JP3875145B2 - 装飾品、金属複合成型品の製造方法、装飾品の製造方法、並びに貴金属粘土状組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁器製品、陶器製品等のセラミック製品や耐熱性金属製品、耐熱性鉱物から選ばれる耐熱性基体と、金属焼結体とからなる金属複合成型品、装飾品、及びそれらの製造方法、並びに貴金属粘土状組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁器製品或いは陶器製品等のセラミック製品などと貴金属との複合成型品としては、食器や工芸品としてのセラミック製品の表面に貴金属の絵柄を装飾した製品が広く知られている。
これらの多くは、貴金属絵付け用素材として知られる金液(油)、銀液(油)、白金液(油)などにて形成される。これらを調製するには、製油に硫黄を加えて反応させ、硫化バルサムというテルペンの硫化物を作り、これに塩化金酸(HAuCl4)を反応させて硫化テルペン金(AuSC10H16)とし、さらにこれにテルペンを加えて粘度を調整する。これを陶磁器、ガラスなどに塗布し、乾燥、加熱焼成することにより、0.05〜0.2μmの薄い光沢のある金膜を得ることができる。
また、金箔や金粉などによる装飾も古くから行われているが、極めて特殊な技法(技術)によるものであって、伝統工芸の一つとして伝えられているに過ぎない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
前記金液(油)や銀液(油)などは、流動性が大きくAuの濃度も薄いため、美しい金又は銀の薄膜を装飾することは到底容易ではなく、数回の塗布をするなどかなりの熟練を要するものであった。また、その光沢も十分ではない場合があった。さらに、前述のようにこの方法では0.05〜0.2μmの非常に薄い膜しか得ることができないため、彩色表現や造形表現に限りがあった。
また、これら金液、銀液といった貴金属絵付け用素材には、セラミック表面のガラス成分との付着性の向上と光沢を出すために、鉛或いはその化合物の炭酸鉛等を含有し、鉛の人体への影響が問題となっていた。
さらに、金液又は銀液などには、硫化テルペン金という硫化物が含有され、塗布作業中に強い悪臭を生じるため、作業者に著しい不快感を与え、また焼成の際に有害な亜硫酸ガス等を大気中へ排出するという環境問題も含んでいた。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記に鑑み提案されたもので、金属粉末、金属合金粉末から選ばれる一種以上の粉末を含有する金属粘土状組成物又はそれを一次加工した粘土造形体を、任意の形状を有する耐熱性基体に、焼成後に物理的に連結するように組み合わせた後、粘土造形体を焼成して得られることを特徴とする金属複合成型品、及びその製造方法に関するものである。
【0005】
上記本発明における粘土組成物又はそれを一次加工した粘土造形体を、耐熱性基体に、焼成後に物理的に連結するように組み合わせる方法としては、以下の方法がある。
▲1▼;粘土組成物は柔軟性(造形性)を有するため、例えば紐状、帯状に成形した粘土組成物を耐熱性基体の表面に巻き付けたり、或いは爪状にした粘土組成物を耐熱性基体の一部に引っ掛けるようにすると、焼成以前の状態でも粘土造形体が耐熱性基体を包持又は連結したものになるが、焼成することにより、粘土造形体が収縮した高強度の金属焼結体となるため、強固に耐熱性基体を保持した(連結した)状態の複合成型品となる。したがって、例えば素材的に密着しないような材料を用いた場合であっても、物理的に連結した複合成型品とすることができる。
また、予め粘土組成物を一次加工して粘土造形体を複数作成しておき、これらが耐熱性基体を包持又は連結させる場合も同様である。このように一次加工した粘土造形体を組み合わせる方法は、焼結体となる粘土造形体に精微な加工を施す場合に好適であり、造形の最終時に耐熱性基体と組み合わせればよいので、造形時に耐熱性基体を傷付けることがないという利点がある。
さらに、適宜支持材を用いるようにしても良く、例えば耐熱性基体をマスキングテープ等で包んだ状態で粘土組成物や粘土造形体を組み合わせるようにしても良い。
▲2▼;焼成以前の状態では、粘土造形体は必ずしも耐熱性基体を包持又は連結していなくても良い。例えば粘土造形体を1mm間隔の格子状の箱体に造形した場合には、径が1mmより小さければこの箱体の格子間隔から内部へ耐熱性基体を入れることができるが、逆に簡単に転がり出てしまうこともある。この状態で、即ち耐熱性基体が転がりでないような状態で焼結すれば、格子の1mm間隔が0.90〜0.93mm程度の間隔に収縮した箱体(金属焼結体)となるため、その後には内部の略1mm径の耐熱性基体は転がり出ることができず、物理的に連結した状態となる。
【0006】
また、本発明は、貴金属粘土状組成物からなる裏側シート材の表面に耐熱性基体を載置し、少なくとも前記耐熱性基体の周縁を被覆するように貴金属粘土状組成物からなる表側シート材を重合させると共に、耐熱性基体が露出する開口部を形成し、表側シート材が乾燥する以前に開口部周縁を所望の形状に成形して乾燥、焼成して裏側シート材、耐熱性基体、裏側シート材を一体化させてなることを特徴とする装飾品、及び貴金属粘土状組成物からなる裏側シート材の表面に耐熱性基体を載置する第1工程と、前記第1工程によって載置した耐熱性基体の少なくとも周縁を被覆するように貴金属粘土状組成物からなる表側シート材を重合させると共に、耐熱性基体が露出する開口部を形成する第2工程と、前記第2工程によって重合させた表側シート材が乾燥する以前に開口部周縁を所望の形状に成形する第3工程と、第3工程によって所望の開口部周縁形状に成形した状態で乾燥、焼成する第4工程と、を少なくとも有することを特徴とする装飾品の製造方法をも提案する。
【0007】
さらに、本発明は、上述の装飾品及びその製造方法に好適に用いることができる貴金属粘土状組成物をも提案するものであり、Ag、Au、Pt、Pd等の純貴金属粉或いはこれらの元素の一種以上を主成分とする貴金属合金粉から選ばれる貴金属粉末75〜99重量%と、Bi粉末0.1〜10重量%と、Se,Sb,In,Zn,Snから選ばれる一種以上0〜10重量%と、炭酸リチウム,酸化亜鉛,炭酸ナトリウム塩,酸化バナジウム,リン酸塩から選ばれる一種以上0.01〜5重量%からなる粉末成分に、澱粉1〜5重量%と、カルボキシメチルセルロース0.5〜5重量%と、デキストリン0.1〜2重量%と、グリセリン0.1〜2重量%と、アルギン酸ナトリウム0.1〜2重量%と、残部水とからなる有機バインダー液を5〜10%加えてなることを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明に用いる耐熱性基体は、磁器製品、陶器製品、ガラス等のセラミック製品、耐熱性金属製品、耐熱性鉱物から選ばれる任意の形状を有するものであって、焼成時の熱で変形等を生じないものであれば何等限定するものではないが、それ自体が装飾品としての装飾性、意匠性を有するものが好適に用いられる。
【0009】
本発明の金属複合成型品、及びその製造方法に用いる金属粘土状組成物は、特にその組成を限定するものではないが、十分な可塑性を備えるものが好ましく、以下の組成を有するものが好適に用いられる。
有機系バインダーとしては、水を含む含有量表示で、水溶性セルロース系樹脂0.022〜3.0重量%と澱粉0〜3.0重量%とフェニルプロパンを骨格とする構成単位体が縮合してなる網状高分子0〜0.5重量%を用いることが好ましい。
【0010】
水溶性セルロース系樹脂の配合は、生地割れを防止する効果及び粘土が手に付着することを防止する効果を果たし、その配合量が前記範囲より少ないと、十分な可塑性が得られず、前記範囲より多いと、乾燥時の変形が起こるため、亀裂やひび割れ等の損傷が生じてしまい、さらに粘土が手に付着し易くなると共に収縮率も増大してしまう。この水溶性セルロース系樹脂としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が用いられる。
澱粉の配合は、乾燥時の強度を向上する効果を果たし、その配合量が前記範囲より多いと、乾燥時の変形が起こるため、亀裂やひび割れ等の損傷が生じてしまい、収縮率も増大してしまう。
フェニルプロパンを骨格とする構成単位体が縮合してなる網状高分子の配合は、保水性の向上及び粘土が手に付着することを防止する効果を果たし、その配合量が前記範囲より多いと、乾燥時の変形が起こるため、亀裂やひび割れ等の損傷が生じてしまい、収縮率も増大してしまう。
【0011】
本発明に用いる粘土状組成物を構成する金属粉末、金属合金粉末から選ばれる一種以上の粉末は、平均粒径20μmの粒子で、アトマイズ粉、還元粉など製造方法は特に指定はないが、粒子が球状に近い形状であることが好適に使用される。また金属種としては、装飾品や美術工芸品としての製品とする場合、主にAu,Ag,Pt,Pd,Rh,Ru,Ir,Os等の純貴金属粉、或いはこれらの元素の一種以上を主成分とする貴金属合金粉を用いることが多いが、特にこれらに限定されるものではない。
尚、以下の説明においては装飾品としての製品を得ることを目的として貴金属粉末、即ち貴金属粘土状組成物を用いるものとして説明する。
【0012】
さらに、(貴)金属粉末と有機系バインダーと共に混合される水は、必要量加えるものとし、水が少なすぎると、粘土として造形が困難なほど硬くなり、多すぎるとコシが弱く保形性が無くなり造形が困難になる。
【0013】
本発明では、前述の粉末、即ち平均粒径20μmで、球形に近い形状の(貴)金属粉末等の粉末を80〜93重量%を用い、且つ前述の有機系バインダーを前記特定の割合にて配合した粘土状組成物を使用することにより、焼成した場合に収縮を適度に規制することができ、長さでおよそ7〜10%程度の収縮とすることができる。尚、焼成は、用いた貴金属粉末等の粉末の融点(mp)からそれより250℃低い温度範囲〔(mp−250℃)〜mp〕にて5〜90分加熱する。
もしも何れかの条件を満たさなかった場合には、亀裂やひび割れ等が起こったり、仮に亀裂やひび割れ等が起こらなかったとしても、収縮が大きくなりすぎて収縮が基本的に生じない耐熱性基体との接触部分などに損傷が起こる。即ち収縮が15%或いは30%程度に生じる粘土状組成物では、耐熱性基体の外周などに付着させた場合に粘土造形体が大きく収縮しようとする力がそのまま反発する大きな力となるため金属焼結体の強度を超えて損傷が起こる。そのため、このような損傷を起こさないようにするためには、耐熱性基体の寸法を計測し、予め収縮を見込んで粘土状組成物を造形したり、粘土造形体を組み合わせるというような緻密な設計性が必要であった。
これに対し、本発明では、粘土状組成物としての可塑性(取扱い性、造形性)にも優れ、しかも予め収縮を見込んで粘土状組成物を造形したり、粘土造形体を組み合わせる緻密な設計性などは全く不要である。即ち耐熱性基体の外周などに付着させた場合に粘土造形体は適度に収縮しようとする力が働くに過ぎないので、耐熱性基体の外周に強固に付着するものであって、金属焼結体の強度を超えて損傷を起こすことはない。また、前述のようにマスキングテープ等の支持材にて耐熱性基体を包んだ状態で粘土状組成物や粘土造形体を組み合わせるようにしても良いが、その際に使用するマスキングテープの厚みを調整して収縮空間を確保したり、過剰な収縮に対する反発を軽減することができる。
【0014】
また、前記粘土状組成物に添加する他の成分として、分子量10万〜数百万のポリエチレンオキサイドを0.1〜3重量%添加しても良い。このポリエチレンオキサイドは、エチレンオキサイドが開環重合して製造されるポリマーであり、その分子量は10万〜数百万に達するものであり、分子量200〜10000に過ぎないポリエチレングリコールとは異なる特性を有する化合物である。例えばこの分子量10万〜数百万のポリエチレンオキサイドは常温で白色粉末であるのに対し、分子量が1万以下のポリエチレングリコールは常温で液状又はワックス状であり、しかも分子量10万〜数百万のポリエチレンオキサイドは極めて低濃度でも強い曳糸性を示す。
この分子量10万〜数百万のポリエチレンオキサイドを有機系バインダとして用いた造形用粘土状組成物は、伸び特性が著しく向上し、例えば従来より有機系バインダとして用いられていたセルロース系樹脂では1割(10%オーダー)程度の伸びしか得られなかったのに対し、少なくとも2〜3倍(200〜300%)の伸びが得られることが見出された。尚、この伸び特性は、直径1mm、長さ4cmの棒状に成形したものを手に持って引き伸ばした場合の数値である。
但し、このポリエチレンオキサイドの配合量が0.1重量%に満たないと、組成物の伸びは向上するものの、バインダとしての作用が十分でなく、造形体が脆弱でぼろぼろと崩れてしまう。また、3重量%を越えると、収縮率が増大してしまう。
【0015】
また、本発明では、前記粘土状組成物を造形したり、一次加工した粘土造形体とする際に、何等規制はなく、例えば任意の形状又は表面模様を有する基材の表面に付着させ、基材を剥離除去しても付着させた組成物が形状維持できる程度にまで乾燥するようにしても良い。任意の形状又は表面模様を有する基材としては、例えば木の葉や木肌等の天然素材でも良いし、予め紙やプラスチックにしわや折れ目等の形状を付与した素材でも良いし、焼成工程前に剥離するので、可燃性でも不燃性でも良い。但し、極めて薄肉の焼結体を得ようとする場合、即ち造形用組成物の付着厚みが極めて薄い場合には、基材を剥離させる際に、余計な外力を与えないように基材自体も薄肉の可撓性素材が望ましい。
【0016】
また、本発明に用いる粘土状組成物は、前述のように(貴)金属粉末を主成分とする粉末成分と水溶性セルロース類を主成分とする有機バインダーと水とからなるが、微細形状部分や薄膜部分を形成するために、水等で希釈することによりペースト状若しくはスラリー状とし、これを塗り付けるようにしても良い。尚、このようにペースト状若しくはスラリー状の組成物を塗布すると、水が蒸発して固化する過程において、ペースト状やスラリー状から粘土状へ状態変化するので、総括的に(貴)金属粘土状組成物とした。
【0017】
上記(貴)金属粘土状組成物、(貴)金属ペースト状組成物、(貴)金属スラリー状組成物は、前述のように特にその組成を限定するものではないが、以下の組成のものは乾きやすく、乾燥強度(硬度)が高く、耐熱性基体への密着性が高いため、好ましい。また、固化後の形状の修正(研削)も容易に行うことができるという利点もある。
粉末成分としては、▲1▼Ag、Au、Pt、Pd等の純貴金属粉、或いはこれらの元素の一種以上を主成分とする貴金属合金粉から選ばれる貴金属粉末75〜99重量%と、▲2▼Bi粉末0.1〜10重量%と、▲3▼Se,Sb,In,Zn,Snから選ばれる一種以上0〜10重量%と、▲4▼炭酸リチウム,酸化亜鉛,炭酸ナトリウム塩,酸化バナジウム,リン酸塩から選ばれる一種以上0.01〜5重量%を用いることが望ましい。
また、有機バインダーとしては、水を含めた含有量表示で、(1)澱粉1〜5重量%と、(2)カルボキシメチルセルロース0.5〜5重量%と、(3)デキストリン0.1〜2重量%と、(4)グリセリン0.1〜2重量%と、(5)アルギン酸ナトリウム0.1〜2重量%と、残部水を用いることが望ましい。
そして、前記粉末成分に対し、前記有機バインダー液を5〜10%加えることが望ましい。
【0018】
前記粉末成分のうち、▲1▼貴金属粉末は、平均粒径5〜50μmの粒子で、アトマイズ粉、還元粉など製造方法は特に指定はないが、粒子が球状に近い形状であることが好適に使用される。また金属種としては、適宜割合で酸化性金属を混合するようにしても良い。
【0019】
▲2▼Bi粉末は、焼結促進剤として用いられるものである。この含有量が粉末成分中0.1重量%に満たないと十分な焼結促進作用が表れず、10重量%を越えるとその分だけ貴金属粉末の含有量が低くなり美観を損なうことになる。
【0020】
▲3▼Se,Sb,In,Zn,Snについても▲2▼Bi粉末と同様に焼結促進剤として用いられる。
【0021】
▲4▼炭酸リチウム,酸化亜鉛,炭酸ナトリウム塩,酸化バナジウム,リン酸塩は、高温でガラス質となって耐熱性基体表面への密着向上作用を果たすものである。尚、この密着向上作用は、焼成後の貴金属焼結膜の密着性を指すものである。この含有量が粉末成分中0.01重量%に満たないと密着向上作用が表れず、5重量%を越えると表面への浮き出しが生じて焼成後の貴金属焼結膜の美観を損ねる。
【0022】
前記有機バインダーのうち、(1)澱粉は、乾燥後の表側シート材の強度(硬度)を向上する作用を果たし、乾燥後の表側シート材の開口部周縁を成形する際の作業性を向上するものである。この含有量が有機バインダー(水を含めた含有量表示で)中1重量%に満たないと十分な強化(硬化)作用が表れず、5重量%を越えると表(裏)側シート材にクラックが入りやすくなる。
【0023】
(2)カルボキシメチルセルロースは、生地割れを防止する可塑性を付与すると共に耐熱性基体の表面への密着性を向上する作用を果たし、前記(1)澱粉の強化(硬化)作用と相俟って表側シート材の開口部周縁を成形する際の作業性を向上するものである。尚、この密着向上作用は焼成前の表側シート材の密着性を指すものである。この含有量が有機バインダー(水を含めた含有量表示で)中0.5重量%に満たないと十分な密着向上作用が表れず、5重量%を越えるとそれ以上作用が向上しないし、収縮が大きくなる。
【0024】
(3)デキストリンは、(2)カルボキシメチルセルロースと同様に密着向上作用に寄与する。この含有量が有機バインダー(水を含めた含有量表示で)中0.1重量%に満たないと密着向上作用が表れず、2重量%を越えると乾燥時の強度が低くなる。
【0025】
(4)グリセリンは、表側シート材に適度な保水性を与え、表側シート材を重合させる際の作業性を向上するものである。この含有量が有機バインダー(水を含めた含有量表示で)中0.1重量%に満たないと十分な保水作用が表れず、2重量%を越えると表側シート材が固化しなくなる。
【0026】
(5)アルギン酸ナトリウムは、(4)グリセリンと同様に表側シート材に適度な保水性を与えるものであるが、(2)カルボキシメチルセルロースや(3)デキストリンなどと同様に密着向上作用にも寄与する。この含有量が有機バインダー(水を含めた含有量表示で)中0.1重量%に満たないと十分な保水性及び密着向上作用が表れず、2重量%を越えるとそれ以上作用が向上しないし、収縮が大きくなる。
【0027】
このような組成を有する貴金属粘土状組成物は、本発明の焼成後に物理的に連結するように組み合わせる方法に好適に用いられるものではあるが、耐熱性基体への密着性が極めて高いので、例えば耐熱性基体の表面に塗り付けるなどの到底物理的に連結したとは言えない態様においても十分な密着強度を得ることができる。さらには耐熱性基体同士の接合において接着剤として機能できるものであることも確認された。
【0028】
【実施例】
以下に本発明の実施例を示す。
【0029】
[実施例1]
平均粒径20μmの純Ag粉末92wt%、メチルセルロース0.4wt%、デンプン0.4wt%、水7.2wt%を混練して銀粘土状組成物を調製した。
次に、この銀粘土状組成物を直径約3〜5mm程度の紐状に成形し、楕円状の薄肉の磁器製品1(絵付け用磁器として市販されている)の外周縁部へ図1(a)〜(c)に示すように配置させ(巻き付け)、外枠2を作った。
さらに、図1(d)に示すように外枠2に飾り付けとして小さな球体を埋設して乾燥固化した後、電気炉で850℃で20分焼成すると、外枠2の収縮により外枠2と磁器製品1とが強固に一体化した複合成型品となった。
その後、ブローチ金具を取り付けるために、接着剤として純Ag粉末89.9wt%、Bi0.1wt%、スキージオイル10wt%を混合してペースト状にしたものをブローチ金具の接合部に塗布し、再度850℃で20分焼成し、ブローチ金具が一体となった銀製外枠と磁器製品とが物理的に連結した複合成型品であるブローチを得た。
【0030】
[実施例2]
平均粒径20μmの純Ag粉末92wt%、メチルセルロース0.4wt%、デンプン0.4wt%、水7.2wt%を混練して銀粘土状組成物を調製した。
次に、この銀粘土状組成物を厚み1mmの板状に延ばし、円形状の薄肉の磁器製品3を載置し、その外径に併せて図2(a)に示すようにカットして台座4とした。
さらに、平均粒径20μmの純Ag粉末92wt%、メチルセルロース0.4wt%、リグニン0.2wt%、水7.4wt%を混練して銀粘土状組成物を調製し、直径約3〜5mm程度の紐状に成形し、台座4の外周に沿って配設して外枠5を作った。その際、図2(b)に示すように台座4の表面を水で湿らせることで台座4と外枠5とを接合した。尚、外枠5は、図2(c)に示すように密接せずに僅かな隙間が形成されるように配置した。これを乾燥固化した後、電気炉で850℃で20分焼成すると、外枠5の収縮により、それぞれ銀製の外枠5と台座4と磁器製品3とが強固に一体化した複合成型品となった。
その後、チェーンを取り付けてペンダントとした。
【0031】
[実施例3]
平均粒径20μmの純Cu粉末92wt%、メチルセルロース0.4wt%、リグニン0.2wt%、水7.4wt%を混練して銅粘土状組成物を調製した。
次に、この銅粘土状組成物を直径約3〜5mm程度の紐状に成形し、楕円状の薄肉の磁器製品1(絵付け用磁器として市販されている)の外周縁部へ図1(a)〜(c)に示すように配置させ(巻き付け)、外枠2を作った。
さらに、図1(d)に示すように外枠2に飾り付けとして小さな球体を埋設して乾燥固化した後、電気炉で850℃で20分焼成すると、外枠2の収縮により、銅製の外枠2と磁器製品1とが強固に一体化した複合成型品となった。
その後、チェーンを取り付けてペンダントとした。
【0032】
[実施例4]
平均粒径20μmの純Ag粉末92wt%、メチルセルロース0.4wt%、デンプン0.4wt%、水7.2wt%を混練して銀粘土状組成物を調製した。
次に、この銀粘土状組成物を厚み1mmの板状に延ばし、円形状の薄肉の磁器製品3を載置し、その外径に併せて図2(a)に示すようにカットして台座4とした。
さらに、平均粒径20μmの純Cu粉末92wt%、メチルセルロース0.4wt%、リグニン0.2wt%、水7.4wt%を混練して銅粘土状組成物を調製し、直径約3〜5mm程度の紐状に成形し、台座4の外周に沿って配設して外枠5を作った。その際、図2(b)に示すように台座4の表面を水で湿らせることで台座4と外枠5とを接合した。尚、外枠5は、図2(c)に示すように密接せずに僅かな隙間が形成されるように配置した。これを乾燥固化した後、電気炉で920℃で20分焼成すると、台座4及び外枠5の収縮により、銅製の外枠5と銀製の台座4と磁器製品3とが強固に一体化した複合成型品となった。
その後、チェーンを取り付けてペンダントとした。
【0033】
[実施例5]
平均粒径20μmのK22粉末92wt%、メチルセルロース0.4wt%、デンプン0.4wt%、水7.2wt%を混練して金粘土状組成物を調製した。
次に、この金粘土状組成物を直径約3〜5mm程度の紐状に成形し、楕円状の薄肉の磁器製品1(絵付け用磁器として市販されている)の外周縁部へ図1(a)〜(c)に示すように配置させ(巻き付け)、外枠2を作った。
さらに、図1(d)に示すように外枠2に飾り付けとして小さな球体を埋設して乾燥固化した後、電気炉で990℃で60分焼成すると、外枠2の収縮により外枠2と磁器製品1とが強固に一体化した複合成型品となった。
その後、チェーンを取り付けてペンダントとした。
【0034】
[実施例6]
平均粒径20μmの純Ag粉末92wt%、メチルセルロース0.4wt%、デンプン0.4wt%、ポリエチレンオキサイド(明成化学工業(株)製『アルコックスE−160』分子量360〜400万)0.2wt%、水7.0wt%を混練して銀粘土状組成物を調製した。
次に、この銀粘土状組成物を用いて木の葉の形状をした粘土造形体を作るため、まず木の葉を用意し、木の葉の片面を覆うように銀粘土状組成物を配置し、その上にも木の葉を配置し、さらにローラーで銀粘土状組成物を延ばすと共に木の葉の模様(葉脈)が両面に付く(転写)ように押し付け、厚みが1mm程度のシート状に造形し、木の葉の輪郭に沿って余分な部分を取り除いた。こうして作成した両面葉脈模様を付けた銀粘土造形体を2枚用意し、その基端部を接合すると共に球状の磁器製品が包持されるように配置し、ドライヤーで強制乾燥した後、電気炉で850℃で20分焼成すると、銀粘土造形体(焼結体)の収縮により球状の磁器製品が強固に包持されて一体化した複合成型品を得た。
その後、ブローチ金具を取り付けてブローチとした。
【0035】
[実施例7]
平均粒径20μmの純Ag粉末92wt%、メチルセルロース0.4wt%、デンプン0.4wt%、ポリエチレンオキサイド(明成化学工業(株)製『アルコックスE−160』分子量360〜400万)0.2wt%、水7.0wt%を混練して銀粘土状組成物を調製した。この銀粘土状組成物を幅1mmに成形すると共に、さらに捻って紐状とした。
また予め、鋳造にて薄肉の金合金プレートを作成し、その全面を覆うように厚さ1mmのマスキングテープ(ウレタンフォームテープ)を貼り付けた。
次に、上記金合金プレートの表面角部などに前記銀粘土状組成物のひねり紐を付着させて飾り枠を形成し、乾燥固化した後、電気炉で850℃で20分焼成すると、マスキングテープは焼失されるが、飾り枠の収縮により飾り枠と金合金プレートとが強固に一体化した複合成型品となった。
その後、チェーンを取り付けてペンダントとした。尚、このペンダントは、購入者の要望に応じて金合金プレートの表面に所望の文字やデザインなどを彫刻できる。
【0036】
[実施例8]
平均粒径20μmの純Ag粉末92wt%、メチルセルロース0.4wt%、デンプン0.4wt%、水7.2wt%を混練して銀粘土状組成物を調製した。
この銀粘土状組成物を直径1.5mmの紐状とした。
また予め、鋳造にて極薄肉で菱形の金合金プレートを作成し、このプレートを挟み込むように2枚の円形状の厚さ2mmのマスキングテープ(ウレタンフォームテープ)を貼り付けた。
次に、上記円形状のマスキングテープの外周に沿って前記銀粘土状組成物の紐を付着させて円形枠を形成した。その際、プレートの上端頂部及び下端頂部に位置する銀粘土の紐の内側部分には窪みを設けた。そして、乾燥固化した後、電気炉で850℃で20分焼成すると、マスキングテープは焼失され、銀製の円形枠の内部に菱型金合金プレートの上端頂部及び下端頂部が支持されて回転可能な複合成型品となった。
その後、イヤリング金具を取り付けてイヤリングとした。
【0037】
[実施例9]
平均粒径20μmの純Ag粉末92wt%、メチルセルロース0.4wt%、デンプン0.4wt%、ポリエチレンオキサイド(明成化学工業(株)製『アルコックスE−160』分子量360〜400万)0.2wt%、水7.0wt%を混練して銀粘土状組成物を調製した。
次に、前記銀粘土状組成物を延ばして裏側シート材及び表側シート材を作成し、円盤状の白磁メタル(=耐熱性基体)を挟み込み、中央に小さな開口部を形成した。
そして、重合した表側シート材が柔らかいうちに、カッターで白磁メタルの真上の表側シート材を大胆にデザインカットしたり形状を伸ばしたり整えたりして草模様状の開口部周縁を成形した。
その後、100℃の乾燥機へ30分入れて乾燥させ、更に電気炉へ投入して800℃×30分の条件にて焼成した。
得られた装飾品は、図3に示すように白磁メタル6の周縁に銀の大胆なデザインを有する美麗なフレーム7が形成されており、ステンブラシで磨いても銀のフレームは白磁メタルから剥がれることなく密着していた。
【0038】
[実施例10]
粉末成分として、平均粒径20μmの純Ag粉末99wt%、Bi粉末0.9wt%、炭酸リチウム0.1wt%を用いた。
有機バインダー液として、澱粉2wt%、カルボキシメチルセルロース1wt%、デキストリン1wt%、アルギン酸ナトリウム0.5wt%、グリセリン0.1wt%、水95.4wt%を用いた。
上記粉末成分と上記有機バインダー液が10:1となるように混合して銀ペースト状組成物を調製した。
磁器製の器を故意に割ったら、図4(a)に示すように皿8の片半(図では上方)に割れが集中した。その割れたピースの端面に前記組成の銀ペースト状組成物を塗布し、ドライヤーで乾燥させながら圧着して元の器の状態になるように接合(接合部9)した。また、外縁部が細かに割れたので、当該部分を欠損部分とし、該欠損部分には前記組成の水分を半量とした銀粘土状組成物を補充(補充部10)した。
続いて図4(b)に示すように割れなかった皿8の片半(図では下方)の表面に、前記接合部9や補充部10のデザインに応じて筆を用いて前記組成の銀ペースト状組成物を塗布(塗布部11)した。そして、100℃で30分乾燥した。
その後、電気炉にて800℃×30分焼成し、銀の接合部9、補充部10及び塗布部11をへらで磨いた。
得られた皿は、図4(b)に示すような表面に銀の模様を装飾したものとなった。尚、図中、接合部9及び補充部10は斑点状に、塗布部11は斜線ハッチングで示したが、視覚的には見分けが付かないデザインとなった。
【0039】
以上本発明の実施例を示したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない限りどのようにでも実施することができる。
【0040】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の金属複合成型品の製造方法は、これまで困難であった陶磁器製品などのセラミック製品などと貴金属、金属との接続を焼結体の収縮を応用することによる複合体を製造することを可能にし、それによりこれまで装飾品として非常に作成が困難であったような造形品も容易に且つ安価に作成することができる。
【0041】
また、本発明の装飾品及びその製造方法は、耐熱性基体の周縁に所望の形状のフレームが形成されたものとなり、焼成時の熱に対する耐性を有するものであればその形状を限定しないので、鉱物原石、パワーストーン等の幾何学的でない形状を有する装飾体でも容易に且つ任意のフレームデザインを施すことができる。
【0042】
また、表側シート材が乾燥して適度に硬質な開口部周縁を削るなどして所望の形状に加工する場合、粘土状組成物の状態で成形する場合に比べて簡易に精微なフレーム形状を加工できる。これに対し、表側シート材が乾燥する以前に開口部周縁を曲げるなどして所望の形状に加工する場合、乾燥固化物の状態で成形する場合に比べて造形デザインを自由に行うことができ、大胆なフレーム形状を加工できる。
【0043】
さらに、本発明の貴金属粘土状組成物は、前記本発明の金属複合成型品の製造方法や、装飾品及びその製造方法に好適に用いることができる他、各種の耐熱性基体に対して高い密着性を有するので、耐熱性基体の表面に模様を形成する場合や耐熱性基体同士を接合する接着剤として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例にて行った金属複合成型品の作成方法の一例を示す図である。
【図2】実施例にて行った金属複合成型品の作成方法の一例を示す図である。
【図3】実施例9にて製造した装飾品を示す平面図である。
【図4】(a)実施例10にて作成した装飾品の製造途中の状態を示す斜視図、(b)完成状態を示す平面図である。
Claims (5)
- 貴金属粘土状組成物からなる裏側シート材の表面に耐熱性基体を載置し、少なくとも前記耐熱性基体の周縁を被覆するように貴金属粘土状組成物からなる表側シート材を重合させると共に、耐熱性基体が露出する開口部を形成し、表側シート材が乾燥する以前に開口部周縁を所望の形状に成形して乾燥、焼成して裏側シート材、耐熱性基体、裏側シート材を一体化させてなることを特徴とする装飾品。
- 金属粉末、金属合金粉末から選ばれる一種以上の粉末を含有する金属粘土状組成物又はそれを一次加工した粘土造形体を、任意の形状を有する耐熱性基体の表面に巻き付けて包持させ、焼成後に物理的に連結するように組み合わせた後、焼成することを特徴とする金属複合成型品の製造方法。
- 金属粉末、金属合金粉末から選ばれる一種以上の粉末を含有する金属粘土状組成物を格子状の箱体に造形し、該粘土造形体の内部に、任意の形状を有する耐熱性基体を配置させることにより、焼成後に物理的に連結するように組み合わせた状態で焼成することを特徴とする金属複合成型品の製造方法。
- 貴金属粘土状組成物からなる裏側シート材の表面に耐熱性基体を載置する第1工程と、前記第1工程によって載置した耐熱性基体の少なくとも周縁を被覆するように貴金属粘土状組成物からなる表側シート材を重合させると共に、耐熱性基体が露出する開口部を形成する第2工程と、前記第2工程によって重合させた表側シート材が乾燥する以前に開口部周縁を所望の形状に成形する第3工程と、第3工程によって所望の開口部周縁形状に成形した状態で乾燥、焼成する第4工程と、を少なくとも有することを特徴とする装飾品の製造方法。
- 純貴金属粉、或いはこれらの元素の一種以上を主成分とする貴金属合金粉から選ばれる貴金属粉末75〜99重量%と、Bi粉末0.1〜10重量%と、Se,Sb,In,Zn,Snから選ばれる一種以上0〜10重量%と、炭酸リチウム,酸化亜鉛,炭酸ナトリウム塩,酸化バナジウム,リン酸塩から選ばれる一種以上0.01〜5重量%からなる粉末成分に、澱粉1〜5重量%と、カルボキシメチルセルロース0.5〜5重量%と、デキストリン0.1〜2重量%と、グリセリン0.1〜2重量%と、アルギン酸ナトリウム0.1〜2重量%と、残部水とからなる有機バインダー液を5〜10%加えてなることを特徴とする貴金属粘土状組成物。
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