JP3869550B2 - 磁気記録媒体および磁気記憶装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、大容量の情報記録が可能な磁気記録媒体および磁気記憶装置、特に、高密度磁気記録に好適な、高保磁力で低ノイズの薄膜磁気記録媒体および1平方インチ当り3ギガビット以上の記録密度を有する磁気記憶装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子計算機の小型化および高速化に伴い、磁気ディスク装置に代表される磁気記憶装置に対する大容量化および高速アクセス化の要求は、ますます高まりつつある。
【0003】
磁気記憶装置の記録密度を高めると記録ビットの面積が小さくなるため、磁気ヘッドで再生した時の出力が低下する問題がある。この問題を解決するため、従来は1つの電磁誘導型ヘッドで記録と再生の両方を行なっていたのに対し、記録ヘッドと再生ヘッドとを分離して、記録用には電磁誘導型ヘッド、再生用には磁気抵抗効果(MR効果)を用いた高感度再生ヘッド(以後、MRヘッドと略記する)を用いた構造のヘッドが開発された。
【0004】
また、近年、1平方インチあたり4ギガビット以上の高密度の磁気記録を実現するために、巨大磁気抵抗効果あるいはスピン・バルブ効果を用いた超高感度の再生ヘッド(GMRヘッドと略記する)の開発も進められている。
【0005】
一方、磁気ディスクに代表される磁気記録媒体としては、金属磁性体の薄膜をスパッタリングにより基板上に形成した薄膜型の磁気記録媒体が用いられる。記録磁性層の材料には飽和磁束密度Bsや、記録時における磁気記録媒体に対する磁気ヘッドの相対的な走行方向に磁界を印加して測定した保磁力Hcの高い、Co−Cr−Pt、Co−Cr−Ta、Co−Ni−Cr等、Coを主成分とする合金が用いられる。
【0006】
これらのCo合金は、c軸を磁化容易方向とする六方細密充填構造(hcp構造)を有する。したがって、面内磁気記録方式の磁性層においては、各結晶粒のc軸が基板面内の方向に配向して結晶成長することが望ましい。
【0007】
そこで、体心立方構造(bcc構造)を有するCrの結晶格子面が、Coの格子面と位置の整合性が良いことを利用して、まず、基板上にCrあるいはCrを主成分とする下地層を形成し、その上に磁性層を直接成膜して(エピタキシャル成長)、磁性層のc軸を基板面内方向に配向させる。これにより、媒体の保持力保持力Hcや保磁力角形比S*を向上できる。
【0008】
また、磁気記録媒体に対する要求として、耐衝撃性の向上が挙げられる。特に、近年、ノートパソコン等の携帯型情報機器に磁気ディスク装置が搭載されるようになり、信頼性向上の観点から耐衝撃性向上が重要な課題となっている。これに対して、従来のNi−Pメッキを施したAl合金基板に代えて、表面を強化処理したガラス基板、あるいは結晶化ガラス基板を用いることにより、磁気ディスクの耐衝撃性を向上できることが報告されている。
【0009】
上述のMRヘッドやGMRヘッドを用いて高い信号S/Nを得るためには、磁気記録媒体の保持力Hcを高めるとともに、媒体ノイズを従来より減少させる必要がある。
【0010】
保磁力Hcを高めるには、例えば、エイチ・エヌ・バートラム(H.N. Bertram)著、ケンブリッジ・ユニバーシティー・プレス(Cambridge UniverSity Press)、1994年発行、「セオリー・オブ・マグネティック・レコーディング」(Theory of magnetic recording)の第216頁に記載されているように、記録したビット間の磁化遷移幅aを減少して、出力分解能を向上し、高い線記録密度でも再生出力を確保する技術が知られている。
【0011】
ここで、出力分解能とは、磁気記憶装置に用いる磁気記録媒体に対して想定した線記録密度で記録した信号の再生出力に対する、孤立再生波の出力の割合を示す指標である。また、媒体ノイズを減少するのは、MRヘッドやGMRヘッドでは再生感度が極めて高いため、磁気記録媒体からの再生信号だけでなくノイズに対する感度も同時に高くなるためで、磁気記録媒体には従来以上に低ノイズ化が求められる。
【0012】
また、保磁力Hcや媒体ノイズ等の磁気特性を制御する目的で、従来、磁性層を直接その上に形成するための下地層として、Crを主成分とし、特定の元素を添加する技術が提案されている。以下この技術の従来例を、網羅的に説明する。
【0013】
まず、特開平1−290118号公報に記載されている技術は、非磁性基板上に、実質的にCrからなる第1層、およびCo−Ni系もしくはCo系磁気記録媒体膜である第2層が形成されてなる磁気ディスクにおいて、上記第1層中に酸素を含有せしめている。これにより磁性層の結晶配向性が向上して保磁力Hc、周方向および径方向の保磁力比SおよびS*、ならびに、磁気異方性定数が向上して、S/Nを改善することができる。
【0014】
この従来技術による方法では、保磁力Hcの改善により出力分解能が増加してS/Nは向上するが、媒体ノイズの減少に関しては効果がないため、1平方インチ当り3ギガビット以上の高記録密度で高感度のMRヘッドやGMRヘッドを用いた場合に、十分に高い電磁変換特性は得られなかった。
【0015】
また、特開平4−64914号公報に記載されている技術は、非磁性基体上に、記録層として強磁性金属からなる薄膜が、この薄膜を面内異方性とするための下地膜を介して積層形成されている面内記録用磁気記録媒体において、前記下地膜が、Cr−N合金からなり、そのN含有量は、下地層の下部において2〜10原子%で、上方に向かって漸減し、表面は1原子%以下である膜厚方向の濃度勾配を有するものである。これにより下地膜の結晶粒の微細化、柱状晶の明瞭化が図られ記録再生ノイズ特性が改善される。
【0016】
しかし、この方法では保磁力Hcが低下するため、出力分解能が低下し、十分な電磁変換特性が得られないばかりでなく、下地膜の膜厚方向に、Nの濃度勾配を形成するためには、成膜時にNガスの流量を経時的に変化させる必要があり、磁気記録媒体を再現性良く量産することが困難であった。
【0017】
さらに、1988年発行の雑誌、「ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス」(Journal of Applied PhySics)、第63巻、第3269頁に記載されている技術は、Cr下地膜にNを添加することにより格子定数や結晶配向性を制御するものである。この技術によれば、下地膜や磁性膜の結晶粒が微細化されるが、前記特開平4−64914号公報に記載されている技術と同様に、保磁力Hcが低下して、結晶配向性も悪化するため、1平方インチ当り3ギガビット以上の高記録密度において十分な電磁変換特性が得られない問題があった。
【0018】
さらに、また、特開平5−101378号公報に記載されている技術は、薄膜磁気記録層の磁気特性を制御する方法において、酸素、窒素または炭素、およびそのいずれかの混合物を含むプロセスと共用し得るドーパント気体でドープされたクロム基材下地層を用いるものである。しかし、この方法では保磁力Hcが低下するため、出力分解能が低下して1平方インチ当り3ギガビット以上の高記録密度で十分な電磁変換特性は得られなかった。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
その上、MRヘッドやGMRヘッドと組み合わせて3ギガビット以上の高記録密度の磁気ディスク装置を実現するためには、上述した、保磁力Hcや出力分解能の向上とともに、さらに、媒体ノイズの低減も要求される。これら3つの要求に対して、bcc−Crを主成分とする下地層に特定の元素を添加し、その上に直接磁性層を形成する、上記従来の技術は、磁性層自体の材料やプロセスを変更せずにその磁気特性を制御できるので、磁気記録媒体の設計範囲が広がり、特性制御は容易になる。しかし、上記従来の技術では、高保磁力Hcと、低媒体ノイズの要求を同時に満たすことができない。
【0020】
したがって、本発明の第1の目的は、上記従来の技術の欠点を克服し、1平方インチ当たり3ギガビット以上の記録密度を達成する磁気記憶装置を実現するために、高保磁力Hc、高出力分解能で媒体ノイズの少ない、電磁変換特性に優れた薄膜磁気記録媒体を提供することである。
【0021】
本発明の第2の目的は、上記のような磁気記録媒体を用いるのに適した磁気記憶装置を提供することである。
【0022】
【課題を解決するための手段】
上記第1の目的を達成するために、本発明の磁気記録媒体は、基板と、基板上に形成された非晶質の中間層と、中間層上に形成されたbcc構造の(100)配向を有する下地層と、下地層上のCo系の合金磁性層とからなる磁気記録媒体において、上記下地層が、Crを主成分とし、Tiと、Y、Zr、Hf、Ta、Al、およびSiのグループから選ばれる少なくとも1つの元素と、酸素と、窒素とを含有している。
【0023】
上記下地層の構成元素として、Tiと、Y、Zr、Hf、Ta、AlおよびSiのグループの内の少なくとも一種の元素とを選択することにより、下地層に酸素および窒素を添加したときに保磁力Hcの低下を防ぐことができる。
【0024】
そして、これら元素の添加濃度は1原子%以上、30原子%以下が望ましい。その理由は、添加濃度が1原子%未満では保磁力Hcの低下を防止する効果が小さく、30原子%を超えると磁性膜の結晶配向性が劣下して保磁力Hcが低下するからである。特に高い保磁力Hcを得るために好ましい添加濃度は、3原子%以上、10原子%以下である。
【0025】
また、下地層中に酸素および窒素を添加する理由は、保磁力Hcの低下を防ぎながら結晶粒を微細化でき、媒体ノイズを低減できるからである。酸素および窒素の合計添加濃度は3原子%以上、30原子%以下が好ましい。これは、添加濃度が3原子%未満では結晶粒を微細化する効果が小さく、30原子%を超えると磁性膜の結晶配向性が劣下し保磁力Hcが低下するからである。特に高保磁力Hcと低ノイズを実現するために好ましい添加濃度は5原子%以上、20原子%以下である。
【0026】
また、下地層の厚さは、2nm以上、500nm以下とする。これは、下地層の厚さが2nm未満では量産時に膜厚を制御することが困難であり、均一な膜厚を得ることが困難であり、500nmを超えると量産時の薄膜形成効率が下がるためである。
【0027】
また、bcc構造のCrを主成分とすることで、この上に磁性層を直接にエピタキシャル成長でき、磁性層の磁化容易軸であるc軸を実質的に基板面内に配向させることができる。これは高い保磁力Hcを得るために必要な条件である。また、下地層の主成分としてbcc構造のMo、Wを用いた場合でも本発明と同様の効果が期待できる。
【0028】
また、上記第2の目的を達成するために、本発明の磁気記憶装置は、上記いずれかの磁気記録媒体と、この磁気記録媒体を駆動する駆動部と、記録部と再生部からなる磁気ヘッドと、この磁気ヘッドを、前記磁気記録媒体に対して相対運動させる手段と、前記磁気ヘッドへの信号入力および前記磁気ヘッドからの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段とを有する磁気記憶装置において、上記磁気ヘッドの再生部が磁気抵抗効果型磁気ヘッドで構成される。
【0029】
これによって、高保磁力Hc、高出力分解能で低ノイズの本発明の磁気記録媒体の特徴が活かされ、高いS/Nが得られる。
【0030】
また、上記磁気抵抗効果型ヘッドは、互いの磁化方向が外部磁界によって相対的に変化することによって抵抗変化を生じる複数の導電性磁性層と、これら複数の導電性磁性層の間に配置された導電性非磁性層とを含む磁気抵抗センサで構成することが好ましい。この構成によって、信号強度をさらに高めることができ、1平方インチ当たり3ギガビット以上、1インチ当たり240キロ磁化反転密度(以後、kFCIと略記する)以上の線記録密度を持った信頼性の高い磁気記憶装置の実現が可能となる。
【0031】
さらに、磁気ヘッドの再生部が、互いに0.20μm以下の距離だけ隔てられた軟磁性体からなる2枚のシールド層の間に形成されており、かつ、磁気記録媒体の磁性層の厚さtと、記録時における該磁気記録媒体に対する該磁気ヘッドの相対的な走行方向に磁界を印加して測定した残留磁束密度Brとの積Br×tが4mA以上、10mA以下であることが望ましい。これにより、出力分解能が向上してS/Nが向上し、また、1平方インチ当たり3ギガビット以上の記録密度でもエラーレートが低く、信頼性の高い磁気記憶装置を実現できる。
【0032】
なお、シールド間隔が0.20μm以上になると出力分解能が低下し、信号の位相ジッターが大きくなるので好ましくない。また、Br×tが10mAより大きくなると出力分解能が低下し、また、4mAよりも小さくなると再生出力の絶対値が小さくなり、S/Nが低下するので好ましくない。
【0033】
磁性層には、Co−Cr−Pt、Co−Cr−Pt−Ta、Co−Cr−Pt−Ti等、Coを主成分とする合金を用いることができるが、高い保磁力Hcを得るためには、Ptを含むCo合金が特に好ましい。また、Sm−Co、Fe−Sm−N等の希土類元素を含む磁性合金薄膜を用いることもできる。さらに、磁性層を単層、あるいは非磁性中間層を介した複数の層で構成することもできる。
【0034】
磁性層の磁気特性としては、記録方向に磁界を印加して測定した保磁力Hcを2kOe以上とすると出力分解能が向上し、1平方インチ当たり3ギガビット以上の高記録密度領域においても高い出力が得られるので好ましい。保磁力Hcが2kOeより小さくなると、出力分解能が小さくなるので好ましくない。また、良好な重ね書き(オーバーライト)特性を保証するためには保磁力Hcは5kOe以下とすることが好ましい。
【0035】
基板と下地層の間に非磁性のCr、Cr基合金、Co−Cr−Zr等のCo基合金、あるいはNi−Ti等のNi基合金からなる中間層を形成すると、基板と下地層との密着性が改善されるとともに、下地層および磁性層の結晶配向性が向上するので好ましい。特に、ガラス等のセラミック基板の上に非晶質の中間層を形成すると、その上に形成するbcc構造の下地層が(100)面配向し、その上にエピタキシャル成長した磁性層が(11.0)面配向する。その結果、磁化容易軸であるc軸が基板面内に配向して、高い保磁力Hcが実現できるので好ましい。また、中間層の表面を酸化した後に下地層を形成すると、下地層や磁性層の粒径が減少して媒体ノイズが減少するので特に好ましい。
【0036】
さらに、媒体の保護層として、カーボンを厚さ5nm〜20nm形成し、さらに、吸着性のパーフルオロアルキルポリエーテル等の潤滑層を厚さ1nm〜5nm設けることにより信頼性が高く、高密度記録が可能な磁気記録媒体が得られる。また、保護層として水素を添加したカーボン膜、あるいは、炭化シリコン、炭化タングステン、(W−Mo)−C、(Zr−Nb)−N等の化合物からなる薄膜、あるいは、これらの化合物とカーボンの混合膜を用いると耐摺動性や耐食性を向上できるので好ましい。
【0037】
また、これらの保護層を形成した後、微細マスク等を介してプラズマエッチングすることで表面に微細な凹凸を形成したり、化合物、混合物のターゲットを用いて保護層表面に異相突起を生じせしめたり、あるいは熱処理によって表面に凹凸を形成すると、ヘッドと媒体との接触面積を低減でき、CSS(Contact Start Stop)動作時にヘッドが媒体表面に粘着する問題を回避できるので好ましい。
【0038】
さらに、媒体の表面に凹凸形状を形成してCSS特性やヘッドの粘着特性を向上させるためには、Al、Ag等の低融点金属、合金層、あるいは、金属間化合物層を基板と上記下地層、あるいは上記中間層と上記下地層との間に形成することが好ましい。
【0039】
上記磁気記憶装置において、上記磁気ヘッドを、浮上量が0.01μm以上、0.05μm未満と、従来より低い高さで浮上させると、出力分解能が向上して高い装置S/Nが得られ、大容量で高信頼性の磁気記憶装置を提供することができる。
【0040】
また、最尤復号法による信号処理回路を組み合わせるとさらに記録密度を向上でき、例えば、トラック密度13kTPI以上、線記録密度240kFCI以上、1平方インチ当たり3Gビット以上の記録密度で記録・再生する場合にも十分なS/Nが得られる。
【0041】
さらに、上記再生ヘッドを、互いの磁化方向が外部磁界によって相対的に変化することによって大きな抵抗変化を生じる複数の導電性磁性層と、その複数の導電性磁性層の間に配置された導電性非磁性層とからなるGMRヘッド、あるいは、スピン・バルブ効果を利用したGMRヘッドとすることにより、信号強度をさらに高めることができ、1平方インチ当たり4ギガビット以上、250kFCI以上の線記録密度を持った信頼性の高い磁気記憶装置の実現が可能となる。
【0042】
以下、本発明を実施の形態について、図面を参照し詳細に説明する。
【0043】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明による磁気記録媒体の実施の形態を示す層構成の断面摸式図である。非磁性の基板1の上に中間層2、下地層3が積層被着され、その上に直接、磁性層4が被着され、さらに保護膜5が形成されている。
【0044】
非磁性の基板1としては、Al−Mg合金円板上にNi−Pめっきした金属系基板の他、化学強化ガラス、結晶化ガラス等のガラス系基板、有機樹脂系基板、Ti、Si、カーボン、あるいはTiO2、SiC等のセラミックス系基板等が用いられる。非磁性の基板1の外径は2.5インチの他、3インチ、3.5インチ、1.8インチ、1.3インチ等とした場合でも本発明の効果は同様である。
【0045】
中間層2は、Cr、Cr基合金、Co−Cr−Zr等のCo基合金、あるいはNi−Ti等のNi基合金等が用いられ、基板1からの不純物の拡散の抑制や、膜の剥離の抑制の効果を得るために、その厚さを10nm以上、500nm以下とすることが好ましい。なお、基板1からの不純物の拡散の影響がない場合や、膜の剥離が起こらない場合には、中間層2を省略することもできる。
【0046】
また、中間層2は、非磁性であるか、あるいは、飽和磁化が8kA/m以下がであることが好ましく、さらに非晶質あるいは微結晶体であることが好ましい。
【0047】
中間層2の表面上に下地層3が形成される。下地層3を形成する前に、中間層2の表面を酸化することも可能である。
【0048】
下地層3は、Cr、MoおよびWの3元素、または、Cr、Mo、Wのいずれかの元素を、主たる成分とし、Tiと、Y、Zr、Hf、Ta、AlおよびSiのグループから選ばれる少なくとも1つの元素と、酸素と、窒素とを含有している。
【0049】
磁性層4の組成としては、Co−Sm、Co−Ni−Cr、Co−Ni−Pt、Co−Cr−Ta、Co−Cr−Pt、Co−Cr−W、Co−Cr−Ta−Pt、Co−Cr−Pt−Ti等、特に一般的に面内磁気記録に用いられているCo系の合金を用いることができる。
【0050】
磁気記録媒体は、物理的蒸着法、特にDCスパッタ法を用いて製造する場合に量産効果が期待される。ただし、RFスパッタ法、イオンビームスパッタ法等、上記DCスパッタ法以外のスパッタ法を用いた場合でも本発明と同様の効果が得られる。例えば、Cr、MoおよびWの3元素、または、Cr、Mo、Wのいずれかの元素を主たる成分とし、Tiと、Y、Zr、Hf、Ta、Al、Siのグループ選ばれる少なくとも1つの元素とを含む金属からなるターゲットを、窒素と酸素を含有したガス雰囲気中で反応スパッタすることにより、酸素および窒素を含有した下地層3を形成できる。
【0051】
図2は、本発明の磁気記憶装置に用いる磁気ヘッドの記録再生部の摸式図である。この磁気ヘッドは、基体21上に形成された記録用の電磁誘導型磁気ヘッドと再生用のMRヘッドとを併せ持つ複合型ヘッドである。
【0052】
記録用電磁誘導型磁気ヘッドは、コイル22を挟む上部記録磁極23と、下部記録磁極兼上部シールド層24とからなり、記録磁極23、24間のギャップ層厚は0.2μmである。また、コイル22は、厚さ3μmのCuにより形成されている。
【0053】
再生用MRヘッドは、磁気抵抗センサ25とその両端の電極パターン26を有し、磁気抵抗センサ25は、ともに1μm厚の下部記録磁極兼上部シールド層24と下部シールド層27とで挟まれている。両シールド層24、27の層間距離は0.15−0.2μmである。なお、図2では記録磁極23、24間のギャップ層、および、下部記録磁極兼上部シールド層24と磁気抵抗センサ25とのギャップ層は省略してある。
【0054】
磁気センサ25の信号検出領域は、酸化Alのギャップ層28上に、横バイアス層29、分離層201および磁気抵抗強磁性層25が順次形成された構造を有する。信号検出領域の両端には、磁気抵抗強磁性層を単磁区化するための永久磁石層202と、その上に形成された信号を取り出すための一対の電極26が積層される。
【0055】
図3は、本発明による磁気記憶装置の実施の形態の模式図である。この装置は、磁気ヘッド31と、この磁気ヘッド31の駆動部32と、磁気ヘッド31の記録再生信号処理手段33と、磁気記録媒体34と、この磁気記録媒体34を回転させる駆動部35とから構成される磁気記憶装置である。
【0056】
以下、いくつかの実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
【0057】
<実施例1>
まず、実施例1の磁気記録媒体の製造方法を説明する。
【0058】
外径65mm、内径20mm、厚さ0.635mmの化学強化されたソーダライムガラスからなるディスク基板を洗浄および乾燥し、枚葉式のDC(直流)マグネトロンスパッタ装置の基板仕込み室に装填して真空に排気する。
【0059】
当該基板を中間層形成室、加熱室、下地層形成室、磁性層形成室、保護層形成室、および取り出し室の順に、真空度5×10のマイナス6乗Pa以下の主排気槽を介しながら搬送し、それぞれの室でそれぞれの膜を形成する。
【0060】
まず、ガラス基板上に、0.7Paのアルゴン圧のもとで、Co−30原子%Cr−10原子%Zrのターゲットに、4kWの電力を加えて、膜厚25nmのCo−30原子%Cr−10原子%Zrの合金からなる中間層を形成する。
【0061】
次いで、基板を300℃まで加熱した後、0.7Paの酸素ガスを通じ、中間層の表面を酸化する。その後、窒素を5体積%含有するアルゴン圧0.7Paの条件のもとで、Cr−20原子%Ti−3分子%ZrO2ターゲットに4kWの電力を加えて、膜厚30nmのCr−20原子%Ti−3分子%ZrO2の下地層を積層する。
【0062】
この下地層の上に、0.7Paのアルゴン圧のもとで、Co−20原子%Cr−10原子%Ptターゲットに、1kWの電力を加えて、膜厚15nmのCo−20原子%Cr−10原子%Ptの合金からなる磁性層を形成する。
【0063】
さらに、0.8Paのアルゴン圧のもとでカーボンターゲットに1.5kWの電力を加えて、膜厚15nmのカーボン保護層を形成する。
【0064】
保護層を形成した後、テフロン粒子等の微細マスクを介して、上記保護膜を酸素やアルゴンプラズマによりエッチングすることにより、表面に微細な凹凸を形成し、当該保護膜上に吸着性のパーフルオロアルキルポリエーテル等の潤滑層を形成して、本発明によるガラス磁気ディスクを完成する。
【0065】
比較例として、アルゴン圧0.7Paの条件のもとでCr−20原子%Tiのターゲットに4kWの電力を加えて、膜厚30nmのCr−20原子%Tiの下地層を積層したガラス磁気ディスクを、下地層の組成以外上記と同一条件で作製した。
【0066】
こうして形成した磁気ディスクの静磁気特性(保磁力Hc)や電磁変換特性(媒体ノイズ、出力分解能)を以下に述べる方法により評価した。
【0067】
すなわち、静磁気特性は、上記磁気ディスクを、半径17nmの位置で8mm×8mmの略正方形状に切り出し、片面の磁性膜を削り落とし、振動試料型磁力計(VSM)を用いて最大印加磁界13kOeで、記録時における磁気記録媒体に対する磁気ヘッドの相対的な走行方向に磁界を印加して保磁力Hcを求めた。
【0068】
また、電磁変換特性の評価には、記録用にギャップ長0.4μm、トラック幅1.6μmの薄膜型ヘッド、再生用にシールド間隔0.2μm、トラック幅1.4μmのMRヘッドを有する記録再生分離型(複合型)ヘッドを用い、孤立波(5kFCI)の出力および高周波(240kFCI、250kFCI)の出力はスペクトラムアナライザを用いて測定して、1平方インチ当たり3ギガビット、線記録密度240kFCIの時の媒体ノイズおよび出力分解能の値を求めた。
【0069】
上記した、Cr−20原子%Tiに3分子%ZrO2および窒素を添加した下地層を用いた、本発明の実施例1による媒体は、保磁力Hcが2.3kOeであり、Cr−20原子%Tiの下地層を用いた比較例の媒体よりも約0.1kOe程度高く、また、残留磁束密度と磁性層厚との積Br×tの値は6mAであった。実施例1の媒体を、図3の磁気記憶装置に組み込んで電磁変換特性を評価したところ、媒体ノイズは、比較例に比べて約20%低減した。
【0070】
実施例1の媒体および比較例の媒体のX線回折分析を行った結果、いずれの場合も、Cr(200)面およびCo(11.0)面の回折パターンが認められ、磁性層の磁化容易軸(c軸)が実質的に面内方向に配向した結晶成長が確認された。
【0071】
さらに、磁性層の透過電子顕微鏡(TEM)観察を行ったところ、Cr−20原子%Tiに3分子%ZrO2および窒素を添加した下地層を用いた実施例1のCo−Cr−Pt合金層の平均結晶粒経は約11nmであり、比較例に比べて約10%微細化された。また、粒径の標準偏差も約10%低下した。
【0072】
このような磁性膜の粒径微細化、均一化の効果により、実施例1の媒体では、比較例に比べて媒体ノイズが低下している。また、実施例の媒体をオージェ電子分光分析して、深さ方向の薄膜の濃度プロファイルを測定した結果、下地膜中の酸素濃度は2〜8原子%、窒素濃度は3〜12原子%の範囲であり、下地膜の膜厚方向に著しい濃度分布は認められなかった。
【0073】
<実施例2>
Crを主成分とし、Tiと、Y、Zr、Hf、Ta、AlおよびSiのグループから選ばれた1つの元素Xと、酸素と、窒素とを含有する下地層の例として、(80−a−b−c)Cr−20原子%Ti−aX−bO−cN (a、bおよびcは、それぞれ元素X、酸素および窒素の原子%単位の濃度値を示す)の下地層において、図4の表に示すように、添加元素Xの元素(Y、Zr、Hf、Ta、Al、Si)および添加量を変えて、下地層の組成以外は実施例1と同様の方法により、12種類の下地層を用いた磁気記録媒体(1)〜(12)を作製した。ここで、Y、Zr、Hf、Ta、Al、SIのグループ選ばれる元素Xの添加濃度は,1原子%以上、30原子%以下であり、下地層中の酸素と窒素の合計濃度は3原子%以上、30原子%以下である。下地層中の酸素および窒素濃度は成膜中のArガス中の酸素および窒素添加量により制御した。
【0074】
また、比較のために、Cr下地層を用いた媒体を下地層の組成以外は上記と同一条件で作製し、これを比較例とした。
【0075】
実施例1と同様の方法により、磁気記録媒体の静磁気特性および線記録密度240kFCIの時の媒体ノイズNdを求めた。その結果を、媒体の保磁力Hcおよび媒体ノイズとの関係として、図4の表の右2欄に示す。
【0076】
実施例2の12種類の下地層を用いた磁気記録媒体(1)〜(12)の保磁力Hcは2.3〜2.5kOeであり、Cr下地層を用いた比較例よりも約0.5〜0.7kOe高い。さらに、媒体のノイズは、比較例に比べて20〜40%低減した。
【0077】
また、残留磁束密度と磁性層厚の積Br×tは4mA〜10mAであった。
【0078】
一方、Y、Zr、Hf、Ta、Al、Siのグループから選ばれる元素Xの添加濃度が1原子%未満では保磁力Hcは1.9kOe以下となり、30原子%を超えた場合も、磁性膜の結晶配向性が劣下して、保磁力Hcが1.9kOe以下となった。
【0079】
また、酸素および窒素の合計添加濃度が、3原子%未満では結晶粒を微細化する効果が小さく、媒体ノイズの低下は認められなかった。逆に、酸素および窒素の合計添加濃度が、30原子%を超えると、磁性膜の結晶配向性が劣下して、保磁力Hcが1.9kOe以下となった。
【0080】
さらに、下地層の主成分としてbcc構造のMo、Wを用いた場合には下地層中の酸素と窒素の合計濃度は5原子%以上、20原子%以下の範囲において、ノイズが10〜30%低減した。また、このとき保磁力Hcは2.0〜2.3kOeであった。
【0081】
<実施例3>
図5は、実施例3による薄膜磁気記録媒体(磁気ディスク)の断面構造を模式的に示したものである。
【0082】
まず、製造方法を説明する。実施例1と同様のガラス基板41を、基板加熱温度150℃、アルゴン圧0.7Paの条件のもとでAl−15原子%Crターゲットに0.5kWの電力を加えて、膜厚約10nmのAl−Crの合金突起形成層42を形成する。
【0083】
次に、0.7Paのアルゴン圧のもとで、Ni−20原子%Zrのターゲットに4kWの電力を加えて、膜厚30nmのNi−20原子%Zrの中間層43を積層する。
【0084】
さらに、0.7Paのアルゴン圧のもとでCr−20原子%Ti−5分子%SiO2のターゲットに4kWの電力を加えて、各種膜厚のCr−20原子%Ti−5分子%SiO2の下地層44を積層する。
【0085】
この下地層44の上に、0.7Paのアルゴン圧のもとで、Co−23原子%Cr−10原子%Ptのターゲットに1kWの電力を加えて、膜厚13nmのCo−Cr−Ptの合金からなる磁性層45を形成する。
【0086】
さらに、0.8Paのアルゴンと水素混合ガス圧のもとでカーボンターゲットに1.5kWの電力を加えて、膜厚10nmの、水素を10原子%添加したカーボン保護層46を形成し、当該保護膜上に吸着性のパーフルオロアルキルポリエーテル等の潤滑層を形成してガラス磁気ディスクとした。
【0087】
この実施例3の磁気ディスクを、実施例1と同様の磁気記憶装置であって、再生用磁気ヘッドとして、図6に示すGMRセンサを用いて電磁変換特性を測定した。
【0088】
図5に示すように、このGMRセンサは、ギャップ層51上に、膜厚5nmのTaバッファ層52、膜厚6nmの第1の磁性層53、膜厚2.5nmのCu中間層54、膜厚1nmの第2の磁性層55、および、膜厚30nmのCr−Mn−Pt反強磁性合金層56が順次形成された構造である。
【0089】
上記第1の磁性層にはNi−FeまたはCo−Fe合金積層膜を使用し、第2の磁性層にはCo−Fe合金膜を使用した.反強磁性層からの交換磁界により、第2の磁性層の磁化は一方向に固定されている.これに対して、第2の磁性層と非磁性層を介して接する第1の磁性層の磁化の方向は、磁気記録媒体からの漏洩磁界により変化するため、抵抗変化が生じる。このような二つの磁性層の磁化の相対的方向の変化に伴う抵抗変化はスピンバルブ効果と呼ばれる。
【0090】
再生用ヘッドとして、図6のスピンバルブ型GMRヘッド用いた実施例3における磁気ヘッドの諸元を以下に示す。
【0091】
シールド間隔は0.18μm、トラック幅は1.1μm、記録用ヘッドのギャップ長は0.35μm、トラック幅は1.2μmである。なお、テーパー部は実施例1で用いたMRヘッドと同一構成である。
【0092】
上記磁気ヘッドと、上記磁気記録媒体を用いて、1平方インチ当たり3ギガビット、線記録密度250kFCIの時の出力分解能の値を求めた結果を図6に示す。比較例にはCr−20原子%Tiの下地層を有する媒体を用いた。
【0093】
図7は、下地層の膜厚と、線記録密度250kFCIの時の出力分解能との関係を示す。図7に示すように、膜厚が2nm以上、500nm以下の範囲において、本発明の実施例3による、Cr−20原子%Ti−5分子%SiO2―Nの下地層の出力分解能が、Cr−20原子%Tiの下地層の比較例の出力分解能を上回ることが確認できた。
【0094】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の磁気記録媒体は、Crを主成分とし、Tiと、Y、Zr、Hf、Ta、Al、Siのグループ選ばれる少なくとも1つの元素と、酸素と、窒素とを含有した下地層を用いることにより、高い保磁力Hcと低い媒体ノイズを両立して実現することができ、高い出力分解能が得られた。
【0095】
さらに、本発明の磁気記憶装置は、上記のような高S/Nの磁気記録媒体とMRまたはGMR効果ヘッドとを組み合わせて用いることにより、1平方インチ当たり3ギガビット以上と極めて高い面記録密度を有する磁気ディスク装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態による磁気記録媒体の断面構造を示す模式図。
【図2】本発明の実施例1に用いる磁気記憶装置における磁気ヘッドの斜視図。
【図3】本発明の磁気記憶装置の模式図。
【図4】本発明の実施例2として下地層の組成と媒体の保磁力および媒体ノイズとの関係を示す図表。
【図5】本発明の実施例3における磁気記録媒体の断面構造を示す模式図。
【図6】本発明の実施例3における磁気記憶装置のGMRヘッドセンサ部の断面図。
【図7】本発明の実施例3における磁気記録媒体の下地層の膜厚と出力分解能との関係を示す図。
【符号の説明】
1…基板、2…中間層、3…下地層、4…磁性層、5…保護膜、21…基体、22…コイル、23…上部記録磁極、24…下部記録磁極兼上部シールド層、25…磁気抵抗センサ、26…導体層、27…下部シールド層、28…シールド層と磁気抵抗センサの間のギャップ層、29…横バイアス層、201…分離層、202…永久磁石層、31…磁気ヘッド、32…磁気ヘッド駆動部、33…記録再生信号処理系、34…磁気記録媒体、35…磁気記録媒体駆動部、41…基板、42…突起形成層、43…中間層、44…下地層、45…磁性層、46…保護膜、51…ギャップ層、52…バッファ層、53…第1の磁性層、54…中間層、55…第2の磁性層、56…反強磁性合金層

Claims (7)

  1. 基板と、前記基板上に形成された非晶質の中間層と、前記中間層上に形成されたbcc構造の(100)配向を有する下地層と、前記下地層上に形成されたCo系の合金磁性層とからなる磁気記録媒体において、前記下地層が、Crを主成分とし、Tiと、Y、Zr、Hf、Ta、Al、およびSiのグループから選ばれる少なくとも1つの元素と、酸素と、窒素とを含有することを特徴とする磁気記録媒体。
  2. 下地層中の、Tiの添加濃度と、Y、Zr、Hf、Ta、Al、およびSiのグループから選ばれる元素の添加濃度とが、いずれも、1原子%以上、30原子%以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
  3. 下地層中の、Tiの添加濃度と、Y、Zr、Hf、Ta、Al、およびSiのグループから選ばれる元素の添加濃度とが、いずれも、1原子%以上、10原子%以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
  4. 下地層中の酸素と窒素の合計添加濃度が、3原子%以上、30原子%以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
  5. 下地層中の酸素と窒素の合計添加濃度が、5原子%以上、20原子%以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
  6. 下地層の膜厚が2nm以上、500nm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項5に記載のいずれかに記載の磁気記録媒体。
  7. 磁性層のc軸が実質的に基板面内に配向していることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の磁気記録媒体。
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