JP3861842B2 - 燃料噴射ポンプ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プランジャバレルに形成される燃料の吸排孔としてメインポートとサブポートを有する燃料噴射ポンプに関する。
【0002】
【従来の技術】
先に出願された先願技術として、特許文献1に記載された燃料噴射ポンプがある。
この燃料噴射ポンプは、図7に示す様に、メインポート100 とサブポート110 が形成されたプランジャバレル120 と、このプランジャバレル120 の外周に嵌合してサブポート110 を開閉する可動スリーブ130 と、この可動スリーブ130 を図示上方へ付勢する第1のスプリング140 と、可動スリーブ130 を図示下方へ付勢する第2のスプリング150 等を備え、燃料温度が所定温度より低い時は、サブポート110 を閉じる位置(図7に示す位置)に可動スリーブ130 を駆動し、燃料温度が所定温度以上の時は、サブポート110 を開く位置に可動スリーブ130 を駆動する様に、第1のスプリング140 と第2のスプリング150 との何方か一方が形状記憶合金によって製造されている。
【0003】
上記の構成によれば、燃料温度が所定温度以上の時(常温時)は、可動スリーブ130 がサブポート110 を開くことにより、プランジャ160 の上昇行程でサブポート110 が閉鎖されるまで噴射タイミングを遅らせることができ、窒素酸化物(NOx )を低減できる効果がある。
また、燃料温度が所定温度より低い時(低温時)は、図7に示す様に、可動スリーブ130 がサブポート110 を閉じることにより、サブポート110 の機能が発揮されることはなく、サブポート110 による噴射タイミングの遅れが生じないので、白煙の発生を低減できる。
【0004】
【特許文献1】
特願2003-8077 号(特開2004-218563号)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記の先願技術では、プランジャバレル120 に形成されたメインポート100 及びサブポート110 の外側(可動スリーブ130 の外周)に第1のスプリング140 が配置されているため、以下の問題が生じる。
プランジャ160 がプランジャバレル120 の内部を上昇する燃料の圧送行程で、メインポート100 及びサブポート110 を閉じる際に高エネルギを有する圧力波が発生する。この圧力波が、メインポート100 及びサブポート110 の外側に配置されている第1のスプリング140 に作用するため、第1のスプリング140 にエロージョンが発生して折損に至る虞があった。
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、第1のスプリングに対する圧力波の影響を低減して、第1のスプリングの折損を防止できる燃料噴射ポンプを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
(請求項1の発明)
本発明の燃料噴射ポンプは、プランジャがプランジャバレルの内部を上昇する方向に可動スリーブを付勢する第1のスプリングを有し、燃料の圧送行程でプランジャがメインポート及びサブポートを閉じる際に発生する圧力波をスピル波と呼ぶ時に、メインポート及びサブポートが開口するプランジャバレルの外周にスピル波の拡散を抑制するスピル室が形成され、且つスピル室と第1のスプリングとの間に、第1のスプリングに対するスピル波の影響を軽減する張り出し壁が設けられていることを特徴とする。
【0007】
上記の構成によれば、プランジャバレルの外周に形成されたスピル室によりスピル波の拡散が抑制され、更にスピル室と第1のスプリングとの間に設けられた張り出し壁によって第1のスプリングに対するスピル波の影響を軽減できる。
これにより、スピル波の高エネルギが第1のスプリングに到達することはなく、第1のスプリングにエロージョンが発生することを防止できるので、第1のスプリングが折損に至ることもなく、信頼性を確保できる。
【0008】
(請求項2の発明)
請求項1に記載した燃料噴射ポンプにおいて、
張り出し壁は、可動スリーブの外周面に近接して全周に設けられていることを特徴とする。
これにより、スピル波の高エネルギがスピル室の外側(特に第1のスプリング側)へ拡散することを効果的に抑制できるので、第1のスプリングに対するスピル波の影響を防止できる。
【0009】
(請求項3の発明)
請求項1または2に記載した燃料噴射ポンプにおいて、
第1のスプリングは、反可動スリーブ側の端部が、張り出し壁の反スピル室側端面を座面として支持されていることを特徴とする。
この場合、張り出し壁を利用して第1のスプリングを支持できるので、新たに第1のスプリングの端部(反可動スリーブ側の端部)を支持するスプリング受け部を設ける必要がなく、構造を簡単にできる。
【0010】
(請求項4の発明)
請求項1〜3に記載した何れかの燃料噴射ポンプにおいて、
第1のスプリングは、可動スリーブの径方向外側に配置され、第2のスプリングは、可動スリーブの径方向内側に配置されていることを特徴とする。
この構成では、第1のスプリングと第2のスプリングとをプランジャの動作方向に対向配置する必要がないので、本発明をよりコンパクトに構成でき、製品の大型化を防止または抑制できる。
【0011】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1は燃料噴射ポンプ1の断面図である。
本実施形態の燃料噴射ポンプ1は、ポンプハウジング2に嵌挿された筒状のプランジャバレル3と、このプランジャバレル3の内部に往復動可能及び回動可能に挿入されるプランジャ4、プランジャバレル3の上部に配置されるデリバリバルブ5、プランジャバレル3の上部外周に嵌合する円筒形状の可動スリーブ6、及び燃料温度に応じて、可動スリーブ6をプランジャ4の移動方向(図1の上下方向)に動かすスリーブ作動手段(後述する)等より構成される。
【0012】
プランジャバレル3は、図2及び図3に示す様に、肉厚を厚く形成した上部円筒部3aと、肉厚を薄く形成した下部円筒部3bとを有し、ポンプハウジング2に対して、上部円筒部3aと下部円筒部3bとの段差部がポンプハウジング2に設けられた小径部上端面2aに当接して位置決めされている。
プランジャバレル3の上部円筒部3aには、燃料の吸入及び排出を行う吸排孔として、内径が大きいメインポート7と内径が小さいサブポート8とが形成されている。このメインポート7とサブポート8は、上部円筒部3aの外周に形成される環状の燃料室9と、上部円筒部3aの内側に形成される圧力室10とを連通可能に設けられている。
【0013】
燃料室9には、ポンプハウジング2に形成された燃料通路(図示せず)を介してフィードポンプ(図示せず)から燃料が供給される。この燃料室9には、燃料の圧送行程でプランジャ4がメインポート7及びサブポート8を閉じる際に発生するスピル波(高エネルギを有する圧力波)の拡散を抑制するためのスピル室11が形成されている。このスピル室11は、プランジャバレル3の上部円筒部3aの周囲に形成され、ポンプハウジング2の内壁に突設された張り出し壁12によって区画されている。
【0014】
張り出し壁12は、サブポート8より図示上部側の位置でポンプハウジング2の内壁面全周に設けられ、その内径側端面が可動スリーブ6の外周面に近接している。これにより、スピル室11は、張り出し壁12よって図示上部側(張り出し壁12より上部側)の燃料室9と区画され、メインポート7及びサブポート8に連通する略独立した環状空間を形成している。
圧力室10は、プランジャバレル3の内側でプランジャ4の上端面とデリバリバルブ5との間に形成され、プランジャ4の移動に応じて容積を可変する。
【0015】
プランジャ4は、図示しないカム軸の回転により、タペット13を介してプランジャバレル3の内部を往復運動(上下運動)することにより、燃料の吸入及び圧送を行う。つまり、プランジャ4がプランジャバレル3の内部を下降する(図1にて下方へ移動する)ことにより、燃料室9からメインポート7あるいはサブポート8を介して圧力室10に燃料が吸入される。一方、プランジャ4がプランジャバレル3の内部を上昇する(図1にて上方へ移動する)ことにより、圧力室10に吸入された燃料が圧縮されてデリバリバルブ5を開き、図示しない燃料噴射ノズルへ圧送される。
【0016】
このプランジャ4には、燃料の圧送終了に係わる傾斜リード4aが形成されると共に、プランジャ4の上端面にサブリード4b(図2参照)が形成されている。このサブリード4bは、プランジャ4がメインポート7を閉じた状態でも、サブポート8に通じて燃料室9と圧力室10とを連通することができる。なお、傾斜リード4aは、プランジャ4の中央部に穿設された縦孔(図示せず)に連通している。
【0017】
上記のプランジャ4は、自身の下部にドライビングフェイス14が設けられ、このドライビングフェイス14に嵌合するコントロールスリーブ15を介して回動操作され、その回動位置に応じて有効ストロークが得られる。
コントロールスリーブ15は、ピニオン16が一体に組み付けられ、このピニオン16に噛み合うラック17の前後操作によって回動する。
デリバリバルブ5は、バルブシート5Aとバルブ5Bとで構成され、バルブホルダ18に保持されて、そのバルブホルダ18がポンプハウジング2に組み付けられている。
【0018】
可動スリーブ6は、図1の上下方向に所定の可動範囲Lだけスライド可能に設けられている。具体的には、可動スリーブ6の上端がバルブホルダ18に設けられた段差面18aに当接する上限位置(本発明の閉位置:図2参照)と、可動スリーブ6の下端がポンプハウジング2の小径部上端面2aに当接する下限位置(本発明の開位置:図3参照)との間でスライド可能である。
【0019】
この可動スリーブ6は、サブポート8と周方向の同位置に開口部6aが形成され、可動スリーブ6の上下移動に伴って開口部6aとサブポート8との相対位置が変化することにより、サブポート8を開閉することができる。つまり、図2に示す様に、可動スリーブ6が上限位置に移動すると、開口部6aより図示下側の壁面がサブポート8に対向することでサブポート8を閉塞し、サブポート8による燃料室9と圧力室10との連通が遮断される。
【0020】
また、図3に示す様に、可動スリーブ6が下限位置に移動すると、開口部6aがサブポート8と対向することでサブポート8を開くことができ、そのサブポート8を通じて燃料室9と圧力室10とが連通する。なお、メインポート7は、可動スリーブ6の位置に関係なく、常時開いている。つまり、メインポート7は、可動スリーブ6によって閉じられることはなく、メインポート7を通じて燃料室9と圧力室10との連通が遮断されることはない。
【0021】
スリーブ作動手段は、可動スリーブ6の径方向外側に配置される第1のスプリング19と、可動スリーブ6の径方向内側に配置される第2のスプリング20とで構成される。
第1のスプリング19は、一端がポンプハウジング2に設けられた張り出し壁12に支持され、他端が可動スリーブ6に設けられた第1のスプリング受け部6b(図2参照)に支持されて、可動スリーブ6を図示上方へ付勢している。
【0022】
第2のスプリング20は、一端がバルブホルダ18の段差面18aに支持され、他端が可動スリーブ6に設けられた第2のスプリング受け部6c(図2参照)に支持されて、可動スリーブ6を図示下方へ付勢している。この第2のスプリング20は、形状記憶合金によって製造され、燃料温度が所定温度(形状記憶合金の変態点)以上の領域では、第2のスプリング20の荷重が第1のスプリング19の荷重より大きく、且つ可動スリーブ6を下限位置(図3に示す位置)に押し止めることができるだけのスプリング荷重を有している。
【0023】
次に、本実施形態の作動及び効果を説明する。
a)低温時の作動
燃料温度が所定温度より低い低温時には、形状記憶合金によって製造されている第2のスプリング20が第1のスプリング19の荷重に打ち負けて押し縮められるため、図2に示す様に、可動スリーブ6が上限位置まで移動する。
これにより、プランジャバレル3の外周面に開口するサブポート8が可動スリーブ6の壁面によって閉塞されるため、プランジャ4に形成された傾斜リード4aがメインポート7に通じた時点で燃料の圧送が終了する。その結果、低温時には、サブポート8の機能が発揮されることはなく、噴射タイミングの遅れが無くなるので、白煙の発生を低減できる。
【0024】
b)常温時の作動
燃料温度が所定温度以上になる常温時には、第2のスプリング20が第1のスプリング19の荷重に打ち勝って元の形状を回復する(伸びる)ため、図3に示す様に、可動スリーブ6が下限位置まで移動する。
これにより、プランジャバレル3の外周面に開口するサブポート8が可動スリーブ6の開口部6aによって開放されるため、メインポート7がプランジャ4の上端縁によって閉鎖されても、サブポート8がサブリード4bの上端縁によって閉鎖されるまで噴射タイミングを遅らせることができる。
【0025】
(第1実施形態の効果)
上記の燃料噴射ポンプ1は、プランジャバレル3の上部円筒部3aの周囲にスピル室11が形成され、且つポンプハウジング2の内壁に突設された張り出し壁12によってスピル室11が略独立した環状空間に区画されている。これにより、燃料の圧送行程でプランジャ4がメインポート7及びサブポート8を閉じる際に発生するスピル波は、スピル室11から外側(張り出し壁12より上部側の燃料室9)に拡散することが抑制される。
【0026】
また、第1のスプリング19は、張り出し壁12の反スピル室側に配置されているため、スピル波の高エネルギが第1のスプリング19にまで到達することは殆どない。この結果、スピル波によって第1のスプリング19にエロージョンが発生することはなく、折損に至ることもないので、信頼性の低下を防止できる。なお、第2のスプリング20は、元々、メインポート7及びサブポート8から離れた位置に配設されているので、スピル波の影響を受けることはなく、エロージョン対策を行う必要もない。
【0027】
(第2実施形態)
図4及び図5は燃料噴射ポンプ1の作動説明図である。
本実施形態は、第1のスプリング19を形状記憶合金にて製造した場合の一例である。この場合、可動スリーブ6に形成される開口部6aの位置が、第1実施形態とは異なり、図4及び図5に示す様に、可動スリーブ6の下端側に形成される。
【0028】
これにより、燃料温度が所定温度より低い低温時には、第1のスプリング19が第2のスプリング20の荷重に打ち負けて押し縮められるため、図4に示す様に、可動スリーブ6が下限位置まで移動する。その結果、プランジャバレル3の外周面に開口するサブポート8が可動スリーブ6の壁面によって閉塞されるため、サブポート8の機能が発揮されることはなく、噴射タイミングの遅れが無くなるので、白煙の発生を低減できる。
【0029】
一方、燃料温度が所定温度以上になる常温時には、第1のスプリング19が第2のスプリング20の荷重に打ち勝って元の形状を回復する(伸びる)ため、図5に示す様に、可動スリーブ6が上限位置まで移動する。その結果、サブポート8が可動スリーブ6の開口部6aによって開放されるため、メインポート7がプランジャ4の上端縁によって閉鎖されても、サブポート8がサブリード4bの上端縁によって閉鎖されるまで噴射タイミングを遅らせることができる。
【0030】
(変形例)
可動スリーブ6は、図6に示す様に、第1のスプリング19が付勢する第1のスリーブ6Aと、第2のスプリング20が付勢する第2のスリーブ6Bとに分割しても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】燃料噴射ポンプの断面図である(第1実施形態)。
【図2】燃料噴射ポンプの作動説明図(低温時)である(第1実施形態)。
【図3】燃料噴射ポンプの作動説明図(常温時)である(第1実施形態)。
【図4】燃料噴射ポンプの作動説明図(低温時)である(第2実施形態)。
【図5】燃料噴射ポンプの作動説明図(常温時)である(第2実施形態)。
【図6】燃料噴射ポンプの要部断面図(常温時)である(変形例)。
【図7】燃料噴射ポンプの要部断面図である(先願技術の説明)。
【符号の説明】
1 燃料噴射ポンプ
3 プランジャバレル
4 プランジャ
6 可動スリーブ
7 メインポート
8 サブポート
11 スピル室
12 張り出し壁
19 第1のスプリング
20 第2のスプリング

Claims (4)

  1. 燃料の吸入及び排出を行う吸排孔として、内径が大きいメインポートと内径が小さいサブポートとを有する筒状のプランジャバレルと、
    このプランジャバレルの内部に往復動可能に挿入されて、前記プランジャバレルの内部を下降する際に燃料を吸入し、前記プランジャバレルの内部を上昇する際に燃料を圧送するプランジャと、
    前記プランジャバレルの外周に嵌合する円筒形状を有し、前記プランジャバレルの外周面に開口する前記サブポートを閉じる閉位置と前記サブポートを開く開位置との間でスライド可能に設けられた可動スリーブと、
    前記プランジャが前記プランジャバレルの内部を上昇する方向に前記可動スリーブを付勢する第1のスプリングと、
    前記プランジャが前記プランジャバレルの内部を下降する方向に前記可動スリーブを付勢する第2のスプリングとを有し、
    燃料温度が所定温度より低い時は、前記可動スリーブを前記閉位置に駆動し、燃料温度が前記所定温度以上の時は、前記可動スリーブを前記開位置に駆動する様に、前記第1のスプリングと前記第2のスプリングとの何方か一方が形状記憶合金によって製造されている燃料噴射ポンプであって、
    燃料の圧送行程で前記プランジャが前記メインポート及び前記サブポートを閉じる際に発生する圧力波をスピル波と呼ぶ時に、前記メインポート及び前記サブポートが開口する前記プランジャバレルの外周に前記スピル波の拡散を抑制するスピル室が形成され、且つ前記スピル室と前記第1のスプリングとの間に、前記第1のスプリングに対する前記スピル波の影響を軽減する張り出し壁が設けられていることを特徴とする燃料噴射ポンプ。
  2. 請求項1に記載した燃料噴射ポンプにおいて、
    前記張り出し壁は、前記可動スリーブの外周面に近接して全周に設けられていることを特徴とする燃料噴射ポンプ。
  3. 請求項1または2に記載した燃料噴射ポンプにおいて、
    前記第1のスプリングは、反可動スリーブ側の端部が、前記張り出し壁の反スピル室側端面を座面として支持されていることを特徴とする燃料噴射ポンプ。
  4. 請求項1〜3に記載した何れかの燃料噴射ポンプにおいて、
    前記第1のスプリングは、前記可動スリーブの径方向外側に配置され、
    前記第2のスプリングは、前記可動スリーブの径方向内側に配置されていることを特徴とする燃料噴射ポンプ。
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