本発明の第1実施形態を図1〜図7を参照して説明する。図1は本実施形態のハイブリッド車両の全体構成を模式的に示す図であり、1はエンジン、2,2は車両の一対の駆動輪、3は動力伝達装置である。駆動輪2,2は車両の前輪又は後輪である。なお、この第1実施形態は、本発明の第1発明に係る実施形態である。
動力伝達装置3は、第1動力分配器4、第2動力分配器5、第1電動モータ6、第2電動モータ7、第1クラッチ8、第2クラッチ9、及び動力出力軸10を主要な機構的要素として備えている。第1クラッチ8および第2クラッチ9は、それぞれ本発明における第1クラッチ手段、第2クラッチ手段に相当するものである。
動力出力軸10は、これに同軸心に固定されて一体に回転自在に設けられたギヤ11と、このギヤ11に噛合する差動歯車装置12(差動傘歯車装置)とを介して駆動輪2,2に連接されている。これにより、動力出力軸10と駆動輪2,2との間の回転伝達がギヤ11及び差動歯車装置12を介して行われ、該動力出力軸10と駆動輪2,2とが互いに連動して回転可能とされている。また、動力出力軸10には、ギヤ11と反対側で前記第2電動モータ7のロータ7rが同軸心に連結され、該動力出力軸10と第2電動モータ7のロータ7rとが一体に回転自在とされている。なお、動力出力軸10は、エンジン1の出力軸1aと平行に設けられている。
各動力分配器4,5はいずれも、差動歯車装置として機能する遊星歯車装置により構成され、そのそれぞれが、リングギヤ4r,5rとサンギヤ4s,5sとキャリア4c,5cとを同軸心の3個の回転軸として備えている。各動力分配器4,5は本実施形態では、いずれもシングルピニオン型の遊星歯車装置である。その構成の概要を第1動力分配器4について説明すると、リングギヤ4rとサンギヤ4sとの間に複数のプラネタリギヤ4p(図では2個)がサンギヤ4sの周方向に間隔を存して配列され、各プラネタリギヤ4pがリングギヤ4rとサンギヤ4sの両者に噛合されている。そして、それらプラネタリギヤ4pは、各々自転しながらサンギヤ4sの周りを一体的に公転するようにキャリア4cに軸支されている。これと同様の構成で、第2動力分配器5もリングギヤ5r、サンギヤ5s、キャリア5c、及び複数(図では2個)のプラネタリギヤ5pを備えている。なお、本実施形態では、第1動力分配器4のリングギヤ4rとサンギヤ4sとのギヤ比(歯数比)と、第2動力分配器5のリングギヤ5rとサンギヤ5sとのギヤ比(歯数比)とは、互いに異なるものとなっている。
第1動力分配器4は、そのリングギヤ4r、サンギヤ4s、キャリア4cをそれぞれ本発明における第2回転軸、第3回転軸、第1回転軸(入力軸)とし、入力軸としてのキャリア4cがエンジン1の出力軸1aに直接的に同軸心に連結され、該出力軸1aと一体に回転自在とされている。そして、サンギヤ4sが、第1電動モータ6のロータ6rに連結回転軸13を介して同軸心に連結され、該ロータ6rと一体に回転自在とされている。なお、連結回転軸13は、サンギヤ4sからエンジン1と反対側に向かって延設されている。
また、リングギヤ4rが、第1クラッチ8と回転伝達手段14とを介して動力出力軸10に接続されている。この場合、第1クラッチ8は、例えば摩擦式のものであり、その2つの回転要素8a,8bが摩擦力によって係合して一体に回転自在となる接続状態と、両回転要素8a,8bが切り離されて両者間の回転伝達が遮断される切断状態とにアクチュエータ15により動作可能とされている。この第1クラッチ8の回転要素8a,8bは、前記連結回転軸13に同軸心に支承されて、該連結回転軸13に対して相対回転自在に設けられている。そして、第1クラッチ8の回転要素8aがリングギヤ4rに同軸心に連結されて該リングギヤ4rと一体に回転自在に設けられ、回転要素8bが前記回転伝達手段14に接続されている。この回転伝達手段14は、第1クラッチ8の回転要素8bに一体に回転自在に連結されたギヤ14aと、このギヤ14aに噛合して動力出力軸10に同軸心で一体に回転自在に設けられたギヤ14bとから構成されている。ギヤ14aは前記連結回転軸13に同軸心に支承されて該連結回転軸13に対して相対回転自在に設けられている。
リングギヤ4rと、動力出力軸10との上記の接続構成により、第1クラッチ8の接続状態では、リングギヤ4rと動力出力軸10との間の回転伝達が第1クラッチ8、ギヤ14a及びギヤ14bを介して行われ、リングギヤ4rと動力出力軸10とが互いに連動して回転可能とされている。なお、第1クラッチ8は、摩擦式のものに限らず、例えば凹凸嵌合やスプライン嵌合によってリングギヤ4rとギヤ14との間の回転伝達を断接するものであってもよい。
また、本実施形態では、リングギヤ4rを適宜回転不能とするブレーキ手段としてのブレーキ機構16が備えられている。このブレーキ機構16は、リングギヤ4rとの摩擦係合や凹凸嵌合等により該リングギヤ4rを回転不能に係止する回転禁止状態と、該リングギヤ4rとの係合を解除して該リングギヤ4rを回転自在とする回転許可状態とにアクチュエータ17により動作可能とされている。
一方、第2動力分配器5は、そのリングギヤ5r、サンギヤ5s、キャリア5cをそれぞれ本発明における第1回転軸(入力軸)、第3回転軸、第2回転軸とし、入力軸としてのリングギヤ5rがエンジン1の出力軸1aに回転伝達手段18を介して接続されている。なお、第2動力分配器5は、その軸心(リングギヤ5r、サンギヤ5s及びキャリア5cの回転軸心)をエンジン1の出力軸1a及び動力出力軸10と平行な方向に向けて、第1動力分配器4と並設されている。前記回転伝達手段18は、エンジン1の出力軸1aにこれと同軸心で一体に回転自在に設けられたギヤ18aと、このギヤ18aに噛合するアイドルギヤ18bと、このアイドルギヤ18bに噛合してリングギヤ5rにこれと同軸心で一体に回転自在に連結されたギヤ18cとから構成されている。この場合、アイドルギヤ18bは、動力出力軸10に同軸心に支承され、該動力出力軸10に対して相対回転自在とされている。
エンジン1の出力軸1aと第2動力分配器5のリングギヤ5rとの上記の接続構成により、エンジン1の出力軸1aとリングギヤ5rとの間の回転伝達がギヤ18a〜18cを介して行われ、該出力軸1aとリングギヤ5rが互いに連動して回転可能とされている。この場合、回転伝達手段18のギヤ18aとギヤ18cとは、同一径で同一の歯数を有しており、回転伝達手段18の減速比(エンジン1の出力軸1aからリングギヤ5rまでの回転伝達系の減速比)は「1」とされている。従って、エンジン1の出力軸1aから第1動力分配器4のキャリア4c(入力軸)までの回転伝達系の減速比と、エンジン1の出力軸1aから第2動力分配器5のリングギヤ5r(入力軸)までの回転伝達系の減速比とは同一とされている。
第2動力分配器5のサンギヤ5sは、これに連結回転軸19を介して同軸心に連結されたギヤ20aを有する回転伝達手段20を介して前記第1動力分配器4側の連結回転軸13に接続されている。別の言い方をすれば、第1動力分配器4および第2動力分配器5のそれぞれのサンギヤ4s,5sが回転伝達手段20を介して互いに接続されると同時に第1電動モータ6のロータ6rに接続されている。なお、連結回転軸19は、サンギヤ5sから前記第1動力分配器4側の連結回転軸13と同方向(エンジン1と反対側)に延設されている。前記回転伝達手段20は、前記ギヤ20aと、このギヤ20aに噛合するアイドルギヤ20bと、このアイドルギヤ20bに噛合して前記連結回転軸13にこれと同軸心で一体に回転自在に設けられたギヤ20cとから構成されている。この場合、アイドルギヤ20bは、動力出力軸10に同軸心に支承され、該動力出力軸10に対して相対回転自在とされている。
第2動力分配器5のサンギヤ5sと、第1動力分配器4のサンギヤ4sとの上記の接続構成によってそれらのサンギヤ4s,5sの間の回転伝達がギヤ20a〜20cを介して行われ、第1電動モータ6のロータ6rとサンギヤ4s,5sとが互いに連動して回転可能とされている。この場合、本実施形態では、回転伝達手段20のギヤ20aとギヤ20cとは同一径で同一歯数を有しており、該回転伝達手段20の減速比は、「1」とされている。従って、サンギヤ4s,5sおよび第1電動モータ6のロータ6rは、互いに同一の回転速度で回転するようになっている。
第2動力分配器5のキャリア5cは、前記第2クラッチ9と回転伝達手段21を介して動力出力軸10に接続されている。この場合、第2クラッチ9は、第1クラッチ8と同様、摩擦式のものであり、その2つの回転要素9a,9bが摩擦力によって一体に回転自在となる接続状態と、両回転要素9a,9bが切り離されて両者間の回転伝達が遮断される切断状態とにアクチュエータ22によって動作可能とされている。この第2クラッチ9の回転要素9a,9bは、前記連結回転軸19に同軸心に支承され、該連結回転軸19に対して対して相対回転自在とされている。そして、第2クラッチ9の回転要素9aがキャリア5cに同軸心に連結されて該キャリア5cと一体に回転自在とされ、回転要素9bが回転伝達手段21に接続されている。この回転伝達手段21は、第2クラッチ9の回転要素9bに一体に回転自在に連結されたギヤ21aと、このギヤ21aに噛合して動力出力軸10にこれと同軸心で一体に回転自在に設けられたギヤ21bとから構成されている。ギヤ21aは連結回転軸19に同軸心に支承され、該連結回転軸19に対して相対回転自在とされている。
キャリア5cと、動力出力軸10との上記の接続構成により、第2クラッチ9の接続状態では、キャリア5cと動力出力軸10との間の回転伝達が第2クラッチ9、ギヤ21a及びギヤ21bを介して行われ、該キャリア5cと動力出力軸10とが互いに連動して回転可能とされている。なお、第2クラッチ9は、摩擦式のものに限らず、例えば凹凸嵌合やスプライン嵌合によってキャリア5cとギヤ21aとの間の回転伝達を断接するものであってもよい。
ここで、上記の如く構成された動力伝達装置3の回転伝達系の減速比について説明しておく。以下の説明において、第1動力分配器4のリングギヤ4rに対するサンギヤ4sの歯数比をk1(<1)、第2動力分配器5のリングギヤ5rに対するサンギヤ5sの歯数比をk2(<1)、回転伝達手段14の減速比(ギヤ14aに対するギヤ14bの歯数比)をα、回転伝達手段21の減速比(ギヤ21aに対するギヤ21bの歯数比)をβとおく。また、エンジン1の出力軸1aから、第1動力分配器4のキャリア4c、リングギヤ4r、第1クラッチ8及び回転伝達手段14を経由して動力出力軸10に至る回転伝達系(以下、エンジン・出力間第1回転伝達系という)の減速比を第1減速比R1、エンジン1の出力軸1aから、第2動力分配器5のリングギヤ5r、キャリア5c、第2クラッチ9及び回転伝達手段21を経由して動力出力軸10に至る回転伝達系(以下、エンジン・出力間第2回転伝達系という)の減速比を第2減速比R2と称する。但し、第1減速比R1は、詳しくは、第1クラッチ8及び第2クラッチ9をそれぞれ接続状態、切断状態とし、且つ、第1電動モータ6の回転速度を「0」とした状態での減速比であり、第2減速比R2は、第1クラッチ8及び第2クラッチ9をそれぞれ切断状態、接続状態とし、且つ、第1電動モータ6の回転速度を「0」とした状態での減速比である。また、エンジン1の出力軸1aから第1動力分配器4のキャリア4c、サンギヤ4s及び連結回転軸13を経由して第1電動モータ6のロータ6rに至る回転伝達系(以下、エンジン・モータ間第1回転伝達系という)の減速比をRa、エンジン1の出力軸1aから第2動力分配器5のリングギヤ5r、サンギヤ5s、連結回転軸19及び回転伝達手段20を経由して第1電動モータ6のロータ6rに至る回転伝達系(以下、エンジン・モータ間第2回転伝達系という)の減速比をRbとおく。但し、減速比Raは、詳しくは、第1クラッチ8及び第2クラッチ9の動作状態が前記第1減速比R1に対応する動作状態と同じ状態であるときの減速比であり、減速比Rbは、第1クラッチ8及び第2クラッチ9の動作状態が前記第2減速比に対応する動作状態と同じ状態であるときの減速比である。
この場合、本実施形態では、R1=α/(1+k1)、R2=(1+k2)β、Ra=k1/(1+k1)、Rb=k2である。そして、本実施形態では、クラッチ8,9をそれぞれ接続状態、切断状態としたときの動力伝達装置3の定常状態においてエンジン1の出力軸1aから前記エンジン・モータ間第1回転伝達系を介して第1電動モータ6のロータ6aに伝達されるトルク(=Ra・Te。但しTeはエンジン1の出力トルク)の大きさと、クラッチ8,9をそれぞれ切断状態、接続状態としたときの動力伝達装置3の定常状態においてエンジン1の出力軸1aから前記エンジン・モータ間第2回転伝達系を介して第1電動モータ6のロータ6aに伝達されるトルク(=−Rb・Te)の大きさとを等しくなるように、前記エンジン・モータ間第1回転伝達系とエンジン・モータ間第2回転伝達系とが構成されている。より詳しくは、
k1/(1+k1)=k2 ……(1)
という関係式(1)を満たすようにk1、k2の値を設定することで、Ra=Rbとし、それによって、上記の2つの伝達トルクの大きさが等しくなるようにしている。なお、上記定常状態は、エンジン1の回転速度、車両の車速が一定に維持され、動力伝達装置3の各回転要素(各動力分配器4,5並びに回転伝達手段14,18,20,21の各ギヤ等)の回転速度が一定となる状態である。また、本実施形態では、第1動力分配器4の入力軸(駆動トルクを入力する回転軸)をキャリア4cとすると共に、第2動力分配器5の入力軸をリングギヤ5rとすることによって、エンジン1の出力軸1aから前記エンジン・モータ間第1回転伝達系を介して第1電動モータ6のロータ6rに伝達される上記トルク(=Ra・Te)と、エンジン1の出力軸1aから前記エンジン・モータ間第2回転伝達系を介して第1電動モータ6のロータ6rに伝達される上記トルク(=−Rb・Te)とは互いに逆向きのトルクになっている。
さらに、本実施形態では、R1≠R2となるように前記エンジン・出力間第1回転伝達系およびエンジン・出力間第2回転伝達系が構成されている。より具体的には、例えば
α/(1+k1)>(1+k2)β ……(2)
となるように、k1、k2、α、βの値が設定され、それにより、R1≠R2(R1>R2)としている。例えばk1=1/2、k2=1/3、α=3、β=3/4に設定することで、R1=2、R2=1(<R1)、Ra=Rb=1/3としている。
なお、本実施形態では、前記エンジン・モータ間第1回転伝達系を介して第1電動モータ6のロータ6rに伝達されるトルクと、エンジン・モータ間第2回転伝達系を介して第1電動モータ6のロータ6rに伝達されるとを互いに逆向きのトルクにするために、第1動力分配器4の入力軸(駆動トルクを入力する回転軸)をキャリア4cとすると共に、第2動力分配器5の入力軸をリングギヤ5rとしている。但し、例えば本実施形態の第1動力分配器4に代えて、ダブルピニオン型の遊星歯車装置、すなわちサンギヤとリングギヤとの間で互いに噛合する2つのピニオンの対がサンギヤの周方向に複数対配列されている遊星歯車装置を使用し、そのリングギヤを入力軸としてエンジン1の出力軸1aに接続するようにしてもよい。
上述のように構成された動力伝達装置3は、その要部を簡略化した模式図で表現すると、図2に示すような構成となる。すなわち、エンジン1の出力軸1aが第1動力分配器4の入力軸たる第1回転軸(キャリア)4cと第2動力分配器5の入力軸たる第1回転軸(リングギヤ)5rとに接続されている。そして、第1動力分配器4の第2回転軸(リングギヤ)4rが第1クラッチ8と減速比αを有する回転伝達手段14とを介して動力出力軸10に接続されると共に、第2動力分配器5の第2回転軸(キャリア)5cが第2クラッチ8と減速比βを有する回転伝達手段21とを介して動力出力軸10に接続されている。さらに、第1動力分配器4の第3回転軸(サンギヤ)4sと、第2動力分配器5の第3回転軸(サンギヤ)5sとが第1電動モータ6のロータ6rに接続されている。この場合、エンジン1から第1動力分配器4を経由して第1電動モータ6に伝達されるトルクと、第2動力分配器5を経由して第1電動モータ6に伝達されるトルクとが逆向きであることを△付きの「−1」で表現している。また、第1動力分配器4の第2回転軸4rを適宜回転不能に係止するブレーキ機構16が設けられている。また、動力出力軸10には、第2電動モータ7が同軸心に設けられ、そのロータ7rと動力出力軸10とが一体に回転するようになっている。動力出力軸10はギヤ11及び差動歯車装置12を介して駆動輪2,2に連接されている。
前記エンジン1、各電動モータ6,7、第1及び第2クラッチ8,9並びにブレーキ機構16の動作制御は、図3のブロック図に示す制御装置23により行なわれる。制御装置23は、マイクロコンピュータを含む電子回路により構成されたものであり、エンジン1の図示しない燃料噴射装置、点火装置、スロットル弁のアクチュエータ等を介してエンジン1の運転制御を行なう。また、制御装置23は、各電動モータ6,7とそれらの電源としての蓄電器24との間で電力授受を行うモータ駆動回路(パワードライブユニット)25,26をそれぞれ介して各電動モータ6,7の通電制御を行う。さらに、制御装置23は、各クラッチ8,9及びブレーキ機構16の動作をそれぞれに対応して設けられた前記アクチュエータ15,22,17を介して制御する。なお、制御装置23には、その制御処理を行なうために、エンジン1の回転数(回転速度)NE、スロットル弁の開度TH、車両のアクセル操作量AP、車速V等の検出データが図示しないセンサから入力される。
次に、動力伝達装置3の基本的作動を図4(a)〜(c)を参照して説明する。ここで、以降の説明において、エンジン1の回転速度をωe、動力出力軸10の回転速度をωv、第1電動モータ6の回転速度をωm1、第2電動モータ6の回転速度をωm2(本実施形態では、ωm2=ωv)、エンジン1の出力トルクをTe、動力出力軸10に発生するトルクをTv、第1電動モータ6及び第2電動モータ7のそれぞれの発生トルク(駆動トルク又は回生トルク)をTm1,Tm2とする。なお、ωe、ωm1、Te、Tm1は、エンジン1の運転時の出力軸1aの回転方向と同方向を正方向とし、ωv(=ωm1)、Tvは、車両の前進走行時の動力出力軸10の回転方向(車両の前進走行時にエンジン1側から動力出力軸10に作用するトルクの方向(エンジン1の出力軸1aの回転方向と逆方向)を正方向とする。
図4(a)は、第1クラッチ8及び第2クラッチ9をそれぞれ接続状態、切断状態に動作させた状態を示している。また、前記ブレーキ機構16の動作状態は回転許可状態である。なお、図4(a)を含めて、以降に説明する図面では、各クラッチ8,9は、接続状態であることを黒塗りで表し、切断状態であることを白抜きで表わす。また、ブレーキ機構16は回転許可状態であることを白抜きで表し、回転禁止状態であることを黒塗りで表す。
このように各クラッチ8,9及びブレーキ機構16を動作させた状態において、エンジン1の運転を行うと、回転速度とトルクに関して次式(3)〜(5)が成立する。
Ra・ωm1+R1・ωv=ωe……(3)
Te=−Tm1/Ra ……(4)
Tv=R1・Te+Tm2 ……(5)
なお、トルクに関する式(4)、(5)は、動力伝達装置3の各回転要素の回転速度(ωe、ωm1、ωv等)が一定となる定常状態で成立する式である。
ここで、次式(6)が成立するように第2電動モータ7の発生トルクTm2を制御する場合を考える。
Tm2=(ωe/ωv)・Te−R1・Te ……(6)
このとき、前記(3)〜(5)式によって、Tm1・ωm1+Tm2・ωv=0となるので、第1電動モータ6及び第2電動モータ7のトータルの電力収支は「0」になる(但し、ここでは、各電動モータ6,7でのエネルギー損失は無視する)。同時に、前記式(5)から、Tv=(ωe/ωv)・Teとなる。従って、式(4)によってエンジン1の出力トルクTeと釣り合うトルクTm1を第1電動モータ6に発生させながら、式(6)を満たすトルクTm2を第2電動モータ7に発生させることによって、エンジン1の出力軸1aから動力出力軸10への回転伝達が、CVT変速機のような機械的変速機を介して行われるのと同等の状態となる。この場合におけるエンジン1の出力軸1aから動力出力軸10への減速比(変速比)ωe/ωv、すなわち前記エンジン・出力間第1回転伝達系の減速比は、第1電動モータ6の回転速度ωm1を調整することで連続的に変化させることができる。
なお、上記のようにエンジン・出力間第1回転伝達系の減速比ωe/ωvを変化させる変速動作を行なった場合、ωe/ωv>R1であるとき、第1電動モータ6及び第2電動モータ7はそれぞれ回生状態、駆動状態(力行状態)となり、ωe/ωv<R1であるとき、第1電動モータ6及び第2電動モータ7はそれぞれ駆動状態(力行状態)、回生状態となる。これらの状態では、エンジン1の出力エネルギーの一部は、両電動モータ6,7のうちの一方から他方に通過するようにして動力出力軸10に伝達されることとなる。また、ωe/ωv=R1であるとき、ωm1=0、Tm2=0となり、両電動モータ6,7での電力の消費及び発生が無い状態となる。この状態では、エンジン1の出力エネルギーは、動力出力軸10に機械的に伝達されることとなる。
以下の説明では、図4(a)のように第1クラッチ8、第2クラッチ9及びブレーキ機構16を動作させた状態で、エンジン1の出力軸1aから動力出力軸10への減速比を変化させる場合の動力伝達装置3の動作モードを第1変速モードという。第1変速モードは別の言い方をすれば、エンジン・出力間第2回転伝達系の回転伝達を遮断した状態で、エンジン・出力間第1回転伝達系の回転伝達を行いながら、エンジン1の出力軸1aと動力出力軸10との間の減速比ωe/ωvを変化させる動作モードである。
図4(b)は、第1クラッチ8及び第2クラッチ9をそれぞれ切断状態、接続状態に動作させた状態を示している。また、ブレーキ機構16の動作状態は回転許可状態である。このように各クラッチ8,9及びブレーキ機構16を動作させた状態において、エンジン1の運転を行うと、回転速度とトルクに関して次式(7)〜(9)が成立する。なお、トルクに関する式(8)、(9)は定常状態で成立する式である。
Rb・ωm1+ωe=R2・ωv ……(7)
Te=Tm1/Rb ……(8)
Tv=R2・Te+Tm2 ……(9)
ここで、次式(10)が成立するように第2電動モータ7の発生トルクTm2を制御する場合を考える。
Tm2=(ωe/ωv)・Te−R2・Te ……(10)
このとき、前記(7)〜(9)式によって、Tm1・ωm1+Tm2・ωv=0となるので、第1電動モータ6及び第2電動モータ7のトータルの電力収支は「0」になる(但し、ここでは、各電動モータ6,7でのエネルギー損失は無視する)。同時に、前記式(9)から、Tv=(ωe/ωv)・Teとなる。従って、式(8)によってエンジン1の出力トルクTeと釣り合うトルクTm1を第1電動モータ6に発生させながら、式(10)を満たすトルクTm2を第2電動モータ7に発生させることによって、前記第1変速モードの場合と同様、エンジン1の出力軸1aから動力出力軸10への回転伝達が、CVT変速機のような機械的変速機を介して行われるのと同等の状態となる。この場合におけるエンジン1の出力軸1aから動力出力軸10への減速比(変速比)ωe/ωe、すなわち、前記エンジン・出力間第2回転伝達系の減速比は、第1電動モータ6の回転速度ωm1を調整することで連続的に変化させることができる。
なお、上記のようにエンジン・出力間第2回転伝達系の減速比ωe/ωvを変化させる変速動作を行なった場合、ωe/ωv>R2であるとき、第1電動モータ6及び第2電動モータ7はそれぞれ回生状態、駆動状態(力行状態)となり、ωe/ωv<R2であるとき、第1電動モータ6及び第2電動モータ7はそれぞれ駆動状態、回生状態となる。これらの状態では、エンジン1の出力エネルギーの一部は、両電動モータ6,7の一方から他方に通過するような形態で動力出力軸10に伝達されることとなる。また、ωe/ωv=R2であるとき、ωm1=0、Tm2=0となり、両電動モータ6,7での電力の消費及び発生が無い状態となる。この状態では、エンジン1の出力エネルギーは、動力出力軸10に機械的に伝達されることとなる。
以下の説明では、図4(b)のように第1クラッチ8、第2クラッチ9及びブレーキ機構16を動作させた状態で、エンジン1の出力軸1aから動力出力軸10への減速比を変化させる場合の動力伝達装置3の動作モードを第2変速モードという。第2変速モードは別の言い方をすれば、エンジン・出力間第1回転伝達系の回転伝達を遮断した状態で、エンジン・出力間第2回転伝達系の回転伝達を行いながら、エンジン1の出力軸1aと動力出力軸10との間の減速比ωe/ωvを変化させる動作モードである。
図4(c)は、第1クラッチ8及び第2クラッチ9を両者とも接続状態に動作させた状態を示している。また、ブレーキ機構16の動作状態は回転許可状態である。
このように各クラッチ8,9及びブレーキ機構16を動作させた状態において、エンジン1の運転を行うと、回転速度に関しては、前記式(3)、(7)の関係式が成立する。この場合、前記したようにRa=Rbであるので、前記関係式(3)、(7)から、次式(11)が得られる。
ωe/ωv=(R1+R2)/2 ……(11)
従って、エンジン1の出力軸1aから動力出力軸10への減速比ωe/ωvは前記第1減速比R1と、第2減速比R2との平均値である一定値となる。なお、例えば前述の如くk1=1/2、k2=1/3、α=3、β=3/4としたとき、R1=2、R2=1であるから、ωe/ωv=3/2となる。
また、この場合における第1電動モータ6のロータ6rから動力出力軸10への減速比ωm1/ωv(=ωm1/ωm2)は、前記式(3)、(7)から、次式(12)により与えられる。
ωm1/ωv=(R2−R1)/(Ra+Rb)
=(R2−R1)/2Ra ……(12)
さらに、動力伝達装置3の定常状態におけるトルクに関しては、次式(13)〜(15)の関係式が成立する。
Tm1=−Ra・Te1+Rb・Te2 ……(13)
Tv=R1・Te1+R2・Te2+Tm2 ……(14)
Te=Te1+Te2 ……(15)
但し、Te1はエンジン1の出力軸1aから第1動力分配器4への入力トルク、Te2はエンジン1の出力軸1aから第2動力分配器5への入力トルクであり、エンジン1の出力軸1aの回転方向と同方向が正方向である。
ここで、第2電動モータ7の発生トルクTm2を次式(16)が成立するように制御する場合を考える。
Tm2=(ωm1/ωv)・Tm1
=Tm1・(R2−R1)/2Ra ……(16)
このとき、前記式(11)〜(15)から、次式(17)が得られる。
Tv=Te・(R1+R2)/2
=(ωe/ωv)・Te ……(17)
従って、第1クラッチ8及び第2クラッチ9を両者とも接続状態に動作させたときには、前記式(16)を満たすように第2電動モータ6の発生トルクTm2を制御することで、第1電動モータ6の発生トルクTm1によらずに、エンジン1の出力軸1aから動力出力軸10までの回転伝達系は、固定値の減速比(R1+R2)/2を有する機械的な回転伝達機構で出力軸1aと動力出力軸10とを接続した場合と同じになる。換言すれば、式(16)を満たすように第2電動モータ6の発生トルクTm2を制御することで、エンジン1の出力軸1aから動力出力軸10までの回転伝達系の減速比を一定値(R1+R2)/2に維持したまま、第1電動モータ6の発生トルクTm1を任意に変化させることができることとなる。この場合、Tm1=Tm2=0でもよい。
補足すると、この場合における各動力分配器4,5への入力トルクTe1、Te2は第1電動モータ6の発生トルクTm1に応じて変化し、それぞれ次式(18)、(19)により与えられる。これらの式(18)、(19)は、前記(13)、(15)から得られる。
Te1=(Te−Tm1/Ra)/2 ……(18)
Te2=(Te+Tm1/Ra)/2 ……(19)
以下の説明では、図4(c)のように、第1クラッチ8、第2クラッチ9及びブレーキ機構16を動作させた状態での動力伝達装置3の動作モードを中間変速モードという。この中間変速モードは、本実施形態では、第1変速モードから第2変速モードに、あるいは第2変速モードから第1変速モードに動力伝達装置3の動作モードを切換える際に一時的に用いられる動作モードである。
以上説明した動力伝達装置3の基本的作動を考慮しつつ、本実施形態のハイブリッド車両の作動をさらに説明する。
本実施形態では、前記制御装置23は、例えば車両の車速Vの検出値、アクセル操作量APなどの車両の運転状態に基づいて、あらかじめ用意された車両の複数の走行モードの中から1つの走行モードを選択し、その選択した走行モードでの車両の走行を行わせる制御処理を実行する。この場合、走行モードとしては、エンジン1の出力軸1aから動力出力軸10への減速比を変化させつつ、エンジン1の出力によって車両を走行させる変速走行モードと、エンジン1の出力を動力出力軸10に伝達することなく、第2電動モータ7の発生トルク(駆動トルク)によって車両の走行を行う電気走行モード(以下、EV走行モード)とがある。この場合、EV走行モードでは、エンジン1の出力によって第1電動モータ6の発電(前記蓄電器24の充電)を行ったり(所謂シリーズ型のEV走行を行う)、エンジン1の始動(車両の停車時を含む)を行うことも可能とされている。
まず、前記変速走行モードでの作動を説明すると、例えば図5に示すマップに基づいて、車両の要求走行駆動力(駆動輪2,2に発生させる要求トルク)と、車速Vの検出値とから動力伝達装置3の動作モードが決定される。ここで、車両の要求走行駆動力は、アクセル操作量APおよび車速Vの検出値から図示しないマップに基づいて決定されるものである。図5に示すマップでは、基本的には、要求走行駆動力と車速Vとの組が、領域A1,A2を合わせた領域(後述する動作曲線bよりも要求走行駆動力が高い領域)に在るとき、前記第1変速モードが動力伝達装置3の動作モードとして決定され、領域A3,A4を合わせた領域(後述する動作曲線bよりも要求走行駆動力が低い領域)に在るとき、前記第2変速モードが動力伝達装置3の動作モードとして決定される。ここで、図5中の曲線a〜cは、それぞれ前記エンジン1の出力軸1aから動力出力軸10への減速比ωe/ωv(=Tv/Te)をR1、(R1+R2)/2、R2に固定して、エンジン1をエネルギー効率の良い動作点(燃料使用量を少なくできる動作点)で運転した場合の車両の走行駆動力と車速Vとの関係を示す動作曲線である。そして、前記領域A1は、要求走行駆動力が動作曲線aよりも高い領域、領域A2は、要求走行駆動力が動作曲線aとbとの間の値となる領域、領域A3は、要求走行駆動力が動作曲線bとcの間の値になる領域、領域A4は要求走行駆動力が動作曲線cよりも低い領域である。従って、動作曲線bよりも要求走行駆動力が高くなる領域A1,A2で動力伝達装置3の動作モードが第1変速モードに決定され、動作曲線bよりも要求走行駆動力が低くなる領域A2,A4で動力伝達装置3の動作モードが第2変速モードに決定される。
第1変速モードでは、制御装置23は、前記図4(a)に示したように第1クラッチ8、第2クラッチ9及びブレーキ機構16をそれぞれ接続状態、切断状態、回転許可状態に動作させる。そして、この状態で、エンジン1、第1電動モータ6及び第2電動モータ7を次のように制御する。すなわち、まず、制御装置23は、車両の要求走行駆動力と車速Vとに応じて、その要求走行駆動力と車速Vとに対応するエネルギーを発生し得るエンジン1の目標出力を決定し、さらに、その目標出力を発生する上で最もエネルギー効率の良い(最も燃料消費量が少なくなる)動作点、すなわち、エンジン1の目標出力トルクと目標回転数との組を決定する。そして、制御装置23は、目標出力トルクに応じてエンジン1のスロットル弁(図示しない)の開度を制御すると共に、目標回転数と実回転数NE(検出値)との偏差に応じて目標出力トルクを補正することで、エンジン1の目標負荷トルク(エンジン1の出力トルクと逆向きのトルク)を決定する。この目標負荷トルクは、例えば目標回転数と実回転数NEとの偏差からPI制御則などのフィードバック制御則により求めた操作量によって、目標出力トルクを補正することで決定される。さらに、制御装置23は、決定した目標負荷トルクと、要求走行駆動力に対応して動力出力軸10に発生させるべき目標駆動トルクとを基に、各電動モータ6,7の目標トルクを決定する。より具体的には、前記式(4)の左辺のTeの値を「−目標負荷トルク」とした式によって、第1電動モータ6の目標トルクTm1が決定される。さらに、前記式(5)の左辺のTvの値を動力出力軸10の目標駆動トルクとすると共に、右辺のTeの値を「−目標負荷トルク」とした式によって、第2電動モータ7の目標トルクTm2が決定される。そして、このように決定した目標トルクTm1、Tm2に応じて各電動モータ6,7の通電電流がそれぞれ前記モータ駆動回路25,26を介して制御される。
このように各電動モータ6,7の発生トルクを制御することで、エンジン1の回転速度NE(ωe)が最終的に前記目標回転速度に制御されると共に、最終的な定常状態では、前記式(6)の関係式が成立して、電動モータ6,7のトータルの電力収支が「0」になる。従って、最終的には(定常状態では)、エンジン1から動力出力軸10への減速比(変速比)が、車両の要求走行駆動力を確保しつつ、エンジン1がエネルギー効率の良い動作点で作動するような減速比に制御される。つまり、エンジン1がエネルギー効率の良い動作点で作動するような減速比にエンジン1から動力出力軸10への減速比(変速比)を制御しつつ、エンジン1の出力によって車両の変速走行が行われる。なお、第1変速モードにおいては、前記図5の動作曲線aよりも上側の領域は、ωe/ωv>R1となる領域であるので、各電動モータ6,7の動作状態は、それぞれ回生状態、駆動状態となる。また、動作曲線aよりも下側の領域は、ωe/ωv<R1となる領域であるので、各電動モータ6,7の動作状態は、それぞれ駆動状態、回生状態となる。
前記第2変速モードにおいても、第1変速走行モードと同様に、エンジン1のスロットル弁の開度、各電動モータ6,7の発生トルクが制御され、車両の変速走行が行われる。但し、この場合、各電動モータ6,7の目標トルクを決定するときには、前記式(8)の左辺のTeの値を「−目標負荷トルク」とした式によって、第1電動モータ6の目標トルクTm1が決定される。さらに、前記式(9)の左辺のTvの値を動力出力軸10の目標駆動トルクとすると共に、右辺のTeの値を「−目標負荷トルク」とした式によって、第2電動モータ7の目標トルクTm2が決定される。これ以外は、第1変速モードと全く同一である。なお、第2変速モードにおいては、前記図5の動作曲線cよりも上側の領域は、ωe/ωv>R2となる領域であるので、各電動モータ6,7の動作状態は、それぞれ回生状態、駆動状態となる。また、動作曲線cよりも下側の領域は、ωe/ωv<R2となる領域であるので、各電動モータ6,7の動作状態は、それぞれ駆動状態、回生状態となる。
一方、第1変速モードから第2変速モードへの切換え(移行)を行う際には、制御装置23は、図6(a)のフローチャートに示す制御処理を実行する。すなわち、まず、前記第1変速モードの制御処理によって、エンジン1の出力軸1aから動力出力軸10への減速比ωe/ωv(エンジン・出力間第1回転伝達系の減速比)を、前記第1減速比R1及び第2減速比R2の平均値である減速比(R1+R2)/2(以下、中間減速比という)に制御する(STEP1)。このとき、第1電動モータ6の発生トルクTm1は、前記式(4)からTm1=−Ra・Teであり、また、第2電動モータ7の発生トルクTm2は、前記式(4)、(6)から、Tm2=Tm1・(R2−R1)/Raである。なお、この状態では、第2クラッチ9の2つの回転要素9a,9bは同一の回転速度になっている。
次いで、制御装置23は、第2クラッチ9を接続状態に動作させる(STEP2)。このとき、動力伝達装置3の各部の回転状態は変化しないので、エンジン1の出力トルクTeは、第2クラッチ9の接続前と同じように、第2動力分配器5を経由することなく、第1動力分配器4を経由して動力出力軸10に伝達される。実際、今現在の時点では、上記の如くTm1=−Ra・Teであるので、この状態では、前記式(16)から明らかなようにTe2=0となる。従って、第2動力分配器5には、エンジン1からトルクが入力されない。また、このとき、動力伝達装置3の各部の回転状態は変化しないことから、第2クラッチ9の接続時に車両の挙動変化を生じることがなく、該第2クラッチ9の接続動作が円滑に行われる。なお、このとき、第2電動モータ7の発生トルクTm2は、Tm2=Tm1・(R2−R1)/Raであるので、中間変速モードでの前記式(16)の関係式が満たされている。
次いで、制御装置23は、第2電動モータ7の発生トルクTm2を前記式(16)の関係式を満たすように(Tm2=Tm1・(R2−R1)/2Raとなるように)制御しつつ、第1電動モータ6の発生トルクTm1を、STEP1のときのトルク(=−Ra・Te)から、第2変速モードに係わる前記式(8)により定まるトルクRb・Te(=Ra・Te)に変更する(STEP3)。これにより、エンジン1から動力出力軸10への減速比が一定に維持されつつ、動力伝達装置3の動作状態が、前記第2変速モードでエンジン1から動力出力軸10への減速比を前記中間減速比(R1+R2)/2に制御した場合と同等状態になる。すなわち、前記式(15)から明らかなように、Te1=0となるので、エンジン1の出力トルクTeが、第2動力分配器5にのみ入力され、第1動力分配器4側にはトルクが伝達されない状態となる。
この状態で、制御装置23は、次に第1クラッチ8を切断させる(STEP4)。これにより、動力伝達装置3の動作モードは、エンジン1から動力出力軸10への減速比を前記中間減速比(R1+R2)/2に維持したまま、第2変速モードに完全に移行する。そして、以後は、該第2変速モードでの変速動作が前述の通り行なわれる。
第2変速モードから第1変速モードへの移行は、第1変速モードから第2変速モードへの移行の場合と逆の手順によって行われる。すなわち、図6(b)のフローチャートに示すように、まず、前記第2変速モードの制御処理によって、エンジン1の出力軸1aから動力出力軸10への減速比ωe/ωv(エンジン・出力間第2回転伝達系の減速比)が、前記中間減速比(R1+R2)/2に制御される(STEP5)。次いで、STEP6で第1クラッチ8を接続した後、第2電動モータ7の発生トルクTm2が前記式(16)の関係式を満たすように(Tm2=Tm1・(R2−R1)/2Raとなるように)制御されつつ、第1電動モータ6の発生トルクTm1が、第2変速モードに係わる前記式(8)により定まるトルクRb・Te(=Ra・Te)から、第1変速モードに係わる前記式(4)により定まるトルク−Ra・Teに変更される(STEP7)。そして、この変更後に、第2クラッチ9が切断され(STEP8)、これにより第1変速モードへの移行が完了する。
以上のように第1変速モードと第2変速モードとの間の移行を行うことで、車両の挙動状態を変化させることなく、円滑に当該移行を行うことができる。また、第1変速モード及び第2変速モードでの変速走行は、それぞれ前記図7の動作曲線bの上側の領域、下側の領域で行われるので、それぞれの変速モードで必要な第1電動モータ6及び第2電動モータ7の容量を小さくできる。すなわち、第1変速モードでは、車両の要求走行駆動力と車速Vとの組により定まる動作点が、図5の動作曲線aから離れるほど、エンジン1の出力のうち、両電動モータ6,7を通過するエネルギーが増大する。同様に、第2変速モー0ドでは、車両の要求走行駆動力と車速Vとの組により定まる動作点が、図5の動作曲線cから離れるほど、両電動モータ6,7を通過するエネルギーが増大する。しかるに、本実施形態のハイブリッド車両では、第1変速モードは、動作曲線aとcとの間の動作曲線bの上側の領域に制限され、また、第2変速モードは、動作曲線bの下側に制限される。このため、それぞれの変速モードで、両電動モータ6,7を通過するエネルギーの最大値を低く抑えることができ、その結果、両電動モータ6,7の必要容量を小さくできる。さらに、両電動モータ6,7を通過するエネルギーの最大値を低く抑えることができることから、両電動モータ6,7でのエネルギー損失も低く抑えることができる。従って、エンジン1の出力を効率よく動力出力軸10に伝達して車両の変速走行を行うことができる。
次に、前記EV走行モードの作動について説明する。EV走行モードでは、制御装置23は、図7に示す如く、両クラッチ8,9を切断状態に動作させる。この状態では、第2電動モータ7でトルクを発生させると、そのトルクは、各動力分配器4,5及びエンジン1の出力軸1aに伝達されることなく、動力出力軸10のみに作用する。そして、制御装置23は、車速Vとアクセル操作量APとに応じて車両の要求走行駆動力を決定し、その要求走行駆動力に対応して動力出力軸10に発生させべきトルクを第2電動モータ7に発生させるように該電動モータ7を制御する。これにより、第2電動モータ7の出力による車両のEV走行(電気走行)が行われる。なお、EV走行モードでは、第2電動モータ7の発生トルクの向きを変えることによって、車両の前進走行及び後進走行のいずれでも可能である。また、図7では、ブレーキ機構16が回転禁止状態になっているが、第2電動モータ7の出力のみによる走行を行う上では、ブレーキ機構16は回転許可状態であってもよい。
上記EV走行モードで、エンジン1を始動する場合には、制御装置23は、図7に示す如く、両クラッチ8,9を切断状態に動作させることに加えて、前記ブレーキ機構16を第1動力分配器4のリングギヤ4rの回転禁止状態に動作させる。
このように両クラッチ8,9及びブレーキ機構16を動作させた状態で、制御装置23は、第1電動モータ6をエンジン1の始動用モータとして動作させる。このとき、第1電動モータ6の発生トルクは、第1動力分配器4のサンギヤ4s及びキャリア4cを介してエンジン1の出力軸1aに伝達され、それによって、該出力軸1aが回転駆動される。そして、このように第1電動モータ6によってエンジン1の出力軸1aを回転させつつ、エンジン1の図示しない燃料噴射装置及び点火装置を制御することによって、エンジン1が始動される。
そして、このエンジン1の始動後、例えば、第1電動モータ6の発電を行って前記蓄電器24の充電を行う場合、すなわち、シリーズ型のEV走行を行う場合には、制御装置23は、両クラッチ8,9及びブレーキ機構16の動作状態を図7の状態に維持したまま、第1電動モータ6に回生トルク(=−Ra・Te)を発生させる。これにより、第1電動モータ6の発電を行って、その発電電力を蓄電器24を充電させる。なお、この場合、エンジン1の出力(≒第1電動モータ6の発電出力)は、例えばあらかじめ定めた一定値でもよいが、蓄電器24の残容量に応じて決定することが望ましい。
また、EV走行モードから変速走行モードへの移行は例えば次のように行われる。すなわち、第2電動モータ7の発生トルクを維持した状態で、まず、ブレーキ機構16を回転許可状態に動作させると共に、第1電動モータ6の発生トルクを0にする(第1電動モータ6の通電を遮断する)。そして、車両の要求走行駆動力が前記第1変速モードの領域にあるときには、第1クラッチ8を接続状態に動作させ、第2変速走行モードの領域にあるときには、第2クラッチ9を接続状態に動作させる。その後は、前記した第1変速モード又は第2変速モードでのエンジン1、第1及び第2電動モータの動作制御を行うことによって、円滑に変速走行モードに移行することとなる。また、変速走行モードからEV走行モードへの移行の際には、第1及び第2クラッチ8を切断状態に動作させると共に、第2電動モータ7に車両の要求走行駆動力に対応する駆動トルクを発生させる。そして、その後にブレーキ機構16を回転禁止状態に動作させることで、EV走行モードに円滑に移行する。なお、この場合、EV走行モードでエンジン1の始動やシリーズ型のEV走行を行わない場合には、ブレーキ機構16を回転許可状態に動作させておいてもよい。
以上のように、本実施形態のハイブリッド車両では、変速走行モード、EV走行モード(エンジン1の始動やシリーズ型のEV走行を含む)での車両の走行を、第1及び第2電動モータ6,7、第1及び第2クラッチ8,9、並びにブレーキ機構16の簡単な制御によって行うことができる。なお、変速走行モード及びEV走行モードのいずれであっても、車両の減速時には、例えば第2電動モータ7の回生発電を行うことで、車両の運動エネルギーを前記蓄電器24に回収しつつ車両の減速を行うことができる。
以上説明した実施形態では、エンジン1と動力出力軸10との間の減速比ωe/ωvを連続的に変化させるものを示したが、前記蓄電器24の残容量が比較的少なく、発電エネルギーを該蓄電器24に吸収できる(充電できる)余裕があるような場合には、第2電動モータ7を用いずに(第2電動モータ7にトルクを発生させずに)、減速比ωe/ωv(=Tv/Te)をR1,(R1+R2)/2,R2の3種類の値に段階的に切換えるような変速走行も可能である。この例を以下に説明する。なお、以下の説明では、ブレーキ機構16は常に回転許可状態に動作され、また、第2電動モータ7は、通電停止状態で、その発生トルクが0になっているとする。
第1クラッチ8を接続状態に動作させ、且つ第2クラッチ9を切断状態に動作させた状態で、第1電動モータ6の発生トルクTm1を前記式(4)に従ってエンジン1の出力トルクTeに応じたトルクに制御することで、減速比ωe/ωv(=Tv/Te)=R1となる。また、第1電動モータ6の回転速度ωm1は「0」になる。減速比ωe/ωvをこの減速比R1から(R1+R2)/2に切換える場合には、第1電動モータ6の発生トルクTm1を増加させて、エンジン1の出力軸1aの回転速度ωeを低下させる。この場合、ωeの低下に伴って、第1電動モータ6の回転速度ωm1も低下するので、第1電動モータ6は回生状態となる。そして、その発電エネルギーが蓄電器24に充電される。次いで、ωeの低下によって、減速比ωe/ωvが(R1+R2)/2まで低下したら、第2クラッチ9を接続状態に動作させ(両クラッチ8,9を接続状態にする)、さらに、第1電動モータ6の発生トルクを0にする(第1電動モータ6の通電を遮断する)。これにより、減速比ωe/ωvがR1から(R1+R2)/2に切換えられる。
上記と逆に減速比ωe/ωvを(R1+R2)/2からR1に切換える場合には、まず、第1クラッチ8を切断状態に動作させると共に、第1電動モータ6の発生トルクTm1を前記式(4)に従って、エンジン1の出力トルクTeに応じたトルクに制御する。次いで、第1電動モータ6の発生トルクTm1を減少させて、ωeを増加させる。この場合、ωeの増加に伴って、ωm1も増加するので、第1電動モータ6は回生状態となり、その発電エネルギーが蓄電器24に充電される。次いで、ωeの増加によって、減速比ωe/ωvがR1まで上昇したら、第1電動モータ6の発生トルクTm1を前記式(4)に従って、エンジン1の出力トルクTeに応じたトルクに制御する。このとき、第1電動モータ6の回転速度ωm1は「0」になっている。これにより、減速比ωe/ωvを(R1+R2)/2からR1に切換えられる。
また、第2クラッチ8を接続状態に動作させ、且つ第1クラッチ8を切断状態に動作させた状態で、第1電動モータ6の発生トルクTm1を前記式(8)に従ってエンジン1の出力トルクTeに応じたトルクに制御することで、減速比ωe/ωv(=Tv/Te)=R2となる。また、第1電動モータ6の回転速度ωm1は「0」になる。減速比ωe/ωvをこの減速比R2から(R1+R2)/2に切換える場合には、第1電動モータ6の発生トルクTm1を減少させて、エンジン1の出力軸1aの回転速度ωeを増加させる。この場合、ωeの増加に伴って、第1電動モータ6の回転速度ωm1も増加するので、第1電動モータ6は駆動状態(力行状態)となり、その必要エネルギーが蓄電器24から第1電動モータ6に供給される。次いで、ωeの増加によって、減速比ωe/ωvが(R1+R2)/2まで上昇したら、第1クラッチ8を接続状態に動作させ(両クラッチ8,9を接続状態にする)、さらに、第1電動モータ6の発生トルクを0にする(第1電動モータ6の通電を遮断する)。これにより、減速比ωe/ωvがR2から(R1+R2)/2に切換えられる。
上記と逆に減速比ωe/ωvを(R1+R2)/2からR2に切換える場合には、まず、第2クラッチ9を切断状態に動作させると共に、第1電動モータ6の発生トルクTm1を前記式(8)に従って、エンジン1の出力トルクTeに応じたトルクに制御する。次いで、第1電動モータ6の発生トルクTm1を増加させて、ωeを減少させる。この場合、ωeの減少に伴って、ωm1も減少するので、第1電動モータ6は駆動状態(力行状態)となり、その必要エネルギーが蓄電器24から第1電動モータ6に供給される。次いで、ωeの減少によって、減速比ωe/ωvがR2まで低下したら、第1電動モータ6の発生トルクTm1を前記式(8)に従って、エンジン1の出力トルクTeに応じたトルクに制御する。このとき、第1電動モータ6の回転速度ωm1は「0」になっている。これにより、減速比ωe/ωvを(R1+R2)/2からR2に切換えられる。
なお、減速比ωe/ωvの切換え途中では、エンジン1の出力トルクTeが大きいと、第1電動モータ6の発電エネルギー又は消費エネルギーが大きくなるので、切換え途中では、エンジン1の出力トルクTeを車両の要求走行駆動力に対応するトルクよりも小さくするようにしてもよい。
次に、本発明の第2実施形態を図8〜図13を参照して説明する。なお、本実施形態は、第1実施形態のものと一部の構成のみが相違するので、第1実施形態のものと同一構成部分もしくは同一機能部分については、第1実施形態と同一の参照符号を用いて説明を省略する。
本実施形態は、第2動力分配器5の第2回転軸としてのキャリア5cから動力出力軸10までの回転伝達系の構成が第1実施形態のものと異なるものとされており、キャリア5cを、ワンウェイクラッチ27、補助回転軸28、補助クラッチ29、及び回転伝達手段30を介して動力出力軸10に接続して、ワンウェイクラッチ27及び/又は補助クラッチ29により、キャリア5cと動力出力軸10との間の回転伝達を断接可能としている。ワンウェイクラッチ27及び補助クラッチ29は本発明における第2クラッチ手段に相当するものである。この場合、回転伝達手段30は、第1動力分配器4側の回転伝達手段14のギヤ14b(動力出力軸10上のギヤ14b)を該回転伝達手段14とで共用して構成されており、このギヤ14bに噛合するギヤ30aをキャリア5cと同軸心に備えている。該ギヤ30aは、第2動力分配器5側の連結回転軸19に支承されて、該連結回転軸19に対して相対回転自在とされている。なお、回転伝達手段30の減速比(ギヤ30aに対するギヤ14bの歯数比)は、回転伝達手段14の減速比(ギヤ14aに対するギヤ14bの歯数比)と同一である。また、補助回転軸28は、ギヤ30aとキャリア5cとの間で連結回転軸19に同軸心に支承されて、該連結回転軸19に対して相対回転自在とされている。
ワンウェイクラッチ27は、エンジン1の出力軸1aから回転伝達手段18を介して第2動力分配器5に入力されるトルクによってそのトルクと同方向に前記補助回転軸28に対して相対回転しようとするときに、キャリア4cを補助回転軸28に凹凸嵌合等によって機構的に係合させて、該補助回転軸28とキャリア4cとを一体に回転可能に接続し、該キャリア4cが補助回転軸28に対して上記と逆方向に相対回転しようとするときに、キャリア4cと補助回転軸28との機構的係合を解除して、該キャリア4cを自由に回転し得る状態にするものである。以下、キャリア5cと補助回転軸28とが一体に回転自在に係合される場合のワンウェイクラッチ27の動作状態をON状態と称し、キャリア5cが補助回転軸28に対して相対回転自在となる場合のワンウェイクラッチ27の動作状態をOFF状態と称する。
前記補助クラッチ29は、補助回転軸28とギヤ30aの軸部とをスプライン嵌合や凹凸嵌合によって係合させて、それらを一体に回転自在に連結する接続状態と、補助回転軸28とギヤ30aの軸部との係合を解除して、それらの間の回転伝達を遮断する切断状態とにアクチュエータ31によって動作可能なものである。
以上説明した以外の構成は、前記第1実施形態と同一である。なお、本実施形態におけるエンジン1と、各電動モータ6,7と、第1クラッチ8、ブレーキ機構16及び補助クラッチ28にそれぞれ対応する各アクチュエータ15,17,31は、前記第1実施形態と同様に、制御装置23によって動作制御される。
ここで、上記の如く構成された本実施形態の動力伝達装置3の主要な回転伝達系の減速比について説明しておく。第1実施形態と同様に、エンジン1の出力軸1aから第1動力分配器4を経由して動力出力軸10に至るエンジン・出力間第1回転伝達系の減速比(第1減速比)をR1、エンジン1の出力軸1aから第2動力分配器5を経由して動力出力軸10に至るエンジン・出力間第2回転伝達系の減速比(第2減速比)をR2とする。但し、第1減速比R1は、詳しくは、第1クラッチ8が接続状態となっていると共に、第2動力分配器5のキャリア5cと動力出力軸10との間の回転伝達がワンウェイクラッチ27もしくは補助クラッチ29により遮断されている状態(ワンウェイクラッチ27のOFF状態もしくは補助クラッチ29の切断状態)となっており、且つ、第1電動モータ6の回転速度を「0」とした状態での減速比である。また、第2減速比R2は、第1クラッチ8が切断状態となっていると共に、ワンウェイクラッチ27がON状態、補助クラッチ29が接続状態になっており、且つ、第1電動モータ6の回転速度を「0」とした状態での減速比である。また、エンジン1の出力軸1aから第1動力分配器4を経由して第1電動モータ6のロータ6rに至るエンジン・モータ間第1回転伝達系の減速比をRa、エンジン1の出力軸1aから第2動力分配器5を経由して第1電動モータ6のロータ6rに至るエンジン・モータ間第2回転伝達系の減速比をRbとおく。但し、減速比Raは、第1クラッチ8、ワンウェイクラッチ27及び補助クラッチ29の動作状態が前記第1減速比R1に対応する動作状態と同じ状態にとなっているときの減速比であり、減速比Rbは、第1クラッチ8、ワンウェイクラッチ27及び補助クラッチ29の動作状態が前記第2減速比R2に対応する動作状態と同じ状態にとなっているときの減速比である。
さらに、第1実施形態と同様に、第1動力分配器4のリングギヤ4rに対するサンギヤ4sの歯数比をk1(<1)、第2動力分配器5のリングギヤ5rに対するサンギヤ5sの歯数比をk2、回転伝達手段14及び回転伝達手段30の減速比(ギヤ14a又はギヤ30aに対するギヤ14bの歯数比)をαとおく。
この場合、本実施形態では、R1=α/(1+k1)、R2=(1+k2)αであるので、k1、k2、αの値には依存せずに、R1<R2(R1≠R2)となっている。これは、本実施形態では、回転伝達手段14及び回転伝達手段30の減速比を同一にしているためである。また、第1実施形態と同様に、Ra=k1/(1+k1)、Rb=k2である。そして、本実施形態においては、第1クラッチ8が接続状態で、ワンウェイクラッチ27がOFF状態もしくは補助クラッチ29が切断状態であるときの動力伝達装置3の定常状態において、前記エンジン・モータ間第1回転伝達系を介して第1電動モータ6のロータ6aに伝達されるトルクの大きさと、第1クラッチ8が切断状態、ワンウェイクラッチ27がON状態且つ補助クラッチ29が接続状態であるときに、前記エンジン・モータ間第2回転伝達系を介して第1電動モータ6のロータ6aに伝達されるトルクの大きさとが等しくなるようするために、前記第1実施形態と同様にRa=Rbとなるようにk1、k2の値が設定されている。なお、本実施形態では、第1動力分配器4の入力軸及び第2動力分配器5の入力軸は、第1実施形態と同じであるので、前記エンジン・モータ間第1回転伝達系を介して第1電動モータ6のロータ6rに伝達されるトルクと、エンジン・モータ間第2回転伝達系を介して第1電動モータ6のロータ6rに伝達されるトルクとは互いに逆向きのトルクとなっている。また、上記のようにRa=Rbとなるようにするためには、例えばk1=1/2、k2=1/3に設定すればよい。このとき、Ra=Rb=1/3となる。さらにこのとき、例えばα=3/2に設定すると、R1=1、R2=2(>R1)となる。
上述のように構成された動力伝達装置3は、その要部を簡略化した模式図で表現すると、図9に示すような構成となる。すなわち、エンジン1の出力軸1aが第1動力分配器4の入力軸たる第1回転軸(キャリア)4cと第2動力分配器5の入力軸たる第1回転軸(リングギヤ)5rとに接続されている。そして、第1動力分配器4の第2回転軸(リングギヤ)4rが第1クラッチ8と減速比αを有する回転伝達手段14とを介して動力出力軸10に接続されると共に、第2動力分配器5の第2回転軸(キャリア)5cがワンウェイクラッチ27及び補助クラッチ29から成る第2クラッチ手段と減速比αを有する回転伝達手段30とを介して動力出力軸10に接続されている。さらに、第1動力分配器4の第3回転軸(サンギヤ)4sと、第2動力分配器5の第3回転軸(サンギヤ)5sとが第1電動モータ6のロータ6rに接続されている。この場合、エンジン1から第1動力分配器4を経由して第1電動モータ6に伝達されるトルクと、第2動力分配器5を経由して第1電動モータ6に伝達されるトルクとが逆向きになる。また、第1動力分配器4の第2回転軸4rを適宜回転不能に係止するブレーキ機構16が設けられている。また、動力出力軸10には、第2電動モータ7が同軸心に設けられ、そのロータ7rと動力出力軸10とが一体に回転するようになっている。そして、動力出力軸10はギヤ11及び差動歯車装置12を介して駆動輪2,2に連接されている。
以上のように構成された本実施形態の動力伝達装置3の基本的作動を説明すると、本実施形態では、エンジン1から動力出力軸10への減速比を変化させつつ、エンジン1の出力により車両の走行を行う変速走行モードでは、常に前記補助クラッチ29を接続状態に動作させるようにしている。従って、図10(a)に示すように、第1クラッチ8が接続状態になっており、且つ、ワンウェイクラッチ27がOFF状態となっており、且つブレーキ機構16が回転許可状態になっている場合が、前記第1実施形態における第1変速モードに相当する。なお、この図10(a)を含めて、以降に説明する図面では、ワンウェイクラッチ27がON状態、OFF状態であることをそれぞれ黒塗り、白抜きで表記し、補助クラッチ29が接続状態、切断状態であることをそれぞれ黒塗り、白抜きで表記する。
この状態では、前記式(3)〜(5)が成立するので、前記第1実施形態における第1変速モードと同様に、Tv=(ωe/ωv)・Teとなるようにエンジン1の出力軸1aから動力出力軸10への減速比(エンジン・出力間第1回転伝達系の減速比)を連続的に変化させることができる。
また、図10(b)に示すように、クラッチ8が切断状態になっており、且つ、ワンウェイクラッチ27がON状態になっており、且つブレーキ機構16が回転許可状態になっている場合(補助クラッチ29は接続状態)が、前記第1実施形態における第2変速モードに相当する。そして、この状態では、前記式(7)〜(9)が成立するので、前記第1実施形態における第2変速モードと同様にTv=(ωe/ωv)・Teとなるようにエンジン1の出力軸1aから動力出力軸10への減速比(エンジン・出力間第2回転伝達系の減速比)を連続的に変化させることができる。
また、図10(c)に示すように、クラッチ8が接続状態になっており、且つ、ワンウェイクラッチ27がON状態になっており、且つブレーキ機構16が回転許可状態になっている場合(補助クラッチ29は接続状態)が前記第1実施形態における中間変速モードに相当する。そして、この状態では、前記式(11)〜(15)が成立し、エンジン1から動力出力軸10への減速比ωe/ωvは、一定値となる。この場合の減速比(中間減速比)ωe/ωvは、本実施形態では、(R1+R2)/2=αであり、前記回転伝達手段14および回転伝達手段30の減速比と等しくなる。
なお、前記各変速モードにおいてワンウェイクラッチ27がON状態となるかOFF状態となるかは、第2動力分配器5のキャリア5cと前記補助回転軸28との回転速度との差に依存する。この場合、本実施形態では、エンジン1の出力によって車両の変速走行を行う変速走行モードでは、前記したように補助クラッチ29を常に接続状態に動作させるようにしているため、キャリア5cの回転速度がα・ωv(=補助回転軸28の回転速度)よりも大きいときにワンウェイクラッチ27がON状態になる。そして、キャリア5cの回転速度がα・ωvよりも大きくなる条件は、ωe/ωv>αである。従って、エンジン1から動力出力軸10への減速比ωe/ωvがα(=(R1+R2)/2)よりも大きいとき、ワンウェイクラッチ27がON状態になり、αよりも小さいとき、ワンウェイクラッチ27がOFF状態になる。
本実施形態のハイブリッド車両の作動をさらに説明すると、車両の走行モードとして、前記第1実施形態と同様に変速走行モードとEV走行モードとを有している。そして、変速走行モードでは、図11に示すマップに基づいて動力伝達装置3の動作モードが決定される。この場合、図11の動作曲線d,e,fは、それぞれ前記エンジン1の出力軸1aから動力出力軸10への減速比ωe/ωv(=Tv/Te)をR2、(R1+R2)/2(=α)、R1に固定して、エンジン1をエネルギー効率の良い動作点(燃料使用量を少なくできる動作点)で運転した場合の車両の走行駆動力と車速Vとの関係を示す動作曲線である。なお、本実施形態では、第1実施形態と異なり、R1<R2であるため、R2に対応する曲線dがR1に対応する曲線fの上側にある。そして、図11のマップでは、動作曲線eよりも要求走行駆動力が高くなる領域A5,A6において、動力伝達装置3の動作モードが前記第2変速モードに決定され、動作曲線eよりも要求走行駆動力が低くなる領域A7,A8において、動力伝達装置3の動作モードが前記第1変速モードに決定される。
第1変速モードでは、制御装置23は、第1クラッチ8を接続状態に動作させ、また、補助クラッチ29を接続状態、ブレーキ機構16を回転許可状態に動作させる。この場合、第1変速モードでは、ωe/ωv>(R1+R2)/2であるので、前記したようにワンウェイクラッチ27が自動的にOFF状態となる。従って、前記図10(a)に示した状態になる。そして、この状態において、制御装置23は、前記第1実施形態の第1変速モードの場合と全く同様に、各電動モータ6,7を制御する。これにより、前記第1実施形態と同様に、第1変速モードでの車両の変速走行が行われる。
また、第2変速モードでは、制御装置23は、第1クラッチ8を切断状態に動作させ、また、補助クラッチ29を接続状態、ブレーキ機構16を回転許可状態に動作させる。この場合、第2変速モードでは、ωe/ωv<(R1+R2)/2であるので、前記したようにワンウェイクラッチ27が自動的にON状態となり、図10(b)に示した状態になる。そして、この状態において、制御装置23は、前記第1実施形態の第2変速モードの場合と全く同様に、各電動モータ6,7を制御する。これにより、前記第1実施形態と同様に、第2変速モードでの車両の変速走行が行われる。
一方、第1変速モードから第2変速モードへの切換え(移行)を行う際には、制御装置23は、図12(a)のフローチャートに示す制御処理を実行する。この制御処理は、前記第1実施形態に係る図6(a)のSTEP2を省略した制御処理と同じである。この場合、本実施形態では、ワンウェイクラッチ27を用いているため、STEP10の制御処理で、第2電動モータ7の発生トルクTm2をTm2=Tm1・(R2−R1)/2となるように制御しつつ、第1電動モータ6の発生トルクTm1を、第2変速モードに係わる前記式(8)により定まるトルクRb・Te(=Ra・Te)に変更する過程において、ワンウェイクラッチ27が自動的にON状態になる。このような制御処理によって、前記第1実施形態と同様に第1変速モードから第2変速モードへの移行が行われる。
また、第2変速モードから第1変速モードへの切換えを行う際には、制御装置23は、図12(b)のフローチャートに示す制御処理を実行する。この制御処理は、前記第1実施形態に係わる図6(b)のSTEP8を省略した制御処理と同じである。この場合、STEP14の制御処理で、第2電動モータ7の発生トルクTm2をTm2=Tm1・(R2−R1)/2となるように制御しつつ、第1電動モータ6の発生トルクTm1を、第1変速モードに係わる前記式(4)により定まるトルク−Ra・Teに変更する過程において、ワンウェイクラッチ27が自動的にOFF状態になる。このような制御処理によって、前記第1実施形態と同様に第2変速モードから第1変速モードへの移行が行われる。
以上のように第1変速モードと第2変速モードとの間の移行を行うことで、前記第1実施形態と同様に、車両の挙動状態を変化させることなく、円滑に当該移行を行うことができる。特に本実施形態では、ワンウェイクラッチ27の動作が自動的に行われるため、その接続、切断動作を制御する必要がなく、変速走行の動作制御が容易になる。また、第1変速モード及び第2変速モードでの変速走行は、それぞれ前記図11の動作曲線eの下側の領域、上側の領域で行われるので、前記第1実施形態と同様に、それぞれの変速モードで必要な第1電動モータ6及び第2電動モータ7の容量を小さくできる。
車両のEV走行モードでは、制御装置23は、図13に示す如く、第1クラッチ8及び補助クラッチ29を切断状態に動作させる。この状態は、前記第1実施形態に係る図7の状態と実質的に同じである。従って、制御装置23は、前記第1実施形態のEV走行モードと全く同様に、第2電動モータ7を制御し、これにより、第2電動モータ7の出力による車両のEV走行(電気走行)が行われる。
さらに、上記EV走行モードで、エンジン1を始動する場合には、制御装置23は、図13に示す如く、第1クラッチ8及び補助クラッチ9を切断状態に動作させることに加えて、前記ブレーキ機構16を第1動力分配器4のリングギヤ4rの回転禁止状態に動作させる。そして、この状態で、前記第1実施形態と全く同様に、第1電動モータ6及びエンジン1を制御することにより、第1電動モータ6を始動用モータとして使用して、エンジン1が始動される。さらに、エンジン1の始動後には、第1実施形態と同様に、エンジン1の出力によって第1電動モータ6の発電(蓄電器24の充電)を行わせることで、シリーズ型のEV走行が行われる。
このようにEV走行モードでは、第1クラッチ8及び補助クラッチ29を切断状態に動作させることで、エンジン1の出力軸1aと動力出力軸10との間の回転伝達を完全に遮断し、第1実施形態と同様に、第2電動モータ7の出力で走行するEV走行を行うことができると共に、第1電動モータ6を使用したエンジン1の始動やシリーズ型のEV走行を行うことができる。
なお、EV走行モードから変速走行モードへの移行、あるいはその逆の移行は、前記第1実施形態と同様に行われる。この場合、本実施形態の第1クラッチ8と補助クラッチ29の動作がそれぞれ前記第1実施形態における第1クラッチ8、第2クラッチ9と同じになり、また、エンジン1及び各電動モータ6,7の作動は第1実施形態と同一でよい。
また、本実施形態では、EV走行モードでエンジン1の始動やシリーズ型のEV走行を行うために補助クラッチ29を備えたが、エンジン1の始動を専用の始動モータで行ったり、シリーズ型のEV走行を行わない場合には、補助クラッチ29を省略し、その部分を常時連結しておくようにしてもよい。また、変速走行モード及びEV走行モードのいずれであっても、車両の減速時には、例えば第2電動モータ7の回生発電を行うことで、車両の運動エネルギーを前記蓄電器24に回収しつつ車両の減速を行うことができる。
ところで、以上説明した第1及び第2実施形態では、第1動力分配器4の第2回転軸(リングギヤ4r)と動力出力軸10との間の回転伝達系、並びに、第1動力分配器5の第2回転軸(キャリア5c)と動力出力軸10との間の回転伝達系にそれぞれクラッチ手段を備えたものを示した。そして、第1動力分配器4側にその第2回転軸4rを適宜回転不能に係止するブレーキ機構16を備えた。但し、クラッチ手段やブレーキ機構16を設ける位置は、これに限られるものではない。クラッチ手段やブレーキ機構16を設ける位置を第1及び第2実施形態と異なるものとする場合の例を図14(a)〜(c)及び図15を参照して説明する。なお、図14(a)〜(c)及び図15では、クラッチ手段及びブレーキ機構として、例えば第1実施形態と同じ構造のものを用いるものとし、それらの参照符号を第1実施形態と同一とする。また、クラッチ手段及びブレーキ機構以外で、第1実施形態と同じ構成でよい部分についても第1実施形態と同一の参照符号を付して説明を省略する。図14(a)の例(第3実施形態)では、ブレーキ機構16を第2動力分配器5側に設け、第2動力分配器5の第2回転軸5cを該ブレーキ機構16により適宜、回転不能に係止するようにしている。そして、これ以外の構成は、第1実施形態と同一でよい。この実施形態では、ブレーキ機構16は、前記第1実施形態と同様に車両の変速走行モードでは回転許可状態に動作され、EV走行モードおいて、回転禁止状態に動作される。この場合、EV走行モードでエンジン1を始動したり、シリーズ型のEV走行を行う場合に、エンジン1と第1電動モータ6との間の回転伝達が第2動力分配器5を介して行われ、この作動が、第1実施形態と相違するものとなる。これ以外の作動は、第1実施形態と同一である。
図14(b)の例(第4実施形態)では、第1クラッチ手段8が、第1動力分配器4の第3回転軸4sと、第1電動モータ6のロータ6rとの間に介装され、該第3回転軸4sとロータ6rとが第1クラッチ手段9を介して接続されている。そして、ブレーキ機構16を第2動力分配器5側に設け、第2動力分配器5の第2回転軸5cを該ブレーキ機構16により適宜、回転不能に係止するようにしている。これ以外の構成は、第1実施形態と同一でよい。この実施形態は、本発明の第2発明に係わるものであり、車両の変速走行モードにおける第1変速モードでは、第1クラッチ手段8および第2クラッチ手段9がそれぞれ接続状態、切断状態に動作され、第2変速モードでは、第1クラッチ手段8及び第2クラッチ手段9がそれぞれ切断状態、、接続状態に動作される。また、ブレーキ機構16は、変速走行モードでは回転許可状態に動作される。そして、変速走行モードでこのように第1及び第2クラッチ手段8,9並びにブレーキ機構16を作動させることで、前記第1実施形態と同じエンジン1、各電動モータ6,7の制御処理によって、第1実施形態と同様に変速走行モードでの運転が行われる。また、EV走行モードでは、第1及び第2クラッチ手段8,9を切断状態に動作させると共に、ブレーキ機構16が回転禁止状態に動作される。そして、この状態で、前記第1実施形態と同様に、EV走行モードでの運転が行われる。但し、この場合、前記第3実施形態と同様、エンジン1を始動したり、シリーズ型のEV走行を行う場合には、エンジン1と第1電動モータ6との間の回転伝達が第2動力分配器5を介して行われる。
図14(c)の例(第5実施形態)では、第2クラッチ手段9が、第2動力分配器4の第3回転軸5sと、第1電動モータ6のロータ6rとの間に介装され、該第3回転軸5sとロータ6rとが第2クラッチ手段9を介して接続されている。そして、ブレーキ機構16を第1動力分配器4側に設け、第1動力分配器4の第2回転軸4rを該ブレーキ機構16により適宜、回転不能に係止するようにしている。これ以外の構成は、第1実施形態と同一でよい。この実施形態は、本発明の第2発明に係わるものであり、車両の変速走行モードにおける第1変速モードでは、第1クラッチ手段8および第2クラッチ手段9がそれぞれ接続状態、切断状態に動作され、第2変速モードでは、第1クラッチ手段8及び第2クラッチ手段9がそれぞれ切断状態、、接続状態に動作される。また、ブレーキ機構16は、変速走行モードでは回転許可状態に動作される。そして、変速走行モードでこのように第1及び第2クラッチ手段8,9並びにブレーキ機構16を作動させることで、前記第1実施形態と同じエンジン1、各電動モータ6,7の制御処理によって、第1実施形態と同様に変速走行モードでの運転が行われる。また、EV走行モードでは、第1及び第2クラッチ手段8,9を切断状態に動作させると共に、ブレーキ機構16が回転禁止状態に動作される。そして、この状態で、前記第1実施形態と同様に、EV走行モードでの運転が行われる。
図15の例(第6実施形態)では、第1クラッチ手段8がエンジン1の出力軸1aと第1動力分配器4の第1回転軸4cとの間に介装され、該出力軸1aと第1回転軸4cとが第1クラッチ手段8を介して接続されている。また、第2クラッチ手段9がエンジン1の出力軸1aと第2動力分配器5の第1回転軸5rとの間に介装され、該出力1aと第1回転軸5rとが第2クラッチ手段9を介して接続されている。なお、この実施形態では、ブレーキ機構は備えられていない。これ以外の構成は、第1実施形態と同様でよい。この実施形態は、本発明の第3発明に係るものであり、車両の変速走行モードにおける第1変速モードでは、第1クラッチ手段8および第2クラッチ手段9がそれぞれ接続状態、切断状態に動作され、第2変速モードでは、第1クラッチ手段8及び第2クラッチ手段9がそれぞれ切断状態、、接続状態に動作される。そして、変速走行モードでこのように第1及び第2クラッチ手段8,9を作動させることで、前記第1実施形態と同じエンジン1、各電動モータ6,7の制御処理によって、第1実施形態と同様に変速走行モードでの運転が行われる。また、EV走行モードでは、第1及び第2クラッチ手段8,9が切断状態に動作され、この状態で、前記第1実施形態と同様に第2電動モータ7を制御することで、第2電動モータ7の出力による車両のEV走行が行われる。
ここで、EV走行モードに関して補足すると、本実施形態(第6実施形態)では、EV走行モードで第1及び第2クラッチ手段8,9のいずれかを接続して、第1電動モータ6にトルクを発生させると、エンジン1の出力が動力出力軸10に伝達されてしまう。このため、本実施形態では、両クラッチ手段8,9の切断状態において、エンジン1の始動を第1電動モータ6とは別に備えた専用的な始動モータ(図示せず)により行い、また、シリーズ型のEV走行は行わないようにしている。
なお、前記第3〜第6実施形態では、回転伝達手段14,21の減速比α,βを前記第2実施形態と同様に同一とし、それらの一部の回転要素を共用してもよい。また、第3〜第5実施形態において、第1及び第2クラッチ手段8,9のいずれかを前記第2実施形態と同様にワンウェイクラッチと補助クラッチとで構成するようにしてもよい。また、変速走行モード及びEV走行モードのいずれであっても、車両の減速時には、例えば第2電動モータ7の回生発電を行うことで、車両の運動エネルギーを前記蓄電器24に回収しつつ車両の減速を行うことができる。
次に本発明の第7実施形態を図16〜図20を参照して説明する。なお、本実施形態の説明において、第1実施形態と同一構成部分もしくは同一機能部分については第1実施形態と同一の参照符号を用いる。
図16を参照して、本実施形態の動力伝達装置3は、第1動力分配器4、第2動力分配器5、第1電動モータ6、第2電動モータ7、クラッチ32、ワンウェイクラッチ33、補助クラッチ34、ブレーキ機構35、及び動力出力軸10を主要な機構的要素として備えている。クラッチ32は、本発明における第1クラッチ手段に相当し、ワンウェイクラッチ33及び補助クラッチ34は第2クラッチ手段に相当するものである。尚、動力出力軸10はエンジン1の出力軸1aと平行に設けられている。
動力出力軸10は、第1実施形態と同様に、その一端部(図の右端部)に一体に回転自在に設けられたギヤ11と、このギヤ11に噛合する差動歯車装置12(差動傘歯車装置)とを介して駆動輪2,2に連接されている。また、動力出力軸10の他端部には、回転伝達手段36を介して第2電動モータ7のロータ7rが互いに連動して回転するように接続されている。回転伝達手段36は、動力出力軸10に一体に回転自在に設けられたギヤ37と、このギヤ37に噛合するアイドルギヤ38と、このアイドルギヤ38に噛合して第2電動モータ7のロータ7rにこれと同軸心で一体に回転自在に連結されたギヤ39とから構成されている。なお、本実施形態では、回転伝達手段36の減速比(ギヤ37に対するギヤ39の歯数比)は「1」とされている。第2電動モータ7の軸心と動力出力軸10とは平行である。
各動力分配器4,5は、いずれも前記第1実施形態と同じ構成の遊星歯車装置により構成されている。そして、第2動力分配器5は、そのリングギヤ4r、サンギヤ4s、キャリア4cをそれぞれ本発明における第1回転軸(入力軸)、第3回転軸、第2回転軸とし、入力軸としてのリングギヤ5rがエンジン1の出力軸1aに直接的に同軸心に連結され、該出力軸1aと一体に回転自在とされている。また、サンギヤ5sが、これからエンジン1と反対側に向かって延設された連結回転軸40を介して第1電動モータ6のロータ6rに同軸心に連結され、該ロータ6rと一体に回転自在とされている。
第2動力分配器5のキャリア5cは、前記連結回転軸40に相対回転自在に支承された軸部5caを有し、この軸部5caがワンウェイクラッチ33、回転伝達手段41及び前記補助クラッチ34を介して動力出力軸10に接続されている。この場合、回転伝達手段41は、キャリア5cの軸部5caとの間にワンウェイクラッチ33を介在させて該軸部5caに外挿されたギヤ41aと、このギヤ41aに噛合して、動力出力軸10の中間部に相対回転自在に支承されたギヤ41bとから構成されている。なお、本実施形態では、回転伝達手段41の減速比(ギヤ41aに対するギヤ41bの歯数比)は「1」とされている。また、前記ブレーキ機構35は、上記キャリア5cの軸部5caを適宜、回転不能に係止するものであり、該軸部5caに凹凸嵌合等により係合してキャリア5cを回転不能に係止する回転禁止状態と、該軸部5caとの係合を解除してキャリア5cを回転自在な状態とする回転許可状態とにアクチュエータ43によって動作可能とされている。
また、補助クラッチ34は、その2つの回転要素34a,34bが摩擦力によって一体に回転自在となる接続状態と、両回転要素34a,34bが互いに離反して両者間の回転伝達が遮断される切断状態とにアクチュエータ42によって動作可能な摩擦式のものである。そして、その一方の回転要素34aが前記ギヤ41bに同軸心に連結されて該ギヤ41bと一体に回転自在とされ、他方の回転要素34bが動力出力軸10に同軸心で一体に回転自在に固定されている。また、前記ワンウェイクラッチ33は、エンジン1からキャリア5cに伝達されるトルクによってそのトルクと同方向にキャリア5cがギヤ41aに対して相対回転しようとするときに、キャリア5cの軸部5caをギヤ41aに凹凸嵌合等によって機構的に係合させて該ギヤ41aとキャリア5cとを一体に回転可能に接続し、キャリア5cがギヤ41aに対して上記と逆方向に相対回転しようとするときに、キャリア5cとギヤ41aとの機構的係合を解除して、該キャリア5cがギヤ41aに対して相対回転自在となる状態にするものである。以下、キャリア5cとギヤ41aとが一体に回転自在に係合される場合のワンウェイクラッチ33の動作状態をON状態と称し、キャリア5cがギヤ41aに対して相対回転自在となる場合のワンウェイクラッチ33の動作状態をOFF状態と称する。
キャリア5cと、動力出力軸10との上記の接続構成により、ワンウェイクラッチ33がON状態となり、且つ補助クラッチ34が接続状態に動作された状態では、キャリア5cから動力出力軸10への回転伝達がワンワエイクラッチ33、ギヤ41a、ギヤ41b及び補助クラッチ34を介して互いに連動して回転可能とされている。なお、補助クラッチ34は、摩擦式のものに限らず、例えば凹凸嵌合やスプライン嵌合によってギヤ41bと動力出力軸10との間の回転伝達を断接するものであってもよい。
一方、第1動力分配器4は、そのリングギヤ4r、サンギヤ4s、キャリア4cをそれぞれ本発明における第2回転軸、第3回転軸、第1回転軸(入力軸)とし、入力軸としてのキャリア4cが回転伝達手段44を介してエンジン1の出力軸1aに接続されている。なお、第1動力分配器5は、その軸心(リングギヤ5r、サンギヤ5s及びキャリア5cの回転軸心)をエンジン1の出力軸1a及び動力出力軸10と平行な方向に向けて、第2動力分配器4と並設されている。前記回転伝達手段44は、エンジン1の出力軸1aにこれと同軸心で一体に回転自在に設けられたギヤ44a、このギヤ44aに噛合して、キャリア4cにこれと同軸心で一体に回転自在に連結されたギヤ44bとから構成されている。
そして、サンギヤ4sが、これからエンジン1と反対側に向かって延設された連結回転軸45と、前記クラッチ32と、回転伝達手段46と、前記連結回転軸40とを介して第1電動モータ6のロータ6rに接続されている。この場合、回転伝達手段46は、連結回転軸45の先端部(サンギヤ4sと反対側の端部)にこれと同軸心で相対回転自在に支承されたギヤ46aと、このギヤ46aに噛合して、前記連結回転軸40に同軸心で一体に回転自在に設けられたギヤ46bとから構成されている。また、クラッチ32は、補助クラッチ34と同様、アクチュエータ47によって接続状態及び切断状態に動作可能な摩擦式のものであり、その2つの回転要素32a,32bのうちの一方の回転要素32aが連結回転軸35に一体に回転自在に固定され、他方の回転要素32bが回転伝達手段46のギヤ46aに一体に回転自在に連結されている。
サンギヤ4sと第1電動モータ6との上記の接続構成によって、クラッチ32の接続状態では、サンギヤ4sと第1電動モータ6のロータ6rとの間の回転伝達がクラッチ32、回転伝達手段46、及び連結回転軸40を介して行われ、互いに連動して回転可能とされている。なお、本実施形態では、回転伝達手段46の減速比(ギヤ46aに対するギヤ46bの歯数比)は「1」とされている。
第1動力分配器4のリングギヤ4rは、回転伝達手段48と、前記補助クラッチ34とを介して動力出力軸10に接続されている。回転伝達手段48は、前記回転伝達手段41と、ギヤ41a,41bを共用しており、これらのギヤ41a,41bと、ギヤ41aに噛合してリングギヤ5rに同軸心で一体に回転自在に連結されたギヤ48aとから構成されている。なお、ギヤ48aは連結回転軸45に支承されて、該連結回転軸45に対して相対回転自在とされている。
リングギヤ4rと動力出力軸10との上記の接続構成によって、補助クラッチ34の接続状態において、リングギヤ4rから動力出力軸10への回転伝達がギヤ48a,41a,41b及び補助クラッチ34を介して行われ、互いに連動して回転可能とされている。なお、本実施形態では、回転伝達手段48の減速比(ギヤ48aに対するギヤ41bの歯数比)は、「1」とされている。
図17は、図16のI−I線断面で見た動力伝達装置3の回転軸のレイアウト構成を示している。同図において、参照符号49を付した仮想線は、動力伝達装置3のハウジングである。この図示の例では、差動歯車装置12は、ハウジング49の左下隅に位置しており、動力出力軸10は、差動歯車装置12に隣接して該差動歯車装置12の右上側に配置されている。さらに、前記エンジン1、第2動力分配器5及び第1電動モータ6の軸心に相当する前記連結回転軸40は、動力出力軸10に隣接して該動力出力軸10の右上側に配置されている。そして、前記第1動力分配器4の軸心に相当する前記連結回転軸45と、前記第2電動モータ7のロータ7r(詳しくはロータ7rとギヤ39とを連結する軸)とは、それらの間に連結回転軸40と動力出力軸10とが存在するようにして配置されている。すなわち、第2電動モータ7の軸心は、ハウジング49内の左上側の箇所に配置され、連結回転軸45(第1動力分配器4の軸心)は、ハウジング49内の右下側の箇所に配置されている。このようなレイアウト構成によって、第1電動モータ6と第2電動モータ7とがそれらの軸心方向で見て重ならないようにして、両電動モータ6,7の径を比較的大きくすることができ、ひいては、両電動モータ6,7の容量を比較的大きくすることができる。
なお、本実施形態におけるエンジン1と、各電動モータ6,7と、クラッチ32、ブレーキ機構35及び補助クラッチ34にそれぞれ対応する各アクチュエータ47,43,42は、前記第1実施形態と同様に、制御装置23によって動作制御される。
ここで、上記の如く構成された本実施形態の動力伝達装置3の主要な回転伝達系の減速比について説明しておく。第1実施形態と同様に、エンジン1の出力軸1aから第1動力分配器4を経由して動力出力軸10に至るエンジン・出力間第1回転伝達系の減速比(第1減速比)をR1、エンジン1の出力軸1aから第2動力分配器5を経由して動力出力軸10に至るエンジン・出力間第2回転伝達系の減速比(第2減速比)をR2とする。但し、第1減速比R1は、詳しくは、クラッチ32が接続状態になっていると共に、第2動力分配器5のキャリア5cと動力出力軸10との間の回転伝達が遮断されている状態(ワンウェイクラッチ33のOFF状態もしくは補助クラッチ34の切断状態)になっており、且つ、第1電動モータ6の回転速度を「0」とした状態での減速比である。また、第2減速比R2は、クラッチ32が切断状態になっていると共に、ワンウェイクラッチ33がON状態、補助クラッチ34が接続状態になっており、且つ、第1電動モータ6の回転速度を「0」とした状態での減速比である。また、エンジン1の出力軸1aから第1動力分配器4を経由して第1電動モータ6のロータ6rに至るエンジン・モータ間第1回転伝達系の減速比をRa、エンジン1の出力軸1aから第2動力分配器5を経由して第1電動モータ6のロータ6rに至るエンジン・モータ間第2回転伝達系の減速比をRbとおく。但し、減速比Raは、クラッチ32、ワンウェイクラッチ33及び補助クラッチ34の動作状態が前記第1減速比R1に対応する動作状態と同じ状態になっているときの減速比であり、減速比Rbは、クラッチ32、ワンウェイクラッチ33及び補助クラッチ34の動作状態が前記第2減速比R2に対応する動作状態と同じ状態にとなっているときの減速比である。
さらに、第1実施形態と同様に、第1動力分配器4のリングギヤ4rに対するサンギヤ4sの歯数比をk1(<1)、第2動力分配器5のリングギヤ5rに対するサンギヤ5sの歯数比をk2とおく。
この場合、本実施形態では、R1=1/(1+k1)、R2=(1+k2)であるので、R1<R2(R1≠R2)となっている。また、第1実施形態と同様に、Ra=k1/(1+k1)、Rb=k2である。そして、本実施形態においては、クラッチ32が接続状態で、ワンウェイクラッチ33がOFF状態もしくは補助クラッチ34が切断状態であるときの動力伝達装置3の定常状態において、前記エンジン・モータ間第1回転伝達系を介して第1電動モータ6のロータ6aに伝達されるトルクの大きさと、クラッチ8が切断状態、ワンウェイクラッチ33がON状態、且つ補助クラッチ34が接続状態がであるときの動力伝達装置3の定常状態において、前記エンジン・モータ間第2回転伝達系を介して第1電動モータ6のロータ6aに伝達されるトルクの大きさとが等しくなるようにするために、前記第1実施形態と同様にRa=Rbを満たすようにk1、k2の値が設定されている。なお、この場合、前記エンジン・モータ間第1回転伝達系を介して第1電動モータ6のロータ6rに伝達されるトルクと、エンジン・モータ間第2回転伝達系を介して第1電動モータ6のロータ6rに伝達されるトルクとは互いに逆向きのトルクになっている。また、上記のようにRa=Rbとなるようにするためには、例えばk1=1/2、k2=1/3に設定すればよい。このとき、Ra=Rb=1/3となる。さらにこのとき、R1=2/3、R2=4/3(>R1)となる。
上述のように構成された本実施形態の動力伝達装置3は、その要部を簡略化した模式図で表現すると、図18に示すような構成となる。すなわち、エンジン1の出力軸1aが第1動力分配器4の入力軸たる第1回転軸(キャリア)4cと第2動力分配器5の入力軸たる第1回転軸(リングギヤ)5rとに接続されている。そして、第1動力分配器4の第2回転軸(リングギヤ)4rが減速比「1」の回転伝達手段48及び補助クラッチ34を介して動力出力軸10に接続されると共に、第2動力分配器5の第2回転軸(キャリア)5cがワンウェイクラッチ27、減速比「1」を有する回転伝達手段41及び補助クラッチ34を介して動力出力軸10に接続されている。さらに、第1動力分配器4の第3回転軸(サンギヤ)4sがクラッチ32を介して第1電動モータ6のロータ6rに接続されると共に、第2動力分配器5の第3回転軸(サンギヤ)5sが第1電動モータ6のロータ6rに接続されている。この場合、エンジン1から第1動力分配器4を経由して第1電動モータ6に伝達されるトルクと、第2動力分配器5を経由して第1電動モータ6に伝達されるトルクとが逆向きになる。また、第2動力分配器5のキャリア5cを適宜回転不能に係止するブレーキ機構35が設けられている。また、動力出力軸10と第2電動モータ7のロータ7rとが連動して回転するように接続されている。この場合、動力出力軸10とロータ7rとの間の減速比は「1」で、両者は等速で回転するので、同図では、動力出力軸10と第2電動モータ7とを同軸上で記載している。そして、動力出力軸10はギヤ11及び差動歯車装置12を介して駆動輪2,2に連接されている。
以上のように構成された本実施形態の動力伝達装置3の基本的作動を説明すると、本実施形態では、エンジン1から動力出力軸10への減速比を変化させつつ、エンジン1の出力により車両の走行を行う変速走行モードでは、常に前記補助クラッチ34を接続状態に動作させるようにしている。従って、図19(a)に示すように、クラッチ32が接続状態になっており、且つ、ワンウェイクラッチ33がOFF状態となっており、且つブレーキ機構35が回転許可状態になっている場合が、前記第1実施形態における第1変速モードに相当する。なお、この図19(a)を含めて、以降に説明する図面において、クラッチ32、ワンウェイクラッチ33、補助クラッチ34及びブレーキ機構35の動作状態は、前記第1及び第2実施形態と同様に、黒塗り、白抜きで表記している。
この状態では、前記式(3)〜(5)が成立するので、前記第1実施形態における第1変速モードと同様に、Tv=(ωe/ωv)・Teとなるようにエンジン1の出力軸1aから動力出力軸10への減速比(エンジン・出力間第1回転伝達系の減速比)を連続的に変化させることができる。
また、図19(b)に示すように、クラッチ32が切断状態になっており、且つ、ワンウェイクラッチ33がON状態になっており、且つブレーキ機構35が回転許可状態になっている場合(補助クラッチ34は接続状態)が、前記第1実施形態における第2変速モードに相当する。そして、この状態では、前記式(7)〜(9)が成立するので、前記第1実施形態における第2変速モードと同様にTv=(ωe/ωv)・Teとなるようにエンジン1の出力軸1aから動力出力軸10への減速比(エンジン・出力間第2回転伝達系の減速比)を連続的に変化させることができる。
また、図19(c)に示すように、クラッチ32が接続状態になっており、且つ、ワンウェイクラッチ33がON状態になっており、且つブレーキ機構16が回転許可状態になっている場合(補助クラッチ34は接続状態)が前記第1実施形態における中間変速モードに相当する。そして、この状態では、前記式(11)〜(15)が成立し、エンジン1から動力出力軸10への減速比ωe/ωvは、一定値となる。この場合の減速比(中間減速比)ωe/ωvは、本実施形態では、(R1+R2)/2=1であり、前記回転伝達手段14および回転伝達手段30の減速比と等しくなる。
なお、前記各変速モードにおいてワンウェイクラッチ33は、前記第2実施形態におけるワンウェイクラッチ27と同様、エンジン1から動力出力軸10への減速比ωe/ωvが(R1+R2)/2=1よりも大きいとき、ON状態になり、(R1+R2)/2=1αよりも小さいとき、OFF状態になる。
本実施形態のハイブリッド車両の作動をさらに説明すると、車両の走行モードとして、前記第1及び第2実施形態と同様に変速走行モードとEV走行モードとを有している。そして、変速走行モードでは、前記第2実施形態と同様に、前記図11に示したマップに従って、動力伝達装置3の動作モード(変速モード)が決定され、前記クラッチ32、補助クラッチ34、及びブレーキ機構35が、決定された変速モード(第1又は第2変速モード)に対応する動作状態(図19(a)又は図19(b)に示す動作状態)に制御される。この場合、第2実施形態と同様に、第1変速モードでは、ワンウェイクラッチ33が自動的にOFF状態になり、第2変速オードでは、ワンウェイクラッチ33が自動的にON状態になる。そして、第1変速モード及び第2変速モードにおいて、エンジン1及び各電動モータ6,7が前記第1実施形態と同様に制御され、それにより、車両の変速走行が行われる。
また、第1変速モードから第2変速モードへの移行、並びに第2変速モードから第1変速モードへの移行に際しては、前記第2実施形態と同様に、前記図12(a),(b)の制御処理を行うことによって、その変速モードの移行が行われる。この場合、ワンウェイクラッチ33は、第1変速モードから第2変速モードへの移行過程で自動的にON状態になり、第2変速モードから第1変速モードへの移行過程で自動的にOFF状態になる。
車両のEV走行モードでは、図20に示す如く、クラッチ32及び補助クラッチ34が切断状態に動作される。そして、この状態で前記第1実施形態のEV走行モードと全く同様に、第2電動モータ7が制御され、これにより、第2電動モータ7の出力による車両のEV走行(電気走行)が行われる。
さらに、上記EV走行モードで、エンジン1を始動する場合には、制御装置23は、図20に示す如く、クラッチ32及び補助クラッチ34を切断状態に動作させることに加えて、ブレーキ機構35を回転禁止状態に動作させる。そして、この状態で、前記第1実施形態と全く同様に、第1電動モータ6及びエンジン1を制御することにより、第1電動モータ6を始動用モータとして使用して、エンジン1が始動される。さらに、エンジン1の始動後には、第1実施形態と同様に、エンジン1の出力によって第1電動モータ6の発電(蓄電器24の充電)を行わせることで、シリーズ型のEV走行が行われる。なお、この場合、エンジン1と第1電動モータ6と間の回転伝達は、第2動力分配器5を介して行われる。
このようにEV走行モードでは、クラッチ32及び補助クラッチ34を切断状態に動作させることで、エンジン1の出力軸1aと動力出力軸10との間の回転伝達を完全に遮断し、第1実施形態と同様に、第2電動モータ7の出力で走行するEV走行を行うことができると共に、第1電動モータ6を使用したエンジン1の始動やシリーズ型のEV走行を行うことができる。
なお、EV走行モードから変速走行モードへの移行、あるいはその逆の移行は、前記第1実施形態と同様に行われる。この場合、本実施形態のクラッチ32と補助クラッチ34の動作がそれぞれ前記第1実施形態における第1クラッチ8、第2クラッチ9と同じになり、また、エンジン1及び各電動モータ6,7の作動は第1実施形態と同一でよい。また、変速走行モード及びEV走行モードのいずれであっても、車両の減速時には、例えば第2電動モータ7の回生発電を行うことで、車両の運動エネルギーを前記蓄電器24に回収しつつ車両の減速を行うことができる。
次に、本発明の第8実施形態を図21〜図27を参照して説明する。本実施形態の説明で、前記第1実施形態と同一構成部分もしくは同一機能部分については、第1実施形態と同一の参照符号を用いて詳細な説明を省略する。図21を参照して、本実施形態では、エンジン1と動力伝達装置3の第1及び第2動力分配器4,5との接続構成、並びに、各動力分配器4,5と第1電動モータ6との接続構成は、第1実施形態と同一である。また、動力出力軸10と車両の駆動輪2,2との接続構成も第1実施形態と同一である。第1動力分配器4の第2出力軸(リングギヤ4r)を適宜回転不能に係止するブレーキ機構16が第1実施形態と同じ構成で備えられている。
一方、本実施形態では、第1動力分配器4の第2回転軸(リングギヤ)4rは、第1変速機50を介して動力出力軸10に接続され、第2動力分配器5の第2回転軸(キャリア)5cは、第2変速機51を介して動力出力軸10に接続されている。この場合、第1変速機50は、その入力側(第1動力分配器4側)から出力側(動力出力軸10側)への減速比を例えば2種類(2段)の減速比α1,α2に変更可能なものであり、減速比α1の第1回転伝達手段52と、減速比α2の第3回転伝達手段53とを備えている。そして、第1変速機50は、その第1回転伝達手段52に第1動力分配器4のリングギヤ4rを連結する状態と、第3回転伝達手段53にリングギヤ4rを連結する状態と、両回転伝達手段52,53とリングギヤ4rとの間を切断する状態とに動作可能なクラッチ54を有しており、このクラッチ54を図示しないアクチュエータによって動作させることで、減速比の切換え並びにリングギヤ4rとの間の回転伝達の遮断が可能とされている。
この第1変速機50と同様に、第2変速機51も、その入力側(第2動力分配器5側)から出力側(動力出力軸10側)への減速比を2種類(2段)の減速比β1,β2に変更可能なものであり、減速比β1の第2回転伝達手段55と、減速比β2の第4回転伝達手段56と、これらと第2動力分配器5の第2回転軸(キャリア)5cとの間を連結したり遮断するクラッチ57とを備えている。なお、各変速機50,51は、公知の歯車機構を使用する変速機で構成されている。また、クラッチ54,57は、それぞれ本発明における第1クラッチ手段、第2クラッチ手段としての機能を兼ねるものである。
ここで、エンジン1の出力軸1aから第1動力分配器4及び第1変速機50の第1回転伝達手段52を経由して動力出力軸10に至る回転伝達系の減速比を第1減速比R1、第1動力分配器4、第1変速機50の第3回転伝達手段53を経由して動力出力軸10に至る回転伝達系の減速比を第3減速比R3、第2動力分配器5及び第2変速機51の第2回転伝達手段55を経由して動力出力軸10に至る回転伝達系の減速比を第2減速比R2、第2動力分配器5及び第2変速機51の第4回転伝達手段56を経由して動力出力軸10に至る回転伝達系の減速比を第4減速比R4とおく。但し、第1減速比R1〜第4減速比R4は、それぞれクラッチ54,57を図22(a)、図22(b)、図23(a)、図23(b)の状態に動作させ、且つ、第1電動モータ6の回転速度を「0」としたときの減速比である。図22(a)では、クラッチ54が第1動力分配器4の第2回転軸4rを第1回転伝達手段52に連結する状態に動作し、且つクラッチ57が、第2動力分配器5の第2回転軸5cを第2及び第4回転伝達手段55,56の両者から切り離す状態に動作している。図22(b)では、クラッチ54が第1動力分配器4の第2回転軸4rを第1及び第3回転伝達手段52,53の両者から切り離す状態に動作し、且つクラッチ57が第2動力分配器5の第2回転軸5cを第2回転伝達手段55に連結する状態に動作している。図23(a)では、クラッチ54が第1動力分配器4の第2回転軸4rを第3回転伝達手段53に連結する状態に動作し、且つクラッチ57が、第2動力分配器5の第2回転軸5cを第2及び第4回転伝達手段55,56の両者から切り離す状態に動作している。図23(b)では、クラッチ54が第1動力分配器4の第2回転軸4rを第1及び第3回転伝達手段52,53の両者から切り離す状態に動作し、且つクラッチ57が第2動力分配器5の第2回転軸5cを第4回転伝達手段56に連結する状態に動作している。なお、いずれも場合でもブレーキ機構16は回転許容状態である。
この場合、前記第1実施形態で説明したk1,k2を用いると、R1=α1/(1+k1)、R3=α2/(1+k1)、R2=(1+k2)β1、R4=(1+k2)β2となる。そして、本実施形態では、R1>R2>R3>R4となるように、α1,α2,β1,β2,k1,k2の値が設定されている。なお、第1実施形態と同様に、k1/(1+k1)=k2となるように、k1,k2の値が設定されて、エンジン1から第1動力分配器4を介して第1電動モータ6のロータ6rに至るエンジン・モータ間第1回転伝達系の減速比Ra(=k1/(1+k1))と、第2動力分配器5を介して第1電動モータ6のロータ6rに至るエンジン・モータ間第2回転伝達系の減速比Rb(=k2)とが同一とされると共に、それらの回転伝達系でのエンジン1の出力軸1aから第1電動モータ6のロータ6rへの伝達トルクが互い逆向きで大きさが等しくなるようにされている。
なお、クラッチ54,57、ブレーキ機構16の動作は、前記第1実施形態と同様にそれぞれに対応するアクチュエータを介して制御装置23によって制御され、また、各電動モータ6,7およびエンジン1の動作も第1実施形態と同様に制御装置23によって制御される。
本実施形態では、車両の走行モードとして、前記第1実施形態と同様に変速走行モードとEV走行モードとを有している。そして、変速走行モードでの、動力伝達装置3の動作モードとして、第1〜第4変速モードがあり、これらの第1〜第4変速モードのそれぞれにおけるクラッチ54,57の動作状態が、それぞれ前記図22(a),図22(b),図23(a),図23(b)に示した状態である。また、第1変速モードと第2変速モードとの間での動作モードの移行、第2変速モードと第3変速モードとの間での動作モードの移行、並びに第3変速モードと第4変速モードとの間での動作モードの移行に際して一時的に用いる動作モードとして、それぞれ第1中間変速モード、第2中間変速モード、第3中間変速モードがあり、これらの各中間変速モードにおけるクラッチ54,57の動作状態は、それぞれ図24(a)〜(c)に示す動作状態に制御される。なお、いずれの動作モードにおいても、ブレーキ機構16の動作状態は回転許容状態である。
本実施形態における車両の変速走行モードにおいては、上記の各変速モードが、前記第1実施形態と同様に決定される車両の要求走行駆動力と車速V(検出値)とから図25に示すマップに基づいて選択される。ここで、図中の曲線g1〜g7は、それぞれ、エンジン1と動力出力軸10との間の減速比ωe/ωvをR1,(R1+R2)/2,R2,(R2+R3)/2,R3,(R3+R4)/2,R4に制御しつつ、エンジン1をエネルギー効率の良い動作点(燃料消費量の少なく動作点)で運転した場合の車両の走行駆動力と車速Vとの関係を表す曲線である。減速比(R1+R2)/2,(R2+R3)/2,(R3+R4)/2は、それぞれ前記第1中間変速モード、第2中間変速モード、第3中間変速モードでの減速比ωe/ωvの値に等しいものである。このマップでは、要求走行駆動力が曲線g2よりも高い領域B1,B2で第1変速モードが選択され、要求走行駆動力が曲線g2と曲線g4との間になる領域B3,B4で第2変速モードが選択され、要求走行駆動力が曲線g4と曲線g6との間になる領域B5,B6で第3変速モードが選択され、要求走行駆動力が曲線g6よりも低い領域B7,B8で第4変速モードが選択される。そして、第1〜第4の各変速モードでは、前記第1実施形態における各変速モードの場合と同様に制御装置23によりエンジン1のスロットル弁、第1及び第2電動モータ6,7を制御することによって、変速走行が行われる。但し、この場合、第2電動モータ7のトルクを制御するにあたっては、第1変速モードでは、前記式(5)の右辺のR1の値として、本実施形態でのR1の値を用いた式に基づいて第2電動モータ7の目標トルクTm2が決定され、第3変速モードでは、前記式(5)の右辺のR1の値として、本実施形態でのR3の値を用いた式に基づいて第2電動モータ7の目標トルクTm2が決定される。また、第2変速モードでは、前記式(9)の右辺のR2の値として、本実施形態でのR2の値を用いた式に基づいて第2電動モータ7の目標トルクTm2が決定され、第4変速モードでは、前記式(9)の右辺のR2の値として、本実施形態でのR4の値を用いた式に基づいて第2電動モータ7の目標トルクTm2が決定される。なお、第1変速モード及び第3変速モードにおける第1電動モータ6の目標トルクは、前記式(4)に基づいて決定され、第2変速モード及び第4変速モードにおける第1電動モータ6の目標トルクは、前記式(8)に基づいて決定される。また、上記のように第1電動モータ6及び第2電動モータ7を制御すると、図25の領域B1,B3,B5,B7では、第1電動モータ6が回生状態、第2電動モータ7が駆動状態になり、領域B2,B4,B6,B8では、第1電動モータ6が駆動状態、第2電動モータ7が回生状態になる。
また、第n変速モード(n=1,2,3)と第n+1変速モードとの間での動作モードの移行は、前記第1実施形態における変速モードの移行の場合と同様の制御処理によって行なわれる。すなわち、図26(a),(b)のフローチャートを参照して、第n変速モードから第n+1変速モードに移行する場合には、図26(a)のフローチャートに示す如く、まず、第n変速モードで減速比ωe/ωvを(Rn+Rn+1)/2に制御する(STEP15)。次いで、低減速比側クラッチ54又は57を第n+1回転伝達手段53又は55又は56に連結する(STEP16)。ここで、低減速比側クラッチは、n=1,3のときは、前記第2変速機51のクラッチ57であり、n=2のときは、第1変速機50のクラッチ54である。次いで、第1電動モータ6の発生トルクTm1を逆転させると同時に、第2電動モータ6の発生トルクTm2をTm1・(Rn+1−Rn)/Raに制御する(STEP17)。この場合、Tm1の制御に関しては、より詳しくは、n=1,3のときは、Tm1を−Ra・Teから、Ra・Teに変化させ、n=2のときは、Tm1をRa・Teから、−Ra・Teに変化させる。次いで、高減速比側クラッチ57又は54を切断状態に動作させる(STEP18)。ここで、高減速比側クラッチは、n=1,3のときは、第1変速機50のクラッチ54であり、その切断状態は第1変速機50の両回転伝達手段52,53に連結されていない状態である。また、n=2のときは、高減速比側クラッチは、第2変速機51のクラッチ57であり、その切断状態は第2変速機51の両回転伝達手段55,56に連結されていない状態である。以上により、第n変速モードから第n+1変速モードへの移行が行われる。
一方、第n+1変速モードから第n変速モードに移行する場合には、図26(b)に示す如く、まず、第n+1変速モードで減速比ωe/ωvを(Rn+Rn+1)/2に制御する(STEP19)。次いで、高減速比側クラッチ54又は57を第n回転伝達手段52又は53又は55側に連結する(STEP20)。高減速比側クラッチの意味は、前記STEP18と同じである。次いで、第1電動モータ6の発生トルクTm1を逆転させると同時に、第2電動モータ6の発生トルクTm2をTm1・(Rn+1−Rn)/Raに制御する(STEP21)。この場合、Tm1の制御に関しては、より詳しくは、n=1,3のときは、Tm1をRa・Teから、−Ra・Teに変化させ、n=2のときは、Tm1を−Ra・Teから、Ra・Teに変化させる。次いで、低減速比側クラッチ57又は54を切断状態に動作させる(STEP22)。低減速比側クラッチの意味は、前記STEP16と同じである。以上により、第n+1変速モードから第n変速モードへの移行が行われる。
以上説明した作動が本実施形態での変速走行モードでの作動である。この場合、本実施形態では、4つの変速モードを有するため、各電動モータ6,7に発生させるべきトルクの最大値を前記第1実施形態の場合よりもさらに小さくでき、電動モータ6,7の容量をさらに小さくできる。
また、車両のEV走行モードでは、図27に示す如く、クラッチ54,57は、いずれも切断状態に動作され、さらに、前記ブレーキ機構16が回転禁止状態に動作される。この状態は、前記第1実施形態におけるEV走行モードでの動力伝達装置の動作状態(図7を参照)と実質的に同一である。従って、前記第1実施形態にEV走行モードと同一の制御処理によって、車両のEV走行(シリーズ型のEV走行を含む)や、エンジン1の始動が行われる。なお、変速走行モード及びEV走行モードのいずれであっても、車両の減速時には、例えば第2電動モータ7の回生発電を行うことで、車両の運動エネルギーを前記蓄電器24に回収しつつ車両の減速を行うことができる。
次に、本発明の第9実施形態を図28及び図29を参照して説明する。なお、本実施形態の説明において、前記第1実施形態と同一構成部分については、第1実施形態と同一の参照符号を用いて詳細な説明を省略する。また、この実施形態は本発明の第4発明に係わるものである。
前述した各実施形態では、第2電動モータ7から直接的に動力出力軸10にトルクを付与するようにしたが、本実施形態は、これに代えて、第2電動モータ7のトルクを動力出力軸10に連接する駆動輪2,2とは異なる駆動輪に付与するようにしたものである。以下、説明すると、本実施形態では、図28に示すように、第2電動モータ7は、そのロータ7rが、動力出力軸10に連接された駆動輪2,2とは異なる駆動輪59,59に差動歯車装置58(差動傘歯車装置)を介して連接され、該駆動輪59,59と連動して回転するようになっている。エンジン1と動力出力軸10との間の構成は、動力出力軸10に第2電動モータ7が接続されていない点を除いて第1実施形態と同一である。
このように構成された本実施形態のハイブリッド車両は、図29に示すように、第2電動モータ7の発生トルクを動力出力軸10に減速比γの回転伝達手段60を介して伝達するようにしたものと実質的に等価である。すなわち、前記第1実施形態において、第2電動モータ7から動力出力軸10へのトルクの伝達を減速比「1」で行う代わりに、減速比γの回転伝達手段60を介して行うようにしたものと等価である。ここで、減速比γは、第2電動モータ7から駆動輪59,59への減速比と、動力出力軸10から駆動輪2,2への減速比とに応じて定まる定数である。このため、本実施形態では、前記式(3),(4),(7),(8),(13),(15)が第1実施形態と同様に成立すると共に、前記式(5),(9),(14)で、これらの式中の「Tm2」を「γ・Tm2」で置き換えた式が成立する。
そこで、本実施形態では、車両の変速走行モードでは、前記第1実施形態と同様に決定した第1変速モード及び第2変速モードのそれぞれにおいて、第1実施形態と同様にクラッチ8,9及びブレーキ機構16を動作させ(図4を参照)、その状態で、エンジン1、第1電動モータ6及び第2電動モータ7を制御することで、車両の変速走行を行う。この場合、エンジン1及び第1電動モータ6の制御は、第1実施形態と同一でよい。そして、第2電動モータ7の制御においては、第1変速モードでは、式(5)で「Tm2」を「γ・Tm2」で置き換えた式に基づいて該第2電動モータ7のトルクを制御すればよく、第2変速モードでは、式(9)で「Tm2」を「γ・Tm2」で置き換えた式に基づいて該第2電動モータ7のトルクを制御すればよい。また、第1変速モードと第2変速モードとの間の移行に際しては、前記図6(a),(b)と同様の制御処理を実行することで、変速モードの移行が行われる。この場合は、図6のSTEP3,7において、第2電動モータ7の発生トルクTm2は、γ・Tm2=Tm1・(R2−R1)/2Raとなるように制御する。これ以外は、第1実施形態の制御処理と同一でよい。
また、EV走行モードでは、クラッチ8,9及びブレーキ機構16を前記図7と同じ状態に動作させ、この状態で、第1実施形態と全く同様に、第2電動モータ7の運転を行うことで、第2電動モータ7の出力による車両のEV走行が行われる。さらに、エンジン1の始動や、シリーズ型のEV走行も第1実施形態と全く同様に行われる。また、変速走行モード及びEV走行モードのいずれであっても、車両の減速時には、例えば第2電動モータ7の回生発電を行うことで、車両の運動エネルギーを前記蓄電器24に回収しつつ車両の減速を行うことができる。
なお、本実施形態では、エンジン1と動力出力軸10との間の動力伝達装置3の構成は、第2電動モータ7の接続構成を除いて、前記第1実施形態と同一としたが、前記第2〜第8実施形態のものと同じ構成(第2電動モータ7の接続構成を除く)としてもよい。この場合、エンジン1と動力出力軸10との間の動力伝達装置3の構成を例えば第4あるいは第5実施形態と同じ構成(第2電動モータ7の接続構成を除く)にすることで、本発明の第5発明の実施形態を構成できる。また、エンジン1と動力出力軸10との間の動力伝達装置3の構成を例えば第6実施形態と同じ構成(第2電動モータ7の接続構成を除く)にすることで、本発明の第6発明の実施形態を構成できる。
1…エンジン、2…駆動輪(第1駆動輪)、3…動力伝達装置、4…第1動力分配器、4c…第1回転軸(キャリア)、4r…第2回転軸(リングギヤ)、4s…第3回転軸(サンギヤ)、5…第2動力分配器、5r…第1回転軸(リングギヤ)、5c…第2回転軸(キャリア)、5s…第3回転軸(サンギヤ)、6…第1電動モータ、7…第2電動モータ、8,32,54…クラッチ(第1クラッチ手段)、9,57…クラッチ(第2クラッチ手段)、27,33…ワンウェイクラッチ(第2クラッチ手段)、29,34…補助クラッチ(第2クラッチ手段)、10…動力出力軸、59…第2駆動輪。