JP4110410B2 - 銀粘土焼結体の表面に金色を呈する被膜を形成する方法 - Google Patents

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この発明は、銀粘土焼結体の表面に金色を呈する被膜を形成する方法に関するものである。
近年、銀粉末を含んだ銀粘土が市販されており、この銀粘土を所定の形状に成形して造形体を作製し、この造形体を乾燥したのち焼結して所定の形状を有する銀の宝飾品または美術工芸品を製造する方法が提案されている。この方法によると、銀粘土を通常の粘土細工と同じように自由に造形を行うことができ、造形して得られた造形体は、乾燥したのち、比較的小さな焼結炉を設置した場所に運び、そこで焼結することにより極めて簡単に銀の宝飾品または美術工芸品を製造することができる。
前記従来の銀粘土は、平均粒径:3〜20μmの銀粉末:50〜95重量%、セルローズ系水溶性バインダー:0.8〜8重量%、油脂:0.1〜3重量%、界面活性剤:0.03〜3重量%を含有し、残りが水からなるものであることは知られており、すでに市販されている。かかる銀粘土を用いて作製した銀宝飾品または美術工芸品は、さらにその表面に金被膜を形成することにより全体を黄金色に装飾したり、または金被膜からなる模様をつけることにより一層豪華な銀宝飾品または美術工芸品を造ることがある。この銀宝飾品または美術工芸品の表面に形成される金被膜は、銀粘土焼結体の表面に純金流動体ペーストを塗布し焼成して金リッチな金銀合金被膜を形成することにより作製することができる。
前記純金流動体ペーストとしては、化学還元法により得られた平均粒径:3μm未満の球状純金微粉末:70〜95%、低級アルコール:0.1〜12%、有機系バインダー:1〜8%、珪酸ナトリウム:0.01〜2%を含有し、残部が水からなる組成を有する純金流動体ペーストなどが知られている(特許文献1参照)。
特開2003−193101号公報
しかし、前記純金流動体ペーストを銀粘土焼結体に塗布し焼成すると、作品の形状により銀粘土焼結体の表面に形成された被膜は金色が失われて白っぽく退色し、所望の金色を呈さないことがあった。特に凹凸の曲面を有する銀粘土焼結体の表面に純金流動体ペーストを塗布すると、曲面凸面部分の塗布層は薄く形成され、この塗布層の薄い部分で金色が退色し、白色になって斑な色調となることがあった。そのため従来は純金流動体ペーストを再び塗布し焼成することにより金色を確保しようとしたが、純金流動体ペーストを使用して銀粘土焼結体の表面全体に満足の行く金色被膜を形成するには、純金流動体ペーストを塗布し焼成する操作を何回も繰り返し行わなければならず、少なくとも5回繰り返し行わなければ所望の金色を出すことができず、完成までに時間がかかりすぎる欠点が合った。
そこで、本発明者らは、かかる観点から、銀粘土焼結体の表面に金色の光沢を有する被膜を簡単に形成すべく研究を行った。その結果、
(イ)質量%で(以下、%は質量%を示す)、銀粉末:5〜50%、残部:金粉末からなる配合組成を有する金銀混合粉末を含む金−銀流動体ペーストを銀粘土焼結体の表面に塗布し焼成して金銀合金の薄い被膜を形成し、この金銀合金被膜を下地層とし、この下地層の上に純金流動体ペーストを塗布し焼成することにより形成された被膜は、純金流動体ペーストを塗布し焼成することにより得られた薄い被膜の上にさらに純金流動体ペーストを塗布し焼成することにより得られた従来の被膜(すなわち、純金流動体ペーストを2度塗りして得られた被膜)に比べて金色の退色現象が極めて少ない、
(ロ)前記金−銀流動体ペーストに含まれる金属粉末は、銀粉末:5〜50%、残部:金粉末からなる配合組成を有する金銀混合粉末であることが好ましい、などの研究結果が得られたのである。
この発明は、かかる研究結果に基づいて成されたものであって、
銀粘土焼結体の表面に、銀粉末:5〜50%、残部:金粉末からなる配合組成を有する金銀混合粉末を含む金−銀流動体ペーストを塗布し焼成して金−銀合金下地層を形成し、この金−銀合金下地層の上に純金流動体ペーストを塗布し焼成する銀粘土焼結体の表面に金色を呈する被膜を形成する方法、に特徴を有するものである。
この発明によると、銀粘土焼結体の表面に、銀粉末:5〜50%、残部:金粉末からなる配合組成を有する金銀混合粉末を含む金−銀流動体ペーストを塗布し焼成して金−銀合金下地層を形成し、この金−銀合金下地層の上に純金流動体ペーストを塗布し焼成するだけで銀粘土焼結体の表面に均一な金色を呈する被膜を形成することができ、さらにペーストの塗布回数を減らすことができるなどの優れた効果を奏するものである。
なお、銀粘土焼結体の表面に、銀粉末:5〜50%、残部:金粉末からなる配合組成を有する金銀混合粉末を含む金−銀流動体ペーストを塗布し焼成して形成した金−銀合金下地層は、従来の純金流動体ペーストを塗布し焼成して形成した下地層に比べて銀および金の拡散阻止作用が大であることによるものと考えられる。
この発明の銀粘土焼結体の表面に金色を呈する被膜を形成する方法において使用する前記金−銀流動体ペーストは、一般に知られている純金流動体ペーストに含まれる純金粉末に換えて、銀粉末:5〜50%、残部:金粉末からなる金銀混合粉末を添加した流動体ペーストを用いることができる。したがって、この発明の銀粘土焼結体の表面に金色を呈する被膜を形成する方法において使用する下地層を形成するための金−銀流動体ペーストは、銀粉末:5〜50%、残部:金粉末からなる配合組成を有する金銀混合粉末:70〜95%、低級アルコール:0.1〜12%、有機系バインダー:1〜8%、珪酸ナトリウム:0.01〜2%を含有し、残部が水からなる組成を有する流動体ペーストであり、この金−銀流動体ペーストを塗布し焼成して形成した金−銀合金下地層の上に塗布する純金流動体ペーストは一般に知られているいかなる種類の純金流動体ペーストでも使用することができる。例えば、背景技術で示した平均粒径:3μm未満の化学還元法により得られた平均粒径:3μm未満の純金微粉末:70〜95%、低級アルコール:0.1〜12%、有機系バインダー:1〜8%、珪酸ナトリウム:0.01〜2%を含有し、残部が水からなる組成を有する純金流動体ペーストを使用することができる。
次に、この発明の銀粘土焼結体の表面に金色を呈する被膜を形成する方法において使用する下地層を形成するための金−銀流動体ペーストに含まれる金銀混合粉末の成分組成を前記のごとく限定した理由について説明する。
金−銀流動体ペーストに含まれる金銀混合粉末は、Ag粉末:5〜50%を含有し、残部がAu粉末からなる配合組成の金銀混合粉末を用いる。その理由は、銀粉末が5%未満では純金流動体ペーストと同じ作用を有するので金拡散防止のための下地層とならず、金色の退色現象が起きるので好ましくなく、一方、50%を越えて添加すると、銀粘土焼結体の表面に直接純金流動体ペーストを塗布した場合と同じに金色の退色現象が起きるので好ましくないからである。前記金銀混合粉末に含まれる銀粉末の平均粒径を0.5〜1.5μmの範囲内にあることが好ましく、一方、金粉末は従来から知られている化学還元法により得られた平均粒径:0.8〜2.0μmの球形Au微粉末を使用することが好ましい。
金−銀流動体ペーストに含まれる金銀混合粉末の量が70%未満ではペースト塗布層に含まれる金銀混合粉末の含有量が少なすぎるために下地層としての十分な厚さが得られないので好ましくなく、所望の厚さの下地層を形成しようとすると塗布回数を極端に多くしなければならないので塗布に時間がかかり、一方、95%を越えて含有すると、ペーストの流動性が無くなって、均一に塗布することができなくなるので好ましくない。したがって、金−銀流動体ペーストに含まれる金銀混合粉末の含有量は75〜95%(一層好ましくは、80〜90%)に定めた。
前記金−銀流動体ペーストに含まれる低級アルコールは、金−銀流動体ペーストに含有させて銀粘土造形体に塗布した後の乾燥スピードを向上させ、それによって、塗布直後のペーストの垂れを防止する作用を有するが、その含有量が0.1質量%未満では乾燥に時間がかかるために塗布直後のペーストの垂れおよび広がりを防止することができないので好ましくなく、一方、12質量%を越えて含有しても格別な効果がなく、かえってアルコール性臭気が感じられるようになるので好ましくない。したがって、低級アルコールの含有量は0.1〜12質量%(一層好ましくは、4〜10質量%)に定めた。
前記金−銀流動体ペーストに含まれる有機バインダーは銀粘土焼結体に対するペーストの粘着性を付与するために添加するが、各種の有機バインダーの中でも金銀流動体ペーストに含まれる有機バインダーとしてはポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、デキストラン、プルラン、キサンタンガムなどの水溶性高分子が好ましく、水溶性高分子の中でもポリビニルアルコールが最も好ましい。この有機系バインダーのペーストに含まれる量は1質量%未満では十分な粘性が得られないために塗布直後のペーストの垂れを防止することができないので好ましくなく、一方、8質量%を越えて含有すると粘性が高くなりすぎて柔らかい筆などで塗布することができないようになるので好ましくない。したがって、ポリビニルアルコールの含有量は1〜8質量%(一層好ましくは、2〜7質量%)に定めた。
前記金−銀流動体ペーストに含まれる珪酸ナトリウムは、ペーストに添加することにより加熱して得られた金または金合金被膜の表面光沢および密着性を一層向上させ、さらにペーストを銀粘土焼結体の表面に塗布する際に垂れ下がりを防止する作用を有するが、その添加量が0.01%未満では所望の効果が得られず、一方、2%を越えて添加すると、得られた金または金合金被膜がガラス質となり、加熱により形成された金または金合金被膜に亀裂が発生するなどするので好ましくない。したがって、ペーストに含まれる珪酸ナトリウムは0.01〜2%(一層好ましくは、0.03〜1.2%)に定めた。
化学還元法により製造した平均粒径:1.5μmを有するAu微粉末および平均粒径:1.0μmのAg粉末を用意し、有機系バインダーとしてポリビニルアルコールを用意し、低級アルコールとしてエタノールを用意し、さらに珪酸ナトリウムおよび水を用意した。前記化学還元法により製造したAu微粉末およびAg粉末を表1に示される割合で配合し混合して金銀混合粉末を作製し、得られた金銀混合粉末をポリビニルアルコール、エタノールおよび水と表1に示される割合で配合し、混合して流動性のあるスラリー状の金−銀流動体ペーストA〜Iを作製した。
さらに、化学還元法により製造した平均粒径:1.5μmを有するAu微粉末:85%、有機系バインダーとしてのポリビニルアルコール:4%、低級アルコールとしてエタノール:6%、珪酸ナトリウム:0.58%を含有し、残部が水からなる従来の純金流動体ペーストを用意した。
さらに、平均粒径:5.0μmを有するアトマイズAg粉末に対し、メチルセルローズ、界面活性剤、オリーブ油および水を添加し、銀粘土用銀粉末:85質量%、メチルセルローズ:4.5質量%、界面活性剤:1.0質量%、オリーブ油:0.3質量%および水:残部となる配合組成を有する市販の銀粘土を用意し、この銀粘土を造形し得られた造形体を乾燥させて乾燥造形体を作製し、この乾燥造形体を焼結して縦:15mm、横:15mm、高さ:15mmの寸法を有する銀粘土焼結体を作製した。
本発明法1〜6および比較法1〜3
表1に示される金−銀流動体ペーストA〜Iを先に作製した銀粘土焼結体の表面に塗布し、850℃、10分間保持の条件で焼成して金−銀合金下地層を形成し、この金−銀合金下地層の上に先に用意した純金流動体ペーストを塗布し850℃、10分間保持の条件で焼成し、銀粘土焼結体の表面に被膜を形成することにより本発明法1〜6および比較法1〜3を実施した。
本発明法1〜6および比較法1〜3により得られた銀粘土焼結体の表面被膜の色調を絶対反射率測定装置:ARN−475(日本分光株式会社製)により色度を測定し、その結果を表2に示すことにより色度を評価した。前記測定条件は、視野角:10°、試料角度:45°で行い、Yxy系表示にて(x、y)=(0.39以上、0.39以上)であれば金色を呈すると評価した。
従来法
先に用意した従来の純金流動体ペーストを銀粘土焼結体の表面に塗布し、850℃、10分間保持の条件で焼成して下地層を形成し、この下地層の上にさらに従来の純金流動体ペーストを再度塗布し、850℃、10分間保持の条件で焼成し、銀粘土焼結体の表面に金色を呈する被膜を形成することにより従来法を実施した。従来法により得られた銀粘土焼結体の表面被膜の色調を絶対反射率測定装置:ARN−475(日本分光株式会社製)により色度を測定し、その結果を表2に示すことにより色度を評価した。前記測定条件は、視野角:10°、試料角度:45°で行い、Yxy系表示にて(x、y)=(0.39以上、0.39以上)であれば金色を呈すると評価した。
Figure 0004110410
Figure 0004110410
表1〜2に示される結果から、本発明法1〜6と従来法を比較すると、表1の金−銀流動体ペーストA〜Fを塗布して銀粘土焼結体の表面に金−銀合金下地層を形成し、この金−銀合金下地層の上に先に用意した表1の純金流動体ペーストA〜Fを塗布し焼成する本発明法1〜6により得られた被膜はいずれも金色を呈すると言う評価が得られているが、従来の純金流動体ペーストを銀粘土焼結体の表面に塗布し焼成して得られた被膜を下地層とし、その上に再び従来の純金流動体ペーストを塗布し焼成する従来法で得られた被膜は金色を呈すると言う評価が得られないことが分かる。
さらに、この発明から外れた条件の表1の純金流動体ペーストG〜Iを塗布する比較法1〜3により得られた被膜も金色を呈すると言う評価が得られないことが分かる。
本発明法7〜12および比較法4〜6
先に用意した表1に示される金−銀流動体ペーストA〜Iを、先に作製した銀粘土を造形し乾燥して得られた乾燥造形体の表面に直接塗布し、850℃、10分間保持の条件で焼成して銀粘土焼結体の表面に金−銀合金下地層を形成し、この金−銀合金下地層の上に先に用意した純金流動体ペーストA〜Iを塗布し850℃、10分間保持の条件で焼成し、銀粘土焼結体の表面に被膜を形成することにより本発明法7〜12および比較法4〜6を実施した。
本発明法7〜12および比較法4〜6により得られた銀粘土焼結体の表面被膜の色調を絶対反射率測定装置:ARN−475(日本分光株式会社製)により色度を測定し、その結果を表3に示すことにより色度を評価した。前記測定条件は、視野角:10°、試料角度:45°で行い、Yxy系表示にて(x、y)=(0.39以上、0.39以上)であれば金色を呈すると評価した。
Figure 0004110410
表3に示される結果から、銀粘土の乾燥造形体の表面に直接表1の金−銀流動体ペーストA〜Fを塗布し焼成して銀粘土焼結体の表面に金−銀合金下地層を形成し、この金−銀合金下地層の上に先に用意した純金流動体ペーストA〜Fを塗布し焼成する本発明法7〜12により得られた被膜はいずれも金色を呈すると言う評価が得られているが、銀粘土焼結体の表面に従来の純金流動体ペーストを塗布し焼成して得られた被膜を下地層とし、その上に再び従来の純金流動体ペーストを塗布し焼成する先の従来法で得られた被膜は金色を呈すると言う評価が得られないことが分かる。
さらに、この発明から外れた条件の表1の純金流動体ペーストG〜Iを塗布する比較法4〜6により得られた被膜も金色を呈すると言う評価が得られないことが分かる。

Claims (2)

  1. 銀粘土または銀粘土焼結体の表面に、質量%で(以下、%は質量%を示す)、銀粉末:5〜50%、残部:金粉末からなる配合組成を有する金銀混合粉末を含む金−銀流動体ペーストを塗布し焼成して金−銀合金下地層を形成し、この金−銀合金下地層の上に純金流動体ペーストを塗布し焼成することによりを特徴とする銀粘土焼結体の表面に金色を呈する被膜を形成する方法。
  2. 前記金−銀流動体ペーストは、銀粉末:5〜50%、残部:金粉末からなる金銀混合粉末:70〜95%、低級アルコール:0.1〜12%、有機系バインダー:1〜8%、珪酸ナトリウム:0.01〜2%を含有し、残部が水からなる組成を有することを特徴とする請求項1記載の銀粘土焼結体の表面に金色を呈する被膜を形成する方法。
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