JP3889964B2 - チューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、チューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物に関し、特に、薄肉成形品におけるキンク性、押出成形性、多層押出成形性に優れるチューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物および食品、医療、自動車、工業用チューブまたはホース部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ゴム弾性を有する軟質材料であって、加硫工程を必要とせず、熱可塑性樹脂と同様な成形加工性及びリサイクルが可能な熱可塑性エラストマーが、自動車部品、家電部品、電線被覆、医療用部品、履物、雑貨等の分野で多用されている。
【0003】
熱可塑性エラストマーの中でも、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物のブロック共重合体であるスチレン−ブタジエンブロックポリマー(SBS)やスチレン−イソプレンブロックポリマー(SIS)などのポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、柔軟性に富み、常温で良好なゴム弾性を有し、かつ、これらより得られる熱可塑性エラストマー組成物は加工性に優れており、加硫ゴムの代替品として広く使用されている。
【0004】
また、これらのエラストマー中のスチレンと共役ジエンのブロック共重合体の分子内二重結合を水素添加したエラストマー組成物は、耐熱老化性(熱安定性)および耐候性を向上させたエラストマーとして、さらに広く多用されている。
【0005】
しかしながら、これらの水素添加ブロック共重合体を用いた熱可塑性エラストマー組成物は、未だゴム的特性、例えば、耐油性、加熱加圧変形率(圧縮永久歪み)や高温時のゴム弾性に問題があり、この点を改良するものとして、上記ブロック共重合体の水素添加誘導体を含む組成物を架橋させて得られる架橋体が提案されている(例えば、特開昭59−6236号公報、特開昭63−57662号公報、特公平3−49927号公報、特公平3−11291号公報及び特公平6−13628号公報)。
【0006】
また、上記公報に開示されている水添ブロック共重合体の架橋組成物は、高温時、特に100℃における圧縮永久歪みが未だに不十分であり、機械強度が低下し易いという問題があり、従来加硫ゴム用途で要求されている性能レベルに到達していないのが現状である。また押出成形では高温時の溶融張力が低いために形状保持性が悪化し、射出成形では成形サイクルが長くなるなど、成形加工面の問題点も多い。
【0007】
さらに、上記公報に開示された組成物はいずれも、食品、医療、自動車、工業用ホースまたはチューブにした場合、特に薄肉成形品(例えば内径5mm、外径8mm程度のチューブの場合、肉厚1.8mm以下で顕著)のキンク性(曲げ、ひねり時の折れにくさ)、押出成形性、多層押出成形性に劣っているのが現状である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題点に鑑み、キンク性、押出成形性、多層押出成形性に優れる食品、医療、自動車、工業用ホースおよびチューブ部材用熱可塑性エラストマー組成物を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のオレフィン系共重合体ゴムとパーオキサイド分解型オレフィン系樹脂を所定量溶融混練処理することにより、キンク性、押出成形性、多層押出成形性に優れることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
請求項1に記載の発明は、(a)結晶化度が1重量%以下であるエチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴム100重量部、及び(b)パーオキサイド分解型オレフィン系樹脂15〜150重量部を含有する組成物を溶融混練処理してなり、有機過酸化物処理を行わないことを特徴とする医療用チューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物である。
請求項2に記載の発明は、(a)エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴムが、エチレン含有量が40〜70重量%であることを特徴とする請求項1に記載の医療用チューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物である。
請求項3に記載の発明は、さらに、(e)無機充填剤1〜150重量部を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の医療用チューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物である。
請求項4に記載の発明は、さらに、(f)共役ジエン系共重合体及び/又は水添共役ジエン系共重合体1〜100重量部を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療用チューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物である。
請求項5に記載の発明は、さらに、(g)非芳香族系ゴム用軟化剤1〜100重量部を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療用チューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物である。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のチューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物を成形加工した医療用チューブおよびホース部材である。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明を構成する成分、製造方法、用途について以下に詳細に説明する。
【0020】
1.熱可塑性エラストマー組成物の構成成分
(1)オレフィン系共重合体ゴム成分(a)
本発明のチューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物で用いるオレフィン系共重合体ゴム成分(a)は、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等のα−オレフィンが共重合してなるエラストマーあるいはこれらと非共役ジエンとが共重合してなるオレフィン系共重合体ゴムが挙げられる。
【0021】
非共役ジエンとしては、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、ジシクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等を挙げることができる。
【0022】
このようなオレフィン系共重合体ゴムとしては、具体的には、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴム、エチレン−1−ブテン共重合体ゴム、エチレン−1−ブテン−非共役ジエン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体ゴム等のエチレン系共重合体ゴムが挙げられる。
【0023】
上記エチレン系共重合体ゴムにおけるエチレン含有量は、40〜70重量%が好ましく、より好ましくは45〜65重量%である。エチレン含有量が40重量%未満であると機械特性、耐熱性の低下が顕著になり、70重量%を超えると柔軟性を失うと同時にゴム弾性が顕著になりキンク性が悪化する。
【0024】
また、オレフィン系共重合体ゴム(a)の、DSC測定によるポリエチレンの結晶化度は20重量%以下が好ましく、より好ましくは15重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以下である。結晶化度が20重量%を超えると、得られるチューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性が低下し、熱可塑性エラストマー組成物の硬度が高くなり過ぎ柔軟性が失われてゴム的感触の製品が得られない。
【0025】
ここで、結晶化度は、つぎの測定方法による値である。
(i)サンプルを重量の分かったアルミパンに入れ、封入前に100Pa以下の圧力下で24時間乾燥する。
(ii)乾燥後、速やかにサンプル容器全体の重さを測定し加圧密封する。
(iii)DSCのサンプルホルダーにサンプル容器をセットし、10℃/分の昇温速度で230℃まで昇温する。
(iv)230℃で60分維持し、試料を完全に溶融または緩和させる。
(v)昇温速度と同一速度(10℃/分)で30℃まで冷却する。
(vi)等温結晶化過程において生成する結晶の完全度が結晶の生成時期と無関係に一定と仮定して、結晶化熱(ΔHc)から結晶化度を評価する。
(vii)結晶化度はHDPE(HJ560:日本ポリケム、比重0.964)の結晶化熱(ΔHc)を100としてオレフィン系共重合体ゴム(a)の結晶化熱(ΔHc)を重量%で標記する。
【0026】
(2)パーオキサイド分解型オレフィン系樹脂成分(b)
本発明のチューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物で用いるパーオキサイド分解型オレフィン系樹脂成分(b)は、得られる熱可塑性エラストマー組成物のゴム分散を良好にし、かつ成形品の外観を良好にすると共に、硬度及び収縮率の調整に効果を有するものである。成分(b)は、パーオキサイドの存在下に加熱処理することによって熱分解して適度に分子量を減じ、溶融時の流動性が増大するオレフィン系の重合体又は共重合体であり、例えば、アイソタクチックポリプロピレンやプロピレンと他のα−オレフィン、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンなどとの共重合体を挙げることができる。
【0027】
上記オレフィン系共重合体のホモ重合体部分のDSC測定による融点は、好ましくは、Tmが150〜167℃、△Hmが25〜83mJ/mgの範囲のものである。結晶化度はDSC測定のTm、△Hmから推定することができる。Tm、△Hmが上記の範囲外では、得られる熱可塑性エラストマー組成物の耐油性や100℃以上におけるゴム弾性が改良されない。
【0028】
また、成分(b)のメルトフローレート(MFR、ASTM D−1238、L条件、230℃)は、好ましくは0.1〜200g/10分、更に好ましくは0.5〜100g/10分である。MFRが0.1g/10分未満では、得られる熱可塑性エラストマー組成物の成形性が悪化し、200g/10分を超えると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度が低下する。
【0029】
成分(b)の配合量は、成分(a)100重量部に対して、15〜150重量部であり、好ましくは40〜100重量部である。配合量が15重量部未満では、得られる熱可塑性エラストマー組成物の成形性が悪化し、剥離や変形及びフローマークが成形品に生じ易くなる。150重量部を超えると熱可塑性エラストマー組成物の硬度が高くなり過ぎ柔軟性が失われてゴム的感触の製品が得られない。
【0030】
(3)有機過酸化物成分(c)
本発明のチューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物においては、必要に応じて、有機過酸化物成分(c)を配合することができる。成分(c)は、ラジカルを発生せしめ、そのラジカルを連鎖的に反応させて、成分(a)を架橋せしめる働きを有し、同時に成分(b)を分解して溶融混練時の組成物の流動性を増大させてゴム成分の分散を良好にせしめる。
【0031】
成分(c)としては、例えば、ジクミルパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3、3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキシド、p−クロロベンゾイルパーオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキシド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、tert−ブチルクミルパーオキシド等を挙げることができる。これらのうちで、臭気性、着色性、スコーチ安全性の観点から、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3が特に好ましい。
【0032】
成分(c)の配合量は、配合する場合は、成分(a)100重量部に対して、0.01〜3重量部が好ましく、より好ましくは0.01〜1重量部である。配合量が0.01重量部未満では、添加効果が見られない。一方、3重量部を超えると、成形性が悪くなる。
【0033】
(4)エステル系架橋助剤成分(d)
本発明のチューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物においては、必要に応じて、エステル系架橋助剤成分(d)を配合することができる。成分(d)は、上記の有機過酸化物(c)による架橋処理に際して、均一かつ効率的な架橋反応を行わせる効果を有す。
【0034】
成分(d)としては、例えば、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールの繰り返し単位数が9〜14のポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレートのような多官能性メタクリレート化合物、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレートのような多官能性アクリレート化合物、ビニルブチラート又はビニルステアレートのような多官能性ビニル化合物を配合することができる。これらは、単独あるいは2種類以上を組み合わせて用いても良い。上記の架橋助剤のうち、多官能性アクリレート化合物または多官能性メタクリレート化合物が好ましく、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートが特に好ましい。該化合物は、取扱いが容易であると共に、有機過酸化物の可溶化作用を有し、有機過酸化物の分散助剤として働くため、熱処理による架橋が均一かつ効果的になされ、硬さとゴム弾性のバランスのとれた熱可塑性エラストマーを得ることができる。
【0035】
成分(d)の配合量は、配合する場合は、成分(a)100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.02〜2重量部である。配合量が0.01重量部未満では、添加効果が見られない。一方、10重量部を超えると、成形性が悪くなる。
【0036】
(5)無機充填剤成分(e)
本発明のチューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物においては、必要に応じて、無機充填剤成分(e)を配合することができる。成分(e)は、熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形品の圧縮永久歪みなど一部の物性を改良する効果のほかに、増量による経済上の利点を有する。
【0037】
成分(e)としては、緑泥石、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、珪藻土、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、マイカ、クレー、酸化チタン、カーボンブラック、ガラス繊維、中空ガラスバルーン、炭素繊維、チタン酸カルシウム繊維、天然けい酸、合成けい酸(ホワイトカーボン)等が挙げられる。これらのうち、ウォラストナイト、緑泥石、炭酸カルシウム、タルク、マイカが特に好ましく、ウォラストナイト、マイカがよりさらに好ましい。
【0038】
成分(e)の配合量は、配合する場合は、成分(a)100重量部に対して、1〜150重量部が好ましく、より好ましくは20〜110重量部である。配合量が、150重量部を超えると、得られるエラストマー組成物の機械的強度の低下が著しく、かつ、硬度が高くなって柔軟性が失われ、ゴム的な感触の製品が得られなくなる。
【0039】
(6)共役ジエン系共重合体及び/又は水添共役ジエン系共重合体成分(f)
本発明のチューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物においては、必要に応じて、共役ジエン系共重合体及び/又は水添共役ジエン系共重合体成分(f)を配合することができる。成分(f)は、共役ジエン系共重合体及び該共役重合体中の共役ジエン系部分を水素添加または一部水素添加して得られる共重合体であって、以下の(f−1)〜(f−3)成分が挙げられる。
【0040】
(f−1)芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物ランダム共重合体及び/又はその水素添加物
本発明で用いる芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物ランダム共重合体としては、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのランダム共重合体であって、数平均分子量が好ましくは5,000〜1,000,000であり、より好ましくは10,000〜350,000であり、多分散度(Mw/Mn)の値が10以下であり、且つ、その共役ジエン部の1,2結合あるいは3,4結合などのビニル結合含有量が5%以上であり、好ましくは20〜90%である。5%未満では得られる成形品の感触が硬くなり、本発明の目的に添わない。
ここで、成分(f−1)を構成する芳香族ビニル化合物の含有量は、50重量%以下、好ましくは、5〜35重量%である。50重量%を超えると得られる成形品の感触が硬くなり、本発明の目的に添わない。
【0041】
成分(f−1)における芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルトルエン、p−第3ブチルスチレンなどのうちから1種または2種以上が選択でき、中でもスチレンが好ましい。
また、共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンなどのうちから1種または2種以上が選ばれ、中でもブタジエン、イソプレンおよびこれらの組合せが好ましい。
【0042】
芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物は、ランダムに結合しており、コルソフ[I.M.Kolthoff,J.Polymer Sci.,Vol 1 p.429 (1946)]の方法によりブロック状の芳香族ビニル化合物含量が全結合芳香族ビニル化合物中10重量%以下、好ましくは5重量%以下であるのが好ましい。また、該共重合体の水素添加物は、共役ジエン化合物に基づく脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されたものが好ましい。
【0043】
成分(f−1)の具体例としては、スチレン・ブタジエンランダム共重合体(SBR)、水素添加スチレン・ブタジエンランダム共重合体(HSBR)を挙げることができる。本発明においては、SBR、HSBRを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
(f−2)芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体及び/又はその水素添加物
成分(f−2)は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAの少なくとも2個と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBの少なくとも1個とからなるブロック共重合体及び該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体である。例えば、A−B−A、B−A−B−A、A−B−A−B−A等の構造を有する芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物のブロック共重合体及びその水添ブロック共重合体である。
【0045】
上記(水添)ブロック共重合体(以下、(水添)ブロック共重合体とは、ブロック共重合体、及び/又は、水添ブロック共重合体を意味する。)は、芳香族ビニル化合物を5〜60重量%、好ましくは、20〜50重量%含む。
【0046】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAは好ましくは、芳香族ビニル化合物のみから成るか、または芳香族ビニル化合物50重量%以上、好ましくは70重量%以上と(水素添加された)共役ジエン化合物(以下、(水素添加された)共役ジエン化合物とは、共役ジエン化合物、及び/又は、水素添加された共役ジエン化合物を意味する)との共重合体ブロックである。
【0047】
(水素添加された)共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBは好ましくは、(水素添加された)共役ジエン化合物のみから成るか、または(水素添加された)共役ジエン化合物50重量%以上、好ましくは70重量%以上と芳香族ビニル化合物との共重合体ブロックである。
【0048】
これらの芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックA、(水素添加された)共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBのそれぞれにおいて、分子鎖中の芳香族ビニル化合物または(水素添加された)共役ジエン化合物の分布は、ランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加または減少するもの)、一部ブロック状またはこれらの任意の組合せであっていてもよい。
【0049】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAあるいは(水素添加された)共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBが2個以上ある場合には、それぞれが同一構造であっても異なる構造であってもよい。
【0050】
(水添)ブロック共重合体を構成する芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−第3ブチルスチレンなどのうちから1種または2種以上が選択され、中でもスチレンが好ましい。また共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンなどのうちから1種または2種以上が選ばれ、中でもブタジエン、イソプレンおよびこれらの組合せが好ましい。
【0051】
共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBにおけるミクロ結合は任意に選ぶことができる。ブタジエンブロックにおいては、1,2−ミクロ構造が下限は1%以上、好ましくは5%以上、更に好ましくは10%以上、上限は95%以下、好ましくは80%以下、更に好ましくは75%以下である。
【0052】
成分(f−2)の水添ブロック共重合体における水添率は、任意に選択することができ、未水添ブロック共重合体の特性を維持しながら耐熱劣化性等を向上させる場合には、共役ジエンに基づく脂肪族二重結合を下限は3%以上、好ましくは5%以上、更に好ましくは7以上、より更に好ましくは9%以上、上限は85%未満、好ましくは80%未満、更に好ましくは75%未満、より更に好ましくは60%未満水添することが好ましい。また、水添後の1,2−ビニル結合が0.5〜12%が好ましく、より好ましくは10%未満、更に好ましくは5%以下、より更に好ましくは3%以下である。
【0053】
また、耐熱劣化性及び耐候性を向上させる場合には80%以上、好ましくは90%以上水添することが推奨される。また、ポリイソプレンブロックにおいては、該イソプレン化合物の70〜100重量%が1,4−ミクロ構造を有し、かつ該イソプレン化合物に基づく脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されたものが好ましい。
【0054】
上記した構造を有する本発明に供する水添ブロック共重合体の重量平均分子量は、好ましくは5,000〜1,500,000であり、より好ましくは10,000〜550,000、さらに好ましく50,000〜400,000の範囲である。分子量分布(重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn))は好ましくは10以下、更に好ましくは5以下、より好ましくは、2以下である。水添ブロック共重合体の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状あるいはこれらの任意の組合せのいずれであってもよい。
なお、本発明における分子量はGPCにより、分子量が既知であるポリスチレンを基準として求めた値である。従って、該値は相対的な値であり、絶対値ではなく、さらに、基準サンプル、装置、データ処理方法等GPCの各条件により±30%程度のばらつきが有り得る。
【0055】
ブロック共重合体の溶液粘度(5%トルエン溶液、77°F、ASTM D−2196)の範囲は、5〜500cpsが好ましく、より好ましくは20〜300cpsである。
【0056】
これらのブロック共重合体の製造方法としては数多くの方法が提案されているが、代表的な方法としては、例えば特公昭40−23798号明細書に記載された方法により、リチウム触媒またはチーグラー型触媒を用い、不活性溶媒中にてブロック重合させて得ることができる。上記方法により得られたブロック共重合体に、不活性溶媒中で水素添加触媒の存在下にて水素添加することにより水添ブロック共重合体が得られる。
【0057】
上記(水添)ブロック共重合体の具体例としては、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、スチレン−エチレン・ブテン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)、部分水添スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBBS)等を挙げることができる。本発明においては、該(水添)ブロック共重合体は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0058】
(f−3)共役ジエン化合物ブロック共重合体及び又は/その水素添加物
本発明で用いる共役ジエン化合物ブロック共重合体及び又は/その水素添加物としては、例えば、ブタジエンのブロック共重合体、ブタジエンのブロック共重合体を水素添加して得られる結晶性エチレンブロックと非晶性エチレン−ブテンブロックを有するブロック共重合体(CEBC)等が挙げられる。本発明においては、共役ジエン化合物ブロック共重合体及び又は/その水素添加物は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0059】
成分(f)の配合量は、配合する場合は、成分(a)100重量部に対して、1〜100重量部であり、好ましくは1〜40重量部である。配合量が1重量部未満では、改良効果がなく、100重量部を超えると、ゴム弾性が発現してキンク性が低下する。
【0060】
(7)非芳香族系ゴム用軟化剤成分(g)
本発明のチューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物においては、必要に応じて、非芳香族系ゴム用軟化剤成分(g)を配合することができる。成分(g)としては、非芳香族系の鉱物油または液状もしくは低分子量の合成軟化剤を挙げることができる。ゴム用として用いられる鉱物油軟化剤は、芳香族環、ナフテン環およびパラフィン鎖の三者の組み合わさった混合物であって、パラフィン鎖炭素数が全炭素数の50%以上を占めるものはパラフィン系、ナフテン環炭素数が30〜40%のものはナフテン系、芳香族炭素数が30%以上のものは芳香族系と呼ばれて区別されている。
【0061】
本発明の成分(g)として用いられる鉱物油系ゴム用軟化剤は、区分でパラフィン系およびナフテン系のものである。芳香族系の軟化剤は、その使用により成分(a)が可溶となり、架橋反応を阻害し、得られる組成物の物性の向上が図れないので好ましくない。成分(g)としては、パラフィン系のものが好ましく、更にパラフィン系の中でも芳香族環成分の少ないものが特に適している。また、液状もしくは低分子量の合成軟化剤としては、ポリブテン、水素添加ポリブテン、低分子量ポリイソブチレン等が挙げられる。
【0062】
これらの非芳香族系ゴム用軟化剤の性状は、37.8℃における動的粘度が20〜50000cSt、100℃における動的粘度が5〜1500cSt、流動点が−10〜−15℃、引火点(COC)が170〜300℃を示すのが好ましい。さらに、重量平均分子量が100〜2,000のものが好ましい。
【0063】
成分(g)の配合量は、配合する場合は、成分(a)100重量部に対して、1〜100重量部であり、好ましくは1〜20重量部である。配合量が1重量部未満では、改良効果がなく、100重量部を超えると、得られる熱可塑性エラストマー組成物から軟化剤がブリードアウトしやすく、剥離や変形及びフローマークが成形品に生じ易くなる。
【0064】
(8)その他の成分(h)
なお、本発明のチューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物においては、上記の成分の他に、さらに必要に応じて、各種のブロッキング防止剤、シール性改良剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、結晶核剤、着色剤等を含有することも可能である。ここで、酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−p−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル、トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン等のフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。このうちフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤が特に好ましい。酸化防止剤は、上記の成分(a)〜(g)の合計100重量部に対して、0〜3.0重量部が好ましく、特に好ましくは0.1〜1.0重量部である。
【0065】
2.熱可塑性エラストマー組成物の製造
本発明のチューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物は、上記成分(a)〜(b)、又は必要に応じて成分(c)〜(g)を加えて、各成分を同時にあるいは任意の順に加えて溶融混練することにより製造することができる。
【0066】
溶融混練の方法は、特に制限はなく、通常公知の方法を使用し得る。例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等を使用し得る。例えば、適度なL/Dの二軸押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等を用いることにより、上記操作を連続して行うこともできる。ここで、溶融混練の温度は、好ましくは160〜220℃である。
【0067】
上記のようにして得られた本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、キンク性、押出性、多層押し出し成形性に優れる。
ここで、キンク性とは、曲げ、ひねり時の折れにくさのことをいい、例えば、押出成形で得られたチューブの両端を引張試験機のジグに固定し、一定の速度で圧縮させて、その際生じる形崩れの状態を観るキンク性試験であらわされる値で評価できる。
【0068】
3.熱可塑性エラストマー組成物の用途
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、押出成形等によりチューブまたはホースに成形すると、キンク性、押出成形性に優れるため、優れたホース、チューブ部材を得ることができる。特に、食品、医療、自動車、工業用のホース、チューブ部材として用いることができ、有機過酸化物処理を行わないホースまたはチューブは、医療用として用いることができる。
【0069】
【実施例】
本発明を以下の実施例、比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、本発明で用いた物性の測定法及び試料を以下に示す。
【0070】
1.物性測定方法
(1)比重:JIS K 7112に準拠し、測定を行なった。
(2)硬度:JIS K 6253に準拠し、試験片は6.3mm厚プレスシートを用いた。
(3)引張強さ:JIS K 6251に準拠し、試験片は1mm厚プレスシートを、ダンベルで3号型に打抜いて使用した。引張速度は500mm/分とした。
(4)100%伸び応力:JIS K 6251に準拠し、試験片は1mm厚プレスシートを、ダンベルで3号型に打抜いて使用した。引張速度は500mm/分とした。
(5)破断伸び:JIS K 6251に準拠し、試験片は1mm厚プレスシートを、ダンベルで3号型に打抜いて使用した。引張速度は500mm/分とした。
(6)圧縮永久歪み(CS%):JIS K 6262に準拠し、試験片は6.3mm厚さプレスシートを使用した。25%変形の条件にて、100℃×22時間で測定した。
(7)押出成形性:内径5mm、外径8mm、肉厚1.5mmのチューブを40mm押出機(株式会社山口製作所社製YE40)を用いて、シリンダー温度160〜180℃、ダイヘッドおよびクロスヘッド温度185℃、フルフライトスクリュー、スクリュー回転数40rpmで成形し、ドローダウン性、表面外観や形状を観察し、次の基準で評価した。
○:良い
△:多少の目脂、ドローダウンあるも外観良好
×:悪い
(8)キンク性:(7)で得られたチューブ200mmの両端を引張試験機のジグにジグ間隔200mmでセットし、圧縮速度100mm/分で圧縮させ、キンクの有無を目視により観察し、次の基準で評価した。
○:良い(ジグ間隔0mmでもキンクせず)
×:悪い(キンク発生)
【0071】
2.実施例及び比較例において用いた試料
(1)オレフィン系共重合体ゴム(a):Nordel IP 4520(EPDM;Dupont Dow Elastomers社製)
エチレン含有量:50重量%、結晶化度:1重量%以下
(2)パーオキサイド分解型ポリプロピレン成分(b):PP−BC8(商標;日本ポリケム株式会社製)、結晶化度:Tm166℃、△Hm82mJ/mg、MFR1.8g/10分
(3)有機過酸化物成分(c):パーヘキサ25B(商標;日本油脂株式会社製)
(4)架橋助剤成分(d):TMPT(Trimethylol Propane Trimethacrylate;新中村化学株式会社製)分子量:338
(5)炭酸カルシウム成分(e−1):NS400(商標;三共精粉株式会社製)
(6)ウォラストナイト成分(e−2):NYGLOS8(商標;NYCO Minerals、Inc社製)、平均繊維長136μm、平均粒子径8μm
(7)緑泥石(Chlorite)成分(e−3):CR330(商標;三共精粉株式会社製)
(8)SBSブロック共重合体成分(f):VECTOR2518(商標;DEXCO POLYMERS社製)スチレン含有量:30重量%
溶液粘度75cps(5%トルエン溶液、77°F、ASTM D−2196)
(9)軟化剤成分(g):ダイアナプロセスオイル PW−90(商標;出光興産株式会社製)
(10)ヒンダードフェノール/フォスファイト/ラクトン系複合酸化防止剤成分(h):HP2215(商標;チバスペシャリティケミカルズ製)
【0072】
実施例1〜5及び比較例1〜2
表1に示す量の各成分を用い、L/Dが47の二軸押出機に投入して、混練温度180℃、スクリュー回転数350rpmで溶融混練をして、ペレット化した。次に、得られたペレットを射出成形して試験片を作成し、夫々の試験に供した。評価結果を表1に示す。なお、実施例1〜3は有機過酸化物成分(c)を用いているので、参考例である。
【0073】
【表1】
【0074】
表1より明らかなように、実施例4〜5は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物である。任意成分である成分(c)〜(g)の有無にかかわらず、いずれの熱可塑性エラストマー組成物も良好な性状を示した。
【0075】
一方、比較例1及び2は、成分(b)の配合量を本発明の範囲外にしたものである。成分(b)が少ないと、機械特性が低下し、キンク性、成形性が悪化する。成分(b)が多いと、硬くなりすぎ、キンク性、押出成形性が悪化する。
【0076】
【発明の効果】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、キンク性、押出成形性、多層押出成形性に優れるため、食品、医療、自動車、工業用チューブおよびホース部材に使用できる。
Claims (6)
- (a)結晶化度が1重量%以下であるエチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴム100重量部、及び(b)パーオキサイド分解型オレフィン系樹脂15〜150重量部を含有する組成物を溶融混練処理してなり、有機過酸化物処理を行わないことを特徴とする医療用チューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物。
- (a)エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴムが、エチレン含有量が40〜70重量%であることを特徴とする請求項1に記載の医療用チューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物。
- さらに、(e)無機充填剤1〜150重量部を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の医療用チューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物。
- さらに、(f)共役ジエン系共重合体及び/又は水添共役ジエン系共重合体1〜100重量部を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療用チューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物。
- さらに、(g)非芳香族系ゴム用軟化剤1〜100重量部を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療用チューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載のチューブまたはホース用熱可塑性エラストマー組成物を成形加工した医療用チューブおよびホース部材。
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