JP3856377B2 - 感熱孔版印刷用原紙 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は感熱孔版印刷用原紙に関し、詳しくは熱可塑性樹脂フィルム上に多孔性樹脂膜を形成しその表面に多孔性繊維膜を設けた感熱孔版印刷用原紙に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、熱可塑性フィルムにインキ通過性の支持体として、天然繊維、合成繊維の単独又は混抄した多孔性薄葉紙を接着剤で貼り合わせた感熱孔版原紙が用いられている。しかし、こうした繊維から成る多孔性薄葉紙を支持体として用いた感熱孔版印刷用原紙は、次のような問題点がある。
(1)接着剤を用い多孔性薄葉紙とフィルムを貼り合わせることにより、接着剤が多孔性薄葉紙の繊維間に鳥の水掻きのように集積し、その部分がサーマルヘッドによる穿孔が行われにくくなり、インキの通過が妨げられ印刷ムラが発生しやすくなる。
(2)多孔性薄葉紙の繊維自体がインキの通過を妨げ、印刷ムラが発生しやすくなる。
(3)多孔性薄葉紙の繊維目によりフィルム面の平滑性が低下し、サーマルヘッドとの密着が悪く未穿孔部が出来るため印刷ムラが発生する。
【0003】
こうした問題を改善するためにいくつかの提案がなされているが、未だ満足するものは得られていない。例えば、特開平3−193445号公報に、多孔性支持体として、繊度1デニール以下の合成繊維から成る薄葉紙を用いることが提案されているが前記の問題解決には十分とはいえない。特開昭62−198459号公報に、熱可塑性フィルムに実質的に閉じた形状の放射線硬化型樹脂パターンをグラビア、オフセット、フレキソ等の印刷により多孔性支持体を形成する方法が提案されている。しかし、印刷法では樹脂パターンの線幅を50μm以下にすることは困難であり、印刷部が穿孔できず、印刷ムラとなる。
【0004】
また、特開平3−240596号公報には、水分散性ポリマーとコロイダルシリカから成る分散液を熱可塑性フィルムの表面に塗布、乾燥し、多孔性支持体を設け、粘度の低いインキジェット用インキで印刷する方法が提案されている。しかし、この方法では多孔層の開孔径が小さく、従来より用いられている孔版用印刷インキではインキの通過が悪く、十分な印刷濃度が得られない。
一方、特開昭54−33117号公報には、多孔性支持体を用いない実質的に熱可塑性フィルムのみから成る感熱孔版印刷用原紙が提案されている。この原紙は熱収縮率が高く、フィルム厚み3μm以下のフィルムではサーマルヘッドによる穿孔性も良好で印刷品質は優れているが、腰が弱く印刷機での搬送が出来ないという問題を有する。また搬送性をよくするため厚いフィルムを使用するとサーマルヘッドによる穿孔性が低下し、印刷ムラが発生する。
【0005】
本発明者等は先に熱可塑性フィルムの片面に多孔性樹脂膜を設けた感熱孔版マスターを提案した(特開平8−332785号公報、特願平11−235885号公報)。しかしながら、樹脂膜のみでコシ(Stiffness)を強くする事は困難であり、印刷機上で搬送時にしわが入る等の問題を有する。
【0006】
この問題を解決すべく、本発明者等はその後に特開平10−147075号公報にて、熱可塑性樹脂フィルムの一方の面上に樹脂からなる多孔性樹脂膜を有し、更にその表面に繊維状物質からなる多孔性繊維膜を積層してなる感熱孔版印刷用原紙を提案した。
しかしながらこの原紙は、該多孔性樹脂膜は泡沫を利用して形成されたものであり、感熱フィルムに直接多孔性薄葉紙を接着にて接着した原紙と比べ、その間に強度の弱い多孔性樹脂膜を介しているために、製版時、特にベタの多い画像がある場合にはサーマルヘッドによる熱印加時のフィルムの収縮力に打勝つ事が出来ず、原紙がしわになってしまう問題がある。
【0007】
更に、副走査方向(原紙の進行方向:タテ方向)のしわに関しては製版時に原紙に一定の張力を加える事によって防止する事は可能であるが(特開平6−198833号公報:フィルムのみからなる原紙のしわ防止参照)、主走査方向(原紙の幅方向:ヨコ方向)に張力を加えながら製版する事は困難である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、印刷機上での搬送時のしわが生じることがなく、サーマルヘッドによる穿孔性に優れ、しかも印刷立上り性にも優れた感熱孔版印刷用原紙を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記のような従来技術の実状に鑑みてなされたものである。即ち本発明によれば、第一に、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面上に多孔性樹脂膜を有し、更にその表面に少なくとも1層以上の多孔性繊維膜を積層してなる感熱孔版印刷用原紙において、前記原紙のヨコ方向の伸度2%における引張強度が100〜270N/mであり、前記熱可塑性樹脂フィルムを100℃で3分間熱処理した場合のヨコ方向の熱収縮率が3〜15%であることを特徴とする感熱孔版印刷用原紙が提供される。また本発明によれば、第二に、前記原紙の熱可塑性樹脂フィルム面の王研式平滑度測定による平滑度が10000秒以上であることを特徴とする上記第1項に記載の感熱孔版印刷用原紙が提供される。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明において、感熱孔版印刷用原紙のヨコ方向の伸度2%における引張強度が100〜270N/mであることが必要である。
該原紙のヨコ方向の伸度2%における引張強度が100N/mに満たない場合は、フィルムの収縮力によって原紙も共に変形し、しわが発生する。
一方該引張強度が270N/mより大きくなると、印刷立上りが悪化したり、排版時にマスタと共に破棄されるインク量(排版インク量)が増加する為に好ましくない。
【0011】
本発明において、感熱孔版印刷用原紙のヨコ方向の伸度2%における引張強度を100〜270N/mとするには、例えば、素材によっても異なるが4〜8g/m2程度の比較的低坪量からなる多孔性繊維膜を用いることや、また多孔性繊維膜製造時の条件として繊維配向性のコントロールを行うこと等で所望の強度を得ることが可能である。
【0012】
なお、原紙の前記引張強度を前記範囲にする手段としては、フィルムの強度、多孔膜の強度、多孔性繊維膜の強度を向上、或いは調整することが選択肢として挙げられるが、フィルムの強度を上げる方向性(厚さやフィルム物性)は製版感度を落とす方向であり現実的ではない。また、多孔膜はその構造上強度が弱いために多孔膜自身の強度の大きな向上は望めない。
さらに、多孔性繊維膜の強度を上げる手段としては多孔性繊維膜の材料自体の強度を上げる(例えば金属製)ことが考えられるが、孔版印刷用原紙は主としてロール状で供給され一版毎にカッター等の切断手段にて所定の長さに切断して使用されるために、材料自体の強度を上げてしまうと切断手段の耐久性が低下する。そこで、通常使用されている多孔性支持体(多孔性繊維膜)は坪量の範囲が主として8〜15g/m2であり引張強度が強いことから、坪量にて強度を調整する方法等が好ましい。
【0013】
また本発明において、感熱孔版印刷用原紙の熱可塑性のヨコ方向の熱収縮率(100℃、3分)が3〜15%以下であることが必要である。
該フィルムのヨコ方向の該収縮率を15%以下にすることによって、少ない引張強度でも原紙しわを防止することができ、印刷立上りや排版インク量が良好な原紙を得ることができる。
一方該収縮率が3%に満たない場合は、穿孔性が悪くなり良好な画像が得られない。
【0014】
本発明において、感熱孔版印刷用原紙の熱可塑性フィルムのヨコ方向の熱収縮率(100℃、3分)を3〜15%とするには、例えば、特開昭63−31292号公報にも記載されているように、延伸時の延伸倍率の調整、二軸延伸後の熱処理条件を調整することで行うことができる。熱処理条件を緩くすることで収縮率を大きくすることができ、例えば熱処理温度を低くすることで収縮率を大きくすることができる。
【0015】
また本発明において、感熱孔版印刷用原紙の多孔性樹脂膜側と反対側の熱可塑性フィルム面の平滑度(王研式平滑度測定による)が10000秒以上であることが好ましい。
【0016】
該平滑度が10000秒未満であると、マスタ表面の凹凸がフィルムの熱収縮による原紙のしわを助長し、平滑度が10000以上のものと比べてしわが出易くなってしまう。
【0017】
該フィルム面の平滑度を10000秒以上とするには、例えば、多孔性樹脂膜をフィルムに塗布後乾燥する過程において乾燥炉内までの搬送方法として、ロール上にベルトを取り付け搬送すること等によって達成される。これによれば、上方から熱風により乾燥され形成した多孔性樹脂膜は熱可塑性樹脂フィルム全面がベルトにより支持されているために上方から熱風を吹きつけてもばたつきが少ないため、多孔性樹脂膜のシワが少なく、熱可塑性フィルムの自由表面側の面の平滑度を高くすることが可能である。また、多孔性繊維膜とのラミネートにおいて、ラミネート圧を最小限にすることによっても平滑性を高く保つことができる。
【0018】
次に、本発明の感熱孔版印刷用原紙の各構成材料等を説明する。
<熱可塑性フィルム>
本発明における熱可塑性樹脂フィルムは、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンまたはそれらの共重合体など従来公知のものが用いられるが、穿孔感度の点からポリエステルフィルムが特に好ましく用いられる。ポリエステルフィルムに用いられるポリエステルとして好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、エチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートとの共重合体、ヘキサメチレンテレフタレートとシクロヘキサンジメチレンテレフタレートとの共重合体等を挙げる事ができる。穿孔感度を向上する為に特に好ましくは、エチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートとの共重合体、ヘキサメチレンテレフタレートとシクロヘキサンジメチレンテレフタレートとの共重合体等を挙げる事ができる。
【0019】
本発明における熱可塑性樹脂フィルムには必要に応じて、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料、染料、脂肪酸エステル、ワックス等の有機滑剤あるいはポリシロキサン等の消泡剤等を配合する事ができる。
さらには必要に応じて易滑性を付与する事もできる。易滑性付与方法としては特に制限はないが、例えば、クレー、マイカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、湿式あるいは乾式シリカなどの無機粒子、アクリル酸類、スチレン等を構成成分とする有機樹脂粒子等を配合する方法、内部粒子による方法、界面活性剤を塗布する方法等がある。
【0020】
本発明における熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、通常好ましくは0.5〜5.0μmであり、更に好ましくは0.5〜3.0μmである。厚さが5.0μmを超えると穿孔性を低下する場合があり、0.5μmより薄いと、多孔性樹脂膜塗布時の搬送性が困難となり好ましくない。
【0021】
本発明に用いる感熱孔版印刷用原紙においては、熱可塑性樹脂フィルムの表面にサーマルヘッドとのスティック防止のためのスティック防止層を設けることができる。この場合、使用されるスティック防止層を構成するスティック防止剤としては、従来の感熱孔版印刷用原紙で一般的に使用されているものが使用できる。例えばシリコーン系離型剤、フッ素系離型剤、リン酸エステル系界面活性剤等が使用できる。
【0022】
<多孔性樹脂膜>
本発明における多孔性樹脂膜は、膜の内部及び表面に多数の空隙を持っ構造を有するものであれば良く、該空隙がインキの通過性の点から多孔性膜内において厚さ方向に連続構造であるものが望ましい。
本発明において、多孔性樹脂膜の平均孔径は一般に2〜50μm、望ましくは5〜30μmである。平均孔径が2μmに満たない場合には、インキ通過性が悪い。そのため、十分なインキ通過量を得るために低粘度インキを用いれば、画像にじみや印刷中に印刷ドラムの側部や巻装されているマスターの後端から印刷インキがしみ出す現象が発生する。また、多孔質樹脂膜内の空膜率が低くなることが多く、サーマルヘッドによる穿孔を阻害しやすくなる。一方、平均孔径が50μmを越える場合には、多孔性樹脂膜によるインキの抑制効果が低くなり、印刷時に印刷ドラムとフィルムの間のインキが過剰に押し出され、裏汚れやにじみ等の不具合が発生する。即ち、平均孔径は小さすぎても大きすぎても良好な印刷品質が得られない。特に、多孔性樹脂膜内の空隙の平均孔径が20μm以下である場合、多孔性樹脂膜層が厚い程印刷インキが通りにくくなるので、この層の厚みによってインキの印刷用紙への転写量を制御することができる。そして、層の厚さが不均一であると印刷むらを生じることがあるので、厚みは均一であることが望ましい。
【0023】
本発明の多孔性樹脂膜の厚みは、通常2〜100μm、望ましくは5〜50μm以下である。5μmに満たない場合は、サーマルヘッドによる穿孔後に穿孔部の背後に多孔性樹脂膜が残りにくく、インキ転写量が制御されずに印刷物の裏汚れが発生しやすい。また、多孔性樹脂膜のインキ転写量抑制効果は膜が厚いほど大きく、印刷時の紙へのインキ転写量は多孔性樹脂膜の厚みによって調節できる。
【0024】
多孔性樹脂膜の密度は、通常0.01〜1g/cm3で、望ましくは0.1〜0.7/cm3である。密度が0.01g/cm3未満であると膜の強度が不足し、また膜自体も壊れやすい。
多孔性樹脂膜の付着量は、通常0.1〜25g/m2で、望ましくは0.5〜11g/m2が望ましい。付着量の増大はインキの通過を妨げて画質を悪くし、0.1g/m2未満ではインキ転写量の制御が困難となり、逆に25g/m2を超えるとインキの通過を妨げて画像を悪くする。
【0025】
多孔性樹脂膜を構成する樹脂材料としては、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のようなビニル系樹脂、ポリブチレン、ナイロン等のポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、アセチルプロピルセルロース等のセルロース誘導体等が挙げられる。これらの樹脂は2種以上を混合して用いても良い。
【0026】
なお、多孔性樹脂膜の形成、強度、孔径の大きさ等を調節するために、多孔性樹脂膜中に必要に応じてフィラーなどの添加剤を添加することが望ましい。ここにおいてフィラーとは顔料、粉体や繊維状物質も含まれる概念である。その中で特に針状のフィラーが好ましい。その具体例としては、ケイ酸マグネシウム、セピオライト、チタン酸カリウム、ウオラストナイト、ゾノトライト、石膏繊維等の鉱物系針状フィラー、非酸化物系針状ウイスカ、酸化物系ウイスカ、複酸化物系ウイスカ等の人工鉱物系針状フィラー、マイカ、ガラスフレーク、タルク等の板状フィラーが挙られる。
顔料は無機のみならず有機の顔料、あるいはポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル酸メチル等の有機ポリマー粒子、そして酸化亜鉛、二酸化チタン、炭酸カルシウム、シリカ等である。具体的には松本油脂製薬株式会社のマイクロカプセル、マツモトマイクロスフィアーも有効に利用できる。
【0027】
これら添加剤の添加量としては好ましくは樹脂に対して5〜200重量%である。
5重量%未満では添加剤を加えることによる曲げ剛度が高くならない。逆に200重量%を超えるとフィルムとの接着性が悪くなる。
【0028】
本発明の多孔性樹脂膜には、本発明の効果を阻害しない範曲内で帯電防止剤、スティック防止剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤などを併用することができる。
【0029】
<多孔性樹脂膜形成方法>
次に、本発明の感熱孔版印刷用原紙の多孔性樹脂膜形成方法について説明する。
第1の多孔性樹脂膜の形成方法は、樹脂を良溶媒と貧溶媒との混合溶媒中に溶解及び/又は分散して得た塗工液を塗布し乾燥過程で多孔質膜を形成するものである。この時、良溶媒は相対的に貧溶媒より低温で蒸発しやすい組み合わせが必要である。良溶媒と貧溶媒をそれぞれ一種ずつ用いる場合には、良溶媒の沸点は相対的に貧溶媒の沸点より低くなければならない。良溶媒と貧溶媒の選定は任意であるが、一般には沸点差が15〜40℃である場合に所望の特性を持つ多孔性樹脂膜が形成されやすい。沸点差が10℃未満の場合には、両溶媒の蒸発時間差が小さく、形成される膜が多孔性構造になリにくい。貧溶媒の沸点が高すぎる場合には、乾燥に時間がかかり生産性に劣るため、貧溶媒の沸点は150℃以下であることが望ましい。
【0030】
塗布液中の樹脂濃度は使用する材料によって異なるが5〜30重量%が好ましい。5重量%未満では開口径が大きくなりすぎたり、多孔性樹脂膜の厚みのむらが生じやすい。逆に、30重量%を超えると多孔性樹脂膜が形成されにくく、あるいは形成されても孔径が小さくなり所望の特性は得られにくい。
【0031】
多孔性樹脂膜の平均孔径の大きさは雰囲気中の貧溶媒の影響を受け、一般にその良溶媒に対する割合が高いほど凝結量が多くなり、平均孔径は大きくなる。
貧溶媒の添加比率は樹脂、溶媒により異なるので試験により適宜決定する必要がある。一般的に、貧溶媒の添加量が多くなるに従い多孔質樹脂膜の孔径が大きくなる。貧溶媒の添加量が多すぎると樹脂が析出し塗布液が不安定になる。
【0032】
第2の多孔性樹脂膜の形成方法としては、特開平11−235885号公報に開示されている、W/O型エマルションを主体とする流動体を薄層上に塗布、乾燥して形成させるものであり、主として水の部分が乾燥後インクが通過する孔となり、溶剤中の樹脂(フィラー、乳化剤等の添加物が含まれていてもよい)が構造体となる方法である。この方法においても多孔性樹脂膜の形成、強度、孔径の大きさ、コシ等を調節するために、多孔性樹脂膜中に必要に応じて前記フィラーなどの添加剤を添加することができる。その中で特に針状、板状、もしくは繊維状のフィラーが好ましい。
【0033】
W/O型エマルションの形成には比較的親油性の強い、HLB(Hydrophiric−LyophiricBaance)が4〜6の界面活性剤が有効であるが、水層にもHLBが8〜20の界面活性剤を使用するとより安定で均一なW/Oエマルションが得られる。高分子界面活性剤の使用も、より安定で均一なエマルションを得る方法の一つである。また水系にはポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等の増粘剤の添加がエマルションの安定化に有効である。尚、本発明の多孔性樹脂膜の形成方法は上記に例示した方法に限定されるものではない。
【0034】
本発明の多孔性樹脂膜形成用塗布液の熱可塑性樹脂フィルムヘの塗布方式としてはブレード、トランスフアーロール、ワイヤーバー、リバースロール、グラビア、ダイ等の従来一般的に用いられている塗布方式が使用でき、特に限定されるものではない。
【0035】
<多孔性繊維膜及び接着方法>
本発明に使用される多孔性繊維膜(補強材)としては、多孔性薄葉紙(典具帖)、多孔質の合成繊維抄造紙、各種織布、不織布などを挙げることができる。
多孔性薄葉紙としては、こうぞ、みつまた、マニラ麻、亜麻などの天然繊維、レーヨン、ビニロン、ポリエステルなどの化学繊維の単独あるいは適当な割合で混合したものが用いられる。
特に坪量3〜14g/m2、密度0.1〜0.8g/ml、透気度0.5〜12秒/96枚(測定はいずれもJIS法による)の特性をもつ多孔性薄葉紙が好ましい。
【0036】
本発明において、多孔性繊維膜(補強材)と、熱可塑性樹脂フィルム及びその上に多孔性樹脂膜を設けた感熱孔版印刷用原紙との接着方法は、接着剤をマルチロールコーティング、リバースロールコーティング、グラビアコーティング、オフセットグラビアコーティング、キスコーティング、ロータリースクリーンコーティング等の手段にて多孔性支持体(多孔性樹脂膜)の表面に適量の接着剤を塗布し、その後多孔性繊維膜と圧着し、接着剤を乾燥あるいは硬化させる。多孔性繊維膜は2層以上積層してもよい。
【0037】
接着剤としては、例えば、ウレタン系樹脂、ジイソシアネートとポリエーテルジオールとの反応性プレポリマー、活性水素含有樹脂とポリイソシアネートとの混合接着剤、紫外線、電子線硬化型接着剤などを用いることができる。
【0038】
多孔性支持体への塗布時の接着剤の粘度としては、200〜3000cpsが好ましく、さらに好ましくは300〜1500cpsである。200cpsよりも低い粘度であると充分な接着性が得られにくく、部分的なラミネート不良が発生し画像再現性が悪化したり、あるいは多孔性支持体に浸透し過ぎてラミネーターのロールを汚す場合がある。
逆に、3000cpsよりも粘度が高いと多孔性支持体の開孔部を接着剤が塞ぎ印刷物に白抜けが発生したり、多孔性支持体でも表面強度が不足するようになり、例えば、薄葉紙からの繊維の脱離による不都合が発生する。接着剤の塗布量としては通常0.03〜5.0/m2、好ましくは0.05〜1.5g/m2、さらに好ましくは0.1〜1.0/m2である。
【0039】
次に本発明を図1〜図5に基づいて具体的に説明する。
本発明における多孔性樹脂膜とは、溶剤に溶かした樹脂を析出させる等により形成する多孔性の膜で、フィルム上にフィルムを床に例えると図1の多数の天井のあるセルの集合体、図2のハニカム状のセルの集合体、図3の連泡状セルの集合体からなる泡状皮膜、図4の粒形状の樹脂がくっつきあってできている集合体状皮膜などによって形成される膜を意味している。
上記した多孔性樹脂膜の空隙部分2の開孔径のバラツキは従来の繊維よりなる多孔性支持体の開孔径に比べ均一であり、インキ分散性が優れ高画質、特にベタ埋りの優れた印刷物を得る事ができる。
【0040】
また多孔性繊維膜とは、図5に示すような繊維状物質が多数重なり合うことで形成される多孔性の膜を意味している。この多孔性繊維膜は従来の孔版印刷用原紙の多孔性支持体と同じ構造であり、多孔性樹脂膜に比べ開孔径の均一性は劣るものの機械的な強度が得られやすいという特徴がある。
【0041】
次に、本発明における各物性の測定方法を説明する。
<測定方法>
(1)熱収縮率測定方法
10mm×100mmに切り出したフィルムを100℃に保ったオーブンにて3分間熱処理した後の長さを測定し、元寸法に対する収縮量を百分率で表す。
(2)原紙ヨコ方向の伸度2%における引張強度(N/m)
23℃、相対湿度50%の環境下にて原紙をヨコ方向に片刃かみそりでカットして、幅15mm、長さ200mmのサンプルを10枚採取する。該サンプルをShimadzu AUTOGRAPH AGS−50Aに試験長5cmで把持し、試験速度3mm/minで破断まで引張り、荷重一伸び線図を記録計に記録する。荷重一伸び線図の伸度2%(伸び量で0.5mm)における引張荷重をN/mに換算し、サンプル数10枚の平均強度を求めた。なお、伸度は原紙の伸びを試験長で除した値である。
(3)平滑度
本発明における王研式表面平滑度計による表面平滑性の測定方法は、JapanTappiNo.5に定められている方法に基づくものであり、本来は紙等の表面の平滑性を簡便に測定するものである。
この測定方法について簡単に述べると、表面平滑度が極めて高い底面を有するリングを被測定物上に一定荷重で置き、リングの内側(内と外は遮断されている)から一定圧下で一定量の空気が外に通過する時間(秒)で表面性を表わすものである。
【0042】
【実施例】
以下、本発明を実施例、比較例に基づいて具体的に説明する。尚、部、%は重量基準である。
【0043】
実施例
[多孔性樹脂膜形成用塗布液1]
ポリビニルブチラール樹脂(軟化点87℃) 4部
(電気化学工業社製PVB3000−2)
エチルアルコール 35.5部
水 11.5部
針状珪酸マグネシウム 0.8部
(水沢化学社製品工一ドプラスSP)
ポリビニルブチラール樹脂をエチルアルコール及び水の混合液中に溶解後、針状珪酸マグネシウムを添加し、ボールミルで十分分散混合して上記処方多孔性樹脂膜形成用塗布液1を得た。
この塗布液1を用いて、厚さ2.0μm、ヨコ方向の熱収縮率15%の2軸延伸ポリエステルフィルム上に塗工し、50℃にて乾燥して固形分付着量が3.0g/m2の多孔性樹脂膜を得た。
【0044】
以下各実施例及び比較例のそれぞれのフィルムに対し上記と同様にして多孔性樹脂膜を得、接着剤を用いて湿式抄紙法により得られた表1に示す多孔性繊維膜と接着した。
また、フィルム面には熱融着防止剤として東レダウコーニング製のシリコンオイルSF−8422を0.01g/m2、帯電防止剤として日本油脂杜製エレガン264A(第4級アンモニウム塩系の帯電防止剤)を0.01g/m2塗布し、それぞれの感熱孔版印刷用原紙を作成した。
【0045】
【表1】
【0046】
<評価方法及び評価基準>
(1)原紙しわ
機械は(株)リコー社製JP5000を用い、250mmx250mmのベタ製版、印刷を行い画像にしわが発生するか否かの観察を行った。更にドラム上での目視によるしわの有無の確認も行った。
原紙しわ ○:しわ無し、△:印刷ドラム上には若干あるが画像に影響なし、×:しわ有り。
(2)印刷立上り
印刷立上りは、ドラムに原紙を巻きつけ後、目視にて画像が立ち上がった枚数により評価した。
(3)穿孔性
別途製版した版のみを取り出し、顕微鏡観察にてフィルムの穿孔の様子も観察した。
穿孔性 ○:良好(99%以上)、×:不穿孔部分多い
【0047】
各実施例及び比較例の感熱孔版印刷用原紙について、フィルムのヨコ方向の熱収縮率、原紙のヨコ方向伸度2%における引張強度、原紙フィルム面の平滑度、及び上記評価結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
【発明の効果】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に多孔性樹脂膜を有し、更にその表面に少なくとも1層以上の多孔性繊維膜を積層してなる感熱孔版印刷用原紙において、該原紙のヨコ方向の伸度2%における引張強度を100〜270N/mとし、かつ該熱可塑性樹脂フィルムのヨコ方向の熱収縮率(100℃、3分)を3〜15%としたことにより、印刷機上での搬送時のしわの発生がなく、サーマルヘッドによる穿孔性に優れ、しかも印刷立上り性にも優れるという作用効果を有する。
また、上記原紙においてフィルム面の平滑度(王研式平滑度測定による)を10000秒以上とすることにより、しわの発生の抑制効果がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の感熱孔版印刷用原紙の多孔性樹脂膜の構造を示す図である。
【図2】本発明の感熱孔版印刷用原紙の多孔性樹脂膜の他の構造を示す図である。
【図3】本発明の感熱孔版印刷用原紙の多孔性樹脂膜の別の構造を示す図である。
【図4】本発明の感熱孔版印刷用原紙の多孔性樹脂膜のさらに別の構造を示す図である。
【図5】本発明の感熱孔版印刷用原紙の多孔性樹脂膜の構造を示す図である。
【符号の説明】
1:熱可塑性樹脂フィルム
2:多孔性樹脂膜を構成する皮膜部分
3:多孔性樹脂膜を構成する空隙部分
4:多孔性繊維膜を構成する繊維状物質
5:多孔性繊維膜を構成する空隙部分
Claims (2)
- 熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面上に多孔性樹脂膜を有し、更にその表面に少なくとも1層以上の多孔性繊維膜を積層してなる感熱孔版印刷用原紙において、前記原紙のヨコ方向の伸度2%における引張強度が100〜270N/mであり、前記熱可塑性樹脂フィルムを100℃で3分間熱処理した場合のヨコ方向の熱収縮率が3〜15%であることを特徴とする感熱孔版印刷用原紙。
- 前記原紙の熱可塑性樹脂フィルム面の王研式平滑度測定による平滑度が10000秒以上であることを特徴とする請求項1記載の感熱孔版印刷用原紙。
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