JP3859479B2 - ボロメータ型赤外線検出器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱分離構造を有するボロメータ型赤外線検出器に関し、特に、温度ドリフトとノイズを抑制することができる高性能化のボロメータ型赤外線検出器に関する。
【0002】
【従来の技術】
赤外線検出器は、半導体等のバンド構造を利用した量子型と、熱による材料物性値(抵抗、誘電率等)の変化を利用した熱型に大きく分けられる。前者は高感度ではあるが動作原理上冷却を必要としている。それに対し後者は、特に冷却を必要としていないため非冷却型とも呼ばれ、製作コストや維持コストの面で量子型に比べ有利な点が多く、赤外線検出器の主流となりつつある。
【0003】
熱型赤外線検出器には、ボロメータ型、焦電型及び熱電対型があり、いずれも検出器の感度を高くするため一般には熱分離構造、いわゆるダイアフラム構造を有している。このなかでもボロメータ型の赤外線検出器は比較的特性に優れ、特にボロメータ材料として酸化バナジウム(VO2)を用いたものは、SPIE(1996年、2746巻、23頁)にも述べられているように、二次元に配列され赤外画像検出素子として用いられている。ここでは、その一画素を例にとって、ボロメータ型赤外線検出器の典型的な構造を説明する。図3は、従来のボロメータ型赤外線検出器の構造を示す平面図であり、図4は、B−B′線における断面図である。
【0004】
図3及び図4に示すように、ボロメータ型赤外線検出器は一般に、熱電変換部分1とそれを支える梁2とからなり、熱電変換部1は梁2によって支えられているダイアフラム構造となっている。このダイアフラム構造は、支持膜3、熱電材料としてのボロメータ薄膜4、ボロメータ薄膜4の抵抗変化を検出するための電極6、及び保護膜5よりなり、これらはキャビティ8により基板9から熱的に分離されている。
【0005】
ダイアフラム構造は、基板9上に犠牲層を堆積し、さらに支持膜3、ボロメータ薄膜4を堆積、パターニング、電極6を形成、保護膜5を堆積し、各層を所望の形状にドライエッチング等でパターニングして熱電変換部1の周りに犠牲層を露出させ、最後に熱電変換部1の周りからエッチングにより犠牲層を除去することにより形成される。犠牲層が除去された部分であるキャビティ8は完全に空隙になっており、熱電変換部1を梁2で吊っている構造となっている。特に図には示されていないが、梁2の先端は基板9に接地している。ボロメータ薄膜4の相対する2辺は電極6と接触しており、これらの電極6は梁2を経由して信号処理回路に接続され、赤外線を吸収することでダイアフラムの温度が上昇し、それによって生じたボロメータ薄膜4の抵抗変化を電気信号として取り出している。
【0006】
また、TiやYBCO(イットリウムバリウム銅酸化物)などの比抵抗の低いボロメータ材料を用いた場合は、電極とボロメータ材料が一体化できる利点はあるものの、素子としての抵抗値を所望の値に制御するために、図5に示すようにダイアフラム上でメアンダー構造を採用する必要がある。この例はSPIE(1993年、2020巻、2頁)に述べられている。メアンダー構造の幅は狭く、折り返し回数も多くなっているが、低抵抗の材料を用いているため、形状が与える電気的な影響(たとえば折り返し部分での電流密度の不均一性など)はあまり問題にはならないと思われる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前述したボロメータ型赤外線検出器は、赤外線を吸収することでダイアフラムの温度が上昇し、それによって生じたボロメータの抵抗変化を電気信号として読み出しているが、実際に動作時にはバイアスを印加することでボロメータに電流が流れ、ジュール熱による自己発熱によりダイアフラム温度は上昇する。このジュール熱による温度上昇は動作時の温度ドリフトの原因となり、ボロメータの抵抗変化による電気信号に大きく影響を与えるため、極力抑えることが必要である。そのためにボロメータ抵抗は高い方が望ましく、100kΩ程度にするのが適当である。
【0008】
抵抗温度係数(TCR)が−2%/K程度の比較的高い値が得られる材料であり、通常ボロメータ型赤外線検出器に用いられているVO2は、厚さ約1000Å(100nm)でシート抵抗は10〜20kΩである。温度ドリフトの影響を軽減するためにボロメータ抵抗として100kΩを得るには、ボロメータ形状を改善し、現状の1/5から1/10程度まで薄膜化するか細線化する方法が考えられる。これにより温度ドリフトは改善される。
【0009】
一方、ボロメータ型赤外線検出器のノイズは1/fノイズが支配的と言われており、1/fノイズの大きさSvは次式で表される。
【0010】
【数1】
【0011】
ここでVは電圧である。その1/fノイズの係数であるK値はボロメータ材料の体積あるいはキャリア数に依存すると言われている。即ち体積が大きい方が、あるいは比抵抗が小さい方が(キャリア数が多い方が)K値が小さくなり性能的には優れたものとなる。しかしながら、上述した方法で抵抗を高くし温度ドリフトを改善しても体積効果によりノイズ特性が大幅に劣化し、最終的に性能の優れたものは得られない。また材料自体を改良し、高比抵抗化を図ったとしてもキャリア数の効果によりノイズ特性の劣化は免れない。
【0012】
従って、ボロメータの体積をほとんど変化させずに抵抗だけを高くする方法が求められる。これを実現する方法としては、従来の技術で図5により示したメアンダー構造が考えられる。図6には通常のVO2を用いてボロメータ薄膜4をメアンダー構造にし、電極6で配線した状態を示した。図5と比較してボロメータの比抵抗が高いため、メアンダー構造の幅は広く折り返し回数は少なくなっている。
【0013】
この構造では、図3と比較してボロメータの全体の体積はほとんど変わらず、抵抗のみが100kΩ程度になるように調整しているものの、折り返し(曲がり)の部分では特に電流密度が不均一になり、動作に寄与する有効体積は減少している。従ってK値に関してもボロメータの体積から想定される値に対して2〜3倍劣化する問題が生じている。また、曲がりの内側部分に電流が集中して高温になり、動作に悪影響を与えることも懸念される。
【0014】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その主たる目的は、自己発熱による温度ドリフトを抑制し、かつ、ノイズによる特性劣化の無い構造のボロメータ型赤外線検出素子を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明のボロメータ型赤外線検出器は、支持膜と、前記支持膜上に設けられたボロメータ薄膜と、前記ボロメータ薄膜上に設けられた保護膜とからなる熱電変換部が、基板から梁によって浮かせて支持されたダイアフラム構造を有するボロメータ型赤外線検出器において、前記ボロメータ薄膜が短冊状に分割され、前記基板の面方向に並設された複数の素子で構成され、前記短冊状の複数の素子が、それぞれの短冊の長手方向の端部に設けた電極により直列に接続されているものである。
【0019】
すなわち、本発明では、ボロメータ薄膜を図1に示すように短冊状に加工して配列し、それらを電極により直列に接続した構造としている。従って、ボロメータ薄膜の成膜条件や膜厚は従来と全く同様としたままボロメータ抵抗の高抵抗化を図ることができ、動作時のジュール熱による温度上昇を抑え、温度ドリフトの影響を抑制することが可能となる。更に、本発明の構造では、ボロメータの体積は、動作に寄与する電流が流れる有効体積を考慮しても従来構造とほぼ同等であるため、ボロメータ抵抗が高くなってもK値が増加することはなく、1/fノイズを低く抑えることができる。
【0020】
上記構造を用いることにより、ノイズ特性を劣化させることなくボロメータ抵抗を1桁程度高くすることができ、温度ドリフトを抑えたボロメータ型赤外線検出器を得ることができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施の形態に係るボロメータ型赤外線検出器の構造、製造方法、動作、特性について、図1及び図2を用いて具体的に説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係るボロメータ型赤外線検出器の構造を示す平面図であり、図2は、図1のA−A′線における断面図である。なお、本実施形態では、ボロメータ材料としてVO2を用いた場合について示す。
【0022】
図1に示すように、本実施形態のボロメータ型赤外線検出器は、熱電変換部1であるダイアフラムを2本の梁2で支えている形状である。特に図には示されていないが、梁2の先端は基板9に接地されている。ボロメータ薄膜4はダイアフラム内で3本の短冊状に配列され、それらは電極6により電気的に直列に接続されている。ボロメータ薄膜4の熱による抵抗変化は、梁2中にある電極6を経由して外部に取り出すことができる。また、図2に示すように、熱電変換部1及び梁2はキャビティ8により中空に浮いており、基板9から熱的に分離されている。
【0023】
なお、本実施形態では、熱電変換部1の大きさを30μm□、中に含まれる短冊状の各ボロメータ薄膜4の幅を9μm、間隔を0.5μmとし、梁2は幅2μm、梁2の中の電極6は幅1μmとした。また熱電変換部1と梁2間の貫通孔7の幅(スリット幅)を1μmとした。
【0024】
次に、本実施形態のボロメータ型赤外線検出器の製造方法について述べる。まず、基板9上に犠牲層(特に図示されていない)としてポリイミドを2〜3μm程度塗布し、電気的配線に係わる加工をした後に焼き締めを行う。次に、支持膜3を300nm程度、ボロメータ薄膜4を100nm程度堆積し、ボロメータ薄膜4のみ、3本の短冊状にドライエッチングで加工する。各短冊の大きさは幅9μm、長さ28μmで間隔0.5μmである。次に、電極6を各短冊状のボロメータが電気的に直列に接続され、それらの抵抗変化が梁2を介して外部に読み出されるように加工した後、全面に保護膜5を300nm程度堆積する。ここでは支持膜3、保護膜5としてシリコン窒化膜、電極6としてはチタンを用いている。次に、熱電変換部1、梁2の部分を残して周囲の保護膜5、支持膜3を犠牲層に到達するまでドライエッチングにより除去し、貫通孔(スリット)7を形成する。最後に犠牲層であるポリイミドを貫通孔7を通してアッシングにより除去し、キャビティ8を形成し素子は完成する。
【0025】
上記方法で形成したボロメータ型赤外線検出器の動作及び特性について簡単に説明する。赤外線がダイアフラム構造の上面より入射すると、シリコン窒化膜である支持膜3、保護膜5で吸収され、熱電変換部1の温度が上昇し、ボロメータ薄膜4の抵抗は変化する。ここではボロメータ薄膜4として一般的なシート抵抗12kΩ、抵抗温度係数−2%/KのVO2を用いている。この温度上昇により変化した抵抗を電極6を介して外部へ読み出すことにより、入射赤外線の量を検出する。実際には抵抗変化を読み出すために、電極6の両端にバイアス電圧を印加しており、そこに流れる電流量によって変化を読み取っている。
【0026】
その際、バイアス電圧印加によるジュール熱(W=V2/R)により自己発熱を起こし、一般にこれが多い場合にはダイアフラムの温度が時間的に変動し温度ドリフトの原因となり、入射赤外線による温度上昇に影響をあたえる。しかしながら本実施形態の構造の場合、シート抵抗12kΩのVO2を3本短冊状にならべ、それらを直列に接続することでボロメータ抵抗を108kΩにしている。従って、従来に比べてジュール熱による自己発熱を1桁下げることができ、安定した動作が可能となる。
【0027】
また、ボロメータ型赤外線検出器の感度は、主にボロメータ薄膜4の抵抗温度係数と梁2の熱コンダクタンスで決まるが、素子全体の性能を考えるとノイズも重要な要素となる。前述したように、ボロメータ型赤外線検出器のノイズは1/fノイズが支配的であり、ボロメータ材料の体積あるいはキャリア数の逆数に比例するK値は小さい方が性能的には優れている。本実施形態の構造では、3本の短冊状のボロメータ薄膜を形成することで、従来と同等の比抵抗、同等の膜厚のボロメータ薄膜で、108kΩとボロメータ全体の高抵抗化を図りながらも、従来と同等の体積を得ることができ、K値に関しても従来と遜色のない3×10−13程度の低い値を得ることができる。このようにノイズを増加させずに高抵抗化が可能となる構造を提供している。
【0028】
そして、上記構造のボロメータ型赤外線検出器を信号読み出し回路基板上に2次元に配列することで、2次元のアレイセンサも比較的容易に実現できる。
【0029】
なお、本実施形態では、ボロメータ薄膜4を3本並置した構造を示したが、本発明は上記構造に限定されるものではなく、ボロメータ型赤外線検出器に求められる性能に応じてその本数及び幅は適宜変更することができる。例えば、本実施形態ではボロメータ抵抗として約100kΩの例を示したが、シート抵抗が10〜20kΩで比較的K値の小さい膜を用い、短冊の本数や幅を調整することで、ノイズを低いレベルに保ちながら、更に高いボロメータ抵抗を得ることも可能となる。
【0030】
また、図1では略同一形状のボロメータ薄膜4を並置した例を示しているが、各々のボロメータ薄膜4を異なる形状としてもよく、例えば、図7に示すように、両端側で狭く、中央部で広い構造とすることもできる。このようにボロメータ薄膜4の幅を変えることにより、体積を変えることなく直列抵抗を調整することができる。
【0031】
また、本実施形態では、支持膜3や保護膜5としてシリコン窒化膜、ボロメータ薄膜4として酸化バナジウムを用いた例を示したが、材料はこれらに限定されるものではなく、例えば、支持膜3や保護膜5としてシリコン酸化膜、ボロメータ薄膜4としてアモルファスシリコン等を用いてもよく、このような材料を用いても本発明の効果を得ることができる。
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の構造によれば、ボロメータ薄膜を複数の短冊状に分割し、かつ、それらを低抵抗の電極により直列に接続しているため、ノイズを低いレベルに保ちながらボロメータ抵抗を高くすることが可能となり、低抵抗のボロメータの比べて自己発熱等による特性劣化を抑えた高性能なボロメータ型赤外線検出器を得ることができる。
【0033】
また、本発明の構造では、各々のボロメータ薄膜は屈曲部のない直線的な形状で形成されているため、高抵抗化を図るためにボロメータ薄膜を屈曲させた従来のメアンダー構造に比べ、電流集中による悪影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係るボロメータ型赤外線検出器の1画素の構造を示す平面図である。
【図2】図1に示す本発明の一実施形態に係るボロメータ型赤外線検出器のA−A′断面図である。
【図3】従来のボロメータ型赤外線検出器の1画素の平面図である。
【図4】図3に示す従来のボロメータ型赤外線検出器のB−B′断面図である。
【図5】従来の低抵抗ボロメータ材料を用いたメアンダー構造のボロメータ型赤外線検出器の平面図である。
【図6】従来のVO2を用いたメアンダー構造のボロメータ型赤外線検出器の平面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るボロメータ型赤外線検出器の他の構造を示す平面図である。
【符号の説明】
1 熱電変換部
2 梁
3 支持膜
4 ボロメータ薄膜
4a 低抵抗ボロメータ薄膜
5 保護膜
6 電極
7 貫通孔
8 キャビティ
9 基板
Claims (1)
- 支持膜と、前記支持膜上に設けられたボロメータ薄膜と、前記ボロメータ薄膜上に設けられた保護膜とからなる熱電変換部が、基板から梁によって浮かせて支持されたダイアフラム構造を有するボロメータ型赤外線検出器において、
前記ボロメータ薄膜が短冊状に分割され、前記基板の面方向に並設された複数の素子で構成され、前記短冊状の複数の素子が、それぞれの短冊の長手方向の端部に設けた電極により直列に接続されていることを特徴とするボロメータ型赤外線検出器。
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