JP3860976B2 - 磁気ヘッドトラッキング制御方法ならびにそれに用いる磁気記録媒体 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、磁気ヘッドトラッキング制御方法ならびにそれに用いる磁気記録媒体に係り、特に光学的に磁気ヘッドのトラッキング制御ができる磁気ヘッドトラッキング用光学凹部を設けた磁気ヘッドトラッキング制御方法ならびにそれに用いる磁気記録媒体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、パーソナルコンピユータやワードプロセツサなどの著しい普及に伴い、それらに使用する外部記憶装置の小型、大容量化がさらに要求される。これらの要求に対応するため、フレキシブル磁気デイスクにおいて、それのドーナツ状記録帯域の最内周にリフアレンストラックを形成し、そのリフアレンストラックから半径方向外側に向けて所定の間隔離れ、かつ前記リフアレンストラックと同心円状の磁気ヘッドトラッキング用光学凹部をリング状に多数形成し、各リング状磁気ヘッドトラッキング用光学凹部の間をデータトラックとしたものが提案されている(例えば特開平2−187969号公報参照)。
【0003】
図27ならびに図28は、この種磁気デイスクを説明するための拡大断面図ならびに平面図である。
【0004】
これらの図に示すように、ベースフイルム100の表面には磁性層101が設けられており、この磁性層101にはトラッキングサーボ用の溝102が磁気デイスクの回転方向に延びるように、例えばレーザ加工などの手段によつて形成されている。この溝102と溝102との間がデータトラック103となる(図28参照)。
【0005】
一方、磁気記録再生装置の方には、前記磁気デイスクの表面にトラッキングサーボ用の光線104を出射する発光素子(図示せず)と、磁気デイスク表面からの反射光105を受光する受光素子106a,106b,106c,106d(図28参照)とを備えている。
【0006】
そして前記発光素子から出射された光線104を磁気デイスク表面に当てて、それからの反射光105を受光素子106a,106b,106c,106dで受光する。
【0007】
前述のように磁性層101にはトラッキングサーボ用の溝102が形成されているため、データトラック103上で反射する光強度と溝102上で反射する光強度は異なる。図28に示す例では受光素子106aと106bの合計出力値と、受光素子106cと106dの合計出力値とを常に比較して、両者の出力値が等しくなるように磁気ヘッド(図示せず)のトラッキングサーボが行なわれる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
このように情報を記録、再生する磁性層101側にトラッキングサーボ用溝102が多数形成されて表面が凹凸になっていると、その磁性層101上に塵埃や水分、油分が付着し易くなり、情報を記録、再生する際に磁気ヘッドとの間にスペーシングロスが形成され、良好な情報の記録、再生が行なわれないという欠点があった。
【0009】
本発明の目的は、前述したような従来技術の問題点を解消し、トラッキング用光学凹部を多数設けても、良好な情報の記録、再生が行なえる磁気ヘッドトラッキング制御方法ならびにそれに用いる磁気記録媒体を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、第1の本発明は、非磁性体からなる基体と、その基体の一方の面に磁性層を形成し、他方の面にトラッキング用光学凹部を設ける光透過率が0〜25%のカーボンブラックとバインダを含む層を形成して、そのトラッキング用光学凹部を設ける層に、磁気ヘッドの走行方向に延びる磁気ヘッドトラッキング用光学凹部と、その磁気ヘッドトラッキング用光学凹部と隣の磁気ヘッドトラッキング用光学凹部との間に設けられた凹部のない平面部とを設け、前記磁気ヘッドトラッキング用光学凹部の中心線平均表面粗さを0.01μm以下にして当該磁気ヘッドトラッキング用光学凹部の光反射率を10%以上にした磁気記録媒体の前記磁性層と対向するように磁気ヘッドを配置し、前記トラッキング用光学凹部を設けた層と対向するように発光素子と受光素子を有する光デイテクタを配置して、
前記磁気ヘッドトラッキング用光学凹部ならびに平面部に対して前記発光素子からの光を照射し、その反射光を前記受光素子で受光して、その受光素子の出力信号がヘッド駆動制御部に入力され、それからの制御信号に基づいて前記磁性層と対向している磁気ヘッドのトラッキング制御をすることを特徴とするものである。
【0011】
前記目的を達成するために、第2の本発明は、非磁性体からなる基体と、その基体の一方の面に磁性層を形成し、他方の面にトラッキング用光学凹部を設ける光透過率が0〜25%のカーボンブラックとバインダを含む層を形成して、
そのトラッキング用光学凹部を設ける層に、磁気ヘッドの走行方向に延びる磁気ヘッドトラッキング用光学凹部と、その磁気ヘッドトラッキング用光学凹部と隣の磁気ヘッドトラッキング用光学凹部との間に設けられた凹部のない平面部とを設け、前記磁気ヘッドトラッキング用光学凹部の中心線平均表面粗さを0.01μm以下にして当該磁気ヘッドトラッキング用光学凹部の光反射率を10%以上にしたことを特徴とするものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
次に本発明の実施形態を図とともに説明する。図1は実施形態に係る磁気デイスクカートリツジの一部を分解した斜視図、図2は磁気シートの拡大断面図、図3は磁気デイスクの平面図である。
【0013】
図1に示すように磁気デイスクカートリツジは、カートリツジケース1と、その中に回転自在に収納されたフレキシブルな磁気デイスク2と、カートリツジケース1にスライド可能に取り付けられたシヤツタ3と、カートリツジケース1の内面に溶着されたクリーニングシート(図示せず)とから主に構成されている。
前記カートリツジケース1は、上ケース1aと下ケース1bとから構成され、これらは例えばABS樹脂などの硬質合成樹脂で射出成形されている。
【0014】
下ケース1bの略中央部には回転駆動軸挿入用の開口4が形成され、その近くに長方形のヘッド挿入口5が形成されている。図示していないが、上ケース1aにも同様にヘッド挿入口5が形成されている。
【0015】
上ケース1aと下ケース1bの前面付近には、前記シヤツタ3のスライド範囲を規制するために少し低くなつた凹部6が形成され、この凹部6の中間位置に前記ヘッド挿入口5が開口している。
【0016】
前記磁気デイスク2は図3に示すように、ドーナツ状のフレキシブルな磁気シート7と、その磁気シート7の中央孔に挿入されて接着された金属製あるいは合成樹脂製のセンターハブ8とから構成されている。
【0017】
前記磁気シート7は、ベースフイルム9と、そのベースフイルム9の両面に塗着、形成された磁性層10a、10bとから構成されている。
【0018】
前記ベースフイルム9は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)あるいはポリイミドなどの合成樹脂フイルムから構成されている。
【0019】
前記磁性層10a、10bは、強磁性粉、バインダ、研磨粉ならびに潤滑剤などの混合物から構成されている。
【0020】
前記強磁性粉としては、例えばバリウムフエライト、ストロンチウムフエライト、α−Fe、Co−Ni、Co−P、γ−Fe2 O3 、Fe3 O4 、Co含有γ−Fe2 O3 、Co含有γ−Fe3 O4 、CrO2 、Co、Fe−Niなどの微粉末が使用される。
【0021】
前記バインダとしては、例えば塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、ウレタン樹脂、ポリイソシアネート化合物、放射線硬化性樹脂などが使用される。
【0022】
前記研磨粉としては、例えば酸化アルミニウム、酸化クロム、炭化ケイ素、窒化ケイ素などが用いられる。この研磨粉の添加率は、磁性粉に対して約0.1〜25重量%が適当である。
【0023】
前記潤滑剤としては、例えばステアリン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸、オレイルオレート、グリセリンオレートなどの高級脂肪酸エステル、流動パラフイン、スクアラン、フツ素樹脂、フツ素オイル、シリコンオイルなどが使用可能である。
【0024】
磁性塗料の具体的な組成例を示せば次の通りである。
磁性塗料組成例1
バリウムフエライト 100重量部
(Hc:530〔Oe〕,飽和磁化量:57〔emu/g〕,
板径:0.05〔μm〕)
塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体 11.0重量部
ウレタン樹脂 6.6重量部
三官能性イソシアネート化合物 4.4重量部
酸化アルミニウム粉末(平均粒径0.43〔μm〕) 15重量部
カーボンブラツク(平均粒径0.3〔μm〕) 2重量部
カーボンブラツク(平均粒径0.02〔μm〕) 2重量部
オレイルオレイル 6重量部
シクロヘキサノン 150重量部
トルエン 150重量部
磁性塗料組成例2
α−Fe 100重量部
(Hc:1650〔Oe〕,飽和磁化量:135〔emu/g〕,
長軸長さ:0.25〔μm〕,平均軸比:8)
塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体 14.1重量部
ウレタン樹脂 8.5重量部
三官能性イソシアネート化合物 5.6重量部
酸化アルミニウム粉末(平均粒径0.43〔μm〕) 20重量部
カーボンブラツク(平均粒径0.3〔μm〕) 2重量部
カーボンブラツク(平均粒径0.02〔μm〕) 2重量部
オレイルオレイル 6重量部
シクロヘキサノン 150重量部
トルエン 150重量部
前述の磁性塗料組成例1または磁性塗料組成例2の組成物をボールミル中でよく混合分散して磁性塗料を調整し、これを62μmのポリエチレンテレフタレート(PET)のベースフイルムの両面に、乾燥平均厚みが0.79μmとなるように塗布し、乾燥したのち、カレンダ処理を施して磁性層10a、10bをそれぞれ形成する。
【0025】
このようにして構成された磁気デイスク2の一方の磁性層10a(この磁性層10aはトラッキング用光学凹部を形成する層であるから、以降、凹部形成層10aという)の表面に、図3に示すようにリフアレンストラック11と、多数の磁気ヘッドトラッキング用光学トラック12がエンボス加工などによつて形成される。これらリフアレンストラック11ならびに磁気ヘッドトラッキング用光学トラック12は、磁気デイスク2の回転中心13を中心にして同心円状に設けられている。図2に示すように磁気デイスク2の他方の磁性層10bには、磁気ヘッドトラッキング用光学トラック12などは形成されない。
【0026】
1つの磁気ヘッドトラッキング用光学トラック12と隣の磁気ヘッドトラッキング用光学トラック12との間に、平面部14が形成される。
【0027】
図3に示すように磁気デイスク2上に設けられる帯域15の最内周部に前記リフアレンストラック11が形成され、それより径方向外側、すなわち磁気ヘッドの走行方向と直交する方向の外側に磁気ヘッドトラッキング用光学トラック12と平面部14が交互に多数形成される。
【0028】
前記リフアレンストラック11は図4に示すように、磁気ヘッドの走行方向Xに沿つて延びており、リフアレンストラック11の中心線16上の任意の点17を中心として点対称に長方形のリフアレンス凹部領域18Aとリフアレンス凹部領域18Bが一対になつて形成されている。このリフアレンス凹部領域18Aの隣(リフアレンス凹部領域18Bの前方)ならびにリフアレンス凹部領域18Bの隣(リフアレンス凹部領域18Aの後方)には凹部のない平面部19Aと平面部19Bとがある。
【0029】
これら一組のリフアレンス凹部領域18A、18B、平面部19A、19Bが、磁気ヘッドの走行方向Xに沿つて間欠的または連続的に多数形成されることにより、リフアレンストラック11を構成している。
【0030】
この実施形態において前記リフアレンス凹部領域18A、18Bの磁気ヘッド走行方向の長さL1は2.4mm、幅方向の長さL2は18μmである。
【0031】
図5ないし図9は、磁気デイスク2のトラッキングサーボを説明するための図である。図5に示すように、磁気ヘッドトラッキング用光学トラック12にもトラッキング用凹部23が、磁気ヘッドの走行方向Xに沿つて間欠的または連続的に形成されている。
【0032】
この実施形態の場合、トラッキング用凹部23は間欠的に形成され、トラッキング用凹部23の幅L3は5μm、平面部14の幅L4は15μmである。
【0033】
前記リフアレンス凹部領域18A、18Bならびにトラッキング用凹部23は、図6に示すように同時にプレス加工によつて形成される。
【0034】
同図に示すようにセンターハブ8を取り付けた磁気デイスク2が、基台25上にセツトされる。この磁気デイスク2は、前工程において磁性層10a,10bの表面が所定の表面粗さになるように研摩加工されている。
【0035】
前記基台25にはセンターハブ8の中央孔26(図3参照)に挿入されるセンターピン27が突設されており、センターハブ8の中央孔26にこのセンターピン27を通して磁気デイスク2を基台25上に位置決めする。
【0036】
基台25の上方には、それと平行にスタンパ28が上下動可能に配置され、スタンパ28は前記センターピン27によつて上下動がガイドされるようになつている。スタンパ28の下面には前記リフアレンス凹部領域18A、18Bならびにトラッキング用凹部23を形成するための微細な突部29が多数形成されている。
【0037】
図6の状態からスタンパ28を下げて、磁気デイスク2を基台25とスタンパ28との間において所定の圧力で挟持する。これによつてスタンパ28に形成されている突部29が凹部形成層10aの表面に食い込み、圧縮により断面形状がほぼ台形のリフアレンス凹部領域18A、18Bならびにトラッキング用凹部23が一方の凹部形成層10a側に形成される。
【0038】
記録再生時には、図7に示すように磁気デイスク2は磁気ヘッド30a、30bの間で挟持された状態で回転する。前記磁気ヘッド30aの方には、トラッキングサーボ用の光を出力する例えばLEDなどからなる発光素子31と、凹部形成層10aからの反射光を受光する受光素子群32とを有する光デテクタが一体に取り付けられている。そしてこの磁気ヘッド30aの発光素子31ならびに受光素子群32が取り付けられている部分は、磁気デイスク2側に向けて開口している。
【0039】
受光素子群32は図8に示すように4つの受光素子32a,32b,32c,32dから構成されており、平面部14ならびにトラッキング用凹部23上で反射する光をこの受光素子32a,32b,32c,32dで受光して、各受光素子32a,32b,32c,32dの出力は図9に示すようにサーボ信号演算部33に入力される。そしてこのサーボ信号演算部33で求められた位置修正信号がヘッド駆動制御部34に入力され、それからの制御信号に基づいて磁性層10bと対向している磁気ヘッド30bのトラッキング制御が行われる。
【0040】
次にこの磁気デイスクの光学特性について説明する。図10は凹部形成層10aの厚さを種々変えた試料を作り、その凹部形成層10aの厚さと光反射率との関係を実験で求めた特性図である。この実施形態での光源としては図11に示すような波長分布を有するLED(中心波長880nm)を使用し、凹部形成層10aの表面に対する入射角θを20度とした。
【0041】
この図10から明らかなように凹部形成層10aの厚さによつて光反射率の高い領域と低い領域とがあり、これは凹部形成層10aの表面の反射光と、その凹部形成層10aを透過し凹部形成層10aとベースフイルム9との界面で反射して、再び凹部形成層10aを透過して表面に現れる戻り光との干渉によるものであると考えられる。
【0042】
この図に示すように、光反射率10%以上確保できる凹部形成層の厚さはそれぞれ特定の範囲に限定される訳であるが、磁性塗料を塗布するときの膜厚のばらつきなどにより、光反射率が大きく変動する心配がある。
【0043】
図12は、この光反射率とサーボ信号出力との関係を求めた特性図である。この図から明らかなように、凹部形成層の光反射率とサーボ信号出力とはほぼ比例関係にあり、凹部形成層の光反射率がばらつくとサーボ信号出力が変動するから、どの磁気デイスクでも安定したサーボ信号出力を得るためには、光反射率の格差を可及的に小さくすることが要求される。
【0044】
光反射率の変動を小さくして安定したサーボ信号出力を得るためには、前述した干渉の影響を小さくすることが最も効果的であることが諸種の実験結果から明らかになつた。そして干渉による影響を小さくする有効な手段として、
▲1▼.凹部形成層自体の光透過率を下げること、
▲2▼.ベースフイルムの反射率を下げること、
などが挙げられる。
【0045】
前記▲1▼項の凹部形成層自体の光透過率を下げる手段として、カーボンブラツクの添加について検討した。図13はカーボンブラツクの添加量と凹部形成層の光透過率との関係を調べた特性図で、この図から明らかなようにカーボンブラツクを1.5重量%添加することにより、凹部形成層の光透過率を25%まで下げることが、カーボンブラツクを2重量%添加することにより、凹部形成層の光透過率を20%近くまで下げることができる。このようにカーボンブラツクの添加量を増すことにより凹部形成層の光透過率を下げることができるが、カーボンブラツクの添加量が増すと必然的に他の例えば磁性材料やバインダなどの凹部形成層構成材料の量が制限されるため、カーボンブラツクの添加量は1〜10重量%が適当で、好ましくは1〜7重量%の範囲、さらに好ましくは1.5〜5重量%の範囲である。
【0046】
なお、凹部形成層の光透過率を下げると干渉による影響は小さくなるが、凹部形成層の光反射率も下がる。そこで、凹部形成層の表面性を向上することにより凹部形成層の光反射率を上げることができる。
【0047】
この凹部形成層の表面性を向上する手段として、凹部形成層の表面粗さを小さくすることと、磁性塗料の分散性、流動性を向上する手段がある。後者の手段は後の光学ノイズの低減対策で具体的に説明するので、ここでは省略する。
【0048】
図14は、カーボンブラツクを4重量%添加した凹部形成層の表面粗さと光反射率との関係を示す図である。この図から明らかなように、凹部形成層の表面粗さ(中心線平均粗さRa)を0.01μm以下にすると凹部形成層の光反射率を10%以上確保することができる。
【0049】
前記ベースフイルムの反射率を下げる手段として、表面に例えばパラジウムやアルミニウム酸化物などの無機化合物の不連続な乱反射膜、あるいは色素や染料の如き有機化合物の光吸収性膜を付与したベースフイルムを使用する手段、表面を例えばマツト加工などを施して乱反射を起こさせるようにしたベースフイルムを使用する手段、カーボンブラツクなどの光吸収剤を混入したベースフイルムを使用する手段などがある。
【0050】
図15はサーボ信号生成の様子を説明するための図で、同図(a)は図8に示す受光素子32aと32bの検出値の差に基づく出力波形(波形N)と、受光素子32cと32dの検出値の差に基づく出力波形(波形Q)とを示す図で、両波形N,Qは位相が90度ずれている。この両波形N,Qにより、同図(b)に示すようなサーボ信号波形Sが生成される。
【0051】
図16はサーボ信号におよぼす光学ノイズの影響を説明するための図で、同図(a)は光学ノイズがないときの波形、同図(b)は光学ノイズがあるときの波形を示している。同図(a)のように光学ノイズが乗つていない場合は、サーボオンになると磁気ヘッドをスムースに所定の位置(目標値)に誘導することができるが、同図(b)のように光学ノイズが乗つている場合は、サーボオンになつても磁気ヘッドを短時間に所定の位置(目標値)に誘導することができず、オフトラック(O.T)を生じる。
【0052】
本発明者らはこの光学ノイズを分析してその特性について種々検討した結果、その光学ノイズが凹部形成層の表面粗さによるノイズ(ノイズX)と、電気回路により補正可能なノイズ(ノイズY)と、補正できずしかも磁気ヘッドのトラッキングサーボに大きな影響を与えるノイズ(ノイズZ)とに分けられることを解明した。
【0053】
図17は、この種磁気デイスクで観測される光学ノイズの原波形図である。この光学ノイズを周波数分析してみると、周波数が2KHz以上の領域のノイズと、周波数が100Hz未満の領域のノイズと、周波数が100Hzを超えて2KHz未満の領域のノイズとに分けられ、それぞれのノイズの波形を図18、図
19ならびに図20に示す。
【0054】
図18に示すノイズは凹部形成層の表面粗さによるもの(ノイズX)と思われ、このノイズはサーボ制御系のゲインが十分に小さくなる領域であるため、磁気ヘッドのトラッキングサーボには影響を与えないノイズであることが確認された。
【0055】
また図19に示すノイズは凹部形成層の厚み変動による干渉強度の振れによつて生じたもの(ノイズY)であるが、LEDなどの光源の発光強度にサーボをかけることにより平滑化(補正)できるから、このノイズもトラッキングサーボにはほとんど悪影響を与えないことが確認された。
【0056】
これらに対して図20に示すノイズ、すなわち周波数が100Hzを超えて2KHz未満の領域のノイズ(ノイズZ)は、光源回路にサーボをかけることにより平滑化(補正)できる性質のノイズではなく、しかも磁気ヘッドのトラッキングサーボに大きな影響を与えるノイズであることが確認された。したがつて適正なトラッキングサーボを行なうためには、この周波数領域のノイズを低減することが重要である。
【0057】
この周波数が100Hzを超えて2KHz未満の領域のノイズにおいて、凹部形成層の厚さのばらつきの影響について検討した。この検討に際して、ベースフイルムとして62μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)を使用し、導電性を付与するためにポリアニリンの極薄膜(膜厚が500Å)をベースフイルムの表面に塗布した。
【0058】
また磁性塗料として次の組成のものを使用して、目標膜厚が0.79μmの凹部形成層を形成した。
【0059】
磁性塗料組成例3
バリウムフエライト 100重量部
塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体 11.0重量部
ウレタン樹脂 6.6重量部
三官能性イソシアネート化合物 4.4重量部
酸化アルミニウム粉末(平均粒径0.43〔μm〕) 15重量部
カーボンブラツク(平均粒径0.3〔μm〕) 4重量部
オレイルオレイル 6重量部
シクロヘキサノン 150重量部
トルエン 150重量部
まず、凹部形成層の膜厚の変動とその偏差率を磁性塗料の塗布幅方向の160mm(6インチ)の範囲で測定し、その結果を図21ならびに図22に示した。図21は横軸に塗布幅方向に対する測定位置を、縦軸に蛍光X線微小膜厚計によるX線カウント値を、それぞれ示している。また図22は横軸に塗布幅方向に対する測定位置を、縦軸に前記X線カウント値によつて換算された膜厚の偏差値を、それぞれ示している。
【0060】
前記蛍光X線微小膜厚計としてセイコー電子工業社製のSFT−156A型を使用し、塗布幅方向に5mm間隔毎に測定位置を移動させながら1mmのスポツト径になるようにX線を照射し、その都度、凹部形成層から発生する1秒間当たりの鉄の蛍光X線量(カウント/秒 cps)を計測した。なお、X線照射時間は20秒間とし、同じ位置での測定を3回行い、その平均値をX線カウント値とした。
【0061】
この図21ならびに図22から明らかなように、塗布幅方向において凹部形成層の膜厚が変動していることが分かる。
【0062】
図23は、前記X線カウント値の標準偏差と、周波数が100Hzを超えて2KHz未満の領域の光学ノイズとの関係を検討した結果を示す図である。なお、凹部形成層からの光反射率の変動を図8に示すような4分割のフオトデテクタの和信号の変動として測定し、ノイズ信号レベル(N)はR.M.Sボルトメータで測定される回路ノイズ(Nc)と、磁気デイスクと回路の総和ノイズ(Nt)を用いて次式で定義した。
【0063】
N=−20log(Nc/Nt) 〔dB〕
なお、90Hz以下の反射率変動は、発光素子における駆動電流のサーボが追従できるものとして、90Hzハイパスフイルタを通過させた後の光学ノイズを測定した。
【0064】
この図から明らかなように、X線カウント値の標準偏差が1.8cpsを超えると光学ノイズが急激に大きくなり、信頼性に問題が出てくるが、X線カウント値の標準偏差が1.5cps以下であれば光学ノイズを4dB以下に抑えることができ、さらにX線カウント値の標準偏差を1.3cps以下にすると光学ノイズは2dB以下にすることができ、信頼性の向上が図れる。
【0065】
前述のように光学ノイズを小さくするためにX線カウント値の標準偏差を1.5cps以下にする具体的な手段として、まず最初、ベースフイルムの濡れ性について検討した。
【0066】
(1)ベースフイルムの検討
ベースフイルムの濡れ性の評価は、所定の液体とベースフイルムとの接触角の測定によつて行なつた。ベースフイルムの接触角は、試料を所定の液体(シクロヘキサノンとトルエンの等重量混合液)中に浸し、その時に生じる表面張力と浮力との合力を測定することにより、接触角θを下記の式より求めた。
【0067】
F=γ・cosθ・l−A・ρ・D
F:濡れ応力
γ:液体の表面張力
θ:接触角
l:所定の液体とベースフイルムとの接触長さ
A:ベースフイルムの断面積
ρ:所定の液体の密度
D:ベースフイルムの浸漬深さ
A・ρ・D:浮力項
次の表1は、各種ベースフイルムの接触角θを示す表であり、表中のPETはポリエチレンテレフタレートを、PET+SiO2 +PAはポリエチレンテレフタレートフイルムの表面にSiO2 微粒子を塗布し、さらにその上にポリアニリン導電膜(500Å)を形成したもの、PET+PAはポリエチレンテレフタレートフイルムの表面にSiO2 微粒子を塗布しないで直接にポリアニリン導電膜(500Å)を形成したものをそれぞれ示す。
【0068】
この結果からも明らかなように、PET単独のものは接触角θが非常に小さく、PET+PA、PET+SiO2 +PAの順に接触角θが大きくなつている。
次に磁性塗料の流動性について検討した。
(2)超微粒子カーボンブラツクの検討
カーボンブラツクとして微小のカーボンブラツク単独と、その微小のカーボンブラツクに超微小のカーボンブラツクを添加した場合の、光ノイズにおよぼす影響について検討し、その結果を次の表2に示した。
【0069】
なお、表中の微小C.Bは平均粒径が0.3μmのカーボンブラツク、超微小C.Bは平均粒径が0.02μmの超微小カーボンブラツクをそれぞれ示している。また各試料とも潤滑剤としてオレイルオレートを6重量部添加した。
【0070】
この表から明らかなように、超微小カーボンブラツクを添加することにより磁性塗料の分散性、流動性が良好となり、X線カウント値の標準偏差を1.5cps以下にして、光学ノイズを低減することができた。特にPET単独のベースフイルムは光学ノイズが低く、またポリアニリンを被着したベースフイルムを使用する場合でも、ベースフイルムの表面にSiO2 を塗布しないで直接にポリアニリンを被着したベースフイルム(PET+PA)の方が、ベースフイルムの表面が平滑になり、磁性塗料の流動性が良好となるため好適である。
【0071】
微小カーボンブラツク(平均粒径0.07〜0.4μm)に対する超微小カーボンブラツク(平均粒径0.015〜0.07μm)の混合割合は 1/10〜10/1が適当である。
【0072】
(3)潤滑剤の検討
凹部形成層と磁気ヘッドとの摺接抵抗を小さくするために凹部形成層中にオレイルオレートなどの潤滑剤が添加されるが、その添加量と光学ノイズとの関係について検討した。なお、この検討では潤滑剤としてオレイルオレートを使用し、凹部形成層1m2 当たりの潤滑剤の量として次の表3に示した。なおこの潤滑剤の量は、磁気記録媒体をノルマルヘキサンで洗浄する前と後の重量差によつて算出した値である。
【0073】
この表から明らかなように、潤滑剤を凹部形成層1m2 当たりの潤滑剤の量を25mg以上、好ましくは30〜100mgにすることによつて、光学ノイズが低減される。なお、このように潤滑剤の添加量を増すことによつて何故光学ノイズが低減されるのか理論的な根拠は明らかでないが、磁性塗料の塗布状態から観察して、潤滑剤の増量により磁性塗料の流動性が改善されていると推測できる。
【0074】
この検討では潤滑剤としてオレイルオレートを使用したが、その他潤滑剤として例えばステアリン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸、グリセリンオレート、2ヘキシルデシルステアレート、2エチルヘキシルオレート、トリデシルステアレート、ブトキシエチルステアレートなどの高級脂肪酸エステル、流動パラフイン、スクアラン、フツ素オイル、シリコンオイルなどの各種の潤滑剤が使用可能である。
【0075】
次の表4は、前述のベースフイルム、超微小カーボンブラツクの添加、潤滑剤の増量ならびに超微小カーボンブラツクの添加と潤滑剤(オレイルオレート)の増量との組み合わせをまとめて現した表である。表中の○印は光学ノイズが2dB以下のもの、×印は光学ノイズが2dBを超えたものを示し、( )中の数値は光学ノイズの実測値を示している。
【0076】
【表4】
この表から明らかなように、SiO2 やポリアニリン(PA)を塗布しないPET単独の場合は接触角θが小さいため、何れの場合も光学ノイズが低い。
【0077】
またPET表面にポリアニリン(PA)を塗布したベースフイルムの場合、超微小カーボンブラツクを添加したり、潤滑剤を増量したり、あるいは超微小カーボンブラツクの添加と潤滑剤の増量を組み合わせることにより、光学ノイズの低減を図ることができた。
【0078】
さらにまた、PET表面にSiO2 を塗布し、その上にポリアニリン(PA)を被着したベースフイルムの場合、超微小カーボンブラツクの添加や、超微小カーボンブラツクの添加と潤滑剤の増量を組み合わせることにより、光学ノイズの低減を図ることができた。
【0079】
図25は、SiO2 やポリアニリン(PA)を塗布しないPET単独のベースフイルムを使用し、超微小カーボンブラツクの添加と潤滑剤の増量を組み合わせたものの凹部形成層の膜厚の変動を示す。この図と前述した図21を比較すると明らかなように、図25のものの方が凹部形成層の膜厚の変動が極めて少ないことが分かる。
【0080】
図26は、このSiO2 やポリアニリン(PA)を塗布しないPET単独のベースフイルムを使用し、超微小カーボンブラツクの添加と潤滑剤の増量を組み合わせたものの、周波数が100Hzを超えて2KHz未満の領域のノイズ特性図である。この図と前述した図20を比較すると明らかなように、図26のものの方が光学ノイズが非常に少ないことが分かる。
【0081】
前記実施形態では磁気ヘッドトラッキング用の光源としてLEDを使用したが、例えばレーザ光など他の光源を用いることもできる。
【0082】
【発明の効果】
第1の本発明は前述のように、非磁性体からなる基体と、その基体の一方の面に磁性層を形成し、他方の面にトラッキング用光学凹部を設ける層を形成して、そのトラッキング用光学凹部を設ける層に、磁気ヘッドの走行方向に延びる磁気ヘッドトラッキング用光学凹部と、その磁気ヘッドトラッキング用光学凹部と隣の磁気ヘッドトラッキング用光学凹部との間に設けられた凹部のない平面部とを設けた磁気記録媒体の前記磁性層と対向するように磁気ヘッドを配置し、前記トラッキング用光学凹部を設けた層と対向するように発光素子と受光素子を有する光デイテクタを配置して、
前記磁気ヘッドトラッキング用光学凹部ならびに平面部に対して前記発光素子からの光を照射し、その反射光を前記受光素子で受光して、その受光素子の出力信号がヘッド駆動制御部に入力され、それからの制御信号に基づいて前記磁性層と対向している磁気ヘッドのトラッキング制御をすることを特徴とするものである。
【0083】
第2の本発明は前述のように、非磁性体からなる基体と、その基体の一方の面に磁性層を形成し、他方の面にトラッキング用光学凹部を設ける層を形成して、そのトラッキング用光学凹部を設ける層に、磁気ヘッドの走行方向に延びる磁気ヘッドトラッキング用光学凹部と、その磁気ヘッドトラッキング用光学凹部と隣の磁気ヘッドトラッキング用光学凹部との間に設けられた凹部のない平面部とを設けたことを特徴とするものである。
【0084】
前述のようにトラッキング用光学凹部を設ける層と、磁気ヘッドをトラッキング制御して情報の記録、再生を行なう磁性層とを別に設けることにより、トラッキング用光学凹部を形成しても、良好な情報の記録、再生が行なえる磁気ヘッドトラッキング制御方法ならびにそれに用いる磁気記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気デイスクカートリツジの一部を分解した斜視図である。
【図2】磁気シートの拡大断面図である。
【図3】磁気デイスクの平面図である。
【図4】リフアレンストラックの一部拡大平面図である。
【図5】リフアレンストラックならびに磁気ヘッドトラッキング用光学トラックを説明するための図である。
【図6】リフアレンストラックならびに磁気ヘッドトラッキング用光学トラックを形成する装置を示す断面図である。
【図7】磁気ヘッドのトラッキングサーボを説明するための断面図である。
【図8】受光素子の配置状態を示す説明図である。
【図9】磁気ヘッドのトラッキング制御を説明するための断面図である。
【図10】凹部形成層の膜厚とその凹部形成層の反射率との関係を示す特性図である。
【図11】試験に使用するLED光の波長の分布特性図である。
【図12】凹部形成層の反射率との関係を示す特性図である。
【図13】カーボンブラツクの添加量と凹部形成層の光透過率との関係を示す特性図である。
【図14】凹部形成層表面の研磨時間と表面粗さと光反射率との関係を示す特性図である。
【図15】サーボ信号の生成を説明するための図である。
【図16】サーボ信号におよぼす光学ノイズの影響を説明するための図である。
【図17】光学ノイズの原波形図である。
【図18】周波数が2KHz以上の領域のノイズ波形図である。
【図19】周波数が100Hz未満の領域のノイズ波形図である。
【図20】周波数が100Hzを越え2KHz未満の領域のノイズ波形図である。
【図21】改良前の凹部形成層の膜厚変動を示す特性図である。
【図22】改良前の凹部形成層の膜厚偏差を示す特性図である。
【図23】X線カウント値の標準偏差値と光学ノイズとの関係を示す特性図である。
【図24】光学ノイズとオフトラック量との関係を示す特性図である。
【図25】改良後の凹部形成層の膜厚変動を示す特性図である。
【図26】改良後の周波数が100Hzを越え2KHz未満の領域のノイズ波形図である。
【図27】従来提案された磁気記録媒体の拡大断面図である。
【図28】この従来の磁気記録媒体上での受光素子の配置状態を示す説明図である。
【符号の説明】
2 磁気デイスク
7 磁気シート
9 ベースフイルム
10a 凹部形成層
10b 磁性層
11 リフアレンストラック
12 磁気ヘッドトラッキング用光学トラック
14 データトラック
15 記録帯域
23 トラッキング用凹部
30 磁気ヘッド
31 発光素子
32 受光素子群
32a,32b,32c,32d 受光素子
33 サーボ信号演算部
34 ヘッド駆動制御部
Claims (2)
- 非磁性体からなる基体と、その基体の一方の面に磁性層を形成し、他方の面にトラッキング用光学凹部を設ける光透過率が0〜25%のカーボンブラックとバインダを含む層を形成して、そのトラッキング用光学凹部を設ける層に、磁気ヘッドの走行方向に延びる磁気ヘッドトラッキング用光学凹部と、その磁気ヘッドトラッキング用光学凹部と隣の磁気ヘッドトラッキング用光学凹部との間に設けられた凹部のない平面部とを設け、前記磁気ヘッドトラッキング用光学凹部の中心線平均表面粗さを0.01μm以下にして当該磁気ヘッドトラッキング用光学凹部の光反射率を10%以上にした磁気記録媒体の前記磁性層と対向するように磁気ヘッドを配置し、前記トラッキング用光学凹部を設けた層と対向するように発光素子と受光素子を有する光デイテクタを配置して、
前記磁気ヘッドトラッキング用光学凹部ならびに平面部に対して前記発光素子からの光を照射し、その反射光を前記受光素子で受光して、その受光素子の出力信号がヘッド駆動制御部に入力され、それからの制御信号に基づいて前記磁性層と対向している磁気ヘッドのトラッキング制御をすることを特徴とする磁気ヘッドトラッキング制御方法。 - 非磁性体からなる基体と、その基体の一方の面に磁性層を形成し、他方の面にトラッキング用光学凹部を設ける光透過率が0〜25%のカーボンブラックとバインダを含む層を形成して、
そのトラッキング用光学凹部を設ける層に、磁気ヘッドの走行方向に延びる磁気ヘッドトラッキング用光学凹部と、その磁気ヘッドトラッキング用光学凹部と隣の磁気ヘッドトラッキング用光学凹部との間に設けられた凹部のない平面部とを設け、前記磁気ヘッドトラッキング用光学凹部の中心線平均表面粗さを0.01μm以下にして当該磁気ヘッドトラッキング用光学凹部の光反射率を10%以上にしたことを特徴とする磁気記録媒体。
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