JP3906096B2 - 排水ポンプ運転支援装置および排水ポンプ制御装置 - Google Patents

排水ポンプ運転支援装置および排水ポンプ制御装置 Download PDF

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  • Control Of Positive-Displacement Pumps (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、下水道システムにおける雨水排水設備の制御、ならびにその支援を行なう装置に係り、特に合流式下水道からの雨天時越流水を低減するための排水ポンプ運転支援装置および制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、汚水と雨水を同一の管渠で流下させる合流式下水道システムでは、雨天時に越流堰を越えて排水機場のポンプ井に流れ込んだ下水を、河川に直接放流するようにしている。
【0003】
従来の下水道システムにおける雨水排水は、対象とする集水区の浸水を確実かつ迅速に防止することを目的として行なわれてきており、雨天時における排水施設の排水ポンプの運転には、流入水を一刻も早く排水することが主に求められている。
【0004】
従って、雨天時には、未処理の下水が河川に大量に流れ込むこととなり、水環境の悪化が指摘されている。
【0005】
これは、一般に、合流式下水道越流水(Combined Sewer Overflow:CSO)問題と呼ばれている。
【0006】
このような問題の対策の1つとして、従来から、下水管渠自体の貯留能力を利用して、未処理の下水を一時下水管渠内に貯留するという方法が提案されてきている。
【0007】
そのためには、下水道システム全体を監視しながら、その時々の流域の状況に合わせて、排水ポンプや可動ゲート等の雨水排水設備を、適切かつ実時間で制御することが必要となる。
【0008】
これは、雨水排水設備のリアルタイムコントロール(Real Time Control:RTC)と呼ばれている。
【0009】
そして、このRTCを行なうためには、地表面の雨水流出現象や下水管内の流下現象等を、再現あるいは予測するためのモデルが必要である。
【0010】
そのために、現在では、様々なモデルが提案、開発されてきており、例えば、施設計画の際のシナリオシミュレーションや、排水機場や下水処理場への流入量予測、あるいは下水管渠やポンプ井の水位予測に用いられてきている。
【0011】
そして、例えば“特願平11−137613号”のように、流入量予測を利用したポンプ運転の予測制御手法が提案されてきている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、下水管渠内貯留を行なうことによって生じる特徴的な現象として、下水管渠やポンプ井の水位が高くなり、下水管渠からの溢水の危険が高くなる。
【0013】
従って、RTCには、下水管渠内およびポンプ井の水位が、安全を保ちながらも高水位となるように、排水ポンプの運転を行なうことが要求される。
【0014】
一方、排水ポンプによる排水の効果が、下水管渠上流に現われるまでには、ある程度時間を要することから、高水位運転による溢水の危険を回避するためには、下水管渠内の水位をあらかじめ予測して、早期から排水ポンプの運転に反映させることがポイントとなる。
【0015】
この排水ポンプによる排水は、特に排水機場近くの下水管渠内貯留状態に影響を及ぼし、水位の増減を生じさせる。
【0016】
従って、精度のよい水位予測を行なうためには、排水ポンプ運転の状態を常に予測してフィードバックすることが必要である。
【0017】
しかしながら、従来の手法では、雨水流出解析・流入量予測とポンプ運転制御とが、モデル上分離されていることから、現時点から予測時間内のポンプ運転台数等の変更が、水位予測に十分に反映されず、予測値の精度が劣化する場合がある。
【0018】
また、雨水流出解析・流入量予測とポンプ運転制御とを組合せた演算には、相当な演算時間を要することになる。
【0019】
本発明の目的は、溢水の危険性を排除しつつCSO問題を緩和するように、雨天時越流量に対する河川放流量の削減と雨水排水の安全性を確保することを同時に実現する排水ポンプ運転を運転員が実際に行なう際の信頼性の高い支援情報をオンラインで提供することが可能な排水ポンプ運転支援装置および排水ポンプ制御装置を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1に対応する発明では、下水管渠を流下してくる雨水を貯める排水機場のポンプ井と、当該ポンプ井および前記下水管渠内の水位を測定する水位測定手段と、前記ポンプ井内の雨水を排水する複数台の排水ポンプとを備えて構成される雨水排水システムにおける、前記排水ポンプの運転を支援する排水ポンプ運転支援装置において、前記下水管渠内の水位、および前記排水機場への流入量を予測する水位・流量予測手段と、前記水位測定手段による前記下水管渠内の水位の測定値又は前記水位・流量予測手段による前記下水管渠内の水位の予測値の少なくともいずれか一方が規定値を超えないという制約条件の下で、評価関数に含まれる現時点から所定時間先までの排水ポンプ総吐出量を最小化する最適化問題を解くことにより、前記現時点から所定時間先までの前記排水ポンプの運転台数および排水ポンプ吐出量の排水ポンプ制御量を演算する制御量最適化手段とを備えている。
【0021】
従って、請求項1に対応する発明の排水ポンプ運転支援装置においては、下水管渠内の水位の実測値および予測値が規定値を超えないという条件の下で、越流量を最小化するような排水ポンプの運転台数パターンを求めるという数理最適化問題を解くことにより、雨天時に溢水の危険性を排除しつつ、放流汚濁負荷を低減することができる。
また、排水ポンプの運転台数等の制御量を、制約条件や評価関数の計算という形で、予測演算にフィードバックすることにより、双方の精度を向上させることができる。
【0022】
また、請求項2に対応する発明では、上記請求項1に対応する発明の排水ポンプ運転支援装置において、水位・流量予測手段による予測結果あるいは降雨量予測値、またはこれらの実測値が、あらかじめ設定された閾値を超えるか否かにより、制御量最適化手段における最適化問題を解くか否かを判定する判定手段を付加している。
【0023】
従って、請求項2に対応する発明の排水ポンプ運転支援装置においては、下水管渠および排水機場のポンプ井の水位、排水機場への流入量の計測値および予測値によって、最適化問題を解くか否かを判定する、すなわち管渠内貯留と迅速な雨水排水とに運転目的を切換えることにより、豪雨時の溢水に対する安全性を確保することができる。
【0024】
さらに、請求項3に対応する発明では、上記請求項1または請求項2に対応する発明の排水ポンプ運転支援装置において、制御量最適化手段における最適化問題を解くアルゴリズムとして、遺伝的アルゴリズムを用いている。
【0025】
従って、請求項3に対応する発明の排水ポンプ運転支援装置においては、最適化アルゴリズムとして、比較的高速な遺伝的アルゴリズムを用いることにより、オンライン性を確保することができる。
【0026】
一方、請求項4に対応する発明では、上記請求項1乃至請求項3のいずれか1項に対応する発明の排水ポンプ運転支援装置において、水位・流量予測手段として、拡張RRL法を用いている。
【0027】
従って、請求項4に対応する発明の排水ポンプ運転支援装置においては、下水管渠内の水位、および排水機場への流入量の予測に、拡張RRL法を用いることにより、予測精度を向上することができる。
【0028】
また、請求項5に対応する発明では、上記請求項1乃至請求項3のいずれか1項に対応する発明の排水ポンプ運転支援装置において、水位・流量予測手段として、システム同定手法を用いている。
【0029】
従って、請求項5に対応する発明の排水ポンプ運転支援装置においては、下水管渠内の水位、および排水機場への流入量の予測に、システム同定手法を用いることにより、水位・流量等の予測値を演算する際に、単純な代数演算のみしか使用しないため、計算負荷を低減することができる。
また、過去のデータから得られる情報量を有効利用することによって、水理学・水分学に基づく予測モデルを一から構築する場合に比して、工程を大幅に削減することができる。
さらに、流域の土地利用状況の変化や下水管渠の土木構造の変化に対しても、データを用いて再同定することで対応できるため、予測モデルを一から再構築する場合に比して、工程を大幅に削減することができる。
【0030】
さらに、請求項6に対応する発明では、上記請求項5に対応する発明の排水ポンプ運転支援装置において、システム同定手法における同定する予測モデルとして、Hammersteinモデルを用いている。
【0031】
従って、請求項6に対応する発明の排水ポンプ運転支援装置においては、同定するモデルとして、Hammersteinモデルを用いることにより、予測精度を向上させることができる。
【0032】
また、請求項7に対応する発明では、上記請求項1乃至請求項5のいずれか1項に対応する発明の排水ポンプ運転支援装置において、レーダ雨量計等の降雨量計測装置から得られた降雨量データを入力として、降雨移動予測を行ない、当該予測結果に基づいて現時点から所定時間先までの降雨量を予測する降雨量予測手段と、制御量最適化手段により演算された現時点から所定時間先までの排水ポンプ制御量、ならびに下水管渠内の所定箇所における水位の実測値および予測予測値を運転員に対して表示出力する表示手段とを付加している。
【0033】
従って、請求項7に対応する発明の排水ポンプ運転支援装置においては、現時点から所定時間先までの排水ポンプ制御量、ならびに下水管渠内の水位の実測値および予測予測値を運転員に対して表示することにより、雨天時越流量に対する河川放流量の削減と雨水排水の安全性を確保することを同時に実現する信頼性の高い排水ポンプ運転の支援情報をオンラインで提供することができる。
【0034】
さらに、請求項8に対応する発明では、上記請求項1乃至請求項5のいずれか1項に対応する発明の排水ポンプ運転支援装置において、レーダ雨量計等の降雨量計測装置から得られた降雨量データを入力として、降雨移動予測を行ない、当該予測結果に基づいて現時点から所定時間先までの降雨量を予測する降雨量予測手段と、制御量最適化手段により演算された現時点から所定時間先までの排水ポンプ制御量を、制御信号として排水ポンプに対して出力するプロセスコントローラとを付加している。
【0035】
従って、請求項8に対応する発明の排水ポンプ制御装置においては、現時点から所定時間先までの排水ポンプ制御量を、制御信号として排水ポンプに対して出力することにより、雨天時越流量に対する河川放流量の削減と雨水排水の安全性を確保することを同時に実現する信頼性の高い排水ポンプ運転を行なうことができる。
【0036】
【発明の実施の形態】
本発明では、下水管渠、排水機場のポンプ井、排水ポンプ設備からなる雨水排水システムにおいて、下水管渠内貯留により越流量を低減するための排水ポンプ運転制御方法を決めることを、下水管渠内の水位の実測値および予測値が規定値を超えないという条件の下で、越流量を最小化するような排水ポンプの運転台数あるいは制御量等を現時点から所定時間先まで求めるという数理最適化問題に定式化する。
【0037】
そして、解に対する制約条件、および評価関数の計算過程で、排水ポンプの運転台数あるいは制御量を、下水管渠内の水位予測にフィードバックし、さらに高速な解法の適用により、オンライン性を確保するものである。
【0038】
以下、上記のような考え方に基づく本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0039】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の対象となる雨水排水システムの概略構成の一例を示す図である。
【0040】
図1に示すように、下水管渠2を流下してくる雨水を貯める排水機場のポンプ井1と、ポンプ井1および下水管渠2内の水位を測定する水位測定手段である水位計3と、ポンプ井1内の雨水を排水する複数台の排水ポンプ4からなるポンプ施設とから構成されている。
【0041】
図2は、本実施の形態による排水ポンプ運転支援装置、および排水ポンプ制御装置の構成例を示すブロック図である。
【0042】
すなわち、図2に示すように、本実施の形態の排水ポンプ運転支援装置、および排水ポンプ制御装置は、降雨量計測装置7と、降雨量予測装置9と、排水ポンプ予測制御装置13と、プロセスコントローラ14と、表示装置15とから構成している。
【0043】
降雨量計測装置7は、レーダ雨量計5や地上雨量計6を用いて、降雨量を計測する。
【0044】
降雨量予測装置9は、降雨量計測装置7から得られた降雨量データを入力として、降雨移動予測手段8等を用いて降雨移動予測を行ない、当該予測結果に基づいて現時点から所定時間先までの降雨量を予測する。
【0045】
排水ポンプ予測制御装置13は、上記各水位計3により計測された水位や、各排水ポンプ4の吐出量を、プロセスコントローラ14を介して入力するものであり、水位・流量予測手段10と、判定手段11と、制御量最適化手段12とからなる。
【0046】
水位・流量予測手段10は、ポンプ井1や下水管渠2内の何箇所かの水位、および排水機場への流入量を予測計算する。
【0047】
判定手段11は、水位・流量予測手段10による予測結果あるいは降雨量予測値、またはこれらの実測値が、あらかじめ設定された閾値を超えるか否かにより、制御量最適化手段12における最適化問題を解くか否か(下水管渠2内貯留を行なうかどうか)を判定する。
【0048】
制御量最適化手段12は、判定手段11により最適化問題を解くと判定された条件の下で、評価関数の中に現時点から所定時間先までの排水ポンプ総吐出量が含まれる最適化問題を解くことにより、現時点から所定時間先までの排水ポンプ4の運転台数および排水ポンプ吐出量等の排水ポンプ制御量を演算する。
【0049】
プロセスコントローラ14は、排水ポンプ予測制御装置13の制御量最適化手段12により演算された現時点から所定時間先までの排水ポンプ制御量を、適切な制御信号として排水ポンプ4に対して出力する。
【0050】
表示装置15は、排水ポンプ予測制御装置13の制御量最適化手段12により演算された現時点から所定時間先までの排水ポンプ4の運転台数、ならびに下水管渠2内の所定箇所における水位の実測値および予測値を運転員に対して表示出力する。
【0051】
次に、以上のように構成した本実施の形態による排水ポンプ運転支援装置および排水ポンプ制御装置の作用について、図3に示すフローチャートにしたがって説明する。
【0052】
ステップS1においては、レーダ雨量計5等を用いて、降雨量予測装置9により例えば降雨移動予測8を行なう。
【0053】
そして、この予測結果に基づいて、現時点から数十分(例えば30分)先までの降雨量を予測計算する。
【0054】
次に、ステップS2においては、予測された降雨量等を入力値として、水位・流量予測手段10によりポンプ井1および下水管渠2内の水位、および排水機場への流入量を予測計算する。
【0055】
この時、例えば公知の拡張RRL法を用いて、雨水流入量および下水管渠2内水位を予測する。
【0056】
なお、流出量予測(修正RRL法)16、汚水量予測17、および流下量予測18を組合せた拡張RRL法は、例えば“特願平9-194284号”により提案されている。
【0057】
次に、ステップS3においては、予測および計測された下水管渠2内水位、流入量、降雨量等を基に、排水ポンプ4の運転モードを決定する。
【0058】
この時、所定個所の水位、流入量、降雨量の予測値または計測値のいずれかが、あらかじめ設定された閾値を超えるかどうかを一つの目安とする。
【0059】
そして、いずれの閾値も超えない場合には、以下に示すような放流量の抑制を目的とした、管渠内貯留モードで運転を行なう。
【0060】
また、いずれかの閾値を超えた場合には、ステップS5では、迅速な雨水排水を目的とした運転に移行する。
【0061】
この時には、例えば“特願平11-137613号”により開示されている流入量予測を基にした運転方法等がある。
【0062】
一方、管渠内貯留モードで運転を行なうならば、ステップS4では、降雨量および予測降雨量、管渠内水位、雨水排水ポンプ施設への流入量やポンプ井水位、排水ポンプ吐出量等の現在時刻における計測値を入力として、水位・流量予測手段10、および制御量最適化手段12により、現在時刻から数十分(例えば30分)先までの適切なポンプ運転台数および制御量を予測計算する。
【0063】
このステップS4については、後に詳述する。
【0064】
以上のS2乃至S4までの各ステップの処理を、排水ポンプ予測制御装置13により行なう。
【0065】
次に、ステップS6においては、表示装置15により、現在時点から所定時間先まで求めたポンプ運転台数や制御量を、各所水位や流量等の計測値および予測値と共に表示する。
【0066】
次に、ステップS7においては、ステップS5までの処理で求めたポンプ運転台数や制御量を、プロセスコントローラ14より制御信号として排水ポンプ4に対して逐次出力する。
【0067】
なお、上述したフローチャートにおける処理は、所定の時間(例えば5分)毎に繰り返し行なわれる。
【0068】
ここで、上記ステップS4の処理について詳述する。
【0069】
ポンプ予測制御装置13中で用いられている制御量最適化手段12は、以下の最適化問題を解くことによって、現在時刻から数十分先までのポンプ運転台数あるいは制御量を最適化する。
【0070】
最小化すべき評価関数は、前述したCSO問題の改善を目的とする以上、ポンプ吐出量の合計を含むようにする。
【0071】
評価関数をJで表わすものとし、式(1)に示す。
【0072】
ここで、Qi(t)は、排水ポンプi={1,…,N}の時刻tにおける吐出量である。
【0073】
予測時間は、現在時刻tから、Tタイムステップ先の時刻(t+T)までである。
【0074】
ここでは、それぞれの時刻は離散値とし、タイムステップ幅は、例えば5分とする。
【0075】
また、付加すべき制約条件には、その間監視水位が規定値を超えないことと、個々の排水ポンプの起動・停止に関するポンプ井水位の上下限値、ポンプ起動についての優先順位が含まれる。
【0076】
【数1】
Figure 0003906096
【0077】
この最適化問題の解は、例えばポンプ停止状態と起動状態を表わす変数Xi(t+τ)={0,1}で表現する。
【0078】
この最適化問題は、0−1整数計画問題であり、一般に最適解を求めるのが時間的に困難な問題である。
【0079】
本実施の形態では、この最適化問題を解くアルゴリズムとして、遺伝的アルゴリズムを採用している。
【0080】
遺伝的アルゴリズムは、比較的高速に最適解に近い、準最適解を求めることができる手法である。
【0081】
以下では、この最適化問題を解くためのアルゴリズムについて、図4に示すフローチャートを用いて説明する。
【0082】
ステップS8においては、染色体を模擬して、図5に示すようにコーディングされた解[X1(1),…,X1(T),…XN(1),…,XN(T)]が複数生成され、解集合を形成する。
【0083】
次に、ステップS9においては、前ステップで生成されたそれぞれの解に対応する排水ポンプの起動・停止パターンについて、図2の水位・流量予測手段10により、下水管渠2やポンプ井1の水位予測値等を求める。
【0084】
次に、ステップS10、およびステップS11においては、ステップS9の結果に基づき、それぞれの解に対して、制約条件の検証、および評価関数の計算を行なう。
【0085】
次に、ステップS8に戻り、染色体の交叉や、突然変異等を模擬したランダムな修正を、解集合の一部に対して行ない、ステップS10およびステップS11において計算する制約条件や、評価関数の値を加味して、新しい解集合を生成する。
【0086】
以下、これらのステップの処理を繰返して行ない、最終的に、評価関数の値が最も小さな解を選ぶ。
【0087】
もし、制約条件を満たす解が探索できない時には、管渠内貯留運転は不可能であるとみなして、緊急排水モードであるステップS5に移行する。
【0088】
なお、上述した遺伝的アルゴリズムについては、例えば“C.R.Reeves et. al,「モダンヒューリスティックス−組み合わせ最適化の先端手法」,日刊工業新聞社,1997”等により詳しく開示されている。
【0089】
上述したように、本実施の形態による排水ポンプ運転支援装置および排水ポンプ制御装置では、以下のような種々の効果を得ることができる。
【0090】
(a)下水管渠2内の水位の実測値および予測値が規定値を超えないという条件の下で、越流量を最小化するような排水ポンプ4の運転台数パターンを求めるという数理最適化問題を解くようにしているので、雨天時に溢水の危険性を排除しつつ、放流汚濁負荷を低減することが可能となる。
【0091】
(b)排水ポンプ4の運転台数等の制御量を、制約条件や評価関数の計算という形で、予測演算にフィードバックするようにしているので、双方の精度を向上させることが可能となる。
【0092】
(c)下水管渠2および排水機場ポンプ井1の水位、排水機場への流入量の計測値および予測値によって、下水管渠2内貯留と迅速な雨水排水とに運転目的を切換えるようにしているので、豪雨時の溢水に対する安全性を確保することが可能となる。
【0093】
(d)最適化アルゴリズムとして、比較的高速な遺伝的アルゴリズムを用いるようにしているので、オンライン性を確保することが可能となる。
【0094】
(第2の実施の形態)
図6は、本実施の形態による排水ポンプ運転支援装置、および排水ポンプ制御装置の構成例を示すブロック図であり、図2と同一部分には同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分についてのみ述べる。
【0095】
すなわち、本実施の形態による排水ポンプ運転支援装置、および排水ポンプ制御装置は、図6に示すように、前記図2に示すポンプ予測制御装置13における水位・流量予測手段10として、拡張RRL法に代えて、システム同定手法19を採用した構成としている。
【0096】
システム同定手法19とは、データベース20等に蓄積された過去の降雨量や水位・流入量等の時系列データを利用してあらかじめ構築した、ブラックボックス的な予測モデルを用いる手法である。
【0097】
そして、この構築した予測モデルに対して、実際に計測した降雨量あるいは予測降雨量を入力することにより、水位、流入量の予測値を演算する。
【0098】
次に、以上のように構成した本実施の形態による排水ポンプ運転支援装置および排水ポンプ制御装置の作用について説明する。
【0099】
なお、図2と同一部分の作用についてはその説明を省略し、ここでは異なる部分の作用についてのみ述べる。
【0100】
すなわち、前記図3に示すステップS2およびステップS4において、ポンプ予測制御装置13の水位・流量予測手段10により水位・流量の予測を行なう場合に、前記図2に示す拡張RRL法から、図6に示すシステム同定手法19を採用している点以外の作用については、前述した第1の実施の形態の作用と同様である。
【0101】
水位・流量予測手段10では、データベース20等に蓄積された過去の降雨量や水位・流入量等の時系列データを利用して構築した予測モデルに対して、実際に計測した降雨量あるいは予測降雨量を入力することにより、水位、流入量の予測値を演算する。
【0102】
ここで、本実施の形態における予測モデルとしては、降雨現象と下水管渠2への雨水の流出現象との間の非線形性を考慮して、静的な非線形関数と動的な伝達関数とを結合させるHammersteinモデルを用いる。
【0103】
例えば、時刻tにおけるp地点の水位pH(t)は、下記の(2)式、(3)式、(4)に示すように表わすことができる。
【0104】
【数2】
Figure 0003906096
【0105】
すなわち、pH(t)は、nステップ過去までの同一地点の水位の線形結合に、無駄時間をlとして、時刻t−lからmステップ過去までの降雨量それぞれに対してk次までのべき級数を全て結合させたものである。
【0106】
ここで、p地点の水位に影響を与える降雨量は、時刻をtとしてpR(t)とする。
【0107】
また、Tは行列の転置を表わす符号である。
【0108】
上記(4)式のpθは、n+k×m個のパラメータを並べた行列である。
【0109】
最後に、e(t)は、白色雑音である。
【0110】
パラメータの同定は、例えば最小二乗法等を用いて、オフラインで行なうことができる。
【0111】
Hammersteinモデルを、下水道の雨水流入量予測に用いた例として、例えば“山中 et. al,「Hammerstein型非線形モデルを用いたシステム同定手法による下水道雨水流入量予測」,T.IEE Japan, Vol.120−D, No.4, 2000.”等がある。
【0112】
上述したように、本実施の形態による排水ポンプ運転支援装置および排水ポンプ制御装置では、前述した第1の実施の形態の効果に加えて、以下のような種々の効果を得ることができる。
【0113】
(a)下水管渠2内の水位、および排水機場への流入量の予測に、システム同定手法を用いるようにしているので、予測モデルとそのパラメータをオフラインで一度同定した後は、降雨量の実測値および予測値、排水ポンプ4の起動・停止パターン等を入力として水位・流量等の予測値を演算する際に、単純な代数演算のみしか使用しないため、計算負荷を低減することが可能となる。
また、過去のデータから得られる情報量を有効利用することで、水理学・水分学に基づく予測モデルを一から構築する場合に比して、工程を大幅に削減することが可能となる。
さらに、流域の土地利用状況の変化や下水管渠の土木構造の変化に対しても、データを用いて再同定することで対応できるので、予測モデルを一から再構築する場合に比して、工程を大幅に削減することが可能となる。
【0114】
(b)同定するモデルとして、Hammersteinモデルを用いるようにしているので、予測精度を向上させることが可能となる。
【0115】
(その他の実施の形態)
尚、本発明は、上記各実施の形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で、種々に変形して実施することが可能である。
また、各実施の形態は可能な限り適宜組合わせて実施してもよく、その場合には組合わせた作用効果を得ることができる。
さらに、上記各実施の形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合わせにより、種々の発明を抽出することができる。
例えば、実施の形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題(の少なくとも一つ)が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果(の少なくとも一つ)が得られる場合には、この構成要件が削除された構成を発明として抽出することができる。
【0116】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の排水ポンプ運転支援装置および排水ポンプ制御装置によれば、制約条件として下水管渠内の所定箇所における水位の実測値および予測値が規定値を超えないという条件の下で、評価関数の中に現時点から所定時間先までの排水ポンプ総吐出量が含まれる最適化問題を解くことにより、現時点から所定時間先までの排水ポンプの運転台数および排水ポンプ吐出量等の排水ポンプ制御量を演算し、さらに排水ポンプを制御するようにしているので、溢水の危険性を排除しつつCSO問題を緩和するように、雨天時越流量に対する河川放流量の削減と雨水排水の安全性を確保することを同時に実現する排水ポンプ運転を運転員が実際に行なう際の信頼性の高い支援情報をオンラインで提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の対象となる雨水排水システムの概略構成の一例を示す図。
【図2】本発明による排水ポンプ運転支援装置および排水ポンプ制御装置の第1の実施の形態を示すブロック図。
【図3】同第1の実施の形態による排水ポンプ運転支援装置および排水ポンプ制御装置における作用を説明するためのフローチャート。
【図4】同第1の実施の形態による排水ポンプ運転支援装置および排水ポンプ制御装置における制御量最適化手段を説明するためのフローチャート。
【図5】同第1の実施の形態による排水ポンプ運転支援装置および排水ポンプ制御装置における遺伝的アルゴリズムにおける解の形状の一例を示す模式図。
【図6】本発明による排水ポンプ運転支援装置および排水ポンプ制御装置の第2の実施の形態を示すブロック図。
【符号の説明】
1…ポンプ井
2…下水管渠
3…水位計
4…排水ポンプ
5…レーダ雨量計
6…地上雨量計
7…降雨量計測装置
8…降雨移動予測手段
9…降雨量予測装置
10…水位・流量予測手段
11…判定手段
12…制御量最適化手段
13…排水ポンプ予測制御装置
14…プロセスコントローラ
15…表示装置
16…流出量予測(修正RRL法)
17…汚水量予測
18…流下量予測
19…システム同定手法
20…データベース。

Claims (8)

  1. 下水管渠を流下してくる雨水を貯める排水機場のポンプ井と、当該ポンプ井および前記下水管渠内の水位を測定する水位測定手段と、前記ポンプ井内の雨水を排水する複数台の排水ポンプとを備えて構成される雨水排水システムにおける、前記排水ポンプの運転を支援する排水ポンプ運転支援装置において、
    前記下水管渠内の水位、および前記排水機場への流入量を予測する水位・流量予測手段と、
    前記水位測定手段による前記下水管渠内の水位の測定値又は前記水位・流量予測手段による前記下水管渠内の水位の予測値の少なくともいずれか一方が規定値を超えないという制約条件の下で、評価関数に含まれる現時点から所定時間先までの排水ポンプ総吐出量を最小化する最適化問題を解くことにより、前記現時点から所定時間先までの前記排水ポンプの運転台数および排水ポンプ吐出量の排水ポンプ制御量を演算する制御量最適化手段と、
    を備えて成ることを特徴とする排水ポンプ運転支援装置。
  2. 前記請求項1に記載の排水ポンプ運転支援装置において、
    前記水位・流量予測手段による予測結果あるいは降雨量予測値、またはこれらの実測値が、あらかじめ設定された閾値を超えるか否かにより、前記制御量最適化手段における最適化問題を解くか否かを判定する判定手段を付加したことを特徴とする排水ポンプ運転支援装置。
  3. 前記請求項1または請求項2に記載の排水ポンプ運転支援装置において、
    前記制御量最適化手段における最適化問題を解くアルゴリズムとして、遺伝的アルゴリズムを用いたことを特徴とする排水ポンプ運転支援装置。
  4. 前記請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の排水ポンプ運転支援装置において、
    前記水位・流量予測手段として、拡張RRL法を用いたことを特徴とする排水ポンプ運転支援装置。
  5. 前記請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の排水ポンプ運転支援装置において、
    前記水位・流量予測手段として、システム同定手法を用いたことを特徴とする排水ポンプ運転支援装置。
  6. 前記請求項5に記載の排水ポンプ運転支援装置において、
    前記システム同定手法における同定する予測モデルとして、Hammersteinモデルを用いたことを特徴とする排水ポンプ運転支援装置。
  7. 前記請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の排水ポンプ運転支援装置において、
    レーダ雨量計等の降雨量計測装置から得られた降雨量データを入力として、降雨移動予測を行ない、当該予測結果に基づいて前記現時点から所定時間先までの降雨量を予測する降雨量予測手段と、
    前記降雨量予測手段により演算された降雨量予測値と降雨量実測値とを前記制御量最適化手段により演算し、現時点から所定時間先までの排水ポンプ制御量、ならびに前記下水管渠内の所定箇所における水位の実測値および予測値を運転員に対して表示出力する表示手段と、
    を付加したことを特徴とする排水ポンプ運転支援装置。
  8. 前記請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の排水ポンプ運転支援装置において、
    前記制御量最適化手段により演算された現時点から所定時間先までの排水ポンプ制御量を、制御信号として前記排水ポンプに対して出力するプロセスコントローラを付加したことを特徴とする排水ポンプ制御装置。
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