JP3874233B2 - 片面鏡面ウェーハ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は片面鏡面ウェーハ、例えばサンギヤが組み込まれていない両面研磨装置を用いて半導体ウェーハを研磨することで、一面が鏡面に仕上げされ、他面が複数のピットで構成された面である片面鏡面ウェーハに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の両面研磨ウェーハの製造では、単結晶シリコンインゴットをスライスしてシリコンウェーハを作製した後、このシリコンウェーハに対して面取り、ラッピング、エッチングの各工程が順次行われる。それからウェーハ表裏両面に鏡面仕上げを施す両面研磨が行われる。この両面研磨には、通常、中心部にサンギヤが配置され、外周部にインターナルギヤが配置された遊星歯車構造を有する両面研磨装置が用いられている。
この両面研磨装置では、キャリアプレートに複数形成されたウェーハ保持孔の内部にシリコンウェーハを挿入・保持し、その上方から研磨砥粒を含むスラリーを供給しながら、対向面に研磨布が張られた上定盤および下定盤を各ウェーハの表裏両面に押しあてることで、キャリアプレートをサンギヤとインターナルギヤとの間で自転・公転させて、各シリコンウェーハの両面を同時に研磨する。
【0003】
ところで、このような遊星歯車式の両面研磨装置は、その中央部にサンギヤが存在する。このため、例えば次世代のシリコンウェーハとして注目されている300mmウェーハといった大口径ウェーハを両面研磨することができる両面研磨装置を製作する場合、このサンギヤの分だけキャリアプレート、ひいては両面研磨装置全体が大型化してしまうという問題点があった。例えば、300mmウェーハでは定盤の直径が3m以上にもなる。
【0004】
そこで、これを解消する従来技術として、例えば、特開平11−254302号公報に記載の「両面研磨装置」が知られている。
この両面研磨装置は、シリコンウェーハが保持される複数個のウェーハ保持孔を有するキャリアプレートと、このキャリアプレートの上下に配置されて、それぞれの対向面に、ウェーハ表裏両面の光沢度が同じになるように研磨する研磨布が展張された上定盤および下定盤と、両定盤間に保持されたキャリアプレートを、このキャリアプレートの表面と平行な面内で運動させるキャリア運動手段とを備えている。
ここでいうキャリアプレートの運動とは、両定盤の間に保持されたシリコンウェーハが、その対応するウェーハ保持孔内で旋回するような、キャリアプレートの自転をともなわない円運動を意味する。また、ウェーハ両面研磨中、これらの定盤は垂直な各回転軸を中心にして、互いに反対方向に回転する。
【0005】
したがって、ウェーハ両面研磨時には、キャリアプレートの各ウェーハ保持孔にシリコンウェーハを挿入・保持し、研磨砥粒を含むスラリーをシリコンウェーハに供給しながら、しかも上定盤および下定盤を回転させつつ、キャリアプレートに自転をともなわない円運動を行わせることで、各シリコンウェーハが同時に両面研磨される。
ここでいう両面研磨装置(以下、無サンギヤ式両面研磨装置という場合がある)には、サンギヤが組み込まれていない。よって、その分だけ、キャリアプレート上でのウェーハ保持孔の形成スペースが拡大される。その結果、大きさが同じ両面研磨装置であっても、研磨処理ができるウェーハのサイズを大きくすることができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の無サンギヤ式両面研磨装置を用いたシリコンウェーハの両面研磨方法では、以下の問題点があった。
すなわち、従来装置によるウェーハ両面研磨方法では、日本電色社の測定器による測定の結果が、シリコンウェーハの表裏両面ともに、鏡面を示す光沢度330%であった。このため、例えばウェーハ裏面の光沢度を低下させてその面を梨地面としたい場合、または、ウェーハ裏面をゲッタリング面化しようとウェーハ表面だけに鏡面研磨を施したい場合などには、それに対応することができなかった。
そこで、従来、一面が鏡面で他面が光沢度の低い梨地面である片面鏡面ウェーハとしたい場合には、片面研磨装置を用いた2つの研磨が行われていた。すなわち、第1が混酸によるエッチドウェーハの表面だけを鏡面化する方法である。また、第2がアルカリ液によるエッチドウェーハ100の裏面100bに軽く軽ポリッシュを施し、その後、ウェーハ表面100aだけを鏡面化する方法である(特開平5−137763号公報:図9参照)。
【0007】
ところで、ウェーハ裏面の光沢度を同じ60%に調整したとき、エッチングで梨地面に現出されたピットの幅は、第1の方法が5〜20μmと小さくなる。このようにピットの幅が小さくなると、ウェーハ裏面に微細なごみが付着しやすくなる。
また、第2の方法の軽ポリッシュによると、アルカリエッチングで発生したウェーハ裏面100bの凹凸のうちの隆起した部分は、ほぼ全部が一括して高さ方向の中間付近でポリッシュされる。このため、各ピット間に平坦な部分100cが現出されてしまう。その結果、隣接するピット同士が不連続となり、後のデバイス工程などでウェーハを吸着保持する静電チャックからのウェーハ100の離脱がスムーズに行えないという問題があった。
【0008】
【発明の目的】
そこで、この発明は、ウェーハ裏面が、ウェーハ表面に対して識別可能かつ高光沢度で、さらにピット間には平坦部が存在しない片面鏡面ウェーハを提供することを、その目的としている。
また、この発明は、良品率の高い片面鏡面ウェーハを効率良く作製することができる片面鏡面ウェーハを提供することを、その目的としている。
さらに、この発明は、無サンギヤ式両面研磨装置を用いて、簡単にウェーハ裏面を高光沢度の梨地面にすることができる片面鏡面ウェーハを提供することを、その目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、一面が鏡面で、他面が複数のピットを有する片面鏡面ウェーハであって、上記他面の光沢度は、一面の光沢度の60〜95%で、そのピットの幅は10〜50μmで、これらのピット間には平坦な部分が存在せずにピット同士が連続している片面鏡面ウェーハである。
ここでいう半導体ウェーハには、シリコンウェーハなどがある。この半導体ウェーハの大きさも限定されない。例えば、300mmウェーハなどの大口径ウェーハでもよい。
【0010】
この他面の光沢度が鏡面の60〜95%ということを具体例を挙げて説明する。例えばこの光沢度の測定は公知の測定器(例えば日本電色社製測定器)を用いて行うことができる。この測定器による測定の場合、一面(鏡面)の光沢度は330%である。したがって、他面の光沢度は約200〜310%となる。
60%未満ではウェーハ表裏面を同時研磨する際に、ウェーハ表面(鏡面)の光沢度が低下してしまって鏡面でなくなる(図7(a)のグラフ参照)。また、95%を超えるとウェーハ裏面がほとんど鏡面化して、ウェーハ表裏面の識別度が低下する(図7(b)のグラフ参照)。
【0011】
上記ピットの幅が10μm未満ではウェーハ裏面に微細なごみが付着しやすい(図8(a)のグラフ参照)。また、これが50μmを超えると、ウェーハの表面粗さが大きくなる(図8(b)のグラフ参照)。
また、「ピット間に平坦な部分が存在しない」とは、上記アルカリエッチング後の軽ポリッシュにより現出された面とは異なり、アルカリエッチングによる面での凹凸のうち、隆起部の先部がカットされていない状態である。これらの事項は、請求項3にも該当する。
この片面鏡面ウェーハの製造方法としては、例えば請求項3の無サンギヤ式両面研磨装置を用いた方法などが挙げられる。ただし、これには限定されない。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、上記他面の少なくともウェーハ半径の2分の1よりウェーハ中心側の領域において、上記光沢度60〜95%、上記ピットの幅10〜50μm、これらのピット間に平坦な部分が存在しないという条件を満たしている請求項1に記載の片面鏡面ウェーハである。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明は、キャリアプレートに形成されたウェーハ保持孔内に半導体ウェーハを保持し、アルカリ液中に研磨砥粒が混入されたスラリーを半導体ウェーハに供給しながら、それぞれ研磨布が展張された上定盤および下定盤の間で、上記キャリアプレートの表面と平行な面内でこのキャリアプレートを運動させて、上記半導体ウェーハの表裏両面を同時に研磨することができる両面研磨装置によって作製された片面鏡面ウェーハであって、上記上定盤の研磨布および下定盤の研磨布のうちの一方に、残りの他方とは研磨時における半導体ウェーハの沈み込み量が異なる研磨布を用い、上記スラリーとして、pH10〜11.4のアルカリ液を使用して両面研磨を行うことで、上記他面の光沢度を、一面の光沢度の60〜95%とし、そのピットの幅を10〜50μmとし、これらのピット間には平坦な部分が存在せずにピット同士が連続している片面鏡面ウェーハである。
【0014】
両面研磨装置は、サンギヤが組み込まれておらず、上定盤および下定盤の間でキャリアプレートを運動させることで半導体ウェーハの表裏両面を同時に研磨する無サンギヤ式両面研磨装置であれば、限定されない。
キャリアプレートに形成されるウェーハ保持孔の個数は、1個(枚葉式)でも複数個でもよい。ウェーハ保持孔の大きさは、研磨される半導体ウェーハの大きさにより、任意に変更される。
【0015】
キャリアプレートの運動は、キャリアプレートの表面(または裏面)と平行な面内での運動であれば良く、運動の方向などは限定されない。例えば、上定盤および下定盤の間で保持された半導体ウェーハがウェーハ保持孔の内部で旋回するキャリアプレートの自転をともなわない円運動でもよい。なお、自転をともなわない円運動とは、キャリアプレートが上定盤および下定盤の軸線から所定距離だけ偏心した状態を常に保持して旋回するような円運動である。この円運動によって、キャリアプレート上の全ての点は、同じ大きさの小円の軌跡を描くことになる。
その他、キャリアプレートの中心線を中心とした円運動、偏心位置での円運動、直線運動などでもよい。なお、この直線運動の場合には、上定盤および下定盤をそれぞれの軸線を中心に回転させる方が、ウェーハ表裏両面を均一に研磨することができる。
【0016】
使用するスラリーの種類は、pHが10〜11.4の低いアルカリ性を有するアルカリ液に研磨砥粒が分散されたものであれば限定されない。研磨砥粒の平均粒径は、通常0.1〜0.02μm程度である。
pH10未満では研磨レートが低い。pH11.4を超えると研磨剤の凝集が生じるという不都合が生じる。
スラリーの供給量はキャリアプレートの大きさにより異なり、限定されない。通常は、1.0〜2.0リットル/分である。スラリーの半導体ウェーハへの供給は、例えば、半導体ウェーハの鏡面とは反対側の上定盤側から行うことができる。この場合、ウェーハの鏡面側の面は下定盤により研磨される。
【0017】
上定盤および下定盤の回転速度は限定されない。例えば、同じ速度で回転させてもよいし、異なる速度で回転させてもよい。また、各回転方向も限定されない。すなわち、同じ方向に回転させてもよいし、互いに反対方向へ回転させてもよい。ただし、必ずしも上定盤および下定盤を同時に回転させなくてもよい。それは、この発明が、半導体ウェーハの表裏両面に上定盤および下定盤の各研磨布を押し付けた状態でキャリアプレートを運動させる構成を採用しているためである。
上定盤および下定盤の半導体ウェーハに対しての押圧力は限定されない。ただし、通常は150〜250g/cm2である。
また、ウェーハ表裏両面の研磨量および研磨速度も限定されない。このウェーハ表面とウェーハ裏面との研磨速度の違いは、ウェーハ表裏両面の光沢度に大きな影響を及ぼす。
【0018】
これらの上定盤および下定盤に展張される研磨布の種類および材質は限定されない。例えば、硬質発泡ウレタンフォームパッド、不織布にウレタン樹脂を含浸・硬化させた不織布パッドが挙げられる。その他、不織布からなる基布の上にウレタン樹脂を発泡させたパッドなども挙げられる。
ここでは、上定盤用の研磨布、下定盤用の研磨布として、ウェーハ研磨時において、半導体ウェーハの沈み込み量が異なるものが採用されている。なお、沈み込みの量は限定されない。
【0019】
この半導体ウェーハの沈み込み量を異ならせる方法は限定されない。例えば、硬度が異なる材質の研磨布、密度が異なる材質の研磨布、圧縮率がちがう材質の研磨布、または、圧縮弾性率がちがう材質の研磨布などを採用することができる。このように硬度、密度、圧縮率または圧縮弾性率が異なる研磨布を使用して、ウェーハ表裏両面を研磨すれば、半導体ウェーハの表裏両面が別々の光沢度に研磨される。
また、この他、このように半導体ウェーハの沈み込み量を異ならせる方法としては、例えば同じ材質の研磨布において、硬度、密度、圧縮率、圧縮弾性率を異ならせるようにしてもよい。
【0020】
【作用】
この発明に係る片面鏡面ウェーハによれば、他面の光沢度が、鏡面である一面の60〜95%で、そのピットの幅が10〜50μmと従来より大きく、そしてこのピット間に、従来の裏面軽ポリッシュウェーハのときのような平坦な部分が存在せず、隣接するピット同士が連続している。
このため、例えばウェーハ裏面が、ウェーハ表面との間での識別力を保持したまま高光沢度となる。その結果、片面鏡面ウェーハの平坦度が高まり、その裏面にごみが付着しにくい。
また、ピット間には平坦部が存在していないので、ウェーハを吸着保持する静電チャックからのウェーハの離脱が容易となる。
【0021】
特に、請求項2に記載の片面鏡面ウェーハによれば、上記他面の少なくともウェーハ半径の2分の1よりウェーハ中心側の領域を、このような請求項1に記載されたそれぞれの条件を満たすウェーハ領域としたので、請求項1の効果を有し、かつ良品率の高い片面鏡面ウェーハを効率良く作製することができる。
【0022】
また、請求項3に記載の片面鏡面ウェーハによれば、スラリーを供給しながら、上定盤および下定盤の間で、キャリアプレートをそのプレートの表面と平行な面内で運動させる。これにより、ウェーハの両面が研磨布により研磨される。
その際、両定盤に展張された研磨布の一方を、他方の研磨布とはウェーハ研磨時における半導体ウェーハの沈み込み量が異なるものとし、スラリーのアルカリ液のpHをpH10〜11.4としたので、無サンギヤ式両面研磨装置を使って、簡単にウェーハ表面を鏡面とし、ウェーハ裏面を高光沢度の梨地面にすることができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施例を図面を参照して説明する。図1はこの発明の一実施例に係る片面鏡面ウェーハの要部拡大断面図である。
図1において、Wはシリコンウェーハ(片面鏡面ウェーハ)であり、このシリコンウェーハWは、ウェーハ表面Waが鏡面で、ウェーハ裏面Wbが凹凸の小さいアルカリエッチされたと同様な面(梨地面)となった直径200mm、厚さ730μmのものである。
このシリコンウェーハWの裏面Wbの光沢度は、鏡面を100%とした場合の60%、具体的には日本電色社製測定器を用いた光沢度測定で200%となっている。
【0024】
しかも、ウェーハ裏面Wbに現出されたピットは、そのピット幅dが20μmであり、そのピット深さtが0.5μmとなっている。なお、これらのウェーハ裏面Wbの光沢度やピットに関する条件は、ウェーハ中心側から半径の10分の9の領域で満たされている。
このように、ウェーハ裏面Wbはアルカリエッチ面と同様な面であるため、例えば図9に示した従来のシリコンウェーハ100の場合(アルカリエッチング後の軽ポリッシュ面)のように、ピット間に平坦な部分100cが存在しない。したがって、隣接するピット同士は連続している。ちなみに、上記従来ウェーハ100のピット幅d1は100μmと広い。また、従来のウェーハ100のピット深さt1は1μmであって比較的深い。
【0025】
このように、アルカリエッチ面と同様の面の光沢度を鏡面(100%)の60%、この面のピット幅を20μm、ピット間に平坦部分が存在しないようにしたので、ウェーハ裏面Wbをウェーハ表面Waとの識別力を保持したまま高光沢度に形成することができる。その結果、ウェーハWの平坦度が高まり、他面Wbにごみが付着しにくくなったり、例えばデバイス作製工程などにおいて、ピット間に平坦な部分100cを有する従来品にくらべて、静電チャックからのウェーハWの離脱が容易になる。
【0026】
また、このシリコンウェーハWは、その裏面Wbの少なくともウェーハ中心からウェーハ半径の10分の9離れた円周よりウェーハ中心側の領域が、上記光沢度およびピットの条件を満たす部分となっている。これにより、両面研磨によりダレやすいウェーハ外周部がこれらの条件領域が除かれ、片面鏡面ウェーハWを不良品が少なくかつ効率良く作製することができる。
【0027】
次に、図2〜図7に基づいて、このような片面鏡面ウェーハWの製造装置を説明する。
図2において、10は一実施例に係る一面が鏡面で他面が梨地面の片面鏡面ウェーハを作製可能な両面研磨装置(以下、両面研磨装置という)である。この両面研磨装置10は、5個のウェーハ保持孔11aがプレート軸線回りに(円周方向に)72度ごとに穿設された平面視して円板形状のガラスエポキシ製のキャリアプレート11と、それぞれのウェーハ保持孔11aに旋回自在に挿入・保持されたシリコンウェーハWを、上下から挟み込むとともに、シリコンウェーハWに対して相対的に移動させることでウェーハ面を研磨する上定盤12および下定盤13とを備えている。シリコンウェーハWは、その片面がシリコン酸化膜により覆われたものを採用してもよい。また、キャリアプレート11の厚さ(600μm)は、シリコンウェーハWの厚さ(730μm)よりも若干薄くなっている。
【0028】
上定盤12の下面には、ウェーハ裏面Wbを梨地面に研磨する硬質の発泡ウレタンフォームパッド14が展張されている。また、下定盤13の上面には、ウェーハ表面Waを鏡面化させる不織布にウレタン樹脂を含浸・硬化させた軟質の不織布パッド15が展張されている。硬質発泡ウレタンフォームパッド14(ロデール社製MHS15A)の硬度は85゜(Asker)、密度は0.53g/cm3 、圧縮率は3.0%、その厚さは1000μmである。一方、軟質不織布パッド15(ロデール社製Suba600)の硬度は80゜(Asker)、圧縮率は3.5%、圧縮弾性率は75.0%であって、厚さは1270μmとなっている。このように、上定盤12側の硬質発泡ウレタンフォームパッド14の方が硬いので、所定の研磨圧でのウェーハ両面研磨時に、シリコンウェーハWがパッドの内部に沈み込みにくく、反対に軟質不織布パッド15の方が軟らかいので、ウェーハ両面研磨時に、シリコンウェーハWがパッドの内側に向かって沈み込みやすい。
【0029】
なお、これらの硬質発泡ウレタンフォームパッド14と軟質不織布パッド15との密度、圧縮率および圧縮弾性率の各関係においても、同じように硬質発泡ウレタンフォームパッド14の方が、高密度で、高圧縮率、低圧縮弾性率であって、いずれもシリコンウェーハWがパッドの内部に沈み込みやすい条件となっている。
このことは、図4を参照しても明らかである。すなわち、硬質発泡ウレタンフォームパッド14側の沈み込み量d1に比べて、軟質不織布パッド15の沈み込み量d2の方が大きくなっている。
なお、両パッド14,15に関して、研磨砥粒を含むスラリーの保持力について言及すると、当然、軟らかい軟質不織布パッド15の方が、硬い硬質発泡ウレタンフォームパッド14と比較してスラリーの保持力は大きくなる。スラリーの保持力が大きいほど、研磨砥粒がパッド面に多量に付着して、研磨速度ははやくなる。
【0030】
図2および図3に示すように、上定盤12は、上方に延びた回転軸12aを介して、上側回転モータ16により水平面内で回転される。また、この上定盤12は軸線方向へ進退させる昇降装置18により垂直方向に昇降させられる。この昇降装置18は、シリコンウェーハWをキャリアプレート11に給排する際などに使用される。なお、上定盤12および下定盤13のシリコンウェーハWの表裏両面に対する押圧は、上定盤12および下定盤13に組み込まれた図示しないエアバック方式などの加圧手段により行われる。
下定盤13は、その出力軸17aを介して、下側回転モータ17により水平面内で回転する。このキャリアプレート11は、そのプレート11自体が自転しないように、キャリア円運動機構19によって、そのプレート11の面と平行な面(水平面)内で円運動する。
次に、図2,図3,図5,図6および図7を参照して、このキャリア円運動機構19を詳細に説明する。
【0031】
これらの図に示すように、キャリア円運動機構19は、キャリアプレート11を外方から保持する環状のキャリアホルダ20を有している。これらの部材11,20は、連結構造体21を介して連結されている。ここでいう連結構造体21とは、キャリアプレート11を、そのキャリアプレート11が自転せず、しかもこのプレート11の熱膨張時の伸びを吸収できるようにキャリアホルダ20に連結させる手段である。
すなわち、この連結構造体21は、キャリアホルダ20の内周フランジ20aに、ホルダ周方向へ所定角度ごとに突設された多数本のピン23と、各対応するピン23を、キャリアプレート11の外周部に各ピン23と対応する位置に対応する数だけ穿設された長孔形状のピン孔11bとを有している。
【0032】
これらのピン孔11bは、ピン23を介してキャリアホルダ20に連結されたキャリアプレート11が、その半径方向へ若干移動できるように、その孔の長さ方向をプレート半径方向と合致させている。それぞれのピン孔11bにピン23を遊挿させてキャリアプレート11をキャリアホルダ20に装着することで、両面研磨時のキャリアプレート11の熱膨張による伸びが吸収される。なお、各ピン23の元部は、この部分の外周面に刻設された外ねじを介して、上記内周フランジ20aに形成されたねじ孔にねじ込まれている。また、各ピン23の元部の外ねじの直上部には、キャリアプレート11が載置されるフランジ23aが周設されている。したがって、ピン23のねじ込み量を調整することで、フランジ23aに載置されたキャリアプレート11の高さ位置が調整可能となる。
【0033】
このキャリアホルダ20の外周部には、90度ごとに外方へ突出した4個の軸受部20bが配設されている。各軸受部20bには、小径円板形状の偏心アーム24の上面の偏心位置に突設された偏心軸24aが挿着されている。また、これら4個の偏心アーム24の各下面の中心部には、回転軸24bが垂設されている。これらの回転軸24bは、環状の装置基体25に90度ごとに合計4個配設された軸受部25aに、それぞれ先端部を下方へ突出させた状態で挿着されている。各回転軸24bの下方に突出した先端部には、それぞれスプロケット26が固着されている。そして、各スプロケット26には、一連にタイミングチェーン27が水平状態で架け渡されている。なお、このタイミングチェーン27をギヤ構造の動力伝達系に変更してもよい。これらの4個のスプロケット26とタイミングチェーン27とは、4個の偏心アーム24が同期して円運動を行うように、4本の回転軸24bを同時に回転させる同期手段を構成している。
【0034】
また、これらの4本の回転軸24bのうち、1本の回転軸24bはさらに長尺に形成されており、その先端部がスプロケット26より下方に突出されている。この部分に動力伝達用のギヤ28が固着されている。このギヤ28は、例えばギヤドモータなどの円運動用モータ29の上方へ延びる出力軸に固着された大径な駆動用のギヤ30に噛合されている。なお、このようにタイミングチェーン27により同期させなくても、例えば4個の偏心アーム24のそれぞれに円運動用モータ29を配設させて、各偏心アーム24を個別に回転させてもよい。ただし、各編心アーム24の回転は同期させる必要がある。
【0035】
したがって、円運動用モータ29の出力軸を回転させると、その回転力は、ギヤ30,28および長尺な回転軸24bに固着されたスプロケット26を介してタイミングチェーン27に伝達され、このタイミングチェーン27が周転することで、他の3個のスプロケット26を介して、4個の偏心アーム24が同期して回転軸24bを中心に水平面内で回転する。これにより、それぞれの偏心軸24aに一括して連結されたキャリアホルダ20、ひいてはこのホルダ20に保持されたキャリアプレート11が、このプレート11に平行な水平面内で、自転をともなわない円運動を行う。すなわち、キャリアプレート11は上定盤12および下定盤13の軸線aから距離Lだけ偏心した状態を保って旋回する。この距離Lは、偏心軸24aと回転軸24bとの距離と同じである。この自転をともなわない円運動により、キャリアプレート11上の全ての点は、同じ大きさの小円の軌跡を描く。
【0036】
次に、この両面研磨装置10を用いたシリコンウェーハWの研磨方法を説明する。
まず、キャリアプレート11の各ウェーハ保持孔11aにそれぞれ旋回自在にシリコンウェーハWを挿入する。このとき、各ウェーハ裏面Wbは上向きとする。次いで、この状態のまま、各ウェーハ裏面Wbに硬質発泡ウレタンフォームパッド14を200g/cm2 で押し付けるとともに、各ウェーハ表面Waに軟質不織布パッド15を200g/cm2 で押し付ける。
その後、これらの両パッド14,15をウェーハ表裏両面に押し付けたまま、上定盤12側からスラリーを供給しながら、円運動用モータ29によりタイミングチェーン27を周転させる。これにより、各偏心アーム24が水平面内で同期回転し、各偏心軸24aに一括して連結されたキャリアホルダ20およびキャリアプレート11が、このプレート11表面に平行な水平面内で、自転をともなわない円運動を24rpmで行う。その結果、各シリコンウェーハWは、対応するウェーハ保持孔11a内で水平面内で旋回しながら、それぞれのウェーハ表裏両面が両面研磨される。なお、ここで使用するスラリーは、pH10.6のアルカリ性の液中に、粒度0.05μmのコロイダルシリカからなる研磨砥粒が分散されたものである。
【0037】
このとき、前述したように上定盤12の硬質発泡ウレタンフォームパッド14は、下定盤13の軟質不織布パッド15よりもシリコンウェーハWの沈み込み量が小さい。そのため、この両面研磨装置10を用いた両面研磨では、ウェーハ裏面Wbが梨地面で、ウェーハ表面Waが鏡面となった、表裏両面の光沢度が異なる両面研磨を実現することができる。
また、ここでは、両面研磨時に、キャリアプレート11を、このプレート11の自転をともなわない円運動をさせてウェーハ表裏両面を研磨させる。このようなキャリアプレート11の特殊な運動によりシリコンウェーハWを両面研磨したので、ウェーハ表裏両面の略全域において均一に研磨を行うことができる。
そして、このように研磨布14,15の材質を異ならせることで、シリコンウェーハWの沈み込み量を異ならせるように構成したので、簡単にかつ低コストで、ウェーハ表裏両面の光沢度が異なるシリコンウェーハWが得られる。なお、このように光沢度を異ならせたウェーハ表裏面は、その光沢度に応じて所定の平坦度が達成されている。
【0038】
なお、この一実施例の両面研磨装置10は、キャリアプレート11を円運動させなくても、例えば上側回転モータ16により上定盤12を5rpmで回転させるとともに、下側回転モータ17により下定盤13を25rpmで回転させるだけで、各シリコンウェーハWを両面研磨することもできる。
この場合、各シリコンウェーハWがウェーハ保持孔11aの中で旋回自在に挿入・保持されているので、この研磨中、各シリコンウェーハWは回転速度が速い側の定盤の回転方向へ連れ回り(自転)する。このようにシリコンウェーハWを自転させることで、上定盤12および下定盤13による研磨ではウェーハ外周へ向かうほど周速度が大きくなるという影響をなくすことができる。その結果、ウェーハ表裏両面のそれぞれの面全域を均一に研磨することができる。
また、これらの上定盤12と下定盤13とに回転速度の差をつけるようにして両面研磨をしても、無サンギヤ式両面研磨装置10を用いて、鏡面仕上げのウェーハ表面Waと、梨地仕上げのウェーハ裏面Wbとを有するシリコンウェーハWを得ることができる。さらに、上定盤12および下定盤13を同じ回転速度で回転させて、ウェーハ表面Waが鏡面でウェーハ裏面Wbが梨地面のシリコンウェーハWを製造するようにしてもよい。
【0039】
さらには、キャリアプレート11を円運動させながら、上定盤12および下定盤13を回転させて、シリコンウェーハWを両面研磨してもよい。この場合、上定盤12および下定盤13の回転速度は、ウェーハ表裏両面に研磨ムラが発生しな程度に遅くした方が好ましい。このようにすれば、シリコンウェーハWの表裏両面をその各面の全域において均一に研磨することができる。なお、上定盤12および下定盤13を回転させれば、シリコンウェーハWに接触する定盤面を常に新しくさせて、スラリーをシリコンウェーハWの全面に平均的に供給することができて好ましい。
【0040】
この一実施例では、このような構成の無サンギヤ式両面研磨装置10を用いての片面鏡面ウェーハWの製造方法、具体的にはスラリーを供給しながら、上定盤12および下定盤13の間で、キャリアプレート11をそのプレート11の表面と平行な面内で運動させて、ウェーハ表面Waを鏡面、ウェーハ裏面Wbをアルカリエッチ面となるように、両定盤12,13に張られたそれぞれの研磨布14,15の沈み込み量を異ならせるとともに、pH10.6のスラリーを裏面側から供給しながらシリコンウェーハWを製造するようにしたので、図2に示すような無サンギヤ式両面研磨装置10を採用して、簡単にウェーハ表面Waが鏡面で、かつウェーハ裏面Wbが高光沢度のアルカリエッチ面と同様な面となった片面鏡面ウェーハWを得ることができる。
【0041】
【発明の効果】
この発明によれば、裏面の光沢度を鏡面の60〜95%、裏面のピット幅を10〜50μm、ピット間に平坦部分が存在しないようにしたので、ウェーハ裏面をウェーハ表面との識別力を保持したまま高光沢度に形成することができる。その結果、ウェーハの平坦度が高まり、裏面にごみが付着しにくく、静電チャックからのウェーハの離脱も容易になる。
【0042】
特に、請求項2に記載の片面鏡面ウェーハによれば、裏面の少なくともウェーハ半径の2分の1よりウェーハ中心側の領域を請求項1の条件を満たす部分としたので、良品率の高い片面鏡面ウェーハを効率良く作製することができる。
【0043】
また、請求項3に記載の片面鏡面ウェーハによれば、スラリーを供給しながら、上定盤および下定盤の間で、キャリアプレートをそのプレートの表面と平行な面内で運動させてウェーハの片面を鏡面、ウェーハ他面を梨地面に研磨するようにしたので、両定盤に張られたそれぞれの研磨布の沈み込み量を異ならせ、かつスラリー中のアルカリ液のpHを10〜11.4としたので、無サンギヤ式両面研磨装置を使って、簡単にウェーハ裏面を高光沢度の梨地面にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例に係る片面鏡面ウェーハの拡大断面図である。
【図2】この発明の一実施例に係る片面鏡面ウェーハの作製が可能な両面研磨装置の全体斜視図である。
【図3】この発明の一実施例に係る片面鏡面ウェーハを作製可能な両面研磨装置によるウェーハ両面研磨中の縦断面図である。
【図4】この発明の一実施例に係る片面鏡面ウェーハを作製可能な両面研磨装置による両面研磨中の状態を示すその断面図である。
【図5】この発明の一実施例に係る片面鏡面ウェーハを作製可能な両面研磨装置の概略平面図である。
【図6】この発明の一実施例に係る片面鏡面ウェーハを作製可能な両面研磨装置のキャリアプレートに運動力を伝達する運動力伝達系の要部拡大断面図である。
【図7】(a)この発明の一実施例に係る片面鏡面ウェーハの表裏面の光沢度の関係を示すグラフである。
(b)この発明の一実施例に係る片面鏡面ウェーハの裏面光沢度と表裏面の識別度との関係を示すグラフである。
【図8】(a)この発明の一実施例に係る片面鏡面ウェーハのウェーハ裏面のピット幅とウェーハ裏面へのごみ付着度を示すグラフである。
(b)この発明の一実施例に係る片面鏡面ウェーハのウェーハ裏面のピット幅とウェーハ裏面のPV値との関係を示すグラフである。
【図9】従来手段に係る片面鏡面ウェーハの要部拡大断面図である。
【符号の説明】
10 無サンギヤ式両面研磨装置、
11 キャリアプレート、
11a ウェーハ保持孔、
12 上定盤、
13 下定盤、
14 研磨布、
15 研磨布、
W シリコンウェーハ(片面鏡面ウェーハ)、
Wa ウェーハ表面(一面)、
Wb ウェーハ裏面(他面)。
Claims (3)
- 一面が鏡面で、他面が複数のピットを有する片面鏡面ウェーハであって、
上記他面の光沢度は一面の光沢度の60〜95%で、そのピットの幅は10〜50μmで、これらピット間には平坦な部分が存在せずにピット同士が連続している片面鏡面ウェーハ。 - 上記片面鏡面ウェーハは、上記他面の少なくともウェーハ半径の2分の1よりウェーハ中心側の領域において、
上記光沢度60〜95%、上記ピットの幅10〜50μm、これらピット間に平坦な部分が存在しないという条件を満たしている請求項1に記載の片面鏡面ウェーハ。 - キャリアプレートに形成されたウェーハ保持孔内に半導体ウェーハを保持し、アルカリ液中に研磨砥粒が混入されたスラリーを半導体ウェーハに供給しながら、それぞれ研磨布が展張された上定盤および下定盤の間で、上記キャリアプレートの表面と平行な面内でこのキャリアプレートを運動させて、上記半導体ウェーハの表裏両面を同時に研磨する両面研磨装置を使用して作製された片面鏡面ウェーハであって、
上記上定盤の研磨布および下定盤の研磨布のうちのいずれか一方に、残りの他方とは研磨時における半導体ウェーハの沈み込み量が異なる研磨布を用い、
上記スラリーとして、pH10〜11.4のアルカリ液を使用して両面研磨を行うことにより、上記他面の光沢度を、一面の光沢度の60〜95%とし、そのピットの幅を10〜50μmとし、これらのピット間には平坦な部分が存在せずにピット同士が連続している片面鏡面ウェーハ。
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