JP3873301B2 - 方向性けい素鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、磁気特性、なかでも磁束密度に優れる方向性けい素鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
方向性けい素鋼板は、変圧器や発電機等の鉄心として使用されるもので、磁気特性として磁束密度(800 A/m の磁場の強さでの値B8 で示される。)が高く、鉄損(1.7 Tの最大磁束密度における50Hzの交番鉄損値W17/50で示される。)が低いことが必要とされる。近年、鋼板表面に局部的に歪を導入したり、溝を形成する、いわゆる磁区細分化技術が開発され、これによって大幅な鉄損の改善が可能となった。そのため、方向性けい素鋼板の磁気特性に関する研究課題は、磁束密度の向上に移行しつつある。
【0003】
一般に、方向性けい素鋼板の磁束密度を向上させるためには、製品の結晶方位を(110)〔001〕方位、いわゆるゴス方位に高度に集積させる必要があり、かかる方向性けい素鋼板のゴス方位の結晶粒は、製造工程中、最終仕上焼鈍による2次再結晶現象によって得られる。
【0004】
この最終仕上焼鈍の2次再結晶の際には、(110)〔001〕方位結晶粒のみを優先的に成長させて他の方位の結晶粒の成長を抑制する、いわゆる選択成長をさせる必要があるため、かかる他の方位の結晶粒の成長を抑制するための抑制剤(インヒビター)をあらかじめ添加しておくことが必要となる。かくして、このインヒビターは鋼中で析出分散相を形成し、2次再結晶の直前まで1次再結晶粒の成長(正常粒成長)を抑制することにより、(110)〔001〕方位結晶粒が優先的に成長し、磁束密度の優れた材料が得られることになる。しかしながら、実際の製造工程上では、結晶方位が(110)〔001〕方位からずれた粒がしばしば2次再結晶し、磁束密度の劣化した鋼板が製造される結果となっているため、このことが緊急の問題となっていた。
【0005】
このように結晶方位が(110)〔001〕方位からずれた粒が2次再結晶する理由については、発明者らの調査により、2次再結晶のための焼鈍(最終仕上焼鈍)の際に鋼板表面が酸化し、これによって鋼板表層部のインヒビターが分解・消失するために、2次再結晶前の状態において鋼板表層部の抑制力が不足しているためであることが分かった。
【0006】
こうした最終仕上焼鈍中における鋼板表層部のインヒビターの分解・消失を抑える手段としては、最終仕上焼鈍の前工程である脱炭焼鈍において鋼板表層部に形成される内部酸化物層(サブスケール)を利用することが考えられる。つまり、鋼板表層部にサブスケールが存在する場合には、この内部酸化物層がO、Mn、Alといった鋼中成分の拡散の障害物となって酸化を抑え、インヒビターの分解・消失を抑制できると考えられる。
【0007】
このような技術思想に基づいて、発明者らは効果的に酸化を抑制するサブスケールの組成を鋭意研究し、その成果として鋼板最表面のサブスケールの組成につき、ファイヤライトとシリカとの比を一定範囲に制御する技術を開発し、先に特開平4−202713号公報において開示した。
【0008】
しかしながら、この技術によってしても、磁気特性の安定化は十分とはいい難く、磁束密度の高い方向性けい素鋼の安定生産は望み得なかった。これは、脱炭焼鈍に供する鋼板表面の適正な履歴及び状態が十分解明されておらず、さらに、脱炭焼鈍自体も工業的な生産では連続焼鈍炉が使用されるため、焼鈍雰囲気が十分に制御できていない点に問題があった。
【0009】
詳述すれば、方向性けい素鋼板を脱炭する際、脱炭焼鈍炉内では、次式(1) ,(2)
C+ H2O →CO + H2 ……(1)
Si+2H2O →SiO2+2H2 ……(2)
に示される脱炭反応と酸化反応とが起き、水蒸気(H2O )が消費され、水素(H2)と一酸化炭素(CO)とが発生する。こうした脱炭反応,酸化反応の進行は、焼鈍雰囲気中に含有されるH2O 分圧とH2分圧との比である酸素ポテンシャルP(H2O) /P(H2)によって定められるが、この酸素ポテンシャルの値は、かかる反応が進行する際に発生するH2や、消費されるH2O によって変動してしまう。したがって、良好なサブスケールを得るためには、酸素ポテンシャルを所定値に制御することが必要であるのに対して、上記した方法では、十分な制御ができていなかったのである。
【0010】
炉内雰囲気を制御する方法に関し、特開平1−263216号公報では、特に露点を一定に制御するために、炉内に供給するガスを乾燥ガスと定量の水蒸気を混合して露点を一定化した後、供給する方法を提案しているが、炉内で消費されるH2O の量及び発生するH2の量は、上述の反応(1) 、(2) の進行速度により決まり、連続焼鈍炉の場合では、反応の前期段階である加熱ゾーン、中期段階である均熱前期ゾーン、反応の終期段階である均熱後期ゾーンで大きく異なっている。
また、各ゾーンにおいても、炉長方向では反応段階が異なるためにH2O 量及びH2量は微妙に変化している。それゆえ、所定のP(H2O) /P(H2) 値に制御できないという問題点があった。
【0011】
また、特開平5−148534号公報には、炉内に供給するガスのH2流量とこのガスを加湿するための水蒸気流量との比を制御したのち、炉内に供給する方法が提案されているが、やはり、前述の特開平1−263216号公報に開示の方法と同様の問題があった。
【0012】
さらに、特開平5−247529号公報においては、連続焼鈍炉の炉長方向に複数に分割された各ゾーンのH2O 分圧を制御する方法が提案されているが、仮に、各ゾーンのH2O 分圧が一定になったとしても、各ゾーンではH2が種々の値で発生しているため、H2分圧はまちまちとなるので、各ゾーンのP(H2O) /P(H2)を一定値に揃えることはできず、また、炉長方向での変動量を小さくすることもできなかった。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、上述した実情に鑑み開発されたもので、工業的生産において問題となる製品の磁束密度の劣化を有利に解決し、安定して高磁束密度の材料を得ることができる方向性けい素鋼板の新規な製造方法を提案することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、最終冷延圧延前の鋼板表面に一定形状の疵を付与すること、脱炭焼鈍の前処理の洗滌として脱脂処理を行うこと、及び脱炭焼鈍雰囲気の酸素ポテンシャルの変動を抑え、かつ十分な脱炭効果が得られるまで酸素ポテンシャルを低下させることにより、所期した目的が有利に達成されること、また、脱炭焼鈍の冷却時の雰囲気を中性ガス雰囲気とすることはより好ましいとの知見を得た。
【0015】
さらに、上記のように脱炭焼鈍雰囲気の酸素ポテンシャルの変動を抑えるためには、加熱領域や均熱領域に供給するガスのH2濃度を50%以上とすれば良いことの知見を得た。
この発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0016】
すなわち、この発明の要旨構成は、次のとおりである。
1.C:0.020〜0.10wt%、Si:1.0〜5.0 wt%及びMn:0.05〜2.5 wt%を含み、かつインヒビター成分としてAl,S,Se及びSbのうちから選ばれる1種又は2種以上を 0.005〜0.06wt%含有する方向性けい素鋼板用熱延コイルに、1回又は中間焼鈍を挟む複数回の冷間圧延を施して最終板厚とした後、脱炭焼鈍をし、次いで焼鈍分離剤を鋼板表面に塗布してから最終仕上焼鈍を施す一連の工程からなる方向性けい素鋼板の製造方法において、
(1) 最終冷間圧延前の鋼板表面に、圧延方向に対して直交する方向における平均粗度が0.5〜3.0 μmとなる、圧延方向と± 15 °をなして延びる疵を付与すること、
(2) 最終冷間圧延後、脱炭焼鈍前に洗滌処理として脱脂処理を行うこと、並びに
(3) 加熱ゾーン、均熱ゾーン及び冷却ゾーンに対応して炉内空間を鋼板通板方向で複数領域に区分した連続焼鈍炉を用いて脱炭焼鈍を行うものとし、その際、均熱温度を800〜900℃とし、この均熱時及び均熱に至る加熱時における雰囲気中の酸素ポテンシャルP(H2O) /P(H2)の炉長方向の平均値を0.35〜0.50でかつ連続焼鈍炉の炉長方向にて0.05以内の変動量とし、焼鈍時間を少なくとも鋼板の残留C量が20wtppm 以下となる時間とすること
を特徴とする方向性けい素鋼板の製造方法(第1発明)。
【0017】
2.第1発明において、上記脱炭焼鈍の際、均熱に引き続く冷却時の雰囲気を、不可避的不純物を除いて中性ガス雰囲気とすることを特徴とする方向性けい素鋼板の製造方法(第2発明)。
【0018】
3.第1発明又は第2発明において、上記脱炭焼鈍の際、上記加熱ゾーン及び均熱ゾーンの各領域に供給するガスのH2濃度を50%以上とする条件の下で、該ガスのH2O分圧とH2分圧との比P(H2O)/P(H2)を調整して、上記加熱ゾーン及び均熱ゾーンの各領域における雰囲気ガス中のH2O分圧とH2分圧との比P(H2O)/P(H2)を所定の値に保持することを特徴とする方向性けい素鋼板の製造方法(第3発明)。
【0019】
この発明において、連続焼鈍炉の各領域に供給するガスのH2濃度は、 vol%で示している。
【0020】
以下、この発明を具体的に説明する。
まず、この発明の基礎となった実験及びその結果について説明する。なお、実験に供した素材には、C、Si及びAlを含有させたものを用いた。ここにCは、熱延、冷延における組織改善に有用な成分であり、またSiは、電気抵抗を高めて鉄損を向上させるのに有用な成分であり、さらにAlは、インヒビター成分として2次再結晶粒方位の向上、すなわち磁束密度の向上に有用な成分である。
【0021】
実験
C:0.068 wt%、Si:3.28wt%、Mn:0.076 wt%、Al:0.024 wt%、Se:0.019 wt%及びSb:0.030 wt%を含有する方向性けい素鋼スラブを18本用意し、これらのスラブを常法により板厚2.2 mmの熱延板に熱間圧延後、1000℃で30秒間の焼鈍を施し、次いで第1回目の冷間圧延により板厚1.5 mmにした。次いで1100℃で1分間の湿N2−H2混合雰囲気(露点40℃)、つまり弱脱炭雰囲気での焼鈍を行い、その後15%HCl 水溶液で酸洗を行って鋼板表面の酸化物を完全に除去した後、研削ロールによって該鋼板表面の圧延方向に線状疵を付与した。この線状疵の付与の際、圧延方向に直交する方向における平均粗度を0.50〜1.20μm の範囲になるようにした。その後、第2回目の冷間圧延によって0.22mmの最終板厚とした。
【0022】
次に、脱炭焼鈍の前処理として表面洗滌を、15%のNaOH水溶液中でのアルカリ脱脂により行った後、純水中でブラッシングしながらリンスし、乾燥させた。
【0023】
これらのコイルを、図1に示す連続焼鈍炉を用いて脱炭焼鈍に供した。図1の連続焼鈍炉は、処理しようとする通板コイル1の入口及び出口が、シールロール2により通板可能に気密され、また炉内空間は、しきり壁3により被処理材の加熱ゾーン、均熱ゾーン及び冷却ゾーンに対応して複数領域に区分されている。これら複数領域には、ガス排出孔4及びガス導入孔5が設けてある。このガス排出孔4は、ガス組成及びガス流量を変更可能に雰囲気ガスを供給する経路(図示せず。)と接続している。図1の連続焼鈍炉の場合には、図中番号6が第1加熱ゾーン、7が第2加熱ゾーンであり、また、図中番号8…13がそれぞれ第1均熱ゾーン…第6均熱ゾーンであり、14が第1冷却ゾーン、そして15が第2冷却ゾーンになっている。なお、図1では炉が具備するハースロール、ヒーターは省略してある。
【0024】
このような連続焼鈍炉を用いて、均熱温度840 ℃への昇温を1分間、均熱時間3分間の脱炭焼鈍を施すに当たり、区分された各ゾーンへN2,H2及びH2O を種々の割合にしたガスを供給して、以下に述べるa〜pの18条件で脱炭焼鈍を行った。なお、いずれの条件も、冷却ゾーン群にはガスとしてN2ガスを供給し、第1冷却ゾーンから流量の100 %を排出した。
【0025】
条件a〜jは、各加熱ゾーンと均熱ゾーンにおける雰囲気の酸素ポテンシャルP(H2O) /P(H2)が一定値となるように供給ガスのH2O 分圧とH2分圧を制御したものであり、なかでも条件a〜fは、H2濃度を60%としたうえで、P(H2O) /P(H2)を条件aは0.55、条件bは0.50、条件cは0.45、条件dは0.40、条件eは0.35、条件fは0.30となるようにH2O 分圧を定めた。また、条件g〜jにつき、供給ガスのH2濃度を条件gは50%、hは40%、iは30%、jは20%としたうえで、いずれもP(H2O) /P(H2)を0.45となるようにH2O 分圧を定めた。
【0026】
条件k、m、o、qは、供給ガスのH2濃度を60%としたうえで、炉内雰囲気のP(H2O) /P(H2)の値を加熱ゾーンから均熱ゾーンにかけて種々に変化させたものであり、条件l、n、p、rは、供給ガスのH2濃度を30%としたうえで、炉内雰囲気のP(H2O) /P(H2)の値を加熱ゾーンから均熱ゾーンにかけて種々に変化させたものである。
【0027】
表1に、これらの条件で操業したときの各ゾーンにおけるP(H2O) /P(H2)の測定値を示す。
【0028】
【表1】
【0029】
表1に示すように、各ゾーンにおいて供給ガスのH2濃度を50%以上とし、各ゾーン間のP(H2O) /P(H2)の差を低減して一定に制御した条件a〜gについては、P(H2O) /P(H2)の変動幅が0.01〜0.05であり、比較的小さい。
【0030】
これに対して、各ゾーンに供給するガスのP(H2O) /P(H2)を一定値に制御した場合であっても、供給ガスのH2濃度が50%未満の条件h、i、jについては、P(H2O) /P(H2)の変動幅がそれぞれ0.08、0.10、0.12であって変動量が大きい。これは、供給ガスのH2O 分圧とH2分圧との比が一定の場合に、H2濃度が低いと、H2O も低いことになるので、前記した(1) 、(2) 式の反応に従ってH2O が消費された場合のP(H2O) /P(H2)の低下が大きいからであり、しかも、反応生成ガスであるH2の増加によってP(H2O) /P(H2)の低下が促進されるからである。
【0031】
その一方で、前述のように供給ガス中のH2濃度が高い場合は、前記(1) 、(2) 式の反応によって消費されるH2O の量よりも供給されるH2O 量が大きく、また、反応生成ガスとしてH2が増加しても、供給されるガス中のH2濃度が高いためにP(H2O) /P(H2)の値はさほど変化しない。
【0032】
これらの結果から、各ゾーンの雰囲気ガスのP(H2O) /P(H2)が設定値となるように、各ゾーンへ供給するガスのH2O 分圧及びH2分圧を制御するとともに、供給ガス中のH2濃度を50%以上にすることによって、P(H2O) /P(H2)の炉長方向での変動の少ない操業を行うことが可能となったといえる。
【0033】
以上述べた脱炭焼鈍を経た各コイルについて、酸素目付量と残留C量を調べた。その値を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
表2から分かるように、ほぼ同一のP(H2O) /P(H2)になる雰囲気であっても、条件k、lのような山型パターンや条件q,rのような尻高パターンでは、条件b,c,dのようなフラットパターンに比べて酸素目付量が大きい。これは、鋼板の酸化が進行する際、P(H2O) /P(H2)が変動すると形成されるサブスケール中の酸化物の分散に粗い部分が生じ、酸素の拡散が大きくなり、酸化の進行が促進することを意味している。
【0036】
次に、これらのコイルに、5%のTiO2と2%の Sr(OH)2・8H2Oを含有しMgO を主成分とする焼鈍分離剤として鋼板表面に塗布した後、コイル状に巻き取って、1200℃までを15℃/hの昇温速度、25%N2−75%H2の混合ガス雰囲気中で昇温し、さらにH2雰囲気下に1200℃で10h 保持してから降温する、最終仕上焼鈍を施した。これらのコイルは、未反応の焼鈍分離剤を除去した後、平坦化処理を兼ねて張力コーティングを塗布焼付けて製品とした。これらのコイルの磁気特性を表2に併せて示す。
【0037】
表2に示された製品の磁気特性から、脱炭焼鈍炉内のP(H2O) /P(H2)の加熱〜均熱ゾーンにおける一定化を目的とした条件a〜fに関して、炉内雰囲気のP(H2O) /P(H2)の平均値と磁気特性との関係を図2に示す。図2より、P(H2O) /P(H2)の平均値が0.35〜0.50の範囲である場合に、優れた磁気特性が得られることが分かる。
【0038】
次に、炉内雰囲気のP(H2O)/P(H2)の平均値がほぼ0.35〜0.50の範囲になった条件b,c,d,e及びg〜rについて、P(H2O)/P(H2)の炉長方向での変動量と製品の磁気特性との関係について図3に示す。同図から分かるように、P(H2O)/P(H2)の炉長方向での変動量を0.05以下と極力軽減した場合に優れた磁気特性が得られた。
【0039】
かように炉内雰囲気のP(H2O)/P(H2)の平均値が0.35〜0.50でかつ炉長方向での変動量が0.05以下の場合に、優れた磁気特性が得られた理由を解明するために、各条件により脱炭焼鈍を施した後の鋼板を用い、露点20℃、H275%−NH3 2.0 %(残部N2バランス)の雰囲気のもと、900 ℃で30分間熱処理することで強制的に酸化や窒化をさせて鋼板の酸化状況及び窒化状況を調査した。この調査の結果は、かかる酸・窒化処理によって増加した鋼中Nの増量分ΔN(ppm )及び増加した酸素目付量分ΔO(g/m2)で評価し、これらの値を表2に併記する。表2から明らかなように、優れた磁気特性が得られた条件b,c,d,e及びgによる脱炭焼鈍においては、ΔNやΔOが極めて低く、換言すれば、酸化や窒化が起こりにくいサブスケールが得られているといえる。
【0040】
方向性けい素鋼板を製造するに際し、最終仕上焼鈍において鋼板表面が酸化や窒化されると、鋼板表層部のインヒビターの状態が変化し、そのため酸化の場合は2次再結晶不良が、また窒化の場合は方位の劣る2次再結晶の成長が、それぞれ増大することが知られている。したがって、鋼板はできるだけ雰囲気の影響を受けない不活性状態とすることが好ましい。
【0041】
この点、脱炭焼鈍において、P(H2O) /P(H2)の炉長方向での変動量を0.05以下と極力軽減し、かつこのP(H2O) /P(H2)の値を0.35〜0.50の範囲で一定にした場合には、前述のように酸化や窒化が起こりにくい良好なサブスケールが得られ、二次再結晶の不良が抑制されることから、優れた磁気特性が得られたものと考えられる。
この発明は、以上の実験結果を基礎にし、その他、種々に具備すべき条件について検討を加えて、完成させたものである。
【0042】
この発明の方向性けい素鋼板の製造方法における第1の要件は、最終冷間圧延前の鋼板表面に、主として圧延方向に延びる疵を付与することである。この疵は、圧延方向に対して直交する方向における平均粗度が0.5 〜3.0 μm となるように付与する。かかる技術は、鋼板表面における主として圧延方向に延びた疵の存在のために、冷間圧延時のロールバイト内に存在する極微量の圧延油溜まりを解消し、表面性状の優れた冷間圧延板を得ることができ、これにより、脱炭焼鈍によって耐酸化性・耐窒化性に優れた保護性の高いサブスケールを得ることができるために特に有用である。
【0043】
第2の要件は、脱炭焼鈍の前処理としての洗滌に関するものである。通常の前処理としては所定の酸素目付量を確保するために、特開昭50−71526号公報に開示されるような酸洗が用いられてきた。しかしながら発明者らの研究によれば、酸洗による前処理は、脱炭焼鈍後の酸素目付量の確保という観点からは利点があっても、サブスケールの耐酸化性・耐窒化性という点では不利で、却って製品の磁気特性を損なうことが判明した。このような見地から、電解脱脂やアルカリ脱脂等の脱脂処理が優れていることを見出したのである。
【0044】
第3の要件は、脱炭焼鈍に関する規制である。すなわち、既に説明した実験結果に示されるように、脱炭焼鈍の加熱及び均熱時の雰囲気の酸素ポテンシャルP(H2O) /P(H2)を炉長方向で変動量0.05以内の一定値に制御することがサブスケールの耐酸化性・耐窒化性の点で優れていることを新規に見出した。なお、従来の方法においては、一定のP(H2O) /P(H2)値になる雰囲気ガスを炉内に導いても、脱炭反応、酸化反応の進行に伴ってH2O が消費され、かつH2が増加すること、しかも脱炭焼鈍の各段階において反応量が大きく異なるため、実際には雰囲気のP(H2O) /P(H2)を各段階で一定に制御することは不可能であったのは既に述べたとおりである。この発明により、P(H2O) /P(H2)を一定に制御することが可能になったことで、耐酸化性、耐窒化性に優れたサブスケールが得られ、図3に示したように優れた磁気特性の方向性けい素鋼板が得られる。
【0045】
また、かかる炉長方向で一定化されたP(H2O) /P(H2)については、従来のような高い値ではなく、0.35〜0.50の範囲といった低い値とする。これにより、耐酸化性、耐窒化性に優れたサブスケールが得られ、図2に示したように優れた磁気特性の製品が得られる。これは、酸化反応速度を低減することによって緻密な酸化物の分散相からなるサブスケールが得られるためである。したがって、脱炭焼鈍の酸化速度は低いほうが良いが、一定の酸素目付量と脱炭量とを確保するためには、一定時間以上の焼鈍時間が必要で、この基準としては、鋼板に残留するC量が20ppm 以下であることが優れた指標となる。
【0046】
また、脱炭焼鈍における均熱温度は、前記のように脱炭を確保するためには800 ℃以上が必要であり、また、逆に900 ℃を超える場合はP(H2O) /P(H2)の値を如何に低下させても酸化速度が過大となって優れたサブスケールが得られないことから、800 〜900 ℃の範囲とする。
【0047】
以上の3条件を充たすことにより、この発明の目的が達成される。
さらに、この発明の目的をより有利に達成するための好適条件としては、かかる脱炭焼鈍の冷却時の雰囲気として、実質的に中性ガスを用いることがある。詳述すると、鋼板に対して酸化性もしくは還元性のガスを冷却時に使用した場合、脱炭焼鈍で生成したサブスケールの表面層の酸化物を還元したり、再酸化したりすることから、目的とするサブスケールの性状を変化させる憂いがあるからである(第2発明)。なお、このように脱炭焼鈍の冷却時の雰囲気を実質的に中性ガスとするためには、図1に示した脱炭焼鈍炉を用いる場合にあっては、例えば冷却ゾーンに供給する中性ガスをすべて第1冷却ゾーンの排出孔で排気すると同時に、均熱ゾーンの供給ガスを第5均熱ゾーンに導く一方で、炉内ガスを第1加熱ゾーンのガス排出孔を用いて排出することによって、均熱ゾーンの炉内ガスが冷却ゾーンに混入することを防止することが望ましい。
【0048】
また、かかる方向性けい素鋼板の製造に際しては、被処理鋼板の加熱ゾーン、均熱ゾーン及び冷却ゾーンに対応して炉内空間を鋼板通板方向で複数領域に区分した連続焼鈍炉を用い、該加熱ゾーン及び均熱ゾーンの各領域に供給するガスのH2濃度を50%以上とする条件の下で、該ガスのH2O分圧とH2分圧との比P(H2O)/P(H2)を調整することによって、炉内の酸化反応及び脱炭反応によっで消費されるH2O の減量及び生成されるH2の増量の影響を受けにくくして、上記加熱ゾーン及び均熱ゾーンの各領域における雰囲気ガス中のH2O 分圧とH2分圧との比P(H2O)/P(H2)を所定の値に保持することが好適である(第3発明)。かかる制御技術によってこの発明の目的が達成される。
【0049】
【発明の実施の形態】
次に、この発明に従う、磁束密度が高く磁気特性に優れた方向性けい素鋼板の製造方法における数値限定理由について説明する。
まず第1に、使用する鋼の成分組成範囲について説明する。
【0050】
Cは、0.020 〜0.10wt%とする。
Cは、0.020 wt%よりも少ない場合には、脱炭焼鈍工程までの変態量が少なく、良好な結晶組織が得られずに磁気特性が劣化し、逆に0.10wt%より多い含有量では、脱炭性が劣化するので0.020 〜0.10wt%とする。
Siは、1.0 〜5.0 wt%とする。
Siは、鋼の電気抵抗を高め、製品の渦電流損の改善に有効であり、そのためには1.0 wt%以上が必要であるが、5.0 wt%を超える含有量では、冷間圧延時の脆化が甚だしくなるので、1.0 〜5.0 wt%とする。
Mnは、0.05〜2.5 wt%とする。
Mnは、0.05wt%以上の含有量が鋼の熱間圧延性を改善するために必要であり、一方2.5 wt%を超えると脱炭性を阻害するので0.05〜2.5 wt%とする。
【0051】
この他に、インヒビター成分としてAl、S、Se、Sbのうちから選ばれる成分の1種又は2種を以上含有させることが必要である。
この目的のためには、インヒビター成分の0.005 wt%以上の含有が必要であるが、0.06wt%を超える含有量では、Al、S又はSeの場合は析出物の粗大化が生じてインヒビター作用の低下を招き、またSbの場合は冷間圧延性の劣化を招くので0.005 〜0.06wt%の範囲とする。
【0052】
以上述べた成分の含有は、この発明の磁束密度の高い方向性けい素鋼板を製造する上で必須の成分であるが、この他に、従来公知の有効成分、例えば0.4 wt%以上のCu、Sn、Mo、As、Te、Bi、P又はBを含有しても良い。かかる成分の上限値を規定するのは、この上限値を超えて含有させた場合、2次再結晶が抑制され、磁気特性が劣化するからである。
【0053】
上記のような成分組成範囲に調整された方向性けい素鋼板用熱延コイルは、1回もしくは中間焼鈍を挟む複数回の冷間圧延によって最終板厚とされる。この冷間圧延において、最終冷間圧延前の鋼板表面に一定形状の疵を付与することが必要である。これは、圧延途中においてロールバイト内に存在する、ロール面と鋼板表面との間の微量な圧延油の油溜まりに起因する圧延後の鋼板表面の不均一形状を低減し、脱炭焼鈍時の酸化挙動を均一化して、耐酸化性、耐窒化性に優れた対雰囲気保護性の高いサブスケールを形成させるためである。
【0054】
このための疵の方向としては、圧延方向を主方向とすることが必要であり、圧延方向に対して±15°のずれは許容できる。このことにより圧延油のロールバイトからの散逸が促進されて微量な圧延油の油溜まりといえども解消され、圧延後の鋼板表面の形状の均一性が高まる。
このため、付与する疵は、圧延方向に対して直交する向きの平均粗度(鋼板表面を圧延直角方向に走査して得られる平均粗度)として0.5 μm 以上が必要であり、これにより、耐酸化性、耐窒化性の優れたサブスケールが得られ、製品の磁気特性が向上する。一方、かかる平均粗度が3.0 μm を超える場合は、その後の圧延によっても粗度(疵)が解消されず、表面形状が劣化して、それゆえ脱炭焼鈍時の酸化挙動が不均一となって脱炭焼鈍後のサブスケールの耐酸化性、耐窒化性が低下するため、最終仕上焼鈍により得られ製品の磁気特性が劣化する。このため、付与する疵の適正範囲は、圧延方向に直交する方向の平均粗度として 0.5〜3.0 μm の範囲とする。
【0055】
この発明に従う、主として圧延方向に延びた疵の付与方法としては、先の実験で述べた研削ロールによる方法、また、ブラシ研削による方法、エメリー紙研磨法による方法など、公知の方法が適する。また、酸洗等で鋼板表面の酸化物を除去してかかる疵を付与しても作用において差異はない。
【0056】
次に、脱炭焼鈍の前処理としての洗滌を脱脂処理とする。ここに、酸洗による洗滌の場合には、脱炭焼鈍時における酸化速度が大きく、脱炭焼鈍後の鋼板表面のサブスケールの耐酸化性、耐窒化性が低下するために磁気特性が劣化する。したがって、アルカリ脱脂、有機脱脂、電解脱脂といった脱脂処理がこの発明に適する。また、脱脂処理において、ブラシ洗滌及びリンス洗滌を併用して洗滌効果を高めても良い。
【0057】
最終冷間圧延後の鋼板は、脱炭焼鈍に供するが、このときの焼鈍条件を規制する点もこの発明の最も重要な要件の一つである。すなわち、脱炭焼鈍の酸化反応で形成されるサブスケールの形成速度を小さく、かつ鋼板平面に均一かつ時間的にも均一に制御することによって、緻密な酸化物の分散相からなるサブスケールが形成され、次工程の最終仕上焼鈍における耐酸化性、耐窒化性に優れた脱炭焼鈍板が得られる。
【0058】
この目的のためには、脱炭焼鈍の加熱及び均熱時の雰囲気の酸素ポテンシャルP(H2O) /P(H2)の変動量を加熱、均熱処理におて0.05以内の一定値に制御することが必要で、かつこの一定値というのを0.35〜0.50の範囲という低い値とすることが必要である。このP(H2O) /P(H2)の変動量が0.05を超える場合及びP(H2O) /P(H2)の値が0.50を超える場合は、耐酸化性、耐窒化性に優れたサブスケールが得られず、磁気特性が劣化する。また、P(H2O) /P(H2)が0.30より低い場合、一定量の酸素目付量が確保できず、製品のフォルステライト被膜の外観及び密着性が劣化する。
【0059】
さらに、一定の酸素目付量と脱炭量とを確保するためには、脱炭焼鈍の際に一定時間以上の焼鈍時間が必要であり、この発明においては、鋼板残留C量が20wtppm 以下となるような焼鈍時間とすることが必要である。焼鈍時間が短く、鋼板残留C量が20wtppm を超える場合は、製品の不純物としてのC量が増加し、磁気特性が劣化するからである。
【0060】
また、脱炭焼鈍の温度は、800 〜900 ℃の範囲とする。脱炭焼鈍温度(均熱温度)が800 ℃に満たない場合には、前述の脱炭量が確保できず、一方、900 ℃を超える焼鈍温度では、P(H2O) /P(H2)の値の低下にもかかわらず、酸化速度が過大となり、耐酸化性、耐窒化性に優れたサブスケールを得ることができない。
【0061】
次に、この発明の目的を有利に達成するためにの好適条件としては、脱炭焼鈍の冷却時の雰囲気として実質的に中性ガスを用いることである。これは、鋼板に対して酸化性もしくは還元性のガスの場合には、前述のとおり脱炭焼鈍で生成したサブスケール表面層の酸化物を還元したり、再酸化によって酸化物の組成が変化し、所期した目的が達成できなくなるおそれが高まるからである。
【0062】
かかる脱炭焼鈍を可能にする連続脱炭焼鈍方法としては、炉内空間、なかでも加熱及び均熱領域に対応する空間が炉長方向で複数に区分された連続焼鈍炉を用いることが必要である。その理由は、焼鈍過程においては、脱炭反応、酸化反応の各段階に対応して消費されるH2O の量や発生するH2やCOの量が異なるので、きめ細かい対応が必要であるからである。
【0063】
なお、加熱領域や均熱領域が分割された連続脱炭処理炉や、分割された各領域に供給するH2O の分圧やH2の分圧を制御する方法は従来からなされている技術であるが、かような従来技術では、既に述べたとおり、消費されるH2O 及び生成するH2に影響されて、炉内雰囲気について一定の酸素ポテンシャルP(H2O) /P(H 2)の値を得ることができなかったのである。
【0064】
したがって、かかる各反応で消費されるH2O 及び生成するH2によるP(H2O) /P(H2)の変動を極力抑制する手段を講ずることが必要である。そこで、この発明では、区分された各領域に供給するガスのH2濃度、ひいては炉内雰囲気中のH2濃度を50%以上にする。すなわち、このH2濃度が50%に満たない場合には、炉内のH2及びH2O の絶対量が小さく、反応によって消費されるH2O の量や生成するH2の量の影響を強く受け、炉内雰囲気中のP(H2O) /P(H2)が著しく変動することになり、制御性が悪くなるのである。
【0065】
以上のような脱炭焼鈍後の鋼板は、表面に焼鈍分離剤を塗布し、2次再結晶と純化焼鈍を兼ねる最終仕上焼鈍を行い、最終製品とする。なお、必要に応じて絶縁コーティングを施し、平坦化処理を行って製品とすることができる。
また、鋼板表面に溝を形成したり、プラズマジェットやレーザーを照射して局部的に歪を与える方法等での磁区細分化処理を施すことも可能である。
【0066】
【実施例】
実施例1
C:0.069 wt%、Si:3.34wt%、Mn:0.070 wt%、Al:0.025 wt%、Se:0.018 wt%、Sb:0.025 wt%及びN:0.008 wt%を含有し、残部はFe及び不可避的不純物よりなる方向性けい素鋼スラブを10本用意した。これらのスラブを常法により熱間圧延して2.0 mm厚の熱間圧延板とした。
これらの熱延板を1150℃、露点40℃の熱焼ガス雰囲気中で40秒間の熱延板焼鈍及び引き続くミスト水による冷却速度40℃/sの急冷処理を施したのち、研削ロールにより表面研削を行って鋼板表面の酸化物を除去した。この時、鋼板表面に形成される圧延方向の研削疵の程度を研削ロールのロール素地を変えることにより変更し、圧延方向に直交する方向の平均粗度として次の条件a〜jの値になる表面疵を付与した。
【0067】
条件a:0.23μm (±0.03μm )、条件b:0.42μm (±0.05μm )、条件c:0.51μm (±0.05μm )、条件d:0.87μm (±0.07μm )、条件e:1.72μm (±0.12μm )、条件f:2.05μm (±0.25μm )、条件g:2.47μm (±0.32μm )、条件h:2.98μm (±0.46μm )、条件i:3.75μm (±0.61μm )、条件j:4.53μm (±0.62μm )。
これら10種類のコイルを、180 〜220 ℃の温度で0.26mmの最終板厚まで冷間圧延した。
【0068】
次工程の脱炭焼鈍の前処理としての洗滌に際し、各コイルを2分割し、一方は30%のオルトけい酸ソーダ中でブラッシングし、脱脂した後、純水中でリンスし乾燥させた(発明法)。残る一方は15%H2SO4 水溶液中で酸洗した後、純水中でリンスし乾燥させた(比較法)。
【0069】
これらのコイルを図1に示す連続脱炭焼鈍炉を用いて840 ℃への昇温時間:30秒、均熱時間:2分間の脱炭焼鈍を施すに当たり、各加熱ゾーン及び均熱ゾーンへ供給するH2ガスの濃度を60%とし、炉内雰囲気ガスのH2濃度を50%以上とした。また、各ゾーンのP(H2O) /P(H2)が0.43の値となるように供給ガスのH2O 分圧とH2分圧とを制御した。さら に、冷却ゾーン群への供給ガスはN2ガス100 %とした。この結果、各ゾーンのP(H2O) /P(H2)は第1加熱ゾーンで0.43、第2加熱ゾーンで0.42〜0.43、第1〜第6均熱ゾーンで0.43であった。
【0070】
脱炭焼鈍後の鋼板の酸素目付量及び残留C量を表3に示す。また、脱炭焼鈍後の鋼板を用い、900 ℃で露点20℃、H275%−NH3 2.0 %(残部N2バランス)の強制的酸化及び窒化の雰囲気条件下で30分間熱処理し、鋼板の酸化挙動及び窒化挙動を調査した。この酸・窒化処理によって増加した鋼中Nと酸素目付量の増加分を表3に併せて記す。
【0071】
【表3】
【0072】
次に、これらのコイルに10%のTiO2と3%の Sr(OH)2・8H2Oを含有しMgO を主成分とする焼鈍分離剤を鋼板表面に塗布した後、コイル状に巻き取り、1200℃までを15℃/hの昇温速度、25%N2−75%H2の混合雰囲気下で昇温し、さらにH2雰囲気下に1200℃、10h 保持した後、降温する最終仕上焼鈍を施した。
【0073】
これらのコイルは未反応の焼鈍分離剤を除去した後、平坦化処理を兼ねて張力コーティングを塗布焼き付けて製品とした。これらのコイルの磁気特性を表3に併せて示す。
【0074】
表3に示されるように、脱炭焼鈍の前処理として酸洗処理を施した場合は、酸・窒化処理後における窒素増加分及び酸素目付量の増加分が大きく、サブスケールの耐酸化性、耐窒化性が低く、磁気特性が大幅に劣化している。これに対して、脱炭焼鈍前処理として脱脂処理を行った場合においては、圧延前の鋼板表面に圧延方向の疵を付与し、かつ該疵による圧延方向と直交する向きの表面粗度を0.5 〜2.5 にすることで、耐酸化性、耐窒化性に優れたサブスケールを形成させることができ、良好な磁気特性が得られている。
【0075】
実施例2
表4に示すA〜Hの鋼塊を常法に従い、熱間圧延により板厚2.0 mmの熱延鋼板とした。これらのコイルに1000℃、30秒間の熱延板焼鈍を施した後、酸洗により表面被膜を完全に除去した後、第1回目の冷間圧延を行って1.40mmの板厚とした。その後1100℃で露点40℃、25%N2−75%H2の雰囲気下で焼鈍を行い、ミスト水で350 ℃まで40℃/sの冷却速度で急冷した後、20秒間、350 ℃で保持した後、徐冷した。これらのコイルについて、20%HCl 水溶液中で完全に表面酸化被膜を除去したのち、ブラシロールによって表面を研削し、圧延方向に延びた疵を鋼板表面に導入した。この際、ブラシロールの押付け圧を制御して、圧延方向と直交する方向の平均粗度が1.0 〜2.0 となるようにした。
【0076】
【表4】
【0077】
次に、これらのコイルを50%の圧下率までは温度非制御の冷間圧延で、圧下率50%以上の圧延では180 〜250 ℃での圧延を行った。この板温制御はロールクーラントの油量を制御することにより行った。
【0078】
その後、これらのコイルを脱脂洗滌したのち、レジストインキを部分的に塗布してから電解エッチングすることにより、鋼板の片面に深さ10μm 、幅200 mmの圧延方向に対して直交する方向の溝を、圧延方向の間隔5mmごとに設けた。この後30%オルトけい酸ソーダ水中で電解脱脂を行ったのち、各コイルともa,b,cの小コイルに3分割した。これらの分割コイルは、図1に示される連続脱炭焼鈍炉を用いて、850 ℃への昇温1分間、均熱2分間の脱炭焼鈍を施した。
【0079】
この脱炭焼鈍の際、分割コイルa及びbについては、各ゾーンに供給する湿N2+H2ガスのH2ガス濃度を65%とし、分割コイルcについては、該供給ガスのH2ガスの濃度を20%とした。また、分割コイルa及びcについては、第1、第2冷却ゾーン共に100 %N2ガスを供給し、分割コイルbについては、第2冷却ゾーンのみ100 %N2ガスを供給した。また、湿N2+H2ガスを供給するに際しては、各ゾーンの雰囲気ガスのP(H2O) /P(H2)が一定値0.45になるように、供給ガスのH2O 分圧とH2分圧とを制御した。
【0080】
この結果、各ゾーンのP(H2O) /P(H2)は、分割コイルaに関して、第1、第2加熱ゾーンで0.43〜0.45、第1均熱ゾーンで0.42〜0.45、第2、第3、第4均熱ゾーンで0.44〜0.45、第5、第6均熱ゾーンで0.45であり、また、分割コイルbに関しては、第1、第2加熱ゾーンで0.43〜0.45、第1均熱ゾーンで0.42〜0.45、第2、第3、第4均熱ゾーンで0.44〜0.45、第5、第6均熱ゾーンで0.45、第1冷却ゾーンで0.45〜0.46であった。さらに、分割コイルcに関しては、第1加熱ゾーンで0.36〜0.43、第2加熱ゾーン及び第1均熱ゾーンで0.34〜0.43、第2均熱ゾーンで0.37〜0.45、第3均熱ゾーンで0.39〜0.45、第4均熱ゾーンで0.43〜0.44、第5、第6均熱ゾーンで0.45〜0.46となった。したがって、P(H2O) /P(H2)の加熱、均熱ゾーンでの変動量は、分割コイルaとbで0.03であり、分割コイルcで0.12である。
これらのコイルの脱炭焼鈍後の鋼板の酸素目付量と残留C量を表5に示す。
【0081】
【表5】
【0082】
次に、これらのコイルに8%のTiO2と2%のSrSO4 とを含有しMgO を主成分とする焼鈍分離剤を鋼板表面に塗布した後、コイル状に巻き取り、1200℃まで15℃/hの昇温速度で昇温し、さらにH2雰囲気下で1200℃、10h 保持した後、降温する最終仕上焼鈍を施した。
【0083】
これらのコイルは、未反応の焼鈍分離剤を除去したのち、平坦化処理を兼ねて張力コーティングを塗布焼き付けして製品とした。これらのコイルの磁気特性を表5に併せて示す。
【0084】
表5に示されるように、脱炭焼鈍の昇温時及び均熱時のP(H2O) /P(H2)の変動量の少ない分割コイルa及びbは、優れた磁気特性を示す。また、冷却ゾーンの雰囲気供給ガスを100 %N2とした分割コイルaは、特に優れた磁気特性を示す。
【0085】
【発明の効果】
以上詳細に述べた如く、この発明によれば、最終冷間圧延前の鋼板の表面状態、最終冷間圧延後の脱炭焼鈍前の前処理方法及び脱炭焼鈍における雰囲気への制御方法を工夫することにより極めて磁束密度の高い、優れた製品の方向性けい素鋼板を安定して製造できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明で用いる脱炭焼鈍設備の一例を示す要部説明図である。
【図2】脱炭焼鈍の際の炉内加熱ゾーン、均熱ゾーンにおける雰囲気中のP(H2O) /P(H2)の平均値と磁気特性との関係を示すグラフである。
【図3】脱炭焼鈍の際の炉内加熱ゾーン、均熱ゾーンにおける雰囲気中のP(H2O) /P(H2)の炉長方向での変動量と製品の磁気特性との関係について示すグラフである。
【符号の説明】
1 通板コイル
2 シールロール
3 しきり壁
4 ガス排出孔
5 ガス導入孔
6 第1加熱ゾーン
7 第2加熱ゾーン
8 第1均熱ゾーン
9 第2加熱ゾーン
10 第3加熱ゾーン
11 第4加熱ゾーン
12 第5加熱ゾーン
13 第6加熱ゾーン
14 第1冷却ゾーン
15 第2冷却ゾーン
Claims (3)
- C:0.020〜0.10wt%、Si:1.0〜5.0 wt%及びMn:0.05〜2.5 wt%を含み、かつインヒビター成分としてAl,S,Se及びSbのうちから選ばれる1種又は2種以上を 0.005〜0.06wt%含有する方向性けい素鋼板用熱延コイルに、1回又は中間焼鈍を挟む複数回の冷間圧延を施して最終板厚とした後、脱炭焼鈍をし、次いで焼鈍分離剤を鋼板表面に塗布してから最終仕上焼鈍を施す一連の工程からなる方向性けい素鋼板の製造方法において、
(1) 最終冷間圧延前の鋼板表面に、圧延方向に対して直交する方向における平均粗度が0.5〜3.0 μmとなる、圧延方向と± 15 °をなして延びる疵を付与すること、
(2) 最終冷間圧延後、脱炭焼鈍前に洗滌処理として脱脂処理を行うこと、並びに
(3) 加熱ゾーン、均熱ゾーン及び冷却ゾーンに対応して炉内空間を鋼板通板方向で複数領域に区分した連続焼鈍炉を用いて脱炭焼鈍を行うものとし、その際、均熱温度を800〜900℃とし、この均熱時及び均熱に至る加熱時における雰囲気中の酸素ポテンシャルP(H2O) /P(H2)の炉長方向の平均値を0.35〜0.50でかつ連続焼鈍炉の炉長方向にて0.05以内の変動量とし、焼鈍時間を少なくとも鋼板の残留C量が20wtppm 以下となる時間とすること
を特徴とする方向性けい素鋼板の製造方法。 - 上記脱炭焼鈍の際、均熱に引き続く冷却時の雰囲気を、不可避的不純物を除いて中性ガス雰囲気とする請求項1記載の方向性けい素鋼板の製造方法。
- 上記脱炭焼鈍の際、上記加熱ゾーン及び均熱ゾーンの各領域に供給するガスのH2濃度を50%以上とする条件の下で、該ガスのH2O分圧とH2分圧との比P(H2O)/P(H2)を調整して、上記加熱ゾーン及び均熱ゾーンの各領域における雰囲気ガス中のH2O分圧とH2分圧との比P(H2O)/P(H2)を所定の値に保持することを特徴とする請求項1又は2記載の方向性けい素鋼板の製造方法。
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