JP3882240B2 - 燃料噴射弁 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、圧電素子を有する電歪式アクチュエータにより燃料噴射の制御を行う内燃機関の燃料噴射弁に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の内燃機関では、レスポンスや燃費、出力を向上させるといったニーズが高まっており、このようなニーズに対応することに燃料噴射弁は重要な役割をもっている。
燃料噴射弁は、開閉に要する時間が短い程、すなわち開閉の応答が良いほど制御性がよく、また内燃機関の性能も向上する。この開閉を短時間で行うことができるアクチュエータとして電歪のものが知られているが、この電歪式アクチュエータにより直接弁を開閉しようとするとリフトを大きくとることができないという問題があるため、電歪式アクチュエータは弁の開閉のためのトリガとして用い、実際の弁の開閉およびその開閉状態の維持は油圧によって行う燃料噴射弁が提案されている。
【0003】
例えば、電歪として高速応答性に優れた圧電素子を用いることによって、噴射弁のレスポンスの向上や、低燃費化された場合の少量の燃料噴射量の安定供給、あるいは高出力化に対応するため噴射可能範囲(ダイナミックレンジ)を拡大するといった技術は、特開昭62−67,275号公報や特開平4−179,853号公報にて提案されており、圧電素子とニードル弁との間に燃料等の作動油を介在させて、圧電素子の変位をニードル弁に伝達することが開示されている。
【0004】
この種の燃料噴射弁は、圧電素子の変位を燃料に伝達することによりニードル弁を駆動するものであり、ニードル弁のストロークは、開弁時にはニードル弁の後端部がストッパーに当接することで規定される一方、閉弁時にはニードル弁がシート部に当接することで規定される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、特開昭62−67,275号公報に示された技術では、当接部の面積が大きく、ニードル弁が当接する際に、油が圧縮されてエッジ部を通過するため、いわゆるキャビテーション等が発生し易い条件となり、気泡が発生したり、耐腐食性が低下するおそれがある。また、油の圧縮反力によりニードル弁の作動に遅れが生じるおそれもある。
【0006】
また、特開平4−179,853号公報に示されたものは、当接部の面積が小さいため上記の問題点が発生しにくいものの、当接部の面積が小さいゆえ面圧が高くなるという問題がある。尤も、この問題は、耐久性に優れた材料を用いることにより回避可能ではあるが、この場合にはコストが増加するという新たな問題点が生じる。
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、気泡の発生が防止できるとともに、油圧縮によるニードル弁の作動遅れを防止でき、耐腐食性、耐久性および応答性に優れた燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の燃料噴射弁は、ニードル弁と圧電素子との間に圧力室を形成し、前記圧電素子の伸縮により前記圧力室内の作動油の圧力を変化させ、前記ニードル弁を開閉動作させる燃料噴射弁において、前記圧力室に前記ニードル弁の最大リフトを規制する、当該圧力室を構成する部品とは別部品のストッパ部材を設け、当該ストッパ部材の前記ニードル弁との当接面に、前記ニードル弁の中心から偏心したスリットを形成したことを特徴とする。
【0010】
本発明の燃料噴射弁では、ニードル弁とストッパ部材との当接面の面積を面圧が大きくならず耐久性の点でも問題のない充分な面積とした上で、ストッパ部材のニードル弁との当接面、又はニードル弁のストッパ部材との当接面に、少なくとも1つのスリットを形成したので、ニードル弁がストッパ部材に当接する際に、油が圧縮されても当該油はスリットを通過するため、キャビテーションの発生が抑制される。したがって、気泡が発生して燃料噴射量が変動したり、腐食により耐久性が低下することを防止できる。また、油圧縮によるニードル弁の作動遅れが抑制される。また偏心したスリットを形成したため、ニードル弁がストッパ部材に当接したときに、当該ストッパ部材に旋回力が生じ、この旋回力によって当該ストッパ部材が次第に旋回するため、当接面のばらつきによる片あたり等の問題発生も防止できるという効果もある。
【0011】
本発明の燃料噴射弁は、燃料の噴射口を開閉し前後の差圧により駆動されるニードル弁と、当該ニードル弁を閉弁方向に付勢してノズルに押圧するバネ手段と、前記ニードル弁の前後の差圧を発生させる圧電素子と、前記ニードル弁の最大リフトを規定するストッパ部材とを有し、ニードル弁とストッパ部材との当接面の少なくとも一方に、少なくとも1つのスリットが形成された燃料噴射弁としてさらに具体化できる。
【0012】
【発明の効果】
本発明の燃料噴射弁によれば、高速でしかも無限に近い回数当接するニードル弁とストッパ部材との当接面の耐久性を充分に確保した上で、キャビテーションによる気泡の発生を防止できるので、燃料噴射量が安定し内燃機関の性能が向上する。また、油圧縮によるニードル弁の作動遅れが防止できるので高応答の噴射弁が実現できる。また、耐腐食性および耐久性がより向上し、燃料噴射弁としての信頼性を高めることができる。また偏心したスリットによりストッパ部材が次第に旋回するため、当接面のばらつきによる片あたり等の問題発生も防止できる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の燃料噴射弁の実施形態を示す全体断面図、図2は図1に示す燃料噴射弁の要部を拡大して示す断面図、図3は図1に示すストッパ部材を示す正面図および側面図である。
また、図4〜図7は、それぞれ、図1に示すストッパ部材の他の実施形態を示す正面図および側面図である。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の燃料噴射弁において、ノズル1の一端は、ノズルシート部1cと、ニードルシート部2cとでポペット弁を形成するノズル部であり、燃料噴射のための噴口1aから、ニードル2の開閉に応じて燃料を噴射又は非噴射状態とする。ノズル1の他端は、ケーシング3との接合部であり、ニードル2の摺動に悪影響を与えない同軸度を1d及び3fで保ちながら溶接等で油密に接合されている。
【0015】
ニードル2は、2a及び2bで摺動可能に保持されており、ニードル2の一端には、前記ニードルシート部2cが形成され、他端2dは、ニードル2が図中右方向へ移動した際、ストッパ部材10と当接することで、当該ニードル2のストローク量が規定される。
【0016】
また、2aと1bとの摺動部は、本実施形態では、30μm程度と比較的隙間を大きく形成してあり、ニードル2の倒れや座屈等を防止する作用がある。
これに対して、2bと3gとの摺動部は、燃料通路3aからの燃料を圧力室12まで導き、かつ圧力室12の圧力が瞬時に増減する際には、ごく少量の燃料しか流れない程度の若干のクリアランスを保つように形成されている。本実施形態では、このクリアランスを6μmに設定している。
【0017】
3は、噴射弁構造体であるケーシングであり、一端は前述のとおりノズル1と油密に溶接され、他端3cは、内部部品を挿入するため開口され、部品を挿入したのち、ケーシングエンド7が溶接により取り付けられる。
【0018】
また、このケーシング3には、燃料通路3aおよび燃料導入部3bが設けられており、燃料室13と連通している。燃料導入部3bは、テーパねじ形状をなし、燃料配管との接続に用いられる。なお、3dは前記燃料通路3aを設ける際に使用したドリル加工穴であって、通常燃料は流れはない。また、3eは、圧電素子6の配線取出し用孔である。
【0019】
4は、圧電素子6の一端に当接するピストン6aを図中右方向に付勢する皿バネであり、そのセット長は、ケーシングエンド7の位置によって調整される。
5は、圧力室12と圧電素子6とのシールを保つためのOリングである。
6は、噴射弁アクチュエータである圧電素子であり、一端は、ピストン6aを介して皿バネ4に当接し、他端は、ケーシングエンド7に当接してセットされている。
【0020】
ピストン6aは、圧力室12の圧力を圧電素子6の伸縮に応じて増減させるためのものであり、前記Oリング5と当該Oリング5のはみ出しを防止するためのバックアップリング9を外周部に介装する溝が設けられ、図中左方の燃料が右方の圧電素子6へ流入するのを防止している。
【0021】
7は、前述のとおりケーシング3の後端部を形成するケーシングエンドであり、皿バネ4のセット長及び圧電素子6の長さに応じて、その位置が決定され、溶接等でケーシング3に接合される。
【0022】
8は、圧電素子6のリード線取出し孔用ブッシュであり、リード線取出し部分の簡単なシールとして設定されている。また、圧電素子リード線は、ケーシング3のリード線取出し孔3eを貫通し、ブッシュ8を貫通して、外部へ取り出される。
【0023】
11は、ニードル2を図中左方向へ付勢するコイルバネであり、12は、ニードル2を駆動するための差圧を発生させる圧力室、13は、燃料導入部3b及び燃料通路3aから導かれた燃料が収容される燃料室である。
【0024】
次に動作を説明する。
内燃機関が停止しているときは、コイルバネ11の付勢力によって、ニードル2の先端部2cはノズルシート1cに押圧され、これにより燃料がシールされるので燃料の停止状態が保たれる。
【0025】
内燃機関の運転が開始される前においては、図示しない電動高圧燃料ポンプで高圧に圧送され、同じく図示しない圧力調整器で約5MPa一定に保たれた燃料が、燃料通路3b、3aを経て、燃料室13に導かれる。このとき、燃料室13内に導かれた燃料は、ニードル2bとノズル3gの間の隙間を通過し、圧力室12まで導かれる。
【0026】
この状態で燃料の圧力の増加度合とコイルバネ11との釣り合いを適正に設定している限り、燃料は噴射されない。
これと同時に、圧電素子6に500Vの電圧を印加して、約0.5秒程度の時間で伸張させ、スタンバイを完了する。
【0027】
内燃機関が始動したとき及び始動したのちにおいては、ピストン6aが皿バネ4によって図中右方向に付勢されているため、圧電素子6に貯まった電荷を取り除くことにより、当該圧電素子6は、約0.1msの時間で図中右方向へ収縮する。圧力室12の圧力は、圧電素子6の駆動前においては、フィード圧の5MPaに保たれているが、圧電素子6の収縮によってピストン3aが右方向へ約50μm移動するため、圧力室12の圧力は、瞬時に約2MPaまで下降する。これにより、ニードル2の燃料室側と圧力室側のバランスが崩れ、ニードル2はストッパ部材10に当接するまで移動し、燃料室13の燃料が噴口1aから噴射される。
【0028】
このときの発生差圧は、圧力室12の容積、ピストン6aの径、ニードル差圧作用部により可変できるため、目的に応じて最適な値を選べばよい。
【0029】
一方、閉弁時の動作については、以下のようになる。すなわち、500Vの電圧を印加することにより圧電素子6は約50μm伸張するため、圧力室12の圧力は、元の圧力5MPaに加えて、ニードル2bとノズル3gとの隙間から圧力室12内へ流入した燃料分だけ上乗せした圧力まで上昇する。この圧力上昇とバネ11とによってニードル2が閉弁状態となる。
【0030】
以上が噴射弁の基本的動作であるが、上記の動作の中で、ニードル2がストッパ部材10に当接する際に、図2に示すように燃料の急激な流れが発生するため、キャビテーションの発生し易い状況となり、また高温時には気泡が発生するなどの問題があった。また、作動油の圧縮によりニードル弁の遅れが生じ、フルリフトするまでに時間がかかるという問題があった。
【0031】
このような従来の問題に対処するために、本実施形態では、図3に示すように、ストッパ部材10のニードル2との当接面10b側に、ニードル2との当接面積を充分に確保した上で、軸線を通る肉厚の薄いスリット10aを形成している。これにより、ニードル2がストッパ部材10に当接したときに、圧力室12内の燃料がスリット10aに逃げることができるため、キャビテーションや気泡発生の問題が生じない。また、油の局部的な圧縮も生じない。
【0032】
本発明の燃料噴射弁において、スリット10aは、図3に示す実施形態にのみ限定されず種々に変更することができる。
第2実施形態としては、図4に示すように、ストッパ部材10のニードル2との当接面10b側に、ニードル2との当接面積を充分に確保した上で、軸線を通る2本の肉厚の薄いスリット10aを形成している。これにより、ニードル2がストッパ部材10に当接したときに、圧力室12内の燃料がスリット10aに逃げるため、キャビテーションや気泡発生の問題が生じず、油の局部的な圧縮も生じない。
【0033】
また、第3実施形態としては、図5に示すように、ストッパ部材10のニードル2との当接面10b側に、ニードル2との当接面積を充分に確保した上で、軸線を通る3本の肉厚の薄いスリット10aを形成している。これにより、ニードル2がストッパ部材10に当接したときに、圧力室12内の燃料がスリット10aに逃げるため、キャビテーションや気泡発生の問題が生じず、油の局部的な圧縮も生じない。
【0034】
第4実施形態としては、図6に示すように、ストッパ部材10のニードル2との当接面10b側に、ニードル2との当接面積を充分に確保した上で、軸線を通る1本の肉厚の薄いスリット10aを形成するとともに、外周中心と同軸に周状溝10a’を形成している。この周状溝10a’も本発明にいうスリットである。これにより、ニードル2がストッパ部材10に当接したときに、圧力室12内の燃料がスリット10aおよび周状溝10a’に逃げるため、キャビテーションや気泡発生の問題が生じず、油の局部的な圧縮も生じない。
【0035】
第5実施形態としては、図7に示すように、ストッパ部材10のニードル2との当接面10b側に、ニードル2との当接面積を充分に確保した上で、偏心した4本の肉厚の薄いスリット10aを形成している。これにより、ニードル2がストッパ部材10に当接したときに、圧力室12内の燃料がスリット10aに逃げるため、キャビテーションや気泡発生の問題が生じず、油の局部的な圧縮も生じ難い。また偏心したスリット10aを形成したため、ニードル2がストッパ部材10に当接したときに、当該ストッパ部材10に旋回力が生じ、この旋回力によって当該ストッパ部材10が次第に旋回するため、当接面のばらつきによる片あたり等の問題発生も防止できるという効果もある。
【0036】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0037】
例えば、以上説明した図3〜図7のスリット10a,10a’は、いずれもストッパ部材10のニードル2との当接面10b側に形成したものであるが、本発明のスリットはこれに限らず、ニードル2のストッパ部材10との当接面側に形成し、ストッパ部材10を平板状とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の燃料噴射弁の実施形態を示す全体断面図である。
【図2】 図1に示す燃料噴射弁の要部を拡大して示す断面図である。
【図3】 図1に示すストッパ部材を示す正面図および側面図である。
【図4】 図1に示すストッパ部材の他の実施形態を示す正面図および側面図である。
【図5】 図1に示すストッパ部材のさらに他の実施形態を示す正面図および側面図である。
【図6】 図1に示すストッパ部材のさらに他の実施形態を示す正面図および側面図である。
【図7】 図1に示すストッパ部材のさらに他の実施形態を示す正面図および側面図である。
【符号の説明】
2…ニードル弁
6…圧電素子
10…ストッパ部材
10a…スリット
10b…ストッパ部材とニードル弁との当接面
12…圧力室
Claims (1)
- ニードル弁と圧電素子との間に圧力室を形成し、前記圧電素子の伸縮により前記圧力室内の作動油の圧力を変化させ、前記ニードル弁を開閉動作させる燃料噴射弁において、
前記圧力室に前記ニードル弁の最大リフトを規制する、当該圧力室を構成する部品とは別部品のストッパ部材を設け、当該ストッパ部材の前記ニードル弁との当接面に、前記ニードル弁の中心から偏心したスリットを形成したことを特徴とする燃料噴射弁。
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- 1996-11-18 JP JP32223796A patent/JP3882240B2/ja not_active Expired - Fee Related
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