JP3729763B2 - 磁気記録媒体及び磁気記録装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気記録媒体及び磁気記録装置に関し、特に、熱安定性に優れ、高密度記録に好適な面内磁気記録媒体及びその面内磁気記録媒体を装着した磁気記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の高度情報化社会の進展にはめざましいものがあり、文字情報のみならず音声及び画像情報を高速に処理することができるマルチメディアが普及してきている。マルチメディアの一つとしてコンピュータ等に装着される磁気記録装置が知られている。現在、このような磁気記録装置の記録密度を向上させつつ小型化する方向に開発が進められている。
【0003】
典型的な磁気記録装置は複数の磁気ディスクをスピンドル上に回転可能に装着している。各磁気ディスクは基板とその上に形成された磁性膜から構成されており、情報の記録は特定の磁化方向を有する磁区を磁性膜中に形成することにより行なわれる。
【0004】
このような磁気記録装置の高密度記録化を実現するためには、磁性膜を構成する粒子径を微小化するとともに各粒子間の相互作用を低下させることが要望されている。しかしながら、粒子径の微小化と粒子間相互作用の低下は、粒子の熱安定性を低下させるという問題がある。
【0005】
磁気ディスク、特に面内方向の磁化を有する磁気ディスクの熱安定性を向上させる技術として、記録層の下地層として、軟磁性のいわゆるキーパー層を設ける方法や記録層の磁化と逆向きの磁化を有する層を設ける方法が知られている。後者の方法の一つとして、図18に示したように、磁気ディスクのCoCrPtB記録層とCoCrPtB磁化安定化層との間に、磁気結合層としてのRu薄膜を形成することにより熱安定性を向上させる技術がE.N. Abarra et al.の文献に発表されている(E.N. Abarra et al. TECHNICAL REPORT OF IEICE. MR2000-34(2000-10))。図18に示した磁気ディスク構造において、記録層と磁化安定化層との間に磁気結合層として0.5〜1nm程度の厚みのRu層を介在させると、記録層と磁化安定化層との間に反強磁性的な交換結合が働く。従って、それらの層は反平行の磁化を有するために、記録層の磁化が磁化安定化層により安定化される。このRu層による反強磁性的な交換結合は、記録層の磁化を一層熱的に安定化させ、磁気ディスクの記録再生特性を改善することができることがこの文献に示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、磁気記録装置の更なる高密度記録化を実現するには、上記文献に開示された磁気ディスクよりも一層熱安定性に優れた磁気ディスクを備える磁気記録装置が要求されている。
【0007】
本発明の第1目的は、熱安定性に優れた磁気記録媒体、特に面内磁気記録媒体及びそれを備えた磁気記録装置を提供することにある。
【0008】
本発明の第2の目的は、記録した情報の安定性(記録安定性)に優れた磁気記録装置を提供することにある。
【0009】
本発明の第3の目的は、高密度磁気記録に適した磁気記録媒体及びそれを装着した磁気記録装置を提供することにある。
【0010】
本発明の第4の目的は、記録層の保磁力が高められた磁気記録媒体を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の態様に従えば、磁気記録媒体であって、
強磁性材料から形成された記録層と;
上記記録層を形成する強磁性材料よりも強磁性原子濃度の高い強磁性材料から形成された強磁性原子リッチ層と;
上記記録層と強磁性原子リッチ層との間に存在する第1非磁性層と;を含む磁気記録媒体。
【0012】
本発明者は、図18に示した従来型構造を有する磁気ディスクをさらに改良させるべく研究を重ねたところ、磁化安定化層の代わりに、記録層を形成する強磁性材料よりも強磁性原子濃度の高い材料を用いて形成された強磁性原子リッチ層を形成することにより、強磁性原子リッチ層と記録層との間に生じる交換結合力が著しく高くなることを見出した。かかる強磁性原子リッチ層と記録層との間に生じる交換結合力は、図18に示した従来型構造を有する磁気ディスクの記録層と磁化安定化層との間に働く交換結合力よりも大きくなっている。このように、記録層と強磁性原子リッチ層との間には強い交換結合力が発生しているので記録層の磁化を安定化することができるため、記録層の熱安定性は、図18に示した従来の磁気ディスクよりも一層高まり、更なる高密度記録を実現することができる。本発明において、用語「強磁性原子」とは、単体で強磁性を示す元素をいい、具体的には、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)または鉄(Fe)である。
【0013】
強磁性原子リッチ層は、記録層を形成する強磁性材料よりも強磁性原子濃度の高い強磁性材料を用いて形成され、例えば、記録層がCo、NiまたはFeを含む強磁性材料から形成されている場合には、記録層よりも高濃度のCo、NiまたはFeなどの強磁性原子を含む強磁性材料から形成することができる。また、強磁性原子リッチ層は、Co、NiもしくはFeなどの単体金属またはCoNiFe合金から形成することもできる。または強磁性原子リッチ層は、Co、NiまたはFeと、遷移金属との合金から形成され得る。この場合、遷移金属は、Pt、Au、Ag、Cu、Pdなどの貴金属にし得る。本発明においては、強磁性原子リッチ層を構成する強磁性材料の強磁性原子濃度が、記録層を構成する磁性材料の強磁性原子濃度よりも高ければ、強磁性原子リッチ層と記録層との間に生じる交換結合力を高める効果が得られるが、十分な効果を得るためには、後述する実施例の結果からすると、強磁性原子リッチ層を構成する強磁性材料の強磁性原子濃度が、記録層を構成する磁性材料の強磁性原子濃度よりも絶対値で19%以上高いことが望ましく、特に強磁性原子リッチ層の強磁性原子濃度が100%であることが望ましい。かかる強磁性原子リッチ層により、強磁性原子リッチ層と記録層との間に生じる交換結合力は、図18に示した従来の磁気ディスクの磁化安定化層と記録層との間で生じる交換結合力よりも大きくなる。それゆえ、記録層の熱安定性は従来よりも一層高まり、更なる高密度記録を実現することができる。
【0014】
かかる強磁性原子リッチ層は、記録層との間で働く交換結合力を有意義にするために1nm〜5nmの膜厚を有することが好ましい。
【0015】
本発明の磁気記録媒体は、更に、記録層と交換結合して記録層の磁化を安定化するための磁化安定化層を備え得る。この場合、強磁性原子リッチ層は記録層と磁化安定化層との間に位置することが好ましい。以下、その理由について説明する。
【0016】
本発明者らは、研究の結果、図18に示した従来型構造を有する磁気ディスクのRu層(第1非磁性層)と記録層との界面及び/またはRu層(第1非磁性層)と磁化安定化層との界面に、数原子層のCo層を介在させることにより、上記記録層と上記磁化安定化層との間の交換結合を著しく向上させることができることを見出した。上記界面に介在させる層はCoのみならず、記録層よりも強磁性原子濃度が高い材料であればよく、記録層と磁化安定化層の間の交換結合を向上させることができる後述する種々の物質から構成することができる。すなわち、磁気記録媒体が磁化安定化層を備える場合には、上記界面に強磁性原子リッチ層を位置付ければ、記録層と磁化安定化層との間の交換結合力を向上することができる。本明細書においては、強磁性原子リッチ層は、磁化安定化層を備える場合に記録層と磁化安定化層の間の交換結合を増大(エンハンス)させる機能をも備えるため、「エンハンス層」とも称する。
【0017】
本発明者の知見によると、磁化安定化層と記録層との間に位置付けた強磁性原子リッチ層が記録層と磁化安定化層との間の交換結合を向上させることができる理由は以下の通りである。図18に示した従来型の磁気ディスクでは、CoCrPtB記録層とCoCrPtB磁化安定化層がRu層を介して積層されている。ここで、記録層と磁化安定化層はRu原子層を介して交換結合している。この交換結合は、記録層と磁化安定化層中のCo原子同士がRu原子を介して電子軌道が結合していることに基づくと考えられる。このような結合は、例えば、GMRヘッドにおける人工格子中の結合にも見られる。
【0018】
しかしながら、記録層とRu層との界面を観察すると、記録層はCoCrPtBから構成されているために、記録層の結晶粒子はCoリッチでありその粒界はCrリッチな組成を示しており、この結果、記録層のRu層側の表面にはCo原子よりも多くのCrの原子が露出していると考えられる。磁化安定化層もまた記録層と同様にCoCr合金(CoCrPtB)から構成されているために、磁化安定層のRu層側の表面にはCoを覆うCr原子が多量に露出していると考えられる。これらのCr原子層は、前述のRu原子を介する記録層と磁化安定化層中のCo原子同士の電子結合を阻害し、記録層と磁化安定化層の交換結合を弱めていると考えられる。本発明では、Cr原子が表面に露出している記録層または磁化安定化層を、記録層よりもCoなどの磁性原子の濃度の高い強磁性原子リッチ層で覆うことにより、記録層と磁化安定化層との交換結合を、強磁性原子リッチ層を構成するCoなどの原子間における交換結合により改善させていると考えられる。したがって、磁化安定化層を備える場合には、磁化安定化層と記録層との間に強磁性原子リッチ層を位置付けることによって、磁化安定化層で安定化された記録層の磁化が、強磁性原子リッチ層による磁化安定化層と記録層との間の交換結合力の増大によって、より一層安定化するため、従来よりも更に高密度記録を実現することができる。
【0019】
上記強磁性原子リッチ層は、Co、NiもしくはFeまたはCoNiFe合金から形成し得る。または、強磁性原子リッチ層は、Co、NiまたはFeと、遷移金属との合金から形成され得る。この場合、遷移金属は、Pt、Au、Ag、Cu、Pdなどの貴金属にし得る。それらの原子または合金は、第1非磁性層を介して電子的に結合して交換結合磁界を増大する働きがある。あるいは、記録層または磁化安定化層がCo、NiまたはFeを含む材料から形成されている場合には、記録層または磁化安定化層より高濃度のCo、NiまたはFeを含む材料から強磁性原子リッチ層を形成することもまた有効である。
【0020】
本発明において、磁化安定化層は、記録層の磁化を安定化するのであれば任意の強磁性材料及び膜厚を選ぶことができる。更には、記録層の結晶成長性の観点からすると、磁化安定化層は、例えば、記録層を構成する主成分と同一の主成分から形成されていることが好ましい。また、磁化安定化層は、記録層の磁化を安定化することが可能な磁化及び磁気異方性を有する必要があるため、ある程度の膜厚を有することが望ましい。しかしながら、磁化安定化層の膜厚が厚すぎると磁化安定化層の保磁力が大きくなり、記録層と磁化安定化層の磁化が反平行にならなくなる恐れがある。また、媒体に対して磁気ヘッドが位置付けられる側において有効な漏れ磁界を発生させるために、磁化安定化層の磁化は記録層の磁化よりも小さくなければならないという制約もある。かかる理由から、磁化安定化層の膜厚は、記録層の膜厚の1/5〜3/5の範囲内にあることが好ましい。
【0021】
本発明の磁気記録媒体においては、更に、上記非磁性層と記録層の間に、上記記録層と上記強磁性原子リッチとの交換結合を増大するための層を設け得る。本発明では、磁化安定化層を設け、磁化安定化層と記録層との間に強磁性原子リッチ層を位置付けたときに、記録層と非磁性層との間に記録層と強磁性原子リッチとの交換結合を増大するための層を形成することが、記録層と磁化安定化層の間の交換結合を一層高めるために望ましい。かかる記録層と強磁性原子リッチとの交換結合を増大するための層は、記録層と強磁性原子リッチ層との間で働く交換結合のエンハンス効果を有意義にするために0.2〜2.0nmの膜厚を有することが望ましい。
【0022】
上述のように磁化安定化層を設け、磁化安定化層と記録層との間に強磁性原子リッチ層を位置付けた場合、磁化安定化層を第1及び第2磁化安定化層から構成し、第1磁化安定化層と第2磁化安定化層との間に第2非磁性層を設け得る。この場合、第1磁化安定化層と第2非磁性層との間、及び、第2非磁性層と第2磁化安定化層との間の少なくとも一方に、第1磁化安定化層と第2磁化安定化層との間の交換結合を増大する補助エンハンス層を備え得る。さらに、上記補助エンハンス層が、第1非磁性層及び第1磁化安定化層の間に形成された第1補助エンハンス層と;第1非磁性層及び第2磁化安定化層の間に形成された第2補助エンハンス層と;を含み得る。補助エンハンス層は、上記エンハンス層と同じ材料から構成され得る。
【0023】
上記強磁性原子リッチ層(及び補助エンハンス層)は、交換結合のエンハンス効果を有意義にするために、0.2〜3nm、好ましくは、0.2〜2nmの膜厚を有することが望ましい。
【0024】
本発明の第1の態様の磁気記録媒体において記録層は結晶質であって、該結晶質相がコバルト(Co)を主体とした合金にしてよい。このCo合金においては、CoにCr、Pt、Ta、Nb、Ti、Si、B、P、Pd、V、Tb、Gd、Sm、Nd、Dy、Ho、若しくはEu、又はそれらの組み合わせを含み得る。
【0025】
ここで、記録層にクロム(Cr)を含むと、Coを主体とした結晶粒子(磁性粒子)の粒界近傍又は粒界部にCrの偏析部分を形成することができる。記録層中にさらにTa、Nb、Ti、B若しくはP、又はそれらの元素の組み合わせを含むと、Crの偏析が促進される。この偏析によって、磁性粒子間の磁気的相互作用が低減でき、磁化反転単位を構成する磁性粒子数を減らすことができる。このように、記録層中に上記添加物を含ませてCrの偏析を促進させてしまうと、従来の磁気記録媒体では記録層と磁化安定化層との間の磁気的相互作用もまた低減してしまい、記録層の熱安定性が低下する恐れがあった。しかしながら、本発明の磁気記録媒体では、記録層に上記添加物を含めて記録層中の磁性粒子間の磁気的相互作用を低減しても、記録層と強磁性原子リッチ層との間には増大した結合力が働くため、微小な磁化反転単位でありながらも熱揺らぎに強い磁気記録媒体をもたらすことができる。本発明においては、記録層は、上記添加物の中でCrの偏析をより一層促進させる材料例えばBを含むことが好ましい。
【0026】
本発明の第1の態様の磁気記録媒体は、さらに、基板と、基板上に形成された下地層とを備え得る。この場合、下地層上に強磁性原子リッチ層を備え得る。基板はガラス、ポリカーボネートなどのプラスチックから形成し得る。下地層は、Cr若しくはNi、又は、Cr合金若しくはNi合金から形成され得る。Cr合金又はNi合金は、母元素以外にCr、Ti、Ta、V、Ru、W、Mo、Nb、Ni、ZrまたはAlを含み得る。下地層は、磁性層の結晶配向性や格子定数を制御する目的で使用される。下地層は、単層または複数層で用いることも可能である。
【0027】
また、本発明の磁気記録媒体は、基板と、第2非磁性層と、それらの間に位置し、記録層の磁化を熱的に安定化させる磁化安定化層とを備え得る。この場合、強磁性原子リッチ層は、第2非磁性層に対して基板の存在する側と反対側に位置付けられる。第2非磁性層は、上述の非磁性層と同じ材料から構成され得、磁化安定化層は、例えば、記録層と同じ材料から構成され得る。かかる磁気記録媒体は、磁化安定化層により、記録層の磁化をより一層安定化させることができる。
【0028】
また、本発明の第1の態様の磁気記録媒体は、基板と、第2非磁性層と、それらの間に位置する上記記録層を形成する強磁性材料よりも強磁性原子濃度の高い強磁性材料から形成された層とを備えることができる。この場合、強磁性原子リッチ層は、第2非磁性層に対して基板の存在する側と反対側に位置付けられる。上記記録層を形成する強磁性材料よりも強磁性原子濃度の高い強磁性材料から形成された層は、上記強磁性原子リッチ層と同じ材料を用いて形成し得る。かかる構造の磁気記録媒体は、第2強磁性原子リッチ層により、交換結合磁界がより一層増大しているので熱安定性に極めて優れる。
【0029】
本発明の第2の態様に従えば、磁気記録媒体において、
下地層と
強磁性材料から形成された記録層と
上記下地層と上記記録層との間で下地層に接して存在し、強磁性材料から形成され、下地層と記録層との格子間隔を調整するための格子間隔調整層と
上記記録層と上記格子間隔調整層との間に存在する非磁性層とを備え、
上記格子間隔調整層の配向面における格子間隔と上記下地層の配向面における格子間隔との差が、上記記録層の配向面における格子間隔と上記下地層の配向面における格子間隔との差よりも小さいことを特徴とする磁気記録媒体が提供される。
【0030】
本発明の磁気記録媒体は、下地層と記録層との間に強磁性材料から形成される格子間隔調整層を形成して、格子間隔調整層と下地層との格子間隔との差を、記録層と下地層との格子間隔の差よりも小さくなるように制御している。かかる格子間隔調整層により、下地層と記録層との間の格子歪が緩和され、記録層の結晶配向性が向上するので、記録層の保磁力を増大することができる。かかる磁気記録媒体は、図18に示した従来型構造を有する面内磁気記録媒体の磁化安定化層と同様に、強磁性材料から形成されているために、記録層の磁化を安定化させることができる。すなわち、格子間隔調整層は、下地層と記録層との間の格子歪すなわち格子間隔のずれを緩和するように作用するシード層としての機能に加え、記録層の磁化を安定化させる機能を有している。したがって、本発明の磁気記録媒体は、記録層に形成された微小な磁区を安定に保持することができるので、高密度記録を実用化することができる。本発明において、「格子間隔」とは、配向面における格子間隔を意味するものとする。
【0031】
また、本発明の第2の態様の磁気記録媒体は、格子間隔調整層により記録層の保磁力を、記録層を単層で構成した場合よりも増大させることができる。そのため、記録層に高密度に情報を記録することができるとともに、記録した情報の熱安定性に優れている。また、格子間隔調整層は、強磁性材料から形成されているので非磁性層を介して記録層との間で交換結合力が作用する。それゆえ、格子間隔調整層は記録層の磁化を安定化する働きも有する。記録層の保磁力を増大させるためには、格子間隔調整層と記録層との格子間隔のミスマッチを低減させればよい。格子間隔調整層と記録層との格子間隔のミスマッチを低減させるためには、例えば、下地層として、記録層の配向性を制御するとともに、高保磁力が得られるような記録層の結晶構造に近い構造を有する下地層を用いればよい。また、記録層の保磁力を増大させるために、格子間隔調整層の結晶粒子径を制御してもよい。
【0032】
本発明の第2の態様の磁気記録媒体において、記録層の配向面における格子間隔をa、格子間隔調整層の格子間隔をa、下地層の格子間隔をaとし、記録層と下地層との間の格子間隔のミスマッチΔ1及び格子間隔調整層と下地層との間の格子間隔のミスマッチΔ2を次式
Δi=|(a−a)/a|×100(iは1または2)・・・(1)
で定義したときにΔ1>Δ2の関係を満たすことが好ましい。ただし、(1)式において、記号||は絶対値を示す。一般に、格子間隔のミスマッチは、複数の層が成長して積層された積層体の各層の界面の格子間隔の差に起因する。記録層は、格子間隔調整層上から非磁性層を介して成長することから、記録層の配向性は、記録層と格子間隔調整層との格子間隔の差に依存する。一方、格子間隔調整層の配向性は、格子間隔調整層と下地層との格子間隔の差に依存する。上記のように、格子間隔調整層と下地層との間の格子間隔のミスマッチΔ2を、記録層と下地層との間の格子間隔のミスマッチΔ1よりも小さくすることにより、格子間隔調整層を記録層のシード層として機能させ、下地層から記録層を所望の配向で層成長させることがきる。
【0033】
下地層と記録層との格子整合性をより一層高めるためには、格子間隔調整層と記録層との間の格子間隔のミスマッチ、及び、記録層と下地層との間の格子間隔のミスマッチをそれぞれ5%以内に低減することが望ましく、そのためには、上記ミスマッチΔ1及びΔ2は、Δ2<Δ1<10.25、及び、(5/10.25)<(Δ2/Δ1)<1の関係を同時に満足することが好ましい。(Δ2/Δ1)の値を、かかる範囲にすれば、下地層と記録層との間に格子の歪があるときに、格子間隔調整層でその格子の歪を効果的に緩和して、下地層上から格子間隔調整層を介して、所望の格子間隔を有する記録層を形成することができる。これにより、記録層の保磁力をより一層増大させることができる。
【0034】
本発明において、格子間隔調整層は、記録層の磁化容易軸を面内方向に配向制御する必要があるために、記録層と同じ結晶構造を有することが理想的である。面内記録方式の磁気記録媒体では、格子間隔調整層と記録層との間に交換結合が働く場合、格子間隔調整層と記録層の磁化が平行のときに最も磁気異方性エネルギーが低くなり、それらの磁化の安定性が最も良い状態となる。
【0035】
本発明の第2の態様の磁気記録媒体は、格子間隔調整層の飽和磁化をMs1、記録層の飽和磁化をMs2としたときに、Ms1>Ms2の関係を満たすことが望ましい。そのためには、格子間隔調整層に含まれる磁性元素の割合が、記録層に含まれる磁性元素の割合よりも大きくなるように、格子間隔調整層を形成することが望ましい。これにより、記録層と格子間隔調整層との間の交換結合力を更に増大させることができる。図18に示した従来型媒体の場合、記録層と磁化安定化層は同じ材料で構成されており、組成及び結晶構造もまた同一である。記録層と磁化安定化層はRu層を介して交換結合しており、この交換結合は、記録層と磁化安定化層中のCo原子同士がRu原子を介して電子軌道が結合していることに基づくと考えられる。本発明では、格子間隔調整層中の磁性元素の割合を記録層中の磁性元素の割合よりも高めて、交換結合に寄与する磁性元素を増加させているために、記録層と格子間隔調整層の交換結合力は、図18に示した従来型媒体の記録層と磁化安定化層の交換結合力よりも増加している。そのため、図18に示した従来型媒体よりも熱安定性を高めることができる。
【0036】
格子間隔調整層は、例えば、Co、NiもしくはFeを含む合金から形成され得る。または、Co、NiまたはFeと、遷移金属、特に、Pt、Au、Ag、Cu、Pdなどの貴金属とを含む合金から形成され得る。それらの元素または合金は、非磁性層を介して電子的に結合して交換結合磁界を増大する働きがある。
【0037】
本発明においては、格子間隔調整層に用いる材料及び膜厚を調整することにより、記録層の保磁力及び記録層と格子間隔調整層との間の交換結合力を制御することができる。図15に示すように、格子間隔調整層の膜厚が厚くなると記録層の保磁力が増大し、膜厚を薄くすると記録層と格子間隔調整層との間の交換結合力が増大する傾向がある。それゆえ、いずれの特性を重視するかに従って膜厚を適宜選択し得る。これまでの実験結果からすれば、格子間隔調整層の膜厚が9.0nmを超えると、格子間隔調整層と記録層との間の交換結合が、反強磁性的な交換結合を示さなくなる場合があることがわかっている。一方、格子間隔調整層の膜厚が1.0nm以上であれば、格子間隔調整層とその上に形成される記録層との間の格子整合性を維持して記録層の保磁力を十分に増大できることがわかっている。それゆえ、記録層の保磁力及び記録層と格子間隔調整層との間の交換結合力の双方をバランス良く増大させるには、格子間隔調整層の膜厚は、1.0nm〜9.0nmが好ましい。
【0038】
本発明の第2の態様の磁気記録媒体において記録層は結晶質であって、該結晶質相がコバルト(Co)を主体とした合金にしてよい。このCo合金においては、CoにCr、Pt、Ta、Nb、Ti、Si、B、P、Pd、V、Tb、Gd、Sm、Nd、Dy、Ho、若しくはEu、又はそれらの組み合わせを含み得る。
【0039】
ここで、記録層にクロム(Cr)を含むと、Coを主体とした結晶粒子(磁性粒子)の粒界近傍又は粒界部にCrの偏析部分を形成することができる。記録層中に更にTa、Nb、Ti、B若しくはP、又はそれらの元素の組み合わせを含むと、Crの偏析が促進される。この偏析によって、磁性粒子間の磁気的相互作用が低減でき、磁化反転単位を構成する磁性粒子数を減らすことができる。従って、CoCr合金に上記添加物を含む記録層に本発明の格子間隔調整層を組み合わせて用いることで、微小な磁化反転単位でありながら熱揺らぎに強い磁気記録媒体をもたらすことができる。また、かかる記録層は、結晶粒界に偏析したCrリッチの非磁性領域により結晶粒間の磁気的な結合が絶たれるので、記録遷移領域に起因したノイズを抑えることもできる。
【0040】
本発明の第2の態様の磁気記録媒体において、下地層は、例えば、Cr若しくはNi、又は、Cr合金若しくはNi合金から形成し得る。Cr合金又はNi合金は、母元素以外にCr、Ti、Ta、V、Ru、W、Mo、Nb、Ni、ZrまたはAlを含み得る。下地層は、記録層の結晶配向性や格子間隔を制御する目的で使用される。下地層は、単層または複数層で用いることも可能である。
【0041】
本発明の第2の態様の磁気記録媒体は更に基板を備え得る。この場合、基板上に下地層が形成される。基板はガラス、ポリカーボネートなどのプラスチックから形成し得る。
【0042】
本発明の第1及び第2の態様の磁気記録媒体において、非磁性層(及び第2非磁性層)は、Ruから形成され得るが、これに限らず、Rh、Ir、Hf、Cu、Cr、Ag、Au、Re、Mo、Nb、W、Ta、Vなどの遷移金属、CoCrRuのようなCoCr系の非磁性合金を用い得る。強磁性原子リッチ層と記録層との間の交換結合、記録層と格子間隔調整層との交換結合、または記録層と磁化安定化層との交換結合を一層高めるためにはRuが望ましい。なお、本発明において、非磁性層は、記録層と強磁性原子リッチ層、記録層と格子間隔調整層、または記録層と磁化安定化層とを磁気的に結合する働きを有するので磁気結合層とも呼ぶ。
【0043】
本発明の第1及び第2の態様の磁気記録媒体は、それぞれ、例えば、図4及び図16に示すような磁化曲線で表されるヒステリシスループで表される磁気特性を有する。以下、第1の態様の磁気記録媒体の場合に基づいて説明するが、第2の態様の磁気記録媒体においても格子間隔調整層と記録層との間で同様の関係がある。図4に示したヒステリシスループでは、磁気記録媒体の磁化を飽和させた後に外部磁界を低下させたときに、外部磁界に対する磁化の変化率が極大を示す点が正の外部磁界の領域に存在する。磁気記録媒体の磁化が飽和しているときには、記録層と強磁性原子リッチ層(または格子間隔調整層)の磁化がともに平行である。外部磁界が低下して磁化の変化率が極大となる領域で、強磁性原子リッチ層(または格子間隔調整層)と記録層との間で働く交換結合力のために、強磁性原子リッチ層(または格子間隔調整層)の磁化が反転する。残留磁化状態において、かかる交換結合力のために記録層の磁化の熱安定性は向上する。また、磁化の変化率が極大となる領域では、図4に示すようなマイナーヒステリシスループが観測され得る。このマイナーヒステリシスループを図5(A)に示す。マイナーヒステリシスループの中心点から求めた交換結合磁界Hexは、強磁性原子リッチ層(または格子間隔調整層)と記録層との間の交換結合力が増大するとともに増大するため、交換結合磁界が大きいほど熱安定性が増すことを示す。交換結合磁界Hexは、1kOe以上、好ましくは1.5kOe以上であり、図18に示した従来型の磁気記録媒体に比べて著しく大きく、それゆえ、本発明の磁気記録媒体は熱安定性に優れることがわかる。
【0044】
本発明の第2の態様の磁気記録媒体において、このような大きな交換結合磁界Hexを生じさせるには、例えば、格子間隔調整層に含まれる磁性元素の割合が、記録層に含まれる磁性元素の割合よりも大きくなるように、格子間隔調整層を形成することが望ましい。
【0045】
本発明の第3の態様に従えば、磁気記録媒体であって、
強磁性材料から形成された記録層と;
強磁性材料から形成され、記録層の磁化を安定化させる磁化安定化層と;
上記記録層と上記磁化安定化層との間に存在する非磁性層と;
上記非磁性層と記録層の間並びに非磁性層と磁化安定化層の間の少なくとも一方に存在し、上記記録層を形成する強磁性材料よりも強磁性原子濃度の高い強磁性材料から形成された強磁性原子リッチ層とを含む磁気記録媒体が提供される。
【0046】
本発明の第3の態様の磁気記録媒体は、記録層よりも強磁性原子濃度の高い強磁性原子リッチ層が記録層の非磁性層側の面または磁化安定化層の非磁性層側の面を覆うように形成され得る。これにより、上述の第1の態様の磁気記録媒体の場合と同様に、記録層と磁化安定化層との交換結合が、強磁性原子リッチ層と記録層を構成する磁性原子間における交換結合または強磁性原子リッチ層と磁化安定化層を構成する磁性原子間における交換結合により改善されて増大する。したがって、磁化安定化層で安定化された記録層の磁化が、強磁性原子リッチ層による磁化安定化層と記録層との間の交換結合力の増大によって、より一層安定化するため、従来よりも更に高密度記録を実現することができる。第3の態様の磁気記録媒体の強磁性原子リッチ層もまた、第1の態様の磁気記録媒体の場合と同様に、磁化安定化層と記録層との間の交換結合力を増大(エンハンス)することから「エンハンス層」とも称する。強磁性原子リッチ層は、本発明の第1の態様の磁気記録媒体と同じ材料を用いて構成し得る。
【0047】
本発明の第4の態様に従えば、本発明の第1、第2または第3の態様に従う磁気記録媒体と;
上記磁気記録媒体に情報を記録又は再生するための磁気ヘッドと;
上記磁気記録媒体を上記磁気ヘッドに対して駆動するための駆動装置と;を含む磁気記録装置が提供される。
【0048】
本発明に従う磁気記録装置は、熱安定性に優れた磁気記録媒体を装着しているために、長時間に渡る記録安定性に優れる。
【0049】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の磁気記録媒体及び磁気記録装置を実施例及び比較例を用いて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0050】
【実施例1】
本発明に従う磁気記録媒体の好ましい具体例の断面図を図1に示す。磁気記録媒体10は、ガラス基板20上に、第1下地層2、第2下地層4、磁化安定化層6、第1エンハンス層(強磁性原子リッチ層)8、磁気結合層(非磁性層)12、第2エンハンス層8、記録層16及び保護層18を備える。各層は以下のようにDCマグネトロンスパッタ装置を用いてスパッタリングにより形成した。
【0051】
直径2.5inch(6.25cm)のガラス基板20上に、第1金属下地層2として、NiAl膜をDCマグネトロンスパッタ装置を用いてスパッタリングにより形成した。ターゲットには原子比でNi:Al=50:50のNiAl合金を用いた。NiAl膜の膜厚は50nmであった。スパッタ時のArガス圧は0.3Pa、投入電力は0.5kWであった。基板は、スパッタ開始前に、スパッタ室を1×10−5Pa以下に減圧した後に340℃に加熱した。この条件下での成膜速度は約3nm/秒であった。
【0052】
第2金属下地層4として、CrMo膜を第1金属下地層2上に膜厚20nmで形成した。ターゲットにはMo:27原子%のCrMo合金を用いた。成膜条件は、第1金属下地層2の場合と同様にした。
【0053】
磁化安定化層6として、CoCrPtB膜を第1金属下地層4上に膜厚6nmで形成した。ターゲットにはCo64Cr20Pt12合金を用いた。成膜条件は、第1金属下地層2の場合と同様にした。
【0054】
次いで、第1エンハンス層8として、Co膜を磁化安定化層6上に膜厚1nmで形成した。ターゲットにはCoを用いた。スパッタ時の成膜条件として、投入電力は100Wとし、基板とターゲット間の間隔を長くした以外は、第1金属下地層2の場合と同様にした。
【0055】
次いで、磁気結合層12として、Ru膜を第1エンハンス層8上に膜厚0.8nmで形成した。ターゲットにはRuを用いた。スパッタ時の成膜条件は、第1エンハンス層8の場合と同様にした。
【0056】
第2エンハンス層14としてのCo膜を、第1エンハンス層8と同様に形成した。第1エンハンス層8及び第2エンハンス層14は、記録層16と磁化安定化層6との間の交換結合を増大させる働きを有する。
【0057】
記録層16として、面内方向の磁化を有するCoCrPtB膜を第2エンハンス層14上に膜厚18nmで形成した。ターゲットにはCo64Cr20Pt12合金を用いた。成膜条件は、磁化安定化層6の場合と同様にした。
【0058】
最後に、CoCrPtB記録層16上に、保護膜としてのカーボン層を膜厚5nmで形成した。成膜条件は、第1金属下地層2の場合と同様であった。こうして図1に示した構造の磁気ディスク10を製造した。
【0059】
【比較例1】
比較例として、第1及び第2エンハンス層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして磁気ディスクを製造した。図7に、こうして得られた比較例の磁気ディスク50の構造を示す。
【0060】
[磁化曲線の評価]
実施例1で製造した磁気ディスクの磁化特性を以下のようにして測定した。VSM(Vibration Sample Magnetometer)により磁界を印加して外部磁界に対する磁化曲線を観測した。得られた結果を図4に示す。図4のヒステリシスループから分かるように、正方向の外部磁界を印加して磁化を飽和させた後、外部磁界を低下させてゆくと、外部磁界がゼロになる前に磁化が急激に低下する領域が存在する。この領域では、外部磁界に対する磁化の変化率(δM/δH)が極大となる点が現れている。そしてこの領域では磁化曲線がヒステリシスを示すマイナーループを描いている。このマイナーループが生じるのは、変化率の極大点に至る前は記録層16と磁化安定化層6の磁化の向きが平行であるが、極大点を境に磁化安定化層6の磁化の向きが反転するためであると考えられる。
【0061】
図5(A)にマイナーループの拡大図を示す。このマイナーループは、正方向の外部磁界を印加して記録層及び磁化安定化層の磁化を飽和させた後、磁界を低下させてゆき、磁化の変化率が安定化した後に、再度外部磁界を増加させることにより求めた磁化曲線である。ここで、マイナーループの上端と下端の中点にあるループの中心における磁界Hは、記録層16と安定化層6の磁化の交換結合を示す交換結合磁界Hexとして知られている。この実施例で得られた磁気ディスクの場合、Hexは1.4kOeであることが分かった。一方、比較例の磁気ディスクでは、図5(B)に示すようなヒステリシスマイナーループが得られ、Hexは0.4kOeであることが分かった。従って、本発明では第1及び第2エンハンス層を、記録層及び磁気結合層の界面、並びに磁気結合層と磁化安定化層との界面にそれぞれ設けたために、記録層と磁化安定化層との交換結合力が著しく向上している。参考として、従来技術の説明の欄で述べた文献に開示された磁気ディスクのHexは450(Oe)程度であることが報告されている。
【0062】
さらに、実施例1及び比較例で得られた磁気記録媒体の活性化体積Vを測定し、磁気記録媒体の熱安定性の指標となる値である(Ku・V)/(k・T)を求めたところ、実施例1の磁気記録媒体では約71であったのに対して比較例の磁気記録媒体では65であった。このことからも、本発明の磁気記録媒体は熱安定性に優れることが分かる。さらに、実施例の磁気記録媒体では、面内磁気記録媒体の高密度記録の可能性を示す指標であるBrt(=4πMr・t(式中、Mrは残留磁界、tは厚みをそれぞれ示す))は、約44Gμmであった。
【0063】
【変形例1】
本発明に従う磁気ディスクでは、記録層と磁化安定化層の間の交換結合をエンハンスするエンハンス層を、記録層及び磁気結合層(非磁性層)の界面、あるいは磁気結合層と磁化安定化層との界面のいずれか一方に設けてもよい。実施例1の変形例として、図3に第2エンハンス層を形成しなかった磁気ディスク40の構造を示す。
【0064】
【変形例2】
実施例1では、磁化安定化層6及び磁気結合層12をそれぞれ一層ずつ形成したが、それらを2層ずつ形成してもよい。すなわち、CrMo第2下地層4上に、CoCrPtB第1磁化安定化層、第1エンハンス層、Ru第1磁気結合層、Co第2エンハンス層、CoCrPtB第2磁化安定化層、第3エンハンス層、Ru第2磁気結合層、Co第4エンハンス層、CoCrPtB記録層及びカーボン保護層を備える構造にすることができる。ここで、第1及び第2エンハンス層(補助エンハンス層)は、第1及び第2磁化安定化層間の交換結合を増大する作用を有し、第3及び第4エンハンス層は、記録層と第2磁化安定化層間の交換結合を増大する作用を有する。また、図3に示した磁気ディスク40において、磁気結合層12と記録層16との間に、第2磁化安定化層、第4エンハンス層及び第2磁気結合層を加えても良い。
【0065】
【実施例2】
実施例1と同様のプロセスにより複数枚の磁気ディスクを作製し、各ディスクの保護層上に潤滑剤を塗布した後、それらを磁気記録装置のスピンドルに同軸上に取り付けた。磁気記録装置の概略構成を図8及び図9に示す。図8は磁気記録装置の上面の図であり、図9は、図8の破線A−A’における磁気記録装置60の断面図である。記録用磁気ヘッドとして、2.1Tの高飽和磁束密度を有する軟磁性膜を用いた薄膜磁気ヘッドを用い、再生のために巨大磁気抵抗効果を有するデュアルスピンバルブ型磁気ヘッドを用いた。記録用磁気ヘッド及び再生用磁気ヘッドは一体化されており、図8及び図9では磁気ヘッド53として示した。この一体型の磁気ヘッド53は磁気ヘッド用駆動系54により制御される。複数の磁気ディスク10は回転駆動系51のスピンドル52により同軸回転される。磁気記録装置の磁気ヘッド面と磁気ディスクとの距離は11nmに保った。この磁気ディスクに40Gbits/inch(6.20Gbits/cm)に相当する信号を記録して磁気ディスクのS/Nを評価したところ、25dBのS/Nが得られた。
【0066】
磁気記録装置60の記録安定性を評価するために、磁気記録装置60を80℃、湿度80%の環境下に100時間置いた。100時間経過後に、記録した信号を再生して磁気ディスクのS/Nを測定したところ、24.3dBのS/Nが得られた。すなわち、上記環境下での記録信号の低下率は3%であった。
【0067】
【比較例2】
比較例1の磁気ディスク50を実施例2と同様にして磁気記録装置に組み込んだ。この磁気記録装置の記録安定性を評価するために、磁気記録装置60を80℃、湿度80%の環境下に100時間置いた。100時間経過後に、記録した信号を再生して磁気ディスクのS/Nを測定したところ、22.5dBのS/Nが得られた。すなわち、上記環境下での記録信号の低下率は10%であった。従って、本発明の磁気ディスクを備える磁気記録装置は記録安定性に関して優れていることが分かる。
【0068】
【実施例3】
本発明に従う磁気記録媒体の別の具体例の概略構成を図10に示す。磁気記録媒体70は、ガラス基板20上に、第1下地層2、第2下地層4、強磁性原子リッチ層78、磁気結合層(非磁性層)12、記録層16及び保護層18を備える。各層は以下のようにDCマグネトロンスパッタ装置を用いてスパッタリングにより形成した。
【0069】
まず、直径2.5inch(6.25cm)のガラス基板をDCマグネトロンスパッタ装置の準備室に装填した。準備室を減圧し、真空度を1×10−5Paにした後、ガラス基板上の水分を除去するためにガラス基板を200℃で10分間加熱した。次いで、ガラス基板を、準備室から、1×10−5Paの真空度を有する成膜室に搬送した。成膜室において、ガラス基板を340℃まで加熱した。
【0070】
加熱されたガラス基板20上に、第1金属下地層2として、NiAl膜を形成した。ターゲットには原子比でNi:Al=50:50のNiAl合金を用いた。NiAl膜の膜厚は50nmであった。スパッタ時のArガス圧は0.3Pa、投入電力は500Wであった。
【0071】
第2金属下地層4として、CrMo膜を第1金属下地層2上に膜厚20nmで形成した。ターゲットにはMo:27原子%のCrMo合金を用いた。成膜条件は、第1金属下地層2の場合と同様にした。
【0072】
次いで、強磁性原子リッチ層78として、CoPt膜を第2金属下地層上に膜厚2nmで形成した。ターゲットにはPt:17原子%のCoPt合金を用いた。スパッタ時の成膜条件として、投入電力は100Wとし、基板とターゲット間の間隔を長くした以外は、第1金属下地層2の場合と同様にした。
【0073】
次いで、磁気結合層12として、Ru膜を強磁性原子リッチ層78上に膜厚0.8nmで形成した。ターゲットにはRuを用いた。スパッタ時の成膜条件は、強磁性原子リッチ層78の場合と同様にした。
【0074】
記録層16として、面内方向の磁化を有するCoCrPtB膜を磁気結合層上に膜厚18nmで形成した。ターゲットにはCo64Cr20Pt12合金を用いた。成膜条件は、第1金属下地層2の場合と同様にした。
【0075】
最後に、CoCrPtB記録層16上に、保護膜としてのカーボン層を膜厚5nmで形成した。成膜条件は、第1金属下地層2の場合と同様であった。こうして図10に示した構造の磁気ディスク70を製造した。
【0076】
こうして得られた磁気ディスクについて、実施例1と同様に、VSMにより磁界を印加して外部磁界に対する磁化曲線を観測した。得られた結果を図11に示す。このヒステリシスループからわかるように、この実施例で製造された磁気ディスクも、実施例1で製造した磁気ディスクと同様に、正方向の外部磁界を印加して磁化を飽和させた後、外部磁界を低下させてゆくと、外部磁界がゼロになる前に磁化が急激に低下する領域が存在していた。そして、図11からわかるように、この領域で、磁化曲線がヒステリシスを示すマイナーループを描いていた。図11の下方にマイナーループの拡大図を示した。このマイナーループから、実施例1で製造した磁気ディスクの場合と同様にして交換結合磁界Hexを求めたところ、交換結合磁界Hexは、1.7kOeであった。
【0077】
つぎに、上記プロセスと同様にして複数枚の磁気ディスクを作製し、それぞれの磁気ディスクの保護層上に潤滑剤を塗布した後、それらを実施例2と同様に図8及び図9に示す磁気記録装置に組み込んだ。この磁気記録装置を用いて、実施例2と同様に磁気ディスクに信号を記録して磁気ディスクのS/Nを評価したところ、25dBのS/Nが得られた。
【0078】
次いで、かかる磁気記録装置の記録安定性を評価するために、実施例2の場合と同様に磁気記録装置を80℃、湿度80%の環境下に100時間置いた。100時間経過後に、記録した信号を再生して磁気ディスクのS/Nを測定したところ、24.5dBのS/Nが得られた。すなわち、上記環境下での記録信号の低下率は2%であった。したがって、比較例2の磁気記録装置との比較から、本発明の磁気ディスクを備える磁気記録装置は記録安定性に関して優れていることがわかる。
【0079】
【変形例3】
実施例3で製造した磁気ディスクの変形例として、図12に示すように、磁気結合層12と記録層16との界面にエンハンス層79を設けてもよい。エンハンス層79は、実施例1で作製した磁気ディスクのエンハンス層8と同様の材料を用いて形成することができ、記録層16と強磁性原子リッチ層78との間の交換結合を増大する作用を有する。
【0080】
【変形例4】
実施例3で製造した磁気ディスクの別の変形例として、図13に示すように、第2下地層3上に、更に記録層16の磁化を安定化させるための磁化安定化層86及び第2磁気結合層82を設けてもよい。磁化安定化層86は、実施例1で作製した磁気ディスクの磁化安定化層6と同様の材料を用いることができる。第2磁気結合層82は、実施例3と同様にRuを用いることができる。また、更に別の変形例として、図13に示した磁気ディスクにおいて、磁化安定化層86を、実施例1で用いたエンハンス層で置き換えて構成することも可能である。
【0081】
【実施例4】
この実施例では、磁気記録媒体の更に別の好ましい具体例について説明する。この実施例では、実施例3で作製した図10に示す構造の磁気ディスクの強磁性原子リッチ層を格子間隔調整層に変更して磁気記録媒体を作製した。すなわち、図6に示すように、ガラス基板20上に、第1下地層2、第2下地層4、格子間隔調整層66、磁気結合層12、記録層16及び保護層18を備える磁気ディスクを作製した。本実施例では、格子間隔制御層66として、実施例3で作製した磁気ディスクの強磁性原子リッチ層78と同じ磁性材料を用いた。実施例3においては、強磁性原子リッチ層78を、基板とターゲットの間隔を長くして成膜したが、本実施例では、格子間隔調整層66を、基板とターゲットの間隔を長くせずに成膜した。磁気結合層12は、基板とターゲットの間隔を長くした以外は、実施例3と同様にして成膜した。これら格子間隔調整層66と磁気結合層12以外の層は、実施例3と同様の方法により成膜した。
【0082】
また、比較例3として、図6に示した磁気ディスクにおいて、格子間隔調整層66の代わりに、記録層10と同組成のCoCrPtB膜を成膜して磁気ディスクを作製した。CoCrPtB膜の膜厚は4.5nmとし、記録層の膜厚は上記と同様に18nmとした。
【0083】
[磁化曲線の評価]
本実施例の磁気ディスク及び比較例3の磁気ディスクの磁化測定を以下のようにして行った。VSM(Vibrating Sample Magnetometer)により磁界を印加して外部磁界に対する磁化曲線を観測した。得られた結果を図14に示す。図14のヒステリシスループからわかるように、正方向の外部磁界を印加して磁化を飽和させた後、外部磁界を低下させていくと、外部磁界がゼロになる前に、ある磁界で磁化が急激に減少する領域がある。これは記録層と格子間隔調整層の間に働く交換結合の影響によって引き起こされる現象であり、磁気記録媒体の磁化が飽和しているときは、記録層と格子間隔調整層の磁化はともに平行であるが、外部磁界が低下して、格子間隔調整層の磁化が反転して記録層の磁化方向と反平行になるために生じる。
【0084】
ここで、図14に示したヒステリシスループから記録層の保磁力を求めた。以下に、保磁力の求め方について説明する。図14に示したヒステリシスループは、磁気記録媒体のヒステリシスループであり、ヒステリシスループ上の磁化の値は、磁性材料からそれぞれ構成された記録層と格子間隔調整層の磁化の和を示している。一方、記録層の保磁力は、通常、記録層の磁化のみが描くヒステリシスループにおいて記録層の磁化の大きさがゼロになったときの外部磁界の大きさで定義される。そこで、図14に示したヒステリシスループから、以下のようにして記録層の保磁力を見積もった。図14に示したヒステリシスループにおいては、記録層の磁化がゼロのときは格子間隔調整層の磁化のみが検出されているはずであり、この場合の格子間隔調整層の磁化の大きさをMstaとすれば、図14のヒステリシスループにおいて−Mstaの磁化が得られるときの外部磁界の大きさが、記録層の磁化がゼロのときの外部磁界、すなわち記録層の保磁力を示すことになる。そして、Mstaは、図14のヒステリシスループから次のようにして見積もることができる。
【0085】
図14に示したヒステリシスループでは、前述したように、正方向の外部磁界を印加して磁化を飽和させた後、外部磁界を低下させていくと、図14に示すように、ループ上のA点とB点との間で磁化が急激に減少している。このA点とB点との間の磁化の急激な減少は、記録層の磁化の方向は変化せずに格子間隔調整層の磁化のみが反転したことによる。ループ上のA点では記録層と格子間隔調整層の磁化の向きは平行であり、A点での磁化は記録層と格子間隔調整層の磁化の和を表す。一方、B点ではそれぞれの層の磁化の向きが反平行となるので、B点での磁化は記録層と格子間隔調整層の磁化の差を表す。したがって、前述の格子間隔調整層の磁化Mstaは、ループ上のA点における磁化の値とB点における磁化の値との差の半分として見積もることができる。
【0086】
かかる方法により、図14のヒステリシスループから記録層の保磁力を求めたところ、約4.5kOeであった。一方、比較例3の磁気ディスクの記録層についても同様の方法により保磁力を求めたところ、記録層の保磁力は約3.5kOeであった。つまり、本実施例の磁気ディスクの記録層は、比較例3の磁気ディスクの記録層よりも、保磁力が約30%増加した。
【0087】
第2下地層4と記録層10の配向関係は、CrMo(211)[110]//CoCrPtB(10・0)[0001]である。第2下地層4であるCrMo[110]の格子間隔は4.182Å、本実施例において格子間隔調整層6として用いられたCoPtの[0001]の格子間隔は4.178Å、記録層10として用いられたCoCrPtBの格子間隔は4.159Åである。前述の式(1)から、記録層10と第2下地層4との格子間隔のミスマッチΔ1、及び格子間隔調整層6と第2下地層4との格子間隔のミスマッチΔ2を求めると、Δ1=0.550%、Δ2=0.096%であり、Δ1>Δ2を満足している。一方、比較例の磁気ディスクでは、記録層及び格子間隔調整層はともに同組成のCoCrPtBであるために、ミスマッチΔ1=Δ2=0.550%である。したがって、第2下地層であるCrMo上に格子間隔調整層を成膜する場合、CoPtを格子間隔調整層に用いた方が、CoCrPtBを用いた場合よりも、下地層と記録層との間の格子間隔のミスマッチを小さくできるので、記録層の結晶性を向上させることができる。
【0088】
ところで、図14のヒステリシスループにおいて、磁界が0になる前に磁化が急激に低下する領域では、外部磁界に対する磁化の変化率(δM/δH)が極大となる点が現れている。この極大点が出現した後に更に磁界を低下させてゆき、磁化の変化率が安定化した後に再度外部磁界を増加させると、図16の斜線に示すようにヒステリシス曲線が得られる。このヒステリシス曲線をマイナーループと呼ぶ。ここで、マイナーループの上端と下端の中点にあるループの中心における磁界Hは、記録層10と格子間隔調整層6の磁化の交換結合に比例する交換結合磁界Hexとして知られている。この実施例で得られた磁気ディスクの場合、Hexは約1.0kOeであることがわかった。一方、比較例3の磁気ディスクの場合、マイナーループより求められたHexは、0.4kOeであることがわかった。したがって、本発明では、格子間隔調整層の磁性元素の割合を、記録層よりも増加させることにより、格子間隔調整層と記録層との交換結合力が増大されている。
【0089】
つぎに、本実施例及び比較例3の磁気ディスクについて、磁気ディスクの熱安定性の指標となる値(Ku・V)/(k・T)(Kuは記録層の結晶磁気異方性定数、Vは活性化体積、kはボルツマン定数、Tは絶対温度を表す)を求めたところ、本実施例の磁気ディスクでは、約78であったのに対し、比較例3の磁気記録媒体では約65であった。このことからも、本発明の磁気記録媒体は熱安定性に優れることがわかる。更に、本実施例の磁気ディスクでは、面内磁気記録媒体の高密度記録の可能性を示す指標であるBrtは、約49.7Gμmであった。
【0090】
つぎに、格子間隔調整層を種々の膜厚で形成した以外は、上記と同様のプロセスにより磁気ディスクを製造して、格子間隔調整層の膜厚の異なる複数の磁気ディスクを得た。そして、それぞれの磁気ディスクについて上記と同様にVSMにより磁化曲線を観測して記録層の保磁力を求めた。図15に、格子間隔調整層であるCoPt層の膜厚と、記録層の保磁力の関係を示す。この結果からわかるように、CoPt膜の膜厚の増加に伴って記録層の保磁力も増大している。
【0091】
次いで、格子間隔調整層の膜厚の異なるそれぞれの磁気ディスクについて、上記と同様の方法により交換結合磁界を測定し、格子間隔調整層の膜厚に対する交換結合磁界の依存性を調べた。結果を図15のグラフに示す。このグラフからわかるように、格子間隔調整層の膜厚が増加するに伴って、交換結合磁界は減少している。図15から、格子間隔調整層をCoPt層で構成した場合、記録層の保磁力と交換結合磁界をともにバランス良く高めることが可能な格子間隔調整層の最適な膜厚は1.0nm〜2.0nmであることがわかる。
【0092】
【実施例5】
この実施例では、第1エンハンス層(強磁性原子リッチ層)及び第2エンハンス層を形成する強磁性材料を、ともに、Co62Cr22Pt12、Co64Cr20Pt12及びCo83Cr17に変更した以外は、実施例1と同様にして第1エンハンス層の強磁性原子濃度の異なる3種類の磁気ディスクを作製した。すなわち、Ru層(磁気結合層)に接する第1エンハンス層と第2エンハンス層の強磁性原子濃度を、62%、64%、83%に変化させた。こうして得られた第1エンハンス層の強磁性原子濃度がそれぞれ異なる3種類の磁気ディスクと、実施例1で作製した磁気ディスク(第1及び第2エンハンス層の強磁性原子濃度は100%)とについて、記録層と第1エンハンス層との間の交換結合エネルギーJを調べた。交換結合エネルギーJは、次式(2)から求めた。
【0093】
J=Hex×(Ms×t+Ms×t)・・・(2)
【0094】
上記式(2)中、Hexは、記録層と磁化安定化層の磁化の交換結合を示す交換結合磁界であり、Ms及びMsはそれぞれ磁化安定化層及び第1エンハンス層の飽和磁化を示し、t及びtはそれぞれ磁化安定化層及び第1エンハンス層の膜厚を示す。交換結合磁界Hexは実施例1で示した方法と同様の方法により求めた。
【0095】
図17(A)に、第1エンハンス層のCo濃度に対する交換結合エネルギーの変化を示す。図17(A)に示すように、第1エンハンス層の強磁性原子濃度(Co濃度)が高くなるに従って記録層と磁化安定化層との間の交換結合エネルギーが増大していることがわかる。第1エンハンス層の強磁性原子(Co)濃度が83%以上の磁気記録媒体では、第1エンハンス層の強磁性原子(Co)濃度が64%の磁気記録媒体(第1エンハンス層と記録層の強磁性原子濃度がともに等しい磁気記録媒体)と比較して交換結合エネルギーが約5倍に増大している。すなわち、第1エンハンス層の強磁性原子濃度を記録層の強磁性原子濃度よりも絶対値で19%(記録層の強磁性原子濃度に対する相対値で約30%)以上増加させることにより交換結合エネルギーを約5倍に増大することができた。第1エンハンス層の強磁性原子濃度を100%にすると更に交換結合エネルギーは増大し、第1エンハンス層の強磁性原子(Co)濃度が64%の磁気記録媒体に比べて約8.75倍に増加していた。一方、第1エンハンス層の強磁性原子濃度が記録層の強磁性原子濃度よりも低い磁気記録媒体の交換結合エネルギーは、第1エンハンス層の強磁性原子(Co)濃度が64%の磁気記録媒体すなわち第1エンハンス層と記録層の強磁性原子濃度がともに等しい磁気記録媒体よりも低くなっている。また、各磁気記録媒体について熱安定性の指標である(Ku・V)/(k・T)を測定した。測定結果を図17(B)に示す。図17(B)からわかるように、第1エンハンス層の強磁性原子濃度を記録層の強磁性原子濃度よりも高めることにより、(Ku・V)/(k・T)も交換結合エネルギーと同様に向上している。かかる結果から、第1エンハンス層(強磁性原子リッチ層)の強磁性原子濃度を記録層の強磁性原子濃度よりも高めることによって熱安定性の優れた磁気記録媒体を得ることができる。
【0096】
【実施例6】
この実施例では、本発明の磁気記録媒体の更に別の具体例について説明する。図2に、本実施例の磁気記録媒体の概略断面図を示す。磁気記録媒体30は、ガラス基板20上に、第1下地層2、第2下地層4、磁化安定化層6、磁気結合層12、強磁性原子リッチ層(第2エンハンス層)14、記録層16及び保護層18を備える。かかる磁気記録媒体30は、実施例1において作製した図1に示す構造の磁気ディスクの第2エンハンス層を強磁性原子リッチ層として用い、第1エンハンス層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして作製することができる。また、図2に示した磁気記録媒体30の変形例として、強磁性原子リッチ層(第2エンハンス層)14と記録層16との間に、更に、第2磁化安定化層、第2磁気結合層及び第4エンハンス層を加えても良い。
【0097】
以上、本発明を実施例により具体的に説明してきた。例えば、実施例1は、本発明の第1または第3の態様を具現化する例である。しかしながら、本発明はそれらに限定されない。基板、第1金属下地層、第2金属下地層、強磁性原子リッチ層、格子間隔調整層、磁化安定化層、磁気結合層、第1エンハンス層、第2エンハンス層、及び記録層は、実施例で示した材料に限らず、種々の知られた材料で構成することができる。
【0098】
【発明の効果】
本発明の第1の態様の磁気記録媒体は、記録層を形成する強磁性材料よりも強磁性原子濃度の高い強磁性材料から形成された強磁性原子リッチ層により、記録層と強磁性原子リッチ層との間で強い交換結合力が発生するので熱安定性に優れる。従って、高密度記録のために微小磁区を形成しても、熱揺らぎが少なく、記録した情報を長期間に渡って安定に保持することができる。
【0099】
本発明の第2の態様の磁気記録媒体は、下地層と記録層との格子間隔のミスマッチを緩和するような格子間隔を有する格子間隔調整層により、記録層の結晶配向性が向上しているので、記録層の保磁力が増大されている。これにより記録層に微小な磁区を形成することができ、更なる高密度化を実現できる。更には、格子間隔調整層中の磁性元素の割合を記録層よりも増加させることにより、格子間隔調整層と記録層との間の交換結合力を増大させることができる。かかる磁気記録媒体は、熱安定性に優れ、且つ、高保磁力であるため、超高密度記録が可能である。
【0100】
本発明の第3の態様の磁気記録媒体は、強磁性原子リッチ層により記録層と磁化安定化層との間の交換結合力が増大しているので、第1の態様の磁気記録媒体と同様に熱安定性に優れ、高密度記録のために微小磁区を形成しても、熱揺らぎが少なく、記録した情報を長期間に渡って安定に保持することができる。
【0101】
本発明の第1、第2または第3の態様の磁気記録媒体を備える磁気記録装置は、記録安定性に優れ、例えば、40Gbits/inch(6.20Gbits/cm)を超える超高密度磁気記録の実現を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1の磁気ディスクの断面構造を示す図である。
【図2】 実施例1の磁気ディスクの変形例の断面構造を示す図である。
【図3】 実施例1の磁気ディスクの別の変形例の断面構造を示す図である。
【図4】 実施例1の磁気ディスクのヒステリシスループ(メジャーループ)を示すグラフである。
【図5】 図5(A)は、実施例1の磁気ディスクのマイナーヒステリシスループを示し、図5(B)は、比較例1の磁気ディスクのマイナーヒステリシスループを示す。
【図6】 本発明の実施例4に従う磁気ディスクの概略断面構造を示す図である。
【図7】 比較例1の磁気ディスクの断面構造を示す図である。
【図8】 本発明の実施例2に従う磁気記録装置の一例を上方から見た概略構成図である。
【図9】 図8に示す磁気記録装置のA‐A’方向の断面図である。
【図10】 本発明の実施例3で製造した磁気ディスクの概略断面図である。
【図11】 図10に示す磁気ディスクのヒステリシスループ(メジャーループ)と、ヒステリシスループのマイナーループの拡大図を示すグラフである。
【図12】 本発明の実施例3に従う磁気ディスクの変形例の概略断面図である。
【図13】 本発明の実施例3に従う磁気ディスクの別の変形例の概略断面図である。
【図14】 実施例4の磁気ディスクのヒステリシスループ(メジャーループ)を示すグラフである。
【図15】 実施例4の磁気ディスクの格子間隔調整層の膜厚と記録層の保磁力との関係及び格子間隔調整層の膜厚と交換結合磁界の関係を示すグラフである。
【図16】 図14におけるヒステリシスループのマイナーループを模式的に示したグラフである。
【図17】 図17(A)は、強磁性原子リッチ層の強磁性原子(Co)濃度に対する交換結合エネルギーの変化を示し、図17(B)は、強磁性原子リッチ層の強磁性原子(Co)濃度に対する(Ku・V)/k・Tの変化を示すグラフである。
【図18】 従来の磁気ディスクの構造を示す断面図である。
【符号の説明】
2 第1金属下地層
4 第2金属下地層
6 磁化安定化層
8 第1エンハンス層
10 磁気ディスク
12 磁気結合層
14 第2エンハンス層
16 記録層
20 基板
52 スピンドル
53 磁気ヘッド
60 磁気記録装置
66 格子間隔調整層
78 強磁性原子リッチ層

Claims (15)

  1. 磁気記録媒体であって、
    強磁性材料から形成された記録層と;
    上記記録層を形成する強磁性材料よりも強磁性原子濃度の高い強磁性材料から形成された強磁性原子リッチ層と;
    上記記録層と強磁性原子リッチ層との間に存在する第1非磁性層と;を含み、
    上記記録層と上記強磁性原子リッチ層とが交換結合しており、
    上記磁気記録媒体の外部磁界に対する磁化曲線がヒステリシスループを示し、磁化を飽和させた後に外部磁界を低下させたときに、外部磁界に対する磁化の変化率が極大を示す点が正の外部磁界の領域に存在し、且つ磁化曲線から求めた交換結合磁界が1kOe以上であることを特徴とする磁気記録媒体。
  2. 上記記録層が、Co、Ni及びFeからなる群から選ばれた一種を含む材料から形成されており、強磁性原子リッチ層が、Co、Ni、Fe及びCoNiFe合金からなる群から選ばれた一種から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
  3. 上記記録層が、Co、Ni及びFeからなる群から選ばれた一種を含む材料から形成されており、強磁性原子リッチ層が、Co、Ni及びFeからなる群から選ばれた一種と遷移金属との合金から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
  4. 上記磁気記録媒体が、更に、上記記録層の磁化を安定化させるための磁化安定化層を備え、該磁化安定化層が、強磁性原子リッチ層の第1非磁性層側とは反対側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
  5. 更に、上記記録層と第1非磁性層との間に、上記記録層と上記強磁性原子リッチとの交換結合を増大するための層が設けられていることを特徴とする請求項1または4に記載の磁気記録媒体。
  6. 上記記録層が、Co、NiまたはFeを含む材料から形成されており、上記強磁性原子リッチ層は上記記録層よりも高濃度のCo、NiまたはFeを含む材料から形成されていることを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体。
  7. 上記記録層がBを含むことを特徴とする請求項6に記載の磁気記録媒体。
  8. 上記強磁性原子リッチ層が、0.2〜2nmの膜厚を有することを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体。
  9. 第1非磁性層が、Ruから形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
  10. 更に、上記磁化安定化層が、第1磁化安定化層と;第2磁化安定化層と;第1磁化安定化層と第2磁化安定化層との間に設けられた第2非磁性層と;第1磁化安定化層と第2非磁性層との間、及び、第2非磁性層と第2磁化安定化層との間の少なくとも一方に、第1磁化安定化層と第2磁化安定化層との間の交換結合を増大させるための補助エンハンス層と;を備えることを特徴とする請求項4に記載の磁気記録媒体。
  11. 上記補助エンハンス層が、第1磁化安定化層と第2非磁性層との間に形成された第1補助エンハンス層と;第2非磁性層と第2磁化安定化層との間に形成された第2補助エンハンス層と;を含むことを特徴とする請求項10に記載の磁気記録媒体。
  12. 上記磁気記録媒体が、更に、基板と;第2非磁性層と;それらの間に位置し、強磁性材料から形成され且つ記録層の磁化を安定化させる磁化安定化層と;を備え、第2非磁性層に対して上記基板と反対側に上記強磁性原子リッチ層が位置付けられていることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
  13. 上記磁気記録媒体が、更に、基板と;第2非磁性層と;それらの間に位置する上記記録層を形成する強磁性材料よりも強磁性原子濃度の高い強磁性材料から形成された層と;を備え、第2非磁性層に対して上記基板と反対側に上記強磁性原子リッチ層が位置付けられていることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
  14. 上記記録層が面内方向の磁化を有することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
  15. 請求項1に記載の磁気記録媒体と;
    上記磁気記録媒体に情報を記録又は再生するための磁気ヘッドと;
    上記磁気記録媒体を上記磁気ヘッドに対して駆動するための駆動装置と;を含む磁気記録装置。
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