JP3951541B2 - 沸騰冷却装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、冷媒の沸騰熱伝達によって半導体素子等の発熱体を冷却する沸騰冷却装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
IGBTモジュール等の半導体素子を冷却する従来技術として、例えば特開平8−204075号に開示された沸騰冷却装置がある。
この沸騰冷却装置は、密閉された空間を形成する冷却器(通常は冷媒槽と放熱器とで構成される)を備え、この冷却器内に封入された冷媒の沸騰熱伝達によって発熱体を冷却するものである。冷却器の材質としては、熱伝導率が高く、且つ加工性に優れた金属が使用され、一般的にはアルミニウムが最も多く採用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、熱交換器の材質としてアルミニウム(Al)を使用し、且つ冷媒として安価な水(H2 O)を使用した場合、アルミニウムの方が冷媒中の水素よりイオン化傾向が大きいため、アルミニウムと水とが化学反応を起こして水素ガス(H2 )が発生する。この結果、発生した水素ガス(不凝縮ガス)が放熱器内に溜まると、▲1▼放熱器の有効コア体積が減少し、▲2▼冷却器の内圧が上昇して冷媒の沸点が上昇することから、放熱性能が大幅に低下するという問題を生じる。
【0004】
ここで、水素ガスの発生を防止するためには、冷却器の材質であるアルミニウムの表面に被膜を形成して、アルミニウムと水との化学反応を抑制することが考えられる。そこで、本発明者は、表面処理として一般的なベーマイト処理を冷却器の内面に実施したが、沸騰流の影響で被膜が破壊されてしまうため、水素ガスの発生を抑制することができず、図11に示すように、時間が経過するに連れて放熱性能(冷却器の熱抵抗値)が低下する結果となった。
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、アルミニウムを材質とする冷却器の内面に耐久性の高い被膜を形成することで、長期間に渡って水素ガスの発生を防止できる沸騰冷却装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
(請求項1の手段)
密閉された空間を形成するアルミニウム製の冷却器を備え、この冷却器内に水(H2 O)を主成分とする冷媒が封入され、この冷媒の沸騰熱伝達によって発熱体を冷却する沸騰冷却装置であって、冷却器の内面に珪酸被膜(SiO2 )が形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、冷媒を封入する冷却器の内面に珪酸被膜(SiO2 )が形成されることにより、冷却器の材質であるアルミニウムと冷媒の主成分である水との接触を防止できる。その結果、アルミニウムと水とが化学反応して水素ガスが発生することを防ぐことができる。
【0006】
(請求項2の手段)
請求項1に記載した沸騰冷却装置において、
被膜は、450℃以上の温度で加熱して乾燥させた時に、セラミック化して無機被膜となるSiO2 処理溶液を用いて形成される。この場合、被膜の厚みを0.5μm以下とすることで、被膜形成時にクラック欠陥が発生することを防止できる。
【0007】
(請求項3の手段)
請求項1に記載した沸騰冷却装置において、
被膜は、常温から200℃以下の温度で加熱して乾燥させた時に、セラミック化して無機被膜となるSiO2 処理溶液を用いて形成される。この場合、処理温度が低いので、クラック欠陥が発生し難く、被膜の厚みを10μm以下とすることができる。
【0008】
(請求項4の手段)
請求項1に記載した沸騰冷却装置において、
冷却器は、内部に液冷媒を貯留し、外表面に発熱体が取り付けられる冷媒槽と、この冷媒槽で発熱体の熱を受けて沸騰した冷媒蒸気が流れ込み、その冷媒蒸気の熱を外部流体に放出する放熱器とを備えている。この場合、冷媒槽の内面と放熱器の内面とに珪酸被膜が形成されている。
【0009】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
(第1実施例)
図1は沸騰冷却装置1の側面図、図2は沸騰冷却装置1の正面図である。
本実施例の沸騰冷却装置1は、内部に封入される冷媒の沸騰熱伝達によって発熱体2を冷却するもので、液冷媒を貯留する冷媒槽3と、この冷媒槽3の上部に組付けられる放熱器4とを備え、装置全体がアルミニウム製で一体ろう付けにより製造されている。この沸騰冷却装置1に使用される冷媒は、水(H2 O)であり、必要に応じて不凍液を加えても良い。
【0010】
発熱体2は、例えば電気自動車のインバータ回路を構成するIGBTモジュールであり、図1に示すように、冷媒槽3の表面に密着してボルト5等により固定される。
冷媒槽3は、押出材6とエンドプレート7で構成される。
押出材6は、アルミニウムの押出成形品で、図3に示すように、横幅に対して厚み幅が薄い薄型形状に設けられ、その内部に下述の沸騰通路8、液戻り通路9、及び断熱通路10を構成する複数の通路状空間部が形成されている。
【0011】
沸騰通路8は、発熱体2の熱を受けて沸騰した冷媒蒸気(気泡)が流出する通路で、発熱体2の取付け範囲に対応して複数本形成されている。また、沸騰通路8を形成する押出材6の内壁面は、発熱体2の熱を液冷媒に伝達する伝熱面を形成している。更に、各沸騰通路8には、図3(a)に示すように、伝熱面の一部を構成するプレート部材11(下述する)が挿入されている。
液戻り通路9は、放熱器4で冷却されて液化した凝縮液が流入する通路で、押出材6の両端部に設けられている。
【0012】
断熱通路10は、沸騰通路8と液戻り通路9との間を断熱するための通路で、液戻り通路9と沸騰通路8との間に設けられている。
押出材6の上端部は、図3(b)に示すように、液戻り通路9と断熱通路10を含む両端部と複数の沸騰通路8を含む中央部とで高低差を有し、両端部より中央部の方が上方へ突出して設けられ、且つ中央部は、図3(c)に示すように、その上端面が傾斜している。
【0013】
エンドプレート7は、図4に示すように、左右方向に細長く、且つ外周縁部7aより内側部分7bが若干突起して設けられている。このエンドプレート7は、図5に示すように、突起している内側部分7bを押出材6の下端開口部内に嵌め込んで、外周縁部7aを押出材6の外周下端面に当接させることにより、押出材6の下端開口部を塞いでいる。
エンドプレート7で塞がれた押出材6の下端部には、液戻り通路9へ流入した凝縮液を沸騰通路8へ還流させるための連通路12が形成され(図5参照)、この連通路12を介して液戻り通路9と沸騰通路8及び断熱通路10とが相互に連通している。
【0014】
前記のプレート部材11は、母材となるアルミニウム板の少なくとも片面にろう材層を設けたクラッド材であり、図6(a)に示すように、幅方向の一端側辺部に複数の切欠き部11aが略等間隔に設けられ、切欠き部11aと反対側に凸部11bが設けられている。このプレート部材11は、図7に示すように、切欠き部11aを有する一端側辺部が、沸騰通路8を形成する押出材6の一方の内壁面に形成された溝部6aに挿入され、凸部11bの先端部が押出材6の他方の内壁面に形成された溝部6bに挿入されて、沸騰通路8の内部で位置決めされている。なお、プレート部材11は、図6(b)に示すように、切欠き部11aを凸部11b側の辺部に形成したものを使用しても良い。
【0015】
放熱器4は、図2に示すように、放熱フィン13を介して並設される複数本のチューブ14と、各チューブ14の上部に設けられる上部タンク15と、各チューブ14の下部に設けられる下部タンク16とで構成され、この下部タンク16の内部に冷媒槽3の上端部が挿入されている。
放熱フィン13は、熱伝導率が高い薄い金属板(例えばアルミニウム板)を交互に折り曲げて波状に成形したもので、チューブ14の表面に接合されている。
チューブ14は、アルミニウム製の偏平な管を所定の長さに切断して、上部タンク15と下部タンク16との間に複数本並設されている。
【0016】
チューブ14の内部には、図8に示すように、インナフィン17が挿入されている。インナフィン17は、アルミニウムの薄板を所定のピッチで交互に折り曲げて波状に成形したもので、チューブ14内の凝縮面積を増大させるとともに、チューブ14内に冷媒循環路(後述する)を形成する目的で用いられる。このインナフィン17は、折り曲げ部(山と谷)の延設方向をチューブ14の通路方向(図8(b)の上下方向)に向けてチューブ14内に挿入され、且つチューブ14内の横幅方向(図8の左右方向)で右側に片寄って配置され、各折り曲げ部がチューブ14の内壁面に当接して、ろう付けされている。
【0017】
これにより、チューブ14内には、図8においてインナフィン17の左側に確保される第1の通路(以後、蒸気通路18と呼ぶ)と、インナフィン17のピッチ間に形成される複数の第2の通路(以後、凝縮液通路19と呼ぶ)とを有し、その蒸気通路18と凝縮液通路19とで前記の冷媒循環路を構成している。
なお、チューブ14は、放熱フィン13との接合面である両側面が、放熱器4に送風される冷却風の流れ方向に沿って配置されるが、この時、凝縮液通路19より蒸気通路18の方が冷却風の流れ方向下流側に位置するようにチューブ14の向きを特定している(図1参照)。
【0018】
上部タンク15は、浅皿状のコアプレート15Aと深皿状のタンクプレート15Bとを組み合わせて構成され、コアプレート15Aに開けられている複数の長孔(図示しない)にそれぞれチューブ14の上端部が挿入されている(図2参照)。
下部タンク16は、浅皿状のコアプレート16Aと深皿状のタンクプレート16Bとを組み合わせて構成され、コアプレート16Aに開けられている複数の長孔(図示しない)にそれぞれチューブ14の下端部が挿入されている(図2参照)。
【0019】
上述した冷媒槽3は、図1に示すように、押出材6の上端部が下部タンク16の内部に挿入され、下部タンク16に対し大きく傾いて組付けられている。
また、下部タンク16の内部には、各沸騰通路8より流出した冷媒蒸気をチューブ14内の蒸気通路18へ優先的に流れ込むように導くとともに、チューブ14内で液化した凝縮液が各沸騰通路8内へ落下することを防止するための冷媒流制御板20が設けられている。
【0020】
この沸騰冷却装置1は、冷媒が封入される装置内部のアルミニウム表面(冷媒槽3の内面、下部タンク16の内面、各チューブ14の内面、及び上部タンク15の内面)に、珪酸被膜(SiO2 )21が形成されている(図9参照)。
この被膜21は、SiO2 処理溶液を加熱、乾燥させて形成される。
SiO2 処理溶液は、▲1▼450℃以上の温度で加熱し、乾燥させた時にセラミック化(硬化)して無機被膜となるもの、又は▲2▼触媒反応により常温から200℃以下の温度で加熱し、乾燥させた時にセラミック化して無機被膜となるものを使用することが望ましい。
【0021】
但し、上記▲1▼及び▲2▼に示した何れのSiO2 処理溶液であっても、アルコール系の溶媒を使用すれば、アルミニウムに対して濡れ性が良いので、SiO2 処理溶液をディップ又は塗布により一様にアルミニウムの表面に付着できる。
なお、▲1▼のSiO2 処理溶液を使用して被膜21を形成する時は、被膜21の厚みを0.5μm以下とすれば、被膜形成時にクラック欠陥が発生することを防止できる。また、▲2▼のSiO2 処理溶液を使用して被膜21を形成する時は、処理温度が低いので、クラック欠陥が発生し難いため、被膜21の厚みを10μm以下とすることが望ましい。
【0022】
次に、沸騰冷却装置1の作動を説明する。
冷媒槽3に貯留されている液冷媒は、発熱体2の熱が伝熱面である押出材6の内壁面及びプレート部材11の表面から伝わって沸騰し、蒸気となって各沸騰通路8から下部タンク16内へ流出する。下部タンク16内へ流出した冷媒蒸気は、図10に示すように、冷媒流制御板20に沿って流れ、チューブ14内の主に蒸気通路18へ流入する。
蒸気通路18を上昇して上部タンク15内に流入した冷媒蒸気は、上部タンク15の内部で拡散され、より均一化されて凝縮液通路19内に流入し、インナフィン17の表面及びチューブ14の内壁面に凝縮して液化する。
【0023】
凝縮液通路19内で液化した凝縮液の多くは下部タンク16内へ落下するが、一部の凝縮液は表面張力によってインナフィン17の下部に保持され、液溜まり部22を形成する(図10参照)。この液溜まり部22は、放熱量が増大した時に、各沸騰通路8から冷媒蒸気とともに吹き上げられて上昇してくる液冷媒がインナフィン17の下部表面に当たり、表面張力によってインナフィン17の下部に捕らえられることでも形成される。このインナフィン17の液溜まり部22に溜まった凝縮液も、蒸気通路18を上昇する冷媒蒸気の圧力に押されて液溜まり部22から下部タンク16内へ順次落下する。
下部タンク16に溜まった凝縮液は、液戻り通路9及び断熱通路10へ流れ込み、両通路9、10から連通路12を経て各沸騰通路8へ還流する。
【0024】
(本実施例の効果)
本実施例の沸騰冷却装置1は、冷媒を封入する装置内部のアルミニウム表面に珪酸被膜21(図9参照)を形成しているので、装置内部に封入された冷媒(水)がアルミニウム表面に直接触れることがなく、アルミニウムと水との化学反応を防止できる。特に、沸騰冷却装置1では、冷媒槽3内で発熱体2の熱を受けた冷媒が激しく沸騰するが、セラミック化した珪酸被膜21であれば、沸騰流によって簡単に破壊されることはなく、長期間に渡って被膜21が保持される。これにより、水素ガスの発生を防止できるので、放熱器4の有効コア体積が減少することはなく、且つ冷媒の沸点が上昇することもない。
【0025】
この結果、図11に示すように、長時間に渡って放熱性能が低下することはなく、安定した性能を維持することができる。なお、図11は、沸騰冷却装置の放熱性能を表す熱抵抗値(冷媒槽の表面温度−大気温度)を測定したもので、従来技術で説明したように、アルミニウムの表面にベーマイト処理を実施した場合は、時間経過と共に熱抵抗値が次第に増大し、放熱性能が低下していることを示している。つまり、ベーマイト処理によって形成された被膜が沸騰流の影響等によって破壊されていると判断できる。これに対し、本発明の構成(アルミニウムの表面に珪酸被膜21を形成した場合)では、長時間経過しても熱抵抗値が増大することはなく、珪酸被膜21が破壊されていないと判断できるので、耐久性の高い沸騰冷却装置1を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】沸騰冷却装置の側面図である。
【図2】沸騰冷却装置の正面図である。
【図3】押出材の上面図(a)、正面図(b)、側面図(c)である。
【図4】エンドプレートの側面図(a)、平面図(b)、断面図(c)である。
【図5】エンドプレートの取付け状態を示す断面図である。
【図6】プレート部材の平面図(a)、(b)である。
【図7】沸騰通路部の拡大断面図である。
【図8】インナフィンを有するチューブの上面図(a)と正面図(b)である。
【図9】アルミニウム表面に形成された被膜の断面図である。
【図10】冷媒蒸気の流れを示す放熱器の断面図である。
【図11】沸騰冷却装置の熱抵抗値の測定値を示すグラフである。
【符号の説明】
1 沸騰冷却装置
2 発熱体
3 冷媒槽
4 放熱器
21 被膜

Claims (4)

  1. 密閉された空間を形成するアルミニウム製の冷却器を備え、この冷却器内に水(H2 O)を主成分とする冷媒が封入され、この冷媒の沸騰熱伝達によって発熱体を冷却する沸騰冷却装置であって、
    前記冷却器の内面に珪酸被膜(SiO2 )が形成されていることを特徴とする沸騰冷却装置。
  2. 請求項1に記載した沸騰冷却装置において、
    前記被膜は、450℃以上の温度で加熱して乾燥させた時に、セラミック化して無機被膜となるSiO2 処理溶液を用いて形成され、且つ前記被膜の厚みは、0.5μm以下であることを特徴とする沸騰冷却装置。
  3. 請求項1に記載した沸騰冷却装置において、
    前記被膜は、常温から200℃以下の温度で加熱して乾燥させた時に、セラミック化して無機被膜となるSiO2 処理溶液を用いて形成され、且つ前記被膜の厚みは、10μm以下であることを特徴とする沸騰冷却装置。
  4. 請求項1に記載した沸騰冷却装置において、
    前記冷却器は、内部に液冷媒を貯留し、外表面に前記発熱体が取り付けられる冷媒槽と、この冷媒槽で前記発熱体の熱を受けて沸騰した冷媒蒸気が流れ込み、その冷媒蒸気の熱を外部流体に放出する放熱器とを備えていることを特徴とする沸騰冷却装置。
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