JP3859132B2 - エアバッグ用基布及びそれを用いたエアバッグ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両衝突時に乗員の衝撃を吸収し、その保護を図るエアバッグ用基布およびエアバッグに関するものでノンコートタイプ、コートタイプのいずれのタイプにも適用できるものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車用エアバッグは、衝突の際、衝撃を受けてセンサーが作動し、高温、高圧のガスを発生させ、このガスにより、エアバッグを瞬間的に膨脹させ、衝突時に乗員の顔面、前頭部などの人体を保護しようとするものである。近年、自動車における乗員の安全確保のためエアバッグの実用化が急速に高まりつつある。
【0003】
従来、エアバッグには110〜1100dtexのポリエステルやナイロン6またはナイロン6・6フィラメント糸を用いた平織物、綾織物、朱子織物などに耐熱性、難燃性、空気遮断性などの向上を目的として、クロロプレンゴム、ウレタンエラストマーなどのエラストマー樹脂を塗布、積塗した基布を裁断し、袋体に縫製して作られていた。
【0004】
しかしながら、これらのエラストマー樹脂を基布に塗布、積塗したエアバッグ用基布は、通常、基布表面にエラストマー樹脂が40〜100g/m2 塗布されたものであって、かなり重く、風合も粗硬で、エアバッグ膨脹時に、顔面が接触すると擦過傷を受けることもあり、好ましいものではなく、また収納性の面においても、折りたたみ難いという問題があった。
【0005】
また、かかる基布は、加工面においても、コーティング工程を通るので、加工そのものが繁雑化し、コスト高となる欠点を有していた。このため、最近では、かかるエラストマー樹脂を基布に塗布、積塗しない、いわゆる細繊度の原糸を使用したノンコートのエアバッグ用基布が出現しているのが現状である。
【0006】
しかしながら、エアバッグ用織物は自動車の衝突事故の際、エアバッグを瞬間的に膨脹させ、衝突時に乗員の顔面、前頭部を保護するという特徴から、コンパクト化即ち、収納性とともに高強力かつ低通気性が要求される。このため、エアバッグ用の織物は通常の織物に対して、高強力の糸を用いた高密度の織物が必要になる。特に、ノンコートのエアバッグ用基布においては、エラストマー樹脂を基布に塗布、積塗せず、織物単体で低通気性を得るため、より高密度の織物が必要となる。この高密度の織物では、耳部近傍が波打ち状態になる耳たぶりが発生するという本質的な問題点を有する。
【0007】
エアバッグ用基布は、これを裁断し、縫製して袋体に形成されてエアバッグにされるものであるが、かかるエアバッグ用基布を最大限有効利用するために、裁断パターンが設計されることが多く、その場合は耳部近傍まで使用されるものである。
【0008】
また、エラストマー樹脂を基布に塗布、積塗したコート基布の場合では、裁断は、通常、コート基布を複数枚積層し、ナイフカットによるかまたはダンベルでの打ち抜きにより行われるが、ノンコート基布の場合は、かかるナイフカットやダンベルでの打ち抜きによる裁断では、裁断品の端がほつれやすく、通常、レーザーカッターなどにより1枚づつ裁断されるなど工夫されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
かかる加工や作業において、基布の耳部近傍に耳たぶりが発生していると、特にレーザーカッター裁断においては、設計通りの形状に裁断されず、その後の縫製が困難であるばかりではなく、エアバッグとして正確な形状が得にくく、正常な機能を有するエアバッグを提供しにくくなることになる。また、生機での耳たぶりは、ロール巻き時、およびその後の精練、セット工程での工程通過性に支障を及ぼすばかりでなく、シワ発生の原因にもなるものであり、均一塗布をも著しく困難にするなど、加工性、作業性を著しく低下せしめるものである。
【0010】
本発明は、従来の要求される機械的特性、収納性などを維持しつつかつ、かかる従来のエアバッグ用基布の欠点に鑑み、精練、セットおよびコーティング加工工程での通過性に優れ、均一塗布はもちろん、裁断作業性、縫製性にも優れたエアバッグ用基布およびエアバッグを提供せんとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明のエアバッグ基布は、合繊繊維織物からなるエアバッグ用基布において、該織物の耳部の経糸の断面が異形、特に扁平であることを特徴とするものであり、また、本発明のエアバッグは、かかる基布で構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明は、上述の従来エアバッグ用基布の欠点、つまり加工通過性、均一塗布性、裁断作業性および縫製性などに著しく影響を与える耳たぶりについて、鋭意検討したところ、耳部の断面が異形、特に扁平であることにより、意外にもかかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0013】
本発明は、エアバッグ基布を構成する合成繊維織物はナイロン6・6、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン4・6、およびナイロン6とナイロン6・6共重合体、ナイロンにポリアルキレングリコール、ジカルボン酸やアミン類などを共重合したポリアミド繊維、ポリアルキレンテレフタレートに代表されるポリエステル繊維、ポリエステルの繰り返し単位を構成する酸成分にイソフタル酸、5−ナトリュウムスルホイソフタル酸またはアジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを共重合したポリエステル繊維などからなる連続繊維から形成される織物である。かかる連続繊維には、原糸糸条の製造工程や加工工程での生産性あるいは、特性改善のために通常使用されている各種添加剤を含んでもよい。たとえば、熱安定性、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤などを含有せしめることができる。
【0014】
織物を構成する単繊維の強度は、特に制約を受けないが、好ましくは5.3CN/dtex、さらに好ましくは6.23CN/dtex以上である。織物を構成する単繊維の繊度およびトータル繊度は、エアバッグとしての必要な機械的特性を満足するものであれば特に制約を受けないが、単糸繊度は好ましくは1.1〜7.7dtex、さらにトータル繊度は好ましくは110〜550dtexがよい。単繊維の強度にもよるが、110dtex未満の場合は、エアバッグとしての必要性である強力が不足であり、550dtexを越える場合は、地厚で嵩高なものになり、エアバッグとしての必要特性であるコンパクト収納性に劣るものになる。
【0015】
織物の組織は、特に制約されないが、エアバッグの必要な特性であるコンパクト収納性の面から、地薄な平織のものが特に好ましい。織り密度はコート用基布ノンコート用基布および織糸の繊度により異なるが、カバーファクターが1700から2500のものが好ましい。さらには、コート用基布では、カバーファクターが1700から2000のものが、ノンコート用基布では、カバーファクターが1700から2500のものがさらに好ましい。かかる織物のカバーファクターとは、糸条繊度の平方根と1インチ当たりの糸条数との積の経と緯の和をいう。すなわち、次式により算出されるものである。
【0016】
K=(D1)1/2×N1+(D2)1/2×N2
式中、K:カバーファクター、D1:経糸総繊度、N1:経糸密度、D2:緯糸総繊度、N2:緯糸密度を表す。
【0017】
エアバッグ用織物での耳たぶりの発生は、製織時の緯糸の張力が織物中央部が高く、耳部近傍部が低いことに起因し、オサ打ちポイントで緯糸が両耳部でだぶつきが発生し、オサ打ち応力が耳部近傍部に集中し、耳部近傍部の織組織が崩れる現象と考えられ、織機機種に関係なく高密度織物特有に発生する問題であった。該耳たぶりの改善について鋭意検討した結果、耳部の経糸の単繊維の断面を扁平にすることにより、繊維間の接触状態が異なることにより、製織時に耳部に緯糸の拘束力を高くできるためと考えられる。耳部の幅は広いほど耳たぶりの改善効果が大きい。しかし、該経糸の単繊維の断面が扁平の細い耳部はエアバッグ基布として使用しない部分であるため、広すぎるとそれだけロスが多くなることになる。一方、経糸の単繊維の断面が扁平の細い耳部の幅が狭いとロスは少なくなるが、耳たぶりの改善効果が小さくなることになる。このため経糸の単繊維の断面が扁平の耳部の幅は該地本体部の0.1〜6%の範囲であることが好ましい。
【0018】
また、耳部の経糸の単繊維の断面が扁平の扁平度は3.5%以下、特に2.5%以下が好ましい。ここで、扁平度とは、単糸断面形状を楕円に近似した際、その長径と短径の比で定義する。その断面は厳密に楕円である必要はなく、全体の偏平性に影響を与えない範囲で一部に突起や窪みを有していても差し支えない。このような場合にもその全体の外形を損ねないような楕円に近似し、偏平度を算出すればよい。
【0019】
図1に本発明における代表的な扁平断面の例を記載する。もちろん、これらは代表例であって何等これに制限されるものではない。図1のaは長径、bは短径で、偏平度はa/bで計算される。
【0020】
かかるエアバッグ用基布は、裁断パターンが設計され裁断し、縫製し、袋体に作られて、エアバッグに構成される。なお、コート基布の裁断では、通常コート基布を複数枚積層しナイフによる打ち抜きにより行われる。また、ノンコート基布の場合は、該ナイフによる打ち抜き裁断では、裁断品の端がほつれやすいので、通常、レーザーカッターにより1枚づつ裁断されるが、耳部近傍部に耳たぶりがないので、設計通りの形状に裁断でき、縫製も容易である。
【0021】
本発明のエアバッグは、かかる基布で構成されているので、エアバッグとしての形状が設計通りで、かつ、正確な形態に仕上げられており、破裂強度など機能的に優れたものを提供することができ、しかも、該基布を最大限有効利用できるのでコスト的にもメリットが大きいという特徴を有する。
【0022】
【実施例】
次に実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。
【0023】
なお、実施例中の耳たぶりは外観評価と耳たぶり高さにより判定した。
【0024】
(耳たぶり外観評価)
目立たない :◎ほとんど目立たない:○やや目立つ :△著しく目立つ :×(耳たぶり高さ評価)長さ方向1m当たりの耳部の波の高さを10等分してその波の最大値の平均を求めた。
【0025】
(エアバッグの破裂圧測定)
窒素ガスを15kg/cm2 の高圧まで圧縮し、かつガス噴出口に圧力計を設けた耐破裂テスト機を用いて、該ガス噴出口にエアバッグのガス導入口を取り付け、4/100秒でテスト機内の高圧窒素ガスをエアバッグ内に導入した際、エアバッグの破裂時の圧力を測定した。
【0026】
実施例1〜3
耳部を、トータル繊度347dtex、72フィラメント、強度5.8CN/dtex、単繊維の扁平度1.3,1.9,3.0のナイロン6・6繊維を使用し、地本体部分をトータル繊度が347dtex、72フィラメント、強度5.8CN/dtexのナイロン6・6繊度を使用し、経糸ならびに緯糸ととも54本/インチの織密度(カバーファクター2213)に、該耳部の幅を該地本体部の幅の1.5%のものを平組織の織物をウォータージェットルーム織機で製織した。このようにして得られたエアバッグ用基布の耳たぶり評価結果を表1に示す。
【0027】
実施例4
該耳部の幅を該地本体部の幅の0.8%以外は実施例2と同様にした。
【0028】
比較例1
扁平度を1.0、該耳部の幅を該地本体部の幅の2.5%以外は上記実施例と同様とした。
【0029】
比較例2
扁平度を1.0、該耳部の幅を該地本体部の幅の5.0%以外は上記比較例1と同様とした。
【0030】
【表1】
表1からわかるように、単繊維の扁平度が1.3以上で、耳部の幅が該地本体部の幅の5%以下では耳たぶり評価で外観が改良されていることがわかる。
【0031】
実施例1〜4と比較例1,2のエアバッグ基布を、それぞれエアバッグを形成すべく裁断、縫製し、評価を行った。
【0032】
比較例1の基布は、表1のように耳たぶりが少しあるが、まず1枚ずつ裁断するしかなく長時間苦労して裁断し、次に縫製にはさらに長時間と多大な労力を要し、基布自体にシワがあり、形態的にもやや歪みのある形を有する袋体を形成した。
【0033】
これに対し、実施例1の基布は裁断、縫製とも極めて容易で、大量裁断も可能であり、1枚ずつの裁断、縫製でも比較例の1/10の時間と労力で袋体を形成することができた。
【0034】
こうして得られた2種の袋体からなるそれぞれのエアバッグを用いて破裂圧を測定した。
【0035】
その結果、実施例1の基布で構成されたエアバッグは、何ら問題なく、破裂圧が2.3kg/cm2 であったが、比較例1の基布で構成されたエアバッグは、破裂圧も2.1kg/cm2 と若干低かった。
【0036】
【発明の効果】
本発明によれば、経糸に扁平糸を使用することにより、耳幅部分の縫製の作業性が改善され、かつロスの発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】扁平糸の断面の例
【符号の説明】
a 長径
b 短径
Claims (8)
- 合成繊維織物からなるエアバッグ用基布において、該織物の経糸を構成する単繊維の断面が耳部のみにおいてかつ耳部の全てにおいて扁平であること、及び該耳部が、該基布の地本体部の5%以下の幅を有するものであることを特徴とするエアバッグ用基布。
- 該耳部分の経糸の扁平度が1.3以上であることを特徴とする請求項1記載のエアバッグ用基布。
- 該基布の地本体部分が、1700〜2500の範囲のカバーファクターを有する織物で構成されている請求項1記載のエアバッグ用基布。
- 該織物が、1×1の平織物である請求項1〜3のいずれかに記載のエアバッグ用基布。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のエアバッグ用基布で構成されていることを特徴とするエアバッグ。
- 請求項5記載のエアバッグにおいて、バッグ展開形状を規制する器材の補強布が該エアバッグ用基布と同一であることを特徴とするエアバッグ。
- 該エアバッグが、打ち抜きまたは溶断によって形成された1枚もしくは複数枚の基布によって構成されているものである請求項5又は6記載のエアバッグ。
- 該エアバッグが、該基布の該周縁部を縫製することによって形成され、かつ、該縫製が一重または二重の合わせ縫製のみで構成されている請求項5〜7のいずれかに記載のエアバッグ。
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