JP3899831B2 - 生化学センサ及びこれを用いた生化学検査装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は,抗体,抗原,1本鎖DNA,レセプタ,リガンド,酵素等の検査対象物質の存在を,複数の生化学試料について同時に検査する生化学センサチップに関し,特に,DNAチップ,DNAアレーと呼ばれる生化学センサチップに関する。
【0002】
【従来の技術】
生化学センサチップとして,複数の検査対象物質を一度に検出する際に使用されるDNAチップがある。DNAチップはガラス等の基板上に複数の異なるDNAをプローブとして固定した生化学センサチップである。ここで言うプローブは,検査対象分子を特異的に識別する分子又は物質である。
【0003】
DNAチップの作成方法としては,DNAプローブを基板上で合成する第1の方法(従来技術1:Science Vol.251,767−773(1991)),予め合成したDNAプローブを基板上に一点ずつスポットする第2の方法(従来技術2:Science Vol.270,467−470(1995))がある。
【0004】
第1の方法では,シリコン,ガラス等の基板の上に,光リソグラフィーと光化学反応の技術を利用して,多数の複数領域に異なる数10merのDNAを結合している。例えば,第1の領域には第1の種類のDNAが結合され,また第2の領域には第2の種類のDNAが結合されている。
【0005】
検査対象物質の検出に際し,先ず,検査対象である遺伝子を数10merの短い断片にして,各断片を蛍光色素で修飾した試料をDNAチップの表面に加える。DNAチップ上に合成されているDNAと相補的関係にあるDNA断片(例えば,cDNA断片)が試料の中に存在すると,このDNA断片はDNAチップ上のDNAと結合する。
【0006】
DNAチップ上のDNAと結合しない他のDNA断片を洗い流した後,共焦点顕微鏡等の高感度な光検出方法によりDNAチップを観測すると,DNAチップの特定領域に結合したDNA断片に結合されている蛍光色素からの蛍光信号が検出される。DNAチップの各領域に結合されているDNAは予め知られているので,DNAチップの各領域から検出された蛍光信号によりDNA断片が同定される。
【0007】
第2の方法では,DNAプローブを各区画に一つ一つスポットする方法で,DNAを吸着しやすいように,ガラス,シリコン,高分子等の基板の表面をポリLリジン等によってコーディングする。次に,微少量のDNA懸濁液の一定量を基板上に微量ピペット,針等を利用して滴下し,乾燥させることにより,多数の互いに異なるDNAプローブのスポットを形成する。このようにして各区画2に固定されたDNAプローブと,上述と同様に蛍光体で修飾された検査対象である遺伝子とを反応させ,共焦点顕微鏡や市販のDNAマイクロアレースキャナーを使用して,反応した遺伝子を検出する。
【0008】
本発明に関する以下の従来技術がある。
【0009】
従来技術3(特開平11−243997号公報):微粒子に保持したプローブの種類を,微粒子自身の形状(例えば,粒径),誘電的性質,または色により識別する方法が開示される。試料と反応済みのプローブ付き微粒子が2次元配列されるプローブアレイに光を照射して,プローブアレイの透明な支持台を透過した光をCCDカメラにより検出された信号をデータ処理装置に入力し,各粒子は重なり合わないことを確認して,粒子(ビーズ)の形状を計測する。
【0010】
従来技術4(特開平2000−055920号公報):DNA,抗原,抗体,レセプタ,リガンド,酵素などの生体分子で既に修飾された高分子微小球または金属粒子を,基板の上に配置することの提案がある。表面に金薄膜が蒸着により形成されている基板を用意し,基板の上に複数の仕切りが形成されたテンプレートを置き,次いで,各仕切りの中に濃度1から50mMのカルボジイミド液に懸濁されたポリスチレン微粒子を流し込み,領域毎に異なるポリスチレン微粒子を1層吸着した基板を形成できる,との記載がある。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術のDNAチップでは,基板上に形成又は固定されるプローブの均一性に問題があった。即ち,従来技術1,2の何れの方法に於いても,分子の吸着は必ずしも均一ではない。非破壊的な手段により分子の吸着状態を確認することが容易にできず,基板上に形成又は固定されるプローブの均一性を計測して評価することは殆ど不可能であった。
【0012】
また,DNAチップ上のDNAプローブと検査対象物質とを反応させて,DNAチップ上のDNAプローブと結合した検査対象物質を検出するが,これらの過程の間で,DNAチップから脱落した基板上のDNAプローブの数を見積もる方法は知られていない。この結果,DNAチップの各領域から検出されたシグナルの強度が,実際に存在する検査対象物質の量を正確に反映しないという問題があった。
【0013】
更に,表面積の小さい微小領域にプローブを固定するので,十分な強度のシグナルを得るのに必要な量のプローブを固定できないという問題点があった。
【0014】
本発明の目的は,プローブが捕捉された微粒子が各区画に均一に固定され,固定された微粒子の数を計測することができ,プローブを捕捉する領域の表面積を増大させて感度向上が可能な生化学センサを提供する。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の生化学センサでは,検査対象物質の検出に用いるプローブを予め捕捉した微粒子を,表面化学的なパターニング方法を用いて基板上に格子状に配置して形成された各区画に吸着させて固定する。各区画にプローブを捕捉した微粒子が単層で最密状態で固定される。各区画に固定される微粒子には各々異なる種類のプローブが捕捉されており,各区画で検査試料に含まれる異なる種類の検査対象分子を検出する。各区画に微粒子が固定されるので,各区画での見かけ上の単位面積当たりの表面積が増大する。
【0016】
プローブを捕捉した微粒子を,1つの反応容器で予め大量に調製しておくことにより,各微粒子上にほぼ同数のプローブがほぼ均一に捕捉される。
【0017】
本発明の生化学センサでは,基板の各区画に固定された微粒子の数を,微粒子によ光散乱を測定する,又は,予め微粒子を蛍光標識しておき蛍光標識からの蛍光を測定することにより,各区画で機能するプローブの数を計測することができる。生化学センサが使用される各工程に置いて,個々の生化学センサの各区画で機能するプローブの品質を保証することにより,検査対象物質を高い精度で検出できる。
【0018】
本発明の生化学センサは,試料中の検査対象物質と選択的に結合するほぼ同じ数のプローブが表面に捕捉された複数の微粒子と,相互に分離された複数の区画が設けられた平面状の基板とを具備し,(1)各区画での単位面積当たりの微粒子の個数がほぼ同じとなるように,各区画に微粒子が固定されること,(2)各区画に1層の複数の微粒子が固定されること,に特徴がある。
【0019】
本発明の生化学センサの製造方法は,試料中の検査対象物質と選択的に結合するほぼ同じ数のプローブが表面に捕捉された複数の微粒子を,プローブの種類毎に異なる容器内で作成する工程を有し,平面状の基板に設けられた相互に分離された複数の区画をもつ生化学センサの各区間毎に,(1)異なる種類のプローブが捕捉された複数の微粒子を,各区画での単位面積当たりの微粒子の個数がほぼ同じとなるように固定する工程を有すること,(2)異なる種類のプローブが捕捉された1層の複数の微粒子を固定する工程を有すること,に特徴がある。また,各区画での単位面積当たりに固定された微粒子の個数は,微粒子が固定された各区画の領域に光を照射して非破壊的に計測されることに特徴がある。
【0020】
従来技術1〜4には,上記した特徴については何も言及がない。
本発明に於ける,プローブの代表的な例は1本鎖DNAであり,微粒子の代表的な例はポリスチレン微粒子のような高分子微粒子,ガラス微粒子である。
【0021】
なお,以上の説明で,「ほぼ同じ数のプローブが表面に捕捉された微粒子」とは,微粒子(i=1,2,…,N)の表面に捕捉されているプローブの数をそれぞれXi=X1,X2,…,XNとし,Xi=X1,X2,…,XNの平均値をXavとする時,95%の統計確率で,平均値Xavの±50%以内のプローブの数(即ち,0.5Xavから1.5Xavの範囲にあるプローブの数)が捕捉された微粒子として定義される。即ち,微粒子iに捕捉されたプローブの数Xiが,0.5Xavから1.5Xavの範囲にあれば,微粒子iは,ほぼ同じ数のプローブが表面に捕捉された微粒子と見做すことにする。
【0022】
また,以上の説明で,「各区画での単位面積当たりの微粒子の個数がほぼ同じである」ことは,区画(i=1,2,…,M)に固定されている単位面積当たりの微粒子の数をそれぞれYi=Y1,Y2,…,YMとし,Yi=Y1,Y2,…,YMの平均値をYavとする時,95%の統計確率で,平均値Yavの±50%以内の微粒子の数(即ち,0.5Yavから1.5Yavの範囲にある微粒子の数)が固定された区画として定義される。即ち,区画iに固定された微粒子の数Yiが,0.5Yavから1.5Yavの範囲にあれば,区画iは,ほぼ同じ数の微粒子が固定された区画と見做すことにする。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明の実施例では,生化学センサの製造の前又は後に,試料中の検査対象物質と選択的に結合するほぼ同じ数のプローブが表面に捕捉された複数の微粒子が,プローブの種類毎に異なる容器内で大量に作成される。
【0024】
本発明の実施例の生化学センサの製造では,先ず,金以外の金属蒸着膜の領域を平面状の基板の表面に格子状に形成する。次いで,金属蒸着膜の領域を含む基板の表面に金蒸着膜を形成する。金蒸着膜と金以外の金属蒸着膜とが重なって形成されていない領域に,又は,金蒸着膜と金以外の金属蒸着膜とが重なって形成されている領域に,相互に分離された複数の区画を形成する。試料中の検査対象物質と選択的に結合する,ほぼ同じ数のプローブが表面に捕捉された複数の微粒子を,各区画に固定する。各区画での単位面積当たりに固定された微粒子の個数は,各区画の領域に光を照射して非破壊的に計測される。
【0025】
金属蒸着膜がTi,Cu,Coの何れかで形成される場合には,金蒸着膜と金属蒸着膜とが重なって形成されていない領域に,複数の区画が形成され,金属蒸着膜がAg又はCrで形成される場合には,金蒸着膜と金属蒸着膜とが重なって形成されている領域に,複数の区画が形成される。
【0026】
複数の微粒子は,各区画での単位面積当たりの微粒子の個数がほぼ同じとなるように固定され,複数の微粒子が1層に固定される。微粒子としてポリスチレン微粒子が使用される場合には,ポリスチレン微粒子を基板の表面に熱溶着より各区画に固定される。
【0027】
本発明の生化学センサが検出する検査対象物質の例としては,抗体,抗原,1本鎖DNA,レセプタ,リガンド,酵素等がある。以下の説明では,検査対象物質を1本鎖DNAとする例をとり,以下,図を参照して詳細に説明する。
(第1の実施例)
第1の実施例では,プローブとなるDNA(DNAプローブ)を用いた生化学センサ(DNAマイクロアレー)の製作手順,及び,生化学センサを用いた多数の発現遺伝子の同時検出について説明する。即ち,DNAプローブが捕捉された微粒子を,基板上に格子状に形成され複数の区画の各区画に固定して,生体試料から作製したcDNAを各区画に固定された微粒子に捕捉されたDNAプローブとハイブリダイゼーションさせることにより,発現遺伝子を検出する。
【0028】
一般に,同時に多数の発現遺伝子を検出する場合には,従来,プローブとなるDNA(DNAプローブ)をナイロン膜,スライドグラス,シリコン等の基板上に固定した,DNAチップ又はDNAマイクロアレーと呼ばれているセンサが使用されている。生体試料から精製したmRNAから,蛍光体等により標識したcDNAを合成して,基板上のDNAプローブとcDNAとの間でのハイブリダイゼーション反応により,発現遺伝子を測定する方法が知られている(従来技術5:例えば,蛋白質核酸酵素,vol.43,NO.13,pp2004−2011(1998),「DNAチップ技術とその応用」を参照)。
【0029】
図1は,本発明の第1の実施例の生化学センサの構成を説明する図である。図1(A)は生化学センサの平面図,図1(B)はAA’断面図を示す。図1に示すように,DNAプローブが捕捉された微粒子3は,スライドグラス,ガラス,シリコン,高分子等の基板1上に格子状に形成された複数の区画2の各区画に固定されている。図1に示す例では,矩形の基板1を使用しているが,基板1として,正方形の基板を使用してもよい。
【0030】
各区画2には,DNAプローブが捕捉された微粒子3が,捕捉されたDNAプローブの種類毎に,固定されている。図1(A)に示す全ての区画2に,同じ種類のDNAプローブが捕捉された微粒子3を固定してもよいし,また,図1(A)に示す第i行の区画2に,第iの種類のDNAプローブが捕捉された微粒子3を固定してもよい(i=1,2,…,N)。
【0031】
図1に示す基板1として,例えば,透明石英製の大きさ,76mm×26mm,厚さ0.9mmのスライドガラスを使用する。図1には,簡単のために少数の正方形の区画2を示している。区画2の大きさは,20μm〜200μmの長さの辺をもつ正方形又は矩形,あるいは,20μm〜200μmの長さの辺をもつ円形とすることができる。区画2の間隔を20μm〜200μmとする。
【0032】
微粒子3として,例えば,球の直径が5nmから100μmのポリスチレン微粒子を使用することができる。50nmから200nmのポリスチレン微粒子を使用すると,各区画の表面に微粒子を保持できる点で好適である。各ポリスチレン微粒子3には,約400〜約6000分子のDNAプローブが捕捉されている。
【0033】
なお,正方形の区画2の一辺をd,球の微粒子3の半径をrとし,区画2の表面に微粒子3が正方格子に配列し,微粒子3の表面に捕捉されているDNAプローブの濃度を,n分子/cm2と仮定する。この時,区画2には,(d/(2r))2個の微粒子3が固定されるので,合計,(d/(2r))2×4πr2n=πd2n分子のDNAプローブが,区画2に捕捉されることになる。
【0034】
一方,同じ濃度(n分子/cm2)で,直接に区画2にDNAプローブを固定する場合,d2n分子のDNAプローブが区画2に固定される。従って,DNAプローブが捕捉されている微粒子3を区画2に固定すると,直接に区画2にDNAプローブを固定する場合よりも,π倍のDNAプローブ分子を区画2に捕捉できる。
【0035】
ここで,基板1として,76mm×26mm,厚さ0.9mmのスライドガラス上で20mm×50mmの範囲を使用し,区画2の大きさを100μmの長さの辺をもつ正方形とし,区画2の間隔を100μmとし,球の直径が100nmのポリスチレン微粒子を使用する時,スライドガラスには25000個の区画2を形成することができ,各区画2には,約106個のポリスチレン微粒子3が捕捉される。即ち,各区画2の表面には,106個のポリスチレン微粒子3が,約1010個/cm2の濃度で固定される。
【0036】
ここで,例えば,各ポリスチレン微粒子3に捕捉されるDNAプローブの分子数の平均値が,約1600分子とすると,各区画2には,合計,約1.6×109分子のDNAプローブが捕捉されることになる。
【0037】
図2は,第1の実施例で使用される,DNAプローブが表面に捕捉された微粒子,及び,DNAプローブと検査対象物質の反応を説明するための,斜視図,部分拡大図である。図2の点線の円の部分の部分拡大図に示すように,DNAプローブ4が捕捉された微粒子3を準備する。微粒子の表面5に,DNA鎖と共有結合又は水素結合が容易に生じるように,例えば,シリレン化又はシラン化等の修飾を行なう。
【0038】
プローブとなるDNA(DNAプローブ)の合成について説明する。プローブとなるDNA領域をカバーするセンス側のプライマーの5’末端に,リンカーを付加したアミノ基を導入し,アンチセンス側は通常のプライマーを用いる。これらのプライマー,及びプローブとなる領域を含む鋳型DNAを用いてPCRにより増幅反応を行なう。増幅したDNAは市販のPCR増幅断片の精製キット(例えば,QUIGEN社の精製キット)を用いて精製し,増幅したDNAを260nmの吸光度からDNA量を定量する。
【0039】
DNAプローブを捕捉する担体となる微粒子は表面修飾を施した市販の微粒子を用いる。例えば,表面に活性アルデヒド基を有する微粒子(PolybeadPolyacrolein Microspheres(Polyscience Inc.の商品名であり,日本国内ではフナコシが販売している)を使用する場合には,末端にアミノ基を導入したDNAプローブを結合させる。逆に,表面にアミノ基を有する微粒子を使用する場合には,末端をアルデヒド基で修飾したDNAプローブを用いる。
【0040】
末端にアミノ基を導入したDNAプローブを,表面に活性アルデヒド基を有する微粒子に捕捉する操作について説明する。DNAプローブを0.5mg/mL(ミリリットル)の濃度になるように,3×SSC溶液(ここで,1×SSCは,NaCl(0.15M),クエン酸3ナトリウム(15mM,pH7.0)の混合溶液を示す。3×SSCは1×SSCの3倍濃度溶液を示す。)中に,微粒子を懸濁して4時間室温で放置する。微粒子を0.2%のSDSで洗い,更に,微粒子を蒸留水で3回洗った後,水素化ホウ素ナトリウム液(1gの水素化ホウ素ナトリウムを300mLのリン酸バッファーと100mLのエタノールに溶かした溶液)に,微粒子を懸濁して,5分間放置し,続いて,微粒子を2分間95°Cの蒸留水に浸す。再び,0.2%のSDS溶液に微粒子を懸濁して1分間放置した後に,微粒子を蒸留水で3回洗浄した後,微粒子を乾燥して冷暗所に保管する。
【0041】
また,微粒子の表面へのDNAプローブの捕捉方法としては,他にビオチンとアビジンを介する周知の方法,金とSH基の反応を利用して捕捉する周知の方法(従来技術6:Analytical Chemistry,Vol,69,4939−4947(1997))があり,これらの周知の方法も第1の実施例に使用可能である。金とSH基の反応を利用して捕捉する周知の方法を使用する場合には,微粒子の表面を予め金コートしておく。
【0042】
図2に示すように,微粒子の表面5に,DNAプローブの捕捉のためのリンカー6を介してDNAプローブ4が捕捉される。検査対象物質を検出する標識9が結合された検査対象物質8とDNAプローブ4とが相補鎖結合により結合する。標識9としては,試料毎に異なる種類の蛍光体等が使用される。
【0043】
以下,DNAプローブが捕捉された微粒子を格子状に配列される各区画に吸着する第1の方法を図3を参照して説明する。
【0044】
図3は,第1の実施例の生化学センサの製作方法,及び,構成を説明する図である。先に説明した方法により作成されたDNAプローブが捕捉された微粒子を,図3に示す格子状に配列される複数の区画の各区画13(2)に固定する。図3(A)の平面図に示すように,基板1上に,正方形の形状をもつマスクパターン10を格子状に塗布,形成する。図3(B)は,図3(A)のAA’断面図である。図3(C)の断面図に示すように,基板1のマスクパターン10が形成されない領域に,金以外の金属を1nmから100nmの厚さに蒸着して,金属薄膜12を形成する。
【0045】
次に,基板1に形成されマスクパターン10を除去する。
【0046】
次に,図3(D)の断面図に示すように,金を5nmから100nmの厚さで蒸着して,基板1上に金薄膜63のみが格子状に形成される金薄膜領域13と,金属薄膜12と金薄膜63の2層膜が形成された2層膜領域14が得られる。
【0047】
次に,DNAプローブが捕捉された微粒子の懸濁液(重量比が0.1%から10%である)の1mL当たりに,0.1mgから10mgのカルボジイミドを加えた混合液を,金薄膜領域13と2層膜領域14とが形成された基板上に添加する。この時,混合液の添加量は,基板面積1cm2につき,最低10μL(マイクロリットル)とする。混合液が乾燥しない条件下で,1分から1時間の間室温でインキュベートし,純水により洗浄して乾燥する。
【0048】
金属薄膜12がチタン,銅,コバルト等の場合には,図3(D)の断面図(図3(E)のBB’断面図),図3(E)の平面図に示すように,2層膜領域14には微粒子が吸着せず,金薄膜63のみが格子状に形成されされる金薄膜領域13に微粒子3が吸着する。この結果,格子状に配置される金薄膜領域13に,DNAプローブが捕捉された微粒子3が固定される区画2が形成される。
【0049】
図3では簡単のために,正方形の基板1に9個の区画を形成する例をとり説明したが,基板1の形状は正方形に限定されず,区画の数も9個に限定されるものではない。
【0050】
以下,DNAプローブが捕捉された微粒子を格子状に配列される各区画に吸着する第2の方法を図4を参照して説明する。
【0051】
図4は,第1の実施例の生化学センサの製作方法,及び,構成を説明する図である。先に説明した方法により作成されたDNAプローブが捕捉された微粒子を,図4に示す格子状に配列される複数の区画の各区画14(2)に固定する。図4(A)の平面図,図4(B)の断面図に示すように,物理的に穴82が格子状に形成されたコンタクトマスク80を基板1上に設置し,金以外の金属12を1nmから100nmの厚さに蒸着する。図4(C)の断面図に示すように,コンタクトマスク80の穴82と同じパターンを有する金属薄膜12’が,基板1の表面に形成される。
【0052】
次に,図4(D)の断面図に示すように,金を5nmから100nm蒸着して,基板1上に金薄膜63のみが形成された金薄膜領域13と,金属薄膜12’と金薄膜63の2層膜が形成された2層膜領域14が得られる。
【0053】
次に,DNAプローブが捕捉された微粒子の懸濁液(重量比が0.1%から10%である)の1mL当たりに,0.1mgから10mgのカルボジイミドを加えた混合液を,金薄膜領域13と2層膜領域14とが形成された基板上に添加する。この時,混合液の添加量は,基板面積1cm2につき,最低10μL(マイクロリットル)とする。混合液が乾燥しない条件下で,1分から1時間の間室温でインキュベートし,純水により洗浄して乾燥する。
【0054】
金属薄膜12’が銀,クロム等の場合には,図4(E)の断面図(図4(F)のBB’断面図),図4(F)の平面図に示すように,金属薄膜12’と金薄膜63の2層膜が形成された2層膜領域14に微粒子が吸着するため,コンタクトマスク80の穴82と同じパターンで微粒子3が基板に吸着される。この結果,格子状に配置される2層膜領域14に,DNAプローブが捕捉された微粒子3が固定される区画2が形成される。
【0055】
図4では簡単のために,正方形の基板1に4個の区画を形成する例をとり説明したが,基板1の形状は正方形に限定されず,区画の数も4個に限定されるものではない。
【0056】
なお,図3,図4で説明した微粒子が選択的に吸着されるプロセスは,カルボジイミド濃度,金膜と金以外の金属膜の厚さの比に依存することから,微粒子を吸着させる各区画2の形状,複数の区画2が示すパターンを所望のパターンとする制御ができる。
【0057】
基板1上に格子状に塗布,形成される正方形のマスクパターン10(図3(A)),あるいは,正方形の穴82が格子状に配列するコンタクトマスク80(図4(A))を使用することにより,微粒子を捕捉する格子状の複数の区画を形成できる。格子状に形成され微粒子が固定される各区画(領域)に対して,異なる種類のDNAプローブが捕捉された微粒子を添加し,吸着操作を行なうことにより,各区画毎に異なった種類のDNAプローブを捕捉した生化学センサを作製できる。
【0058】
DNAプローブの懸濁液の代わりに,DNAプローブが捕捉された微粒子の懸濁液を使用し,市販のDNAマイクロアレーのスポッターを用いて,異なる種類のDNAプローブを捕捉した微粒子を定まった各区画に添加することができる。市販のスポッターを用いると,最小で,約100μmの円形の形状で,DNAプローブを捕捉した微粒子を各区画に添加できる。
【0059】
図5は,第1の実施例に於ける複数の生化学センサの製作方法を説明する図である。微粒子にDNA,RNA,蛋白質等の生体物質を検出するための生体物質検出用プローブを捕捉する場合には,生体物質検出用プローブを微粒子に捕捉する反応を,生体物質検出用プローブの種類毎に別々の容器チューブ71,72,73内で行ない大量のバッチの微粒子(生体物質検出用プローブが捕捉された微粒子)を予め準備しておく。生体物質検出用プローブの代表例は,DNA分子と結合するDNAプローブである。
【0060】
大量のバッチとして,生体物質検出用プローブが捕捉された微粒子を調製するので,各微粒子に捕捉された生体物質検出用プローブの分子数は,ほぼ同じとなる。ここで,「ほぼ同じ分子数のプローブが捕捉された微粒子」とは,先に説明したように,微粒子(i=1,2,…,N)の表面に捕捉されているプローブの数をそれぞれXi=X1,X2,…,XNとし,Xi=X1,X2,…,XNの平均値をXavとする時,95%の統計確率で,平均値Xavの±50%以内のプローブの数(即ち,0.5Xavから1.5Xavの範囲にあるプローブの数)が捕捉された微粒子として定義される。即ち,微粒子iに捕捉されたプローブの数Xiが,0.5Xavから1.5Xavの範囲にあれば,微粒子iは,ほぼ同じ数のプローブが表面に捕捉された微粒子と見做すことにする。
【0061】
生体物質検出用プローブに結合可能であり蛍光標識され複数種類の既知濃度の基準となる基準検体を,生体物質検出用プローブに結合させた後に,計測した蛍光標識からの蛍光強度と,微粒子を含む懸濁液の単位体積に含まれる微粒子の数とから,各微粒子に捕捉された生体物質検出用プローブの分子数の平均値を計測することができる。
【0062】
複数の生化学センサの個々の基板上に同じバッチの微粒子を固定する。具体的な例をとって以下説明する。以下の説明では,3種類のDNAプローブが捕捉された微粒子を,DNAプローブの種類毎に3枚以上の基板(スライドグラス)に,順次,スポットする例をとる。
【0063】
相互に異なる種類のDNAプローブをDNAプローブ−1,−2,−3とする。DNAプローブ−1の溶液21を収納する反応容器71でDNAプローブ−1を微粒子に捕捉させる反応を行なう。DNAプローブ−1の溶液22を収納する反応容器72でDNAプローブ−2を微粒子に捕捉させる反応を行なう。DNAプローブ−1の溶液23を収納する反応容器73でDNAプローブ−3を微粒子に捕捉させる反応を行なう。上記で説明した方法により,反応容器71,72,73の各反応容器内の微粒子に捕捉された生体物質検出用プローブの分子数の平均値を求める。
【0064】
各反応容器71,72,73内の反応により,DNAプローブが捕捉された微粒子は,市販のマイクロアレー製造装置(例えば,日立ソフト社製のSPBIO),又は,ピペット等を用いて,順次,スライドガラス24,25,26の上にスポットされる。
【0065】
図5(A)に示すように,DNAプローブ−1を捕捉した微粒子を含む懸濁液はスライドガラス24,25,26に,順次,スポットされ,DNAプローブ−1を捕捉した微粒子によるスポット27,28,29が形成される。
【0066】
図5(B)に示すように,DNAプローブ−2を捕捉した微粒子を含む懸濁液はスライドガラス24,25,26に順次,スポットされ,DNAプローブ−2を捕捉した微粒子によるスポット30,31,32が形成される。
【0067】
図5(C)に示すように,DNAプローブ−3を捕捉した微粒子を含む懸濁液はスライドガラス24,25,26に順次,スポットされ,DNAプローブ−3を捕捉した微粒子によるスポット33,34,35が形成される。
【0068】
以上のようにして,同一反応容器内で予めDNAプローブが捕捉された微粒子を大量に調製することにより,スライドガラス24,25,26のように異なる生化学センサの基板上に,ほぼ同様の反応性を持った微粒子を供給して,各生化学センサの基板の格子状の各区画に微粒子を捕捉できる。
【0069】
図5では,3種類のDNAプローブが捕捉された微粒子を,DNAプローブの種類毎に3枚以上の基板(スライドグラス)に,順次,スポットする例をとり説明したが,DNAプローブの種類は3種類に限定されるものではなく,任意の種類の数でもよいことは言うまでもない。
【0070】
次に,検査対象分子であるRNA又はDNAの作製について説明する。検査対象分子はその増幅の際に,例えば,Cy3又はCy5等の蛍光色素で標識されたdUTPを用いて,増幅され蛍光標識された検査対象分子が用いられる。
【0071】
解析する細胞から一般に知られている方法(従来技術7:例えば,Molecular Cloning second edition (Cold Spring Habor Laboratory Press(1989))により,全RNAを抽出し,更に,ポリA−RNAを調製する。次に,ポリA−RNAから蛍光標識されたcDNAを合成する。例えば,ポリA−RNA1μg,スーパースクリプトII(Gibco BRL)反応バッファー8μL,オリゴdTプライマー1μg,10mMのdNTP4μL,Cy3(アマシャムファルマシア商品コードPA53022),又は,Cy5(アマシャムファルマシア商品コードPA550022))で標識されたdUTP4μL,0.1MのDTT4μL,に蒸留水を加えて38μLとする。この液を70°Cで10分間保持した後,氷上で急冷する。急冷された溶液にスーパースクリプトII(Gibco BRL)2μLを加えて穏やかに撹拌した後,25°Cで10分,42°Cで40分,72°Cで10分保持した後,室温まで冷却する。反応液を分子量カットフィルター,例えば,Microcon30(ミリポア社)を用いて20μLまで濃縮し,更に,蒸留水を400μL加えて10μLまで濃縮する。この操作で未反応のdUTP,dNTPが除去される。10μLまで濃縮した溶液に,20×SSC溶液(1×SSCの20倍濃度溶液)を4μL,蒸留水を6μL加えて100°Cの湯浴中で3分間保持した後,氷上で急冷する。急冷した溶液に10%のSDSを200μL加えて検査対象物質を含む試料溶液が調製される。
【0072】
調製された試料溶液と,生化学センサの基板の各区画に固定された微粒子に捕捉されたDNAプローブとの反応と,反応生成物の検出について説明する。微粒子に捕捉されたDNAプローブと試料溶液とを接触させて,密閉容器中に生化学センサをおいて,65°Cで10時間から24時間,反応を行なう。
【0073】
反応が終了した生化学センサの基板は,0.1%のSDSを含む2×SSC溶液(1×SSCの2倍濃度溶液)で5分間3回洗浄した後,0.1%のSDSを含む0.2×SSC溶液(1×SSCの0.2倍濃度溶液)で5分間3回洗浄し,0.2×SSC溶液で軽くすすいだ後に室温で乾燥させる。次に,市販のスキャナー(例えば,ScanArray5000 GSILumonics社)を使用して,既存のDNAマイクロアレーと同様に各スポットからの蛍光強度を測定する。
【0074】
以上説明したように,DNAプローブを表面に捕捉した微粒子を,格子状に形成された区画に固定した生化学センサを用いて,一度に多数の種類のDANプローブにより検査対象物質を含む試料を検査解析でき,試料作成,ハイブリダイゼーション反応,反応生成物の検出は,これまでに確立されている方法をそのまま利用できるという利点がある。
(第2の実施例)
図6は,本発明の第2の実施例であり,DNAプローブが捕捉された微粒子を,基板上に格子状に形成された複数の円形の区画の各区画に固定して作成した生化学センサ(第1の実施例)を評価する方法を説明する図である。即ち,各区画に固定された微粒子が均一であるか否かの評価,各区画に固定された微粒子の数の計測を行なう。以下の説明では,円形の区画を例にとり説明するが,区画の形状は円形に限らず,正方形,矩形でもよい。
【0075】
図6(A)は,生化学センサの基板上に吸着している微粒子の分布の均一性を評価するための装置である。半導体レーザ40からのレーザ光線41を走査型鏡42を介して基板1上に照射する。基板1の各区画の微粒子からの散乱光は,半導体レーザからの正反射光が到達しない位置に配置された集光レンズ,光検出器44により検出される。走査型鏡42を駆動することにより,微粒子が吸着された領域45をレーザ光線41により走査する。光検出器44の出力信号は,演算処理装置90に入力され,光検出器44の出力信号の加算処理,平均処理,平滑化処理,規格化処理等が行なわれ,処理結果は表示装置91に表示される。粒径が50nmから100μmの微粒子は高効率でレーザ光を散乱し,その散乱光強度は微粒子の濃度に依存する。
【0076】
従って,図6(B)に示すように,微粒子が吸着された領域45の面積の10分の1以下の面積に集光されたレーザ光47により,微粒子が吸着された領域45を,x方向,x方向に直交するy方向で2次元的に走査しながら,散乱光強度をモニタすることにより,微粒子が吸着された領域45内に於ける微粒子の分布の均一性を評価できる。
【0077】
図6(C),図6(D)は,微粒子が吸着された領域45内に於ける微粒子の分布の均一性の評価を説明する図である。図6(C)に示すように,微粒子が基板に均一に吸着している領域46では,散乱光強度49はレーザ光47の走査中ほぼ一定である。しかし,図6(D)に示すように,不均一に微粒子が吸着している領域50では,散乱光強度51がレーザ光47の走査中に変化する。
【0078】
なお,図6(C),図6(D)に於いて,横軸は基板上でのレーザ光47の走査位置(図6(A)に示す,円形の区画のほぼ中心をそれぞれ通る走査方向(x)49’,51’に於けるレーザ光の位置)を示し,縦軸は領域45内での散乱光強度の最大値を100とする散乱光強度(I)を示す。領域45内に於ける微粒子の分布の均一性の評価は,散乱光強度Iの位置(x,y)による変化I(x,y)を計測した後,領域45内でのI(x,y)の最大値を100とする規格化を行なって,例えば,標準偏差を求め,この標準偏差が所定の値以下であれば,微粒子の分布が均一であると判断する。
【0079】
生化学センサの基板上に吸着している微粒子の分布の均一性を,図6(E),図6(F)に示す半導体レーザ光の照射により評価することも可能である。図6(E)に示すように,微粒子が吸着された領域のサイズに相当する長さをx方向に直交するy方向にもつ線状の光スポット52を,微粒子が吸着された領域45でx方向に走査しながら,微粒子からの散乱光強度をモニタすることにより,微粒子が吸着された領域45内に於ける微粒子の分布の均一性を評価できる。
【0080】
領域45内に於ける微粒子の分布の均一性の評価は,散乱光強度Iの位置(x)による変化I(x)を計測した後,領域45内でのI(x)の最大値を100とする規格化を行なって,例えば,標準偏差を求め,この標準偏差が所定の値以下であれば,微粒子の分布が均一であると判断する。
【0081】
また,図6(F)に示すように,微粒子が吸着された領域45の面積に相当する面積をもつ光スポット(斜線で示す)54として照射して,微粒子からの散乱光強度をモニタすることにより,微粒子が吸着された領域45内に於ける微粒子の分布の均一性を簡便に評価できる。
【0082】
領域45内に於ける微粒子の分布の均一性の評価は,複数の領域45で散乱光強度Iを計測した後,複数の領域45内でのIの最大値を100とする規格化を行なって,例えば,所定の閾値を越える散乱光強度Iをもつ領域45が微粒子の分布が均一であると判断する。
【0083】
以上説明したように,微粒子による光散乱を用いて生化学センサの基板の各区画に固定されている微粒子の分布の均一性が測定できる。
【0084】
更に,生化学センサの基板の各区画に固定されている微粒子の数を以下の方法により計測することができる。
【0085】
検査対象物質の検出に使用していない蛍光体を用いて,微粒子を蛍光標識し,蛍光標識からの蛍光強度を検出することにより,各区画に固定された微粒子の数を計測することができる。例えば,ポリスチレン微粒子をフルオロセインを含む50%メタノール溶液に浸し,乾燥することによりポリスチレン微粒子がフルオロセインにより標識される。
【0086】
第1の実施例で説明した方法により,生化学センサの基板の各区画にDNAプローブを微粒子に捕捉し,図5に示すように,順次,DNAプローブが捕捉された微粒子をスライドガラスにスポットする。この時,スライドガラス毎に固定されるポリスチレン微粒子の数がばらついたり,その後のハイブリダイゼーション工程や生化学センサの基板の洗浄工程でポリスチレン微粒子が脱落することがある。しかし,このような場合でも,各区画に捕捉されたDNAプローブと,蛍光体で修飾された検査対象である遺伝子とを反応させた後に,共焦点顕微鏡や市販のDNAマイクロアレースキャナーを使用して反応した遺伝子を検出する前の時点で,各区画のフルオロセインの蛍光強度を測定することにより,各スライドガラス上の各区画のポリスチレン微粒子の数を算出できる。
【0087】
以上説明した各方法により,生化学センサの基板の各区画に固定された微粒子の数を計測でき,各微粒子に捕捉されたDNAプローブの分子数の平均値は,予め,求めておくことができるので,反応した遺伝子を検出する前の時点で,各区画に於けるDNAプローブの分子数を求めることが可能である。
【0088】
従って,個々の生化学センサの各区画に於けるDNAプローブの分子数を測定できるので,検査対象物質を高い精度で検出できる。即ち,第1の実施例で説明した方法により作成された生化学センサは,この生化学センサが使用される各工程で必要に応じて,その品質を確認することができる。
【0089】
以上の説明で,蛍光体としてはJoe,Tamura,Rox(アプライドバイオシステムズ社)を用いても良い。
(第3の実施例)
図7は,本発明の第3の実施例であり,電界を利用したハイブリダイゼーション反応を行なうための生化学センサの構成を説明する図である。第3の実施例で使用する生化学センサは,金以外の金属蒸着膜により生化学センサの基板の表面に格子状に形成され区画と,格子状に形成され区画及び基板の表面に形成された金蒸着膜とを有し,金蒸着膜と金属蒸着膜とが重なって形成されていない領域に,相互に分離された複数の区画が形成された平面状の基板により構成される。
【0090】
試料中の検査対象物質と選択的に結合するDNAプローブが表面に捕捉された微粒子が,DNAプローブの種類毎に各区画に固定される。基板の表面に形成された金蒸着膜を一方の電極として,この金蒸着膜の面と平行に他方の電極基板を配置して,電気的なハイブリダイゼーション反応を実行する(従来技術8:NatureBiotechnology Vol.16,541−546(1998))。
【0091】
第3の実施例では,生化学センサを用いて核酸を検出する例について説明する。先ず,図3に示す正画角センサの製作方法と同様にして,シリコン基板64の上に,正方形,矩形,円形の何れかの形状をもつ,チタンの薄膜65(図3(C)に示す金属薄膜12に対応する)の区画を格子状に形成する。更に,チタンの薄膜65を含むシリコン基板64の面に,チタンの薄膜とほぼ同じの厚さの金薄膜63を形成する。微粒子3は,金蒸着膜63とチタンの薄膜65とが重なって形成されていない領域であり,相互に分離された複数の区画に固定される。
【0092】
第1の実施例で説明した方法により,DNAプローブを微粒子3の表面に捕捉する。この時,解析に必要な種類の微粒子を第1の実施例と同様の方法により作成して用意する。微粒子はカルボジイミドを加えた懸濁液として調製し,チタンの薄膜65と金薄膜63が重なっていない領域を単層で覆い尽くすのに十分な微粒子を含む懸濁液を滴下する。
【0093】
この時,チタンと金が重なっていない隣の領域に懸濁液が広がらないような液量を滴下する。液の滴下は微小なピペットを用いて手作業で行なっても良いが,第1の実施例で説明したように,市販のマイクロアレー製造装置を用いて,微粒子の懸濁液を各区画にスポットしても良い。
【0094】
スポットが終了した後,流水で洗浄して各区画毎に異なる種類のDNAプローブで修飾された微粒子3が固定されたマイクロアレーが完成する。
【0095】
微粒子が固定された部分を覆い尽くす大きさのプラス極金属基板61を,微粒子を固定した基板の微粒子の側の平行な位置に設置する。プラス極金属基板61と微粒子が固定された金蒸着膜63の間隙は,0.1mmから1mm程度とする。プラス極金属基板61と微粒子が固定された金蒸着膜63の間隙に,第1の実施例で説明した方法で,Cy3又はCy5等の蛍光色素で標識された試料を含むハイブリダイゼーション反応液66を満たし,プラス極金属基板61がプラス極,金蒸着膜63がマイナス極になるようにして,反応液66に直流電界を印加しながら65°Cに保ち,通常のハイブリダイゼーション反応を行なった後,生化学センサの基板の洗浄を行なって,DNAプローブと反応したDNAを検出する。
【0096】
また,ハイブリダイゼーションの過程を観察する必要がある場合には,プラス極である金属基板61の代わりに,メッシュ状の金属線を電極として用いることも可能である。
【0097】
DNAプローブと反応したDNAの検出は,第2の実施例と同様に,マイクロアレースキャナーを使用して行なう。
【0098】
以上の各実施例の説明では,検査対象物質として1本鎖DNAを例にとって,DNAプローブが捕捉された微粒子を生化学センサの各区画に固定した場合について説明した。検査対象物質として,抗体,抗原,レセプタ,リガンド,酵素を対象とする場合には,生体分子(プローブ)としてそれぞれ,抗原,抗体,リガンド,レセプタ,基質を捕捉した微粒子を生化学センサの各区画に固定した構成にすれば良い。
【0099】
従って,生化学センサの各区画に捕捉する生体物質(生化学物質)検出用のプローブの種類を変更することにより,本発明の生化学センサを用いた各種の生化学物質の検出が可能な生化学検査装置が実現できる。
【0100】
(第4の実施例)
以下,各実施例で説明した本発明の生化学センサの販売方法について説明する。各実施例で説明した,本発明の複数の生化学センサは,以下の態様で販売される。本発明の生化学センサは,試料中の検査対象物質と選択的に結合するほぼ同じ数のプローブが表面に捕捉された複数の微粒子と,相互に分離された複数の区画が設けられた平面状の基板とを具備しており,(1)各生化学センサの各区画での単位面積当たりの微粒子の個数がほぼ同じである生化学センサを,各区画での単位面積当たりに固定された微粒子の個数のデータを記憶した電子媒体と共に販売される。(2)各生化学センサの各区画に1層の複数の微粒子が固定された生化学センサを,各区画での単位面積当たりに固定された微粒子の個数のデータを記憶した電子媒体と共に販売される。(3)各生化学センサの各区画に微粒子が固定された生化学センサを,各区画での単位面積当たりに固定された微粒子の個数のデータを記憶した電子媒体と共に販売される。
【0101】
電子媒体には,各生化学センサの各区画の形状及び大きさも記憶される。更に,電子媒体には,各生化学センサの各区画に固定された微粒子に捕捉された生体物質(生化学物質)検出用のプローブ(DNAプローブ等)の分子数の平均値も記憶される。微粒子に捕捉された生体物質(生化学物質)検出用のプローブの分子数の平均値は,第1,第2の実施例で説明したように,予め,求めておくことができる。
【0102】
電子媒体として,例えば,安価な周知のフロッピーディスクが使用され,フロッピーディスクが添付された生化学センサが販売される。
【0103】
各生化学センサの各区画に固定された微粒子に捕捉された検出用のプローブの分子数の平均値を電子媒体に記憶して,個々の生化学センサの品質を保証して販売するので,ユーザは,検出用のプローブと反応した検査対象物質を検出する前の時点で,各区画に固定された微粒子の数(電子媒体に記憶された値,又は,ユーザによる計測値)と,微粒子に捕捉された検出用のプローブの分子数の平均値とから,各区画に於ける検出用のプローブの分子数を求めることが可能であり,検査対象物質を高い精度で検出できる生化学センサをユーザに提供することができる。
【0104】
従来技術では,DNAチップ上のDNAプローブと検査対象物質とを結合させて,DNAプローブと結合した検査対象物質を検出する過程で,DNAチップから脱落したDNAプローブの数を見積もる方法は知られていなかった。また,基板上の各区画に形成又は固定されるDNAプローブの均一性を計測,評価して,個々のDNAチップの品質を保証して販売する方法はなされていなかった。この結果,DNAチップを使用する分析に於いて,DNAチップの各区画から検出された信号強度が,実際に存在する検査対象物質の量を正確に反映しないという実用上での重大な問題があった。本発明の生化学センサの販売方法では,これら従来技術の問題を解決することが可能となる。
【0105】
【発明の効果】
本発明により,試料中の検査対象物質の有無を多数の試料に関して,同時に高感度で検出できる簡便な生化学センサ,及びこれを用いる生化学検査装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例の生化学センサの構成を説明する図。
【図2】本発明の第1の実施例で使用される,DNAプローブが表面に捕捉された微粒子,及び,DNAプローブと検査対象物質の反応を説明する図。
【図3】本発明の第1の実施例の生化学センサの製作方法,及び,構成を説明する図。
【図4】本発明の第1の実施例の生化学センサの製作方法,及び,構成を説明する図。
【図5】本発明の第1の実施例に於ける複数の生化学センサの製作方法を説明する図。
【図6】本発明の第2の実施例であり,第1の実施例の生化学センサを評価する方法を説明する図。
【図7】本発明の第3の実施例であり,電界を利用したハイブリダイゼーション反応を行なうための生化学センサの構成を説明する図。
【符号の説明】
1…基板,2…微粒子が固定された区画,3…微粒子,4…DNAプローブ,5…微粒子の表面,6…DNAプローブを捕捉するためのリンカー,8…DNAプローブと結合した検査対象物質,9…検査対象物質を検出する標識,12,12’…金属薄膜領域,13…金薄膜領域,14…2層膜領域,21…DNAプローブ−1の溶液,22…DNAプローブ−2の溶液,23…DNAプローブ−3の溶液,24,25,26…スライドガラス,27,28,29…DNAプローブ−1を捕捉した微粒子によるスポット,30,31,32…DNAプローブ−2を捕捉した微粒子によるスポット,33,34,35…DNAプローブ−3を捕捉した微粒子によるスポット,40…半導体レーザ,41…レーザ光線,42…走査型鏡,44…光検出器,45…微粒子が吸着された領域,46…微粒子が基板に均一に吸着している領域,47…微粒子が吸着された領域の面積よりも10分の1以下の面積に集光されたレーザ光,49,51…散乱光強度,49’,51’…レーザ光の走査方向,50…不均一に微粒子が吸着している領域,52…長軸方向が微粒子が吸着された領域のサイズに相当する光スポット,54…微粒子が吸着された領域の面積に相当する光スポット,61…プラス極金属基板,63…金薄膜,64…シリコン基板,65…チタン薄膜,66…ハイブリダイゼーション反応液,71,72,73…反応容器,80…コンタクトマスク,82…コンタクトマスクの穴,90…演算処理装置,91…表示装置。
Claims (6)
- 平面状の基板と、
前記基板上に格子状に設置され、 Ti 、 Cu 、及び Co のいずれかで形成された金属蒸着膜と、
前記基板上に形成された前記金属蒸着膜を覆って形成された金蒸着膜と、
前記金蒸着膜の下に前記金属蒸着膜が形成されていない領域で、前記金蒸着膜の上に固定された複数の微粒子とを有し、
前記微粒子は、ポリスチレン微粒子及びガラス微粒子の少なくともいずれかであり、かつ生化学プローブが固定されていることを特徴とする生化学センサ。 - 平面状の基板と、
前記基板上に格子状に設置され、 Ag 及び Cr のいずれかで形成された金属蒸着膜と、
前記基板上に形成された前記金属蒸着膜を覆って形成された金蒸着膜と、
前記金蒸着膜の下に前記金属蒸着膜が形成された領域で、前記金蒸着膜の上に固定された複数の微粒子とを有し、
前記微粒子は、ポリスチレン微粒子及びガラス微粒子の少なくともいずれかであり、かつ生化学プローブが固定されていることを特徴とする生化学センサ。 - 前記微粒子は一層で固定されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の生化学センサ。
- 前記複数の微粒子が固定された領域は複数の区画に分けられ、前記区画の各々に1層の前記複数の微粒子が固定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の生化学センサ。
- 前記複数の粒子が設置された領域は複数の区画に分けられ、前記区画に、前記区画の各々毎に異なる前記生化学プローブが固定された前記微粒子が固定されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の生化学センサ。
- 請求項1又は請求項2に記載の生化学センサを用いた生化学分析システム。
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