JP3857742B2 - ガラス製光学素子成形用型 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カメラレンズ、望遠鏡、プリズム等の各種ガラス製光学素子をプレス成形するための成形型に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、カメラレンズ、望遠鏡、プリズム等の各種ガラス製光学素子を研磨等の方法によらず、成形用の型を用いて加熱し、プレス成形することにより1工程で製造できるようになってきた。
【0003】
そのプレス成形に用いる成形型の材料として、型本体の型部表面に耐熱性、耐酸化性、高熱伝導性、耐塑性変形性、加工性に優れ、ボイドのない材料である化学蒸着法により炭化珪素を被覆した材料が、多く提案されている。
【0004】
その中で、CVD法により形成したSiC膜を有するガラスレンズ成形用モールドを、前記レンズ成形に利用する技術として最初に開示されたものとして、特願昭51−105382号公報に記載されている。そして、CVD法により形成したSiC膜を有するガラスレンズ成形用モールドのSiC膜質を改良したものが、以下に示すようにその代表的なものとして3種類開示されている。
【0005】
その一つとして、特願昭61−186462号公報には、主として(111)面配向性を有するベータ炭化珪素膜を被着した成形型が開示されており、型の研削、研磨時にに引っかき傷を生じ難い効果があるとしている。
【0006】
また、特願平4−347503号公報には、化学蒸着した炭化珪素の結晶面がミラー指数表示の(111)面と(220)面の両方に配向し、かつX線回折におけるピーク強度でその強度比が(220)面で20〜95%、(111)面で5〜80%の範囲内で混在するものが開示されており、クラックがなく、平面は勿論、曲面を有する形状であっても容易に超平滑面を有し、表面硬度が高い耐久性に優れた複合部材を得ることができる旨記載されている。
【0007】
さらに、特願平5−330316号公報には、炭化珪素化学蒸着層の結晶面が、ミラー指数表示の(220)面に強配向しているものが開示されており、その効果として極めて滑らかな成形面を容易にえることができ、熱歪の発生を抑制して成形型の耐久性を大幅に向上できるとしている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記何れの場合も、その結晶の配向性が強くなるにつれ、また粒径が大きくなるにつれ、結晶の成長方向に垂直な向きの圧力に弱くクラックが入りやすい。また、粒子長が長くなるにつれ、結晶の成長方向に平行な方向からの圧力に弱く、この方向にクラックが入り易くなるという欠点がある。
【0009】
本願発明において解決すべき課題は、化学気相蒸着法により形成した炭化珪素の成形面を有するガラス製光学素子成形用型における炭化珪素の結晶の成長方向性による特性のバラツキを解消することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本願発明は、上記従来の炭化珪素の結晶をX線回折した結果、結晶の配向の傾向は、せいぜい表面から10μmの深さまでであって、膜内部の結晶や組織の状況は判らないこと、そして、ガラス製光学素子成形用型の寿命や性能を決定する主要因は、X線回折等に基づく膜の結晶配向性ではなく、結晶の粒径、結晶の長さ、結晶の成長方向等結晶組織であり、さらには、フリーカーボン、フリーシリコンの含有量であるという知見に基づいて完成した。
【0011】
すなわち、結晶の粒径が小さくなるに従い、結晶の長さが短くなるに従いガラス製光学素子成形用型の寿命が長くなる傾向にある。また、結晶の成長方向がランダムな程スクラッチ強度や硬さが大きくなる傾向にあり、結晶の成長方向がランダムな程、研磨に時間がかかり表面粗さが粗くなる。炭化珪素化学蒸着膜の結晶の粒径、結晶の長さ、結晶の成長方向がガラス光学素子成形用型の性能を決定する主要因となり、ガラス製光学素子成形用型の加工性や寿命を向上させるために、以下の条件で炭化珪素化学蒸着膜が形成されなければならない。
【0012】
ここで、結晶の成長方向とは、膜縦断面を研磨エッチングすることにより、粒界腐食により結晶粒の成長方向が判るが、基板に対して何度の方向に成長しているかを言う。
【0013】
粒径について言えば、0.1μmより小さくなると、研磨加工性は良くなるものの、粒界の占める割合が増加することになるので、粒界での粒子間の結合力が結晶内の原子同士の結合エネルギーより小さいことを理由として、硬さが低下し、型表面に傷が付きやすくなるので、少なくとも平均粒径は0.1μm以上なければならない。しかし、平均粒径が大きくなると、結晶粒は横からの圧力に対して弱く、粒内破壊を起こしてしまい、研削加工時に型表面部にクラックが入り易くなるので、20μm以下でなければならない。
【0014】
また、平均粒子長については、0.1μmより小さいと硬さが小さくなる傾向があり、0.1μm以上なければならない。しかしながら、平均粒子長が長くなると、長さ方向の圧力に対して強度が弱くクラックが入り易い、また結晶の長さ方向に垂直な圧力に弱く、研削加工時にクラックが入り易くなるので、60μm以下でなければならない。
【0015】
上記の結晶の中でも、平均粒径に対する平均粒子長の比が1以上3以下となるものが結晶の長さ方向、結晶粒子に対して横からの圧力にも強く好適である。
【0016】
また結晶の成長方向については、基材表面に対して、ランダムに成長したもの程破壊強度、硬度が高くなるが、研磨加工に時間がかかり、研磨加工面の表面粗さも粗くなる傾向にあり、結晶の成長方向としては基材表面に対して45°以上であることが好ましい。
【0017】
ここで、膜の結晶の成長方向は基材表面に対して45°以上としているが、全ての結晶の成長方向がそろっている必要はなく、少なくともそれぞれが基材表面に対して45°以上であり、組織的に見て均一な組織をしていれば破壊強度が強く、硬さは大きいが研磨時間は従来の材料より少なくて済み、精度の高い光学的鏡面が得られる。ここで均一な組織とは、縦断面、横断面の組織を顕微鏡で観察して見て、一単位と見い出せる部分が連続的あるいは規則性をもって現れるものを言う。また、結晶の成長方向が90°に近づくにつれ、圧入抵抗が小さくなるので、押し込み硬さは小さくなり、研削、研磨の時間が短くなり、その上研磨面の面精度が良好で超精密な光学的鏡面が得られる。これに対して、膜の結晶の成長方向は基材表面に対して45°以下に成長している結晶を含むと、研削時間がかかるだけでなく、レンズ成形に必要な光学的鏡面が得られない。その上、ボイドを含む膜となりやすい。
【0018】
また、炭化珪素の結晶形は、アルファでも、ベータでも本発明のように結晶粒径、結晶長、結晶の成長方向を制御したものであればどちらでも本発明の効果を奏する。アルファ形であれば、膜は1000°C以上2000°C以下の高温領域で安定で、ガラス転移温度が1000°C以上のガラス材料を成形するのに適している。また、ベータ形であれば、その表面硬さもアルファ形より大きく、ガラス転移温度が1000°C以下のガラス材料を成形するのに適している。そして、基材として炭化珪素焼結体を使用する場合、その上に被覆する炭化珪素膜は基材の炭化珪素焼結体の結晶形は、格子定数が同じである方が膜と基材の界面での整合性(接合性あるいは密着性又は熱膨張性)の点で良いので、基材と膜の結晶形は同じ方が良い。すなわち、アルファ炭化珪素膜を被覆する場合にはアルファ炭化珪素焼結体を、ベータ炭化珪素膜を被覆する場合にはベータ炭化珪素焼結体を使用した方が良い。
【0019】
また、基材が炭化珪素焼結体の場合、焼結助剤としてAl2O3や稀土類元素酸化物等低融点、低沸点の物質あるいはハロゲン元素と反応しやすいものを使用しないものが良い。気化、分解揮発することによりガス化して膜中に取り込まれてボイド発生する等の不具合が生じるからである。そのため、本発明に用いる焼結助剤は硼素、炭素等の高融点物質を使用したものが良い。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明によれば、炭化珪素の化学蒸着膜の結晶の粒径を0.1μm以上20μm以下とするので、研磨加工性も良く、硬さの低下もなく傷が付きにくい、また粒径が小さいので結晶粒子に対する縦、横からの圧力に強く粒内破壊を起こし難いので、研削加工時にクラックが入り難くなる。また、粒子径が小さいので、研磨加工面の表面粗さは小さく、ダイアモンド砥石による研磨だけでもRmaxで数nmのオーダーまで短時間で研磨できる。
【0021】
反応性イオンビームエッチング等の方法により、表面を加工すると、表面の粗さは、RMS(平均表面粗さ)でÅオーダーの超精密な加工面を得ることができる。
【0022】
また、平均粒子長を0.1μm以上60μm以下にしているので、平均粒子長が0.1μmより小さくないので、硬さの低下がなく型表面に傷が入りにくい、また平均粒子長を60μm以下にしているので、長さ方向又は長さ方向に垂直な方向の圧力に対しても強くクラックが入りにくい。更に、平均粒径に対する平均粒子長の比を1以上3以下とすると、結晶の長さ方向、結晶粒子に対して横からの圧力にも強く好適である。また結晶の成長方向を基材表面に対して45°以上にしているので、破壊強度、硬度も高いうえ、研磨加工にも時間がかからない。表面研磨精度も高く、表面粗さもRMS(平均表面粗さ)でÅオーダーの超精密な加工面を得ることができる。
【0023】
本発明のガラス製光学素子成形型は、カーボン製の反応容器中で、1200〜1800°Cの温度で、1〜200Torrの圧力のもと、SiCl4等の低沸点のSi化合物、CH4等の炭化水素、H2,Arを導入して、ガス流の形態としては層流から乱流の形態となる範囲で炭化珪素焼結体からなる基材にコーティングすることによって得られる。更に、上記により得られた本発明のガラス製光学素子成形型の上に、CVD法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の方法により硬質カーボン膜、グラファイト膜、ダイアモンドライクカーボン膜、または窒化硼素膜を被覆するとガラスと反応しにくく、離型性がよいガラス製光学素子成形型が得られる。
【0024】
ガス流の形態を、ガス濃度が周期的に変化する脈流とすると、粒の長さを短くすることができる。ガスの濃度が過飽和の状態にあると、核の発生が優先的に起こり、結晶の成長には寄与しにくく、膜にはボイドができやすい。
【0025】
ガス流の形態が脈流の状態にあると、ガス濃度が高い状態と低い状態が周期的に起こり、核の発生と結晶の成長が交互に起こり、本発明のように粒径が小さく、短い結晶からなる多結晶膜を得易い。ガス圧力が200Torr以上になると、色々な方向の核の発生が見られ、できた膜も結晶の成長方向がランダムになり、結晶の成長方向は45°より小さくなる傾向になる。200Torrより小さいと結晶の成長方向は45°より大きくなる。ガスの流速が早い程、成長方向は45°より大きくなる。流速を早くしてガス流の形態を層流から乱流の間になる条件で、炉内の圧力を1〜200Torr、ガス流速100m/min以上にすることにより、平均粒径が0.1μm〜20μmであり、平均粒子長が0.1μm〜60μmで結晶の成長方向が45°以上であることを特徴とする本発明の化学蒸着による炭化珪素膜を形成することができる。
【0026】
また、レンズモールド基材は、レンズ材料であるガラス材の成形温度がガラス転移温度より充分に高く液体状態に近い時は、予め、コーティング厚み分を考慮して薄く仕上げた形状に加工した状態のものにコーティングした方が良い。パスカルの法則に従い、圧力がレンズモールドの成形面に垂直に働くが、結晶の成長方向がマクロ的に見るとレンズモールドの成形面に垂直に成長していて、このように膜の結晶の成長方向と同じ方向に圧力が掛かる時が膜の強度が強いので、上記成形条件の時は基材の形状を膜厚分だけ薄く仕上げた形状のものを用いる方が良い。
【0027】
しかし、ガラス材の成形温度がガラス転移温度より充分に高くなく、半溶融状態(固体の状態に近い)の時は、レンズ成形面は平面ではなく、成形時にレンズモールドの成形面に働く圧力は、パスカルの法則に従わず、成形面に垂直ではなく、プレス方向に垂直な面に垂直となるように働くので、基材の成形面をフラットな形状に加工し、その上にコーティングした方が良い。この理由も、上記と同様に膜の結晶の成長方向と同じ方向に圧力が掛かる時が膜の強度が強いことからである。
【0028】
【実施例】
仕上げ寸法から300μm薄めに仕上げた曲率半径が30mmの凹面と凸面を有する上下1対のβ−炭化珪素焼結体(焼結助剤1wt%B、1wt%C含有)からなるガラスレンズ成形型15組をφ500mm×1000mmの形状のカーボン製の反応容器中に載置し、カーボンヒーターを誘導加熱して炉内を加熱しながら、1300〜1500°Cの温度範囲に炉内温度を調節して、SiCl4を5.5l/min、H2を15l/min、CH4を5.9l/minの割合で上記反応容器に導入し圧力を100〜200Torrに調整して上記基材のガラス成形面に、500μmの膜厚で炭化珪素を被覆した。
【0029】
そして、ダイヤモンド砥石の#600で約190μm研削後、ダイヤモンド砥石の#2000で、平均表面粗さが20nmまで表面を研磨した。そして、ダイヤモンド砥石の#8000で平均表面粗さが4〜7nmになる迄表面を研磨加工して、凹面、凸面を一組としたガラス製光学素子成形用型を形成した。又、同時に、10mm×10mm×3mmの形状の上記と同材質のベータ炭化珪素焼結体を、上記反応容器中で同時にコーティングした試料15個を製作して、上記と同様にして、ダイヤモンド砥石による研磨により、表面の粗さが平均表面粗さで4〜7nmになるまで研磨した。
【0030】
これらの試料をレーザーラマン分光法により、膜中のフリーシリコン、フリーカーボンの含有を調査をしたが、いずれもこれらのピークが現れる波数の位置にこれらのピークは現れなかった。このように本発明の材料の膜中には、フリーシリコン、フリーカーボンは存在しないことが判った。
【0031】
これらの試料のそれぞれ5個をダイヤモンドカッターで切断して、熱的なダメージを受けた組織を除去後、上記と同様に研磨後、HNO3−HF混合液中で1時間煮沸して、膜断面をエッチングし、粒界腐食を試み、結晶の平均粒径が0.1μm〜20μmで、平均粒子長が0.1から60μmで、結晶の成長方向が基板表面に対して45°より大きい方向に成長していることがわかった。更に、これらの結晶組織を見ると、粗大粒がなく均一な組織をしていた。
【0032】
比較例として、上記と同様に本発明と同材質のレンズモールド基材と10mm×10mm×3mmの形状の調査用基材を1300〜1400°Cに加熱したCVD反応容器に載置して、SiCl4を10l/min、H2を30l/min、CH4を11l/minの割合で上記反応容器に導入し、炉内の圧力が150〜230TorrとなるようにしてSiCを被覆した。そして出来た試料について、本発明の試料と同様にして調査をしたが、圧力を150Torr、反応温度を1350°Cで形成したものは、(111)面に主として配向したものであるが、結晶の平均粒子径が35μmで平均結晶長が80μmであった。また結晶の成長方向は基材に対して40°〜90°であった(比較試料1と呼ぶ)。圧力が200Torr、反応温度が1350°Cのものは、(111)面と(220)面に配向した結晶が混在した膜が得られた。その膜の断面について調査したが、結晶の平均粒子径が30μmで平均結晶長が80μmであった。また結晶の成長方向は基材に対して40°〜90°であった(比較試料2と呼ぶ)。また、圧力230Torr、反応温度1400°Cで被覆したものは、結晶の平均粒子径が80μmで平均結晶長が500μmであった。また結晶の成長方向は基材に対して約90°であり、(220)面に強配向したものであった(比較試料3と呼ぶ)。
【0033】
比較試料1〜3について、レーザーラマン分光法により前記と同様に調査したが、比較試料1、2についてはフリーシリコンの存在を確認した。比較試料3については、フリーカーボンが存在していることを確認した。フリーシリコンがあると、酸化されやすくシリカとなってガラスレンズ成形時にガラスと付着しやすい。フリーカーボンがあると、ガラス材料中の酸素と反応し酸化され、COあるいはCO2となり、気化、揮発し、型表面が荒れてくるので問題がある。
【0034】
膜の強度
曲率半径が0.2mmのダイヤモンドコーンを圧子とし、荷重500g重で、本発明の材料と比較試料1〜3を10mm/minのスクラッチ速度で5mmの長さだけスクラツチした。そして、膜が上部で剥雛、脱落した時の荷重を膜の強度とした。この結果を表1に示す。この評価方法でわかることは、膜の研削、研磨加工時に型表面へのクラックの入りにくさあるいは、レンズ成形時にレンズ材料のガラスが型に付着して剥がす時に膜が乖離、脱落しにくいかの目安となる。この表からわかるように、本発明の材料は強度の面でも従来の材料の少なくとも2倍以上の剥離強度を有することがわかった。
【0035】
【表1】
加工性
本発明の材料と、従釆の材料である比較試料1〜3とをダイヤモンド砥石の#600で約190μm研削した後、平均表面粗さが20nmまで#3000のダイヤモンド砥石で表面を研磨した後、ダイヤモンド砥石の#8000で平均表面粗さが4〜7nmになるまで研磨加工したが、その加工時間と研磨加工面の最大表面粗さについて比較した。その結果を表2に示す。この結果を見てもわかるが、本発明の材料は、従来の材料より短時間で表面精度の良い研磨面が得られるだけでなく、最大表面粗さも従来の材料より小さいことがわかる。
【0036】
【表2】
膜表面の硬さ
本発明の材料と、従来の材料である比較試料1〜3の膜表面の硬さを荷重として500g重をかけてヌープ硬さを測定したが、その結果を表3に示す。この表からわかることであるが、本発明の材料は従来の材料と比較しても硬さの大きい比較試料2の材料と同等であった。
【0037】
【表3】
ガラスレンズ成形試験
本発明のレンズモールドと従来のレンズモールドである比較試料1〜3を使用して、ガラス材料として市販のホウケイ酸バリウム系ガラス(HOYA(株)製BaCD15、ガラス転移温度655°C)を用いて700°C、窒素雰囲気中で50kgf/cm2の圧力で連続2万ショットのレンズの成形を行い、連続プレス成形しその型寿命と型の状態を比較した。そしてその結果を表4に示す。この結果をみると、従来の材料である比較試料1は9800ショットまでは成形可能であったが、それを超えると型にガラスが付着したり、型表面が粗れてきたり、膜上層部で剥離が発生する等の不具合が生じた。比較試料2についてみると、5300ショット成形した時点で、型に傷が入ったり、型表面へのガラスの付着が発生した。比較試料3は、1600ショット成形した時に膜に亀裂が発生して、膜の剥雛や傷の発生が顕著になってきた。しかしながら、本発明のレンズモールドは2万ショット成形しても型表面の粗れもなく、そのまま連続して成形できる状態にあった。
【0038】
【表4】
また、本発明のレンズモールドの表面にイオンプレーティング法およびCVD法により100nm〜1μmの膜厚の硬質カーボン膜、グラファイト膜、ダイアモンドライクカーボン膜、または窒化硼素膜を被覆した試料を作成したが、本発明のレンズモールドは粒径が20μm以下であり、結晶の成長方向が45°以上であるので、被覆する膜との整合性が良く、密着強度が大きい。また本発明のレンズモールド基材表面に成長した膜は平滑でガラス材料との離型性がよい。
【0039】
反応温度1600〜1800°Cでα−SiC膜を形成した試料についても、粒径、粒子長および結晶の成長方向を本発明の範囲に調整したものは、前記本発明のβ−SiC膜のものと同様の効果を奏した。さらにα−SiC膜を使用した、本発明のレンズモールドについてもその上にイオンプレーティング法およびCVD法により硬質カーボン膜、グラファイト膜、ダイアモンドライクカーボン膜、または窒化硼素膜を被覆した試料を作成したが前記本発明のβ−SiC膜上に前記離型膜を被覆したものと同様の効果を奏した。
【0040】
α−SiC膜を使用したものは1000°C以上の高温での成形が必要となる高融点のガラス材料や石英ガラスレンズ成形に有利である。β−SiC膜を使用したものを1000°C以上の成形温度で使用すると、相変態によりα変態を徐々に起こし、体積変化により膜に亀裂が入ったり、破壊を起こしたりするのでα−SiC膜が有利である。
【0041】
また、β−SiC、α−SiC膜を利用した本発明の型については、膜を構成する結晶の平均粒子径に対する平均粒子長の比が1以上3以下のものは、特に寿命、膜の剥離強度、硬さにおいて優れており、傷がつきにくく、膜の脱落も発生しない。
【0042】
ここでは、SiC膜のSi源として、SiCl4を使用したが、これらのほかSiH4やSi2H6の誘導体を用いれば、SiCl4を使用するよりも膜厚の基材の各部位によるばらつきを小さくすることができ、膜や界面にハロゲンが取り込まれないので膜と基材との密着強度を大きくすることができる。また、より平滑な面を得ることができる。特に、炭化水素基で置換したものを用いると、自己分解によりSiCが再構築されるので好適である。
【0043】
また、C源としては、CH4の他、C2H6、C3H8、C4H10等のアルカンあるいはシクロアルカン、C2H2等のアルキンあるいはシクロアルキン、またはこれらの誘導体やC2H4等のアルケンやベンゼン、ナフタレン、アントラセン等のシクロアルケンまたはこれらの誘導体がC源として使用できる。
【0044】
その他、本発明のCVD−SiC膜材料は、レーザーミラーをはじめウエハー搬送治具、半導体製造関連部材や熱衝撃、機械的強度が必要なシールリング等の用途にも使用できる。
【0045】
【発明の効果】
本発明によって以下の効果を奏することができる。
【0046】
(1)膜の強度が強く、ガラスレンズの成形個数が多くても膜に傷やクラックが入ったり、剥離、脱落を生ぜず型寿命が長い。
【0047】
(2)従来の材料と比較すると、研磨によって面精度の良い光学的鏡面が得られる。
【0048】
(3)従来の材料より、表面の硬さが大きい。
【0049】
(4)光学的鏡面を得るのに研磨時間が従来のものより短い。
【0050】
(5)α−SiC膜を使用した本発明の成形用型は、1000°C以上のガラス転移温度を有するガラス材料の成形に対して高寿命を呈し、好適である。
Claims (4)
- 上型と下型のそれぞれの成形面が化学気相蒸着法により形成した炭化珪素からなるガラス製光学素子成形用型において、
前記炭化珪素の結晶粒子が、
0.1μm以上20μm以下の平均粒子径と、
0.1μm以上60μm以下の平均粒子長と、
基板表面に対して45°より大きい結晶の成長方向を有することを特徴とするガラス製光学素子成形用型。 - 請求項1記載の平均粒径に対する平均粒子長の比が1以上3以下であることを特徴とするガラス製光学素子成形用型。
- 請求項1または請求項2に記載の炭化珪素の結晶形がアルファ炭化珪素又はベータ炭化珪素であることを特徴とするガラス製光学素子成形用型。
- 請求項1から請求項3のいずれかに記載の炭化珪素の上に硬質カーボン膜、グラファイト膜、ダイアモンドライクカーボン膜または窒化硼素膜を被覆したことを特徴とするガラス製光学素子成形用型。
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