JP3866633B2 - アクリル系繊維の熱処理方法 - Google Patents

アクリル系繊維の熱処理方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリマーの紡糸後に延伸処理等が行われたアクリル系繊維に対して行う熱処理方法に関するものである。
【0002】
【従来技術】
一般にポリマーを紡糸後に延伸処理が行われたアクリル系繊維は、延伸により配向させられ、種々のひずみを持った状態となり、また微細なフィブリル構造が現れた状態となっている。そのため、このままの状態で染色その他の加熱操作を受けた場合には、加熱操作によって収縮を起こしたり毛羽立ちが生じて実用面で支障を来してしまう。このため、前記加熱操作による収縮を止め繊維の耐熱性の向上を図るとともに、繊維のフィブリルを相互に融着結合させ均質な繊維構造を形成するために熱処理が行われている。
【0003】
幾つかある熱処理方法の中で、アクリル系繊維をバッチ処理にて熱緩和処理を行う方法としては、従来から一般的に次の方法が行われている。即ち、アクリル系繊維を耐熱耐圧の密閉釜中に設置し、最初に密閉釜内を減圧する減圧処理を行い、次に蒸気加圧による熱緩和処理を行い、最後に水分を乾燥する乾燥減圧処理を行う方法である。
【0004】
この熱処理方法では、減圧処理としての減圧は1回行われ、蒸気加圧による熱緩和処理は、所望の蒸気圧と常圧との間での変動を8〜10数回繰り返して行うか、あるいは数分間所望の蒸気圧状態を保持して行っている。また、密閉釜内にアクリル系繊維を設置する時のアクリル系繊維の温度については、特に注意が払われておらず、アクリル系繊維の温度が何度になっていようがそのまま密閉釜内に設置していた。更に、最後に行う乾燥減圧処理においては、単に水分を乾燥させれば良いという事で、単に減圧を行うだけで別段の工夫はなされていなかった。
【0005】
上述の熱処理方法では減圧処理としての減圧を1回だけ行っていたため、密閉釜内に残存する空気量としては、減圧開始前の1/3.3程度にしかならなかった。このため、繊維トウ中に存在する空気まで充分に排出することができず、熱緩和処理によって高温となった繊維と空気との接触により発生する繊維の黄色化(白度悪化)が生じ易くなっていた。また、繊維の周りに存在する空気によって、繊維トウ中への均一な熱伝達が妨げられるという事態も生じていた。
【0006】
特に、一回で減圧できる圧力には限界があった。1回の減圧により多量の空気を吸引して低い圧力まで減圧するためには、大型の真空装置が必要であるばかりではなく、1回の減圧により密閉釜内の圧力を低くしすぎると、多孔板で構成されたコンテナ等の容器内に収納された状態で密閉釜内に設置されているアクリル系繊維が、前記孔から引きずり出され、アクリル系繊維と孔との間での摺接によりアクリル系繊維が切断されたり、アクリル系繊維の一部が前記容器から飛び出してしまう等の事態が発生し、アクリル系繊維としての実用面で支障を来してしまう。このため、一回で減圧できる圧力には限界があった。
【0007】
また、熱緩和処理においては、密閉釜内に残存する空気が充分に排出されていないために所望の蒸気圧と常圧との間での変動を少なくとも8〜10数回も繰り返して行ったり、あるいは数分間所望の蒸気圧状態を保持することが必要であった。このため、熱緩和処理に時間が掛かっていた。更に、密閉釜内に設置する前のアクリル系繊維の温度が85℃以上になっていると熱処理後の染色工程において染色性の低下や染色斑の発生といった問題が生じ、最後に行う水分を乾燥するための乾燥減圧処理が不充分だと、その後の処理工程において繊維トウのトウ切れといった問題が生じていた。また、50℃以下では熱の掛かり具合が不均一になり、熱処理後の染色工程における染色性の低下や染色むらが発生する可能性があった。
【0008】
このため、熱緩和処理の時間を短縮するとともに、染色時における熱収縮を防止し染色性を高め、フィブリル化を押えた安定した状態となったアクリル系繊維を得ることのできる熱処理方法の開発が求められていた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題点を解決するものであって、熱処理後に安定した状態となったアクリル系繊維を得ることのできるアクリル系繊維の熱処理方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本願発明の課題は本願請求項1〜20に記載された各発明により達成される。
即ち、本願請求項1に係る発明は、アクリル系繊維を耐熱耐圧の密閉釜中に設置し、最初に減圧による減圧処理を行い、次に蒸気加圧による熱緩和処理を行い、最後に水分を乾燥する乾燥減圧処理を行う熱処理方法において、前記減圧処理が、減圧と蒸気加圧とを複数回繰り返して行い、前記密閉釜内の空気量を所望の残存空気量まで低減させる空気/蒸気置換処理であり、前記熱緩和処理が、蒸気加圧及び減圧とを複数回繰り返して行う処理であることを特徴とするアクリル系繊維の熱処理方法にある。
【0011】
本発明では、減圧と蒸気加圧とを複数回繰り返して行う空気/蒸気置換処理によって、密閉釜内の空気量を所望の残存空気量まで低減させることができる。即ち、減圧により排出した空気に代わって蒸気加圧により蒸気で置換することができる。これを複数回繰り返すことにより、所望の残存空気量まで密閉釜内の空気残存量を低減させることができる。このため、空気/蒸気置換処理後に行う熱緩和処理においては、密閉釜内の空気量が所望の残存空気量まで低減しているので、加熱むらを生じることなく効率的かつ均一な熱緩和処理をアクリル系繊維に対して施すことが可能となる。
【0012】
また、密閉釜内の空気量を所望の残存空気量まで低減させた状態で、アクリル系繊維に対して蒸気加圧及び減圧とを複数回繰り返して行うことで、アクリル系繊維が容器内に堆積した状態に置かれて、密閉釜内に設置されていたとしても、容器内に堆積したアクリル系繊維の中心部まで均一に加熱を行うことができる。
【0013】
本願請求項2に係わる発明は、請求項1の事項に加えて、熱緩和処理における最高到達温度が、100〜180℃である事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、熱緩和処理を行うときの最高到達温度を規定したものであって、最高到達温度が180℃を超えると、繊維の黄色化や熱緩和処理によるアクリル系繊維の収縮が大きくなり,熱緩和処理後の染色工程での染色速度等に悪影響を与える。また、最高到達温度が100℃未満であると、染色工程における加熱操作でアクリル系繊維が収縮を起こしたり、染色むら等を発生する要因となる。
【0014】
本願請求項3に係わる発明は、請求項1または2の事項に加えて、所望の残存空気量が、前記空気/蒸気置換処理開始前における空気量の少なくとも1/5以下である事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、空気/蒸気置換処理によって達成される密閉釜内の残存空気量を規定したものであり、同残存空気量を空気/蒸気置換処理開始前における空気量の少なくとも1/5以下とするものである。残存空気量を1/5以下とすることによって、その後の熱緩和処理において、アクリル系繊維に対して加熱むらを生じさせることなく効率的かつ均一な熱緩和処理を施すことが可能となる。しかも、熱緩和処理時間を短縮することもできる。
【0015】
本願請求項4に係わる発明は、請求項1乃至3のいずれかに事項に加えて、空気/蒸気置換処理が、減圧及び蒸気加圧とを2〜4回繰り返して行う事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、空気/蒸気置換処理において行う減圧及び蒸気加圧の回数を限定したものであり、減圧及び蒸気加圧を2〜4回繰り返して行うことにより、密閉釜内の残存空気量を所望の残存空気量にまで低減させることができる。
【0016】
本願請求項5に係わる発明は、請求項1乃至4のいずれかの事項に加えて、空気/蒸気置換処理における減圧が絶対圧力20kPa以下である事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、空気/蒸気置換処理における減圧を絶対圧力20kPa以下としたもので、絶対圧力20kPa以下の減圧とすることで密閉釜内における空気の残存量を減少させることができる。しかも。減少した空気に代えて蒸気に置換することができる。
【0017】
本願請求項6に係わる発明は、請求項1乃至5のいずれかの事項に加えて、空気/蒸気置換処理における蒸気加圧が絶対圧力110〜130kPaの範囲内の圧力である事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、空気/蒸気置換処理における蒸気加圧を絶対圧力110〜130kPaとすることで、密閉釜内における空気を蒸気に置換することができ、密閉釜内における空気の残存量を減少させることができる。
【0018】
本願請求項7に係わる発明は、請求項1乃至6のいずれかの事項に加えて、熱緩和処理における蒸気加圧及び減圧によって生じる密閉釜中の蒸気圧力を、複数の異なる蒸気圧力となし、前記複数の異なる蒸気圧力間で前記密閉釜中の蒸気圧力を複数回変動させる事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、熱緩和処理において複数の異なる蒸気圧力間で密閉釜中の蒸気圧力を複数回変動させることにより、熱緩和処理に用いた蒸気を繊維の内部や、堆積した状態に設置した繊維の中心部にまで均一に伝達することができるようになる。これにより、加熱むらがない状態で、アクリル系繊維に対して熱緩和処理を行うことができる。
【0019】
本願請求項8に係わる発明は、請求項7の事項に加えて、熱緩和処理における複数の異なる蒸気圧力を、2つの異なる蒸気圧力とした事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、熱緩和処理において2つの異なる蒸気圧力間で密閉釜中の蒸気圧力を複数回変動させることにより、熱緩和処理に用いた蒸気を繊維の内部や、堆積した状態に設置した繊維の中心部にまで均一に伝達することができるようになる。これにより、加熱むらがない状態で、アクリル系繊維に対して熱緩和処理を行うことができる。
【0020】
本願請求項9に係わる発明は、請求項8の事項に加えて、熱緩和処理における密閉釜中の蒸気圧力を、2つの異なる蒸気圧力間で4〜7回変動させる事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、熱緩和処理において2つの異なる蒸気圧力間で密閉釜中の蒸気圧力を変動させる回数を4〜7回に限定したものである。4〜7回繰返して蒸気圧力を2つの異なる蒸気圧力間で変動させることにより、熱緩和処理に用いた蒸気を繊維の内部や、堆積した状態に設置した繊維の中心部にまで均一に伝達することができるようになる。これにより、加熱むらがない状態で、アクリル系繊維に対して熱緩和処理を行うことができる。
【0021】
本願請求項10に係わる発明は、請求項8または9の事項に加えて、熱緩和処理における2つの異なる蒸気圧力のうち、低い方の蒸気圧力が絶対圧力110〜130kPaの範囲内の圧力である事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、熱緩和処理において密閉釜中の蒸気圧力を変動させる2つの異なる蒸気圧力として、低い方の蒸気圧力を絶対圧力110〜130kPaとしたもので、低い方の蒸気圧力を絶対圧力110〜130kPaとしたことにより、熱緩和処理に用いた蒸気を繊維の内部や、堆積した状態に設置した繊維の中心部にまで均一に伝達することができるようになる。また、この圧力が101kPa(常圧)以下となると凝縮水の排出口などから、凝縮水や空気が釜内に逆流してしまい、染色性等に深刻な影響を与えることがある。
【0022】
本願請求項11に係わる発明は、請求項1乃至10のいずれかの事項に加えて、乾燥減圧処理を絶対圧力20kPa以下に減圧して行う事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、乾燥減圧処理を絶対圧力20kPa以下に減圧して行うことにより、不必要な水分の乾燥を促すことができる。これにより、アクリル系繊維中の水分を均一かつ適正に保つことができ、後処理工程においてトウ切れの発生を押えることができる。
【0023】
本願請求項12に係わる発明は、請求項11の事項に加えて、乾燥減圧処理を絶対圧力20kPa以下に減圧し、同減圧状態を約1分間以上保持する事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、乾燥減圧処理を絶対圧力20kPa以下に減圧し、その状態を約1分間以上保持することで、不必要な水分の乾燥を確実に促すことができる。これにより、アクリル系繊維中の水分を均一かつ適正に保つことができ、後処理工程においてトウ切れの発生を押えることができる。
【0024】
本願請求項13に係わる発明は、請求項1乃至12いずれかの事項に加えて、アクリル系繊維を多孔板で構成したコンテナ内に堆積し、同コンテナを密閉釜内に設置する事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、アクリル系繊維をコンテナ内に折り返し状態や渦巻き状態等により積層して堆積し、同コンテナを密閉釜内に設置することで熱処理を行うものである。アクリル系繊維に対して満遍なく蒸気を供給したり、堆積したアクリル系繊維間の空気や水分を吸引するためには、多孔板で構成されたコンテナを使用する必要がある。コンテナの上端部は、開口させた構成とすることも、多孔板の蓋で開放自在に構成することもできる。コンテナ内にアクリル系繊維を積層して堆積するためには、コンテナの上端部は、開口させた構成とすることが望ましい。
【0025】
本願請求項14に係わる発明は、請求項13の事項に加えて、コンテナとして、30%以上の開口率を有する多孔板で構成されたコンテナを使用する事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、30%以上の開口率を有する多孔板であってコンテナー強度が充分にあり孔から繊維等の脱落のない程度の開口率であれば良く、好ましくは30〜80%の開口率を有する多孔板を用いて構成したコンテナを使用することにより、コンテナに堆積したアクリル系繊維に対して満遍なく蒸気を供給したり、堆積したアクリル系繊維間の空気や水分を吸引することができる。
【0026】
本願請求項15に係わる発明は、請求項13または14の事項に加えて、コンテナとして、底部に脚部又は車輪を備えたコンテナを使用する事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、底部に脚部又は車輪を備えているコンテナを使用するので、減圧時及び蒸気加圧時にコンテナの側面や上面以外にも底面からも空気や水分を吸引したり、コンテナ内のアクリル系繊維に対してその中心部にまで蒸気を供給することができる。
【0027】
本願請求項16に係わる発明は、請求項13乃至15いずれかの事項に加えて、コンテナとして、底部が二重底となったコンテナを使用する事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、底部が二重底となっているコンテナを使用することにより、コンテナ内に水滴等の水分が発生したとしても、水分は底部に用いた多孔板の孔から外部に排出され、コンテナ内には水滴等の水分が滞留することがなくなる。このため、乾燥減圧処理において、コンテナ内の水分を充分に乾燥させることができる。本発明により、熱処理開始前の状態におけるアクリル系繊維に対して、乾燥減圧処理終了後におけるアクリル系繊維を0〜60%収縮させることが可能であり、アクリル系繊維の収縮率を0〜60%とすることにより、染色工程における染色作業や、その後の処理工程を良好に行うことができる。
【0028】
本願請求項17に係わる発明は、請求項1乃至16いずれかの事項に加えて、アクリル系繊維の密閉釜中に設置後、乾燥減圧処理終了までの処理時間が、約40分以内とする事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、熱処理方法によるトータルの処理時間を約40分以内とするもので、熱処理を効率的にしかも短い時間で行うことができる。トータルの処理時間が約40分以内となるためには、アクリル系繊維と密閉釜内への設置、空気/蒸気置換処理、熱緩和処理及び乾燥減圧処理を一体的かつ有機的に行うことで達成することができる。
【0029】
本願請求項18に係わる発明は、請求項1乃至17いずれかの事項に加えて、密閉釜中に設置するコンテナ中のアクリル繊維の密度が100kg/m3以上である事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、熱処理において、コンテナ中のアクリル系繊維の密度を100kg/m3以上として熱処理を行うことで、一度に大量のアクリル系繊維に熱処理を施すことができ、効率的な熱処理が行える。
【0030】
本願請求項19に係わる発明は、請求項1乃至18いずれかの事項に加えて、密閉釜中に設置するアクリル系繊維の温度が、約85℃以下である事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、密閉釜中に約85℃以下の温度であるアクリル系繊維を設置するもので、熱処理後の染色工程における染色性の低下や染色斑の発生を防止することができる。
【0031】
本願請求項20に係わる発明は、請求項19の事項に加えて、密閉釜中に設置するアクリル系繊維の温度が、約50〜85℃とする事項を限定したアクリル系繊維の熱処理方法にある。
本発明では、熱処理後の染色工程における染色性の低下や染色斑の発生を防止することができる密閉釜中に設置するアクリル系繊維の温度としては、好ましくは約50〜85℃である旨を限定したものである。
【0032】
【発明の実施形態】
以下、本発明の好適な実施の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。図1には、本願実施の形態における密閉釜内での圧力変化を示している。また、図2には、本願実施の形態において用いるコンテナ1の該略斜視図を示している。
【0033】
コンテナ1内に折り畳み状に積層されたアクリル系繊維は、図示せぬ密閉釜内に搬入・設置され、密閉釜の蓋を閉じた後に熱処理として、空気/蒸気置換処理、熱緩和処理及び乾燥減圧処理が行われる。コンテナ1としては、開口率30〜80%の小孔を開けた多孔板2によって側面部及び底面部から構成されているものが使用されている。コンテナ1の上面部は開口しているが、上面部に上記多孔板で形成した蓋を開放自在に取り付けることもできる。コンテナ1の底面部は2重底となっており、2重底の板と板との間は多少の隙間が形成されている。また、コンテナ1の底面部には車輪4が設けられ、コンテナ1自体の移動が可能となっている。コンテナ1の底面部の周囲には、追突防止用及び他のコンテナとの重なり防止用のバンパー3が形成されている。
【0034】
コンテナ1の大きさとしては、コンテナ1を搬入する密閉釜の大きさ及び密閉釜における装備内容、即ち、減圧処理を行う真空装置の能力や蒸気発生装置の能力等に応じた大きさとすることが望ましい。アクリル系繊維を300kg以上受け入れるコンテナ1の大きさとしては、開口率30〜80%の小孔を開けた多孔板2を用いて、幅が650〜750mm、長さが2250〜2350mm、高さが1050〜1150mmとしたものを使用することが望ましく、同コンテナ1を使用することによりコンテナ内に積層したアクリル系繊維の中心部に到るまで蒸気を供給することが可能となり、また積層したアクリル系繊維内に閉じ込められている空気を充分抜き取ることも効率的に行い得る。しかし、上述のコンテナ1の寸法は、実施の形態における例示であって、上述の寸法に限定されるものではないことはいうまでもない。
【0035】
また、コンテナ1の底部に車輪4を設ける代わりに、コンテナ1の底部を床から離間させるために、脚部を設けることもできる。この場合、コンテナ1の底部と床との間にフォークリフトのフォーク等を挿入して、コンテナ1を密閉釜内への設置及び密閉釜からの取り出しを行うことができる。
【0036】
コンテナ1内へのアクリル系繊維の積層方法としては、コンテナ1内にアクリル系繊維を連続的に積層し、熱処理後にコンテナ1からアクリル系繊維を連続的に取り出すことができる積層方法であれば、折り畳み状に積層する代わりに、渦巻き状に積層したり、他の積層方法を用いることができる。
【0037】
コンテナ1内に積層されたアクリル系繊維の積層内部での温度が85℃以下になっていることを確認した後、アクリル系繊維はコンテナごと図示せぬ密閉釜内に搬入される。密閉釜内に所望数のコンテナが設置されると、密閉釜の蓋が閉じられ、図1に示す処理圧での熱処理が実行される。
【0038】
図1に示すように、熱処理は大きく分けて3つの処理により行われる。最初の処理は、空気/蒸気置換処理であり、この空気/蒸気置換処理により密閉釜内の空気を所望の空気量となるように低減することができる。密閉釜の蓋が閉じられると、図示せぬ真空装置により密閉釜内の圧力を低下させ、絶対圧力20kPa以下となるように減圧する。
【0039】
尚、図1においては、縦軸として絶対圧力で表示しているので、以下の説明においては絶対圧力として圧力の数値と単位のみを記載することとする。その後蒸気加圧を行い圧力が110〜130kPaの範囲になるように加圧する。次に密閉釜内の圧力が20kPa以下となるように減圧し、減圧後圧力が110〜130kPaの範囲になるように蒸気加圧を行う。これを2〜4回繰り返すことで最初に密閉釜内にあった空気の4/5以上を蒸気に置換し、残存空気量を最初の1/5以下とする。
【0040】
蒸気加圧及び減圧によってもたらされる密閉釜内の圧力は、それぞれ常に一定の圧力となるように制御することもできるし、蒸気加圧時はその都度110〜130kPaの範囲内での任意の圧力となるようにし、しかも減圧時はその都度20kPa以下の任意の圧力となるように制御することもできる。
【0041】
空気/蒸気置換処理が終わると、次に熱緩和処理が実行される。熱緩和処理においては、密閉釜内の圧力が130kPa以上となるまで蒸気加圧が行われる。このとき蒸気加圧により密閉釜内の最高到達温度が、100〜180℃となるようにする必要がある。蒸気加圧により130kPa以上となると、次に減圧が行われ、密閉釜内の圧力が110〜130kPaの範囲になるまで減圧が行われる。密閉釜内の圧力が減圧により110〜130kPaの範囲になると、次に蒸気加圧が行われて密閉釜内の圧力を130kPa以上とする。これを4〜7回繰り返す。蒸気加圧及び減圧によってもたらされる密閉釜内の圧力は、それぞれ常に一定の圧力となるように制御することもできるし、蒸気加圧時はその都度130kPa以上での任意の圧力となるように、また減圧時はその都度110〜130kPaの範囲内での任意の圧力となるように制御することもできる。
【0042】
熱緩和処理において、蒸気加圧と減圧とを繰り返して行うことで、コンテナ1内に積層した内部にまで蒸気を供給することができ、コンテナ1内のアクリル系繊維を均一に加熱することができる。また、空気/蒸気置換処理により残存空気量が処理開始前の1/5以下となっているため、蒸気加圧時には、蒸気がコンテナ1内に積層した内部にまで満遍なく浸透することができる。また、蒸気加圧によるアクリル系繊維の加熱時にもアクリル系繊維と空気との接触が少なくなり、アクリル系繊維の黄色化(白度悪化)を防止することができる。
【0043】
熱緩和処理において所望数の蒸気加圧及び減圧が行われると、最後に蒸気で濡れているアクリル系繊維等における水分を乾燥するために乾燥減圧処理が実行される。乾燥減圧処理では、減圧が行われ密閉釜内の圧力が20kPa以下になるまで減圧する。密閉釜内の圧力が20kPa以下になった後、必要に応じてその状態のままで所望時間保持される。20kPa以下の状態で保持する時間としては、アクリル系繊維等における水分を乾燥することのできる時間であれば充分であるが、1分以上であることが望ましい。1分以上減圧状態を保持した後、常圧に戻し、密閉釜の蓋を開けてコンテナ1を取出し、アクリル系繊維に対する熱処理を終了する。
本願発明による熱処理としては、コンテナ1中のアクリル系繊維の密度が100kg/m3以上、処理時間としては40分以内であることが、熱処理を効率的に行う上で望ましいことである。
【0044】
【実施例及び比較例】
次に、本発明について実施例を用いて更に具体的に説明する。
湿式紡糸したアクリル繊維トウを延伸処理し、油剤を付着した後に乾燥緻密化を行い、単繊維繊度3dtex、トータル繊度100ktexのアクリル繊維トウを得、同得られたアクリル繊維トウを50%の開口率を有する多孔板で構成したコンテナに折り畳み状で振り込み、種々の条件下で熱処理を施した。ここで得られたアクリル繊維トウをコンテナ内の27ヵ所より採取し、採取したそれぞれについてその染色性を測定し、27サンプルの平均値、最大値、最小値を表1に示す。
【0045】
尚、染色性としては、測色色差計(日本電色株式会社製)を用いて計測し、JIS X-8722に準拠してY値を測定した。Y値に2以上の差があるときには、染色斑が発生する可能性があることになる。処理時間が長くなるにつれて、Y値の差は小さくなる傾向は見られるものの、生産効率は下がってしまう。
【0046】
【表1】
Figure 0003866633
【0047】
減圧処理における回数は、減圧後に蒸気加圧したサイクルを1回としたときの回数を示すもので、熱緩和処理における回数は、蒸気加圧後に減圧したサイクルを1回としたときの回数を示すものである。乾燥減圧処理での保持時間は、減圧状態のままで保持する時間を示している。また、減圧処理及び乾燥減圧処理の圧力は、減圧後の密閉釜内での圧力であり、熱緩和処理における圧力は、蒸気加圧後の密閉釜内での圧力である。
【0048】
【表2】
Figure 0003866633
【0049】
コンテナの開口率を種々変更した以外は、実施例1と同様の方法にて熱処理を施した。ここで得られたアクリル繊維トウをコンテナ内の27ヵ所より採取し、採取したそれぞれについてその染色性を測定し、27サンプルの平均値、最大値、最小値を表2に示す。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態における密閉釜内での圧力変化を示す図である。
【図2】コンテナの構成斜視図である。
【符号の説明】
1 コンテナ
2 多孔板
3 バンパー
4 車輪

Claims (20)

  1. アクリル系繊維を耐熱耐圧の密閉釜中に設置し、最初に減圧による減圧処理を行い、次に蒸気加圧による熱緩和処理を行い、最後に水分を乾燥する乾燥減圧処理を行う熱処理方法において、
    前記減圧処理が、減圧と蒸気加圧とを複数回繰り返して行い、前記密閉釜内の空気量を所望の残存空気量まで低減させる空気/蒸気置換処理であり、
    前記熱緩和処理が、蒸気加圧及び減圧とを複数回繰り返して行う処理であることを特徴とするアクリル系繊維の熱処理方法。
  2. 前記熱緩和処理における最高到達温度が、100〜180℃であることを特徴とする請求項1記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
  3. 前記所望の残存空気量が、前記空気/蒸気置換処理開始前における空気量の少なくとも1/5以下であることを特徴とする請求項1または2記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
  4. 前記空気/蒸気置換処理が、減圧及び蒸気加圧とを2〜4回繰り返して行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
  5. 前記空気/蒸気置換処理における前記減圧が絶対圧力20kPa以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
  6. 前記空気/蒸気置換処理における前記蒸気加圧が絶対圧力110〜130kPaの範囲内の圧力であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
  7. 前記熱緩和処理における蒸気加圧及び減圧によって生じる前記密閉釜中の蒸気圧力を、複数の異なる蒸気圧力となし、前記複数の異なる蒸気圧力間で前記密閉釜中の蒸気圧力を複数回変動させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
  8. 前記熱緩和処理における複数の異なる蒸気圧力を、2つの異なる蒸気圧力としたことを特徴とする請求項7記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
  9. 前記熱緩和処理における密閉釜中の蒸気圧力を、2つの異なる蒸気圧力間で4〜7回変動させることを特徴とする請求項8記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
  10. 前記熱緩和処理における2つの異なる蒸気圧力のうち、低い方の蒸気圧力が絶対圧力110〜130kPaの範囲内の圧力であることを特徴とする請求項8または9記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
  11. 前記乾燥減圧処理を絶対圧力20kPa以下に減圧して行うことを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
  12. 前記乾燥減圧処理を絶対圧力20kPa以下に減圧し、同減圧状態を約1分間以上保持することを特徴とする請求項11記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
  13. 前記アクリル系繊維を多孔板で構成したコンテナ内に堆積し、同コンテナを前記密閉釜内に設置することを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
  14. 前記コンテナとして、30%以上の開口率を有する多孔板で構成されたコンテナを使用することを特徴とする請求項13記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
  15. 前記コンテナとして、底部に脚部又は車輪を備えたコンテナを使用することを特徴とする請求項13または14記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
  16. 前記コンテナとして、底部が二重底となったコンテナを使用することを特徴とする請求項13乃至15のいずれかに記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
  17. 前記アクリル系繊維の前記密閉釜中に設置後、前記乾燥減圧処理終了までの処理時間が、約40分以内とすることを特徴とする請求項1乃至16のいずれかに記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
  18. 前記密閉釜中に設置するコンテナ中のアクリル繊維の密度が100kg/m3以上であることを特徴とする請求項1乃至17のいずれかに記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
  19. 前記密閉釜中に設置するアクリル系繊維の温度が、約85℃以下であることを特徴とする請求項1乃至18のいずれかに記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
  20. 前記密閉釜中に設置するアクリル系繊維の温度が、約50〜85℃とすることを特徴とする請求項19記載のアクリル系繊維の熱処理方法。
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