JP3886317B2 - 高ガラス形成能を有する鉄基永久磁石合金 - Google Patents

高ガラス形成能を有する鉄基永久磁石合金 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、大きなガラス形成能、優れた加工性および熱処理による結晶化後に残存アモルファス相を含むナノ結晶組織を有し、高い硬質磁気特性を示す永久磁石合金に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ガラス遷移を示した、すなわち、過冷却液体領域および大きな換算ガラス化温度(Tg/Tm)を有する非晶質合金では、結晶化に対する高い安定性を示して、大きなガラス形成能を有することが知られている。液体急冷法により厚肉リボンおよびバルク状非晶質材を作製することが可能である。
【0003】
一方、非晶質合金を加熱すると、特定の合金系では結晶化する前に、過冷却液体状態に遷移し、急激な粘性低下を示すことが知られている。このような過冷却液体状態では、合金の粘性が低下しているために閉塞鍛造などの方法により任意形状の非晶質合金形成体を作製することが可能である。したがって、過冷却液体領域および大きな換算ガラス温度(Tg/Tm)を有する非晶質合金では、大きな非晶質形成能および優れた加工性を備えていると言える。
【0004】
現在、超小型ステッピングモータなどの小型でかつ高性能、形状複雑な永久磁石が要求される用途において、希土類焼結磁石を極小物に切断、研削加工するか、希土類ボンド磁石を小型に形成できるが、切断、研削加工法により、作製された高密度の永久磁石は高性能ではあるものの、コスト高となる欠点があり、さらに加工肉厚は0.2mm程度の限界がある。その外、形状複雑な形状には切断、研削加工法によりできない。
【0005】
ボンド磁石において、粉末直径50-300μm程度の磁性粉末を樹脂と共に加圧形成するため、100μm程度の肉厚を有する成形品の製造は困難である。特に、リング磁石では肉厚と直角方向にパンチで圧縮する方法では肉厚0.8mm程度が限界である。
【0006】
また、ボンド磁石用磁性粉末としては、液体急冷法にて製造されるFe-Nd-B系等方性磁性粉末が多く使用されているが、この材料は液体急冷法により、微細結晶質からなる薄片として得られるため、極めて脆く、弾性的に曲げる加工や打ち抜き加工をするなどして、任意形状とすることは不可能であり、ボンド磁石用磁性粉末としての用途に限られる。
【0007】
Fe-Nd-B系合金において、近年、Fe78Nd4B18近傍の組成の磁石材料が提案(R. Coehoornなど、J.de Phys, C8, 1988, 669-670頁)され、その技術内容は、米国特許4、402,770号等に開示されている。しかしながら、そのガラス形成能が低いので、肉厚50μm以下のアモルファスリボンしか得られない。単ロール液体急冷法により直接的に肉厚50-150μm程度のリボン状磁石が作製されるものの、結晶化組織が不均一、磁気特性はばらつきが大きいので、応用は困難である。そして、過冷却液体領域を示さなく、優れた加工性を備えていなかった。
【0008】
最近、広沢らが提案したFe-Nd-M-B合金(特開平11−40448)の溶湯を回転するCuロールに噴射して厚さ10-100μmで90%以上非晶質相組成からなる薄帯を熱処理することにより、残留磁束密度(Br) ≧0.8T、保磁力(iHc) ≧160kA/mの薄肉永久磁石材料が開発されることを報告している。しかしながら、この材料は過冷却液体領域を示さなく、優れた加工性を備えていなかった。そして、大きなガラス形成能を有しておらず、さらに、もっと厚い薄帯永久磁石材料を作製するのは困難である。
【0009】
肉厚の薄い磁石材料を作製する方法としては、スパッタ蒸発法を用いることも提案されているが、数μmの膜を作製するだけでも数時間を要するなど、製造コストが高くて実用的でない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
前述した永久磁石材料では、ガラス形成能が低く、肉厚100μm以下の非晶質リボン材しか得られない。そして、過冷却液体領域を示さなく、大きなガラス形成能および優れた加工性を備えていなかった。焼結磁石からの切り出し、研削加工、あるいは希土類磁石粉末を使用したボンド磁石のいずれであっても、肉厚の薄いものは製造困難で、加工に伴う磁気特性の劣化、磁性粉末の大きさに起因する制約により、肉厚0.50mmの永久磁石が限界である。ボンド磁石の場合は、磁気特性の高い磁性粉末を用いても、磁性粉末の充填率を80%以上にすることは困難なため、ボンド磁石として高磁気特性は期待できない。
【0011】
本発明は、薄肉永久磁石の製造限界に鑑み、大ガラス形成能、優れた加工性および高い硬質磁気特性を兼ね備えたFe基永久磁石合金を提供することを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、上述の課題を解決するために、最適組成について研究した結果、希土類元素とホウ素とコバルトを含有する特定組成の鉄基合金溶融し、液体状態から急冷固化させることにより作製した35℃以上の過冷却液体領域を示す肉厚300μm以下の非晶質相薄帯に熱処理を施し、RE2Fe14B、Fe3B、α-Fe結晶相および残存アモルファス相からなるナノ組織が得られ、良好な硬質磁気特性を有する大ガラス形成能、優れた加工性を兼ね備えたFe基永久磁石合金が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記の組成式で表され、
Fe 100−y −zCo10RE又はFe 100−y −zCo9.5TMRE(ただし、TMは、V,Ti,Cr,Mn,Cu,Nb,Mo,W,Ta,Hf,又はZrのうちから選択される1種または2種以上の元素、REは、希土類元素のうちから選択される1種または2種以上の元素、Bはホウ素、組成比を示すy、zは原子%で、2.5原子%<y<4.0原子%、19原子%<z<25原子%である。)、
△Tx=Tx-Tg(ただし、Txは、結晶化開始温度、Tgは、ガラス遷移温度を示す。)の式で表される過冷却液体領域の温度間隔△Txが35℃以上、
Tg/Tm(ただし、Tmは、合金の融解温度を示す。)の式で表される換算ガラス化温度が0.55以上であり、
単ロール液体急冷法により得られた厚さ200〜300μm、非晶質相の体積比率90%以上の薄板材からなる金属ガラス合金を熱処理した合金であって、
RE2Fe14B、Fe3B、α−Fe結晶相および残存アモルファス相からなる平均粒径50nm以下の組織を有し、
残留磁束密度(Br)=1. 00T以上、保磁力(iHc)=150kA/m以上、最大エネルギー積(BH)max が68kJ/m3以上の磁気特性を有する、
厚さ200〜300μmの薄板材からなる鉄基永久磁石合金である。
【0016】
Coを10原子%又はCoを9.5原子%と遷移金属(TM)のV,Ti,Cr,Mn,Cu,Nb,Mo,W,Ta,Hf,Zrを2原子%含有する場合、ガラス形成能、結晶化組織の微細化および減磁曲線の角形性が明瞭に改善され、68kJ/m3以上の(BH)max が得られ。希土類元素(RE)は、Nd,Pr,Dy,Tb,La,Ce,Gdであり、2.5原子%以下では、35℃以上の過冷却液体領域△Txが得られない。そして、150kA/m以上のiHcが得られず、4.0原子%以上では、ガラス遷移現象が消失し、ガラス形成能が低下する。ホウ素は、19原子%以下では、ガラス遷移温度を示さず、25原子%以上では、減磁曲線の角形性が低下し、1.00T以上のBrが得られない。
【0017】
本発明の合金組成は、単ロール液体急冷法により厚さ300μm以下、非晶質相の体積比率90%以上の薄板材が得られる。
【0018】
本発明の合金組成は、熱処理した後、残留磁束密度(Br)=1. 00T以上、保磁力(iHc)=150kA/m以上、最大エネルギー積(BH)max 68kJ/m3以上の磁気特性が得られる。
【0019】
本発明の合金組成は、熱処理が施されて、 RE2Fe14B、Fe3B、α-Fe結晶相および残存アモルファス相からなる平均粒径50nm以下の組織が得られる。
【0020】
前記熱処理は、550〜650℃、5〜10分間程度行うのが好ましい。550℃より低いと、保持力の発現に必要であるRE2Fe14B型結晶構造を有する化合物の析出ができなくなり、150kA/m以上のiHcが得られず、650℃を超えると、結晶化組織が粗大化し、減磁曲線の角形性が劣化する。
【0021】
なお、本明細書中の「過冷却液体領域」とは、毎分40℃の加熱速度で示差走査熱量分析を行うことにより得られるガラス遷移温度と結晶化温度の差で定義されるものである。「過冷却液体領域」は結晶化に対する抵抗力、すなわち非晶質の安定性および加工性を示す数値である。本発明の合金は35℃以上の過冷却液体領域を有する。
【0022】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。表1に示す合金組成からなる材料(実施例1〜15、比較例1〜3)について、アーク溶解法により母合金を溶製した後、単ロール液体急冷法によりロール回転速度3m/sで厚さ200−250μmの非晶質相の体積比率90%以上からなる薄帯を作製した。
【0023】
【表1】
Figure 0003886317
【0024】
これらの非晶質薄帯のガラス遷移温度(Tg)、結晶化開始温度(Tx)を示差走査熱量計(DSC)より測定した。これらの値より過冷却液体領域(Tx-Tg)を算出した。融解点(Tm)の測定は、示差熱分析(DTA)により測定した。これらの値より換算ガラス化温度(Tg/Tm)を算出した。作製された薄帯の非晶質化の確認はX線回折法により行った。また、試料中に含まれる非晶質相の体積比率(Vf−amo.)は、DSCを用いて結晶化の際の発熱量を完全非晶質化した厚さ20μmの薄帯との比較により評価した。
【0025】
薄帯試料を石英管中に真空封入した後、550〜650℃の温度において600s間熱処理を施した。磁気特性は振動型磁力計(VSM)を用いて1256kA/mの印加磁場で測定した。評価結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
Figure 0003886317
【0027】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の鉄基永久磁石合金組成の溶湯を、液体急冷法により、300μm以下の非晶質薄帯が作製される。この晶質薄帯は35℃以上の過冷却液体領域を示すとともに、最適熱処理が施されて、RE2Fe14B、Fe3B、α-Fe結晶相および残存アモルファス相からなる平均粒径50nm以下のナノ組織が得られ、 Br≧1.0T、iHc≧150kA/m、(BH)max68kJ/m3の硬質磁気特性を有する。これらのことから、本発明は、大きな非晶質形成能、優れた加工性および良好な硬質磁気特性を兼備した実用上有用な鉄基永久磁石合金を提供することができる。

Claims (1)

  1. 下記の組成式で表され、
    Fe 100−y −zCo10RE又はFe 100−y −zCo9.5TMRE
    (ただし、TMは、V,Ti,Cr,Mn,Cu,Nb,Mo,W,Ta,Hf,又はZrのうちから選択される1種または2種以上の元素、REは、希土類元素のうちから選択される1種または2種以上の元素、Bはホウ素、組成比を示すy、zは原子%で、2.5原子%<y<4.0原子%、19原子%<z<25原子%である。)、
    △Tx=Tx-Tg(ただし、Txは、結晶化開始温度、Tgは、ガラス遷移温度を示す。)の式で表される過冷却液体領域の温度間隔△Txが35℃以上、
    Tg/Tm(ただし、Tmは、合金の融解温度を示す。)の式で表される換算ガラス化温度が0.55以上であり、
    単ロール液体急冷法により得られた厚さ200〜300μm、非晶質相の体積比率90%以上の薄板材からなる金属ガラス合金を熱処理した合金であって、
    RE2Fe14B、Fe3B、α−Fe結晶相および残存アモルファス相からなる平均粒径50nm以下の組織を有し、
    残留磁束密度(Br)=1. 00T以上、保磁力(iHc)=150kA/m以上、最大エネルギー積(BH)max が68kJ/m3以上の磁気特性を有する、
    厚さ200〜300μmの薄板材からなる鉄基永久磁石合金。
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