JP3856409B2 - トリフルオロメタンの精製方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はトリフルオロメタンの精製方法に関し、さらに詳しくは塩素、臭素を有する化合物を不純物として含むトリフルオロメタン粗精物をフッ化水素でフッ素化して精製するトリフルオロメタンの精製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
トリフルオロメタン(以下「HFC−23」または「CHF3 」と略す)は、例えば、低温用冷媒として、またテトラフルオロメタン製造用の原料などに使用される。
このHFC−23の製造方法に関しては、従来から次のような方法が知られている。例えば、▲1▼クロロジフルオロメタン(CHClF2 )の不均化反応(特開昭51−16602号公報)による方法、▲2▼クロロジフルオロメタン(CHClF2 )の不均化反応用触媒(特公昭53−7312号公報)を用いる方法、▲3▼クロロジフルオロメタン(CHClF2 )の不均化反応(特公昭56−53290号公報)による方法などがある。
【0003】
即ち、クロロホルム(CHCl3 )をフッ化水素と反応させて製造されるクロロジフルオロメタン(CHClF2 )は、四フッ化エチレンの原料であり、工業的に生産されており、またその製造方法も数多く知られており、このクロロジフルオロメタンを原料として不均化反応によりHFC−23を製造する方法が主である。
【0004】
一方、クロロペンタフルオロエタンを不純物として含む粗ペンタフルオロエタン(F125)を触媒フッ素化して、クロロペンタフルオロエタンをヘキサフルオロエタンに転化し、次いで生成したヘキサフルオロエタンを分離するペンタフルオロエタンの精製法が提案されている(特開平6−256234号公報)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
HFC−23とフッ素ガス(F2 )を使用し、直接フッ素化法によりテトラフルオロメタンを製造する際には、HFC−23中に含まれる不純物の塩素、臭素を有する化合物から、オゾン層破壊など地球環境への影響が懸念されるクロロフルオロメタン(CClF3 )、ブロモフルオロメタン(CBrF3 )やクロロペンタフルオロエタン(CClF2 CF3 )などが生成するなどの問題があり、またHFC−23は、前記のように例えば、低温用冷媒として、またテトラフルオロメタン製造用の原料などに使用されるので、塩素、臭素を有する化合物を極力含まない高純度のHFC−23とすることが強く求められている。
【0006】
しかしながら、従来の方法によると、HFC−23中には不純物としてジクロロメタン(CH2 Cl2 )、クロロホルム(CHCl3 )、ジクロロジフルオロメタン(CCl22 )、クロロトリフルオロメタン(CClF3 )、ブロモトリフルオロメタン(CBrF3 )、クロロジフルオロメタン(CHClF2 )、ブロモジフルオロメタン(CHBrF2 )、ジクロロテトラフルオロエタン(C2 Cl24 )、クロロペンタフルオロエタン(CClF2 CF3 )などが含まれ、これらの不純物の総量は、多い物で約1vol%、少ないもので約0.2vol%となる。
HFC−23の純度を上げるためには、蒸留操作を繰り返して行うなどが必要となるが、蒸留ロス分が発生するなど不経済となる上、これらの不純物の中にはHFC−23と共沸混合物や共沸様混合物を形成するため、蒸留操作ではその分離が極めて困難であるという問題がある。
従って、公知の方法では、これらの不純物を殆ど含まない高純度なHFC−23を得ることは極めて困難であり、工業的に容易で経済的なHFC−23の精製方法の開発が望まれていた。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は上記の課題を解決するため鋭意研究した結果、塩素、臭素を有する化合物を不純物として含むHFC−23粗精物をフッ化水素でフッ素化して、前記塩素と臭素を塩化水素および臭化水素に転化し、この塩化水素および臭化水素を含む酸分を除去することにより不純物を殆ど含有しない高純度のHFC−23を得ることができることを見いだし本発明を成すに到った。
【0008】
すなわち、本発明の請求項1の発明は、塩素、臭素を有する化合物を不純物として含むトリフルオロメタン粗精物を、気相にてフッ素化触媒の存在下、高められた温度でフッ化水素と反応させて、前記塩素と臭素を塩化水素および臭化水素に転化し、次いでこの塩化水素および臭化水素を含む酸分を、固定床を使用し、精製剤と気相で接触させて除去することを特徴とするトリフルオロメタンの精製方法である。
【0009】
本発明の請求項2の発明は、請求項1記載のトリフルオロメタンの精製方法において、不純物がジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロジフルオロメタン、クロロトリフルオロメタン、ブロモトリフルオロメタン、クロロジフルオロメタン、ブロモジフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、クロロペンタフルオロエタンからなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3の発明は、請求項1あるいは請求項2記載のトリフルオロメタンの精製方法において、トリフルオロメタン粗精物中に含有される不純物の総量が1vol%以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4の発明は、下記の工程(a)〜(c)を具備することを特徴とするトリフルオロメタンの精製方法である。
(a) 塩素、臭素を有する化合物を不純物として含むトリフルオロメタン粗精物を気相でフッ素化触媒の存在下で反応温度120℃〜400℃でフッ化水素と反応させて、前記塩素と臭素を塩化水素および臭化水素に転化する工程。
(b) 工程(a)からの流出物より塩化水素および臭化水素を含む酸分を、固定床を使用し、精製剤と気相で接触させて除去する工程。
(c) 工程(b)からの流出物を脱水剤と接触させて、脱水する工程。
【0012】
本発明の請求項5の発明は、下記の工程(a)〜(f)を具備することを特徴とするトリフルオロメタンの精製方法である。
(a) 第1反応器において、塩素、臭素を有する化合物を不純物として含むトリフルオロメタン粗精物を気相でフッ素化触媒の存在下、反応温度250℃〜400℃でフッ化水素と反応させて、前記塩素と臭素を塩化水素および臭化水素に転化する工程。
(b) 工程(a)からの流出物より塩化水素および臭化水素を含む酸分を、固定床を使用し、精製剤と気相で接触させて除去する工程。
(c) 工程(b)からの流出物を脱水剤と接触させて、脱水する工程。
(d) 工程(c)から流出する塩素、臭素を有する化合物を未だ不純物として含むトリフルオロメタン粗精物を第2反応器において、気相でフッ素化触媒の存在下、反応温度120℃〜250℃でフッ化水素と反応させて、前記塩素と臭素を塩化水素および臭化水素に転化する工程。
(e) 工程(d)からの流出物より塩化水素および臭化水素を含む酸分を、固定床を使用し、精製剤と気相で接触させて除去する工程。
(f) 工程(e)からの流出物を脱水剤と接触させて、脱水する工程。
【0013】
本発明の請求項6の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のトリフルオロメタンの精製方法において、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、アルミン酸のアルカリ金属塩およびテトラアルキルアンモニウム塩より選ばれる少なくとも一種以上と炭素質固体材料からなる精製剤と接触させて前記酸分を除去することを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項7の発明は、請求項6記載のトリフルオロメタンの精製方法において、前記精製剤と接触させる際の接触温度が室温から400℃までの範囲の温度であることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項8の発明は、請求項4ないし請求項7のいずれかに記載のトリフルオロメタンの精製方法において、前記脱水剤が合成ゼオライトであることを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明のHFC−23の精製方法をさらに詳しく説明する。
HFC−23(CHF3 )は、前記のように、一般には例えば下記式1で表されるように、工業的に生産されているクロロジフルオロメタン(CHClF2 )の不均化反応により製造されるので、HFC−23粗精物中には不純物としてジクロロメタン(CH2 Cl2 )、クロロホルム(CHCl3 )、ジクロロジフルオロメタン(CCl22 )、クロロトリフルオロメタン(CClF3 )、ブロモトリフルオロメタン(CBrF3 )、クロロジフルオロメタン(CHClF2)、ブロモジフルオロメタン(CHBrF2 )、ジクロロテトラフルオロエタン(C2 Cl24 )、クロロペンタフルオロエタン(CClF2 CF3 )などが含まれる。
【0017】
2CHClF2 → CHF3 +CHCl2 F (1)
【0018】
目的物であるHFC−23とこれらの不純物の大気圧下における沸点を次に示す。
【0019】
CHF3 (HFC−23) −84.4℃
CClF3 −81.4℃
CBrF3 −57.8℃
CHClF2 −40.8℃
CClF2 CF3 −39.3℃
CCl22 −29.8℃
CHBrF2 −14.5℃
2 Cl24 3.0〜3.8℃
CH2 Cl2 40.21℃
CHCl3 61.2℃
【0020】
上記のように例えば、HFC−23とクロロトリフルオロメタン(CClF3 )とは沸点差がない上に、さらに共沸混合物を形成することが知られており、またHFC−23とCHClF2 (クロロジフルオロメタン)は極めて分離しずらいなどの問題があるために、公知の蒸留操作による方法では蒸留塔の段数を増やしたり、蒸留塔の本数を多くするなどの対策がとられるが、設備費やエネルギーコストがかさみ経済的でない上に、不純物の分離が困難であるため、高純度HFC−23を製造することは極めて困難であった。
【0021】
本発明においては、先ず、HFC−23中に含まれる塩素、臭素を有する化合物を、気相でフッ素化触媒の存在下、高められた温度でフッ化水素でフッ素化する。
例えば、HFC−23中に不純物としてクロロトリフルオロメタン(CClF3 )を含む場合はフッ化水素でフッ素化すると下記の式(2)で表されような反応が起こり、HFC−23中に不純物としてクロロジフルオロメタン(CHClF2 )を含む場合はフッ化水素でフッ素化すると下記の式(3)で表されような反応が起こる。
【0022】
CClF3 + HF → CF4 + HCl (2)
CHClF2 + HF → CHF3 + HCl (3)
【0023】
フッ素化触媒としては、具体的には、例えば、クロム、ニッケル、亜鉛のいずれかを主成分とする担持型触媒、あるいはクロム酸化物の塊型触媒がよく、これらは一般には使用前にフッ化水素などで活性化されて使用される。
【0024】
反応温度は120℃から400℃の範囲の温度が好ましい。
HFC−23中に含まれる不純物の濃度にも影響されるが、例えば、式(2)で表されるクロロトリフルオロメタン(CClF3 )の反応の場合やクロロペンタフルオロエタン(CClF2 CF3 )の場合は、反応温度は250℃以上が好ましく、この温度以下では反応が進行しない。
【0025】
一方、式(3)で表されるクロロジフルオロメタン(CHClF2 )の反応の場合は、反応温度は120℃から250℃が好ましく、250℃以上では逆反応が起こりクロロジフルオロメタンの転化率が低下する。これは生成する塩化水素の影響と推定され、HFC−23中の不純物の濃度が大きくなる程、この傾向は増す。
【0026】
従って、HFC−23中に含まれるこれらの不純物のそれぞれの濃度の割合は反応条件を大きく左右することになる。例えば、HFC−23中に含まれる不純物の総量が低い場合はフッ化水素でフッ素化する工程が一つでよいが、高い場合はフッ化水素でフッ素化する工程を二つとすることが好ましい。2工程でフッ化水素でフッ素化する場合は、それぞれ最適反応温度領域で実施するのが好ましい。
【0027】
HFC−23中に含有される不純物の総量は前記の理由から1vol%以下が好ましく、より好ましくは0.5vol%以下、さらに好ましくは0.1vol%以下が望ましい。
【0028】
HFC−23中に含まれる塩素、臭素を有する化合物の総量に対してフッ化水素の添加モル比は1〜60の範囲が好ましく、より好ましくは1〜20の範囲が望ましい。フッ化水素の添加モル比は少なくなるほど後述する精製剤との接触工程における経済性が増すが、1以下では反応が進行しなくなる。
また、2工程でフッ化水素でフッ素化する場合は、最初の工程で全量のフッ化水素を添加しても、あるいは両工程に分割してフッ化水素を添加してもよく、どちらを選択してもよい。
【0029】
フッ化水素でフッ素化する工程の反応圧力は、大気圧から1.5MPaの範囲が望ましく、1.5MPaを超えると装置耐圧などの問題があり経済的でなくなる。
【0030】
本発明においては、フッ化水素でフッ素化する工程を経たHFC−23中に含まれる塩素、臭素を有する化合物の総量は約40volppm以下とすることができる。
【0031】
しかし、このフッ化水素でフッ素化する工程からの流出物(主成分HFC−23)中には、生成した塩化水素(HCl)および臭化水素(HBr)と、フッ素化反応を行うために添加したフッ化水素の内で反応しなかった未反応フッ化水素(HF)が酸分として含まれているので除去する必要がある。
もし、この酸分を含む流出物(主成分HFC−23)を用いて、フッ素ガスを使用する直接フッ素化法によりテトラフルオロメタンを製造すると、HFC−23がHClやHBrと反応して、クロロジフルオロメタンやブロモジフルオロメタンなどが生成したり、さらにはクロロトリフルオロメタンなどが生成して製品中に含まれるので好ましくない。
【0032】
この酸分を除去する方法としては、具体的には、例えば酸分を含む流出物を蒸留塔に導き、塔頂よりHFC−23、HClと共沸分のHFを留出させ、ボトムよりHFを回収し、塔頂より留出した留出分を次の蒸留塔に導き、塔頂よりHClを留出させボトムよりHFC−23を回収する方法を挙げることができる。
しかしながら、この蒸留による分離方法は、本発明の場合、添加するHF量がHFC−23に対して圧倒的に少ないので、エネルギー効率などを考慮すると経済的でない。
【0033】
このため本発明においては、生成した塩化水素、臭化水素と未反応HFを含む酸分を精製剤と接触させて、酸分を精製剤との作用(反応)により除去することが好ましい。
精製剤は特に限定されないが、例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、アルミン酸のアルカリ金属塩およびテトラアルキルアンモニウム塩より選ばれる少なくとも一種以上と炭素質固体材料とからなる精製剤は好ましく使用できる。
【0034】
アルカリ金属化合物としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩または硝酸塩から選ばれる一種または二種以上の化合物を使用できる。
【0035】
アルカリ土類金属化合物としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウムまたはストロンチウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩または硝酸塩から選ばれる一種または二種以上の化合物を使用でき、好ましくはカルシウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩または硝酸塩であり、これらの内でも、生石灰、消石灰、石灰石が取扱いが容易で有利である。
【0036】
アルミン酸のアルカリ金属塩およびテトラアルキルアンモニウム塩としては、例えば、アルミン酸リチウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アルミン酸セシウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、炭酸テトラメチルアンモニウム、炭酸テトラエチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、アルミン酸テトラメチルアンモニウム、アルミン酸テトラエチルアンモニウムなどを好ましく挙げることができ、より好ましくは、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、炭酸テトラメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、アルミン酸テトラメチルアンモニウムなどがよい。一般的にはアルミン酸ナトリウム、炭酸テトラメチルアンモニウムが最適である。
【0037】
炭素質固体材料としては、例えば、コークス粉、チャー炭、石炭、生ピッチ、木炭、活性炭、カーボンブラックなどから選ばれる一種または二種以上の化合物を使用することができ、その形態は固形や粉末がよい。
固形の炭素質固体材料としては、活性炭が好ましく、形状は球状、破砕状などの粒状であればその形状は制限されず、比表面積が100〜2500m2 /g、より好ましくは500〜2000m2 /gのものがよい。
粉末の炭素質固体材料としては、チャー炭が好ましい。
【0038】
本発明で使用する精製剤の製造方法としては、例えば、アルミン酸ナトリウムの水溶液に炭素質固体材料の活性炭を浸漬、攪拌後、乾燥させて製造する担持型精製剤の製法や、また、例えば、炭素質固体材料としてチャー炭を用い、アルカリ土類金属化合物として消石灰を用い、これらの粉末を所定の割合で混合し水を加えて混練した後、取扱い易い粒径に揃え、乾燥してペレット型精製剤とする製法を挙げることができる。
【0039】
精製剤が担持型の場合、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、アルミン酸のアルカリ金属塩、テトラアルキルアンモニウム塩などの炭素質固体材料への担持量は、少なすぎると効果がなく、多すぎると炭素質固体材料の細孔閉塞などを生じるので、通常、1〜30w/V%(活性炭100mlに対する担持量g)の範囲が好ましく、より好ましくは5〜20w/V%の範囲がよい。
【0040】
精製剤がペレット型の場合、炭素質固体材料とアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物などの相対割合は、使用するこれらの材料や化合物の種類にもよるが、重量比で言えば半々かアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物などの方が多めがよい。
【0041】
また、精製剤を乾燥する場合は、乾燥ガスとして窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを用いるのがよい。
【0042】
このようにして製造された精製剤の比表面積は80〜1000m2 /gの範囲であり、好ましくは100〜700m2 /gの範囲がよい。また、平均細孔径は7〜1500Åの範囲にピークを有するものが好ましい。
【0043】
前記酸分を含むHFC−23を精製剤と接触させる接触工程は、流動床や移動床を使用してもよいが、一般には固定床を使用し、液相、気相のどちらも選択できるが、一般には気相が好ましい。接触工程の圧力は大気圧から1.5MPaの範囲が望ましく、高圧になるほど装置の耐圧などが必要となるので経済的でなくなる。また、接触工程の温度は、室温から400℃の範囲が望ましく、この範囲を外れると冷却や加温設備などが必要となるので好ましくない。
【0044】
精製剤との接触工程後のHFC−23は、水分を含有する。水分の大部分は精製剤と前記酸分との反応によって発生する。水分は、例えば、HFC−23を冷媒として使用する場合や、また、反応原料などとして使用する場合に好ましくないので、除去する必要がある。
水分を除去する方法は特に限定されないが、水分を含むHFC−23を脱水剤と接触させる方法が好ましく用いられる。脱水剤としては、合成ゼオライトが好ましく、合成ゼオライトの中でもモレキュラーシーブス3A、4A、あるいはこれらの耐酸グレード品が好ましく用いられる。
【0045】
脱水剤との接触工程は一般には固定床で行われる。接触温度としては、−20℃から100℃の範囲が好ましく、圧力としては大気圧から1.5MPaの範囲がよい。脱水工程後のHFC−23中の水分濃度は通常約50wtppm以下とすることができる。
【0046】
不純物としてクロロトリフルオロメタン(CClF3 )とクロロペンタフルオロエタン(CClF2 CF3 )を含むHFC−23粗精物を、2工程でフッ化水素でフッ素化して精製し、高純度のHFC−23を製造する場合の具体例を次に示す。
(a) 先ず第1反応器において、このトリフルオロメタン粗精物を気相でフッ素化触媒の存在下、反応温度300℃〜350℃でフッ化水素(HF)と反応させて前記の式(2)、下記の式(4)に示すように不純物中の塩素を塩化水素に転化する。
CClF3 +HF→CF4 +HCl (2)
CF3 CClF2 +HF→CF3 CF3 +HCl (4)
(b) 工程(a)からの流出物(主成分HFC−23)を精製剤(CaO/活性炭)に接触させて塩化水素および未反応HFを含む酸分を除去する。この精製剤と接触させる接触工程で下記式(5)に示すように水分が発生する。
CaO+2HF→CaF2 +H2 O (5)
(c) 工程(b)からの水分を含む流出物(主成分HFC−23)を脱水剤(合成ゼオライト)と接触させて、脱水する。
【0047】
(d) 工程(c)からの流出物(主成分HFC−23)には上記工程(a)で副生したCHClF2 が不純物として含まれているので、この流出物を第2反応器において、気相でフッ素化触媒の存在下、反応温度150℃〜200℃で反応させて前記の式(3)に示すように不純物中の塩素を塩化水素に転化する。
CHClF2 +HF→CHF3 +HCl (3)
(e) 工程(d)からの流出物(主成分HFC−23)を精製剤(CaO/活性炭)に接触させて塩化水素および未反応HFを含む酸分を除去する。この精製剤と接触させる接触工程で前記式(5)に示すように水分が発生する。
(f) 工程(e)からの水分を含む流出物を脱水剤(合成ゼオライト)と接触させて、脱水する。
【0048】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0049】
まず、実施例に使用した原料(HFC−23粗精物)を以下に示す。
[原料例1]
クロロホルム(CHCl3 )とフッ化水素を気相でフッ素化触媒の存在下で、反応温度250℃で反応させ、公知の方法で蒸留操作を繰り返し、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、次のような組成を有するHFC−23粗精物(原料1)を得た。
【0050】
Figure 0003856409
【0051】
[原料例2]
クロロジフルオロメタン(CHClF2 )を気相でフッ化アルミニウム(AlF3 )触媒の存在下、反応温度200℃で不均化反応を行い、公知の方法で蒸留操作を繰り返し、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、次のような組成を有するHFC−23粗精物(原料2)を得た。
【0052】
Figure 0003856409
【0053】
次に、実施例で使用した触媒の調製例および活性化法を以下に示す。
[触媒例1]
塩化クロム(CrCl3 ・6H2 O)191.5gと塩化亜鉛(ZnCl2 )11.8gを純水132ml中に投入し、湯浴上で70〜80℃に加熱して溶解する。溶液を室温まで冷却後、活性アルミナ(日揮ユニバーサル株式会社NST−3)400gを浸漬してアルミナに触媒液を全量吸収させる。ついで、触媒液で濡れた状態のアルミナを90℃の湯浴上で乾燥し、乾固する。その後、触媒を空気循環型の熱風乾燥機内で110℃で乾燥する。
次いで空気流通下にて200℃で発熱がなくなるまで焼成した後、さらに400℃まで昇温し、3時間焼成し触媒前駆体を得た。触媒前駆体をインコネル製反応器に充填し、常圧において窒素希釈したHF気流下350℃で、続いて窒素希釈しない100%のHF急流下350℃でフッ素化処理(触媒の活性化)を行って(触媒1)を調製した。
【0054】
[触媒例2]
純水0.6lを入れた10lの容器に、Cr(NO33 ・9H2 O 452gを純水1.2lに溶かした溶液と28%のアンモニア水0.3lとを攪拌しながら、反応液のPHが7.5〜8.5の範囲になるようにコントロールして約1時間かけて滴下した。得られた水酸化物のスラリーを濾別し、純水で良く攪拌した後、120℃で乾燥した。得られた固体を粉砕、黒鉛と混合し、打錠成形機によってペレット化した。このペレットを窒素気流化400℃で4時間焼成し触媒前駆体を得た。触媒前駆体をインコネル製反応器に充填し、常圧において窒素希釈したHF気流下350℃で、続いて窒素希釈しない100%のHF気流下350℃でフッ素化処理(触媒の活性化)を行って(触媒2)を調製した。
【0055】
さらに、実施例に使用した精製剤の調製例を以下に示す。
[精製剤例1]
アルミン酸ナトリウムの25%水溶液40mlに粒状活性炭(比表面積1200m2 /g、粒径0.5〜2mm)100mlを浸漬し、攪拌後、乾燥窒素ガスにて200℃で3時間乾燥させ、水分を含まないアルミン酸ナトリウム担持活性炭(NaAlO2 、担持量10g/100ml活性炭)からなる(精製剤1)を調製した。
【0056】
[精製剤例2]
原料として粒度250μm以下のチャー炭と粒度250μm以下の消石灰を重量比1:3の割合で配合し、ヘンシエルミキサーで混合し、水を添加して造粒したあと、110℃で4時間の乾燥処理し、窒素雰囲気下で800℃で8時間熱処理を行って脱水焼成し、得られた焼成品を1.4〜4mmに整粒した(ペレット)(精製剤2)。このペレット(精製剤2)を分析したところ、炭素(C)と酸化カルシウム(CaO)が主成分であった。
【0057】
[実施例1]
内径1インチ、長さ1mのインコネル600型反応器に[触媒例1]で調製した(触媒1)100mlを充填し、窒素を流しながら温度を330℃としフッ化水素0.924Nl/Hrで供給し、次いで[原料例1]で得られた(原料1)を58.94Nl/Hrで供給し、窒素ガスの供給を停止し、約1時間後に排出ガスをアルカリ水溶液で酸分除去し、ガス組成をガスクロマトグラフィーで分析したところ、次のような組成であった。
【0058】
Figure 0003856409
上記の結果から明らかなように塩素、臭素を有する化合物は、約96.3%が除去された。
【0059】
[実施例2]
内径1インチ、長さ2mのインコネル600型反応器に[触媒例1]で調製した(触媒1)を100ml充填しこれを第1反応器とし、内径1インチ、長さ2mのインコネル600型反応器に[触媒例1]で調製した(触媒1)を100ml充填しこれを第2反応器とした。
第1反応器と第2反応器の間、および第2反応器の出口に容量100mlのSUS製シリンダーをそれぞれ二本ずつ直列につなぎ、最初に[精製剤例1]で調製した(精製剤1)を70ml充填し、つぎに脱水剤のモレキュラーシブス3Aを70ml充填した。
第1反応器を反応温度350℃とし、フッ化水素0.924Nl/Hr、[原料例1]で得られた(原料1)を58.94Nl/Hr供給してフッ素化反応を行い、排出ガスを前記のSUS製シリンダー二本を通した後(常圧下、1塔目の温度約80℃、2塔目の温度約40℃の条件で排ガスを通した)、第2反応器の入口よりフッ化水素を0.462Nl/Hr供給し第2反応器の反応温度を150℃としてフッ素化反応を行い、第2反応器から流出する排出ガスを前記のSUS製シリンダー二本を通した後(常圧下、1塔目の温度約60℃、2塔目の温度約30℃の条件で排ガスを通した)、分析したところ、次のような組成であった。
【0060】
Figure 0003856409
上記の結果から明らかなように塩素、臭素を有する化合物の約96.6%を除去することができた。また、第2反応器の(精製剤1)を通過後の排出ガス中の酸分をイオンクロマト法により分析したところ酸分量は0.1wtppm以下であり、更に第2反応器の脱水剤を通過後の排出ガス中の水分を水分計により測定したところ50wtppm以下であった。
【0061】
[実施例3]
内径1インチ、長さ1mのインコネル600型反応器に[触媒例2]で調製した(触媒2)100mlを充填し、窒素ガスを流しながら温度を150℃とし、フッ化水素を1.90Nl/hr、[原料例2]で得られた(原料2)を58.94Nl/hrで供給し、窒素ガスを停止し約1時間後に排出ガスを分析したところ、次のような組成であった。
【0062】
Figure 0003856409
また生成した塩化水素は約0.05Nl/hrであった。
【0063】
次に、この排出ガスを容量100mlのSUS製シリンダーに[精製剤例2]で調製した(精製剤2)70mlを充填した容器に導入し、排出ガス中の酸分濃度をイオンクロマト法、水分を水分計により分析したところ、次のような結果であった。
【0064】
(総量)
- 量: 0.1wtppm以下
Cl- 量:0.1wtppm以下
(水分量)
2 O量:約3000wtppm
以上の結果から明らかなように、(精製剤2)によりフッ化水素や塩化水素は殆ど除去でき、その濃度は1wtppm以下となることが判る。
しかし、生成した塩化水素や未反応フッ化水素と(精製剤2)との反応によって、多量に生成した水分は除去されない。
【0065】
そこで次に、(精製剤2)を通過した後の前記の排出ガスを、容量100mlのSUS製シリンダーに脱水剤としてモレキュラーシブス3Aを70ml充填した容器に導入した。この脱水剤を経た後の排出ガス中の水分を水分計により分析したところ、次のような結果であった。
(水分量)
2 O量: 15wtppm
【0066】
【発明の効果】
本発明によれば従来、非常に困難であったトリフルオロメタン中の塩素、臭素を有する化合物を効率よく除去でき、これらの化合物を含有しない高純度なトリフルオロメタンを工業的に容易に経済的に得ることができる。

Claims (8)

  1. 塩素、臭素を有する化合物を不純物として含むトリフルオロメタン粗精物を、気相にてフッ素化触媒の存在下、高められた温度でフッ化水素と反応させて、前記塩素と臭素を塩化水素および臭化水素に転化し、次いでこの塩化水素および臭化水素を含む酸分を、固定床を使用し、精製剤と気相で接触させて除去することを特徴とするトリフルオロメタンの精製方法。
  2. 不純物がジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロジフルオロメタン、クロロトリフルオロメタン、ブロモトリフルオロメタン、クロロジフルオロメタン、ブロモジフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、クロロペンタフルオロエタンからなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることを特徴とする請求項1記載のトリフルオロメタンの精製方法。
  3. トリフルオロメタン粗精物中に含有される不純物の総量が1vol%以下であることを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載のトリフルオロメタンの精製方法。
  4. 下記の工程(a)〜(c)を具備することを特徴とするトリフルオロメタンの精製方法。
    (a) 塩素、臭素を有する化合物を不純物として含むトリフルオロメタン粗精物を気相でフッ素化触媒の存在下で反応温度120℃〜400℃でフッ化水素と反応させて、前記塩素と臭素を塩化水素および臭化水素に転化する工程。
    (b) 工程(a)からの流出物より塩化水素および臭化水素を含む酸分を、固定床を使用し、精製剤と気相で接触させて除去する工程。
    (c) 工程(b)からの流出物を脱水剤と接触させて、脱水する工程。
  5. 下記の工程(a)〜(f)を具備することを特徴とするトリフルオロメタンの精製方法。
    (a) 第1反応器において、塩素、臭素を有する化合物を不純物として含むトリフルオロメタン粗精物を気相でフッ素化触媒の存在下、反応温度250℃〜400℃でフッ化水素と反応させて、前記塩素と臭素を塩化水素および臭化水素に転化する工程。
    (b) 工程(a)からの流出物より塩化水素および臭化水素を含む酸分を、固定床を使用し、精製剤と気相で接触させて除去する工程。
    (c) 工程(b)からの流出物を脱水剤と接触させて、脱水する工程。
    (d) 工程(c)から流出する塩素、臭素を有する化合物を未だ不純物として含むトリフルオロメタン粗精物を第2反応器において、気相でフッ素化触媒の存在下、反応温度120℃〜250℃でフッ化水素と反応させて、前記塩素と臭素を塩化水素および臭化水素に転化する工程。
    (e) 工程(d)からの流出物より塩化水素および臭化水素を含む酸分を、固定床を使用し、精製剤と気相で接触させて除去する工程。
    (f) 工程(e)からの流出物を脱水剤と接触させて、脱水する工程。
  6. アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、アルミン酸のアルカリ金属塩およびテトラアルキルアンモニウム塩より選ばれる少なくとも一種以上と炭素質固体材料からなる精製剤と接触させて前記酸分を除去することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のトリフルオロメタンの精製方法。
  7. 前記精製剤と接触させる際の接触温度が室温から400℃までの範囲の温度であることを特徴とする請求項6記載のトリフルオロメタンの精製方法。
  8. 前記脱水剤が合成ゼオライトであることを特徴とする請求項4ないし請求項7のいずれかに記載のトリフルオロメタンの精製方法。
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