JP3886576B2 - シリコンウエーハ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、半導体デバイスに用いるシリコンウエーハに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
シリコンウエーハの原料となるシリコン単結晶は、チョクラルスキー(CZ)法によって製造することができる。原料ポリシリコンを石英ガラス(SiO2 )質のルツボに入れ、これを加熱・溶融し、種結晶を用いてシリコン単結晶を引き上げるのである。
【0003】
チョクラルスキー法で製造したシリコン単結晶中には、通常、酸素が固溶している。固溶した酸素は、単結晶引上げ後の冷却過程において、超微小酸素析出物(エンプリオ)として析出する。
【0004】
ウエーハ表層の酸素析出物は、IC、LSI、ULSI等が稼働する際に障害となり、デバイスの信頼性を損なう原因となる。すなわち、デバイス活性領域では、基板上に形成された回路により電子が移動拡散するため、酸素析出物があるとデバイス欠陥に成り易いのである。
【0005】
一方、ウエーハのバルク部にある酸素析出物は、不純物をゲットする作用を有し、いわゆるイントリンシックゲッタリング(IG)効果の担い手として有用である。
【0006】
このため、従来は、シリコンウエーハを水素雰囲気中で熱処理し、ウエーハ表層の酸素を外方拡散して無欠陥層(DZ層)を形成することによって、ウエーハ表層に酸素析出物(結晶欠陥)が生じるのを防止していた。また、この熱処理によって、シリコンウエーハ表面に形成される酸化膜の耐圧性を向上させていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、水素雰囲気で熱処理して無欠陥層を形成すると、無欠陥領域の直下にBMDが密集し、そこがBMD密度のピークになり易かった。
【0008】
このBMD密集領域は、デバイス活性層の近くに位置するため、デバイス特性に悪影響が生じることがあった。その場合には、デバイスの歩留りが低下してしまった。
【0009】
このような従来技術の問題点に鑑み、本発明は、BMD密集層をデバイス活性層から遠ざけることによって、BMDの悪影響がデバイス特性に及び難いシリコンウエーハ及びその製造方法を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本願第1発明は、表層に無欠陥層(DZ層)を有するシリコンウエーハにおいて、BMD(酸素析出物)領域が、無欠陥層(DZ層)の内側境界の直下から存在し、BMD領域の中で最もBMD密度の高いピーク値が、無欠陥層(DZ層)の内側境界より少なくとも60μm内側に位置することを特徴とするシリコンウエーハを要旨とし、第2発明は、表層に存在する無欠陥層(DZ層)と、無欠陥層(DZ層)の内側境界に続いて存在するBMD領域とを有し、BMD領域が、BMD密度の低領域と、それよりも高いBMD高密度領域を有し、BMD高密度領域の中で最もBMD密度の高いピーク値が無欠陥層(DZ層)から遠ざけられていることを特徴とするシリコンウエーハを要旨としている。
【0011】
本願発明は、表層に無欠陥層(DZ層)を有し、その直下にBMD密度の均一な低領域を有し、その低領域の次に、そこよりもBMD密度の高いピーク部を有し、そのピーク部の次に、再び低領域が存在し、BMD密度の高いピーク部を無欠陥層(DZ層)から遠ざけていることを特徴とするシリコンウエーハを要旨としている。
【0012】
【実施例】
本発明者達は、鋭意研究を重ね、シリコンウエーハ中のBMD密度に関し次のような考察・検討を行い、本発明を完成するに至った。
【0013】
水素及びアルゴン雰囲気中、1200℃で1時間の熱処理を行ったCZシリコンウエーハにおいて、IRトモグラフ像を二値化処理し、BMD密度の分布を求めた。図1は、BMD密度の深さ分布を示す図である(比較例2及び比較例1参照)。
【0014】
その結果、図1に示すように、アルゴン雰囲気中で高温処理を行った場合には、表層の酸素が外方拡散し無欠陥領域(DZ層)が形成される以外は、BMD密度分布はほぼ均一になる(図1の比較例1参照)。この部分を、本明細書では「均一な低領域」と称する。一方、水素雰囲気中で熱処理した場合には、ウエーハ表面から約100μmより深い領域ではアルゴン処理した場合と同様にBMD密度は再び均一となる。この部分も、本明細書では「均一な低領域」と称する。比較例2では、DZ層直下〜約100μmの範囲にBMDの高密度領域(BMD密度のピーク部)が生じる(図1の比較例2参照)。比較例1では、DZ層の直下からBMD密度の均一な低領域が続き、BMD密度のピーク部は生じない(図1の比較例1を参照)。本発明の実施例1においては、無欠陥層(DZ層)の直下に、比較例1と同様に、BMD密度のほぼ均一な低領域が存在し、それに続いて、その均一な低領域よりもBMD密度の高いBMD高密度領域が存在する。このBMD高密度領域は、BMD密度が山型に高くなってピーク部となっている。BMD高密度領域(ピーク部)の中で最もBMD密度の高いピーク値は、無欠陥層(DZ層)から遠ざけられて位置する。BMD高密度領域に続いて、再び、BMD密度の均一な低領域が存在している。
【0015】
特に、このBMDのピーク部におけるBMD密度[BMD]peakは、バルク部(約100μm以深)の[BMD]bulkの3倍程度になっていた。すなわち、次の数1のようになる。
【0016】
【数1】
Figure 0003886576
このことは、IR吸収の測定結果で再確認できる。すなわち、図2は、前記熱処理後のシリコンウエーハにおいて、IR吸収測定によって酸素濃度を調べた結果を示している。未熱処理ウエーハと比較すると、アルゴン処理したウエーハの酸素減少量△[Oi Arは1.2×1017cm-3であったが、水素処理したウエーハの△[Oi H は1.6×1017cm-3になった。この2つの処理による酸素減少量の差はすべて前記ピーク部だけに発生すると仮定すると、ピーク部の酸素減少量とバルク部の酸素減少量の比は次の数2のようになる。
【0017】
【数2】
Figure 0003886576
この値が前記BMDの測定結果(数1)に一致するため、水素処理とアルゴン処理による酸素の析出挙動の差は、DZ層直下での析出の仕方の差であると推測される。
【0018】
水素処理したウエーハの中のBMD密度がより高くなるため、水素原子は酸素の析出に有利に働いている。従って、BMDピークの発生は、酸素が析出する温度領域での、シリコンウエーハ中の水素分布に関係がある。BMDの分布の様子は、図1に示されているように、表面付近で濃度が高く、内部で濃度が低くなっている。
【0019】
本発明者達は、BMD分布が前記のようになる理由を、次のように考えた。
【0020】
第1に考えられるのは、ウエーハの高温処理時には水素の分布は均一であるが、降温過程では水素分布は表面付近で高くなることである。この現象に関しては、300℃から500℃までの中温度領域では水素がプラズマ化しており、シリコンウエーハを急速冷却すると、その表面付近に高濃度の水素(H2 )が分布するとの報告がある(J.I.Pankove and N.M.Jhonson,Hydrogen in Semiconductors,Academic Press,San Diego,(1991)pp273 )。しかしながら、本発明における水素処理の温度は、この報告に比べて非常に高く、熱処理炉の熱容量が大きく降温速度も遅いため、前記現象は成立し難いと考えられる。
【0021】
そこで、本発明者達は、酸素原子が存在するため水素原子の濃度が低下するのではないかと考えた。この考察は、水素原子の類似物 MuoniumのμSR実験結果に基づくものである。酸素濃度の小さいFZ試料の中に正常Mu(Td位置)、異常Mu(ボーンドの中心位置)、diamagnetic μ[ただし形成確率ω(Mu):ω(Mu):ω(μ)〓60%:35%:7%]の3つの信号が観察されたが、酸素濃度の高いCZ試料の中には異常Muの信号だけが残された(B.D.Patterson,Rev.Mod.Phys. 60 ,69(1988)) )。この結果によると、酸素原子の外方拡散によって形成した低濃度の酸素領域、いわゆるDZ層中の水素濃度はバルク部より高く、DZ層の直下では水素原子と酸素原子との相互作用が強く、BMDの析出を促進させる。特に、水素原子の濃度は各位置におけるMuonium の確率に対応するものとするとDZ層の直下(酸素濃度はFZ試料中の値に相当する)に水素原子の濃度とバルクでの濃度との比は次の数3のようになり、前記IRトモグラフとIR吸収の結果にも一致する。
【0022】
【数3】
Figure 0003886576
以上の考察から、BMDの分布を制御するためには、酸素の析出温度範囲で水素濃度を変化させねばならないことが判明した。ただし、ウエーハを水素雰囲気で処理する際の、ウエーハ中の水素濃度の分布は、酸素濃度の分布により決定される。外方拡散によって形成された酸素濃度の分布に従った水素濃度の分布は変えられない。従って、酸素が析出する温度範囲で、シリコンウエーハをアルゴン雰囲気で処理することが必要となるのである。
【0023】
従って、本発明では、CZシリコンウエーハに水素雰囲気で1000℃以上の熱処理工程を行い、しかる後に降温工程の一部又は全部をアルゴンガス雰囲気で行う構成になっている。すなわち、降温工程の開始時又はその途中で雰囲気ガスをアルゴンガスに置換するのである。雰囲気の置換は、酸素が析出する温度で行う。すなわち、通常のCZシリコンウエーハの場合には1200℃〜500℃で雰囲気置換を行う必要がある。
【0024】
この様に降温雰囲気をアルゴンガスに置換し、降温工程の一部又は全部をアルゴンガス雰囲気で行うことによって、BMDの高濃度領域を、無欠陥層(DZ層)の境界位置から内側方向に移動することができる。
【0025】
BMD密度のピークは、DZ層の内側境界から少なくとも60μm程度内側に配置することが望ましい。この様に、BMD密度のピークを内側に移動することによって、BMD高密度領域をデバイス活性層から遠ざけることができる。そして、デバイス欠陥が生じる可能性を大幅に低減することができる。
【0026】
以下、本発明の実施例1について述べる。
【0027】
実施例1では、P型、電気抵抗15Ωcm、IR吸収による酸素濃度1.54×1018cm、面方位(100)、6インチCZミラーシリコンウエーハを用いた。このシリコンウエーハに対し、1200℃1時間水素雰囲気で加熱した後、雰囲気をアルゴンガスに置換して室温まで降温する熱処理を行った。
【0028】
比較例2では、実施例1と同じシリコンウエーハを用い、1200℃1時間アルゴン雰囲気で加熱した後、そのまま室温まで降温する熱処理を行った。比較例3では、1200℃1時間水素雰囲気で加熱した後、そのまま室温まで降温する熱処理を行った。
【0029】
実施例1及び比較例1,2に関するIRトモグラフとIR吸収の結果を、それぞれ図1と図2に示す。
【0030】
図1から分るように、実施例1では、比較例2と比べてBMD密度が低減され、より内層でピークが生じた。すなわち、水素処理したウエーハをアルゴンガス雰囲気で降温することにより、水素処理・降温を行ったウエーハのBMD密度を全体的に低減でき、BMD密度のピークを、無欠陥領域(DZ層)の直下から内側方向に移動できることが確認された。また、図2から分るように、実施例1では、酸素濃度が比較例2(アルゴン処理の場合)と同程度まで低減された。
【0031】
実施例1において、深さ0〜約60μmにおけるBMD濃度は、アルゴン処理・降温を行ったウエーハと同レベルまで低減された。また、実施例1のBMD濃度ピーク値は、比較例2のピーク値の半分程度に低減された。
【0032】
この様に、実施例1のシリコンウエーハは、BMD密度のピーク位置がデバイス活性層から離れているため、比較例2のウエーハと比べてBMDに起因するデバイス欠陥が生じ難い。また、実施例1のシリコンウエーハは、比較例1のウエーハと比べて、大きなIG効果が期待できる。
【0033】
【発明の効果】
本発明によれば、BMD密集層をデバイス活性層から遠ざけることによって、BMDの悪影響がデバイス特性に及び難くすることができる。従って、本発明のシリコンウエーハを用いれば、高品質の半導体デバイスを歩留まり良く製造することができる。
【0034】
なお、本発明は前述の実施例に限定されない。例えば、水素ガスをアルゴンガスに置換する温度を1200℃−500℃の範囲で変えることにより、無欠陥領域(DZ層)の直下のBMD密度や、BMD密度のピーク位置及びピーク幅を制御できる。例えば、900℃でガス置換を行うと、BMD密度のピーク幅を1200℃1hH2 の場合より小さく、ピーク位置を1200℃1hH2 と1200℃1hH2 +Ar降温の間に来るようにできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例と比較例におけるBMD濃度の変化の様子を示すグラフ。
【図2】本発明の実施例と比較例における酸素濃度を示すグラフ。

Claims (5)

  1. 表層に無欠陥層(DZ層)を有するシリコンウエーハにおいて、BMD(酸素析出物)領域が、無欠陥層(DZ層)の内側境界の直下から存在し、BMD領域の中で最もBMD密度の高いピーク値が、無欠陥層(DZ層)の内側境界より少なくとも60μm内側に位置することを特徴とするシリコンウエーハ。
  2. 表層に存在する無欠陥層(DZ層)と、無欠陥層(DZ層)の内側境界に続いて存在するBMD領域とを有し、BMD領域が、BMD密度の低領域と、それよりも高いBMD高密度領域を有し、BMD高密度領域の中で最もBMD密度の高いピーク値がBMD密度の低領域の介在によって無欠陥層(DZ層)から遠ざけられていることを特徴とするシリコンウエーハ。
  3. BMD高密度領域におけるBMD密度のピーク値が、無欠陥層(DZ層)の内側境界より少なくとも60μm内側に位置することを特徴とする請求項2に記載のシリコンウエーハ。
  4. 半導体デバイスに用いられるシリコンウェーハにおいて、表層に無欠陥層(DZ層)を有し、その直下にBMD密度の均一な低領域を有し、その低領域の次に、そこよりもBMD密度の高いピーク部を有し、そのピーク部の次に、再び低領域が存在し、BMD密度の高いピーク部を無欠陥層(DZ層)から遠ざけていることを特徴とするシリコンウエーハ。
  5. ピーク部の中で最もBMD密度の高いピーク値が無欠陥層(DZ層)の内側境界から少なくとも60μm内側に位置していることを特徴とする請求項に記載のシリコンウエーハ。
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