JP3867041B2 - 疲労亀裂補修工法及びその補修工法に用いるスプライスプレート - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼構造物を構成する板材に発生した疲労亀裂の補修工法とその補修工法に用いるスプライスプレートに関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼構造物を構成する板材に発生した疲労亀裂を応急的に処理するために、疲労亀裂の先端にストップホールを形成するという疲労亀裂の応急補修工法が一般に実施されている。さらに、そのとき疲労亀裂の発生した板材にスプライスプレートをストップホールに挿通した高力ボルトで締め付け固定することにより、板材に作用する応力を減らす疲労亀裂補修工法が実施されている。
【0003】
【特許文献1】
特開平10−168817号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来のストップホールを形成する疲労亀裂補修工法は、疲労亀裂の先端を確実に特定して、その先端を孔明け時に確実に除去する必要があるが、疲労亀裂の先端は非常にシャープであり、引っ張り荷重が作用していなくて閉口したときには、顕微鏡でも見えにくくなるほどであるために、この疲労亀裂先端の特定というのは非常に困難であるため、しばしば実際の補修工事では先端を特定し損ねて、亀裂が進展してしまうことがよくあり、確実な疲労亀裂補修工法とは言えない。
また、ストップホールをあけた後に、スプライスプレートで疲労亀裂の発生した板材を高力ボルトにより締め付け固定する疲労亀裂補修工法を用いたとしてもは、疲労亀裂が残っている場合は、高力ボルトで締め付けて作用荷重を低下させていても、疲労亀裂の進展を遅くすることはできても、疲労亀裂の進展を止めることのできる疲労亀裂補修工法ではない。こちらの場合で、ストップホールの先端を特定し損ねると、スプライスプレートに隠された部分で進展し続けるため、その進展状況が外観で観察することができず、かなり長く進展してスプライスプレートの外に出てきて発見されたときには、亀裂長は非常に脆性破断が懸念されるレベルに達していることがあり、かえって危険な状況を招く場合もある。
【0005】
本発明は、上記のような従来の疲労亀裂補修工法の持つ問題点を解決することを目的とする。
【0006】
【問題を解決するための手段】
本願第1発明は、板材に発生した疲労亀裂の先端に形成したストップホールに挿通した高力ボルトにより板材に締め付け固定する疲労亀裂補修工法において、板材よりも硬度が高く、締め付けによって板材に歯を食い込ませて通常の板よりも高い摩擦力を確保するとともに、板材に作用する主な引張荷重の方向について、歯の板材への食い込みの分力によって圧縮応力が作用するように歯の向きが方向付けられた複数列の歯を形成することにより疲労亀裂の進展を確実に阻止することを特徴とする。
【0007】
本願第2発明は、本願第1発明の疲労亀裂補修工法に用いるスプライスプレートにおいて、板材よりも硬度が高く、締め付けによって板材に歯を食い込ませて通常の板よりも高い摩擦力を確保する鋼板からなり高力ボルト挿通孔を有し、板材と接する面に板材に作用する主な引張荷重の方向に歯の板材への食い込みの分力によって圧縮応力が作用するように歯の向きが方向付けられた複数列の歯を形成したことを特徴とする。
【0008】
本願第3発明は、本願第2発明の疲労亀裂補修工法に用いるスプライスプレートにおいて、スプライスプレートの形状を中心に高力固定ボルト挿通孔を有する円形又は楕円形状とし、板材に形成したストップホールの中心方向に歯の板材への食い込みの分力によって圧縮力が作用するように歯の向きが方向付けられた同心円状の複数列の歯を形成したことを特徴とする。
【0009】
【作用】
本願発明の構成により、ストップホールの形成位置と疲労亀裂の先端の正確な位置とに多少の誤差があったとしても、高摩擦鋼板からなるスプライスプレートの板材と接する面に形成された複数列の歯が、高力固定ボルトによる板材への締め付け力により歯の板材の食い込み時に発生する分力が、板材に発生した疲労亀裂に対して圧縮力として作用するため、疲労亀裂の進展を確実に止めることができる疲労亀裂補修工法を提供できる。
また、スプライスプレートの形状を円形又は楕円形状とし、ストップホールの中心方向に圧縮力が作用するように歯の向きが方向付けられた同心円状の複数列の歯を形成することにより、荷重方向等が不明確の場合でもストップホールを中心とした圧縮力が作用するため、確実に疲労亀裂の進展を止めることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態を図により説明する。
図1は、鋼構造物としてI形鋼を例として示したものである。
I形鋼1は、ウエブ2の上下端部に上下フランジ3、4を有し、補剛材5を、その上端を上フランジ3の下面に、その側面をウエブ2に溶接6により固定し、補剛材5の下端を下フランジ4から一定の間隔をおくようする。このように構成したI形鋼1に荷重が加えられると、補剛材5の下端部に応力集中が発生し、補剛材5の下端部を中心として疲労亀裂7が発生する。
【0011】
このような疲労亀裂7は、各種の形状ないし形態で発生し、その疲労亀裂7のの先端部を正確に特定することは困難である。このような疲労亀裂7を補修するために、疲労亀裂7の成長の先端部分にストップホール8を形成する。このストップホール8は、疲労亀裂7の先端部を円弧状に整形ることにより、疲労亀裂の先端部の応力集中を低減するためのものである。
【0012】
図2(a)(b)に示される本発明の疲労亀裂補修工法に使用するスプライスプレート9は、止めようとしている亀裂の発生している鋼板よりも硬度が高く、歯をこの板材に食い込ませることによって通常のスプライスプレートよりも大きな摩擦力を確保する高摩擦鋼板で形成され、その中心部に高力ボルト挿通孔10が形成されている。図2に示されるスプライスプレート9は、矩形形状のもので、疲労亀裂7が発生した鋼板に接する面には、直線状の複数列の歯11が形成される。歯11は、垂直部12と傾斜部13からなり、スプライスプレート9が矩形形状の場合、中心の高力ボルト挿通孔10を中心として、左右の複数列のそれぞれの歯11の傾斜部13が中心の高力ボルト挿通孔10に向くように、歯の向きが左右対称に形成される。
【0013】
図2(a)に示されるように、疲労亀裂7が発生した鋼板2の両面に、疲労亀裂7の先端に形成されたストップホール8とスプライスプレート9の高力ボルト挿通孔10の位置が合致し、複数列の歯11の向きが鋼板2に発生した疲労亀裂7に圧縮力を作用する向きになるように配置する。高力ボルト14を、一方のスプライスプレート9の高力ボルト挿通孔10、ストップホール8、他方のスプライスプレート9の高力ボルト挿通孔10に挿通し、高力ボルト14の雄ねじ部15にワッシャ16を介してナット17を螺着し締め付ける。
【0014】
図4(a)(b)に示されるように、高力ボルト14による締め付け力は、スプライスプレート9の複数列の歯11の傾斜部13により、鋼板2への食い込みに伴って鋼板2の疲労亀裂を両側から圧縮する方向の作用力に変換され、疲労亀裂7の進展を確実に止めることができる。
図4の実施例では、疲労亀裂の発生した鋼板2の両面にスプライスプレート9を配置しているが、鋼板2の一方の面にのみスプライスプレート9を配置して、高力ボルト14で締め付けてもよい。
【0015】
図3に示されるスプライスプレート9は、円形状とされ、その中心に高力ボルト挿通孔10が形成され、疲労亀裂7の発生した鋼板2と接する側には、同心円状に複数列の歯11が形成される。同心円状の複数列の歯11の向きは、鋼板2の疲労亀裂の先端に形成されたストップホール8の中心に圧縮力が作用するような向きとされている。その使用方法は、図2に示される矩形状のスプライスプレート9の場合と同様であるが、鋼板2に発生した疲労亀裂7に作用する主な引張荷重が不明確な場合には、このような円形又は楕円形状で、同心円状の複数列の歯が形成されたスプライスプレート9を使用する。それにより、適用できる作用荷重レベルは矩形のスプライスプレートよりは劣るものの、亀裂はどの方向についても圧縮状態となり、適用範囲内ではより確実に進展を止めることが出来る。
【0016】
以上の、本発明の工法およびスプライスプレートの効果を以下の疲労試験によって確認した。
図5に示すような、幅100mm、長さ600mmの平鋼板により試験体を作成し、従来の方法を含む各種の疲労亀裂補修工法を施した上で、疲労試験で比較を行った。中には疲労亀裂残しの状態を再現した試験体を含む。試験体の板厚は全て9mmであり、材質はSM490Yである。高力ボルトはM20のF10Tとした。普通のスプライスプレート18はSM490Yであり、本発明の歯を持つスプライスプレート9は引張強度900MPa級の鋼材を用いた。ストップホール8の径は22mmであり、板の中央に穿孔した。亀裂先端を残す場合は、30mm長さの人工亀裂19を板中央に入れた。その結果の一覧を表1に示す。疲労試験は2.0×106までで打ち切りとしている。
【0017】
【表1】
Figure 0003867041
【0018】
図5(a)は、表1のNo.1を示すもので、人工亀裂19をそのままにしており、疲労亀裂補修をしていない試験体であり、疲労寿命は著しく短い。表1のNo.2とNo.3はストップホール8を施工をした場合に相当する試験体であり、疲労寿命は向上しているが200万回は保っていないし、試験応力が高くなるとなお疲労寿命が低下することがわかる。図5(b)は、表1のNo.4を示すもので、ストップホール8の施工が失敗した場合であり、何もしない場合No.1よりは少し寿命は長いものの、ほとんど向上していない。No.5とNo.6は、ストップホール8の施工後、高力ボルト14と普通板18による疲労補修を施したものである。ストップホール8のみの場合No.2とNo.3よりも疲労寿命が向上しているものの、やはり最終的には破断に至っている。図5(c)(d)は、表1のNo.7を示すもので、ストップホール8の施工が失敗した場合、高力ボルト14と普通板18による補修法を実施した例であるが、ストップホール8の失敗例No.4よりは少し長く持ったものの、やはりほとんど向上が無い。ここまでのNo.1〜7は結果は不良であると言える。
【0019】
図5(e)(f)は、表1のNo.8とNo.9を示すもので、本発明による矩形で向かい合わせに歯を形成したスプライスプレート9を用いた場合であるが、人工亀裂19の先端を残しているにもかかわらず、他の場合よりも高い試験応力に対して亀裂が出ていず、結果は良好であり、本発明の有効性を示している。また、No.10とNo.11は本発明による同心円状に歯を持つスプライスプレート9を用いた場合であるが、こちらの方も、他の場合よりも高い試験応力に対して大幅に寿命が向上しているため結果は良好であり、本発明の有効性を示している。ただし、No.11に関しては亀裂が出ており、矩形断面の方がより高い作用応力まで効果を発揮していることがわかる。
【0020】
【発明の効果】
本願発明の構成により、ストップホールの形成位置と疲労亀裂の先端の正確な位置とに多少の誤差があったとしても、高摩擦鋼板からなるスプライスプレートの板材と接する面に形成された複数列の歯が、高力固定ボルトによる板材への締め付け力により、板材に発生した疲労亀裂に対して圧縮力として作用するため、疲労亀裂の進展を確実に止めることができる疲労亀裂補修工法を提供できる。また、スプライスプレートの形状を円形又は楕円形状とし、ストップホールの中心方向に圧縮力が作用するように歯の向きが方向付けられた同心円状の複数列の歯を形成することにより、荷重方向等が不明確の場合、ストップホールを中心とした圧縮力が作用するため、確実に疲労亀裂の進展を止めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)(b)本発明の疲労亀裂補修工法を説明するための鋼構造としてI形鋼を例とした概略図。
【図2】(a)(b)本発明のスプライスプレートで設置状態を示す断面図と裏面図。
【図3】本発明の円形状のスプライスプレートの裏面図。
【図4】(a)(b)本発明のスプライスプレートの歯の作用を示す断面図。
【図5】(a)〜(f)本発明の効果を確認するための試験を示す図。
【符号の説明】
1:I形鋼
2:ウェブ
3:上フランジ
4:下フランジ
5:補剛材
6:溶接部
7:疲労亀裂
8:ストップホール
9:スプライスプレート
10:高力ボルト挿通孔
11:歯
12:垂直部
13:傾斜部
14:高力ボルト
15:雄ねじ部
16:ワッシャ
17:ナット
18:普通板
19:人工亀裂

Claims (3)

  1. 板材に発生した疲労亀裂の先端に形成したストップホールに挿通した高力ボルトにより板材に締め付け固定する疲労亀裂補修工法において、板材よりも硬度が高く、締め付けによって板材に歯を食い込ませて通常の板よりも高い摩擦力を確保するとともに、板材に作用する主な引張荷重の方向について、歯の板材への食い込みの分力によって圧縮応力が作用するように歯の向きが方向付けられた複数列の歯を形成することにより疲労亀裂の進展を確実に阻止することを特徴とする疲労亀裂補修工法。
  2. 請求項1に記載の疲労亀裂補修工法に用いるスプライスプレートにおいて、板材よりも硬度が高く、締め付けによって板材に歯を食い込ませて通常の板よりも高い摩擦力を確保する鋼板からなり高力ボルト挿通孔を有し、板材と接する面に板材に作用する主な引張荷重の方向に歯の板材への食い込みの分力によって圧縮応力が作用するように歯の向きが方向付けられた複数列の歯を形成したことを特徴とする疲労亀裂補修工法に用いるスプライスプレート。
  3. スプライスプレートの形状を中心に高力ボルト挿通孔を有する円形又は楕円系状とし、板材に形成したストップホールの中心方向に歯の板材への食い込みの分力によって圧縮力が作用するように歯の向きが方向付けられた同心円状の複数列の歯を形成したことを特徴とする請求項2に記載の疲労亀裂補修工法に用いるスプライスプレート。
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