JP3876437B2 - マルチキャリア受信装置 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、通信方式としてマルチキャリア方式を採用するマルチキャリア受信装置に関するものであり、特に、CDMA(Code Division Multiple access)移動体通信等の周波数選択性フェージング環境で使用するのに好適なマルチキャリア受信装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、携帯電話に代表される移動通信技術は我々の生活に広く普及するようになった。今後は移動通信の更なる高速・大容量化が求められることが予想され、特に下りリンクにおいてはWebサイトや各種データベースからの画像・ファイルのダウンロード等によりデータトラヒックが増大すると考えられる。そのため上下非対称通信及びバースト伝送を行うのに適した高速パケット伝送が必須となる。
【0003】
一方、無線通信では信号はチャネルにおいてフェージングにより位相回転・振幅変動といった影響を受ける。特に位相回転があるとEb/No(1ビット当たりの信号対雑音電力比)を高くしても正確な伝送ができず、誤り訂正符号を用いてもBER(Bit Error Rate:ビット誤り率)を十分に改善することができない(図15参照)などの影響が起きてしまう。位相回転の影響を補償するためには、チャネルの特性を推定し同期検波を行う方式が主流である。チャネル推定には送信側と受信側で共に既知であるパイロットシンボルを一定間隔で挿入するPSAM(Pilot Symbol Assisted Modulation)を用いるのが一般的である。
【0004】
また通信の高速・大容量化に伴い用いる帯域幅が広くなると、周波数選択性フェージングが大きな問題となってくる。周波数選択性フェージング克服の方法としては、伝送帯域をフェージングの周波数選択性が無視できるほど細かく分け、マルチキャリアによって情報を伝送する方式が有効である。これにより各サブキャリアにおいては一様(フラット)なフェージングとみなすことができ、上記のPSAMや同期検波で補償することができる。中でもマルチキャリア伝送方式の1つであるOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)は各サブキャリアの周波数間隔を符号間干渉が生じないナイキスト条件のもとで理論上最も狭くした方式であることから、高い周波数利用効率を達成することができる。携帯電話に代表される移動通信システムでは近年のユーザ数の爆発的な増加により周波数利用効率の高いシステムが要求されており、このことからもOFDMの移動通信への適用が現在盛んに検討されている。
【0005】
図16は、OFDMなどのマルチキャリア伝送におけるパケット構成の例を示す図である。マルチキャリア伝送を行う際は各サブキャリア毎にチャネル推定を行う必要がある。そのため図16に示すようにパイロットシンボルは各サブキャリアにそれぞれ配置されることが望ましい。また、パイロットシンボルは細かく分散させて配置するよりもパケットの先頭などに連続して配置したほうが雑音の影響を効果的に平均化させることができる(パイロットシンボルの配置法についての検討は後述)。
【0006】
図16においてNsは1パケットあたりの各サブキャリアにおけるシンボル数(時間方向)であり、PSAMではこのNs個のシンボルのうちNp個をパイロットシンボルとして挿入し、残りのNs−Np=Nd個をデータシンボルとして情報を伝送する。また、サブキャリア本数をNc(周波数方向)とすると、1つのパケットにはNp×Nc個のパイロットシンボルとNd×Nc個のデータシンボル、合計Ns×Nc個のシンボルが含まれることになる。
【0007】
図17は、パイロットシンボルを用いたチャネル推定の様子を示す図である。チャネルの推定を行うには送信したシンボルと受信されたシンボルを次式のようにして比較すればよい。k番目のサブキャリアにおいてj番目に送信されたシンボルをs(j,k) 、受信したシンボルをr(j,k) とすると、そのシンボルにおけるチャネル特性の推定値hatc(j,k) は(以降、文章中では山形の上付き記号をhatcなどと表記する)
【0008】
【数1】
Figure 0003876437
と表される。しかし、受信側で既知である送信シンボルs(j,k) はパイロットシンボルのみであるので、チャネル推定値hatc(j,k) が得られるのはパイロットシンボル部分(1≦j≦Np)だけである。各サブキャリアにおいてNp個のパイロットシンボルで求めたNp個のチャネル推定値で式(2)のように同相加算平均を取り、得られた第1次チャネル推定値hatcc(j,k) を用いてそのサブキャリア上の全データシンボルのフェージング補償を行う。
【0009】
【数2】
Figure 0003876437
これはパイロットシンボルに加算されている雑音の影響を平均化するためであり、パイロットシンボルによるチャネル推定の精度を向上させるために時間的な変動が少ないとみなせる複数のパイロットシンボルで同相加算平均を取ることが望ましい。そのためには図16のようにパイロットシンボルを時間的に連続して配置するのが効果的である。
【0010】
このとき式(2)で示されているようにフェージング補償に用いる値hatcc(j,k) は、あるサブキャリア番号kにおいて全てのシンボル番号jで同一の値となる。すなわち各サブキャリア上の全データシンボルのフェージング補償に同一の値を用いることとなる。このようなパイロットシンボルによるチャネル推定は、送信局や受信局及び周囲の環境が静止しているような準静的なフェージングモデルではチャネル特性の変動がわずかであるので問題はない。
【0011】
しかしながら、移動通信では端末が移動することによりドップラー周波数変動を受ける動的なフェージングモデルが特徴である。このような場合チャネルの変動が速くなり、パイロットシンボルで求めたチャネル推定値ではパイロットシンボルから時間的に離れたシンボルに対して正確なフェージング補償を行うことができない。チャネル推定の精度はシステム全体の特性に影響を与えるため、このようなドップラー周波数の高速化に伴うパケット内のチャネル推定精度劣化の問題はシステム全体の特性劣化の大きな要因となる。今後移動通信では高速移動状態においても高速なデータ伝送が求められるため、このような問題に対処する必要がある。また、現在の周波数帯の利用状況から、今後次世代移動通信において大容量の通信を行うための広い帯域は既存の移動通信システムで用いられている周波数帯より高い周波数帯にしか残っていない。高い周波数帯域への移行に伴いドップラー周波数はより速くなるため、チャネル変動の問題はより顕著なものとなる。
【0012】
本発明は判定帰還データを用いた繰り返しチャネル推定を行い各シンボル毎にフェージング補償値を計算することで、パケット内で変動するチャネル特性に追従し、より正確なチャネル推定を実現するものである。
【0013】
判定帰還データとは従来のようにパイロットシンボルによって求めたチャネル推定でフェージング補償を行った後、復調・誤り訂正復号されたデータに対し、再び誤り訂正符号化と変調を行い送信時と同じ処理を施すことで送信シンボルを受信側で推定したものである。この判定帰還データを用いて再びチャネル推定を行うことを繰り返しチャネル推定という。
【0014】
図18は、判定帰還データを用いてシンボル毎に求められたチャネル推定値を示す図である。繰り返しチャネル推定時は、この判定帰還データを用いてパケット内の全てのデータシンボルにおいて、式(1)を用いるパイロットシンボルの場合と同様にチャネル推定を行うことができる。受信側で推定した判定帰還データをhats(j,k) とすると、
【0015】
【数3】
Figure 0003876437
というようにデータシンボルにおいてもチャネル推定値を得ることができる。
【0016】
復調・誤り訂正復号されたデータが正しければその判定帰還データhats(j,k) はチャネル推定においてパイロットシンボルと同様に用いることができる。しかし、判定帰還データは誤って判定されている可能性があるので、そのチャネル推定結果を単独でフェージング補償値に用いても(つまり単純にhatcc(j,k) =hatc(j,k) としても)誤りを助長させるだけである。そこで、ある受信シンボルに対するフェージング補償には、そのシンボルの判定帰還によるチャネル推定値だけでなく、パケット内の他のシンボルにおけるチャネル推定値を利用して求めた値をhatcc(j,k) として用いることを考える。繰り返しチャネル推定を行う前、すなわち最初のチャネル推定の後である程度正確に復号できていれば、確率的に正しい判定帰還データにおける正確なチャネル推定値で誤った判定帰還データにおけるチャネル推定誤差を補正することが可能である。このとき、マルチキャリアで送信したパケットには時間方向と周波数方向の2次元に参照できるシンボルが展開している。つまり、マルチキャリア伝送を行うことで、シングルキャリア伝送における周波数選択性フェージングを克服するだけでなく、繰り返しチャネル推定において時間方向だけでなく周波数方向のシンボルも利用できるという利点も発生するのである。
【0017】
これに関連して、特開2003−69530号公報には、連続する複数スロット分の共通パイロットシンボルを用いて、各データシンボルについて一次補間したチャネル推定値(段落番号0043)と、サブキャリア毎の一次補間後のチャネル推定値を周波数方向に平均化したチャネル推定値(初回推定値)により受信シンボルをチャネル変動補償した信号(段落番号0051)と、これを復号し、再符号化、再変調、再拡散によって得られるデータ系列(段落番号0053)と、に基づいてチャネル推定値(2回目以降推定値)(段落番号0059)を算出するマルチキャリアCDMA受信装置が記載されている。また、チャネル推定における平均化時間を減少させるために、データシンボル部分を複数のブロックに分割してチャネル推定を行うことも記載されている(段落番号0082)。
【特許文献1】
特開2003−69530号公報
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このような従来技術においても、一律に定められた所定のシンボル範囲及び所定のマルチキャリア範囲のチャネル再推定値を用いているだけであるので、周波数選択性フェージングが存在し、ドップラー周波数変動を受ける動的なフェージングモデルが存在する環境下においては、正確なチャネル推定値を得ることができず、受信信号品質やデータ復調精度が悪いという問題があった。
【0019】
本発明は、上記問題点に鑑み、周波数選択性フェージングが存在し、ドップラー周波数変動を受ける動的なフェージングが存在する環境下においても、正確なチャネル推定値を得ることができるマルチキャリア受信装置を提供することを目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明のマルチキャリア受信装置は、複数のサブキャリアについてパイロットシンボル受信信号により推定されるチャネル特性に基づいてデータシンボル位置のチャネル特性を第1次チャネル推定値として演算する第1次チャネル推定手段と、該第1次チャネル推定値に基づいて各データシンボル受信信号をチャネル補償して復号する復号手段と、該復号手段によって復号された判定帰還データにより推定される時間×周波数面における各シンボル位置におけるチャネル再推定値に、所定シンボル位置との距離d '( , )
d'(t,f)=√{(βt・t)2+(βf・f)2
ただし、t:所定シンボル位置と各シンボル位置との時間軸上の距離
f:所定シンボル位置と各シンボル位置との周波数軸上の距離
β t :≠0の任意の係数
β f :≠0の任意の係数
依存する重みを付けて加算して前記所定シンボル位置におけるチャネル特性を第2次チャネル推定値として演算する第2次チャネル推定手段とを備える。
【0022】
また、前記重みは、2値データであることで、計算が簡潔であるため高速処理することができる。
【0023】
また、前記重みは、動的に測定されるフェージングのコヒーレント時間及び/又はコヒーレント帯域幅に依存することで、受信装置が動いたり止まったりすること及び/又はフェージングの周波数選択性の変化に対応することができる。
【0024】
また、前記重みは、前記復号手段で得られる軟判定情報に依存するものであることで、復号信号の信頼性に関する情報を利用してより正確にチャネル特性を推定することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施の形態によるマルチキャリア受信装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態のマルチキャリア受信装置は、主にガードインターバル(GI)除去部100、FFT101、チャネル推定部102、乗算器105−1,…,105−Nc,107−1,…,107−Nc、合成器109−1,…,109−a、パラレル/シリアル変換部111、データ復調部112、復号部113、再符号化部114、再変調部115、再拡散部116から成る。
【0027】
GI除去部100は、無線通信路上で周波数選択性フェージング等の影響を受けた受信信号のガードインターバルを除去し、シンボル単位に連なった信号を出力する。つぎに、FFT101は、フーリエ変換処理を行い、受信信号を各サブキャリア信号成分に分離する。チャネル推定部102は、上記のように分離された複数のサブキャリア信号を用いて、以下に示す手順で繰り返しチャネル推定を行う。まず、初回(1回目)のチャネル推定について説明する。第1次チャネル推定部103は、スロット内のパイロットシンボル区間を同相加算して、サブキャリア毎のチャネル推定値を第1次チャネル推定値として求める。そして、求められたキャリア毎のチャネル推定値に基づいて、フェージングによるチャネル変動を補償するための補償値を算出する。
【0028】
乗算器105−1〜105−Ncは、受け取ったチャネル変動補償値を用いて、サブキャリア単位にチャネル変動の補償を行う。つぎに、乗算器107−1〜107−Ncは、サブキャリア単位のチャネル変動補償後の信号に対して拡散コードを乗算し、合成器109−1,…,109−aは、拡散コード乗算後の信号を合成し、逆拡散処理を完了する。つぎに、パラレル/シリアル変換部111は、パラレルデータである逆拡散後の信号をシリアルデータに変換する。つぎに、データ復調部112は、受け取ったシリアルデータを用いて復調処理を行い、復号部113は、復号を行い、判定データシンボルを出力する。
【0029】
また、2回目以降のチャネル推定では、パイロットシンボルに復号された判定データシンボルを加えてチャネル推定を行う。具体的にいうと、まず、再符号化部114は、初回のチャネル推定値に基づいて得られた復号後のデータシンボルを再符号化する。つぎに、再変調部115は、再符号化されたデータシンボルに対して再変調を行う。つぎに、再拡散部116は、再変調後のデータを再拡散し、判定帰還データを求める。
【0030】
第2次チャネル推定部104は、第1次チャネル推定部103においてパイロットシンボルを用いてチャネル推定したのと同様に、判定帰還データを用いて各データシンボルに対してチャネル特性を推定してチャネル再推定値とする。そして、求められた各キャリアの各シンボル位置のチャネル推定値に基づいて、フェージングによるチャネル変動を補償するための補償値を算出する。
【0031】
その後、乗算器105−1〜105−Nc以降の回路では、1回目のチャネル推定後と同様に動作し、最終的に判定データシンボルを生成する。さらに、繰り返しチャネル推定を行う場合には、再帰的に、再符号化部114,再変調部115,再拡散部116による処理を行い、チャネル変動補償量を算出する。
【0032】
(フェージング補償値の計算式)
本発明の特徴はあるターゲットシンボルのフェージング補償値を求める際に、そのシンボルにおける復号器からの判定帰還データを用いて求めたチャネル再推定値だけでなく、そのシンボルを中心とした周囲のシンボルで同様にして求められたチャネル再推定値も利用して、それらに重み付けを行い合成することである。k番目のサブキャリアにおけるj番目のデータシンボルにおけるチャネル再推定値をhatc(j,k) とすると、フェージング補償に用いる第2次チャネル推定値hatcc(j,k) は
【0033】
【数4】
Figure 0003876437
のように表される。ここでt、fはそれぞれ利用するシンボルが時間方向、周波数方向にターゲットシンボルを中心として何シンボルずれているかを示す数であり、ω(t,f) はそのシンボルのチャネル推定値hatc(j+t,k+f) に対する重み係数である。重み係数ω(t,f) は次式のように各チャネル推定値に対してかけられる重みw(t,f) をその総和であるW(j,k) で割り正規化したものである。
【0034】
【数5】
Figure 0003876437
また、Nsはパケット内の全シンボル数、Ncは全サブキャリア数である。パケット内の全シンボルの利用を考えた場合、
1≦j+t≦Ns
1≦k+f≦Nc
であるから、式(4)、式(6)においてt及びfの総和の範囲は
−j+1≦t≦Ns−j
−k+1≦f≦Nc−k
となる。
【0035】
(自己相関関数を用いた重み係数の計算)
重み係数の決定方法としては、ターゲットシンボルのチャネル特性と利用する周囲のシンボルのチャネル特性の類似性の高さ、つまり両者の相関の高さを基準とする方法が考えられる。相関を計算する方法としては、受信したパケットのパイロットシンボルを参照し、時間方向、周波数方向それぞれに次式のような自己相関関数を用いて相関の高さを計算する方法が適切であると考えられる。図2は、自己相関関数の例を示す図である。サンプル数N個の離散データxi(i=1,2,…,N)の自己相関関数φxx(τ) は
【0036】
【数6】
Figure 0003876437
で表され、あるサンプルとそこからτだけ離れたサンプルがどの程度相関を持つかを示す。従って自己相関関数はτ=0の時に最大であり、τを増やしていくと減少していく。ターゲットシンボルを中心として、時間方向の自己相関はτにtを、周波数方向の自己相関はτにfを代入した値を用いて重みw(t,f) を計算する。
【0037】
(パケット上のシンボル距離を用いる重み係数)
上記の自己相関関数を用いて計算した重みはパイロットシンボルを参照することで受信したパケット毎に動的に適切な重み付けを行うことができる。しかし、そのためには多数のサンプルが必要であり、パイロットシンボルの増加や信頼度が低いがデータシンボルのサンプルも参照するといった処理が必要となる。
【0038】
一般にターゲットシンボルに近いほどチャネル特性の変動は小さいので、ターゲットシンボルのチャネル特性と参照しようとしているシンボルのチャネル特性は相関が高く、逆に離れているほど変動が大きくなるので相関が低くなる。このことを利用して、ターゲットシンボルを中心として、時間方向及び周波数方向において近いシンボルほど重み係数を大きく、離れているシンボルほど小さく設定するといった方法が簡易で適切である。図3は、ターゲットシンボルを中心(原点)としたパケット上のシンボル距離を示す図である。例えば上記のt、fを用いれば
【0039】
【数7】
Figure 0003876437
というように幾何学的にターゲットシンボルからのパケット上のシンボル距離d(t,f) を求めることができる。
【0040】
(パケット上のシンボル距離を用いた重み付けの例)
相関の高さを基準とした重み付けの例として、このパケット上のシンボル距離を用いてその逆数1/d(t,f) を重みw(t,f) とする方法が考えられる(式9)。
【0041】
【数8】
Figure 0003876437
図4は、シンボル距離の逆数を用いた重みを平面的に示す図であり、図5は、シンボル距離の逆数を用いた重みを立体的に示す図である。
【0042】
シンボル距離の逆数以外にもシンボル距離d(t,f) の増加に伴い単調に減少するような重み付けを行えばよく、d(t,f) を変数としたn次関数や指数関数を用いるなどの手法が考えられる。例えば1次関数なら、中央のターゲットシンボルの重みを1としてw(t,f)=1−α・d(t,f) (n次関数ならw(t,f)=1−α・{d(t,f)}n)というように重みを求める。αは正の実数であり、値が0に近いほどなだらかに、大きくなるほど急峻に重みが小さくなる。但し0以下となるw(t,f) は全て重み0として扱う。式にすると
【0043】
【数9】
Figure 0003876437
となる。
【0044】
図6は、シンボル距離の一次関数を用いた重みを平面的に示す図であり、図7は、シンボル距離の一次関数を用いた重みを立体的に示す図である。いずれも例としてα=0.2とした時の分布を示す。
【0045】
(相関の違いを考慮した重み付け)
本提案のように時間方向と周波数方向の2次元からチャネル推定値を合成する場合、以上で述べてきたように時間方向と周波数方向を同等に扱うのは必ずしも適切であるとは言えない。例えば移動通信において想定するチャネルが、時間方向の変動が比較的なだらかで周波数方向での変動が急峻である場合、時間方向で1つ隣にあるシンボルと周波数方向で1つ隣にあるシンボルとでは変動の小ささ、即ち相関が異なるからである。この場合は周波数方向よりも時間方向に大きな重みをかけるようにすることが適切であり、チャネルにおける時間方向と周波数方向の相関の違いによって適切に重み付けを行う必要がある。
【0046】
これに対処するための方法として、パケット上のシンボル距離を計算する際に相関の低い方向への距離を大きくとるといった手法が考えられる。ターゲットシンボルに対して時間方向にt、周波数方向にfだけ移動したシンボルのパケット上の距離を
【0047】
【数10】
Figure 0003876437
というようにt及びfに相関の違いを考慮した係数βt、βf を乗じて計算する。相関が高い方向ほどシンボル距離d'(t,f) が近く計算されるようにβt、βf を小さく、相関が低い方向ほど遠く計算されるようβt、βf を大きく設定することができる。図8は、時間方向と周波数方向とで相関が異なる場合の重みを平面的に示す図であり、図9は、時間方向と周波数方向とで相関が異なる場合の重みを立体的に示す図である。例として時間方向の相関の方が周波数方向の相関より高い場合を想定し、βt=1、βf=2として周波数方向の移動シンボル数fが2倍遠く計算されるようにしたパケット上のシンボル距離を図8に、この非対称なシンボル距離を用いて1次関数の式(10)で求めた重み付けの様子を図9に示す(α=0.2)。図9は図7と同じ1次関数の式(10)で求めた重みだが、図7に比べ周波数方向の重みが小さくなっていることがわかる。
【0048】
(重み付けの簡略化とひし形となるシンボルの選択法)
以上のように重み係数を計算すると、パケット上でターゲットシンボルから遠くはなれたシンボルの重み係数が小さくなるように計算することができる。また簡略化のために重み係数を全て0又は1の2値にしてターゲットシンボルに近いシンボルだけ参照するという方法もある。この場合はパケット上のシンボル距離にスレッショルドを設けて判定を行い、選択するシンボルを決定すればよい。図10は、2値データである場合の重みを立体的に示す図である。例えば図8のようにして求めた距離に対してd'(t,f) が5以下となるようなシンボルだけ選択したとすると図10のようになり、相関の高い時間方向に伸びたほぼ「ひし形」の形となる。
【0049】
(信頼度の考慮)
以上のような相関の高さの基準に加え、利用するシンボルのチャネル推定値の信頼度という基準も導入することで、より適切な重み付けが可能となると考えられる。繰り返しチャネル推定ではデータシンボルにおいてもチャネル推定を行うが、受信シンボルと比較するシンボルはあくまでデータシンボルであるため間違って復号されている場合もあり、得られるチャネル推定値が正確であるかどうかという信頼度は低い。これに対してパイロットシンボルにおけるチャネル推定は受信したシンボルとあらかじめ既知であるパイロットシンボルとを比較するので得られるチャネル推定値は信頼度が高い。このような信頼度の違いを反映させるために、パイロットシンボルで求められたチャネル推定値には大きな重みをかけて合成するといった方法が有効である。図11は、信頼度を考慮した場合の重みを平面的に示す図である。例えば前述した図6のような式(10)を用いて1次関数で距離の重み付けをした場合において、図11のようにターゲットシンボルがパイロットシンボルに近い場合、パイロットシンボルに対する重みを2倍にしてかけるという方法が考えられる。他にもパイロットシンボルに対しては、式(10)のαを小さくしたり、最初の重み(ターゲットシンボルの重み)を大きくするなどして、パイロットシンボルのチャネル推定値にかかる重みを大きくし、データシンボルとの信頼度の違いを反映させることができる。
【0050】
(軟判定情報(Soft Decision Factor))
さらに、誤り訂正符号の中には復号時に軟判定情報を計算するものがある。例えばターボ符号ではi番目の情報シンボルui に対する判定値hatui について、復号器内で以下のような対数尤度比(LLR:Log Likelihood Ratio)L(hatui) を計算する。
【0051】
【数11】
Figure 0003876437
yは受信信号系列であり、P(ui=±1|y) は受信信号系列yのもとで情報シンボルui が±1である事後確率(APP:A Posteriori Probability)である。LLRL(hatui) はその符号が情報シンボルの符号を表し、その絶対値が判定の信頼度を示す。実際の復号ではL(hatui)>0ならhatui=+1と判定し、L(hatui)<0ならhatui=−1と硬判定するが、軟判定値を信頼度情報としてデータシンボルにおけるチャネル推定値の重みに反映させることで、間違っている可能性の高いチャネル推定値の影響を低減することができる。
【0052】
(相関の高さの判定)
重み係数を計算する際、時間方向と周波数方向のチャネル特性の変動の程度、即ち相関の高さを利用するべきであると述べた。この相関の高さを示す指標としてフェージングのコヒーレント時間とコヒーレント帯域幅がある。これは時間方向及び周波数方向においてフェージング特性が同様のものとみなせる期間及び帯域幅を示すものであり、コヒーレント時間はドップラー周波数の逆数、コヒーレント帯域幅は遅延スプレッドの逆数に比例する。ただし、どの程度までの差異を「同じ」とみなすかによって比例の度合いは異なる。通信が想定するチャネルモデルや移動体の移動速度から遅延スプレッドとドップラー周波数を求めることができるので、これらを用いて各方向の相関の高さの指標を得ることができる。
【0053】
また、先述したように自己相関関数はあるサンプルとそこからτだけ離れたサンプルがどの程度相関を持つかを示す。例えばこの自己相関関数の値にφxx(τ)>εというようにスレッショルドを設けτを測定することで、相関の高さの指標を動的に得ることができる。これにより、コヒーレント時間及び/又はコヒーレント帯域幅を動的に測定して重みに反映することができる。
【0054】
以上のようにして求めた第2次チャネル推定値hatcc(j,k) (式4)を用いて各受信シンボルr(j,k) のフェージング補償を行うことでより正確な同期検波を行うことが可能であり、その値を用いて再び誤り訂正復号することでより誤りの少ないデータを復元できる。このデータを用いてもう一度繰り返しチャネル推定を行うこともでき、複数回繰り返すことでさらに伝送品質を上げることができる。
【0055】
繰り返しチャネル推定と組み合わせる誤り訂正符号としてはターボ符号の適用が非常に効果的である。ターボ符号はAWGN(Additive White Gaussian Noise:加法的白色ガウス雑音)環境下において畳み込み符号を上回る誤り訂正能力を持つ符号として近年非常に注目をされており、第3世代移動通信であるW−CDMAでも実際に採用されている。フェージング環境下でもチャネル推定が正確ならAWGN環境下に近づくためその効果を発揮することができるが、チャネル推定が正確でないときは先述のようにシンボルが回転してしまっているため特性が劣化する。よって繰り返しチャネル推定によって正確にチャネル推定を行うメリットは大きい。また、ターボ符号はインタリーバを介して順番を変えた2種類の畳み込み符号の復号を繰り返し行うことが大きな特徴である(ターボ復号という)。つまりターボ符号自体が繰り返しの処理を持つため、繰り返しチャネル推定も同時に行うことが可能であり、繰り返し処理を持たない他の誤り訂正符号に繰り返しチャネル推定を行う時よりも処理遅延の増加量が少ない。
【0056】
本提案による特性改善の例を計算機シミュレーションにより示す。図12は、シミュレーションにおけるパケット構成と重み1のシンボルを示す図である。シミュレーションで設定したパラメータを表1に示す。マルチキャリア伝送方式としてOFDMを選び、図12に示すように1パケットあたりのシンボル数Ns=64、1サブキャリアあたりのパイロットシンボル数Np=4、データシンボル数Nd=60とした。また、OFDMのサブキャリア本数Nc=512とした。誤り訂正符号にはターボ符号を用い、先述したようなターボ符号の復号繰り返しと同時にチャネル推定も繰り返す方式を採用した。繰り返しチャネル推定には図12に示すようにフェージング補償を行いたいシンボルを中心に時間方向に5シンボル分、周波数方向に3シンボル分チャネル推定値を参照し、それらの同相加算平均を取って第2次チャネル推定値hatcc(j,k) とした。
【0057】
【表1】
Figure 0003876437
図14及び図15は、それぞれドップラー周波数Fdが100[Hz]、300[Hz]の時のEb/Noに対するBER特性を示す図である。各グラフには送信シンボル全てを受信側で参照することで完全なチャネル推定ができている場合(Perfect Channel Estimation)を実線で、従来のパイロットシンボルによるチャネル推定のみを行った場合(w/o Iterative Channel Estimation)を点線で、そして提案した繰り返しチャネル推定を行った場合(with Iterative Channel Estimation)を破線で示した。
【0058】
図14、図15を比較すると、点線で示された繰り返しチャネル推定を行わない従来の方式の特性は、Perfect Channel Estimationの特性にくらべて劣化しており、特にFdが300[Hz]となるとEb/Noを高くしても特性が改善せずフロアを引く傾向があることが分かる。これはチャネルの変動が速くなったことにより、図12に示したようなパケット構成ではパイロットシンボルによるチャネル推定値と実際のチャネル特性との誤差が時間的にはなれたデータシンボルになるにつれ大きくなってしまうため、フェージング補償が正確にできないためである。しかし提案したように繰り返しチャネル推定で各シンボル毎にフェージング補償値を設けることでこの誤差を小さくすることができる。図14、図15の両方において、最初の復号時(Iteration 1)では提案した方式もパイロットシンボルによるチャネル推定しか行っていないので、繰り返しチャネル推定を行わない場合と特性は同じであるが、ターボ符号による誤り訂正復号を8回繰り返した後(Iteration 8)は繰り返しチャネル推定も同時に行うことで特性が改善していることがわかる。判定帰還データを用いてシンボル毎にチャネル推定及びフェージング補償を行う際、判定帰還データはデータシンボルであるため、誤って判定されたデータシンボルにおけるチャネル推定の誤差を周囲のシンボルで補正する必要がある。そこで、マルチキャリアパケット伝送を行うことで周波数選択性フェージングを克服するだけでなく、パケット内で時間方向と周波数方向に展開するシンボルの相関を利用することができることに注目し、より多くのシンボルでチャネル推定誤差の補正を行うことができるという利点を見いだしたところが本発明の新しいところである。
【0059】
チャネル変動に正確に追従するためにはパイロットシンボルの間隔を狭めるのが最も効果的であるが、パイロットシンボルの個数を増やすとそのトレードオフとしてデータの伝送効率が劣化してしまう。また、先述のようにパイロットシンボルは雑音の影響を平均化させるために細かく分散させて配置するよりもパケットの先頭などに連続しておかれることのほうが望ましい。同じパイロットシンボルの個数でもそれらをパケット内で分散させ追従精度を高めるという選択もあるが、その代わりにドップラー周波数が低いときは平均化に用いることのできるチャネル推定の値が少なくなるため推定精度が劣化してしまうというトレードオフがある。ドップラー周波数に対応してパケット構成を変えるという方法も考えられなくはないが、そのためには移動端末の移動速度を何らかの方法で測定するなどしてドップラー周波数を推定しなければならず、また送信側と受信側の双方で申し合わせて処理を変更する必要があるなど困難な点が多い。これに対して本発明はパケット構成を変えずに済むため、低速なドップラー周波数に対してはパイロットシンボルによるチャネル推定の精度の高さを活用しつつ繰り返しチャネル推定によって更なる精度の向上を、高速なドップラー周波数に対してはパイロットシンボルによる推定ではチャネル変動に追従ができずに推定精度の劣化が大きくなるという問題点を繰り返しチャネル推定で解決する、というように従来方式の利点を残しつつ改良を施すことが可能である。言い換えれば本発明は、想定したドップラー周波数に対処できるようパイロットシンボル間隔を設計したPSAMにおいて、判定帰還データを用いてシンボル毎に繰り返しチャネル推定を適切に行うことで、設計したパイロット間隔で対処できるものより高速なドップラー周波数に対して耐性を持たせることが可能な方式であるとも言える。
【0060】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0061】
チャネル推定に関しては、時間的に前後のパケットの情報も利用するという方法がある。パケット伝送を行う際は時間的に連続してパケットが送受信されるとは限らないので、1つの処理がパケット内で完結することが望ましい。そのため、1つパケットだけで処理を行うものとして説明をしてきたが、本発明は前後のパケット間の情報を利用する方式にも拡張することが可能である。
【0062】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、周波数選択性フェージングが存在し、ドップラー周波数変動を受ける動的なフェージングが存在する環境下においても、真にチャネル特性の推定に有効なデータをより多く利用して正確なチャネル推定値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態によるマルチキャリア受信装置の構成を示すブロック図である。
【図2】自己相関関数の例を示す図である。
【図3】ターゲットシンボルを中心(原点)としたパケット上のシンボル距離を示す図である。
【図4】シンボル距離の逆数を用いた重みを平面的に示す図である。
【図5】シンボル距離の逆数を用いた重みを立体的に示す図である。
【図6】シンボル距離の一次関数を用いた重みを平面的に示す図である。
【図7】シンボル距離の一次関数を用いた重みを立体的に示す図である。
【図8】時間方向と周波数方向とで相関が異なる場合の重みを平面的に示す図である。
【図9】時間方向と周波数方向とで相関が異なる場合の重みを立体的に示す図である。
【図10】2値データである場合の重みを立体的に示す図である。
【図11】信頼度を考慮した場合の重みを平面的に示す図である。
【図12】シミュレーションにおけるパケット構成と重み1のシンボルを示す図である。
【図13】シミュレーションに用いた18パス指数減衰チャネルモデルを示す図である。
【図14】ドップラー周波数Fdが100[Hz]の時のEb/Noに対するBER特性を示す図である。
【図15】ドップラー周波数Fdが300[Hz]の時のEb/Noに対するBER特性を示す図である。
【図16】OFDMなどのマルチキャリア伝送におけるパケット構成の例を示す図である。
【図17】パイロットシンボルを用いたチャネル推定の様子を示す図である。
【図18】判定帰還データを用いてシンボル毎に求められたチャネル推定値を示す図である。
【符号の説明】
102 チャネル推定部
105、107 乗算器
109 合成器

Claims (4)

  1. 複数のサブキャリアについてパイロットシンボル受信信号により推定されるチャネル特性に基づいてデータシンボル位置のチャネル特性を第1次チャネル推定値として演算する第1次チャネル推定手段と、
    該第1次チャネル推定値に基づいて各データシンボル受信信号をチャネル補償して復号する復号手段と、
    該復号手段によって復号された判定帰還データにより推定される時間×周波数面における各シンボル位置におけるチャネル再推定値に、所定シンボル位置との距離d '( , )
    d'(t,f)=√{(βt・t)2+(βf・f)2
    ただし、t:所定シンボル位置と各シンボル位置との時間軸上の距離
    f:所定シンボル位置と各シンボル位置との周波数軸上の距離
    β t :≠0の任意の係数
    β f :≠0の任意の係数
    依存する重みを付けて加算して前記所定シンボル位置におけるチャネル特性を第2次チャネル推定値として演算する第2次チャネル推定手段と
    を備えることを特徴とするマルチキャリア受信装置。
  2. 前記重みは、2値データであることを特徴とする請求項記載のマルチキャリア受信装置。
  3. 前記重みは、動的に測定されるフェージングのコヒーレント時間及び/又はコヒーレント帯域幅に依存することを特徴とする請求項1又は2記載のマルチキャリア受信装置。
  4. 前記重みは、前記復号手段で得られる軟判定情報に依存するものであることを特徴とする請求項1乃至いずれかに記載のマルチキャリア受信装置。
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