JP3903044B2 - コムギの検査方法 - Google Patents

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Description

技術分野
本発明はコムギの検査方法に関し、特にアレルギー物質が食品中に含まれているか否かを表示するために、食品の全ての流通段階において微量に含まれるコムギの存在を検出する方法に関する。
背景技術
近年、アレルギー物質を含む食品に起因する健康危害を防止するために、表示による情報提供の要望が高まり、平成13年4月の食品衛生法関連法令の改正に伴い、アレルギー物質を含む食品の表示が義務づけられた。特に症例数が多い卵、乳、コムギと症状が重篤なソバ、落花生の5品目(特定原材料)については、食品の全ての流通段階において適切な表示を行うことが義務化されることになった。
アレルギー物質としてどの食品をアレルゲンとして認識するか否かは、個体差により異なり、食品に含まれる特定物がごく微量であっても適切に表示されていれば、食品を摂取するものは自己にとってアレルゲンが含まれるか否かを知ることができ、健康危害を未然に防止できる。しかし、ごく微量の特定原材料の有無を加熱等の加工が行われた食品で検出することは、従来公知の食品分析法では困難である。
また、特定原材料を生産者が自社で用いていれば加工食品に表示できることは当然であるが、末端製品の中間原料として特定原材料が用いられた場合、特に購入される中間原料に微量含まれているか否かについては確認できない場合がある。また、実際に意図しない混入もありうる。
したがって、食品メーカーでは、加工助剤やキャリーオーバー等食品添加物のごく微量の残存あるいは製造ライン間の相互汚染の実態を正確に把握し、適切な対応をとるとともに、消費者に対しては法律に基づく正しい情報を提供することが重要であり、そのためにはアレルギー物質の正確な分析技術の提供が望まれている。
特に、コムギは様々な食品の原材料の一部として使用されることが多く、さらに最終製品となると食品を見ただけでは使用されていることが判別できないことがほとんどである。そして、コムギによるアレルギー症状は重く、食生活の欧米化に伴い患者数増加の傾向があり、即時型アレルギー物質の中で主要なもののひとつとなっている。
そのため、食品衛生法のアレルギー物質を含む食品の表示においても、コムギは特定原材料の1つとして規定され、食品中に混入がある場合はその旨を表示することが義務化された。
しかし、コムギについても、その検出に適切な測定方法はなく、微量成分の確実な測定方法が望まれている。
本発明では、食品中のコムギの混入の有無を正確に分析する方法の開発を目的として、コムギ特異的プライマーの構築、その分析系による検出限界の確認、および加工食品への応用を試みた知見により、食品中のコムギの有無を測定する方法を開発することを目的としている。
発明の開示
〔1〕すなわち本発明は、コムギの遺伝子の一部より得られる情報に基づき特定のプライマーを設計してPCR(Polymerase Chain reaction)を行い、 食品中のコムギの有無を測定する方法を提供する。
〔2〕また、食品中の微量成分の有無を食品に表示するために、コムギの遺伝子の一部より得られる情報に基づき特定のプライマーを設計してPCRを行い、コムギの有無を測定し、食品に表示する方法を提供する。
〔3〕さらに、食品摂取者にとって有害なコムギのアレルゲンを含む食品を識別するために、コムギの遺伝子の一部より得られる情報に基づき特定のプライマーを設計してPCRを行い、食品中のコムギの有無を測定する方法、食品アレルギー患者またはその疑いがある者にとって有害なアレルゲンを含むコムギが食品に含まれるか否かの情報を提供する方法、これらのいずれかを食品に表示する方法を提供することができる。
〔4,5〕ここで、前記食品は、加工処理された食品であってもよいし、食品原料であってもよい。食品は、ヒトの食品のみならず動物用の食品(飼料)を含む。
〔6〜8〕ここで、前記遺伝子および前記プライマーが、以下のものである方法が好ましい。
▲1▼前記遺伝子が、配列表の配列番号13に示すコムギ遺伝子であり、前記プライマーが、661番目のa〜1320番目のaまでの配列から選択される少なくとも5〜35個の連続したDNA断片の情報から選択されるセンスプライマーまたは、アンチセンスプライマー。
▲2▼前記遺伝子が、配列表の配列番号14に示すコムギ遺伝子であり、前記プライマーが、181番目のa〜540番目のtまでの配列から選択される少なくとも5〜35個の連続したDNA断片の情報から選択されるセンスプライマーまたは、アンチセンスプライマー。
▲3▼前記遺伝子が、配列表の配列番号15に示す、Triticum aestivum gene for starch synthase(GBSSI)(Wx−D1)、complete cds.(Accession#AB019624、全長2886bp)遺伝子であり、前記プライマーが、2401番目のg〜2886番目のaまでの配列から選択される少なくとも5〜35個の連続したDNA断片の情報から選択されるセンスプライマーまたは、アンチセンスプライマー。
プライマーは、ターゲットの遺伝子の相補鎖であり、ターゲット遺伝子のN−末側の配列部分とC−末側の配列部分とがペアーで選択される。ペアーの長さは同じでもよいし異なっていても良い。
〔9〕上記した、▲1▼〜▲3▼のセンスプライマーまたはアンチセンスプライマーのペアーの中でも、後に第3表で示すWtr01(配列番号1)/Wtr10(配列番号2)、Wgs05(配列番号5)/Wgs10(配列番号6)、Wgs11(配列番号9)/Wgs12(配列番号10)のプライマーペアーがさらに好ましく、Wtr01(配列番号1)/Wtr10(配列番号2)、Wgs11(配列番号9)/Wgs12(配列番号10)のプライマーペアーが特に好ましい。
PCRに用いられるプライマーは、鋳型となるDNA(コムギの場合を例示すれば、配列番号13〜15の配列が挙げられる)の該当領域が同様の領域であれば、プライマーの個々の配列の5’−上流側、3’−下流側の塩基の位置が、対応する同一鋳型上で、または数塩基ないしは10数塩基ずれても同様の機能を有し、同様の結果(PCR産物)が得られることが知られている。
したがって、好ましいプライマーペアーは、上記第3表のものに限定されず、実質的に上記第3表のプライマーペアーと同一の機能をPCRで達成することができるものも、好ましいプライマーペアーに含まれる。
上記プライマーについては、各プライマーの1または数塩基を欠失、置換、付加および/または挿入したプライマーで、鋳型となるDNAの該当領域へハイブリダイズするプライマーも上記プライマーと実質的に同一である。具体的には、例えば、配列番号1〜12の各プライマーについて、対応する鋳型DNAに対し5’−上流側/下流側および/または3’−上流/下流側に1または数塩基ないしは10数塩基ずれているもので、配列番号1〜12の配列のうち、連続した少なくとも80%、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列を含むプライマー等が、本発明の好ましいプライマーに含まれる。
〔10〕また、本発明は、前記プライマーを用いて、PCRを行い、電気泳動像で、明瞭な増幅バンドが、下記コムギ群から選択される1種以上のコムギを含む被検物質において認められ、ライムギ、コムギ以外の動植物(由来食品原料)を含む被検物質において認められない方法を提供する。
コムギ群:強力コムギ、中力(準強力)コムギ、薄力コムギ、デュラム(マカロニ)コムギ、その他食用の単粒系コムギ
コムギとしては、具体的に、Western White(アメリカ)、Canadian Spring Wheat No.1(カナダ)、Australian Standard Wheat(オーストラリア)、農林61号(日本)、Canadian Amber Durum(デュラムコムギ、カナダ)等が例示できる。
〔11〕コムギの遺伝子の一部より得られる情報に基づいて設計されたPCR用プライマーおよびこれを含有する、食品中のコムギの有無および/または濃度を測定するための試薬一式(キット)を提供する。
発明を実施するための最良の形態
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明は、コムギの遺伝子の一部より得られる情報に基づきプライマーを設計してPCRを行い、食品中のコムギの有無を測定する方法である。
検体として測定される食品は、原材料であっても、加工段階のいずれかであっても、加工後の食品であってもよい。本発明方法は、食品中の例えば、DNAレベルの体積比またはコムギの全食品に対する質量比で好ましくは0.1%以下、1000ppm以下、さらには500pm以下、特に100ppm以下の微量のコムギの存在の有無を検出する方法であり、コムギの遺伝子が食品中に含まれる場合は、生産者が意図していない物が、調味料や添加物の一部として微量存在しても検出することができる。さらに遺伝子はタンパク質等の生物由来の他の物質に比べて、加熱等の食品加工に対して比較的安定であり、加熱、調理等、加工された食品中の微量の存在が検出できる。
コムギの遺伝子配列は、未知の場合は公知の遺伝子検出法によって検出してもよいが、今日では多くの既知の遺伝子情報を用いることができる。例えば国立遺伝学研究所(DDBJ)等のデーターベースからコムギの遺伝子の全配列の情報を得て、配列の一部からPCRに適したセンスプライマーおよびアンチセンスプライマーのペアー(対、組)を選択してプライマーとすることができる。
プライマーの設計は、本発明の検査方法を考慮して以下の事項に留意した。まず、(i)プライマーのGC含量が40〜60%である、(ii)プライマーの融解温度(Tm値、下記参照)が、55〜70℃である、(iii)2つのプライマー対のTm値が近い、(iv)2つのプライマーの3’末端間で相補的配列を保有していない、(v)プライマー自身がヘアピンのような高次構造を形成しない、(vi)プライマーの全長は15〜35merとする、(vii)プライマーの3’末端側のGC含量を低くする、(viii)プライマー内で同一ヌクレオチドが多数連続する配列は回避する、(ix)プライマーは増幅したい鋳型DNAの片側1本鎖の配列と完全に一致している必要はないが、3’末端側の相補性を高くする、(x)使用する鋳型DNAにおいて、プライマー部位の他に同様の配列がない、等である。
本発明のプライマーは、原材料のコムギだけでなく、加工段階の食品や加熱、調理等の加工後の食品にも使用可能であることを必要とする。したがって、使用されるコムギの鋳型DNAはインタクトなものではなく、非常に細かく切断されたDNA断片であると考えられ、(xi)2つのプライマーによって増幅される遺伝子の一部は、比較的短い領域であることが好ましい。さらに、各種のコムギが共通して有する1つの遺伝子領域の中で、(i)〜(xi)の全ての条件を満たすプライマーを設計する必要がある。しかし、A、C、G、Tわずか4つのヌクレオチドからなるDNA配列で、これらの条件を全て満たすプライマーを作製することは非常に難しく、それ故、プライマーの設計は、PCRを行う上で非常に困難な問題となっている。また、仮にこれらの多数の条件を全て満たすプライマーを設計できたとしても、それはPCRを行う上での必要条件でしかなく、意図したPCRを成功させることは実際にPCRを行ってみないと判らない。
PCR法は特に限定されず、公知である種々の改良方法を含むが、1例を挙げれば、プライマーのペアー、鋳型(被検)DNAの他にTris−HCl、KCl、MgCl、各dNTP、TaqDNAポリメラーゼ等の試薬類を混合してPCR反応液とする。PCRの1サイクルは、熱変性、プライマーのアニーリング、DNAポリメラーゼによるDNA合成反応の3つのステップからなっている。各ステップはそれぞれ異なった、場合によっては同一の反応温度と反応時間を必要とするので増幅しようとするDNA領域の塩基配列とその長さによって適切な範囲とする。このような操作のためのthermal cyclerが市販されている。GC含量と配列の長さから得られる下記式
(℃)=4×(G+C)+2×(A+T)
を、アニーリング温度の指標とする。PCR増幅産物が50〜500bpより好ましくは100〜150bp程度になるようにする。この範囲とすれば、加工食品中で断片化しているDNAの検出もできるからである。
本発明においては、前記遺伝子および前記プライマーが、以下に示すものが好ましい。
▲1▼前記遺伝子が、配列番号13に示すコムギ遺伝子であり、前記プライマーが、661番目のa〜1320番目のaまでの配列から選択される少なくとも5〜35個の連続したDNA断片から選択されるセンスプライマーまたは、アンチセンスプライマー。
▲2▼前記遺伝子が、配列番号14に示すコムギ遺伝子であり、前記プライマーが、181番目のa〜540番目のtまでの配列から選択される少なくとも5〜35個の連続したDNA断片から選択されるセンスプライマーまたは、アンチセンスプライマー。
▲3▼前記遺伝子が、配列番号15に示すコムギ遺伝子であり、前記プライマーが、2401番目のg〜2886番目のaまでの配列から選択される少なくとも5〜35個の連続したDNA断片の情報から選択されるセンスプライマーまたは、アンチセンスプライマー。
上記した、▲1▼〜▲3▼のセンスプライマーまたはアンチセンスプライマーのペアーの中でも、第3表に示すWtr01(配列番号1)/Wtr10(配列番号2)、Wgs05(配列番号5)/Wgs10(配列番号6)、Wgs11(配列番号9)/Wgs12(配列番号10)のプライマーペアーがさらに好ましく、Wtr01(配列番号1)/Wtr10(配列番号2)、Wgs11(配列番号9)/Wgs12(配列番号10)のプライマーペアーが特に好ましい。
プライマーは、ターゲットの遺伝子の相補鎖であり、ターゲット遺伝子のN−末側の配列部分とC−末側の配列部分とがペアーで選択される。ペアーの長さは同じでもよいし異なっていても良い。
後に「特異性の確認」で説明するように同じT値をとるプライマーペアー(Wtr05(配列番号3)/Wtr06(配列番号4)、Wgs07(配列番号7)/Wgs08(配列番号8))でも検出に不適当な場合があり、プライマーの選択が重要である。
TaqDNAポリメラーゼ、MgClの濃度や反応サイクル数等好適なPCR条件の検討、あるいはnestedPCRを用いれば、さらに検出感度が向上する可能性がある。
PCR反応物は、免疫反応を用いて同定しても、どのように同定してもよいが、電気泳動させて、必要な場合は陽性コントロールや、陰性コントロールを用いて電気泳動像で明瞭なバンドが認められれば、被検物質(食品)中に検出物質(コムギ)が存在することが確認できる。
本発明の方法は、検出物質が被検物質(食品)に含まれるコムギである場合に有効である。
ここで「コムギ」とは、強力コムギ、中力(準強力)コムギ、薄力コムギ、デュラム(マカロニ)コムギ、その他食用の単粒系コムギをいう。
コムギとしては、具体的は、Western White(アメリカ)、Canadian Spring Wheat No.1(カナダ)、Australian Standard Wheat(オーストラリア)、農林61号(日本)、Canadian Amber Durum(デュラムコムギ、カナダ)等が例示できる。
本発明の検出方法は、コムギの遺伝子の一部より得られる情報に基づいて設計されたプライマーを、試薬として含有した試薬一式(キット)を用いて行えば、容易に実施することもできる。試薬一式(キット)は、PCRに広く用いられる公知の試薬を含有していても、電気泳動装置等の他の装置が付属していてもよい。具体的に試薬としては、dNTP、MgCl、Taq polymerase、Tris−HCl、グリセロール、DMSO、ポジティブコントロール用DNA、ネガティブコントロール用DNA、蒸留水等が挙げられる。これらの試薬は試薬一式(キット)の中で、それぞれ独立に梱包されて提供されてもよいし、2種以上の試薬が混合された形で提供されてもよい。試薬一式(キット)中のそれぞれの試薬の濃度に特に制限はなく、本発明のPCRを実施するについて可能な範囲であればよい。また、試薬一式(キット)には、好適なPCR条件等の情報がさらに添付されていてもよいし、プライマー試薬のみであってもよい。
DNAは熱に安定であり加工食品中でも微量で検出できるので得られた結果は食品に表示したり、食品のアレルギー情報として利用できるほか、食品中のコムギの有無を検出することにより加工助剤やキャリーオーバー等食品添加物のごく微量の残存、あるいは製造ライン間の相互汚染の有無等の生産者の意図していない工程を検出することができる。
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)コムギ検知のためのプライマーの構築
コムギ由来DNAを検知するためのプライマーを構築するにあたって、まず国立遺伝学研究所(DDBJ)のデータベースにアクセスし、コムギ(Triticum aestivum)の既知遺伝子の検索を行い、得られたコムギに関する遺伝子情報の中からコムギの貯蔵タンパクである、▲1▼Triticum aestivum triticin precursor、mRNA、partial cds.(Accession#S62630、全長1567bp)(配列番号13);▲2▼Triticum aestivum glutathone S−transferase(GST)gene、complete cds(Accession#AF109714、全長2947bp)(配列番号14);▲3▼Triticum aestivum gene for starch synthase(GBSSI)(Wx−D1)、complete cds.(Accession#AB019624、全長2886bp)(配列番号15)を選択した。
次に、DDBJのBLAST検索によって、選択したコムギの遺伝子配列と類似の配列がコムギ以外の植物にはないことを確認した。
発明者は、プライマーを設計するために、コムギの特定の遺伝子配列についてソフトウェア”GENETYX MAC”を使用して、プライマーの候補となる配列の検索を行った。GENETYX MACは、プライマー設計の上記条件のうち、手計算では解析困難な種々の条件(i)GC含量、(ii)Tm値の範囲設定を行えることから使用した。その結果、候補となる配列を126対同定することができた。その中で上記(i)〜(xi)のプライマー設計のための条件を全て満たす配列を、発明者が独自に検索することにより、本発明の検査方法で使用可能なプライマー配列を12対選択した。なお、本発明の検査方法のプライマーの設計については、DNAが断片化している加工食品からの検知を鑑み、PCRによる増幅産物が100〜150bp程度になるよう考慮した。このようにして選択したプライマー12対のオリゴヌクレオチドDNAプライマー(バイオロジカ(株)で合成)を作製した。
(2)DNAの抽出
コムギおよびその他の植物の種子については表面を1%TritonX(和光純薬)により洗浄した後蒸留水ですすぎ、よく乾燥させた後マルチビーズショッカー(安井機械)で微粉砕した。次に粉砕サンプル1〜1.5gをDneasy Plant Maxi kit(Qiagen)を用いてDNAを抽出した。小麦粉等の粉末サンプルについても上記種子と同様に微粉砕後、Dneasy Plant Maxi kitを用いてDNAを抽出した。また加工食品については水分含量の高いものは24時間凍結乾燥後1gを、水分含量の低いものについてはそのまま1gからGenomic Tip20/G(Qiagen)を用いてDNAを抽出した。抽出されたDNAは吸光度の測定により濃度を求めた後、純水を用いて10ng/μlに希釈し、これをPCRの鋳型(被検)DNA試料液として用いた。
(3)PCRと電気泳動像によるコムギの検出
PCR反応液は以下のように調整した。すなわちPCR緩衝液(PCR bufferII、アプライドバイオシステムズ社),200μmol/l;dNTP,1.5mmol/l;MgCl,0.5μmol/l;5’および3’プライマー、および0.625units TaqDNAポリメラーゼ(AmpliTaq Gold、アプライトバイオシステムズ社)を含む液に10ng/μlに調整したDNA試料液2.5μlを加え、全量を25μlとした。第4表で鋳型DNA量の記載のないものはこの場合の濃度である。但し、抽出されたDNAの濃度が10ng/μl以下の場合、または添加物が多い加工食品等で、得られたDNAの吸光度OD260/OD280の値が1.7以下と夾雑物が多くDNAの純度が低い場合には、抽出DNA原液または10ng/μl希釈液を2.5μl〜17.8μl PCR反応液に添加し、その量に応じて全量が25μlとなるように純水を用いて調整した。第4表で鋳型DNA量が付記されているものはこの場合の濃度である。
PCR増幅装置にはGeneAmp PCR System 9600(アプライドバイオシステムズ社)を用い、反応条件は次のように設定した。まず95℃に10分間保ち反応を開始させ、次に95℃ 30秒間、60℃ 30秒間、72℃ 30秒間を1サイクルとして、40サイクルのPCRの増幅を行った。最後に終了反応として72℃ 7分間保った後4℃で保存し、得られた反応液をPCR増幅反応液とした。
PCR増幅反応液はエチジウムブロミドを含む2%アガロースゲル(2%E−Gel、Invitrogen)による電気泳動に供し、陽性コントロール(コムギ種子より抽出したDNA)および陰性コントロール(鋳型DNAなしのブランク反応液)の増幅バントの有無によってPCRの妥当性を判断すると共に、各プライマーによる至適サイズのDNA増幅バンドを確認することによってサンプル中のコムギの混入の有無を判定した。
(4)実験1.コムギ検知プライマーの特異性の確認
コムギを特異的に検出するプライマーの選抜を目的として、コムギおよびその他の植物の種子から得たDNAを用いてPCRを行った。コムギのサンプルとしては5種類のコムギ銘柄または品種[Western White(アメリカ)、Canadian Spring Wheat No.1(カナダ)、Australian Standard Wheat(オーストラリア)、農林61号(日本)、Canadian Amber Durum(デュラムコムギ、カナダ)]を用いた。また、他の植物としてライムギ(カナダ)、オオムギ(ミノリムギ)、オーツムギ(競馬向け飼料用)、コメ(コシヒカリ)、トウモロコシ(飼料用nonGMO)、ダイズ(ムラユタカ)、アワ(熊本)、ナタネ(Canola)の種子およびソバを用いた。
PCR後電気泳動を行い、至適サイズの明瞭な増幅バンドがコムギサンプルにおいてのみ認められ、他の植物では認められないプライマーを、コムギを特異的に検知するプライマーとして選抜した。
コムギ検知用プライマー;Wtr01(配列番号1)/Wtr10(配列番号2)、Wgs11(配列番号9)/Wgs12(配列番号10)、Wtr05(配列番号3)/Wtr06(配列番号4)、Wgs07(配列番号7)/Wgs08(配列番号8)、Wgs05(配列番号5)/Wgs10(配列番号6)およびWss01(配列番号11)/Wss02(配列番号12)の特異性を示す検出結果の電気泳動像を、それぞれ図1a、図1b、図1c、図1d、図1eおよび図5に示す。
図1および図5において、M:100bpラダー、NC:No Template Control(鋳型DNAなしのブランク)水を示す。図1のレーン番号(サンプル名)およびその結果を下記第1表に示す。図5のレーン番号(サンプル名)およびその結果を下記第2表に示す。
Figure 0003903044
Figure 0003903044
実験1の結果、Wtr01(配列番号1)/Wtr10(配列番号2)、Wgs11(配列番号9)/Wgs12(配列番号10)およびWgs05(配列番号5)/Wgs10(配列番号6)の3対のプライマーセットが、コムギを特異的に検出できるため、10対のプライマー候補の中からコムギ検知プライマーとして選抜された。特に、Wtr01(配列番号1)/Wtr10(配列番号2)およびWgs11(配列番号9)/Wgs12(配列番号10)の2対のプライマーセットは、PCR増幅バントが最も明瞭であるため、コムギ検知プライマーとして好ましく選抜される。
なお、Wtr05(配列番号3)/Wtr06(配列番号4)のプライマーセットはコムギ以外の多くの種の雑穀との交差反応が認められ、Wgs07(配列番号7)/Wgs08(配列番号8)のプライマーセットはライムギとの交差反応が認められ、コムギ検出用プライマーとして適当でないことが分かる。
また、他のプライマー対の多くは、特定原材料として食品衛生法で定められているコムギの範疇から外れるライムギとの交差反応が認められた。
上記のプライマーセットを第3表に示す。
Figure 0003903044
(5−1)実験2−1.PCRによるコムギの検出限界の碓認
実験2−1ではWgs11(配列番号9)/Wgs12(配列番号10)プライマーを用いたPCRによるコムギの検出限界を調べることを目的として、DNAレベルおよび粉体レベルでコムギの擬似混入サンプルを作製し、それらのDNA試料液を用いてPCRを行いコムギの検出限界を確認した。
DNAレベルの擬似混入サンプルは、コムギの種子より抽出されたDNAを10ng/μlに希釈し、それをサケ精子DNA中のコムギDNAの混入率が0、1、10、50、100、1000ppmおよび1%となるように体積比で混合して作製した。また、粉体レベルの擬似混入サンプルは、トウモロコシ粉中のコムギ粉の混入率が0、1、10、50、100、1000ppmおよび1%となるように質量比で混合してサンプルを作製し、各混入サンプルを微粉砕した後DNAを抽出した。
図2aおよび図2bに検出結果の電気泳動像を示す。上部の数字はコムギの混入率を示し、M:100bpラダー、NC:No Template Control(鋳型DNAなしのブランク)水を示す。ここで図2aは、コムギDNAをサケ精子DNAで希釈した、DNAレベルの擬似混入サンプルを被検体とし、図2bは、コムギ粉をトウモロコシ粉で希釈した、粉体レベルの擬似混入サンプルを被検体とした。
実験2−1においてWgs11(配列番号9)/Wgs12(配列番号10)を用いたPCRによるコムギ検出限界を確認した結果、DNAレベルおよび粉体レベルのいずれの擬似混入サンプルにおいてもコムギ混入率として50ppmが検出限界であった(図2)。但し複数回行った実験の内、数回の検出限界は100ppmであり、このPCR反応系で安定して検出される限界は100ppmであることが示唆された。小麦粉のタンパク質含量は約10質量%(五訂食品成分表より)であることから、本PCR反応系の検出限界100ppmはコムギのタンパク質の混入率に換算すると10ppmとなる。
すなわちここで示したPCRによるコムギの検知法は、従来にはない高い検出限界を達成し、しかも、特異性が高く、微量成分の確実な測定(分析)方法であると考えられる。
(5−2)実験2−2.PCRによるコムギの検出限界の碓認
実験2−2ではWss01(配列番号11)/Wss02(配列番号12)プライマーを用いたPCRによるコムギの検出限界を調べることを目的として、上記実験2−1と同様にして、DNAレベルでコムギの擬似混入サンプルを作製し、それらのDNA試料液を用いてPCRを行いコムギの検出限界を確認した。
図4に検出結果の電気泳動像を示す。上部の数字はコムギの混入率を示し、M:100bpラダー、NC:No Template Control(鋳型DNAなしのブランク)水を示す。ここで図4は、コムギDNAをサケ精子DNAで希釈した、DNAレベルの擬似混入サンプルを被検体とした。
(6)実験3.PCRによる加工食品からのコムギの検知
コムギ検知プライマーとしてWgs11(配列番号9)/12(配列番号10)を用いて、原料としてコムギが含まれる加工食品からのコムギの検知を行った。用いたサンプルはレトルト缶詰、ケーキミックス、スパゲッティー、シリアル、菓子7種類(ビスケット、せんべい、プレチェル、ふがし、カステラ、スナック菓子、チョコレート)で、それぞれ微粉砕後、Dneasy Plant Maxi kitまたはGenomic Tip20/G(Qiagen)を用いてDNAを抽出し、PCRに供した。レトルト缶詰については、得られたDNAのp純度が低く、PCR反応チューブ当たり50〜120ng(吸光度からの計算値)のDNAを添加した。
図3a、図3bのレーン番号(サンプル名)を以下の第4表に示す。
Figure 0003903044
Wgs11(配列番号9)/12(配列番号10)を用いて加工食品からのコムギの検知をPCRにより行った結果(実験3)、レトルト缶詰を除くサンプルからコムギが検出された(図3)。レトルト缶詰は鋳型DNAの添加量を50ngまたは120ngに増やしてもコムギは検出されなかった(図3a)。レトルト缶詰は120℃で30分程度のレトルト処理が施されており、この加熱工程でDNAが細かく断片化されたため、PCRによる検出ができなかったものと推測された。
現在食品アレルギーの検査として臨床現場では、誘発試験やプリック・スクラッチ試験、RAST法等が実施されているが、これらの方法はアレルギー患者自身あるいは血液を対象として実施する検査であり、食品分析への適用は困難である。一方、アレルゲンそのものを検出、定量するための特定タンパク質の分離検出法として、電気泳動法(SDS−PAGE)やウェスタンブロッティング法、免疫化学的手法(ELISA法)が使われているが、これらは既知の主要アレルゲンの検出のためには有効であるが、未知のアレルゲンの検出あるいは加熱工程によってタンパクが変性している可能性のある加工食品においては必ずしも適当ではない。
産業上の利用可能性
DNAはタンパク質よりも加熱耐性が高いため加工食品中でも残存している場合が多い。このため本発明で示した遺伝子を指標としたPCRによるコムギの検知法は、特に加工食品において従来からのタンパク質の検出法を補う間接的な食品中のアレルギー物質の分析手段として極めて有用であると考えられる。
【配列表】
Figure 0003903044
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【図面の簡単な説明】
図1は、コムギ検出プライマーのコムギ特異性の結果を表示する電気泳動像である。図1aはコムギ検出プライマーWtr01/10のコムギ特異性の結果を表示する電気泳動像であり、図1bはコムギ検出プライマーWgs11/12のコムギ特異性の結果を表示する電気泳動像であり、図1cはコムギ検出プライマーWtr05/06のコムギ特異性の結果を表示する電気泳動像であり、図1dはコムギ検出プライマーWgs07/08のコムギ特異性の結果を表示する電気泳動像であり、図1eはコムギ検出プライマーWgs05/10のコムギ特異性の結果を表示する電気泳動像である。
図2は、PCRによるコムギ検出系の検出限界を示す電気泳動像である。図2aは、DNAレベルの擬似混入サンプルの測定結果であり、図2bは、粉体レベルの擬似混入サンプルの測定結果を示す電気泳動像である。
図3は、PCRによる加工食品からのコムギの検出結果を示す電気泳動像である。図3a、図3bはそれぞれ測定した加工食品がレーン毎に異なっている。
図4は、PCRによるコムギ検出系の結果を示す電気泳動像である。
図5は、コムギ検出プライマーWss01/Wss02のコムギ特異性の結果を表示する電気泳動像である。

Claims (7)

  1. 食品からDNAを抽出し、プライマーの対(センスプライマーおよびアンチセンスプライマー)を用いて、PCRを行って、前記プライマーの増幅産物を測定する方法において、
    前記プライマーの対が、
    Wtr01(配列番号1)およびWtr10(配列番号2)のプライマー、であり、
    前記測定が、下記コムギ群から選択される1種以上のコムギが測定され、ライムギが測定されない食品中のコムギの有無を測定する方法。
    コムギ群:強力コムギ、中力(準強力)コムギ、薄力コムギ、デュラム(マカロニ)コムギ、その他食用の単粒系コムギ
  2. 前記プライマーの増幅産物がアニーリング温度60℃のPCRで得られる増幅産物を、電気泳動により、測定する方法において、明瞭なバンドとして認められる請求項1に記載の食品中のコムギの有無を測定する方法。
  3. 食品中の微量成分を食品に表示するために、請求項1または2に記載の方法を用いて、コムギの有無を測定し、食品に表示する請求項1または2に記載の食品中のコムギの有無を測定する方法。
  4. 食品摂取者にとって有害なコムギのアレルゲンを含む食品を識別するために、請求項1または2に記載の方法を用いて、食品中のコムギの有無を測定する方法。
  5. 前記食品が、加工処理された食品または食品原料である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  6. 食品中のコムギの有無および/または濃度を測定するための請求項1に記載のPCR用プライマー。
  7. 請求項1に記載のプライマーを含有する、食品中のコムギの有無/または濃度を測定するためのキット。
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