JP3921052B2 - 垂直磁気記録媒体及び磁気記憶装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、再生ノイズが小さく、記録磁化の安定性に優れた超高密度磁気記録に好適な垂直磁気記録媒体及び磁気記憶装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、実用的に用いられている面内磁気記録方式において線記録密度を向上するには、記録時の反磁界の影響を減少するために記録媒体である磁性膜の残留磁化(Br)と磁性膜厚(t)の積(Br・t)を小さくし、保磁力を増大する必要がある。また、磁化遷移から発生する媒体ノイズを減少するために、磁性膜の磁化容易軸を基板面に平行に配向させると共に、結晶粒径の制御が必要である。
【0003】
面内磁気記録用の磁性膜としては、Coを主成分とし、これにCr,Ta,Pt,Rh,Pd,Ti,Ni,Nb,Hfなどを添加したCo合金薄膜が用いられる。磁性薄膜を構成するCo合金は、主として六方稠密格子構造(以下、hcp構造という)の材料を用いる。この結晶のc軸は<00.1>方向に磁化容易軸を持ち、この磁化容易軸を面内方向に配向させる。磁性薄膜の結晶配向性や粒径を制御するために、基板と磁性膜の間に構造制御用の下地層を形成する。下地層としては、Crを主成分とし、これにTi,Mo,V,W,Pt,Pdなどを添加した材料を用いる。磁性薄膜は真空蒸着法やスパッタリング法により形成する。前記したように、面内磁気記録において媒体ノイズを小さくし線記録密度を向上するには、磁性膜の残留磁化(Br)と磁性膜厚(t)の積を小さくする必要があり、このために磁性膜の膜厚を20nm以下まで薄くし、結晶粒径を10〜15nmまで微細化することが必要である。しかし、このような磁性結晶粒を微細化した媒体では、熱揺らぎにより記録磁化が減少するという極めて重大な問題があり、高密度記録の障害となっている。
【0004】
一方、垂直磁気記録方式は、記録媒体面に垂直に、かつ隣り合う記録ビットが互いに反平行になるように磁区を形成する磁気記録方式であり、記録ビットの境界での反磁界が小さくなり高密度記録ほど磁化が安定に保たれ易い利点があり、高密度磁気記録の有力な手段の一つである。垂直磁気記録では、面内磁気記録に比べて磁性膜厚を厚くでき、特に高記録密度領域での記録磁化を安定に保持できる利点がある。垂直磁気記録により線記録密度を向上するためには、記録ビット内部及び磁化遷移領域に形成される不規則構造の磁区から発生する媒体ノイズを減少することが必要である。このためには、磁性膜の磁化容易軸を基板面に垂直に配向させると共に、磁化容易軸の配向分散を小さくし、結晶粒径を制御することが必要である。
【0005】
垂直磁気記録媒体には、基板上に構造制御層を介して垂直磁化膜を形成した単層垂直磁気記録媒体と、基板上に軟磁性膜を形成し、この上に構造制御層を介して垂直磁化膜を形成した2層垂直磁気記録媒体がある。前者の場合、媒体ノイズの主因は、記録ビット内部及び磁化遷移領域に形成される不規則構造の磁区である。一方、後者の2層垂直磁気記録媒体の場合、媒体ノイズは記録ビット内部及び磁化遷移領域に形成される不規則構造の磁区に加えて、垂直磁化膜の下層に設けた軟磁性膜の磁区構造の乱れによっても発生する。
【0006】
垂直磁気記録におけるノイズ低減や記録磁化の安定性を改善する多くの手段が提案されている。例えば、Digest of the Fourth Perpendicular Magnetic Recording Conference '97やDigest of the Fifth Perpendicular Magnetic Recording Conference 2000に記述されたように、CoCr合金/Tiからなる2層下地層の導入によるCoCr合金磁性膜の結晶配向性の向上、CoCrPt−Oグラニュラー型磁性膜、Co/Pt(又はPd)多層磁性膜、Te−Fe−Co非晶質磁性膜、あるいはCoCr合金磁性膜の上にCo/Pt(又はPd)多層磁性膜を被覆することにより垂直磁化膜の角型比を向上する方法が提案されている。しかしながらこれら従来媒体では高角型比による磁化の安定性は改善される傾向にあるが、一方では特に遷移性ノイズに基ずく媒体ノイズが向上し、高密度記録の障害となっている。
【0007】
また、垂直磁化膜の下層に形成した軟磁性層に形成された磁区から発生するノイズも重要な課題である。軟磁性膜の磁区構造を制御する方式として、例えば特開平11−191217号公報「垂直磁気記録媒体の製造方法」のように、軟磁性膜の下層に直接面内磁化膜を接して形成する方法が提案されている。この方法によれば、外部磁界による軟磁性膜の磁区構造の乱れをある程度低下できる効果は認められるが、軟磁性膜の下層に直接面内磁化膜を接して形成することにより面内磁化膜の磁区構造の乱れがこの上の軟磁性膜に転写され、その結果、垂直磁化膜の再生信号の中に軟磁性膜から発生したノイズが含まれて高密度記録の障害になる問題がある。
【0008】
垂直磁化膜としては、Coを主成分とし、これにCr,Ta,Pt,Rh,Pd,Ti,Ni,Nb,Hf,Bなどを添加したCo合金薄膜が用いられる。磁性薄膜を構成するCo合金としては、主としてhcp構造の材料を用いる。Co合金薄膜は、この結晶のc軸、<00.1>方向に磁化容易軸を持ち、この磁化容易軸を垂直方向に配向させる。磁性薄膜は真空蒸着法やスパッタリング法により形成する。磁気記録したときの線記録密度や再生出力を向上し、再生ノイズを減少させて磁気記録特性を向上するために、上記のCo合金薄膜のc軸の垂直配向性を向上すると共に、結晶粒径の制御が必要であり、このために基板と磁性膜の間に構造制御用の下地層を形成するなどの改善策が従来から行われている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
垂直磁気記録媒体、特に裏打軟磁性層を有する垂直磁気記録媒体により超高密度磁気記録を実現するには、線記録密度の向上の他に再生信号に含まれるノイズ、特に媒体の微細構造に起因する媒体ノイズの低減と記録磁化を安定に保つことが重要である。
本発明は、このような問題認識のもとに、従来技術の欠点を解消し、優れた低ノイズ特性と記録磁化の安定性を有し超高密度磁気記録に好適な垂直磁気記録媒体及び磁気記憶装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、裏打軟磁性層を備えた垂直磁気記録媒体において、記録磁化の安定性を妨げる要因や媒体ノイズの原因について詳細に検討した結果、以下のことを見い出した。即ち、(1)記録磁化の安定性と媒体ノイズの低減を同時に満たすには、垂直磁気記録層の高角型比化と磁性膜の磁性粒子間の磁気的相互作用の制御が必要であること。(2)垂直磁気記録媒体において再生信号に寄与する軟磁性層は垂直磁化膜直下の10〜100nmの厚さの領域であること。(3)裏打軟磁性層表面の磁区構造が磁気記録したときの垂直磁気記録媒体表面の漏洩磁界分布に影響し、媒体ノイズを増大させること。(4)垂直磁化膜直下の10〜100nmの厚さの領域の軟磁性膜の磁区構造を制御することで軟磁性膜から発生するスパイク状ノイズを低減できること、などである。
【0011】
本発明では、次の手段により上記目的を達成する。
(1)組成の異なる少なくとも2層の磁性層からなる垂直磁化膜を用いる。具体的には、磁性粒子間の磁気的相互作用を弱め磁区サイズの微細化を促進する役割の高Cr濃度のCoCr合金垂直磁化膜と、この垂直磁化膜の片面の何れか一方、もしくは両面に極薄の高Pt濃度のCoCrPt合金磁性層を形成した媒体構成とする。前者のCoCr合金垂直磁化膜としてはCr濃度の高いCoCrxMy(x=18〜22at%、M:Pt,Ta,B,Nb,Hfから選ばれる1種以上の元素、y=14〜3at%)からなるhcp構造磁性膜を用い磁性粒子間の磁気的相互作用を弱め磁区サイズの微細化を促進し、後者のCoCrPt合金磁性層としては低Cr濃度(8〜15at%)、高Pt濃度(15〜25at%)の組成範囲のhcp構造の材料を用い磁性膜の保磁力や磁気異方性を向上する。CoCrPt合金磁性層の膜厚は10nm以下とし、望ましくは2〜6nmとする。上記のCoCr合金垂直磁化膜とCoCrPt合金磁性層は磁化容易軸のc軸を基板面にほぼ垂直に配向させる。
【0012】
前者の高Cr濃度CoCr合金垂直磁化膜は、Cr濃度を18〜22at%の範囲に選定することで、磁性粒子間の磁気的相互作用を弱め磁区サイズの微細化を促進する作用をする。後者の低Cr濃度、高Pt濃度のCoCrPt合金磁性層は、Cr濃度を8〜15at%の範囲とし、Pt濃度を15〜25at%の範囲とすることで、磁性膜の保磁力や磁気異方性を向上し磁化の安定性を促進する作用があり、両磁性膜のエピタキシャル成長を促進するためにいずれもhcp構造をとる磁性膜組成を選択する。
【0013】
(2)前記CoCr合金垂直磁化膜とCoCrPt合金磁性層の間に0.5〜1nmの範囲のRu層、CoRuy(x=35〜40at%)合金層、CoCrxRuy(x=20〜25at%、y=25〜20at%)合金層から選ばれる層を設ける。これによりCoCr合金垂直磁化膜とCoCrPt合金磁性層間の相互拡散が低減でき垂直磁化膜の磁気異方性の向上に有効である。Ru層、CoRuy合金層、CoCrxRuy合金層はCoCr合金垂直磁化膜とCoCrPt合金磁性層間のエピタキシャル成長を保つためにhcp構造となる組成範囲を選択し、その膜厚は両磁性膜間の静磁気的相互作用を適度に保つ膜厚、すなわち0.5〜1nmとする。
【0014】
(3)垂直磁化膜の最下面から10〜100nmの範囲の選択された領域(垂直磁化膜の最下面から10〜100nm離れた下方)に反強磁性層を配置し、該反強磁性層と垂直磁化膜の間に設けた軟磁性層の磁気異方性を制御する。反強磁性層は、Mn−X(X:Ir,Pt,Fe)もしくはCr−Mn−Pt合金から選ばれる材料とすることができる。
(4)垂直磁化膜の下層に配置した反強磁性層の両面に軟磁性層を設け、磁気記録の際に記録ヘッドからの漏洩磁界のフラックスリターンパスを形成し、記録効率を向上する。
【0015】
(5)垂直磁化膜と裏打軟磁性層の間に膜厚1〜5nmの非磁性中間層を設ける。非磁性中間層は、この上に形成する垂直磁化膜の結晶配向や結晶粒径制御に加えて、垂直磁化膜と裏打軟磁性層間の磁気的相互作用を弱めることにより裏打軟磁性層から発生するノイズを低減する効果がある。非磁性中間層としては例えばTiCr合金、CoCr合金、NiTaZr合金、Ti、あるいはSi,Ge,Cなど非晶質状の薄膜が使用できる。
【0016】
裏打軟磁性層としてはCo−Zr−X(X:Ta,Nb,Mo,W,Ni)系非晶質合金膜、もしくはFe−Al−Si合金やFe−C−Y(Y:Ta,Hf,Zr,Nb)合金などの非柱状多結晶膜の何れかの軟磁性層を用いる。非柱状多結晶膜化により、柱状結晶粒の成長による粒径拡大を防止し、磁区サイズの微細化によるノイズの低減ができる。裏打軟磁性層の多磁区化によるスパイク状ノイズを抑止するために、上記の軟磁性層に接してもしくは極薄のNiFe層やCoFe層を介して反強磁性層もしくは面内磁化膜からなる磁区固定層を設け、上記の軟磁性層の単磁区化を促進する。
【0017】
本発明による磁気記憶装置は、磁気記録媒体と、リング型もしくは単磁極型の磁気記録用ヘッドと、磁気抵抗効果型、スピンバルブ型もしくは磁気トンネル型の信号再生用ヘッドとを備える磁気記憶装置において、垂直磁気記録媒体として前述の垂直磁気記録媒体を用いたことを特徴とする。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施例を挙げ、図面を参照しながら詳細に説明する。図において、同一の符号を付した部分は、同じ機能を有する部分を示す。
〔実施例1〕
図1(a),(b),(c)は、本発明による垂直磁気記録媒体の基本構造の一例を示す断面模式図である。図1に示す垂直磁気記録媒体は、基板11上に裏打軟磁性層13の磁区制御用の磁区固定層12、非磁性中間層14、垂直磁化膜18及び保護層17を順次形成して構成される。垂直磁化膜18は、高Cr濃度のCoCrxMy合金垂直磁化膜(x=18〜22at%、M:Pt,Ta,B,Nb,Hfから選ばれる1種以上の元素を含む、y=14〜3at%)よりなる磁性膜A15と、低Cr濃度(8〜15at%)、高Pt濃度(15〜25at%)の組成範囲のCoCrPt合金磁性層よりなる磁性膜B16とから構成される。図1(a)は磁性膜A15の上層に磁性膜B16を形成した媒体、図1(b)は磁性膜A15の下層に磁性膜B16を形成した媒体、図1(c)は磁性膜A15の上下層に磁性膜B16を形成した媒体の構成を示す。
【0019】
磁性膜A15は、高濃度のCrを添加することにより磁性粒子間の磁気的相互作用を弱め磁区サイズの微細化を促進し、この磁性膜A15の片面もしくは両面に低Cr濃度、高濃度Pt添加した磁性膜B16を設けることにより磁区サイズの微細化を維持した状態で垂直磁化膜18の磁気異方性を向上する。磁性膜B(CoCrPt合金磁性層)の膜厚は10nm以下とし、望ましくは2〜6nmとする。
【0020】
垂直磁化膜18と裏打軟磁性層13の間に非磁性中間層14を設ける。非磁性中間層14は、この上に形成する垂直磁化膜の結晶配向や結晶粒径制御に加えて、垂直磁化膜と裏打軟磁性層間の磁気的相互作用を弱めることにより裏打軟磁性層から発生するノイズを低減する効果がある。非磁性中間層としては例えばTiCr合金、CoCr合金、NiTaZr合金、Ti、あるいはSi,Ge,Cなど非晶質状の薄膜などが使用できる。非磁性中間層14の膜厚は1〜5nmとする。
【0021】
裏打軟磁性層13は、記録ヘッドから発生する磁界のリターンパスとして記録効率向上の役割と、垂直磁化膜下面の磁極を打ち消すことにより再生出力向上の役割をする。記録効率向上のためのリターンパスとして作用する裏打軟磁性層の膜厚は、記録ヘッドのトラック幅が約0.2μmのとき200〜400nmが必要とされている。裏打軟磁性層13の多磁区化によるスパイク状ノイズ発生を抑止するために磁区固定層12を設け、磁気ディスクの特定の方向(例えば半径方向)に裏打軟磁性層13の磁気異方性を制御する。磁区固定層12は、CrMnPr合金、MnPt合金、FeMn合金、IrMn合金などの反強磁性膜あるいはこの反強磁性膜の表面に薄いNiFe合金膜やCoFe合金膜を被覆して構成する。また磁区固定層12は、面内配向したCoCr合金膜、もしくは面内配向したCoCr合金膜と前記反強磁性膜を組み合わせて構成することができる。
【0022】
図2(a),(b),(c)は、本発明による垂直磁気記録媒体の基本構造の他の一例を示す断面模式図である。図2に示す垂直磁気記録媒体は、基板11上に裏打軟磁性層13の磁区制御するための磁区固定層12、非磁性中間層14、垂直磁化膜18、及び保護層17を順次形成して構成される。垂直磁化膜18は、高Cr濃度のCoCrxMy合金垂直磁化膜(x=18〜22at%、M:Pt,Ta,B,Nb,Hfから選ばれる1種以上の元素を含む、y=14〜3at%)よりなる磁性膜A15と、低Cr濃度(8〜15at%)、高Pt濃度(15〜25at%)の組成範囲のCoCrPt合金磁性層よりなる磁性膜B16とを含み、磁性膜A15と磁性膜B16の間にはバッファー層19としてRu層、CoRu合金層、CoCrRu層の何れかの層が設けられている。図2(a)は磁性膜A15の上層にバッファー層19を介して磁性膜B16を形成した媒体、図2(b)は磁性膜A15の下層にバッファー層19を介して磁性膜B16を形成した媒体、図2(c)は磁性膜A15の上下層にバッファー層19を介して磁性膜B16を形成した媒体の構成を示す。
【0023】
磁性膜A15は、高濃度のCrを添加することにより磁性粒子間の磁気的相互作用を弱め磁区サイズの微細化を促進し、この磁性膜A15の片面もしくは両面に低Cr濃度、高濃度Pt添加した磁性膜B16を設けることにより磁区サイズの微細化を維持した状態で垂直磁化膜18の磁気異方性を向上する。磁性膜B16(CoCrPt合金磁性層)の膜厚は10nm以下とし、望ましくは2〜6nmとする。バッファー層19は磁性膜A15と磁性膜B16の間の相互拡散を制御し、両磁性膜膜間の静磁気的結合により垂直磁化膜の磁気異方性を向上させる。バッファー層19の膜厚は0.5〜1nmとする。
【0024】
垂直磁化膜18と裏打軟磁性層13の間に非磁性中間層14を設ける。非磁性中間層14は、この上に形成する垂直磁化膜の結晶配向や結晶粒径制御に加えて、垂直磁化膜と裏打軟磁性層間の磁気的相互作用を弱めることにより裏打軟磁性層から発生するノイズを低減する効果がある。非磁性中間層としては例えばTiCr合金、CoCr合金、NiTaZr合金、Ti、あるいはSi,Ge,Cなど非晶質状の薄膜が使用できる。非磁性中間層14の膜厚は1〜5nmとする。
【0025】
裏打軟磁性層13は、記録ヘッドから発生する磁界のリターンパスとして記録効率向上の役割と、垂直磁化膜下面の磁極を打ち消すことにより再生出力向上の役割をする。裏打軟磁性層13の多磁区化によるスパイク状ノイズの発生を抑止するために磁区固定層12を設け、磁気ディスクの特定の方向(例えば半径方向)に裏打軟磁性層13の磁気異方性を制御する。磁区固定層12は、CrMnPr合金、MnPt合金、FeMn合金、IrMn合金などの反強磁性膜あるいはこの反強磁性膜の表面に薄いNiFe合金膜やCoFe合金膜を被覆して構成する。また磁区固定層12は、面内配向したCoCr合金膜、もしくは面内配向したCoCr合金膜と前記反強磁性膜を組み合わせて構成することができる。
【0026】
本発明による媒体の記録再生特性の評価に用いた磁気記憶装置の一実施例を図3により説明する。磁気記憶装置は、磁気ディスク31、記録再生用の磁気ヘッド32、磁気ヘッドを支持するサスペンジョン33、アクチュエータ34、ボイスコイルモータ35、記録再生回路36、位置決め回路37、インターフェース制御回路38などで構成される。磁気ディスク31は図1、図2にて説明した垂直磁気記録媒体からなり、保護膜上には潤滑膜が被覆されている。磁気ヘッド32は、スライダー、この上に設けられた磁気記録用ヘッド及び信号再生用の磁気抵抗効果型、巨大磁気抵抗効果型もしくはスピンバルブ型素子あるいは磁気トンネル型素子からなる再生用ヘッドで構成される。記録信号再生用の磁気ヘッドのギャップ長は、高分解能の再生信号を得るために0.25μm以下とし、望ましくは0.08〜0.15μmとする。磁気記録用のヘッドは、単磁極型ヘッドを用いた。再生用ヘッドのトラック幅は、記録用ヘッド磁極のトラック幅より狭くし、記録トラック両端部から生じる再生ノイズを低減する。磁気ヘッド2は、サスペンジョン3によって支持される。本装置を用いて、本実施例の媒体ノイズ特性や記録再生特性評価を行った。
【0027】
図1(a),(b),(c)に示した垂直磁気記録媒体の詳細を以下に説明する。高真空DCマグネトロンスパッタリング装置により、図1(a)に断面構造を示す媒体1Aを作製した。洗浄したガラス基板11をスパッタリング装置に設置し、膜厚5nmのTaプリコート層、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜、、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜を順次形成し、300℃、1kOeの磁界中熱処理して磁区固定層12を形成した。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚200nmの非晶質構造のCo−10at%Ta−2at%Zrからなる裏打軟磁性層13を形成した。この上に膜厚5nmのTi−10at%Crからなる非磁性中間層14を介して膜厚15nmのCo−22at%Cr−14at%Pt合金から成る磁性膜A15、膜厚5nmのCo−8at%Cr−20at%Pt合金から成る磁性膜B16で構成される垂直磁化膜18を作製した。垂直磁化膜18の表面には膜厚5nmのC保護層17を形成した。
【0028】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置により、図1(b)に断面構造を示す媒体1Bを作製した。洗浄したガラス基板11をスパッタリング装置に設置し、膜厚5nmのTaプリコート層、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜を順次形成し、300℃、1kOeの磁界中熱処理して磁区固定層12を形成した。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚200nmの非晶質構造のCo−10at%Ta−2at%Zrからなる裏打軟磁性層13を形成した。この上に膜厚5nmのTi−10at%Crからなる非磁性中間層14を介して膜厚5nmのCo−8at%Cr−20at%Pt合金から成る磁性膜B16,膜厚15nmのCo−22at%Cr−14at%Pt合金から成る磁性膜A15で構成される垂直磁化膜18を作製した。垂直磁化膜18の表面には膜厚5nmのC保護層17を形成した。
【0029】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置により、図1(c)に断面構造を示す媒体1Cを作製した。洗浄したガラス基板11をスパッタリング装置に設置し、膜厚5nmのTaプリコート層、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜を順次形成し、300℃、1kOeの磁界中熱処理して磁区固定層12を形成した。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚200nmの非晶質構造のCo−10at%Ta−2at%Zrからなる裏打軟磁性層13を形成した。この上に膜厚5nmのTi−10at%Crからなる非磁性中間層14を介して膜厚5nmのCo−8at%Cr−20at%Pt合金から成る磁性膜B16,膜厚10nmのCo−22at%Cr−14at%Pt合金から成る磁性膜A15,膜厚5nmのCo−8at%Cr−20at%Pt合金から成る磁性膜B16で構成される垂直磁化膜18を作製した。垂直磁化膜18の表面には膜厚5nmのC保護層17を形成した。
【0030】
図2(a),(b),(c)に示した垂直磁気記録媒体の詳細を以下に説明する。高真空DCマグネトロンスパッタリング装置により、図2(a)に断面構造を示す媒体2Aを作製した。洗浄したガラス基板11をスパッタリング装置に設置し、膜厚5nmのTaプリコート層、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜を順次形成し、300℃、1kOeの磁界中熱処理して磁区固定層12を形成した。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚200nmの非晶質構造のCo−10at%Ta−2at%Zrからなる裏打軟磁性層13を形成した。この上に膜厚5nmのTi−10at%Crからなる非磁性中間層14を介して膜厚15nmのCo−22at%Cr−14at%Pt合金から成る磁性膜A15、膜厚0.8nmのRu層からなるバッファー層19、膜厚5nmのCo−8at%Cr−20at%Pt合金から成る磁性膜B16で構成される垂直磁化膜18を作製した。垂直磁化膜18の表面には膜厚5nmのC保護層17を形成した。
【0031】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置により、図2(b)に断面構造を示す媒体2Bを作製した。洗浄したガラス基板11をスパッタリング装置に設置し、膜厚5nmのTaプリコート層、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜を順次形成し、300℃、1kOeの磁界中熱処理して磁区固定層12を形成した。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚200nmの非晶質構造のCo−10at%Ta−2at%Zrからなる裏打軟磁性層13を形成した。この上に膜厚5nmのTi−10at%Crからなる非磁性中間層14を介して膜厚5nmのCo−8at%Cr−20at%Pt合金から成る磁性膜B16、膜厚0.8nmのRu層からなるバッファー層19、膜厚15nmのCo−22at%Cr−14at%Pt合金から成る磁性膜A15で構成される垂直磁化膜18を作製した。垂直磁化膜18の表面には膜厚5nmのC保護層17を形成した。
【0032】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置により、図2(c)に断面構造を示す媒体2Cを作製した。洗浄したガラス基板11をスパッタリング装置に設置し、膜厚5nmのTaプリコート層、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜を順次形成し、300℃、1kOeの磁界中熱処理して磁区固定層12を形成した。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚200nmの非晶質構造のCo−10at%Ta−2at%Zrからなる裏打軟磁性層13を形成した。この上に膜厚5nmのTi−10at%Crからなる非磁性中間層14を介して膜厚5nmのCo−8at%Cr−20at%Pt合金から成る磁性膜B16、膜厚0.8nmのRu層からなるバッファー層19、膜厚10nmのCo−22at%Cr−14at%Pt合金から成る磁性膜A15、膜厚0.8nmのRu層からなるバッファー層19、膜厚5nmのCo−8at%Cr−20at%Pt合金から成る磁性膜B16の順に形成して構成される垂直磁化膜18を作製した。垂直磁化膜18の表面には膜厚5nmのC保護層17を形成した。
【0033】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置により、比較用媒体R1を作製した。洗浄したガラス基板11をスパッタリング装置に設置し、膜厚5nmのTaプリコート層、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜を順次形成し、300℃、1kOeの磁界中熱処理して磁区固定層12を形成した。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚200nmの非晶質構造のCo−10at%Ta−2at%Zrからなる裏打軟磁性層13を形成した。この上に膜厚5nmのTi−10at%Crからなる非磁性中間層14を介して膜厚20nmのCo−22at%Cr−14at%Pt合金から成る磁性膜A15からなる垂直磁化膜18を形成した。垂直磁化膜18の表面には膜厚5nmのC保護層17を形成した。
【0034】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置により、比較用媒体R2を作製した。洗浄したガラス基板11をスパッタリング装置に設置し、膜厚5nmのTaプリコート層、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜を順次形成し、300℃、1kOeの磁界中熱処理して磁区固定層12を形成した。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚200nmの非晶質構造のCo−10at%Ta−2at%Zrからなる裏打軟磁性層13を形成した。この上に膜厚5nmのTi−10at%Crからなる非磁性中間層14を介して膜厚20nmのCo−8at%Cr−20at%Pt合金から成る磁性膜B16からなる垂直磁化膜18を作製した。垂直磁化膜18の表面には膜厚5nmのC保護層17を形成した。
【0035】
本実施例で作製した媒体1A,1B,1C,2A,2B,2C及び比較用媒体R1,R2の垂直磁化膜は、いずれもhcp構造のc軸が基板面にほぼ垂直に配向しており、エピタキシャル的に成長していることがX線回折法と薄膜断面の透過電子顕微鏡観察により確認された。本実施例では、磁区固定層、非磁性中間層、垂直磁化膜、バッファー層などの材料の一例で本発明の内容を説明したが、この他に前記した材料組成の組み合わせを用いても同様の効果を得ることが可能である。
【0036】
表1に上記本発明の媒体1A、1B、1C、2A、2B、2C及び比較用媒体R1,R2の特性を比較して示す。表において、媒体の保磁力(Hc)、角型比(Mr/Ms)はカー効果型磁力計により測定した膜面垂直方向の磁気特性である。図3に略示した磁気録装置用いて上記媒体にトラック幅0.2mの単磁極型磁気ヘッドで磁気記録し、シールド間隔80nmの巨大磁気抵抗型ヘッド(GMRヘッド)で再生し、媒体ノイズと記録分解能を測定した。記録再生時のスペーシングは16nmとした。交流消去した媒体表面の磁区構造を磁気力顕微鏡で観察し、表面に形成された不規則磁区の大きさを測定した。ここで不規則磁区の大きさは、同じ面積の円に近似したときの直径で比較した。不規則磁区の径が大きいほど媒体ノイズが大きく、記録分解能が低下する性質がある。磁化減衰率は、低線記録密度から400kFCI(Kilo Flux Change per Inch)の記録密度範囲の磁気信号を記録し、記録直後の信号に対する一定時間経過後の信号強度の割合を測定した。表1には線記録密度100kFCIの記録信号の1時間後の磁化減衰率を示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1の比較から明らかなように、高Cr濃度のCoCr合金垂直磁化膜の単一層からなる従来媒体構成の比較用媒体R1は、媒体ノイズの低減、記録分解能は、高Cr濃度のCoCr合金垂直磁化膜の採用や下地層の改善によりある程度改善できるが、一方では磁気異方性の低下により角型比(Mr/Ms)が低下し磁化の安定性(磁化減衰率)が劣化し、上記媒体ノイズの低減、記録分解能の向上及び磁化の安定性を同時に実現するのが困難である。従来媒体構成の比較用媒体R2は、高Pt濃度のCoCrPt合金磁性層により磁気異方性が向上し角型比(Mr/Ms)が大きく磁化の安定性(磁化減衰率)は改善されるが、媒体ノイズや記録分解能が良くない。
【0039】
本発明のごとく上記高Cr濃度のCoCr合金垂直磁化膜の上層、下層、もしくは上下層に薄い低Cr濃度(8〜15at%)、高Pt濃度(15〜25at%)のCoCrPt合金磁性層をもうけることにより、従来媒体に比べて保磁力(Hc)、角型比(Mr/Ms)などの磁気特性を大幅に改善でき、媒体ノイズの低減と記録分解能向上、磁化の安定性などの大幅な改善が同時に実現可能となった。また、高保磁力、高角型比の実現により、線記録密度5kFCIから400kFCIの広記録密度領域において10%以下の磁化の安定性が維持できることが分かった。
【0040】
〔実施例2〕
図1(a)に断面構造を示す本発明の媒体と図2(a)に断面構造を示す本発明の媒体を例にとり、磁性膜A15(高Cr濃度のCoCr合金垂直磁化膜)と磁性膜B16(低Cr濃度、高PtCr濃度のCoCrPt合金磁性層)の磁性膜厚依存性を調べた。ここで、磁性膜A15と磁性膜B16からなる垂直磁化膜の全膜厚を20nmとし、磁性膜B16の膜厚を0〜10nmの範囲で変化した。
【0041】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置により、図1(a)に断面構造を示す媒体を作製した。洗浄したガラス基板11をスパッタリング装置に設置し、膜厚5nmのTaプリコート層、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜、及び膜厚5nmの80at%Co−Fe膜を順次形成し、300℃、1kOeの磁界中熱処理して磁区固定層12を形成した。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚200nmの非晶質構造のCo−8at%Ta−5at%Zrからなる裏打軟磁性層13を形成した。この上に膜厚5nmのNi−5at%Ta−20at%Zrからなる非磁性中間層14を介して磁性膜A15と磁性膜B16からなる垂直磁化膜18を形成した。磁性膜A15としてCo−19at%Cr−12at%Pt−3at%B合金を用い、膜厚を20nm,19nm,18nm,16nm,14nm,12nm,10nmとそれぞれ変化した。磁性膜B16としてCo−8at%Cr−22at%Pt合金を用い、膜厚を0nm,1nm,2nm,4nm,6nm,8nm,10nmとそれぞれ変化した。垂直磁化膜18の表面に膜厚5nmのC保護層17を形成した媒体を作製した。
【0042】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置により、図2(a)に断面構造を示す媒体を作製した。洗浄したガラス基板11をスパッタリング装置に設置し、膜厚5nmのTaプリコート層、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜、及び膜厚5nmの80at%Co−Fe膜を順次形成し、300℃、1kOeの磁界中熱処理して磁区固定層12を形成した。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚200nmの非晶質構造のCo−8at%Ta−5at%Zrからなる裏打軟磁性層13を形成した。この上に膜厚5nmのNi−5at%Ta−20at%Zrからなる非磁性中間層14を介して磁性膜A15、バッファー層19、磁性膜B16を順次形成した垂直磁化膜18を作製した。バッファー層19として膜厚0.8nmのCo−40at%Ru合金を用いた。磁性膜A15としてCo−19at%Cr−12at%Pt−3at%B合金を用い、膜厚を20nm,19nm,18nm,16nm,14nm,12nm,10nmとそれぞれ変化した。磁性膜B16としてCo−8at%Cr−22at%Pt合金を用い、膜厚を0nm,1nm,2nm,4nm,6nm,8nm,10nmとそれぞれ変化した。垂直磁化膜18の表面に膜厚5nmのC保護層17を形成した媒体を作製した。
【0043】
本実施例で作製した垂直磁化膜は、いずれもhcp構造のc軸が基板面にほぼ垂直に配向しており、エピタキシャル的に成長していることがX線回折法と薄膜断面の透過電子顕微鏡観察により確認された。本実施例では、磁区固定層、非磁性中間層、垂直磁化膜、バッファー層などの材料の一例で本発明の内容を説明したが、この他に前記した材料組成の組み合わせを用いても同様の効果を得ることが可能である。
【0044】
表2に上記の媒体の特性を比較して示す。表において、媒体の保磁力(Hc)、角型比(Mr/Ms)はカー効果型磁力計により測定した膜面垂直方向の磁気特性である。図3に略示した磁気録装置用いて上記媒体にトラック幅0.2mの単磁極型磁気ヘッドで磁気記録し、シールド間隔80nmの巨大磁気抵抗型ヘッド(GMRヘッド)で再生し、媒体ノイズと記録分解能を測定した。記録再生時のスペーシングは16nmとした。交流消去した媒体表面の磁区構造を磁気力顕微鏡で観察し、表面に形成された不規則磁区の大きさを測定した。ここで不規則磁区の大きさは、同じ面積の円に近似したときの直径で比較した。
【0045】
【表2】
【0046】
表2の比較から明らかなように、高Cr濃度のCoCr合金垂直磁化膜であるCo−19at%Cr−12at%Pt−3at%B合金磁性膜(磁性膜A)単層からなる従来の媒体に比べて、本発明のごとく磁性膜Aの上層に低Cr濃度、高PtCr濃度のCoCrPt合金磁性層よりなる磁性膜Bを形成することにより、保磁力や角型比などの磁気特性を大幅に改善でき、高保磁力、高角型比の実現により線記録密度5kFCIから400kFCIの広い範囲において10%以下の磁化の安定性(磁化減衰率)を確保でき、媒体ノイズの低減と記録分解能向上が同時に実現できる。磁性膜Aの上層に形成する低Cr濃度、高PtCr濃度のCoCrPt合金磁性層よりなる磁性膜Bの望ましい膜厚は2〜6nmである。
【0047】
本実施例では、磁性膜Aの上に磁性膜Bを直接もしくはバッファー層を介して形成した図1(a)、図2(a)の構成の垂直磁化膜を例に本発明を説明したが、図1(b),(c)や図2(b),(c)の構成の垂直磁化膜でも同様の効果が得られた。
【0048】
〔実施例3〕
磁区固定層12の材料構成を変化したとき、裏打軟磁性層13から発生するスパイク状ノイズを比較した一例を図4により説明する。基板11上に磁区固定層12、裏打軟磁性層13を形成し、この上に膜厚5nmのNi−5at%Ta−20at%Zrからなる非磁性中間層14、膜厚15nmのCo−19at%Cr−12at%Pt−3at%B合金から成る磁性膜A15、膜厚5nmのCo−8at%Cr−22at%Pt合金から成る磁性膜B16、及び膜厚5nmのC保護層17を順次形成した図1(a)の構成の試料を用いて内容の説明をする。
裏打軟磁性層13として、Co−10at%Ta−2at%Zr非晶質膜、Fe−8at%Ta−12at%C多結晶膜、及びFe−12at%Al−5at%Si多結晶膜を用いた。
【0049】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置に洗浄したガラス基板11を設置し、膜厚5nmのTaプリコート層22、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜A23、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜24、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜B25を順次形成し、300℃、1kOeの磁界中熱処理して図4(a)の構成の磁区固定層12を形成した。基板の後方にソレノイド型の電磁石を配置し、これに通電してディスクの半径方向の磁界を発生して基板温度の低下と共に印加磁界強度を小さくした。この処理により磁気ディスクの半径方向に異方性が付与された。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚100nm,200nm,300nmの非晶質構造のCo−10at%Ta−2at%Zrからなる裏打軟磁性層13を形成し、この上に前記非磁性中間層14、磁性膜A15、磁性膜B16、及び保護層17を順次形成した媒体D1,D2,D3を作製した。比較のために磁区固定層12を設けず、ガラス基板11上に直接膜厚300nmのCo−10at%Ta−2at%Zrからなる裏打軟磁性層13を形成し、この上に前記非磁性中間層14、磁性膜A15、磁性膜B16、及び保護層17を順次形成した媒体D4を作製した。
【0050】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置に洗浄したガラス基板11を設置し、膜厚5nmのTaプリコート層22、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜A23、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜24、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜B25を順次形成した。この上に膜厚10nmのCo−18at%Cr−14at%Pt磁性膜からなる面内磁化膜A26、膜厚0.8nmのRu膜27、膜厚10nmのCo−18at%Cr−14at%Pt磁性膜からなる面内磁化膜B28を順に形成した図4(b)の構成の磁区固定層12を作製した。磁区固定層12は、300℃、2kOeの磁界中熱処理した。基板の後方にソレノイド型の電磁石を配置し、これに通電してディスクの半径方向の磁界を発生して基板温度の低下と共に印加磁界強度を小さくした。この処理により磁気ディスクの半径方向に異方性が付与された。Co−18at%Cr−14at%Pt磁性膜は膜面内方向に磁気異方性を有し、下層のNiFe膜と強磁性結合して磁気ディスクの半径方向に異方性が付与された。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚100nm,200nm,300nmの非晶質構造のCo−10at%Ta−2at%Zrからなる裏打軟磁性層13を形成し、この上に前記非磁性中間層14、磁性膜A15、磁性膜B16、及び保護層17を順次形成した媒体E1,E2,E3を作製した。
【0051】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置に洗浄したガラス基板11を設置し、膜厚20nmのNiAlTaプリコート層22、膜厚5nmのCr−10at%Ti下地層29、この上に膜厚10nmのCo−18at%Cr−14at%Pt磁性膜からなる面内磁化膜A26、膜厚0.8nmのRu膜27、膜厚10nmのCo−18at%Cr−14at%Pt磁性膜からなる面内磁化膜B28を順に形成した。続いて、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜A23、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜24、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜B25を順次形成した図4(c)の構成の磁区固定層12を作製した。磁区固定層12は、300℃、2kOeの磁界中熱処理した。基板の後方にソレノイド型の電磁石を配置し、これに通電してディスクの半径方向の磁界を発生して基板温度の低下と共に印加磁界強度を小さくした。この処理により磁気ディスクの半径方向に異方性が付与された。Co−18at%Cr−14at%Pt磁性膜は膜面内方向に磁気異方性を有し、上層のNiFe膜と強磁性結合して磁気ディスクの半径方向に異方性が付与された。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚100nm,200nm,300nmの非晶質構造のCo−10at%Ta−2at%Zrからなる裏打軟磁性層13を形成し、この上に前記非磁性中間層14、磁性膜A15、磁性膜B16、及び保護層17を順次形成した媒体F1,F2,F3を作製した。
【0052】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置に洗浄したガラス基板11を設置し、膜厚5nmのTaプリコート層22、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜A23、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜24、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜B25を順次形成し図4(a)の構成の磁区固定層12を形成した。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚100nm,200nm,300nmのFe−8at%Ta−12at%C多結晶膜からなる裏打軟磁性層13を形成し、400℃、1kOeの磁界中熱処理をした。基板の後方にソレノイド型の電磁石を配置し、これに通電してディスクの半径方向の磁界を発生して基板温度の低下と共に印加磁界強度を小さくした。この処理によりFe−8at%Ta−12at%C膜は粒径約10nmのFeの微結晶粒から構成されていた。裏打軟磁性層13の上に前記非磁性中間層14、磁性膜A15、磁性膜B16、及び保護層17を順次形成した媒体G1,G2,G3を作製した。比較のために磁区固定層12を設けず、ガラス基板11の上に直接膜厚300nmのFe−8at%Ta−12at%Cからなる裏打軟磁性層13を形成し、この上に前記非磁性中間層14、磁性膜A15、磁性膜B16、及び保護層17を順次形成した媒体G4を作製した。
【0053】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置に洗浄したガラス基板11を設置し、膜厚5nmのTaプリコート層22、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜A23、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜24、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜B25を順次形成した。この上に膜厚10nmのCo−18at%Cr−14at%Pt磁性膜からなる面内磁化膜A26、膜厚0.8nmのRu膜27、膜厚10nmのCo−18at%Cr−14at%Pt磁性膜からなる面内磁化膜B28を順に形成した図4(b)の構成の磁区固定層12を作製した。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚100nm,200nm,300nmのFe−8at%Ta−12at%C多結晶膜からなる裏打軟磁性層13を形成し、400℃、2kOeの磁界中熱処理をした。基板の後方にソレノイド型の電磁石を配置し、これに通電してディスクの半径方向の磁界を発生して基板温度の低下と共に印加磁界強度を小さくした。この処理によりFe−8at%Ta−12at%C膜は粒径約10nmのFeの微結晶粒から構成されていた。裏打軟磁性層13の上に前記非磁性中間層14、磁性膜A15、磁性膜B16、及び保護層17を順次形成した媒体H1,H2,H3を作製した。
【0054】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置に洗浄したガラス基板11を設置し、膜厚20nmのNiAlTaプリコート層22、膜厚5nmのCr−10at%Ti下地層29、この上に膜厚10nmのCo−18at%Cr−14at%Pt磁性膜からなる面内磁化膜A26、膜厚0.8nmのRu膜27、膜厚10nmのCo−18at%Cr−14at%Pt磁性膜からなる面内磁化膜B28を順に形成した。続いて、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜A23、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜24、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜B25を順次形成した図4(c)の構成の磁区固定層12を作製した。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚100nm,200nm,300nmのFe−8at%Ta−12at%C多結晶膜からなる裏打軟磁性層13を形成し、400℃、2kOeの磁界中熱処理をした。基板の後方にソレノイド型の電磁石を配置し、これに通電してディスクの半径方向の磁界を発生して基板温度の低下と共に印加磁界強度を小さくした。この処理によりFe−8at%Ta−12at%C膜は粒径約10nmのFeの微結晶粒から構成されていた。裏打軟磁性層13の上に前記非磁性中間層14、磁性膜A15、磁性膜B16、及び保護層17を順次形成した媒体J1,J2,J3を作製した。
【0055】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置に洗浄したガラス基板11を設置し、膜厚5nmのTaプリコート層22、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜A23、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜24、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜B25を順次形成し図4(a)の構成の磁区固定層12を形成した。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚100nm,200nm,300nmのFe−12at%Al−5at%Si多結晶膜からなる裏打軟磁性層13を形成し、300℃、1kOeの磁界中熱処理をした。Fe−12at%Al−5at%Si裏打軟磁性層13は、薄膜形成中柱状結晶の成長による粒の粗大化を防止するために、膜厚20nmのFe−12at%Al−5at%Si層と膜厚1nmのSi層の積層構造とした。これによりFe−12at%Al−5at%Si多結晶膜からなる裏打軟磁性層13は粒径20nm以下の微細結晶粒となった。基板の後方にソレノイド型の電磁石を配置し、これに通電してディスクの半径方向の磁界を発生して基板温度の低下と共に印加磁界強度を小さくした。裏打軟磁性層13の上に前記非磁性中間層14、磁性膜A15、磁性膜B16、及び保護層17を順次形成した媒体K1,K2,K3を作製した。比較のために磁区固定層12を設けず、ガラス基板11の上に直接膜厚300nmのFe−12at%Al−5at%Si多結晶膜からなる裏打軟磁性層13を形成し、この上に前記非磁性中間層14、磁性膜A15、磁性膜B16、及び保護層17を順次形成した媒体K4を作製した。Fe−12at%Al−5at%Si裏打軟磁性層13は、薄膜形成中柱状結晶の成長による粒の粗大化を防止するために、膜厚20nmのFe−12at%Al−5at%Si層と膜厚1nmのSi層の積層構造とした。
【0056】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置に洗浄したガラス基板11を設置し、膜厚5nmのTaプリコート層22、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜A23、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜24、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜B25を順次形成した。この上に膜厚10nmのCo−18at%Cr−14at%Pt磁性膜からなる面内磁化膜A26、膜厚0.8nmのRu膜27、膜厚10nmのCo−18at%Cr−14at%Pt磁性膜からなる面内磁化膜B28を順に形成した図4(b)の構成の磁区固定層12を作製した。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚100nm,200nm,300nmのFe−12at%Al−5at%Si多結晶膜からなる裏打軟磁性層13を形成した。Fe−12at%Al−5at%Si裏打軟磁性層13は、薄膜形成中柱状結晶の成長による粒の粗大化を防止するために、膜厚20nmのFe−12at%Al−5at%Si層と膜厚1nmのSi層の積層構造とした。基板の後方にソレノイド型の電磁石を配置し、これに通電してディスクの半径方向の磁界を発生して基板温度の低下と共に印加磁界強度を小さくした。裏打軟磁性層13の上に前記非磁性中間層14、磁性膜A15、磁性膜B16、及び保護層17を順次形成した媒体L1,L2,L3を作製した。
【0057】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置に洗浄したガラス基板11を設置し、膜厚20nmのNiAlTaプリコート層22、膜厚5nmのCr−10at%Ti下地層29、この上に膜厚10nmのCo−18at%Cr−14at%Pt磁性膜からなる面内磁化膜A26、膜厚0.8nmのRu膜27、膜厚10nmのCo−18at%Cr−14at%Pt磁性膜からなる面内磁化膜B28を順に形成した。続いて、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜A23、膜厚50nmの80at%Mn−Ir反強磁性膜24、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜B25を順次形成した図4(c)の構成の磁区固定層12を作製した。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚100nm,200nm,300nmのFe−12at%Al−5at%Si多結晶膜からなる裏打軟磁性層13を形成した。Fe−12at%Al−5at%Si裏打軟磁性層13は、薄膜形成中柱状結晶の成長による粒の粗大化を防止するために、膜厚20nmのFe−12at%Al−5at%Si層と膜厚1nmのSi層の積層構造とした。基板の後方にソレノイド型の電磁石を配置し、これに通電してディスクの半径方向の磁界を発生して基板温度の低下と共に印加磁界強度を小さくした。裏打軟磁性層13の上に前記非磁性中間層14、磁性膜A15、磁性膜B16、及び保護層17を順次形成した媒体M1,M2,M3を作製した。
【0058】
本実施例で作製した媒体D(−1,−2,−3,−4)、媒体E(−1,−2,−3)、媒体F(−1,−2,−3)、媒体G(−1,−2,−3,−4)、媒体H(−1,−2,−3)、媒体J(−1,−2,−3)、媒体K(−1,−2,−3,−4)、媒体L(−1,−2,−3)、媒体M(−1,−2,−3)を図3に略示した磁気記録装置に設置し、裏打軟磁性層13に形成された磁区から発生するスパイク状のノイズ信号を測定比較した。ここでスパイク状のノイズ信号は次のように定義した。磁気ヘッドにより垂直磁化膜18を直流消去し、再生ヘッドで検出される平均の直流消去ノイズレベルの1.2倍以上の信号強度を有する不規則状の信号をスパイク状のノイズ信号とし、磁気ディスク一周当たりに検出される数を比較した。測定結果の一例を表3に比較して示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3の比較から明らかなように、何れの裏打軟磁性層においても磁区固定層と組み合わせることにより裏打軟磁性層への磁区の形成を抑制でき、その結果スパイク状ノイズ信号の数を大幅に低減できる。また磁区固定層の構成を変化することにより磁区固定層と裏打軟磁性層間の強磁性結合の強さを制御でき、より厚い裏打軟磁性層に対しても磁区構造制御の効果を発揮できスパイク状ノイズ信号の数を低減できる。
【0061】
本実施例では、裏打軟磁性層としてCo−10at%Ta−2at%Zr非晶質膜、Fe−8at%Ta−12at%C多結晶膜、及びFe−12at%Al−5at%Si多結晶膜を用いた例で説明したが、この他にCo−Zr−X(X:Ta,Nb,Mo,W,Ni)系非晶質合金膜、もしくはFe−Al−Si合金やFe−C−Y(Y:Ta,Hf,Zr,Nb)合金などの非柱状多結晶膜を用いても同様の効果を得ることができる。また反強磁性層としてMn−Ir合金を用いた例で説明したが、他にMn−Fe合金、Mn−Pt合金、Cr−Mn−Pt合金などを用いても良い。更に本発明の垂直磁気記録媒体として図1(a)の構成で発明の内容を説明したが、本発明の図1(b),(c)、図2(a),(b),(c)の垂直磁気記録媒体構成でも同様な効果を得ることができる。
【0062】
基板11としてガラス基板を用いた例により説明したが、ガラス基板の他にSiディスク基板、NiP被覆アルミニウム基板、カーボン基板、あるいは高分子基板などを用いてもよい。
実施例1、実施例2、及び実施例3で用いた低Cr濃度、高Pt濃度の磁性膜B16の組成を種々変化した試料を作製した。図5は、図1、図2、図4に示した媒体構成の試料において、媒体ノイズの低減、記録分解能の向上、磁化の安定性、及び低スパイクノイズ特性が優れた磁性膜B16の組成を○印で示した。また図5において曲線で囲った領域は、同様に媒体ノイズの低減、記録分解能の向上、磁化の安定性、及び低スパイクノイズ特性が優れた磁性膜B16の組成範囲である。×印は上記の何れかの効果が不十分な組成を示す。
【0063】
〔実施例4〕
垂直磁化膜の下層に裏打軟磁性層の磁区固定のために設けた反強磁性層の配置場所とスパイクノイズの関係を調べた。図1(a),(b),(c)又は図2(a),(b),(c)のいずれの媒体構成でも同様の効果が得られるが、本実施例では、図1(a)の垂直媒体構成の試料を例に内容を図6を用いて説明する。
【0064】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置に洗浄したガラス基板11を設置し、膜厚5nmのTaプリコート層22、膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜A23、膜厚20nmの48at%Mn−Ir反強磁性膜24、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜B25を順次形成し、300℃、1kOeの磁界中熱処理して図6(a)の構成の磁区固定層12を形成した。基板の後方にソレノイド型の電磁石を配置し、これに通電してディスクの半径方向の磁界を発生して基板温度の低下と共に印加磁界強度を小さくした。この処理により磁気ディスクの半径方向に異方性が付与された。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚10nm,50nm,100nm,200nm,及び300nmの非晶質構造のCo−10at%Ta−2at%Zrからなる裏打軟磁性層A41を形成し、この上に膜厚5nmのNi−5at%Ta−20at%Zrからなる非磁性中間層14、膜厚15nmのCo−19at%Cr−12at%Pt−3at%B合金から成る磁性膜A15、膜厚5nmのCo−8at%Cr−22at%Pt合金から成る磁性膜B16、及びC保護層17を順次形成し図6(a)の構成の媒体N(−1,−2,−3,−4,−5)を作製した。
【0065】
高真空DCマグネトロンスパッタリング装置に洗浄したガラス基板11を設置し、膜厚5nmのTaプリコート層22を形成し、この上に裏打軟磁性層B42として膜厚300nmのFe−8at%Ta−12at%C膜を形成し400℃に加熱した。この熱処理によりFeの微結晶粒が析出した構造の軟磁性膜が形成された。裏打軟磁性層B42としては、他にCo−Zr−X(X:Ta,Nb,Mo,W,Ni)系非晶質合金膜、もしくはFe−Al−Si合金やFe−C−Y(Y:Ta,Hf,Zr,Nb)合金などを使用できる。裏打軟磁性層B42の上に膜厚10nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜A23、膜厚10nmの48at%Mn−Ir反強磁性膜24、及び膜厚5nmの80at%Ni−Fe膜からなる軟磁性膜B25を順次形成し、300℃、1kOeの磁界中熱処理して図6(b)の構成の磁区固定層12を形成した。基板の後方にソレノイド型の電磁石を配置し、これに通電してディスクの半径方向の磁界を発生して基板温度の低下と共に印加磁界強度を小さくした。この処理により磁気ディスクの半径方向に異方性が付与された。引き続き同一真空中で前記磁区固定層12の上に膜厚10nm,50nm,100nm,200nm,及び300nmの非晶質構造のCo−10at%Ta−2at%Zrからなる裏打軟磁性層A41を形成し、この上に膜厚5nmのNi−5at%Ta−20at%Zrからなる非磁性中間層14、膜厚15nmのCo−19at%Cr−12at%Pt−3at%B合金から成る磁性膜A15、膜厚5nmのCo−8at%Cr−22at%Pt合金から成る磁性膜B16、及びC保護層17を順次形成し図6(b)の構成の媒体O(−1,−2,−3,−4,−5)を作製した。
【0066】
本実施例で作製した媒体N(−1,−2,−3,−4,−5)、及び媒体O(−1,−2,−3,−4,−5)を図3に略示した磁気記録装置に設置し、裏打軟磁性層41に形成された磁区から発生するスパイク状のノイズ信号と磁気記録したときのオーバーライト特性を測定比較した。ここでスパイク状のノイズ信号は次のように定義した。磁気ヘッドにより垂直磁化膜18を直流消去し、再生ヘッドで検出される平均の直流消去ノイズレベルの1.2倍以上の信号強度を有する不規則状の信号をスパイク状のノイズ信号とし、磁気ディスク一周当たりに検出される数を比較した。またオーバーライト特性は、初めに線記録密度300kFCIの信号を記録し、同一記録トラック上に線記録密度40kFCIの信号を重ね書きした。このとき最初に記録した消し残り信号(N)と後に記録した信号(S)の比(N/S)が−35dBより悪い特性を×印、優れた特性を○印で示した。測定結果の一例を表4に比較して示す。
【0067】
【表4】
【0068】
表4の比較から明らかなように、垂直磁化膜の下層に反強磁性膜24配置する事により、この間に配置した裏打軟磁性層Aへの磁区形成を抑制することができ、特に垂直磁化膜18から100nm以下の距離の位置に反強磁性膜24を配置し、垂直磁化膜18と反強磁性膜24の間に軟磁性層を配置した構成とすることによりスパイク状ノイズを低減する効果が大きい。また前記反強磁性膜24の下層にも裏打軟磁性層B42を配置した構成により、スパイク状ノイズの低減に加えて、記録効率が向上できその結果オーバーライト特性を向上できる。
本実施例では、裏打軟磁性層、反強磁性層、非磁性中間層、磁性膜などの材料の一例を用いて説明したが、前記した材料の他の何れの組み合わせでも同様の効果を得ることができる。
【0069】
〔実施例5〕
図3を用いて、本発明による磁気記憶装置の一実施例を説明する。磁気記憶装置は、磁気ディスク31、記録再生用の磁気ヘッド32、磁気ヘッドを支持するサスペンジョン33、アクチュエータ34、ボイスコイルモータ35、記録再生回路36、位置決め回路37、インターフェース制御回路38などで構成される。磁気ディスク31は上記実施例にて説明した垂直磁気記録媒体からなり、保護膜上には潤滑膜が被覆されている。磁気ヘッド32は、スライダー、この上に設けられた磁気記録用ヘッド及び信号再生用の磁気抵抗効果型、巨大磁気抵抗効果型もしくはスピンバルブ型素子あるいは磁気トンネル型素子からなる再生用ヘッドで構成される。記録信号再生用の磁気ヘッドのギャップ長は、高分解能の再生信号を得るために0.25μm以下とし、望ましくは0.08〜0.15μmとする。磁気記録用のヘッドは、単磁極型ヘッドもしくはリング型ヘッドのいずれを用いても良い。再生用ヘッドのトラック幅は、記録用ヘッド磁極のトラック幅より狭くし、記録トラック両端部から生じる再生ノイズを低減する。
【0070】
磁気ヘッド2は、サスペンジョン3によって支持される。本装置を用いて、本実施例の媒体ノイズ特性や記録再生特性評価を行った。表1、表2に示したように本発明の垂直磁気記録媒体により記録分解能:300kFCI以上の高密度記録が実現でき、この密度における媒体ノイズ:8μVrms/μVpp、エラーレート:10-6以下の高密度特性が得られ、面記録密度50Gb/in2以上の磁気ディスク装置を構成できる。
【0071】
【発明の効果】
本発明によると、高Cr濃度のCoCr合金垂直磁化膜の下層又は上層の何れか、もしくは上下両層に低Cr濃度、高Pt濃度の極薄のCoCrPt合金磁性層を設けた垂直磁化膜を用い、裏打磁性層として非晶質材料もしくは非柱状構造の多結晶性薄膜を用い、磁区固定層により裏打磁性層の磁区構造を制御することにより、媒体ノイズの原因となる垂直磁化膜媒表面における不規則磁区の抑止と不規則磁区サイズの微細化が可能となり、媒体ノイズの小さい記録磁化の安定性に優れた超高密度磁気記録に好適な垂直磁気記録媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による垂直磁気記録媒体の基本構造の一例を示す断面模式図。
【図2】本発明による垂直磁気記録媒体の基本構造の他の例を示す断面模式図。
【図3】磁気記憶装置の説明図。
【図4】磁区固定層の構成の説明図。
【図5】本発明による垂直磁気記録媒体の磁性膜Bの材料組成の説明図。
【図6】本発明による垂直磁気記録媒体の基本構造の他の例を示す断面模式図。
【符号の説明】
11:基板、12:磁区固定層、13:裏打軟磁性層、14:非磁性中間層、15:磁性膜A、16:磁性膜B、17:保護層、18:垂直磁化膜、19:バッファー層、22:プリコート層、23:軟磁性膜A、24:反強磁性膜、25:軟磁性膜B、26:面内磁化膜A、27:Ru膜、28:面内磁化膜B、29:下地層、31:磁気ディスク、32:磁気ヘッド、33:サスペンジョン、34:アクチュエータ、35:ボイスコイルモータ、36:記録再生回路、37:位置決め回路、38:インターフェース制御回路、41:裏打軟磁性層A、42:裏打軟磁性層B。
Claims (4)
- 基板上に磁区固定層及び裏打軟磁性層を介して垂直磁化膜を設けた垂直磁気記録媒体において、前記垂直磁化膜は、組成の異なる少なくとも2層の磁性膜を含み、該2層の磁性膜は、18〜22at%Crの範囲の選択された組成のCoCr合金磁性膜と、膜厚が10nm以下であり8〜15at%Cr及び15〜25at%Ptの範囲の選択された組成のCoCrPt合金磁性膜とを含むことを特徴とする垂直磁気記録媒体。
- 請求項1記載の垂直磁気記録媒体において、前記垂直磁化膜は前記CoCr合金磁性膜と前記CoCrPt合金磁性膜の間に厚さ0.5〜1nmの範囲のRu層、CoRu合金層、又はCoCrRu合金層を有することを特徴とする垂直磁気記録媒体。
- 請求項1記載の垂直磁気記録媒体において、前記磁区固定層は反強磁性膜を含むことを特徴とする垂直磁気記録媒体。
- 磁気記録媒体と、リング型もしくは単磁極型の磁気記録用ヘッドと、磁気抵抗効果型、スピンバルブ型もしくは磁気トンネル型の信号再生用ヘッドとを備える磁気記憶装置において、前記磁気記録媒体として請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体を用いたことを特徴とする磁気記憶装置。
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