JP3907232B2 - クロロフルオロカーボン及びクロロフルオロハイドロカーボンの水素化分解法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、クロロフルオロカーボン(CFC)及びクロロフルオロハイドロカーボン(CFHC)の水素化分解法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
現在では、成層圏のオゾン層を減少させる要因がクロロフルオロカーボンであることは明らかであると考えられている。その理由は、遊離したCFCは成層圏までゆっくり浸透する傾向があり、成層圏でCFCは光解離により分解して、単原子塩素を放出するからである。塩素原子は、該原子が再生される触媒サイクル中にO3(オゾン)分子を破壊し、それによっていくつかの分子に影響を与え得る。従って、国際社会は、CFCの生産を放棄することを決定し、その結果、許容し得る代替物を見いだして製造することが必要になった。
【0003】
CFCは、その名が示す通り、塩素、フッ素及び炭素原子からなり、水素が欠けている。製造業者が考案した1つの戦略は、CFCの代わりに、CFCと同じ元素に加えて水素を含み、それによって、より安定性が低く、気圧が低くなると急速に分解する分子を用いることからなる。その究極の目的は、オゾンに衝撃を与えず、塩素を含まない化合物であるフルオロハイドロカーボン(FHC)を用いることにある。
【0004】
この意味で、分子中の塩素原子を水素原子に置き換える水素化分解は、提起された問題に特にぴったりの反応である。
【0005】
該反応の可能性は多くの特許明細書に示されている。クロロジフルオロメタンのジフルオロメタンへの水素化分解は、EP0,508,660号特許明細書に記載されており、クロロテトラフルオロエタン及びジクロロテトラフルオロエタンのテトラフルオロエタンへの水素化分解は、GB1,578,933号、EP0,349,115号及びUS4,873,381号の各特許明細書に記載されている。この種の反応も、ペンタフルオロエタンの場合のWO94/02439号の特許出願明細書に記載されているように、FHCから存在し得るCFCを取り除く良好な手段である。
【0006】
しかし、水素化分解法の主な欠点は、触媒活性の経時的な安定性にある。多くの場合反応物質の完全な変換を必要とする厳しい反応条件下には、触媒が経時的に失活状態になる。従って、定期的に触媒を新しいものに取り替えるか、古い触媒を再生させる有効な手段を見いだす必要がある。
【0007】
この点に関して、数種の水素化分解触媒の再生技術が文献に記載されている。特許出願WO93/24224号は、使用済みの触媒を酸素又は酸化剤で酸化することを提案している。塩素で処理する(US5,057,470号)か、又は反応物質でもあり得るCFCで処理して変換する(US4,980,324号)ことも有効であることが証明されている。しかし、これらの方法は触媒を再活性化するに過ぎず、触媒は処理後にも依然として同じ欠点を有している。
【0008】
【課題を解決するための手段】
担体上に担持されたパラジウムを主成分とする触媒に硫黄を添加すると、該触媒に、気相水素化分解反応、CFC又はCFHCからのFHC合成反応及びFHCに含まれるCFC不純物の精製プロセスにおいても安定であるという特性を付与することが見いだされた。
【0009】
水素化/水素化分解触媒の硫黄処理はFR2,634,531号特許明細書から公知であり、該明細書は、ジクロロ酢酸(HCl2C−COOH)のモノクロロ酢酸(H2ClC−COOH)への液相水素化分解の選択性を増大させるために、Pd/C触媒を硫黄含有化合物で処理することを記載している。しかし、触媒を硫黄化合物で処理すると、CFC又はCFHCの気相水素化分解において、触媒活性が安定化し得ることは全く予期せぬことであったし、1959年に発表された、Air Force Office of Scientific Research(第TR5899)及びthe Armed ServicesTechnical Informations Agency(第AD162198)が資金を提供したJ.D.Park及びJ.R.Lacheerの最終研究レポートが、パラジウムを含浸させる前に担体を処理して硫黄を除去することを記載しているのであるからなおさら予想外である。
【0010】
【発明の実施の形態】
従って、本発明の主題は、担体上に担持されたパラジウムを主成分とする触媒の存在下に、クロロフルオロカーボン又はクロロフルオロハイドロカーボンを気相水素化分解する方法であり、該方法は、硫黄を触媒に添加することを特徴とする。
【0011】
本発明の触媒の場合、担体は、木炭、フルオロアルミナ又はフッ化アルミニウムであってよく、パラジウムを該担体上に触媒の総重量(Pd+担体)の0.1〜10重量%の割合で担持させるのが有利である。
【0012】
触媒に添加すべき硫黄の量は、パラジウム1g当たり硫黄0.75〜750mgの範囲であってよい。パラジウム1g当たり硫黄2〜100mgの範囲が好ましく、パラジウム1g当たり硫黄7.5〜75mgであればより好ましい。
【0013】
硫黄は、触媒の使用前及び/又は使用中に触媒に添加すればよい。添加は、硫黄含有前駆化合物が通常は液体(例えば、SCl2、S2Cl2、CS2、チオフェン、硫化ジメチルなど)か、気体(例えば、H2S、メチルメルカプタンなど)かにより、種々の方法で行うことができる。
【0014】
硫黄含有前駆化合物が液体の場合、硫黄含有前駆物質の性質に応じて選択される溶媒の存在下に含浸させる方法を取ればよい。CS2の場合、特にエタノールが好適であるが、CS2用のいずれの溶媒を用いてもよい。含浸後、不活性気体雰囲気下に触媒を加熱処理するが、150〜400℃の温度で水素を用いて硫黄含有化合物を分解するのが好ましい。
【0015】
硫黄含有前駆物質が通常は気体(H2S、H3C−SH)か、又は高蒸気圧を有する液体(例えば、CS2)の場合、該前駆物質は、水素及び水素化分解すべき反応物質の添加前又は添加の間に気相を介して触媒に導入し得る。反応器中で触媒を「現場(in situ)」処理するためのこの特に有利な技術においては、触媒に導入される硫黄の量は、気体中の硫黄含有化合物の濃度、気体の流量及び処理時間を変えることにより先に記載の量に調整し得る。
【0016】
硫黄含有化合物の種類及びその添加モードのいかんに拘わらず、硫黄の導入、その後の加熱処理により、式Pd4Sの硫黄及びパラジウムからなる固相が形成される。しかし、安定した触媒を得るために、利用し得るパラジウムを全部変換させる必要はない。
【0017】
水素化分解反応のための操作条件は、水素化分解すべき反応物質(CFC又はCFHC)の性質に応じて広範にわたって変化し得る:
・ 反応温度は一般に100〜450℃であるが、150〜350℃で反応させるのが好ましい。
【0018】
・ 圧力は1〜50バールの範囲であってよい。圧力を増加させると、接触時間が増加し、その結果、所与の温度において高変換率が達成され得る。
【0019】
・ 反応器に連続供給される反応物質の流量は、1時間当たり触媒1リットル当たり0.01〜12モルの範囲であってよい。
【0020】
・ H2/反応物質のモル比は一般に0.5〜10、好ましくは1〜6である。
【0021】
本発明の方法を適用する反応物質の非限定的な例としては、特に、クロロペンタフルオロエタン(F115)、1,1−ジクロロ−1,2,2,2−テトラフルオロエタン(F114a)、クロロジフルオロメタン(F22)、1−クロロ−1,1−ジフルオロエタン(F142b)及び1−クロロ−1,2,2,2−テトラフルオロエタン(F124)を挙げることができ、該物質の水素化分解により、それぞれ、ペンタフルオロエタン(F125)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(F134a)、ジフルオロメタン(F32)、1,1−ジフルオロエタン(F152a)及び1,1,1,2−テトラフルオロエタン(F134a)が得られる。さらに、該反応物質の非限定的例として、1,2,2−トリクロロ−1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロパン(F215aa)又は1,2−ジクロロ−1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロパン(F225da)のようなC3−クロロフルオロ(ハイドロ)カーボンを挙げることができ、該物質の水素化分解により、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(F245fa)が得られる。
【0022】
【実施例】
以下の実施例は本発明を例示するものであり、限定するものではない。選択率はモル百分率で表されている。
【0023】
比較例1
3重量%のパラジウムを含む市販のPd/C触媒75mlを、長さ45cm、内径2.72cmの管状インコネル反応器に導入する。反応物質を導入する前に、触媒を水素常圧下に300℃で還元する。
【0024】
以下の操作条件下に、該触媒上に、水素、ペンタフルオロエタン(F125)及びクロロペンタフルオロエタン(F115)の混合物を通す:
温度: 330℃
水素流量: 0.107モル/時間
F125流量: 0.286モル/時間
F115流量: 0.018モル/時間。
【0025】
反応器出口のラインでクロマトグラフィー(GC)にかけて分析する。以下の表に示されている結果は、触媒活性が経時的に急速に低下したことを示している。
【0026】
【表1】
【0027】
実施例1
(a)触媒の処理
比較例1と同じ市販のPd/C触媒75mlを回転式蒸発器に装入し、次いで、0.011モル/リットルのCS2を含むエタノール溶液100mlを導入する。固体を20℃で20時間該溶液と接触させる。次いで触媒を濾過して回収し、次いで水素常圧下に300℃で4時間還元する。結合した硫黄の量は0.2重量%であり、X線回折により、Pd4S相の形成が示される。
【0028】
(b)F125の精製
上記で調製した触媒75mlを比較例1と同じ管状反応器に導入し、次いで、以下の操作条件下に、該触媒上に、水素、ペンタフルオロエタン(F125)及びクロロペンタフルオロエタン(F115)の混合物を通す:
温度: 330℃
水素流量: 0.107モル/時間
F125流量: 0.286モル/時間
F115流量: 0.018モル/時間。
【0029】
反応器出口のラインでクロマトグラフィー(GC)にかけて分析した結果を以下の表に示す。触媒活性の優れた安定性が認められる。
【0030】
【表2】
【0031】
実施例2
(a)触媒の処理
実施例1aと同じ様に方法を実施するが、但し0.001モル/リットルのCS2を含むエタノール溶液100mlを用いる。X線回折によってもPd4S結晶化相は全く検出されないが、硫黄を分析すると、触媒上に500重量ppmの硫黄の存在を示す。
【0032】
(b)F125の精製
触媒を処理し、実施例2bと同じ様に方法を実施し、以下の表に示されている結果を得た:
【0033】
【表3】
【0034】
変換率は実施例1aの場合と同様であり、同様な経時的安定性を示す。F125の選択率の向上も認められる。
【0035】
比較例2
2重量%のパラジウムを含む市販のPd/C触媒75mlを、長さ45cm、内径2.72cmの管状インコネル反応器に導入する。反応物質を導入する前に、触媒を水素常圧下に300℃で還元する。
【0036】
以下の操作条件下に、該触媒上に、水素、ペンタフルオロエタン(F125)及びクロロペンタフルオロエタン(F115)の混合物を通す:
温度: 250℃
水素流量: 0.103モル/時間
F125流量: 0.281モル/時間
F115流量: 0.018モル/時間。
【0037】
反応器出口のラインでクロマトグラフィー(GC)にかけて分析し、以下の表に示されている結果を得る。触媒活性の経時的低下が認められる。
【0038】
【表4】
【0039】
実施例3
比較例2と同じ市販の2%Pd/C触媒75mlを比較例2と同じ反応器に導入する。反応物質を導入する前に、100ppmの硫化水素(H2S)を含む水素を用い、6l/時の気体流量で、室温で60時間触媒を処理する。次いで触媒を水素常圧下に300℃で還元する。X線回折により、Pd4S相の形成が示される。
【0040】
以下の操作条件下に、該触媒上に、水素、ペンタフルオロエタン(F125)及びクロロペンタフルオロエタン(F115)の混合物を通す:
温度: 250℃
水素流量: 0.103モル/時間
F125流量: 0.281モル/時間
F115流量: 0.018モル/時間。
【0041】
反応器出口のラインでクロマトグラフィー(GC)にかけて分析し、以下の表に示されている結果を得る。経時的に一定した触媒活性が認められる。
【0042】
【表5】
【0043】
実施例4
(a)触媒の処理
比較例2と同じ市販の2%Pd/C触媒75mlを回転式蒸発器に装入し、次いで、0.007モル/リットルのCS2を含むエタノール溶液100mlを導入する。固体を20℃で20時間該溶液と接触させる。次いで触媒を濾過して回収し、次いで水素常圧下に300℃で4時間還元する。結合した硫黄の量は0.15重量%であり、X線回折により、Pd4S相の形成が示される。
【0044】
(b)F125の合成
上記で調製した触媒75mlを比較例2と同じ管状反応器に導入し、次いで、以下の操作条件下に、水素及びクロロペンタフルオロエタン(F115)の混合物を反応器に通す:
温度: 250℃
水素流量: 0.147モル/時間
F115流量: 0.026モル/時間。
【0045】
反応器出口のラインでクロマトグラフィー(GC)にかけて分析した結果を以下の表に示す。経時的な触媒活性の良好な安定性が認められる。
【0046】
【表6】
Claims (10)
- 担体上に担持されたパラジウムを主成分とする触媒の存在下にクロロフルオロカーボン又はクロロフルオロハイドロカーボンを、分子中の塩素原子を水素原子に置き換える水素化分解である気相水素化分解する方法であって、硫黄を触媒に添加することを特徴とする方法。
- パラジウム1g当たりの硫黄の量が、0.75〜750mgである請求項1に記載の方法。
- パラジウムが触媒の総重量の0.1〜10%である請求項1又は2に記載の方法。
- 塩化硫黄、二塩化硫黄、二硫化炭素、チオフェン、硫化水素、メチルメルカプタン及び硫化ジメチルから選択された前駆物質を用いて硫黄を触媒に添加する請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
- 通常は液体である前駆物質の溶液を用い、含浸により硫黄を触媒に添加し、水素下に150〜400℃の温度で処理する請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
- 二硫化炭素のエタノール溶液を用いる請求項5に記載の方法。
- 水素化分解反応の前及び/又は該反応の間に気相を介して硫黄を触媒に導入する請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
- 気体状で導入される前駆物質が、硫化水素、メチルメルカプタン又は二硫化炭素である請求項7に記載の方法。
- クロロペンタフルオロエタンをペンタフルオロエタンに水素化分解するための、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法の適用。
- クロロペンタフルオロエタンを含有する粗なペンタフルオロエタンを精製するための請求項1から8のいずれか一項に記載の方法の適用。
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