となり、抜け落ちが生じることが懸念される。よって、レーザ出力:1〜50kWとする必要がある。
【0033】
アーク電流:100A未満の場合、高速度で溶接を行った場合に所要の脚長が得られなくなったり、健全な溶接が行えなくなる場合がある。一方、アーク電流:600A超の場合、入熱過多または溶着過多となる。よって、アーク電流:100〜600Aとする必要がある。
【0034】
溶接速度:1m/min 未満の場合、高能率溶接の効果が希薄になる。一方、溶接速度:10m/min 超の場合、アークが安定しなくなる。よって、溶接速度:1〜10m/min とする必要がある。
【0035】
継手部材表面上でのアーク/レーザ間距離(以下、アーク/レーザ間距離Dという)が2mm未満の場合、アークとレーザが干渉し、健全な溶接を行うことができなくなる。一方、アーク/レーザ間距離Dが15mm超の場合、アークとレーザの相互作用が希薄になるか又は無くなり、アークとレーザの相互作用が不充分となり、前述の本発明の場合の如き作用効果が得られなくなる。よって、アーク/レーザ間距離D:2〜15mmとする必要がある。
【0036】
尚、アーク/レーザ間距離D(継手部材表面上でのアーク/レーザ間距離)とは、継手部材表面上でのアークとレーザとの間の距離、即ち、アークが継手部材表面に当たる位置とレーザが継手部材表面に当たる位置との間の距離のことである。このアーク/レーザ間距離Dは、これを図により模式的に示すと、例えば図3に示す如きDである。
【0037】
アーク溶接とレーザ溶接とを複合させて溶接を行う継手の溶接方法は、アーク溶接とレーザ溶接との複合溶接による継手の溶接方法ということができる。この複合溶接はレーザ溶接とアーク溶接とを同時にあるいはほぼ同時に行う溶接のことである。
【0038】
以下、本発明の実施の形態と作用効果について、図面を用い、より具体的に説明する。
【0039】
図4にT継手の例を示す。図4の(a) は斜視図であり、図4の(b) は正面図である。図4に示す如く、板状部材3の端面3aは板状部材4の表面に当接されており、溶接は板状部材3の端面3aの端辺3b及び3cに沿って行われる。
【0040】
かかる継手に対して、アーク溶接、レーザ溶接、アーク溶接とレーザ溶接との複合溶接(アーク溶接とレーザ溶接とを複合させた溶接)を行うと、溶接ビードの断面はアーク溶接の場合には図5の(a) 、レーザ溶接の場合には図5の(b) 、アーク溶接とレーザ溶接との複合溶接の場合には図5の(c) に示す如きものとなる。このとき、レーザ溶接の場合、及び、アーク溶接とレーザ溶接との複合溶接の場合は、溶接速度:数m/min 程度の高速溶接を行ったが、アーク溶接の場合は高速溶接を行うとハンピングを発生して健全なビードが形成されないために数十cm/min 程度の溶接速度で溶接を行った。
【0041】
アーク溶接の場合は、高速溶接が行えないために能率的でないだけでなく、図5の(a) に示す如く溶接ビードの断面積が他の方法(レーザ溶接や複合溶接)による場合と比較して大きいため、図5の(a) の矢印に示す方向への変形量が大きくなる。
【0042】
レーザ溶接の場合は、図5の(b) に示す如く、溶込み方向が2つの部材の当接面と一致しないため、溶込み深さを深くしても、有効のど厚の増加にはつながらず、従って、高い継手強度が得られない。また、レーザ溶接においては、2つの部材間にGapが生じて存在する場合には、健全な溶接ビードを形成することができない。
【0043】
これに対し、アーク溶接とレーザ溶接とを複合させて溶接を行った場合は、図5の(c) に示す如く、健全な溶接ビードが形成される。即ち、レーザ溶接の場合と同様の高速度で溶接を行った場合でも、健全な溶接ビードが形成される。
【0044】
また、この複合溶接の場合は、溶接後の変形量も、アーク溶接の場合と比較して極めて小さくすることができる。
【0045】
更に、この複合溶接の場合は、レーザ溶接の場合と同程度の溶込み深さが得られるだけでなく、余盛りによって適正脚長を形成することも可能であるため、有効のど厚を大きくすることができ、このため高い継手強度を確保することができる。
【0046】
尚、以上は本発明の実施の形態と作用効果としてT継手に対してすみ肉溶接する場合について具体的に示したものであるが、重ね継手に対してすみ肉溶接する場合についても上記作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【0047】
前述の如くアーク溶接とレーザ溶接とを複合させて溶接を行うに際し、アーク溶接の種類については特には限定されず、種々のアーク溶接によることができるが、消耗式電極を用いる方法が好ましい(第2発明)。これは、非消耗式電極による方法では、ワイヤの供給なしで溶接を行う場合はもちろんのこと、フィラーワイヤを供給しながら溶接を行った場合においても、本発明による溶接方法で必要な溶着金属量を得ることができないケースも考えられるためである。
【0048】
本発明において、被溶接部材としてはその材質は特には限定されず、種々のものを用いることができ、例えば、炭素鋼等の鋼類、Al合金、Ti合金等を用いることができる。
【0049】
被溶接部材の大きさについては特には限定されない。また、形状についても特には限定されず、断面が図5に例示する如き長方形のものの他、断面が台形状のもの等を用いることができる。
【0050】
【実施例】
種々の溶接条件で継手の溶接を実施し、各種評価試験を行った。その溶接方法及び試験結果について、以下説明する。尚、この溶接の中、アーク溶接とレーザ溶接とを複合させて溶接を行う場合の溶接を実施例とし、アーク溶接単独で溶接を行う場合の溶接及びレーザ溶接単独で溶接を行う場合の溶接を比較例とした。従って、比較例は当然に本発明の実施例に該当しないものであるが、実施例は全てが本発明の実施例に該当するとは限らず、実施例の中には、本発明に係る溶接方法の要件の1以上を満たさず、本発明の実施例に該当しないものもある。本発明の実施例という場合、それは必ず本発明に係る溶接方法の要件を満たす場合の溶接に該当するものである。
【0051】
〔実施例及び比較例−A群(ハンピングに関する調査試験)〕
実施例及び比較例の溶接を行い、ハンピング発生の有無について調査した。この詳細及び調査結果を、以下説明する。尚、この実施例の中には本発明の実施例に該当しないものもある。
【0052】
図6に実施例及び比較例に用いた重ね継手の形状を示す。この重ね継手は、板厚:4mmの板状部材6と板厚:4mmの板状部材7とを図6に示す如く重ねて組み立てたものである。
【0053】
上記重ね継手に対し、板状部材6の端面6aに沿ってすみ肉溶接を行った。このとき、アーク溶接は、Ar+20%CO2 ガス(CO2 ガス含有量:20体積%のArとCO2 の混合ガス)をシールドガスとして用いたMAG溶接とし、直径:1.2mmΦのワイヤを用いた。レーザ溶接にはCO2 レーザを用いた。表1に実施例及び比較例に係る溶接条件の詳細を示す。尚、レーザビーム径については、全て2mmΦとした。
【0054】
上記すみ肉溶接に際し、ハンピング発生の有無を調べた。その結果を、前記溶接条件の詳細と共に表1に示す。尚、表1の試験結果の欄において、○はハンピングを発生せずに、健全な溶接を行うことができたもの、×はハンピングを発生して、健全な溶接を行うことができなかったものを示すものである。
【0055】
表1に示すように、実施例のNo.1〜5(本発明の実施例)の場合、及び、比較例のNo.11〜15(レーザ溶接単独)の場合、いずれの溶接速度においてもハンピングを発生することなく、健全な溶接を行うことができた。尚、実施例No.1〜5の場合は本発明に係る溶接方法の要件を満たすもの(本発明の実施例)である。
【0056】
しかしながら、比較例No.6〜10(アーク溶接単独)の場合、1.5m/min 以下の溶接速度においてはハンピングを発生して、健全な溶接を行うことができなかった。
【0057】
また、実施例No.16の場合、アーク/レーザ間距離Dの値が本発明でのアーク/レーザ間距離D:2〜15mmの下限値よりも小さいため、アークとレーザが干渉してしまい、健全な溶接ビードを得ることができなかった。また、実施例No.17の場合、アーク/レーザ間距離Dの値が本発明でのアーク/レーザ間距離Dの上限値よりも大きいため、ハンピングを発生して、健全な溶接を行うことができなかった。
【0058】
実施例No.18の場合、レーザ出力が本発明でのレーザ出力:1〜50kWの下限値よりも小さいため、ハンピングを発生して、健全な溶接を行うことができなかった。
【0059】
実施例No.19の場合、アーク電流が本発明でのアーク電流:100〜600Aよりも小さいため、健全な溶接を行うことができなかった。
【0060】
尚、溶接後の継手強度について調べたところ、本発明の実施例により得られたものは高い継手強度を有することが確認された。
【0061】
〔実施例及び比較例−B群(溶接変形量測定試験)〕
実施例及び比較例の溶接を行い、溶接変形量の測定試験を行った。この詳細及び調査結果を、以下説明する。
【0062】
図7に実施例及び比較例に用いたT継手の形状を示す。このT継手は、板厚:6mmの板状部材8と板厚:6mmの板状部材9とを図7に示す如く組み立てたものである。尚、図7に示す板状部材の寸法の単位はmmである。
【0063】
上記T継手に対し、板状部材8の端面8aに沿ってすみ肉溶接を行った。このとき、アーク溶接は、Ar+20%CO2 ガス(CO2 ガス含有量:20体積%のArとCO2 の混合ガス)をシールドガスとして用いたMAG溶接とし、直径:1.2mmΦのワイヤを用いた。レーザ溶接にはCO2 レーザを用いた。表2に実施例及び比較例に係る溶接条件の詳細を示す。尚、レーザビーム径については、全て2mmΦとした。
【0064】
上記すみ肉溶接の後、溶接変形量の測定を行った。即ち、図8に示す如く、溶接後の板状部材9の両端辺の水平面からの距離A及びBを測定し、この距離Aと距離Bとの和を求め、これを溶接変形量として求めた。この結果を、前記溶接条件の詳細と共に表2に示す。
【0065】
表2に示すように、比較例No.22(レーザ溶接単独)の場合、溶接変形量は大きいが、これに対し、実施例No.20(本発明の実施例)の場合、及び、比較例No.22(アーク溶接単独)の場合は、溶接変形量が極めて小さい。即ち、実施例No.20は本発明に係る溶接方法の要件を満たすもの(本発明の実施例)であり、この場合は比較例No.22(レーザ溶接単独)の場合とほぼ同程度の溶接変形量に抑えることができ、これに対して比較例No.22(アーク溶接単独)の場合は溶接変形量が極めて大きい。
【0066】
尚、溶接後の継手強度について調べたところ、本発明の実施例により得られたものは高い継手強度を有することが確認された。
【0067】
〔実施例及び比較例−C群(Gap感受性測定試験)〕
実施例及び比較例の溶接を行い、Gap感受性の測定試験を行った。この詳細及び調査結果を、以下説明する。
【0068】
図7に実施例及び比較例に用いたT継手の形状を示す。このT継手の板状部材8と板状部材9の当接面のGap量(両部材間の隙間の距離)を種々変化させ、板状部材8の端面8aに沿ってすみ肉溶接を行った。このとき、アーク溶接は、シールドガス:Ar+20%CO2 ガスのMAG溶接とし、直径:1.2mmΦのワイヤを用いた。レーザ溶接にはCO2 レーザを用いた。表3に実施例及び比較例に係る溶接条件の詳細を示す。尚、レーザビーム径については、全て2mmΦとした。
【0069】
上記すみ肉溶接の際およびその後、溶接の状況および溶接ビード等を観察して溶接の健全性を評価した。この結果を、前記溶接条件の詳細と共に表3に示す。尚、表3の試験結果の欄において、○は健全な溶接を行うことができたもの、×は健全な溶接を行うことができなかったものを示すものである。
【0070】
表3に示す如く、比較例No.27〜30(レーザ溶接単独)の場合、Gap量(Gapの大きさ):0mm、0.5mmのとき、健全な溶接を行うことができ、健全な溶接ビードが得られたが、Gap量が1mm以上になると健全な溶接ビードが得られなかった。これに対し、実施例No.23〜26(本発明の実施例)の場合は、Gap量:0mm、0.5mmのときも、Gap量:1.0mm、1.5mmのときも、健全な溶接を行うことができ、健全な溶接ビードが得られた。即ち、実施例No.23〜26は本発明に係る溶接方法の要件を満たすもの(本発明の実施例)であり、この場合はいずれも、レーザ溶接単独では健全な溶接を行うことができなかったGap量においても、健全な溶接ビードを得ることができた。
【0071】
尚、溶接後の継手強度について調べたところ、本発明の実施例により得られたものは高い継手強度を有することが確認された。
【0072】
〔実施例及び比較例−D群(疲労強度測定試験)〕
実施例及び比較例の溶接を行い、疲労強度測定試験を行った。この詳細及び試験結果を、以下説明する。
【0073】
図9に、疲労強度測定試験に用いたT継手の形状及びサイズを示す。これは、板厚:12mmの板状部材10と板状部材11とによりT継手に組み立てた後、溶接を行い、図9に示す形状に加工したものである。
【0074】
疲労強度測定試験は、上記図9に示すT継手に対し図9にて矢印で示すような方向に120MPaの応力(繰り返し応力)を掛け、破断までの繰り返し回数を測定することにより行った。そして、判定基準は、破断までの繰り返し回数(破断繰り返し回数)が2×106 以上であったものを合格(○)とし、2×106 未満のものを不合格(×)とした。
【0075】
上記疲労強度測定試験の結果を、T継手の溶接方法と共に表4に示す。尚、表4の判定の欄において、○は破断繰り返し回数が2×106 以上であり、合格であったもの、×は破断繰り返し回数が2×106 未満であり、不合格であったものを示すものである。溶接方法の欄において、複合溶接は本発明の実施例に係る溶接方法に該当するものであり、レーザ溶接及びアーク溶接は比較例に該当するものである。
【0076】
表4に示すように、比較例No.32(溶接方法:レーザ溶接単独)の場合、破断繰り返し回数が2×106 未満であり、判定基準未満の繰り返し回数で破断に至り、不合格となったが、実施例No.31(溶接方法:複合溶接:本発明の実施例に係る溶接方法)の場合、及び、比較例No.33(溶接方法:アーク溶接単独)の場合は、破断繰り返し回数が2×106 以上であり、判定基準以上の繰り返し回数が得られた。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
【発明の効果】
本発明に係る継手の溶接方法によれば、構造物のT継手、重ね継手にすみ肉溶接を行うに際し、高速で溶接を行う場合でもハンピングを発生することなく健全な溶接部を得ることができ、被溶接部材間に比較的大きなGapが存在する場合においても健全な溶接を行うことができ(健全な溶接を行い得るGap量の許容範囲が広く)、また、溶接後の変形量が小さく、高い継手強度を確保することができるようになる。
【0082】
より具体的には、本発明に係る継手の溶接方法によれば、レーザ溶接の長所でありアーク溶接の短所である高速での溶接性(ハンピングを発生することなく健全な溶接を行い得る溶接速度の程度)および溶接変形特性(溶接変形の起こり難さ、即ち、小ささの程度)については、レーザ溶接単独の場合とほぼ同程度の性質を示すことができ、また、レーザ溶接の短所でありアーク溶接の長所である継手強度およびGap感受性(健全な溶接を行うことのできるGap量の範囲、即ち、Gap量の許容上限値)については、アーク溶接単独の場合と同程度の性質を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 T継手の概要を示す正面図である。
【図2】 従来の溶接方法でT継手の溶接を行った場合の溶接ビードの断面の概要を示す正面断面図であって、図2の(a) は前記溶接をアーク溶接により行った場合のもの、図2の(b) は前記溶接をレーザ溶接により行った場合のものである。
【図3】 アーク/レーザ間距離Dの概要を示す模式図である。
【図4】 本発明の実施の形態に係るT継手の概要を示す図であって、図4の(a) は斜視図、図4の(b) は正面図である。
【図5】 T継手の溶接を行った場合の溶接ビードの断面の概要を示す正面断面図であって、図5の(a) は前記溶接をアーク溶接により行った場合のもの、図2の(b) は前記溶接をレーザ溶接により行った場合のもの、図5の(c) は前記溶接をアーク溶接とレーザ溶接との複合溶接により行った場合のものである。
【図6】 実施例に係る重ね継手の概要を示す斜視図である。
【図7】 実施例に係るT継手の概要を示す図であって、図7の(a) は斜視図、図7の(b) は正面図である。
【図8】 T継手の溶接後の変形状況の概要を示す正面断面図である。
【図9】 実施例に係るT継手の概要を示す側断面図である。
【符号の説明】
1--鋼板、1a--鋼板1の先端面、2--鋼板、3--板状部材、3a--板状部材3の端面、3b,3c--板状部材3の端辺、4--板状部材、6--板状部材、6a--板状部材6の端面、7--板状部材、8--板状部材、8a--板状部材8の端面、9--板状部材、10--板状部材、11--板状部材。
Claims (2)
- 構造物のT継手、重ね継手にすみ肉溶接を行うに際し、アーク溶接とレーザ溶接とを複合させて溶接を行う継手の溶接方法であって、この溶接の条件を、レーザ出力:1〜50kW、アーク電流:100〜600A、溶接速度:1〜10m/min 、継手部材表面上でのアーク/レーザ間距離:2〜15mmとすることを特徴とする継手の溶接方法。
- 前記アーク溶接が、消耗式電極を用いた溶接方法である請求項1記載の継手の溶接方法。
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