JP3906924B2 - 絹タンパクから細胞生育ペプチドの抽出と利用 - Google Patents
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Description
例えば、絹糸を溶解して絹タンパク水溶液とした後に、これを凝固・乾燥・粉砕等により粉末化し、化粧用添加材として、また絹タンパク水溶液を平板上でキャスト等によりフィルム状物とし、細胞培養床や創傷被覆材およびコーティング材として、また絹タンパク水溶液をゲル状物とし、食品や化粧品として利用するための開発が進められている。
しかし、それらの機能が絹タンパクのどのような部位または構造に起因するかについてはまだ明らかになってはいない。
本発明者らは絹タンパクの有する細胞生育機能に注目し、繭糸または絹糸を溶解した後に、これを粉末、フィルム、ゲル等に変え、これらをスキンケア素材として創傷被覆材や化粧品、合成繊維の改質として利用するための開発と機能の研究を進めてきた(例えば、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12参照)。
その過程で、絹タンパクを構成するフィブロインのH鎖とL鎖およびセリシンのa成分にはヒト正常皮膚由来線維芽細胞を生育促進する作用のあることが分かった(例えば、特許文献13、特許文献14、特許文献15参照)。
また、繭糸や絹糸を粉末、フィルム、ゲル等に変える加工工程(特に、繭糸や絹糸の溶解工程)においても絹タンパクの分子量は低下することが分かってきた〔H.Yamadaら著:Materials Science & Engineering C,14,P.41-46(2001)〕、
〔坪内紘三、山田弘生、高須陽子:日本蚕糸学会誌、71巻、1号、P.1-5(2002) 〕( 非特許文献、非特許文献2参照) 。
分子量1万程度以下はほとんど透析等の工程で除外されてしまうが、実際はアミノ酸やペプチド程度にまで分子量が低下している。
分子量が低下した絹タンパクはヒト細胞生育促進性が低下し、あるいは細胞生育を阻害していることが分かった(特許文献11参照)。
したがって、絹タンパクの細胞生育促進機能を利用するためには未分解絹フィブロイン、未分解絹セリシンあるいはフィブロインのH鎖(分子量約35万)、L鎖またはセリシンa(分子量約40万)等を未分解の状態で利用することが好ましい。
また、L鎖はフィブロイン中で10%以下の重量割合で含まれているに過ぎなく、量的に少ない。
さらに、これら3成分について、各成分のどの部分に細胞生育促進作用があるかを明らかにした報告は、未だなされていない。
これに比べてフィブロインのL鎖は分子量2. 5万であり、H鎖やa成分と比較すれば分子量は小さいが、通常のタンパクと比べれば、結晶に成りやすい性質を持っている。
また、フィブロインのH鎖とL鎖の重量比はほぼ13(H鎖) 対1(L鎖) であり、L鎖の割合は非常に少ない。
このような高分子量で結晶性のタンパクは水溶液において安定性が低い。
また、油成分等の医薬品や化粧品添加物を加えるとゲル化し易く、性状が不安定で、長期(1年以上)の貯蔵に対する安定性が低い。
これらは腫瘍やガン化した細胞、または急激に増殖している細胞から分泌され、その中には皮膚潰瘍治療剤として使われているものもある(フィブラストスプレー、科研薬品株式会社)が、安全性に問題がある。
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものである。
即ち、腫瘍細胞などの異常な細胞によって産生された細胞増殖因子とは異なり、安全性に優れ、比較的低分子量で安定性にも優れ、かつ細胞生育促進性に優れたペプチドを得ることを目的とする。
即ち、本発明は、絹タンパクを構成する非結晶部のペプチド鎖から選ばれる1又は2以上のペプチド鎖の部分ペプチドを含有してなり、該部分ペプチドはアミノ酸残基数が4から40からなる特定のアミノ酸配列を有するペプチドであり、該特定のアミノ酸配列を有するペプチド鎖が、次の(1)から(8)のいずれかのアミノ酸配列を有することを特徴とする細胞生育促進性に優れたペプチド組成物に存する。
(1)A−6−2 VITTDSDGNE
(2)A−6−6 NINDFDED
(3)SfHE AASSVSSASSRSYDYSRRNVRKN
(4)SfHA GSSGFGPYVAHGGYSGYEYAWSSESDFGT
(5)AfH1 YGWGDGGYGSDS
(6)AfH5 DEYVDN
(7)AfH6 VETIVLEEDPYGHEDIYEED
(8)AfH7 DDGFVLDGGYDSE
更に詳しくは、家蚕の絹フィブロインのH鎖を構成するN末端部(I)、非結晶部(A)、及びC末端部(a)の各ペプチド鎖、L鎖のペプチド鎖、並びに天蚕のようなAntheraeaに属する野蚕の絹フィブロインを構成するN末端部(I)、非結晶部(A)、及びC末端部(a)の各ペプチド鎖、から選ばれる1又は2以上のペプチド鎖の部分ペプチドを含有してなり、該部分ペプチドはアミノ酸残基数が4から40からなる特定のアミノ酸配列を有するペプチドであり、該特定のアミノ酸配列を有するペプチド鎖が、上記(1)から(8)のいずれかのアミノ酸配列を有する細胞生育促進性に優れたペプチド組成物に存する。
(1)A−6−2 VITTDSDGNE
(2)A−6−2 NINDFDED
(3)SfHE AASSVSSASSRSYDYSRRNVRKN
(4)SfHA GSSGFGPYVAHGGYSGYEYAWSSESDFGT
(5)AfH1 YGWGDGGYGSDS
(6)AfH5 DEYVDN
(7)AfH6 VETIVLEEDPYGHEDIYEED
(8)AfH7 DDGFVLDGGYDSE
これらのペプチドを細胞接着剤、細胞増殖促進剤、創傷治癒促進剤、化粧料等のスキンケア用素材や細胞培養基材などのバイオ素材として有用可能である。
て遠心分離機にかけ、その上清液を分離、回収して水に対して透析し、透析液を再度遠心分離機にかけて上清液を分離、回収する。
(2)分離、回収した精製上清液に、キモトリプシン等の蛋白分解酵素を添加して加水分解処理する。
(3)加水分解処理した液の上清液(非結晶部分)を沈澱層(結晶部分)から分離、回収する。
(4)上清液(非結晶部分)を逆相クロマトグラフィーにより分画する。
(5)逆相クロマトグラフィーにより分画した各画分について細胞培養を行う。
(6)細胞生育性に優れている画分についてゲルろ過クロマトグラフィーにより分子量分画し、対照区より2倍以上の細胞生育率を有する画分(ペプチド鎖)についてアミノ酸配列を決定する。
(7)得られたペプチドをもとに細胞生育促進性に優れたペプチドを設計して合成する。
家蚕の場合、蚕は営繭時に絹タンパクを吐糸して、繭(繭糸と蛹で構成)を作る。
繭糸には中心部にフィブロイン、周囲部にセリシンが存在し、存在比は、(70から80%フィブロイン):20から30%(セリシン)であることが知られている。
繭糸(フィブロインとセリシンをまとめて、あるいは単独で絹タンパクという)のフィブロインは分子量約37万である。
〔Tasiro Yutaka and Otsuki Eiichi , Journal of Cell Biology, Vol, 46, P1(1970)〕(非特許文献3参照)。
フィブロインのH鎖は非常に高分子量であるが、類似したアミノ酸残基配列の繰り返しで構成されている。
繰り返し部は12の結晶部(R01からR12)が11の非結晶部(A01からA11)を介して繰り返している。
Xとしては結晶性の高いAla(A) の他にSer(S) が主で、その他にTyr(Y) 、Val (V) などがマイナー成分として存在している。
特に、GAGAGS、またはGAの繰り返しが多い。
その結果、結晶部ではGとAの和が50%を超え、70%程度以上になっている。
また、非結晶部(A01からA11)のGとAの和は50%以下である。
N末端部とC末端部はアミノ酸配列およびアミノ酸組成から、非結晶部と考えられ、A01からA11と同様にGとAの和は50%以下である。
ところが、非結晶部の中でも6〜10残基程度の部分ペプチドとしては、GとAの和が50%を超える部分が存在する。
I-R01A01R02A02R03A03R04A04R05A05R06A06R07A07R08A08R09A09R10A10R11A11R12-a
N末端部(I)はイニシアルペプチドの部分で、アミノ酸配列は次の通りである。
MRVKTFVILCCALQYVAYTNANINDFDEDYFGSDVTVQSSNTTDEIIRDASGAVIEEQITTKKMQRKNKNHGILGKNEKMIKTFVITTDSDGNESIVEEDVLMKTLSDGTVAQSYVAADAGAYSQSGPYVSNSGYSTHQGYTSDFSTSAAV
R01、R02、…、R12はいずれも結晶部と言われている部位で、各アミノ酸残基数はいずれも300以上である。ただし、R12のアミノ酸残基数は54である。
(A01〜A11)いずれの結晶部もGとAの和が70%程度以上である。
アミノ酸残基数28〜32から成り、非結晶部(A)と言われている。
それらのアミノ酸配列は次の通りである。
A01 GSSGFGPYVANGGYSRSDGYEYAWSSDFGT
A02 GSSGFGPYVAHGGYSGYEYAWSSESDFGT
A03 GSSGFGPYVANGGYSGYEYAWSSESDFGT
A04 GSSGFGPYVAHGGYSGYEYAWSSESDFGT
A05 GSSGFGPYVAHGGYSGYEYAWSSESDFGT
A06 GSSGFGPYVANGGYSGYEYAWSSESDFGT
A07 GSSGFGPYVANGGYSGYEYAWSSESDFGT
A08 GSSGFGPYVANGGYSGYEYAWSSESDFGT
A09 GSSGFGPYVNGGYSGYEYAWSSESDFGT
A10 GSSGFGPYVANGGYSGYEYAWSSESDFGT
A11 GSSGFGPYVANGGYSRREGYEYAWSSKSDFET
C末端側の非結晶部位でアミノ酸配列は次のように成っている。
AASSVSSASSRSYDYSRRNVRKNCGIPRRQLVVKFRALPCVNC
(1) 酸性アミノ酸 :E、D
(2) 極性非荷電アミノ酸 :N、S、Q、Y、T、C、F
(3) 非極性アミノ酸 :A、G、V、P、L、I、W
(4) 塩基性アミノ酸 :H、K、R
<フィブロインL 鎖のアミノ酸配列>
MKPIFLVLLVATSAYAAPSVTINQYSDNEIPRDIDDGKASSVISRAWDYVDDTDKSIAILNVQEILKDMASQGDYASQASAVAQTAGIIAHLSAGIPGDACAAANVINSYTDGVRSGNFAGFRQSLGPFFGHVGQNLNLINQLVINPGQLRYSVGPALGCAGGGRIYDFEAAWDAILASSDSSFLNEEYCIVKRLYNSRNSQSNNIAAYITAHLLPPVAQVFHQSAGSITDLLRGVGNGNDATGLVANAQRYIAQAASQVHV
天蚕フィブロインでは10残基以上のアラニン(A)のみの繰り返しから成っている部分を結晶部、それ以外を非結晶部とする。
家蚕フィブロインと比べ、Antheraeaに属する野蚕フィブロインでは結晶部と非結晶部の各繰り返し部の、残基数が少ない。
10残基以上アラニンが続いている結晶部を除き天蚕フィブロインの非結晶部のアミノ酸配列を次に示す。
アミノ酸組成からN末端部及びC末端部も非結晶部である。
N末端部:イニシアルペプチド
MRVTAFVILCCALQYATANNLHHHDEYVDNHGQLVERFTTRKHYERNAATRPHLSGNERLVETIVLEEDPYGHEDIYEEDVVINRVPGASSSAAAASSASAGSGQTIIVERQASHGAGGA
AGAAAGAAAGSSARGG
SGFYETHDSYSSYGSGSSSAAAASSGAGGAGGGYGWGDGGYGSDS
GSGAGGRGDGGYGSGSS
RRAGHDHAAGSSGGGYSWDYSSYGSES
GSGAGGVGGGYGGGDGGYGSGSS
RRAGHDRAAGS
SGAGGSGGGYGWGDGGYGSDS
GSGAGRAG
GDYGWGDGGYGSDS
RQAGHERAAGS
SGAGGSGRGYGWGDGGYGSDS
GSGAGGAGGDYGWGDGGYGSD
GSGAGGAGGDYGWGDGGYGSDS
SGAGGAGGGYGWGDGGYGSDS
SGAGGAGGYGGYGSDS
SGAGGSGGGYGWGDGGYGSGS
GSGAGGVGGGYGWGDGGYGSDS
SGAGGRGDGGYGSGSS
GSGAGGAGGGYGWGDGGYGSDS
RRAGHDRAAGC
SGAGGTGGGYGWGDGGYGSDS
SGAGGSGGGYGWGDGGYGSNS
SGAGRSGGGYGWGDGGYSSDS
SGAGGSGGYGGYGSDS
GSGAGGVGGGYGWGDGGYGGYGSDS
GSGAGGVGGGYGRGDSGYGSGSS
GHGRSSGS
SGAGGSGGGYGWDYGSYGSDS
SSGAGGSGGGYGWDYGGYGSDS
GSGAGGSGGGYGWGDGGYGSDS
SRRAGHDRAYGAGS
GAGASRPVGIYGTDDGFVLDGGYDSEGS
SSSGRSTEGHPLLSICCRPCSHRHSYEASRISVH
フィブロインの非結晶部とは上記したアミノ酸配列部分である。
従って、非結晶部にはN末端部およびC末端部も含まれている。
A11の場合、他のA01〜A10とは32残基の内の8残基以内でアミノ酸残基配列が異なる。
したがって、30%程度以下のアミノ酸残基配列に違いがあっても細胞生育性に影響はない。
また、20%程度以内でアミノ酸残基数に増減があっても細胞生育性に影響は少ない。
しかし、細胞生育促進性を保つにはアミノ酸配列の違いは50%以下が好ましい。
特に、アミノ酸が2残基以下では細胞生育を粗害することがある。
したがって、細胞生育促進ペプチドとしては4〜40残基、好ましくは6〜32残基のペプチドがよい。
さらに、非結晶部においても塩基性アミノ酸残基をほとんど含まず、酸性アミノ酸残基およびまたは極性非荷電アミノ酸を多く含む部分ペプチドが細胞生育促進性に優れていることが分かった。
特に、酸性アミノ酸残基は極めて優れた細胞生育促進性を示した。
そこで、フィブロインの非結晶部から酸性アミノ酸が存在し、そしてまたは極性非荷電アミノ酸が存在する。
また、塩基性アミノ酸がほとんど存在しない部分ペプチドを分離、回収する。
回収した部分ペプチドの中からアミノ酸残基数が40以下で、細胞生育率がペプチド無添加を対照区とし、実施例1〜実施例3のような細胞培養試験において細胞生育率が対照区の2倍以上の値を示すペプチドをSDFGP とする。
また、アミノ酸残基数4〜40の複数のペプチドの混合物であっても、細胞生育率が対照区の2倍以上であればSDFGP とする。
(1)GとAの残基数の和がペプチドの全残基数に対して55%以下である。
GやAが多いと結晶になりやすいためである。
(2)塩基性アミノ酸残基数はペプチドの全残基数に対して25%以下である。
(3)酸性アミノ酸およびまたは極性非荷電アミノ酸が存在する。
という事項を満たすことが必要であり、このことは表6に示したところから容易に推考される。
また、これらを満たさない場合、細胞生育性を阻害することがある。
酸性アミノ酸は細胞生育促進性に優れていても、EとDでは側鎖の長さが異なるため、側鎖や主鎖の柔軟性や立体構造が異なり、同じ細胞生育促進性を示さない。
このことは極性非荷電アミノ酸や塩基性アミノ酸といわれる各種のアミノ酸についても、同様にいえることで、物理化学的性質がそれぞれ異なるため同じ細胞促進性や阻害性を示すわけではない。
付着性の細胞には皮膚細胞、血管細胞、腺細胞等がある。浮遊細胞には血液細胞等がある。
付着性の細胞の生育過程は、まず接着してから増殖するため、大きくは接着と増殖に分けられる。
本発明のSDFGP は接着性、増殖性の性質を有するが比較すれば接着性に優れている。
増殖性に優れていることは、細胞を異常に増殖させることになり、長期に使用する場合、安全性に課題が残る。
したがって、接着性に優れ、増殖促進性を有し、細胞生育を阻害しない本発明のSDFGP はスキンケア素材としてまたバイオ素材として極めて優れている。
実際に、絹タンパクから部分ペプチドを分離、回収する場合は特異的なペプチド結合を切断するタンパク分解酵素またはその他の化学物質で絹タンパクを切断し、断片の中から非結晶部に属しているアミノ酸残基数40以下のペプチドを回収する。
また、得られた部分ペプチドをもとに細胞生育に優れたペプチドを設計し、合成することができる。
絹タンパクの非結晶部を分離、回収するには、非結晶部の特徴を利用するとよい。
非結晶部は水に溶けやすいので、絹物質を中性付近(PH5.0〜9.0)の水に浸漬すればよい。
しかし、単に絹物質を浸漬するだけでは効率よく非結晶部のペプチドを得ることができない。
そこで、絹タンパクの特異的なペプチド結合を積極的に切断する。
このようなペプチド結合の切断方法としては、特異的なペプチド結合を積極的に切断する化学物質や酵素等を用いることが好ましい。
以下にこのことを述べる。
家蚕ではフィブロインのH鎖、L鎖およびセリシンのa成分が残っている絹タンパクを原料とする。
原料はフィブロイン、セリシン単独でもフィブロインとセリシンが同時に存在していてもよい。
しかし、これらの原料には家蚕フィブロインH鎖、セリシンのa成分、野蚕ではそれらに相当する成分が存在する必要がある。
フィブロインのH鎖はL鎖より分解しやすいので、H鎖の一部でも残っていればL鎖のほとんどが分解しないで残っている。
中性塩で溶解される前記1)の原料は精練物、半精練物、未精練物およびそれらの中間物であってもよい。
セリシン蚕繭糸でもよい。
重要なことはそれらの絹タンパクが未分解であるか、あるいは各種の加工工程を経てもフィブロインのH鎖、セリシンのa成分およびそれらに相当するタンパクの一部が未分解で残されていることである。
H鎖やa成分等が存在するかどうかの確認は電気泳動像で、それぞれに相当するバンドの存在を確認することで行う。
当該中性塩においても飽和水溶液又は50%〔重量( g)/容量(ml)〕飽和以上の濃度が好ましい。
フィブロインとセリシンが含まれている場合、例えば繭糸や未精練物、半精練等は上記中性塩で絹糸と同様に溶解する。
また、セリシン蚕繭糸は、9MLiBr でも室温(20〜30℃)で30分以内に溶解できる。
溶解時の条件はこれらの条件に準じてかえて行う。
中性塩として塩化カルシウムを使う場合は94℃以下の温度で、望ましくは75〜85℃程度の温度で行う。
臭化リチウムを使う場合は50℃程度以下の温度で原料を溶解する等、中性塩によって溶解条件は異なるが、フィブロインのH鎖、セリシンのa 成分が残るような、またはそれに相当する溶解方法を行う。
(1)攪拌することにより溶解を促進することができる。
(2)溶解温度が低いと溶解しにくい。
溶解温度が高いと溶解し易いが、分子量低下が激しく起きる。
絹を中性塩で溶解した溶解液には、フィブロインあるいはフィブロインとセリシンの混合物のほかに中性塩、アルコール等が含まれている。
この溶解液から、まず不溶物を除去し、次いで透析膜や透析装置を用いて分子量約5,000以下の低分子物を除去する。
このような透析によって絹タンパク水溶液を得る。
一般に、タンパク分解酵素によるタンパクの切断は特異的なペプチド結合で起き、切断が穏和な条件下で行われるため、アミノ酸残基側鎖の修飾が起こらないと言われている。
また、タンパクの非特異的切断による断片の複雑化を避けることもできる。
これらの中で、結晶部と非結晶部を分けるには、キモトリプシンが特に好ましい。
切断された絹タンパク由来のペプチドが主に絹タンパクの結晶部由来の断片であれば凝集しやすく、凝集(凝固、或いは結晶化)すれば沈澱する。
凝集しにくい場合でも、結晶部由来のペプチドほど凝集しやすいので、凝集剤としてアルコール(メチルアルコール、エチルアルコール等)等を添加すれば結晶部由来ペプチドから凝集し始め、沈澱する。
沈澱物の除去には、沈澱物を含んだ溶液を遠心分離機(1, 000〜10, 000G)で分け、沈澱物を除く。
沈澱物を除いた液は非結晶部から分離された非結晶部分のペプチドの水溶液である。
これを乾燥すれば、フィルム状あるいは粉末状のペプチドが得られる。
但し、非結晶部由来のペプチド水溶液にアルコールを添加した場合、アルコール濃度が濃くなるにつれて非結晶部由来のペプチドも順次凝集し、沈殿する。
この非結晶部由来のペプチドに結晶部の部分ペプチドが50%程度以下であれば含まれていてもよい。
また、塩基性アミノ酸残基数がペプチド構成残基数の25%以下であることが好ましい。
一方、酸性アミノ酸残基や非極性荷電アミノ酸残基は多いほどよい。
特に、酸性アミノ酸残基数が多いと細胞生育促進性に優れる。
乾燥は凍結乾燥法やスプレードライ法で乾燥する。
非結晶部由来のペプチドは乾燥後に結晶化していても、低分子量であるため水に溶けやすい。
絹タンパクから分離、回収したSDFGP としては次のペプチドがある。
これらは、SDFGP の一例である。
さらに〔0047〕の条件を満たす多くのSDFGP が存在することはいうまでもない。
A−6−2 VITTDSDGNE
A−6−6 NINDFDED
SfHE AASSVSSASSRSYDYSRRNVRKN
SfHA GSSGFGPYVAHGGYSGYEYAWSSESDFGT
AfH1 YGWGDGGYGSDS
AfH5 DEYVDN
AfH6 VETIVLEEDPYGHEDIYEED
AfH7 DDGFVLDGGYDSE
優れた細胞生育促進性はこれらのSDFGP の一部のアミノ酸配列のみでもSDFGP となり得る。
また、40残基以内でこれらのペプチドが繰り返されたり、別のペプチドと連結してもよい。
機能を有する細胞生育アミノ酸残基数は4残基以上必要とする。
しかし、ペプチド合成の効率から40残基以下が好ましい。
SDFGP の合成は、絹タンパクの非結晶部のアミノ酸配列を模倣し、〔0047〕の条件を満たすペプチドを合成する。
合成ペプチドのアミノ酸残基は4〜40、好ましくは6〜32残基である。
この場合、絹タンパクのアミノ酸配列と完全に同じでなくてもよい。
したがって、アミノ酸配列に30%程度以下の違いがあってもよいが、アミノ酸配列の違いは50%以下が好ましい。
この場合、酸性アミノ酸は多いほどよく、極性非荷電アミノ酸はある方が好ましい。
しかし、塩基性アミノ酸はほとんどない方が好ましい。
この場合、塩基性アミノ酸残基はペプチドを構造するアミノ酸残基数の少なくとも25%以下となるようにする。
一方、ペプチド(SDFGP)における酸性アミノ酸は多い方が好ましい。
全アミノ酸残基が酸性アミノ酸およびまたは非極性荷電アミノ酸で構成されていてもよい。
前述した〔0047〕の条件の範囲で、これらのペプチドが繰り返されたり、別のペプチドと連結しても、分子量1万以下で、好ましくは4,000〜400の範囲であればよいことは言うまでもない。
そしてまた、アミノ酸残基が他のアミノ酸残基と入れ変わっていてもよい。
絹タンパクの非結晶部から得たペプチド集合物およびSDFGP は細胞生育促進性に優れているだけでなく、水に溶けやすい。
また、分子量が4, 000程度以下であるため溶解している状態でも長期間形態が安定である。
さらに、各種のSDFGPを混合すると単独であるより細胞生育は促進される。
したがって、細胞培養液、化粧水、乳液、クリーム、軟膏、目薬、食品等にこれらを
混合して添加する。
本発明のペプチド集合物およびSDFGPは皮膚細胞を生育促進する作用に優れているため、スキンケア用素材として、また、細胞培養素材として上記以外の分野、例えば衣類繊維、化粧粉末、 樹脂等の改良でも優れた素材である。
(1)絹タンパクの非結晶部を酵素で分解、分離、分収
家蚕の繭を切開して蛹を除き、繭層(10g) を30倍量の8M尿素、90℃に10分浸漬し、セリシンを抽出した。
抽出残さは水洗、乾燥しこれをフィブロインとした。
上清液を半透膜に入れ50倍量の水に対して透析した。
透析は、30分ごとに透析外液の水をかえて4回行った。
透析後に液を再び遠沈し、上清液に0. 1Mリン酸水素二ナトリウム(pH8. 5)を加え、pHを7〜8に調製した。
そこにフィブロイン量の100分の1量のキモトリプシンを入れ、40℃で4時間置いたところ沈澱を生じた。
結晶部分は水洗し、9M LiSCN 1mlに溶解し、50倍量の水で前述と同様に半透膜で透析し、水溶液のタンパク量を測定した。
上清はそのままタンパク量を測定した。
これらの結晶部分(C')及び非結晶部分(A')の水溶液をそれぞれ0.025%、0.0025%の濃度になるように70%エタノールを加えて調製し、それをポリスチレンのシャーレ(35mm¢、ファルコン)に1mlずつ入れて風乾した。
対照区用シャーレは70%エタノールのみを1ml入れて風乾した。
細胞は三光純薬から購入した(凍結)ヒト皮膚線維芽細胞(成人の正常皮膚由来)を使用した。
培地はクラボウから購入したヒト皮膚線維芽細胞増殖用低血清培地〔Medium106S(皮膚線維芽細胞基礎培地)500mlにLSGS(低血清増殖添加剤)10mlを添加〕を使用した。
なお、LSGSには細胞増殖性がある。
シャーレ1枚に付き培地2mlを入れ、8万ケの細胞を接種し、3日間培養した。
シャーレ1枚に付き培地2ml、アラマーブルー(IWAKI)0.1mlの割合で入れ、37℃、2時間培養したのち、570nm、600nmの吸光度から計算したアラマーブルー色素の還元量を生細胞数とした。
絹タンパクの成分無添加の場合を対照区(100%) とした、結晶部分及び非結晶部分をコートしたシャーレでのヒト皮膚線維芽細胞の生育を表1に示す。
特に、非結晶部分(C')の0.025%濃度の生育率が高く、SDFGPの混合物である。
結晶部分では濃度の濃い方(0.025%)が薄い方(0.0025%)より生育が悪かった。
これは、結晶部分の絹タンパクは細胞生育を阻害しているためと考えられる。
フィブロインの非結晶部は結晶部より細胞生育を促進することが実施例1で分かった。
しかし、実施例1で分取した非結晶部分は酵素で切断されたペプチドの混合物と考えられる。
そこで、非結晶部分をさらに分離して、細胞生育促進部位の特定を行った。
まず、実施例1の非結晶部分に含まれるペプチドを極性の違いで分けるため、逆相クロマトグラフィーで分離した。
カラムはRESOURCER RPCk3mlを使用した。
Aポンプに0.1%TFA (トリフルオロ酢酸)を、Bポンプに0.1%TFA/90%アセトニトリルを使用し、0〜15分でBが0〜75%になるグラジェントでクロマトグラフィを行った。
それぞれのピークを回収し、エバポレーターで乾燥し、少量のバッファー(PBS) で溶解した。
A−1〜A−6のそれぞれの濃度が0.025%となるように70%エタノールで調整し、細胞培養用ポリスチレンのシャーレ( 35mmφ、ファルコン) に1mlづつ入れて風乾した。
対照区用シャーレは70% エタノールのみを1ml入れて風乾した。
これらのシャーレを用いて細胞培養を行った。
細胞培養方法は〔実施例1〕と同じ方法で行った。
非結晶部分のペプチド断片をコートしたシャーレでのヒト皮膚線維芽細胞の生育率を表2に示す。
非結晶部分のうち、A−6の生育が対照区の約4倍と非常に優れていた。
その結果、A−6−1〜A−6−7までの7つのピークが確認できた。
いずれも分子量2, 500以下である。
7つのピークの内で、ピークがシャープで明確な5つのピーク(A−6−2、A−6−3、A−6−4、A−6−6、A−6−7)のペプチドを回収し、各ペプチドを細胞培養容器にコートし、そこに培地と細胞を接種し、2日間培養して、細胞生育性を測定した。
細胞生育性の実験は〔実施例1〕と同じである。
細胞生育率の測定結果を表3に示す。
A−6−2とA−6−6は対照区と比べて、2日間培養で生育率が1.5倍を示し、細胞生育促進性に優れていた。
3日間培養では生育率は2倍を越えていた。
A−6−2 VITTDSDGNE
A−6−6 NINDFDED
となった。
A−6−2およびA−6−6ともにフィブロインのN末端側のペプチドであった。
N末端部はアミノ酸組成から考えて、非結晶部である。
そこで、A−6−2とA−6−6のペプチドを合成し、(北海道システムサイエンス株式会社に委託)、前述と同様に3日間培養して合成ペプチドの生理活性を測定したところ、絹タンパクからの抽出物と同様に細胞生育促進性のあることを確認した。
また、合成したペプチドA−6−2とA−6−6を混合した場合、それぞれを単独で細胞培養した場合より細胞生育促進性に優れていた。
家蚕フィブロインH鎖および天蚕フィブロインのアミノ酸配列をもとに、それぞれ合計12部位について合成したペプチド(北海道システムサイエンス株式会社に委託)の細胞活性を測定した。
家蚕フィブロインの結晶部から2ケ 所の部分ペプチド(SfHC-1、SfHC-2)、及び非結晶部から2ケ 所の部分ペプチド(SfHE、SfHA)を取り上げた。
また、天蚕フィブロインは結晶部としてAla (A) の繰り返し部分(AfH0)、および非結晶部の7部分ペプチド(AfH1〜AfH )を取り上げ、それらを合成した。
家蚕のフィブロインH 鎖の部分ペプチドは4種類、天蚕のフィブロインの部分ペプチドは8種類(AfH0〜AfH7)あり、それぞれのペプチドのアミノ酸配列を以下に示す。
SfHC−1 GAGAGSGAGAGSGAGAGYGAGY
SfHC−2 GAGAGSGAASGAGAGAGAGAGT
SfHE AASSVSSASSRSYDYSRRNVRKN
SfHA GSSGFGPYVAHGGYSGYEYAWSSESDFGT
AfH0 AAAAAAAAAA
AfH1 YGWGDGGYGSDS
AfH2 SGAGGSGGYGGYGSDS
AfH3 GSGAGGRGDGGYGSGSS
AfH4 RRAGHDRAAGS
AfH5 DEYVDN
AfH6 VETIVLEEDPYGHEDIYEED
AfH7 DDGFVLDGGYDSE
それぞれの合成ペプチドを約1mgづつとり、PBS 200μl に溶解した。
溶解したペプチド溶液は70%エタノールで希釈し、0.025%及び0.0025%の濃度に調製し、それらを1mlづつシャーレに入れ乾燥した。
SfHC−1、SfHC−2、SfHEは溶けにくかった為、9M LiSCN 1mlを追加して溶解した。
溶解液を半透膜に入れ100倍量の水で30分ごとに外液をかえて透析し、275nmの吸光度でタンパク量を確認した。
SfHC−2はチロシン等が無いため、吸光度の測定はできなかったが、SfHC−1、 SfHE は溶解前とほぼ同量存在していたので、SfHC−2も同量あると仮定し、他のペプチドと同様に70%エタノールで希釈しシャーレに入れて乾燥した。
また、AfH0も溶けにくかったが、透析すると分子量が小さいため抜けてしまう可能性があるので、よく攪拌して7 0%エタノールで希釈しシャーレに入れ乾燥した。
細胞は三光純薬から購入した(凍結)ヒト皮膚線維芽細胞( 成人の正常皮膚由来) を使用した。
培地は、クラボウから購入したヒト皮膚線維芽細胞増殖用低血清培地を使用した。
シャーレ1枚に付き培地2mlを入れ、約8万の細胞を接種し、3日間培養した。
その後、アラマーブルー(IWAKI)を0.1ml入れ、37℃、2時間培養したのち570nm、600nmの吸光度から計算した色素の還元量を生細胞数とした。
これら細胞培養に関する測定方法は実施例1と同じである。
結果を表4、表5に示す。
非結晶部の部分ペプチド合成物AfH1〜AfH7は細胞生育促進性を示したが生育率に差が現れた。
例えば、AfH3とAfH6はいずれも塩基性アミノ酸を1残基含むが、AfH3は酸性アミノ酸残基が少なく、AfH6は酸性アミノ酸残基が多いため、AfH6の方が高い細胞生育促進性を示した。
特にAfH1、AfH5、AfH6、AFH7は優れた細胞生育促進性を示し、いずれも合成によって得られたSDFGPである。
それは、表6で示したように各ペプチドを構成するアミノ酸側鎖の化学構造の違いによる。
実施例1〜実施例3の結果を基に細胞生育活性を示すと考えられる酸性アミノ酸および極性非荷電アミノ酸を主成分とした合成ペプチド(北海道システムサイエンス株式会社に合成を委託)の線維芽細胞生育活性を測定した。
細胞生育活性の測定方法は〔実施例1〕と同様に行った。
細胞培養は3日間行い、ペプチド濃度0.025 μg/cm2 の場合について結果を表7に示した。
グルタミン酸では4残基以上の配列となると細胞生育活性が優れていた。
絹タンパク由来の合成ペプチドまた酸性アミノ酸または極性非荷電アミノ酸を主とした合成ペプチドなどが有する細胞生育活性について、細胞生育性をさらに詳しく細胞接着性と増殖性に分けて測定した。
この測定方法は〔実施例1〕における(3)細胞培養の方法とは方法が一部異なる。
ここにおける細胞培養では、細胞は三光純薬から購入した(凍結)ヒト皮膚線維芽細胞(成人の正常な皮膚由来)を使用した。
培地はクラボウから購入したヒト皮膚細胞芽細胞増殖用低血清培地(Medium 106S 500ml)を使用した。
Medium106Sは皮膚線維芽細胞基礎培地である。
ここではLSGS(低血清増殖添加剤)は使用していない。
接着性を測定する場合は、培地に細胞を接種した5時間後に培地に浮遊している細胞を除き、シャーレの底に接着している生細胞数を測定した。
増殖性を測定する場合は、培地に細胞を接種した時から3日間培養した後の生細胞数を測定した。
細胞培養法の他は、〔実施例1〕と同様に、ペプチドの細胞培養容器へのコーティング、アラマーブルー色素による生細胞数の測定等を行った。
ペプチドを細胞培養容器にコーティングしなかった場合の生細胞数を対照区(100%)として、得られた接着性の結果を表8に、また増殖性の結果を表9に示す。
ここで合成ペプチドは記号またはアミノ酸配列で示した。
この場合、各シャーレへコートした時の各ペプチドの濃度は0.025 μg/cm2 である。
ペプチドをコートしなかった場合の接着率(%)を100とした。
ここで合成ペプチドは記号又はアミノ酸配列で示した。
この場合、各シャーレへコートした時の各ペプチドの濃度は0.025 μg/cm2 である。
ペプチドをコートしなかった場合の増殖率(%)を100とした。
ただし、3日間培養した後の対照区における生細胞数は培養中に約150% に増殖していたが、対照区の値(100%)は3日間培養した後の生細胞数を基にしている。
従って、3日間の培養中に細胞数が増減しなかった場合の増殖率は約70% となる。
Claims (7)
- 次の(1)から(8)のいずれかのアミノ酸配列からなることを特徴とする細胞生育促進性に優れたペプチド。
(1) VITTDSDGNE
(2) NINDFDED
(3) AASSVSSASSRSYDYSRRNVRKN
(4) GSSGFGPYVAHGGYSGYEYAWSSESDFGT
(5) YGWGDGGYGSDS
(6) DEYVDN
(7) VETIVLEEDPYGHEDIYEED
(8) DDGFVLDGGYDSE - 家蚕の未分解絹タンパク又はAntheraeaに属する野蚕の未分解絹フィブロインを、加水分解した後、分子量分画により請求項1記載のペプチドを分離、取得する方法。
- 加水分解を希酸、ヒドロキシルアミン又は蛋白分解酵素により行うことを特徴とする細胞生育促進性に優れた請求項2記載のペプチドを分離、取得する方法。
- 請求項1記載のペプチドを含有する試験管内で用いられる細胞増殖促進剤。
- 請求項1記載のペプチドを含有する試験管内で用いられる細胞接着剤。
- 請求項1記載のペプチドを含有する化粧料。
- 請求項1記載のペプチドを含有する細胞培養基材。
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