JP3898588B2 - コーヒー抽出液の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、渋味、えぐみなどがないコーヒー感に優れたドリップコーヒー抽出液の製造法、及びそれを用いた長期保存時でも味及び香りに優れた容器詰ドリップコーヒー飲料の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
コーヒー飲料の醍醐味はコーヒーの持つ深い味わい、いわゆるコクと香りである。一般に、コーヒーの抽出方法としては、エスプレッソ法、ドリップ法、サイフォン法、ウォータードリップ法などがあるが、これらの中でも特にドリップ法とエスプレッソ法が特徴的な抽出方法として挙げられる。
【0003】
エスプレッソ法は、深煎りの細挽き豆を専用の設備を用いて温水に圧力を加えて強制的にコーヒー豆の粉末の間を短時間で通り抜けさせる方法である。短時間での抽出を行う必要があることから、固液接触面積を上げる為に使用されるコーヒー豆は粒子が細かく、抽出時に使用される温水に加えられる圧力も1.5〜10気圧超と高い。また抽出時間を短くする為に加える圧力も蒸気圧を用いる方法、電動ポンプを用いる方法など各種の方法がある。また抽出時間が短いことからコーヒー豆に中煎り又は浅煎りを使用した場合、酸味が強く且つ薄い仕上がりになるため通常使用されない。組成からみた場合、得られる抽出液はカフェインの抽出速度が他の成分に比べ相対的に遅いことから抽出液中のカフェイン量はドリップ法に比べ低く、外観としては加圧抽出の影響から抽出液には細密な泡が観察される。
【0004】
一方、ドリップ法は通常、常圧下で重力を利用した抽出が行われる。また用いられるコーヒー豆も荒挽きから細挽きまでいずれの豆も使用されている。細挽き豆を使用した場合は通常遠心分離による固液分離が行われている。また一般的にドリップ法には中煎り又は浅煎りの豆が適しているといわれているが、ミルクコーヒーなどの場合にはコーヒー感がミルク風味に負けないようにする為に、深煎り豆を選択する方法も取られている。
このように工業的にみた場合、ドリップ法は設備負荷が少なくまた目的とするコーヒー抽出液の風味を調節する上で使用可能なコーヒー豆の選択肢が大きいことが特徴である。
【0005】
工業的に有利なドリップ法の風味向上に関するついては以前より多く検討されている。特開平6−70682号においてはドリップ法を応用した大型抽出機を用いる場合、家庭などでの抽出に比べ、味や香りが悪くなることの改善方法として、コーヒーを50℃〜90℃の温水で5〜25分間抽出処理し、引続き0℃〜40℃の水で40〜10分間抽出処理する方法が記載されている。しかしながら、同一のコーヒー豆からの抽出工程において、3回の抽出温度の設定は煩雑であり、工業的にみた場合、分刻みの条件設定が重要となる工程でのアイドルタイムが非常に長くなり、風味の再現性上著しい問題が生じる場合が多かった。
【0006】
特開平1−148152号には、コーヒー豆と熱水の接触効率を上げる為の方法として、熱水をコーヒー豆層に対して下方から注入し且つ下方から底網を通してコーヒー抽出液を取り出す方法が開示されている。本方法によると過抽出による不快成分の抽出を回避することができると記載されている。しかしながら本方法では接触効率を上げる為に熱水とコーヒーを混合しなければならない。
【0007】
一方、特開2000−175624には、コーヒー原料の湿潤及び殺菌を目的として、熱水による抽出前に予め少量の水蒸気などで湿潤及び殺菌を行い、その後比較的低温度で抽出する乳成分を含有したコーヒー飲料の風味向上方法が開示されている。しかしながらこの方法では十分な殺菌効果を得るためにコーヒー原料1重量部に対して、水蒸気を0.2〜1重量部の範囲で使用しなければならず、肝心な香気成分等が飛んでしまい風味の低下は免れ得ない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、渋味、えぐみなどがないコーヒー感に優れたドリップコーヒー抽出液の製造法、及びそれを用いた長期保存時でも味及び香りに優れた容器詰ドリップコーヒー飲料の製造法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者は、ドリップコーヒー液抽出工程の前処理手段について種々検討した結果、一定温度の水蒸気を用いて予めコーヒー豆の温度を上げることにより抽出初期の温水の温度低下を抑えつつ、コーヒー豆層の含水率を制御することによって、渋味、えぐみなどがないコーヒー感に優れたドリップコーヒー抽出液が得られ、またこの抽出液を用いれば長期保存時でも味及び香りに優れた容器詰ドリップコーヒー飲料の製造が可能になることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、ドリップ式の抽出機にコーヒー豆を充填した後、約80℃〜180℃の水蒸気を注入して、コーヒー豆層の含水率を10重量%以上20重量%未満にし、その後常圧下80℃〜100℃の水で抽出処理するドリップコーヒー抽出液の製造法、及びこの方法により得られたコーヒー抽出液を加熱殺菌処理する容器詰ドリップコーヒー飲料の製造法を提供するものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明に使用する焙煎したコーヒー豆の産地はコスタリカ、キューバ、ドミニカ、エルサルバドル、グアテマラ、ハイチ、ホンジュラス、ジャマイカ、メキシコ、ブラジル、コロンビア、エクアドル、ペルー、ベネズエラなどの南北アメリカ種のものやケニア、ダマスカス、ルワンダ、タンザニア、ウガンダ、ザイールカメルーン、アイボリーコースト、エチオピアなどのアフリカ種の他、インド、インドネシア、パプアニューギニア、フィリピン、タイなどのアジア・オセアニア種のものが挙げられるが、ブラジル種、コロンビア種及びエチオピア種から選ばれる1種以上のものが好ましい。焙煎したコーヒー豆の種としては、アラブスタ種、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種、カネフォラ種などがあるが、アラビカ種及び/又はロブスタ種が好ましい。これらの焙煎したコーヒー豆は1種でもよいし、複数種をブレンドして用いてもよい。焙煎は通常の方法で行えばよく、焙煎の程度は所望する呈味により適宜調整すればよい。具体的には焙煎を深くすると苦味が強くなり、焙煎が浅いと酸味が強くなる。焙煎したコーヒー豆は荒挽き、細挽きいずれでもよいが、設備対応の簡便さから細挽き豆以外を使用するのが好ましい。
【0012】
本発明においては、まずコーヒー豆を抽出機に充填する。ここで、抽出機としては、ドリップ式の抽出機であればよく、円筒型抽出器が一般的である。
また圧力に関しては加圧式、常圧式、保温についてはジャケットが使用できる。コーヒー豆の充填は、抽出機中に前記焙煎したコーヒー豆を投入すればよい。
【0013】
本発明では、抽出機中のコーヒー豆層に約80℃〜180℃の水蒸気を注入して、コーヒー豆層の含水率を10重量%以上20重量%未満に調整する。ここで、水蒸気の温度が高すぎると供給するスチーム圧が高くなり設備上の規制が多くなり好ましくない。また水蒸気の温度が低すぎると、本発明の本来の目的が達成されない。好ましい水蒸気温度は80℃〜150℃であり、より好ましくは80℃〜130℃であり、更に好ましくは80℃〜110℃であり、最も好ましくは90℃〜100℃である。
【0014】
一方、ここでコーヒー豆層の含水率を上げる為に使用する媒体に水蒸気を使用する理由としては次のとおりである。単にコーヒー豆層の温度上昇や含水率を上げるだけであれば温水でも可能である。しかしながら大スケールで行う工業レベルでのドリップ抽出においては、抽出時のコーヒー豆層の抽出濾過抵抗を極力抑える必要が生じる。ここで本目的を達成させるために水蒸気ではなく液相媒体を使用した場合、液圧によるコーヒー豆層の圧密化が進行し、コーヒー豆層の空隙構造が壊れ、その結果としてコーヒー豆表面積の減少による抽出初期からの効率の低下を招くと同時にコーヒー豆層の抵抗増加による抽出速度の低下を招き工業仕様上好ましくない。一方、本発明による水蒸気を使用した場合、抽出の前処理によるコーヒー豆層の構造変化を極力抑制することとなり、その後の抽出工程への悪影響を極小化できる。
【0015】
本発明における水蒸気は100℃を超える場合、加圧蒸気が好ましい。
【0016】
本発明における蒸気処理後のコーヒー豆層の含水率は10重量%以上20重量%未満であるが、10重量%〜19.8重量%がより好ましく、10重量%〜19重量%が更に好ましい。含水率が10重量%未満の場合、前処理のないコーヒー豆の抽出方法と同様に、コーヒー感が不足し、渋味、えぐみが多くなり、20重量%以上においては渋味、えぐみはないものの、コクのあるコーヒー感が得られず好ましくない。
【0017】
ここでいうコーヒー豆層の含水率とは、水蒸気注入前の乾燥コーヒー豆総重量と水蒸気注入後の水分を含んだコーヒー豆総重量の差分をコーヒー豆層に取り込まれた水分量と定義し、この水分量を乾燥コーヒー豆総重量で割った値のパーセント表示である。
【0018】
水蒸気のコーヒー豆層への注入方法はコーヒー豆層に対し、下部又は側面から注入するのが好ましい。ここでいう下部又は側面とはコーヒー豆層に面した上部以外の範囲をいう。つまり、コーヒー豆層に対して垂直に下方からの水蒸気の注入でも良く、コーヒー豆層に接触している側面からの注入でも実質的にコーヒー豆層への吹き込みができれば良い。コーヒー豆層の上部に空隙が存在する場合の上部方向からの注入は好ましくない。
【0019】
本発明におけるコーヒー豆層の水蒸気による処理においては、コーヒー豆すべてを均一温度及び含水率にするのが好ましいので、コーヒー層の上部まで加熱液が到達することを確認するのが好ましい。このコーヒー豆層の水蒸気による処理においては水蒸気がコーヒー豆層全体に到達した直後を0分とした場合、0分〜3分未満の処理時間が好ましく、0分〜2分がより好ましく、1分〜2分が更に好ましい。この処理時間が長くなると、渋味、えぐみは改善されるものの、コーヒーの香気成分が消失してしまいコーヒー感が落ちてしまう。一方、この処理時間が短い場合、コーヒー豆層全体の含水処理が不十分となり、味のバラツキの原因となり好ましくない。
【0020】
コーヒー豆層の前処理後の抽出処理方法は、常圧下、80℃〜100℃の水で行われるが、90℃〜100℃の水で行うのが好ましい。抽出温度が低い場合、本発明の効果が得られず好ましくない。
【0021】
本発明の容器詰ドリップコーヒー飲料には、ショ糖、グルコース、フルクトース、キシロース、果糖ブドウ糖液、ステビア、アスパルテーム、スクラロース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、糖アルコールなどの糖分、抗酸化剤、pH調整剤、乳化剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、保存料、調味料、甘味料、品質安定剤等の添加剤を単独、あるいは併用して配合しても良い。乳成分としては、生乳、牛乳、全粉乳、脱脂粉乳、生クリーム、濃縮乳、脱脂乳、部分脱脂乳、れん乳等が挙げられる。本発明の容器詰ドリップコーヒー飲料のpHとしては3〜7、更に4〜7、特に5〜7が飲料の安定性の面で好ましい。
【0022】
抗酸化剤としてはアスコルビン酸又はその塩、エリソルビン酸又はその塩等が挙げられるが、このうちアスコルビン酸又はその塩などが特に好ましい。
無機酸類、無機酸塩類としてはリン酸、リン酸二ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム等が、有機酸類、有機酸塩類としてはクエン酸、コハク酸、イタコン酸、リンゴ酸、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0023】
乳化剤としてはショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、微結晶セルロース、レシチン類、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどが好ましい。
【0024】
容器詰ドリップコーヒー飲料に使用される容器は、一般の飲料と同様にポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶などの通常の形態で提供することができる。ここでいう容器詰ドリップコーヒー飲料とは希釈せずに飲用できるドリップコーヒー飲料をいう。
【0025】
本発明の容器詰ドリップコーヒー飲料は、前記の手段により得られたコーヒー抽出液に、必要により前記の任意成分を配合し、容器詰めの前又は後に加熱殺菌処理することにより得られる。具体的には、例えば、金属缶のように容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた殺菌条件で製造される。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器等で高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用される。また無菌下で、充填された容器に別の成分を配合して充填してもよい。更に、酸性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを中性に戻すことや、中性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを酸性に戻すなどの操作も可能である。
【0026】
【実施例】
以下の実施例において含水率は次のようにして測定した。
【0027】
含水率の測定
含水率(重量%)=〔(水蒸気処理後コーヒー豆層総重量−乾燥コーヒー豆層総重量)/乾燥コーヒー豆層総重量〕×100
【0028】
実施例1
焙煎し粉砕したコーヒー豆(ブラジル種、モカ種及びコロンビア種ブレンド)200gをドリップ式のコーヒー抽出機に充填し、コーヒー抽出機の下部抽出液排出口から、コーヒー豆層に対し約100℃の水蒸気を注入した。注入開始後、目視により注入した水蒸気がコーヒー豆層上部まで行き渡るのを確認し、その直後、前処理工程を終了した。この時の層内温度の実測値は98.5℃であった。また、コーヒー層の含水率は12.35重量%であった。
水蒸気による前処理工程終了後、抽出機上部より95℃の熱水をシャワーリングしながら供給し、ドリップ法により抽出した。
抽出液を直ちに25℃まで冷却し1200gのコーヒー抽出液(6倍抽出液)を得た。得られた抽出液720gに牛乳140g、脱脂粉乳8g、砂糖116g、乳化剤0.6g、重曹2.6gを添加しイオン交換水にて全量が2000gになるように調節した。その後、APVゴーリン(APV(株))にて均質化処理を行い、190g缶に充填後、巻締め、レトルト殺菌(123.5℃、25分)を行い、コーヒー飲料を得た。
【0029】
実施例2
水蒸気がコーヒー豆層上部まで行き渡るのを確認後、1分間の水蒸気通液を行ったこと以外は実施例1と同じ方法で行った。この時の層内温度の実測値は98.5℃であった。また、コーヒー層の含水率は17.45重量%であった。
【0030】
実施例3
水蒸気がコーヒー豆層上部まで行き渡るのを確認後、2分間の水蒸気通液を行ったこと以外は実施例1と同じ方法で行った。この時の層内温度の実測値は98.5℃であった。また、コーヒー層の含水率は19.8重量%であった。
【0031】
比較例1
水蒸気による前処理工程を行わない以外は実施例1と同じ方法で行った。
【0032】
比較例2
水蒸気がコーヒー豆層上部まで行き渡るのを確認後、3分間の水蒸気通液を行ったこと以外は実施例1と同じ方法で行った。この時の層内温度の実測値は98.5℃であった。また、コーヒー層の含水率は21.35重量%であった。
【0033】
比較例3
水蒸気がコーヒー豆層上部まで行き渡るのを確認後、6分間の水蒸気通液を行ったこと以外は実施例1と同じ方法で行った。この時の層内温度の実測値は98.5℃であった。また、コーヒー層の含水率は27.5重量%であった。
【0034】
官能評価
香味に関する専門パネラー3名にて本発明の飲料(実施例1、2、3)及び比較の飲料(比較例1、2、3)の評価を行った。評価項目は加熱殺菌後のコーヒー感、渋味、えぐみであり、結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
実施例2、3については加熱殺菌後においても高いコーヒー感が得られ渋味、えぐみも感じられなかった。実施例1については実施例2、3同様、渋味、えぐみは感じられないものの、コーヒー感が若干弱くなる傾向にあった。比較例1については、前処理工程のない通常の抽出法をとった抽出液を使用しており、特に渋味とえぐみの感じられ方が強烈であった。またコーヒー感はほとんど感じられず、平面的な風味となっていた。一方、比較例2、3については水蒸気による前処理工程はあるものの処理工程が過剰になり過ぎたために渋味、えぐみの改善効果はあるものの、コーヒー感のないものとなっていた。
【0037】
【発明の効果】
本発明によれば、渋味、えぐみなどがなく、コーヒー感に優れた良質のドリップコーヒー抽出液が得られ、これを用いると味及び香りに優れた容器詰ドリップコーヒー飲料が得られる。
Claims (5)
- ドリップ式の抽出機に焙煎したコーヒー豆を充填した後、約80℃〜180℃の水蒸気を注入してコーヒー豆層の含水率を10重量%以上20重量%未満にし、その後常圧下80℃〜100℃の水で抽出処理するドリップコーヒー抽出液の製造法。
- 焙煎したコーヒー豆が、アラビカ種及び/又はロブスタ種である請求項1項記載のドリップコーヒー抽出液の製造法。
- 焙煎したコーヒー豆が、ブラジル種、コロンビア種及びエチオピア種から選ばれる1種以上を含む請求項1項又は2項記載のドリップコーヒー抽出液の製造法。
- 水蒸気をコーヒー豆層の下部又は側面から注入する請求項1〜3のいずれか1項記載のコーヒー抽出液の製造法。
- 請求項1〜4のいずれか1項記載の方法により得られたコーヒー抽出液を加熱殺菌処理する容器詰ドリップコーヒー飲料の製造法。
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