JP3887687B2 - 地下壁の構造と鋼矢板 - Google Patents
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Description
このような漏水e等を防ぐために、一般的に実施されているのが止水壁fの構築である(図11参照)。この方法では、堤防bの河川a側の法尻付近に鋼矢板を打ち込んで止水壁fを構築し、河川水が透水層cを通じて陸域側に浸入するのを防ぐ。このため、洪水などで河川水位が短時間の間に上昇しても、地下水の陸域側への移動は阻止され、陸域側に漏水e等が発生することがない。
一方、堤防bの崩壊を防止するために河川a側の法尻付近に土留壁を構築することがある。この土留壁は、堤防bのすべり破壊を抑止するという構造部材としての機能のみが求められる場合は、特許文献1,2に示すように地下水の流れを遮断しない、有孔の鋼矢板を使用して構築されることがある。
<1>止水壁のように完全に地下水の流れを遮断してしまう場合は、陸域側の地下水位dが変動し、陸域側の動植物の生息環境が変化する。例えば、河川a側からの地下水の流れが存在する場所に止水壁fを設ければ、止水壁fによって地下水の供給を断たれるため地下水位dが低下する。この結果、地盤が乾燥しやすくなったり、地中の塩分濃度が上昇して塩害が発生したりして農作物の生育を阻害することがある。また、河川a側へ流れ込む地下水の流れが存在する場所に止水壁fを設ければ、止水壁fによって地下水の流れが堰き止められ、陸域側の地下水位dが上昇し、河川水位a1の高低に関係なく、常に地盤が軟化したり漏水が発生したりするなどの問題が発生する。
<2>地下水の流れを阻害することによって発生する問題を防ぐために、地下壁に構造部材としての機能しか期待しない場合は、上記した特許文献1,2に開示されているような透水性の地下壁を設ける。しかし、透水性を有する地下壁は、常に地下水を通過させることになるため、河川水位a1が上昇した場合は陸域側の地下水位dも上昇し、漏水e等が発生するおそれがある。
また本発明の鋼矢板は、表裏を貫通する複数の貫通孔を設けた鋼矢板であって、その貫通孔によって形成される開口部の鋼矢板の全面積に占める割合である開口率を0.1〜1.0%に設定したことを特徴とする鋼矢板を特徴とするものである。
地下壁1は、水が流下する流路部2と陸域部3の間に設ける。例えば河川や湖などの流路部2と陸域部3の境界には、堤体41が構築される。この堤体41の法尻付近や真下の地盤に連続した壁を構築すると、堤体41の護岸44と連続して止水機能を発揮することができる。
また、堤体41の流路部2側の法尻付近に地下壁1を構築すれば、堤体41にすべり破壊が発生することを防ぐ抑止力になる。
本発明の地下壁1は、後述する半透水部11と止水部12の組み合わせ、または半透水部11のみで構築する。
半透水部11と止水部12を組み合わせる場合は、任意の組み合わせが想定でき、上部に半透水部11を配置して下部に止水部12を配置する構造、地盤の透水層42の位置に合わせて部分的に半透水部11を配置した構造などが実施できる。
例えば、上層に位置して地下水の流れが顕著な砂礫層などの透水層42には半透水部11を設け、その下層の砂層などからなる滞留層43には止水部12を設ける(図1参照)。
半透水部11は、平常時の地下水の流れを遮断するものではなく、流路部2の水位21が急激に上昇した場合に遮蔽機能を発揮する部分である。
これに対して、止水部12は、常に地下水の流れを遮断する部分である。
半透水部11の上記機能は、例えば開口率を調節することによって設定できる。
ここで開口率とは、単位面積当たりに開口部が占める割合をいう。
開口部は例えば地下壁の表裏を貫通する貫通孔10によって形成する。
貫通孔10の1孔当りの面積と、単位面積当たりに貫通孔10を設ける数によって開口率を設定することができる。
このため、開口率を0.1〜1.0%、好ましくは0.2〜0.5%、さらに好ましくは0.2%程度に設定する。
例えば、60cm幅の鋼矢板1aを横方向に連結して地下壁1を構築する場合、直径4cm程度の貫通孔10を深さ方向に1m間隔で1列に並ぶように開口する(図2参照)。
また、隣接する鋼矢板1a,1aの貫通孔10の位置をずらして千鳥配置にするのが好ましい(図3参照)。
また、貫通孔10の直径を例えば2〜6cmの間で変更した場合は、所望する開口率に合わせて貫通孔10を設けるピッチを調節すればよい。
本発明の地下壁1の表面および裏面は、いずれも流路部2側または陸域部3側の地盤に接しているため、貫通孔10を開けたとしてもいずれかの側に土砂が吸い出されてしまうことはないと考えられる。
しかし、そのようなおそれがある場合や、通水能力を調節することによって地下水の流れを制御する場合は、貫通孔10にフィルター材などを配置することもできる。
堤体41の法尻付近の地盤を地下壁で囲み、囲まれた地盤の中央部に揚水井戸5を設けて揚水試験をおこなった。図4に試験ヤードの平面図を示す。図4に示すように、左側には止水部12のみの地下壁で地盤を囲んだ試験ヤードを、中央部には半透水部11のみの地下壁で地盤を囲んだ試験ヤードを、右側には地下壁を設けずに揚水井戸5のみを設けた試験ヤードを構築した。 ここで、止水部12のみの地下壁は孔の開いていない鋼矢板を連結して構築し、半透水部11のみの地下壁は60cm幅の鋼矢板1aのほぼ中央に直径4cm程度の貫通孔10を深さ方向に1m間隔で設けて開口率を0.2%とした。
いずれの観測場所においても揚水によって地下水位は低下したが、地下壁を設けなかった試験ヤードでは、観測地点CIと観測地点COでの地下水の高さは同じであった。
また、地下壁の外側の観測地点AO,BOの地下水位も観測地点CI,COの地下水位の変化とほぼ一致した。
そして、止水部12のみの地下壁で囲まれた観測地点AIの地下水位は、揚水開始とともに大幅に低下し、揚水を停止すると回復するという結果となった。
この結果から、止水部12のみで地下壁を構築すると、地下水の側方からの供給が遮断され、底面からの浸透量を揚水量が上回れば地下水位が低下することが確認できた。
これに対して、半透水部11のみで構築した地下壁で囲まれた観測地点BIの地下水位は、観測地点AIの地下水位と同様に揚水開始と共に低下し始めるが、観測地点AIの地下水位ほどは低下せず(観測地点AIと観測地点BIの低下水位差18cm)、揚水停止後の水位回復も観測地点AIよりも早くなるという結果となった。
これは、半透水部11からなる地下壁は側方から地下水が流入できることを表すものであり、この結果から半透水部11の地下水流の維持機能が確認できたといえる。
流路部2の水位が短時間で急上昇した場合に、半透水部11を有する地下壁1が遮蔽機能を発揮することが出来るかどうかの確認を浸透流解析によっておこなった。
浸透流解析に使用した解析モデルを図6に示す。この解析モデルでは、透水層42の透水係数を3.0×10-3cm/sec、滞留層43の透水係数を3.0×10-3cm/secとした。
また、堤体41表面の護岸44の端部には止水壁13を設け、透水係数を5.0×10-6cm/secとした。
また、半透水部11の透水係数は、上記揚水試験の結果を基に1.1×10-4cm/secとした(開口率0.2%)。
この透水係数は、半透水部11の厚みを解析モデル上で50cmと仮定したための換算値である(揚水試験時の壁厚は14cmのため、換算前の値は3.0×10-5cm/sec)。
半透水部11の下方に設けた止水部12の透水係数は止水壁13の透水係数と同じに設定した。
図6は、水位が上昇した44.1時間後の状態を示した図である。
図6は各メッシュの地下水の流速の大きさを矢印の長さで示した図である。この図から河川水位21が急激に上昇しても地下水の陸域部3への流れが急激に増加することはないことがわかる。
また、陸域部3側の堤体41の法尻付近の動水勾配i(=G/W)を確認しても、水が噴き出すおそれのあるi=1.0よりもはるかに大きなi=3.19という安全な値を示しており、陸域部3に漏水を発生させる心配がないことが確認できた。
これに対して、地下壁1を設けなかった解析結果を図7に示す。
この結果から、流路部2から陸域部3に向けての地下水の大きな流れが発生していることが確認できる。
また、陸域部3側の堤体41の法尻付近の動水勾配i(=G/W)は0.44と1.0を大きく下回っており、陸域部3から水が噴出する危険性が非常に高いことがわかる。
以上の結果から、半透水部11を有する地下壁1を設置した場合、流路部2の水位21が急激に上昇しても陸域部3に漏水などが発生する危険性が非常に少なく、漏水対策としては充分な機能を果たすことが出来るといえる。 また、地下壁1を設けない場合は、堤体41が円弧すべりを起こして崩壊するおそれがあるが、半透水部11を有する地下壁1を設置することによって堤体41の安定も確保できる。
以上において、半透水部11を有する地下壁1の効果は確認できた。
ここでは、開口率と透水係数の関係について述べる。
図8は室内実験結果をモデル化した浸透流解析で、複数の開口率について求めた孔径比(d/D、dは貫通孔10の直径、Dは貫通孔10の間隔)と透水係数比(k/k0、kは解析モデルの透水係数、k0は周辺地盤の透水係数)の関係を示した図である。
ここで、開口率0%のときは完全不透水、開口率100%のときは周辺地盤と同じ透水係数になると考えると、図示のとおり3次曲線で近似できる。数式1に近似式を示す。
また、開口率を0.1%とした場合はk=4.3×10-5cm/secとなって、解析モデル上で厚さ50cm当たりの止水壁13(止水部12)の透水係数とほぼ等しい値となる。
従って、浸透流解析の結果から半透水部11を有する地下壁1の漏水対策工としての効果を期待する場合は、開口率を0.1%〜1.0%で設定とすると、半透水部11の透水係数は10-4cm/secのオーダー程度となるので、本発明の地下壁1としての機能が期待でき、さらに0.2%〜0.5%の範囲で開口率を設定すればより効果的になる。
10・・貫通孔
11・・半透水部
12・・止水部
2・・・流路部
21・・水位
3・・・陸域部
31・・地下水位
Claims (4)
- 水が流下する流路部と陸域部の間に設ける地下壁の構造であって、
前記地下壁の一部または全体を半透水部とし、
前記半透水部には前記地下壁の表裏を貫通する複数の貫通孔を設け、貫通孔によって形成される開口部の半透水部の全面積に占める割合である開口率を0.1〜1.0%に設定したことを特徴とする、
地下壁の構造。
- 請求項1記載の地下壁の構造において、
前記開口率を0.2〜0.5%に設定したことを特徴とする、
地下壁の構造。
- 請求項1乃至2のいずれかに記載の地下壁の構造において、
前記地下壁の上部を前記半透水部とし、
下部を地下水の流れを遮断する止水部としたことを特徴とする、
地下壁の構造。
- 表裏を貫通する複数の貫通孔を設けた鋼矢板であって、
その貫通孔によって形成される開口部の鋼矢板の全面積に占める割合である開口率を0.1〜1.0%に設定したことを特徴とする、
鋼矢板。
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