JP3904255B2 - β−ジケトン化合物およびその金属錯体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エーテル結合を有する新規なβージケトン化合物およびその金属錯体に関する。詳しくは、アルキルエーテル構造を有する新規なβージケトン化合物およびその金属錯体に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
βージケトン化合物は、種々の金属と錯体を形成することが知られている。βージケトン化合物から得られる金属錯体は、近年CVD、MOD材料などとして電子機器分野において重要な物質となっている。
【0003】
しかし、CVD材料として代表的なβージケトン化合物であるジピバロイルメタンなどの金属錯体は、単独では不安定な化合物で、空気中の水分や炭酸ガスと反応して分解したり、オリゴマー化して揮発特性が変化する欠点を有している。そのため、特開平5−132776号公報には、テトラヒドロフランやグライム類などの求核性有機物質を付加させることが提案されている。また、特開平5−98444号公報にはより安定性に優れた錯体を与えるものとして、オルトフェナントロリン誘導体やクラウンエーテル類を金属錯体に付加させることが提案されている。しかし、これら錯体付加物では、高温に曝されると錯体から付加物が解離してしまうため、揮発特性が不安定となり実用上は未だ満足のいく性能は得られていなかった。
【0004】
このため、上記の求核性有機物質などの錯体安定化剤を必要としない錯形成化合物が望まれていた。
【0005】
また、MOD材料として代表的なアルカリ土類金属のアセチルアセトン錯体や有機酸塩は固体であり、有機溶媒への溶解性が不足していたり、塗布液の保存安定性が不十分なため得られる酸化膜の均一性が低下して製品品質を低下させたり再現性が得られず生産性が低下する問題を有していた。
【0006】
従って、本発明の目的は、揮発特性の持続安定性に優れ、且つ取扱い性に優れると共に、塗布性に優れ、均一な焼成膜が容易に得られ、CVD材料およびMOD材料などとして有用なβ−ジケトン化合物の金属錯体、および該金属錯体を形成するβ−ジケトン化合物を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を、下記〔化2〕の一般式(I)(前記〔化1〕の一般式(I)と同じ)で示されるβージケトン化合物およびその金属錯体を提供することにより達成したものである。
【0008】
【化2】
(式中、R1は直鎖でも分岐でもよい炭素原子数1〜6のアルキル基を表し、R2は炭素原子数2または3のアルキレン基を表し、R3は分岐の炭素原子数1〜10のアルキレン基を表し、R4は直鎖でも分岐でもよい炭素原子数1〜18のアルキル基またはアリール基を表し、nは1〜10の整数を表す。)
【0009】
以下、本発明のβジケトン化合物およびその金属錯体について詳述する。
【0010】
本発明のβ−ジケトン化合物において、上記一般式(I)におけるR1で表される炭素原子数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、ペンチル、第三ペンチル、ヘキシル、第二ヘキシル、第三ヘキシルなどがあげられる。
【0011】
また、上記一般式(I)におけるR2で表される炭素原子数2または3のアルキレン基としては、エチレン、プロピレン、イソプロピレンがあげられる。
【0012】
また、上記一般式(I)におけるR3で表される分岐の炭素原子数1〜10のアルキレン基としては、イソプロピレン、イソブチレン、ジメチルエチレンなどがあげられる。
【0013】
また、上記一般式(I)におけるR4で表される炭素原子数1〜18のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、ペンチル、第三ペンチル、ヘキシル、第二ヘキシル、第三ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、第三オクチル、ノニル、イソノニル、デシル、イソデシル、オクタデシルがあげられ、アリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル、4−メチルフェニルなどがあげられる。
【0014】
本発明の上記一般式(I)で示されるβ−ジケトン化合物としては、より具体的には、下記〔化3〕〜〔化5〕の化合物No.1〜化合物No.3があげられる。ただし、本発明はこれら例示化合物によりなんら限定されるものではない
【0016】
【化3】
【0019】
【化4】
【0020】
【化5】
【0022】
本発明のβ−ジケトン化合物の合成方法は特に限定されるものではないが、例えば、メトキシエチレンオキシ酢酸メチルや2,2−ジメチル−3−クロロプロピオン酸のメチルセルソルブとのエステルなどのアルキルオキシアルキレンオキシ基で置換された脂肪族カルボン酸エステルを、ピナコリンなどと反応させることで、本発明の特定のβージケトン化合物が得られる。
【0023】
本発明の配位子と錯体を形成する金属としては、特に限定されるものではないが、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ジルコニウム、チタンおよび鉛などがあげられ、CVD、MODなどへ適用される。
【0024】
【実施例】
以下、本発明のβ−ジケトン化合物およびその金属錯体の合成例および使用試験例を示す。
【0028】
合成例−1(化合物No.1の合成)
2,2−ジメチル−3−クロロプロピオン酸クロライド202.1g(1.303モル)を乾燥トルエン350mlに溶解し、メチルセロソルブ105g(1.38モル)加え、攪拌下ピリジン3mlを加えて3時間還流した。冷却後、水および炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄してトルエン層を分離した。得られたトルエン層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、加熱減圧により脱トルエン後、68〜72℃/2〜2.5torrで232.7g(収率91.7%)の2,2−ジメチル−3−クロロプロピオン酸(2−メトキシエチル)を得た。
【0029】
次に、メチルセロソルブ78.2g(1.03モル)に金属ナトリウム11.84g(0.515モル)を加え、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(以下DMI)80ml中で反応してアルコラート溶液とした。60℃でDMI200mlに溶解した2,2−ジメチル−3−クロロプロピオン酸(2−メトキシエチル)を滴下したのち、沃化ナトリウム7.8g(0.052モル)を加え、170〜178℃で13時間反応した。反応液をろ過して不溶物を除去した後、67〜83℃/0.8torrで蒸留し、さらに、91℃/1.5〜2torrで精留して下記〔化6〕の式(II)で表される化合物A36.6g(収率30.3%)を得た。
【0030】
【化6】
【0031】
次に、ナトリウムアミド10.8g(0.276モル)およびピナコリン27.6g(0.276モル)を乾燥トルエン100ml中で30分攪拌した。化合物A32.4g(0.138モル)の脱水トルエン溶液を氷温で滴下し、70℃で6時間反応した。氷冷下、希塩酸を滴下して系を酸性とした後、水および炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥して加熱減圧により脱トルエンした。100〜103℃/1.5torrで蒸留して12.7g(収率37.8%)の化合物No.1を得た。
【0035】
次に、本発明の新規なβージケトン化合物の配位子としての有用性を評価するために、化合物No.1およびNo.2のアルカリ土類金属との錯体を合成し、錯体のCVD材料およびMOD材料としての可能性を評価した。以下に錯体の具体的合成例を示すが、以下の合成例により本発明はなんら限定されるものではなく、金属源としては水酸化物の他、金属、金属酸化物、金属ハロゲン化物または金属アルコキシドを用いてもよく、βージケトンと金属の錯体の公知のいかなる合成方法を用いてもよい。また、比較のためにジピバロイルメタン(以下DPM)の錯体も合成した。
【0036】
合成例−2(化合物No.1のストロンチウム錯体)
水酸化ストロンチウム8水塩1.33g(0.005モル)をトルエンに懸濁して還流脱水により無水塩とした。この懸濁液に化合物No.1を2.71g(0.0105モル)添加して室温で3時間反応した。反応系からろ過により未反応水酸化物を除去し、脱トルエンした。得られた褐色液体を150℃で減圧して未反応の化合物No.1を除き、褐色液状の金属塩2.56g(収率85%)を得た。
【0037】
合成例−3(化合物No.1のバリウム錯体)
水酸化バリウム8水塩1.58g(0.005モル)をトルエンに懸濁して還流脱水により無水塩とした。この懸濁液に化合物No.1を2.71g(0.0105モル)添加して室温で4時間反応した。反応系からろ過により未反応水酸化物を除去し、脱トルエンした。得られた褐色液体を150℃で減圧して未反応の化合物No.1を除き、褐色液状の金属塩2.83g(収率87%)を得た。
【0041】
合成例−4(化合物No.2のマグネシウム錯体)
水酸化マグネシウム0.29g(0.005モル)をトルエンに懸濁して還流脱水により無水塩とした。この懸濁液に化合物No.2を3.17g(0.0105モル)添加して室温で4時間反応した。反応系からろ過により未反応水酸化物を除去し、脱トルエンして褐色液体の金属塩3.04g(収率97%)を得た。
【0042】
合成例−5(化合物No.2のストロンチウム錯体)
水酸化ストロンチウム8水塩1.33g(0.005モル)をトルエンに懸濁して還流脱水により無水塩とした。この懸濁液に化合物No.2を3.17g(0.0105モル)添加して室温で4時間反応した。反応系からろ過により未反応水酸化物を除去し、脱トルエンして褐色液体の金属塩3.38g(収率98%)を得た。
【0043】
比較合成例−1(DPMのストロンチウム錯体)
水酸化ストロンチウム8水塩1.33g(0.005モル)をトルエンに懸濁して還流脱水により無水塩とした。この懸濁液にDPMを1.93g(0.0105モル)添加して室温で4時間反応した。得られた褐色液体をろ取してnーヘキサンで洗浄した。トルエン/n−ヘキサン(=3/1重量比)8gより再結晶して融点200℃の金属塩1.91g(収率84%)を得た。
【0044】
比較合成例−2(DPMのバリウム錯体)
水酸化バリウム8水塩1.58g(0.005モル)をトルエンに懸濁して還流脱水により無水塩とした。この懸濁液にDPMを1.93g(0.0105モル)添加して室温で4時間反応した。生成した白色沈澱をろ取してnーヘキサンで洗浄した。トルエン/n−ヘキサン(=3/1重量比)8gより再結晶して融点220℃の金属塩2.21g(収率88%)を得た。
【0045】
使用試験例−1
上記の合成例2、3、5および比較合成例1、2で得られた金属錯体について、CVD材料としての安定性の評価を行なった。安定性は、合成直後と60℃で6日保存および20日保存後の試料について、示差熱重量分析による窒素雰囲気下で500℃まで加熱した場合の重量減少率により評価した。結果を〔表1〕に示す。なお、重量減少率が安定しているものが揮発特性が安定していて好ましく、重量減少率が低下したものは経時で分解して揮発特性が変化してCVD材料に適さないことを示す。
【0046】
【表1】
【0047】
使用試験例−2
上記の合成例2および3で得られた金属錯体および配位子としてジアセチルメタン(DAM)、アセチルベンゾイルメタン(ABM)および酢酸を用いた〔表2〕に記載の金属錯体について、MOD材料として溶媒への溶解性、基板への塗布性、焼成膜の均一性を評価した。結果を〔表2〕に示す。
【0048】
評価方法は、溶媒への溶解性はトルエン10mlに試料0.5gを溶解した時に透明な溶液となったものを○とし、白濁したものを×として評価した。また、基板への塗布性は、バーコーターにより無アルカリガラス基板上に塗布した塗液を目視により評価して、平滑なものを○、凝集物によるブツ有りを×とした。また、焼成膜の均一性は、600℃で焼成した焼成膜の品質を目視により透明なものを○、白濁したものを×として評価した。
【0049】
【表2】
【0050】
上記〔表1〕より、本発明の特定のβージケトン化合物を用いて得られる金属錯体は、DPMから得られる金属錯体に比較して保存安定性に優れることは明らかである。また、上記〔表2〕より、本発明の特定のβ−ジケトン化合物を用いて得られる金属錯体は、溶解性に優れ、均一な塗膜を与え、結果として均一な焼成膜を形成できることも明らかである。
【0051】
【発明の効果】
本発明のβ−ジケトン化合物を用いることにより得られる本発明のβのジケトン化合物の金属錯体は、揮発特性の持続安定性に優れ、且つ取扱い性に優れると共に、塗布性に優れ、均一な焼成膜が容易に得られ、CVD材料およびMOD材料などとして有用なものである。
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