JP3890795B2 - 沸騰冷却装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、冷媒の沸騰と凝縮の繰り返しによって発熱体を冷却する沸騰冷却装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来技術として、特開平8−204075号公報に記載された沸騰冷却装置が公知である。この沸騰冷却装置は、サーモサイホンの原理を用いたもので、液冷媒を貯留する冷媒槽と、この冷媒槽の上部に配置される放熱器とを有し、冷媒槽で発熱体の熱を受けて沸騰した冷媒蒸気が放熱器へ流入し、放熱器に送風される冷却風によって冷却され、液化して冷媒槽へ還流する構成である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記の沸騰冷却装置において、放熱性能を向上させるためには、放熱器へ送風される冷却風量(風速)を増大することが一般に考えられる。
ところが、例えば冷媒槽温度が低く、冷却風速が大きい程、内圧がより低下して冷媒槽内に占める気泡の体積割合が大きくなる(ボイル・シャルルの法則)。従って、特に冷媒封入量を少なくした薄型の冷媒槽では、図6に示すように、冷却風速が大きい場合に冷媒槽温度が低下すると、冷媒槽内の沸騰面がより多くの気泡(冷媒蒸気)で覆われるため、沸騰熱伝達率が低下して沸騰面の温度が急激に上昇(バーンアウト)してしまう。たとえ、冷媒槽が薄型でなくても、内圧が低下すると、沸騰核になり得るキャビティ(μオーダ)が減少し、沸騰熱伝達率が低下してしまうことがある。
冷却風速が小さい場合には、放熱性能が低下するため、冷媒槽温度が高くなってくると発熱体温度(チップ温度)を許容上限温度以下に抑えることができない。以上の結果、冷却風速を一定にすると、より広い作動温度範囲に適用できないという問題が生じる。
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、より広い作動温度範囲で高い放熱性能を確保できる沸騰冷却装置を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
(請求項1の手段)
放熱器へ供給される冷却風量を可変する風量可変手段と、冷媒槽の温度を検出する検出手段とを具備し、冷媒槽は薄型形状に設けられた中空部材を備え、中空部材の内部に冷媒槽内部を区画する複数のリブを有し、検出手段は、冷媒槽表面において前記リブの近傍に取付けられ、風量可変手段は、検出手段の検出値が所定値より低い時に、放熱器へ供給される冷却風量を低減することを特徴とする。
これにより、冷媒槽温度が所定値より低い時は、放熱器への冷却風量を低減することで内圧を上昇させ、冷媒槽内に占める気泡の体積割合を低減できる。その結果、冷媒槽内の沸騰面が多くの気泡(冷媒蒸気)で覆われて沸騰熱伝達率が大幅に低下することはなく、沸騰面温度の急上昇を抑制できる。
【0005】
(請求項2の手段)
請求項1において、風量可変手段は、冷却風を発生する冷却ファンを有し、検出手段の検出値が所定値より低い時に、冷却ファンの送風量を低減することを特徴とする。
放熱器へ送風される冷却風を冷却ファンによって発生させる場合は、冷却ファンの回転数を下げるだけで、容易に放熱器へ供給される冷却風量を低減することができる。
【0006】
(請求項3の手段)
請求項1において、車両の走行によって生じる走行風を放熱器へ導く冷却風導入路を具備し、風量可変手段は、冷却風導入路の通路開口面積を低減できる遮蔽板を有し、検出手段の検出値が所定値より低い時に、遮蔽板によって冷却風導入路の通路開口面積を低減することを特徴とする。この場合、冷却風導入路の通路開口面積を低減することで冷却風導入路の通路抵抗が増大するため、放熱器へ供給される冷却風量を低減できる。
【0007】
(請求項4の手段)
請求項1〜3のいずれか1項において、検出手段は、冷媒槽の温度を測定する温度センサである。この場合、温度センサによって冷媒槽温度を容易に、且つ確実に測定できる。
【0008】
(請求項5の手段)
請求項4において、温度センサは、発熱体の近傍で冷媒槽に接触して設けられている。この場合、発熱体の温度変化に伴う冷媒槽温度をより的確に且つ応答性良く測定できる。
【0010】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
(第1実施例)
図1は沸騰冷却装置1の正面図である。
本実施例の沸騰冷却装置1は、冷媒の沸騰と凝縮の繰り返しによって発熱体2を冷却するもので、内部に液冷媒を貯留する冷媒槽3と、この冷媒槽3で発熱体2の熱を受けて沸騰した冷媒蒸気の熱を放出する放熱器4と、この放熱器4に送風する冷却ファン5(図2参照)とを備える。
発熱体2は、例えば電気自動車のインバータ回路を構成するIGBTモジュールであり、発熱部であるコンピュータチップ(図示しない)を内蔵している。この発熱体2は、図2に示すように、図示しないボルト等によって冷媒槽3の一方の表面に密着して固定される。
【0011】
冷媒槽3は、中空部材6とエンドカップ7から成る。
中空部材6は、アルミニウム等の熱伝導性に優れる金属材料から成る押出成形品で、横幅に対して厚みが薄い薄型形状に設けられ、内部に冷媒室8と液戻り通路9とを形成している。
エンドカップ7は、例えば中空部材6と同じアルミニウム製で、中空部材6の下端部に被せられ、中空部材6の下端面との間に連通路10(図2参照)を形成している。
【0012】
冷媒室8は、内部に貯留する液冷媒が発熱体2の熱を受けて沸騰する沸騰空間であり、中空部材6の左右両側に有する2本のリブ11の間に設けられ、その内部が複数本のリブ12によって複数の通路状に区画されている。
液戻り通路9は、放熱器4で冷却され液化した凝縮液が流入する通路で、図1において、中空部材6の最も左側に設けられている。
連通路10は、液戻り通路9へ流入した凝縮液を冷媒室8へ供給するための通路で、液戻り通路9と冷媒室8とを相互に連通している。
【0013】
放熱器4は、所謂ドロンカップタイプの熱交換器で、連結管13、放熱管14、及び放熱フィン15(図3参照)より構成される。
連結管13は、冷媒槽3との連結部であり、冷媒槽3の上端部に組付けられている。この連結管13は、図3に示すように、プレス成形された2枚の成形プレート13a、13bを接合して形成され、一方の成形プレート13aの長手方向(図3の左右方向)両端部に円形の連通口16が開口している。連結管13の内部は、仕切り板17が配され、この仕切り板17によって冷媒槽3の冷媒室8と連通する第1の連通室(図3では仕切り板17より右側の空間)と、冷媒槽3の液戻り通路9と連通する第2の連通室(図3では仕切り板17より左側の空間)とに仕切られている。また、連結管13の内部には、例えばアルミニウム製のインナフィン18が横向きに挿入されている(図1参照)。
【0014】
放熱管14は、プレス成形された2枚の成形プレート14aを互いの外周縁部で接合して偏平な中空管に形成され、両成形プレート14aの長手方向(図3の左右方向)両端部に円形の連通口19が開口している。但し、最も外側(図3の最も下側)に配される成形プレート14aには連通口19が開口していない。また、放熱管14の内部には、図3に示すように、インナフィン20が挿入されている。
この放熱管14は、図2及び図3に示すように、連結管13の片側に複数個設けられ、互いの連通口19を通じて相互に連通している。また、連結管13と隣接する放熱管14は、連結管13の連通口16と放熱管14の連通口19とを通じて相互に連通している。なお、放熱管14は、図1に示すように、左右両側の連通口19に高低差を持たせるように、若干傾斜した状態で連結管13に組付けられている。
放熱フィン15は、熱伝導性に優れる薄い金属板(例えばアルミニウム板)を交互に折り曲げて波状に成形したもので、図3に示すように、隣合う放熱管14同士の間に介在されて放熱管14の表面に接合されている。
【0015】
冷却ファン5は、図2に示すように、放熱器4の上部に設置され、図示しない制御装置を介して通電されることにより、放熱器4のコア部(放熱管14と放熱フィン15とで構成される放熱部)に対し下方から上方へ垂直送風を行う。
制御装置は、冷媒槽3の表面温度を測定する温度センサ21(図1及び図2参照)の測定値に基づいて、冷却ファン5の送風量(モータ回転数)を例えば2段階(HiとLo)に制御する。具体的には、図4に示すように、温度センサ21の測定値が予め設定された所定値t1 より大きい時は、冷却ファン5の送風量をHiレベル(例えば風速v=5m/sが得られるモータ回転数)とし、温度センサ21の測定値がt1 以下の時は、冷却ファン5の送風量をLoレベル(例えば風速v=1m/sが得られるモータ回転数)とする。なお、前記t1 は、例えば沸騰冷却装置1の放熱量Q=2kwの場合に、冷却ファン5の送風量をHiレベルに設定した時、冷媒室8の沸騰面の温度が急激に上昇してバーンアウトを生じる時の温度より若干高い温度である。
【0016】
温度センサ21は、冷却ファン5の風量レベルを切り替える時のしきい値(所定値t1 )を精度良く決定するために、冷媒槽3の表面温度が最も高くなる部位(IGBTの場合、チップが内蔵されている辺り)に設ける方が良い。但し、本実施例では、冷媒槽3の一方の表面に発熱体2が固定されるため、冷媒槽3の他方の表面に温度センサ21を取り付ける方が都合が良い。そこで、冷媒槽3の他方の表面では、チップの熱が伝達されるリブ11またはリブ12の近傍が最も表面温度が高くなるため、リブ11またはリブ12の近傍に温度センサ21を取り付けると良い(図1参照)。
なお、この場合において、冷媒槽3の両面に発熱体2が固定される場合は、冷媒槽3の表面で発熱体2の近傍(チップに近い部位)に温度センサ21を設けることが望ましい。
【0017】
次に、本実施例の作動を説明する。
発熱体2から発生した熱は、冷媒室8の沸騰面を介して液冷媒に伝達される。発熱体2の熱を受けて沸騰した冷媒蒸気は、冷媒室8を上昇して冷媒室8から連結管13の第1の連通室へ進入し、更に第1の連通室から放熱管14へ流入する。放熱管14へ流入した冷媒蒸気は、放熱管14を流れる際に冷却風によって冷却され、潜熱を放出して凝縮する。冷媒蒸気の潜熱は、放熱管14から放熱フィン15を通じて冷却風に放出される。
放熱管14の内部で凝縮して液滴となった凝縮液は、放熱管14の内部を傾斜下方向(図1の右側から左側)に流れた後、連結管13の第2の連通室へ進入し、更に第2の連通室を通って冷媒室8の液戻り通路9へ流れ込んだ後、連通路10を通って冷媒室8へ還流する。
【0018】
ここで、温度センサ21によって測定される冷媒槽温度Trが所定値t1 より高い場合は、制御装置を介して冷却ファン5の風量レベルがHiに設定され、発熱体2のチップ温度Tjは、チップの許容上限温度Tjmax 以下に抑えられている。
また、冷媒槽温度Trは、発熱体2の発熱量、及び大気温度に相関し、発熱体2の発熱量あるいは大気温度が低い程、冷媒槽温度Trも低下する。従って、冷却ファン5の風量レベルをHiに固定すると、大気温度が低い場合等に、冷媒槽温度Trが所定値t1 以下まで低下し、沸騰面でバーンアウトを生じる可能性がある。そこで、温度センサ21によって測定される冷媒槽温度Trが所定値t1 以下の場合は、制御装置を介して冷却ファン5の風量レベルをLoに切り替える。これにより、冷却ファン5の風量レベルをHi→Loに下げても、発熱体2のチップ温度Tjを許容上限温度Tjmax 以下に抑えることができる。
【0019】
(第1実施例の効果)
本実施例では、冷却ファン5の風量レベルを冷媒槽温度Trに基づいて2段階に切り替えている。つまり、冷媒槽温度Trが所定値t1 より高い場合は、冷却ファン5の風量レベルをHiに設定することで高い放熱性能を維持できる。
また、冷媒槽温度Trが所定値t1 以下の場合は、冷却ファン5の風量レベルをLoに設定することで内圧をより大きくできる。これにより、冷媒槽温度Trが所定値t1 以下の場合でも、安定して沸騰でき、沸騰面でのバーンアウトの発生を防止できる。
以上の結果、要求される作動温度範囲でチップ温度を許容上限温度以下に抑えることができる。
また、冷却ファン5の風量レベルをLoに設定することで、冷却ファン5のモータ寿命を向上できる効果もある。
【0020】
なお、本実施例では、温度センサ21によって測定される冷媒槽温度Trに基づいて冷却ファン5の風量レベルを切り替えているが、冷媒槽温度Tr以外でも、冷媒槽温度Trに相関する物理量、例えば発熱体2の発熱量または大気温度または放熱器4への冷却風量(走行風導入時等)に基づいて冷却ファン5の風量レベルを切り替えても良い。
また、冷却ファン5の風量レベルをHiとLoの2段階に切り替えているが、3段階以上に切り替えても良い。
本実施例の沸騰冷却装置1は、垂直送風に対応した構成であるが、水平送風に対応した構成でも良い。
【0021】
(第2実施例)
図5は沸騰冷却装置1を車両に搭載した状態を示す図面である。
本実施例の沸騰冷却装置1は、図5に示すように、車両EVの前方に搭載され、車両EVの走行に伴って生じる走行風が冷却風導入路22を介して放熱器4に供給される。なお、沸騰冷却装置1は、走行風を受け易い様に、放熱器4のコア面が車両前後方向を向いた状態で設置されている。
冷却風導入路22は、例えば車両EVのフロントグリルに開口する開口部23から放熱器4までダクト状に延びて設けられ、開口部23より導入された走行風を放熱器4まで導くことができる。この冷却風導入路22には、冷却風導入路22の通路開口面積を低減できる遮蔽板24が放熱器4の前方に具備されている。
【0022】
遮蔽板24は、冷却風導入路22に対し上下移動または左右移動あるいは支点24aを中心として回動可能に設けられ、図示しないアクチュエータにより作動する。
アクチュエータは、第1実施例に記載した温度センサ21の測定値に基づいて制御装置により制御される。具体的には、温度センサ21の測定値が所定値t1 より大きい時は、冷却風導入路22を全開する位置に遮蔽板24を駆動し、温度センサ21の測定値がt1 以下の時は、冷却風導入路22の通路開口面積を低減する位置(図5に示す位置)に遮蔽板24を駆動する。
【0023】
上記の構成によれば、温度センサ21の測定値が所定値t1 より大きい時は、遮蔽板24が冷却風導入路22を全開するので、冷却風導入路22を通じて走行風が放熱器4へ供給される。また、温度センサ21の測定値が所定値t1 以下の時は、遮蔽板24が冷却風導入路22の通路開口面積を低減するため、冷却風導入路22の通路抵抗が増大する。その結果、冷却風導入路22を全開する場合と比較して、放熱器4へ供給される冷却風量が低減する。これにより、冷媒槽温度Trが所定値t1 以下の場合でも、内圧の大幅な低下を防止でき、安定した沸騰状態を保つことができる。
なお、本実施例の場合、放熱器4へ冷却風を走行風によって確保しているが、第1実施例に記載した冷却ファン5を併用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】沸騰冷却装置の正面図である(第1実施例)。
【図2】沸騰冷却装置の側面図である(第1実施例)。
【図3】放熱器の断面図である(第1実施例)。
【図4】本発明の制御内容を示す説明図である。
【図5】沸騰冷却装置を車両に搭載した状態を示す図面である(第2実施例)。
【図6】冷媒槽温度とチップ温度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 沸騰冷却装置
2 発熱体
3 冷媒槽
4 放熱器
5 冷却ファン
6 中空部材
11 リブ
12 リブ
21 温度センサ(検出手段)
22 冷却風導入路
24 遮蔽板
EV 車両

Claims (5)

  1. 発熱体の熱を受けて沸騰する液冷媒を貯留する冷媒槽と、
    この冷媒槽で沸騰した冷媒蒸気を冷却風との熱交換によって冷却する放熱器とを備えた沸騰冷却装置であって、
    前記放熱器へ供給される冷却風量を可変する風量可変手段と、
    前記冷媒槽の温度を検出する検出手段とを具備し、
    前記冷媒槽は薄型形状に設けられた中空部材を備え、前記中空部材の内部に前記冷媒槽内部を区画する複数のリブを有し、
    前記検出手段は、前記冷媒槽表面において前記リブの近傍に取付けられ、
    前記風量可変手段は、前記検出手段の検出値が所定値より低い時に、前記放熱器へ供給される冷却風量を低減することを特徴とする沸騰冷却装置。
  2. 前記風量可変手段は、冷却風を発生する冷却ファンを有し、前記検出手段の検出値が所定値より低い時に、前記冷却ファンの送風量を低減することを特徴とする請求項1に記載した沸騰冷却装置。
  3. 車両の走行によって生じる走行風を前記放熱器へ導く冷却風導入路を具備し、
    前記風量可変手段は、前記冷却風導入路の通路開口面積を低減できる遮蔽板を有し、前記検出手段の検出値が所定値より低い時に、前記遮蔽板によって前記冷却風導入路の通路開口面積を低減することを特徴とする請求項1に記載した沸騰冷却装置。
  4. 前記検出手段は、前記冷媒槽の温度を測定する温度センサであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載した沸騰冷却装置。
  5. 前記温度センサは、前記発熱体の近傍で前記冷媒槽に接触して設けられていることを特徴とする請求項4に記載した沸騰冷却装置。
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