JP3872775B2 - カーボンナノチューブの製造方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄などを含む基板の表面に直径の小さな複数のカーボンナノチューブを形成するカーボンナノチューブの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
カーボンナノチューブは、完全にグラファイト化した直径4〜50nm程度で長さ1〜10μm程度の筒状をなしている。このカーボンナノチューブは、グラファイトの単層(グラフェン)が円筒状に閉じた形状と、複数のグラフェンが入れ子構造的に積層し、それぞれのグラフェンが円筒状に閉じた同軸多層構造となっている形状とがある。これら円筒状のグラフェンの中心部分は、空洞となっている。また、先端部は、閉じているものものや、折れるなどのことにより開放しているものもある。
【0003】
このような独特の形状を持つカーボンナノチューブは、特有の電子物性を利用して新規な電子材料やナノテクノロジーへの応用が考えられている。例えば、電子放出のエミッタとして用いることが可能である。固体表面に強い電場をかけると、固体内に電子を閉じこめている表面のポテンシャル障壁が低くなりまた薄くなる。この結果、閉じこめられていた電子が、トンネル効果により固体の外部に放出されるようになる。これらの現象が、電界放出といわれている。
【0004】
この電界放出を観測するためには、107 V/cmもの強い電界を固体表面にかけなければならないが、これを実現するための一手法として先端を鋭く尖らせた金属針を用いるようにしている。このような針を用いて電界をかければ、尖った先端に電界が集中し、必要とされる高電界が得られる。
前述したカーボンナノチューブは、先端の曲率半径がnmオーダと非常に鋭利であり、しかも化学的に安定で機械的にも強靱であるなど、電界放出のエミッタ材料として適した物理的性質を有している。
【0005】
上述したような特徴を有するカーボンナノチューブを、例えば、FED(Field Emission Display)などの電子放出源に用いる場合、カーボンナノチューブを大きな面積の基板上に形成することが要求される。
カーボンナノチューブの製造方法としては、ヘリウムガス中で2本の炭素電極を1〜2mm程度離した状態で直流アーク放電を起こすことで行う電気放電法や、レーザ蒸着法などがある。
【0006】
ところが、これらの製造方法では、カーボンナノチューブの直径や長さを調整しにくく、また、目的とするカーボンナノチューブの収率があまり高くできないという問題があった。また、カーボンナノチューブ以外の多量の非晶質状態の炭素生成物が同時に生成されるため、精製工程を必要とするなど、製造に手間がかかるという問題がある。
【0007】
これらを解消するため、基板の上に触媒金属の層を用意し、基板を加熱した状態で触媒金属の層上にカーボンソースガスを供給し、触媒金属の層よりカーボンナノチューブを大量に成長させる方法が提案されている(特許文献1参照)。この熱化学気相成長(CVD)法によるカーボンナノチューブの製造は、触媒金属の主対や成長させる時間、また、基板の種類などにより、形成されるカーボンナノチューブの長さや直径を制御可能としている。
【0008】
【特許文献1】
特開2001−048512号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、カーボンナノチューブを電子放出源として用いる場合、より細いカーボンナノチューブを用いることで、より低い電圧で電子を放出させることができる。例えば、FEDの電子放出源としてカーボンナノチューブを用いる場合、より細いものを用いることで、低電圧駆動が可能となり、消費電力の省力化の点で好ましい。
【0010】
CVD法でカーボンナノチューブを形成する場合、複数のカーボンナノチューブを基板の上に近設させて形成させることが可能となる。また、例えば、基板の温度を800〜1000℃と高温の条件とすることで、直径10nm程度の細いカーボンナノチューブが形成できる。しかしながら、高温でカーボンナノチューブを成長させると、まず、単位時間当たりのカーボンナノチューブの成長速度が遅く、所望の長さのカーボンナノチューブを得るためには、多くの時間が必要となる。
【0011】
また、高温でカーボンナノチューブを成長させると、基板の上に形成される複数のカーボンナノチューブからなる層を均一に形成することが困難であった。このように、基板上に形成されたカーボンナノチューブに高さの違いが生じると、最も高い(長い)カーボンナノチューブに局所的な電界集中が起こり、電界放出が局所的に起こる。また、局所的な電界放出は、カーボンナノチューブの破壊を引き起こし、場合によっては、連鎖的に多くのカーボンナノチューブが破壊される。電子放出源となるカーボンナノチューブの破壊が発生すると、安定した電界放出が得られない。
【0012】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、低電圧で均一な電子放出が得られるカーボンナノチューブによる電子放出源を製造できるようにすることを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るカーボンナノチューブの製造方法は、カーボンソースガスが導入された反応炉中に、少なくとも表面が鉄,ニッケル,コバルト,クロムのいずれかを含む金属材料からなる基板を配置してこの基板を所定の温度に加熱し、基板の表面に化学的気相成長法により複数の第1カーボンナノチューブを成長させる第1の工程と、所定の分散媒体中に複数の第2カーボンナノチューブを分散させた電着液中で基板と電極板とを対向配置し、基板と電極板との間に電圧を印加することで第2カーボンナノチューブを基板の表面に電着させ、基板の表面に第1カーボンナノチューブと第2カーボンナノチューブとから構成されたカーボンナノチューブ層を形成する第2の工程とを少なくとも備えたものである。
この製造方法によれば、2種類のカーボンナノチューブから構成されたカーボンナノチューブ層が、基板の上に形成される。
【0014】
上記カーボンナノチューブの製造方法において、第2カーボンナノチューブを、同軸2層構造とすることで、より低い電圧でカーボンナノチューブ層から電子を放出させることができるようになる。なお、カーボンソースガスは、一酸化炭素,アセチレン,エチレン,エタン,プロピレン,プロパン,又はメタンガスのいずれかであればよい。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態におけるカーボンナノチューブの製造方法例を示す工程図である。まず、図1(a)に示すように、426合金などのステンレス鋼からなる基板101を用意する。次いで、図1(b)に示すように、例えば石英管などから構成された反応炉104の内部に、基板101を載置し、反応炉104の一方より原料ガスと水素ガス(キャリアガス)を流した状態で、ヒータ105により基板101を650℃程度に加熱する。図1(b)は、反応炉104の断面を模式的に示している。
【0016】
この化学的気相成長工程において、原料ガスとして一酸化炭素ガスを用い、流量は、500sccm程度とすればよい。また、キャリアガスの流量は、1000sccm程度とすればよい。なお、原料ガスとして、アセチレン,エチレン,エタン,プロピレン,プロパン,又はメタンガスなどのC1〜C3の炭化水素ガスを用いることも可能である。また、上述では基板101は、ステンレス鋼から構成するものとしたが、これに限るものではなく、カーボンナノチューブを形成しようとする基板の表面が、化学的気相成長法によりカーボンナノチューブが成長する金属を含む材料で構成されていればよい。この金属は、例えば鉄,ニッケル,コバルト,クロムのいずれか、もしくはこれらの合金である。
【0017】
以上のCVD法による成長を例えば30分ほど行うことで、図1(b)に示すように、基板101の表面には、長さ15μm程度,直径30〜40nm程度の複数のカーボンナノチューブ102が形成される。カーボンナノチューブ102は、複数のグラフェンが円筒状に閉じた同軸多層構造のカーボンナノチューブ(MWNT)となっている。基板101の表面には、例えば林立した状態で、複数のカーボンナノチューブ102が繊維状に形成され、これらが3次元的に絡み合って綿状を程するようになっている。
【0018】
以上のことにより、基板101の表面にカーボンナノチューブ102の層が形成された状態とした後、次に示すことにより、基板101の表面に新にカーボンナノチューブを電着する。
例えば、公知の電気放電法などにより形成した直径2〜6nm程度,長さ数μm程度の同軸2層構造のカーボンナノチューブ(DWNT)100mgを、イソプロピルアルコール(IPA)などの分散媒体1l中に入れ、超音波や界面活性剤を用いて分散媒体中に均一に分散させた電着溶液を作製する。
【0019】
ついで、図1(c)に示すように、上述したことにより作製した電着溶液107の中に、基板101とステンレスからなる対向電極106とを、互いに10mmの間隔を空けて平行になるように設置する。この状態で、基板101と対向電極106との間に50Vの電圧を1分間加える。この電着により、基板101の表面には、CVD法により形成したカーボンナノチューブの層に、複数のDWNTが付着したカーボンナノチューブ層103が形成される。
【0020】
カーボンナノチューブ層103は、まず、繊維状に形成された複数のMWNTが、3次元的に絡み合って綿状を程する構造を有しているので、カーボンナノチューブ層103の全域にわたって、均一な電界放出が得られる状態となっている。これに加え、カーボンナノチューブ層103は、直径2〜6nm程度の細い複数のDWNTが付着しているので、より低い電圧で電界放出が得られる構造となっている。
【0021】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、CVD法によりカーボンナノチューブを成長させた後、電着法により新たなカーボンナノチューブを付着させるようにしたので、繊維状の複数のカーボンナノチューブが絡み合って綿状を程する構造の中に、例えば、同軸2層構造の直径の細い複数のカーボンナノチューブが付着している状態が得られるようになる。このように、本発明によれば、低電圧で均一な電子放出が得られるカーボンナノチューブによる電子放出源が製造できるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態におけるカーボンナノチューブの製造方法例を示す工程図である。
【符号の説明】
101…基板、102…カーボンナノチューブ、103…カーボンナノチューブ層、104…反応炉、105…ヒータ、106…対向電極、107…電着溶液。
Claims (3)
- カーボンソースガスが導入された反応炉中に、少なくとも表面が鉄,ニッケル,コバルト,クロムのいずれかを含む金属材料からなる基板を配置してこの基板を所定の温度に加熱し、前記基板の表面に化学的気相成長法により複数の第1カーボンナノチューブを成長させる第1の工程と、
所定の分散媒体中に複数の第2カーボンナノチューブを分散させた電着液中で前記基板と電極板とを対向配置し、前記基板と電極板との間に電圧を印加することで前記第2カーボンナノチューブを前記基板の表面に電着させ、前記基板の表面に前記第1カーボンナノチューブと前記第2カーボンナノチューブとから構成されたカーボンナノチューブ層を形成する第2の工程と
を少なくとも備えたことを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。 - 請求項1記載のカーボンナノチューブの製造方法において、前記第2カーボンナノチューブは、同軸2層構造であることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
- 請求項1又は2記載のカーボンナノチューブの製造方法において、
前記カーボンソースガスは、一酸化炭素,アセチレン,エチレン,エタン,プロピレン,プロパン,又はメタンガスのいずれかである
ことを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
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