JP3855587B2 - 熱記録媒体、追記型情報記録要素、記録方法、情報の読み出し方法、有機エレクトロルミネッセンス素子の多色化方法、温度測定方法及び不可逆性温度マーカー - Google Patents
熱記録媒体、追記型情報記録要素、記録方法、情報の読み出し方法、有機エレクトロルミネッセンス素子の多色化方法、温度測定方法及び不可逆性温度マーカー Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、与える熱に応じて蛍光波長が(熱の関数として連続的にまたは熱エネルギーが域値を越えた場合に段階的に)変化しかつ変化後の状態が安定で不可逆な熱感応性化合物またはそれを含有する組成物に関し、さらに詳しくは、該熱感応性化合物を含有する記録媒体、記録要素およびその記録方法、再生方法に関し、また別の利用分野としては、該熱感応性化合物を含有する有機エレクトロルミネッセンス素子およびその多色化方法さらに該熱感応性化合物を含有する温度マーカーに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
〈光記録媒体〉
従来、有機化合物を用いた光記録媒体は多数提案されているが、これらの記録媒体による記録原理は、ヒートモードレーザー光線をレンズで集光し、色素がその光を吸収して生じる熱によるビット形成など記録媒体の形状変化に基づいているものが多い。そのためその変化を吸収できるスペーシング層を設けることが必要になり、記録媒体の構造が複雑となる欠点がある。またその原理からみて記録密度、信頼性、高速記録といった面にも制約が生じてくる。
【0003】
即ち、光記録媒体上の記録層にレーザーを照射し、照射部分を局部的に加熱し、融解、蒸発、昇華または分解等の物理的あるいは化学的変化を起こさせるには、大きな熱エネルギー、即ち高出力のレーザー照射が必要であり、そのため高速記録、たとえば回転数1800rpm以上での記録では感度が著しく低下してしまう。また、物理的あるいは化学的変化による形状の変化により記録ピットが形成されるため、ピットの形状の不均一性は避けられず、そのためピットの非対称性等に由来する時間分解能が十分でなく、さらに微小ピットの形成も満足なものではなく、高密度記録に十分対応できるとは言い難い。また、ピットの形成を伴わない結晶−非晶質相変化を利用した光記録媒体の場合には、記録膜が結晶質になる必要があり、そのため結晶粒界等が発生しやすくなりノイズ、エラーの原因になり易い等の問題点がある。
【0004】
また、フォトンモードのレーザー光線で書き込みあるいは読み出しをするフォトクロミズムを利用した方法なども知られているが、保存性が悪いなどの問題を包含し未だ満足すべきものが得られていないのが現状である。具体的にはスピロピラン等のフォトクロミック化合物を用いたもの(特開昭59−227972号公報等)、液晶高分子と色素との混合物を用いたもの(特開平2−136289号公報等)などが提案されているが、記録状態での安定性や記録・消去の繰り返し性が良くなく、また、読みだし破壊等の問題があり、未だ実用段階に至っていない。
【0005】
一方、高密度記録の観点から有機蛍光物質を利用した光(熱)記録媒体も近年注目されている。
【0006】
有機蛍光物質を使った光(熱)記録−再生方法としては、特開平5−50757号に記載された蛍光色素に吸収波長領域の波長の光を照射することで、該蛍光色素を破壊し光照射部の蛍光発光強度を低下させることにより未変化の部分との蛍光発生量の差を利用した方法、特開平8−6204号に記載されたDNAまたはRNAに代表される核酸と蛍光色素を共存させ、そこに光を照射することで蛍光波長が変化することを利用した方法、特開平7−254153号に記載された平面性の高い有機化合物を蒸着した薄膜にレーザー光を照射することにより化合物の結晶−非晶質転移を起こしその結果として蛍光強度に差が生じることを利用した方法等が知られている。
【0007】
一般に蛍光発光の検出は非常に感度が良好で、化合物の超微量分析にも適用されているものであるが、上記特許に記載されている化合物をはじめ、通常の有機蛍光色素は熱または光に対する堅牢性が極めて低く、実用に供しないのが実状であった。
【0008】
〈有機エレクトロルミネッセンス素子の多色化方法〉
有機エレクトロルミネッセンス素子は、次世代のフラットパネルディスプレイとして注目されている発光素子の一つであり、材料が有機化合物であることから分子設計が容易で青〜赤まで多彩な発光色を再現できることが特徴である。しかしながら有機エレクトロルミネッセンス素子は、電子輸送層や正孔輸送層、発光層等の機能を分離した層を多層積層する構成を採るため、特にフルカラーディスプレイにするためには、基本的には赤、緑、青それぞれの画素ごとに積層構成の素子を作製する必要があり、製造上大きな問題となっている。
【0009】
このような状況から、より簡便な多色化方法が提案されている。例えば、エレクトロルミネッセンス発光する発光素子自体は青色に発光するものを作製し、その上に青色を受けて緑色に発光する色変換層および青色を受けて赤色に発光する色変換層を載せて多色化(特開平3−152897号)する方法や、発光層にあらかじめルブレンのようなドーパントを全面に添加しておき、酸素存在下(大気中下)で部分的に光照射(レーザー光等)することにより該ドーパントを失活させ、その後真空封止を施して素子化するといういわゆる「フォトブリーチング法」と呼ばれる多色化方法((株)エヌ・ティー・エス発行(1998年)「有機EL素子とその工業化最前線」第118ページ、同第185ページ、城戸ら:第44回応用物理学関係連合講演会講演予稿集、第1156ページ(1997年)等に詳しく記載)等が考案されている。
【0010】
両方法とも、従来の、画素ごとに積層構造を作製してゆく方法よりは製造の観点から有利であるものの、前者は青色から赤色への変換効率が低いこと、後者は有機層を積層した後で発光色を変化させることができる非常に優れた方法であるが、光照射した後の分解物が発光物質の発光特性や寿命を劣化させてしまうことが大きな問題として残っているのが現状であり、実用には供していない。
【0011】
〈不可逆性温度マーカー〉
化学物質を使用してある場所の最高到達温度を計測する比色系温度マーカー(特開平7−151613号、同8−43214号等)が実際に市販されている。しかしそれらは何れも色素の融点を利用したものであり、具体的にはある域値温度を越えた時に色素が溶融し、その溶融した色素を濾紙のような吸着性のある媒体に吸着させ、吸着した色素の拡散度合いから最高到達温度を見積もるもの(例えばスリーエムヘルスケア(株)社製モニターマークや、日油技研工業株式会社製サーモラベル、クールモニター等)であったり、単に示温物質が溶融するかどうかを判定することにより到達温度を計測する(例えば日油技研工業社製サーモクレヨン−M等)ものであった。即ち、溶融を利用する方式では原理上1つのマーカーでそのマーカーに含まれる示温物質の融点よりも高いか低いかしか計測することができず、対象物の温度がおよそ何度であるかを計測するには複数のマーカーを組み合わせて使用せざるを得ないという問題があった。特に100℃以上の高温用としては他のよい方式がないため、結局溶融方式を採用せざるを得ず、その場合1つのマーカーで温度を測定することができないのが現状である。
【0012】
しかしながら、ニーズの多用化している昨今では、1つのマーカーで高温領域まで簡便に温度をチェックできるものも望まれている。例えば、工場や製造ライン等に設置された大型機器類の局所温度測定や、自動車や電車、船舶等のエンジン、ブレーキ、車軸およびその付随機器の局所温度、さらには蒸着装置内の蒸着ボートやICやLSI等の電子部品の接点部などの微小部分の温度測定等が挙げられる。この様な高温領域においても1つのマーカーで温度測定の可能な不可逆性温度マーカーの開発が望まれている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の第1の目的は、比較的小さな熱エネルギー、即ち比較的弱いヒートモードレーザー照射で高速に記録することが可能で、かつ分解能の高い熱記録媒体を提供することである。
【0014】
本発明の第2の目的は、有機エレクトロルミネッセンス素子において有機層を積層した後にレーザー光等の微小領域での熱エネルギー供与が可能な手段を用い、夾雑物を生成することなく多色化を実現する方法を提供することである。
【0015】
本発明の第3の目的は、小面積でかつ100℃以上の高温領域で温度計測が可能な不可逆性温度マーカーを提供することである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、鋭意検討の結果、与えられた熱に応じて分子の異性化が起こり、その結果として蛍光波長が変化し、かつその変化が実質的に不可逆である一連の化合物群を見つけ出すことに成功し、その化合物およびその化合物を含む組成物を使用することによって上記3つの目的を達成するに至った。
【0017】
即ち、下記のような構成にて上記目的を達成できることを見出した。
【0029】
1.与えられた熱に応じて分子の異性化が起こり、その結果として蛍光波長が変化し、かつその変化が実質的に不可逆である、分子内に複数個の内部回転異性を付与しうる結合軸をもつビアリール基を有する熱感応性有機化合物の組成物を含有する熱記録媒体。
【0030】
2.下記一般式(A1)で表される、分子内に複数個の、内部回転異性を付与しうる結合軸を有するビアリール基を含有するトリアリールアミン化合物を含有することを特徴とする熱記録媒体。
【化C】
[式中、Ar 11 ,Ar 12 およびAr 13 はアリール基を表し、かつAr 11 ,Ar 12 ,Ar 13 のうち少なくとも2つは、内部回転異性を付与しうる結合軸をもつビアリール基を有する置換基である。]
3.与えられた熱に応じて分子の異性化が起こり、その結果として蛍光波長が変化し、かつその変化が実質的に不可逆である、分子内に複数個の内部回転異性を付与しうる結合軸をもつビアリール基を有する熱感応性有機化合物の組成物を含有する追記型情報記録要素。
【0031】
4.上記一般式(A1)で表される、分子内に複数個の、内部回転異性を付与しうる結合軸を有するビアリール基を含有するトリアリールアミン化合物を含有することを特徴とする追記型情報記録要素。
【0032】
5.前記1又は2に記載された熱記録媒体にレーザー光で情報を書き込むことを特徴とする記録方法。
【0033】
6.前記1又は2に記載された熱記録媒体に書き込まれた情報を蛍光発光により読みとることを特徴とする情報の読み出し方法。
【0037】
7.少なくとも2つの電極間に、与えられた熱に応じて分子の異性化が起こり、その結果として蛍光波長が変化し、かつその変化が実質的に不可逆である、分子内に複数個の内部回転異性を付与しうる結合軸をもつビアリール基を有する熱感応性有機化合物の組成物を含有する少なくとも1種の有機化合物層を挟持する有機エレクトロルミネッセンス素子の発光波長を該組成物に熱を与えることにより変化させることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の多色化方法。
【0039】
8.熱の供給手段がレーザー光線であることを特徴とする前記7記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の多色化方法。
【0040】
9.与えられた熱に応じて分子の異性化が起こり、その結果として蛍光波長が変化し、かつその変化が実質的に不可逆である、分子内に複数個の内部回転異性を付与しうる結合軸をもつビアリール基を有する熱感応性有機化合物の組成物を含有する物体を不可逆性温度マーカーとして使用し、その蛍光波長変化により該物体が存在した場所の温度を測定することを特徴とする温度測定方法。
【0041】
10.シートまたはペレット中に、与えられた熱に応じて分子の異性化が起こり、その結果として蛍光波長が変化し、かつその変化が実質的に不可逆である、分子内に複数個の内部回転異性を付与しうる結合軸をもつビアリール基を有する熱感応性有機化合物の組成物を含有することを特徴とする不可逆性温度マーカー。
【0042】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明において、与えられた熱に応じて起こる分子の異性化は、熱の関数として連続的に起こってもよいし、または熱エネルギーが域値を越えた場合に段階的に起こってもよい。
【0043】
本発明において、分子の異性化とは、分子中に新たな結合形成や結合の切断が起こることなしに、分子状態が変化することを言い、具体的には熱による内部回転異性体の異性化や、シス−トランスの異性化、syn−antiの異性化等が挙げられるが、本発明で最も適している異性化は、熱による内部回転異性体の異性化(置換基の回転障害が熱的に緩和され自由回転することに起因する異性化)である。
【0044】
本発明において、蛍光波長の変化とは、任意の波長の励起光を照射した際に熱を与える前と与えた後とで、その蛍光発光の発光極大波長が5nm以上変化することを意味し、その蛍光波長測定条件は、固体状態でも薄膜状態でも結晶状態でも分散状態でもよく、それらの何れかの状態で5nm以上変化すればよいが、希薄溶液状態ではその変化が認められない場合があるので好ましくない。
【0045】
本発明において、蛍光波長の変化が実質的に不可逆であるとは、ある熱量を加えて変化させた蛍光波長または蛍光スペクトルの波形が、50℃で24時間保存した際に、熱供与前の蛍光波長にもどらず(蛍光スペクトルの波形がもとの状態に戻らない)かつ、1000ルクスの照明下24時間保存しても熱供与前の蛍光波長にもどらないものであることを意味する。
【0046】
本発明において、分子内の複数箇所で異性化を起こす分子とは、例えばその異性化が熱による内部回転異性体の異性化(置換基の回転障害が熱的に緩和され自由回転することに起因する異性化)の場合、分子内に2つ以上の、内部回転異性を付与しうる結合軸をもつ置換基があれば特に制限はなく、「内部回転異性を付与しうる結合軸」とは、例えば下記1,1′−ビナフチルのナフタレン核とナフタレン核をつなぐ結合軸のように、常温常圧下において立体障害により360度の自由回転ができないような結合軸のことを意味し、便宜的にはCPK模型を組んだ際に360度の自由回転ができなければその結合軸は「内部回転異性を付与しうる結合軸」であると言うことができる。
【0047】
【化2】
【0048】
また、「内部回転異性を付与しうる結合軸」を有する化合物には異性体が存在し、その異性体を「アトロプ異性体」または「内部回転光学異性体」(化学大辞典 第6巻 第588頁 共立出版)というが、逆に言うと「内部回転異性を付与しうる結合軸」をもつ化合物(または置換基)とは「アトロプ異性体」または「内部回転光学異性体」が存在する化合物(または置換基)と言い換えることもできる。
【0049】
本発明において、特に断りのない限り、アリール基は芳香族炭化水素(例えばフェニル、ナフチル、アントリル等)系でも、芳香族複素環(例えばキノリル、ピリジル、チエニル、ベンゾイミダゾリル、インドリル等)系でもどちらでもよく、さらに任意の置換基によって置換されていてもよく、さらに飽和または不飽和の環で縮合環を形成していてもよいものと定義する。
【0050】
本発明において、ビアリール基とは、前記アリール基が2つ結合手を介して直接結合(連結基を介することなしに直接結合)した基を示し、1価でも、また多価であってもよく、結合する2つのアリール基は同一であっても異なっていてもよい。
【0051】
以下に「内部回転異性を付与しうる結合軸を持つビアリール基」を有する置換基の基本骨格(図で示す化合物から任意の位置の水素原子を取り除いたものが置換基となる。また、その基本骨格はさらに置換基によって置換されていても良く、さらに縮合環を形成してもよい。)の一例を示すが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
【化3】
【0053】
【化4】
【0054】
なお、構造式中のR101〜R136で表される置換基は、Taftの立体的パラメータEs値(Unger,S.H.,C.:Prog.Phys.Org.Chem.12,91(1976)および「薬物の構造活性相関−ドラッグデザインと作用機構研究への指針」化学の領域増感122号 南江堂社刊 第124〜126ページ)が−1.00よりも小さい置換基を表し、例えば臭素原子、ヨウ素原子、メチル基、エチル基、プロピル基等の直鎖アルキル基、イソプロピル基、tert−ブチル基等の分岐アルキル基、シクロペンチル基、シクロブチル基等の環状アルキル基、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基、ピリジル基、イミダゾリル基、フリル基等の複素環基、ニトロ基、メルカプト基等が挙げられる。
【0055】
本発明において、内部回転異性を付与しうる結合軸を持つビアリール基のうち特に好ましいものは、1,1′−ビナフチル部分を有するアリール基である。1,1′−ビナフチルは前に示したが、該1,1′−ビナフチル部分を有するアリール基とは、
▲1▼1,1′−ビナフチルの任意の位置から水素原子を1つ取り除いた基、
▲2▼1,1′−ビナフチルから任意の数(m)の水素原子を取り除いた1,1′−ビナフチル残基に(m−1)個のそれぞれ独立した任意の置換基を置換した置換1,1′−ビナフチル基、
▲1▼またはアリール基の任意の位置に前記▲1▼および/または▲2▼の置換1,1′−ビナフチル基が置換したアリール基を表す。
【0056】
本発明において、ジアステレオ異性体とは、複数個の、内部回転異性を付与しうる結合軸を持つビアリール基をもつ化合物において、その化合物の内部回転異性体でありながら鏡像関係にないものを意味し、例えば便宜上3つの、内部回転異性を付与しうる結合軸を持つビアリール基、をそれぞれBA1,BA2およびBA3とした場合その化合物をBA1−BA2−BA3と表すことにすると、例えばその化合物の、内部回転異性を付与しうる結合軸をもつビアリール基、が3つともR配置の時を、BA1(R)−BA2(R)−BA2(R)という略称で示すものとする。この場合、BA1(R)−BA2(R)−BA2(R)の鏡像体は、BA1(S)−BA2(S)−BA3(S)になり、その鏡像体以外の内部回転異性体BA1(S)−BA2(R)−BA3(R)やBA1(S)−BA2(S)−BA3(R),BA1(S)−BA2(R)−BA3(S),BA1(R)−BA2(R)−BA3(S),BA1(R)−BA2(S)−BA3(R),BA1(R)−BA2(S)−BA3(S)は全てジアステレオ異性体(ジアステレオマー)と言うことになる。
【0057】
本発明において、ある有機化合物を含有する組成物とは、ある有機化合物単独でも、ある有機化合物を分散した状態でも、ある有機化合物をハイブリッドした状態でも、ある有機化合物をコンポジットした状態でもよく、ある有機化合物がある機能発現のために用いられる場合を(多少なりとも混合されている場合も含め)「組成物」として定義する。
【0058】
本発明において、有機薄膜とは、前記の組成物を膜状にしたもののことを示し、好ましくは0.1nm〜10mmの膜厚の膜状物を意味し、さらに好ましくは、10nm〜100μmの膜状物を意味する。
【0059】
次に、本発明の記録媒体の作製方法、および記録媒体に関する付加的構成について説明する。本発明の記録媒体は、基板上に、必要に応じて下引き層を介して、記録層を形成し、さらに必要に応じて反射層及び/又は光熱変換層、保護層、基板表面ハードコート層を形成することにより作製することができる。
【0060】
記録層には、光や熱などの外部エネルギーの付与効率の向上、光エネルギー付与の際の波長整合性、レーザ光吸収による発熱性向上などのために、光熱変換色素を添加してもよい。そのような色素としては、例えばポリメチン色素、ナフタロシアニン系、フタロシアニン系、スクアリリウム系、コロコニウム系、ピリリウム系、ナフトキノン系、アントラキノン(インダンスレン)系、キサンテン系、トリフェニルメタン系、アズレン系、テトラヒドロコリン系、フェナンスレン系、トリフェノチアジン系、アゾメチン系などの染料、および金属錯体化合物などが挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、2種以上の組合わせて用いてもよい。
【0061】
また、記録層中に金属や金属化合物、例えばIn、Te、Bi、Al、Be、TeO2、SnO、As、Cd、Fe、Cu、Cr、Ag、Au、Ptなどを分散混合して、あるいはこれらを記録層の上下に積層する形態で用いることもできる。
【0062】
さらに、記録層中に高分子材料、例えばアイオノマー樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニル系樹脂、天然高分子、シリコーン、液状ゴムなどの種々の材料、もしくはシランカップリング剤などを分散混合して用いてもよいし、あるいは特性改良の目的で、安定剤(例えば遷移金属錯体)、分散剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、可塑剤などと一緒に用いることができる。
【0063】
本発明の有機薄膜は、スピンコート法やキャスト法、スプレー法、ローラーコーティング法、蒸着法、CVD法、LB法、水面展開法、電解法さらにはグラビア印刷やシルク印刷法等の公知の方法で形成することができる。
【0064】
薄膜形成のために塗布法を用いる場合には、本発明の化合物の分散状態をつくるための他分子、例えばポリメタクリル酸エステルまたはポリスチレン誘導体、および必要により添加される上記補助剤を有機溶媒に溶解させて、スプレー、ローラーコーティング、ディッピングあるいはスピンコーティングなどの慣用のコーティング法によって、その溶液を基板上あるいは下引き層上に塗布し乾燥させて記録層を形成すればよい。
【0065】
有機溶媒としては、一般にメタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなとのケトン類、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、四塩化炭素、トリクロロエタンなどの脂肪族ハロゲン化炭素類、あるいは、ベンゼン、キシレン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの芳香族類、メトキシエタノール、エトキシエタノールなどのセルソルブ類、ヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素類などを用いることができる。
【0066】
記録媒体に用いる基板材料としては、例えばポリエステル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミドなどのプラスチック、あるいはガラス、セラミック、金属などを挙げることができる。基板に必要な特性としては、基板側より記録・再生を行う場合は使用レーザ光に対して透明でなければならず、記録層側から記録・再生を行う場合は透明である必要はない。また、基板の表面にはトラッキング用の案内溝や案内ビット、さらにアドレス信号などのプレフォーマットが形成されていてもよい。
【0067】
下引き層は、a)接着性の向上、b)水またはガスなどのバリアー、c)記録層の保存安定性の向上、d)反射率の向上、e)溶剤からの基板の保護、f)案内溝・案内ビット・プレフォーマット等の形成などを目的として使用されるものであり、a)の目的に対しては高分子材料、例えばアイオノマー樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル系樹脂、天然樹脂、天然高分子、シリコーン、液状ゴムなどの種々の高分子物質、およびシランカップリング剤などを用いることができ、b)およびc)の目的に対しては、上記高分子材料以外に無機化合物、例えばSiO2、MgF2、SiO、TiO2、ZnO、TiN、SiNなど、或いは金属または半金属、例えばZn、Cu、Ni、Cr、Ge、Se、Au、Ag、Alなどを用いることができる。またd)の目的に対しては金属、例えばAl、Ag等や、金属光沢を有する有機薄膜、例えばメチン染料、キサンテン系染料等を用いることができ、e)およびf)の目的に対しては紫外線硬化樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等を用いることができる。下引き層の膜厚としては、0.01〜30μmが好ましく、特に0.05〜10μmが好ましい。
【0068】
保護層または基板表面ハードコート層は、a)傷、ホコリ、汚れ等からの記録層の保護、b)記録層の保存安定性の向上、c)反射率の向上などを目的として使用されるものであり、前記下引き層の材料として示した材料を用いることができる。また無機材料として、SiO、SiO2なども用いることができ、有機材料として、ポリメチルアクリレート、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂、セルロース、脂肪族炭化水素樹脂、芳香族炭化水素樹脂、天然ゴム、スチレン−ブタジエン樹脂、クロロプレンゴム、ワックス、アルキッド樹脂、乾性油、ロジン等の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂なども用いることができる。上記材料のうち保護層または基板表面ハードコート層に最も好ましい物質は、生産性に優れた紫外線硬化樹脂である。保護層または基板表面ハードコート層の膜厚としては、0.01〜30μmが好ましく、特に0.05〜10μmが好ましい。
【0069】
なお、下引き層、保護層または基板表面ハードコート層には、記録層の場合と同様に、安定剤、分散剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、可塑剤等を含有させることができる。
【0070】
反射層には単体で高反射率の得られる、腐食されにくい金属、半金属等を用いることができ、材料例としてはAu、Ag、Cu、Cr、Ni、Alなどが挙げられ、特にAu、Alが好ましい。これらの金属、半金属は単独で使用してもよく、2種以上の合金として使用してもよい。膜形成方法としては、蒸着、スパッタリングなどが挙げられ、膜厚としては5nm〜300nmが好ましく、特に10nm〜100nmが好ましい。
【0071】
光熱変換層は、記録層(本発明の化合物を含有する層)に隣接する層に用いることが好ましく、材料としてはAu、Ag、Cu、Cr、Ni、Al、Fe、Cu、Pt、Co、Znなどの金属、および/またはレーザ光の発光波長に吸収吸収を持つ色素を添加してもよい。そのような色素としては、例えばポリメチン色素、ナフタロシアニン系、フタロシアニン系、スクアリリウム系、コロコニウム系、ピリリウム系、ナフトキノン系、アントラキノン(インダンスレン)系、キサンテン系、トリフェニルメタン系、アズレン系、テトラヒドロコリン系、フェナンスレン系、トリフェノチアジン系、アゾメチン系などの染料が挙げられる。
【0072】
次に、本発明における情報記録の具体的な手段について説明する。本発明において、蛍光波長変化を起こさせるには熱エネルギーを用いる。熱エネルギーを与える手段としては、レーザー光やサーマルヘッドなどを用いることができる。高密度記録にはスポット径を小さくできるレーザー光が有利である。なお、レーザー光を効率よく有機色素分子に吸収させるためには、前記の如く一般にレーザー波長に吸収を持つ光吸収層、光熱変換層などを設けることが好ましい。また、サーマルヘッドは分解能は大きくないが、大きな面積を加熱する場合および透明な物質を加熱する場合に都合がよく、表示記録媒体に好適である。
【0073】
これらの加熱方法は一般に記録操作で用いられるが、本発明の化合物を用いた記録媒体を必要に応じて消去することも可能である。消去の方法は、記録された部分を再加熱しそれを急冷することにより最初の加熱されていない蛍光波長の状態に近づけることができる。消去操作には記録媒体を一度に加熱できる熱板プレス法やロール法などが好ましいがレーザー光を用いても構わない。さらに、加熱された記録媒体を冷却するには自然放熱してもよいが、冷板プレス法、ロール法、または冷気流により急冷する方法が好ましい。
【0074】
本発明では、ある波長領域での蛍光強度を検出して記録媒体に記録された情報を出力することができるが、励起光と蛍光との波長が異なるため、蛍光強度の測定感度(記録の読み出し感度)を高くすることができる。しかも、蛍光は発光領域が小さくても四方に放射されるため、記録領域を極めて小さくすることができ、高密度記録に適する。例えば最近では、分子1個からの蛍光発光も測定されており、原理的に分子サイズ近くまでの超高密度記録も可能である。さらに蛍光の検出に当って、検出手段の厳密な位置制御が不要となり、ひいてはシステムの小形化が可能となる。またEL強度を検出して情報を出力する場合は、単に情報記録媒体に所定の電界を印加するだけで自己発光を示すので、光源の別設などが不要となる。
【0075】
いずれにおいても、反射率や吸収率の違いを検出する方法と異なり、膜厚を特に厳密に制御する必要はなく、作製プロセス上も有利である。
【0076】
さらに本発明の化合物の中には、与えられた熱により約100nmくらい蛍光波長が変化するものがある。それらは与える熱量により連続的に波長が変化するため、検出側の操作によりon−offの2値ばかりでなく多値の記録再生も可能である。当然のことながら、そのような多値記録は記録密度を著しく増加させることができる優れた性能である。
【0077】
次に、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の作製方法について説明する。
【0078】
本発明でいうエレクトロルミネッセンス素子とは、基盤上に(エレクトロルミネッセンス材料と、)エレクトロルミネッセンス材料を含有する層を挟んで一対の対向電極を有する素子をいう。
【0079】
本発明におけるエレクトロルミネッセンス素子は、必要に応じて電子注入層や、正孔注入層を介在させてもかまわない。
【0080】
本発明のエレクトロルミネッセンス素子に好ましく用いられる基盤は、ガラス、プラスチックなどの種類には特に限定はなく、また、透明のものであれば特に制限はない。本発明のエレクトロルミネッセンス素子に好ましく用いられる基盤としては例えばガラス、石英、光透過性プラスチックフィルムを挙げることができる。
【0081】
光透過性プラスチックフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。
【0082】
本発明のエレクトロルミネッセンス素子は、本発明の化合物および/またはそれを含有する組成物を発光層に用いることが好ましいが、公知の発光材料と併用してもかまわない。具体的には例えば「有機EL素子とその工業化最前線」1998年11月30日(株)エヌ・ティー・エス発行(以下、文献Aということもある)の第1編第3章(第35頁〜第51頁)に記載されている低分子系発光材料、同文献Aの第1編第4章(第55頁〜第79頁)に記載されている色素ドープ材料、同文献Aの第1編第5章(第81頁〜第100頁、第178頁〜第189頁、第192頁〜第212頁)に記載されている高分子系材料などを挙げることができる。また、これらの文献中の引用文献に挙がっている化合物も同様に使用することができる。
【0083】
エレクトロルミネッセンス素子は通常2つの電極間に単層または複数の層を含有して構成され、該構成層としては前記発光層の他に正孔注入層(または電荷注入層、ホール注入層、電荷輸送層、ホール輸送層ともいう)、電子注入層(または電子輸送層ともいう)等が挙げられる。
【0084】
前記、正孔注入層および電子注入層は必要に応じてさらに積層構造をとっていてもよく、例えば、陽極/第1正孔注入層/第2正孔注入層(正孔輸送層)/発光層/第2電子注入層(電子輸送層)/第1電子注入層/陰極のような層構成を取ってもよい。
【0085】
以下に本発明におけるエレクトロルミネッセンス素子の層構成の例を示す(ただし、上記の如く複数の正孔注入層および/または電子注入層についての記載は省略するが、当然それらが複数の化合物を重ねてなる積層構造を形成していても良い。)。
【0086】
(1)基板/陽極/発光層/陰極
(2)基板/陽極/正孔注入層/発光層/陰極
(3)基板/陽極/発光層/電子注入層/陰極
(4)基板/陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
ここで、各素子はさらに各素子の外側を基板で覆っても良い。なお、陽極と発光層または正孔注入層の間、および、陰極と発光層または電子注入層との間にはバッファー層(電極界面層)を存在させてもよい。
【0087】
バッファー層とは、駆動電圧低下や発光効率向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、文献Aの第2編第2章「電極材料」(第123頁〜第166頁)に詳細に記載されており、陽極バッファー層と陰極バッファー層とがある。
【0088】
陽極バッファー層としては、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
【0089】
陰極バッファー層としては、ストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。
【0090】
上記バッファー層はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるが、その膜厚は0.1〜100nmの範囲が好ましい。
【0091】
発光層、正孔注入層、電子注入層又はバッファー層を形成する方法としては、例えば蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法などの公知の方法により薄膜化することにより形成することができる。
【0092】
また、この発光層は、特開昭57−51781号公報に記載されているように、樹脂などの結着材と共に上記発光材料を溶剤に溶かして溶液としたのち、これをスピンコート法などにより薄膜化して形成することができる。このようにして形成された発光層の膜厚については特に制限はなく、状況に応じて適宜選択することができるが、5nm〜5μmの範囲で用いられることが好ましい。
【0093】
このエレクトロルミネッセンス素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としてはAuなどの金属、CuI、インジウムティンオキシド(ITO)、SnO2、ZnO、亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)などの導電性透明材料が挙げられる。該陽極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリングなどの方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。
【0094】
この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また、陽極としてのシート抵抗は103Ω/□以下が好ましい。陽極の膜厚は材料によって適宜選択できるが、10nm〜1μm程度で用いるのが好ましく、10〜200nmであることが更に好ましい。
【0095】
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV未満)金属(電子注入性金属と称することもある)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、カリウム、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属などが挙げられる。
【0096】
これらの中で、電子注入性及び酸化などに対する耐久性の点から、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物などのように、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きな金属との混合物が好適である。
【0097】
ただし、陰極表面に前記のような陰極バッファー層を塗設して使用する場合には、仕事関数の制限は解除され、例えば特開平11−224783号に記載されているように陰極バッファー層(該特許明細書中では「電子注入層」と称している)にアルカリ金属やアルカリ土類金属のフッ化物を用いることにより、陰極はITOやSnO2、In2O3、ZnO:Al等の通常陽極として使用される仕事関数の大きな物質を使用することもでき、また文献Aの第145頁第15行目〜第28行目に記載されているように、陰極バッファー層としてフッ化リチウム(膜厚0.5〜1μm)を用いることにより、アルミニウムが陰極材料として使用できること、等が知られており、このような陰極バッファー層を用いる場合の陰極材料としては、前記酸化アルミニウム等の金属酸化物やアルミニウムの他、銀、銅、プラチナ、金等の周期律表で「金属」として定義されている元素が使用できる。
【0098】
該陰極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリングなどの方法により、薄膜を形成させることにより作製することができる。さらに、特開平11−8074号に記載されているようなメッキ法によって作製することも可能である。
【0099】
陰極としてのシート抵抗は103Ω/□以下が好ましい。また、陰極の膜厚は10nm〜100μmであることが好ましく、50〜2000nmであることが更に好ましい。
【0100】
なお、発光を透過させるため、電極が透明又は半透明であることが発光効率を向上させ好ましい。
【0101】
ここで、電極が透明又は半透明であるとは400nm〜700nmにおける可視光透過率が20%以上であることを意味し、50%以上であることが好ましい。
【0102】
本発明において必要に応じて設けられる正孔注入層は、陽極より注入された正孔を発光層に伝達する機能を有するものであり、この正孔注入層を陽極と発光層の間に介在させることにより、より低い電界で多くの正孔が発光層に注入される。また、発光層に陰極又は電子注入層より注入された電子と、発光層と正孔注入層の界面に存在する電子の障壁により、発光層内の界面に累積され発光効率が向上するなど発光性能の優れた素子となる。
【0103】
この正孔注入層に用いられる材料(以下、正孔注入材料という)については、前記の機能を有するものであれば特に制限はなく、従来、公知のものの中から任意のものを選択して用いることができる。
【0104】
上記正孔注入材料は、正孔の注入、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。
【0105】
有機の正孔注入材料には、例えば、特開昭63−295695号公報、特開平2−191694号公報、特開平3−792号公報、特開平5−234681号公報、特開平5−239455号公報、特開平5−299174号公報、特開平7−126225号公報、特開平7−126226号公報、特開平8−100172号公報、EP650,955A1号公報等に記載されている各種有機化合物を用いることができる。例えば、フタロシアニン誘導体、テトラアリールベンジシン化合物、芳香族三級アミン、ヒドラゾン誘導体、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、アミノ基を有するオキサジアゾール誘導体、ポリチオフェン等である。これらの化合物は2種以上を併用してもよく、併用するときは別層にして積層したり、混合したりすればよい。
【0106】
正孔注入層を積層して使用する場合(正孔注入と正孔輸送の機能を使い分ける時)は、上記の化合物のなかから好ましい組合せを選択して用いることができる。このとき、陽極(ITO等)側からイオン化ポテンシャルの小さい化合物の層の順に積層することが好ましい。
【0107】
また、陽極表面には薄膜性(製膜性)の良好な化合物(例えば特開平4−308688号等に記載されているスターバースト型化合物等がその代表例である)を用いることが好ましい。
【0108】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、有機層を積層した後にレーザー光やサーマルヘッド等の熱供与手段を用いて発光色の色変化(多色化)を施すため、積層される有機物は熱的に安定なものが好ましく、特にガラス転移点(Tg)が100℃以上のものが好ましい。その観点から、正孔注入材料はフタロシアニン誘導体または無機材料が好ましく、電子注入材料は金属錯体化合物が好ましい。また前記の陽極バッファー層や陰極バッファー層などの使用も好ましい。
【0109】
次に本発明の不可逆性温度マーカーについて説明する。
本発明の不可逆性温度マーカーは、本発明の化合物を含有していれば特に形状や添加状態に制限はないが、形状としてはシート状またはペレット状が好ましく、添加状態は本発明の化合物およびそれを含有する組成物単独か、または無機材料(例えばSiO2、TiO2、ZnO、ゼオライト等)や有機高分子材料(例えばポリメチルアクリレート、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂、セルロース、脂肪族炭化水素樹脂、芳香族炭化水素樹脂、天然ゴム、スチレン−ブタジエン樹脂、クロロプレンゴム、ワックス、アルキッド樹脂、乾性油、ロジン等の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂など)に分散、ハイブリッド、またはコンポジットした状態が好ましい。
【0110】
本発明の不可逆性温度マーカーは、本発明の化合物の他にさらに有色の色素や染料を含有していてもよい。
【0111】
次に本発明に用いられる化合物について説明する。
本発明に用いられる化合物の第1の特徴は、熱によって異性化が起こりその結果として蛍光波長が変化することである。情報記録媒体用の有機化合物としてこれと類似したものが、特開平7−254153号に記載されているが、そこに記載されている化合物は熱によって結晶−非晶質転移を起こし、その際に蛍光強度が変化することを利用しており、化合物の結晶状態変化のみを利用し、異性化を利用していない点で本発明と異なるものである。
【0112】
本発明に用いられる化合物の第2の特徴は、分子の異性化が置換基の回転障害による内部回転異性体の異性化であることである。
【0113】
内部回転異性体(またはアトロプ異性体)はアミノ酸などの生体関連化合物に多く存在する炭素原子に異なる4つの置換基が結合した、いわゆる光学活性炭素タイプの異性体とはことなり、置換基同士の回転障害に起因するキラリティーの発現が特徴である。そのため、異性化(ラセミ化)する際に結合の切断や再結合の必要がなく、単に熱的な回転障壁緩和がドライビングフォースになる。
【0114】
本発明に用いられる化合物の第3の特徴は、置換基の回転障害による内部回転異性体の異性化を起こす箇所が分子内に少なくとも2つ存在することである。
【0115】
即ち、キラリティーを発現する箇所が複数箇所存在する分子であるため、鏡像体以外のジアステレオ異性体を複数共存させることができることが特徴である。
【0116】
また、有機合成の原則から、ラセミの原料を光学活性源なしに反応させると、必ずラセミの生成物(例えば、精製した化合物の旋光度は基本的にゼロである)を与え、もし、生成物に複数箇所のキラリティーを発現する箇所(内部回転異性を付与する結合軸や光学活性炭素)が存在する場合には、それらの中には必然的に複数の回転異性体(鏡像体対とジアステレオマー異性体)が共存することになる。
【0117】
本発明の化合物が、熱により蛍光波長が変化する大きな要因は上記第3の特徴によるものと推定している。
【0118】
つまり、合成時に生成する回転異性体(鏡像体対やジアステレオマー異性体)混合物は、熱力学的には最安定状態ではなく、準安定状態であり、その混合物に熱を加えることにより内部回転障壁が緩和され(自由回転が起こり)最安定状態へと異性化するものと考えられる。おそらく複数種あった回転異性体(鏡像体やジアステレオマー異性体)の存在比率が変化し、それに伴う分子会合状態の変化が蛍光波長の変化を引き起こしているものと推定しているが、今のところ確証を掴むに至っていない。
【0119】
従って、この自由回転を、安定なコンフォメーションに収束させれば(徐冷すれば)不可逆性の蛍光波長変化が得られるし、逆に最安定状態(蛍光波長が変化した状態)をさらに加熱し自由回転が瞬時に停止する程度の速い速度で冷却してやれば、最初の準安定状態に戻すことも可能である。
【0120】
以下に一般式(A1)で表される本発明の化合物の具体例を示すが、本発明はそれらに限定されるものではない。なお、ジアステレオ異性体については特に表記しないが、断りのない限り一つの構造でその鏡像体およびジアステレオ異性体を混合していることを意味するものとする。
【0121】
【化5】
【0122】
【化6】
【0123】
【化7】
【0124】
【化8】
【0125】
【化9】
【0126】
【化10】
【0127】
【化11】
【0128】
【化12】
【0129】
又、以下に一般式(1)又で表される本発明の化合物の具体例を示すが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0130】
【化13】
【0131】
【化14】
【0132】
【化15】
【0133】
【化16】
【0134】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0135】
実施例1
例示化合物A−3の合成
【0136】
【化17】
【0137】
(中間体2の合成)
1,1′−ビナフチル50gを2000mlの4頭フラスコ内で塩化メチレン600mlに溶解させ、氷浴中において臭素10.2mlを塩化メチレンで10倍希釈した溶液を少量ずつ滴下した。その後液温を室温に戻しさらに3時間攪拌した。
【0138】
反応液の溶媒を減圧留去し、得られた粗生成物をアセトニトリルから再結晶し、さらにメタノールによって懸濁洗浄を2回行うことにより中間体1を43.9g得た。
【0139】
次に窒素置換した1000mlの3頭フラスコ中に、前記中間体1を25gとりこれに脱水テトラヒドロフラン(以後TFHと略)100mlを加えて溶解した後、ドライアイスとメタノールを入れた浴で冷却し、その溶液中に1.5モル濃度のn−ブチルリチウムのヘキサン溶液50mlを約30分かけて徐々に滴下した。滴下終了後1時間攪拌し、さらにその反応溶液にトリメトキシボラン8.5mlを約30分かけて滴下した。反応溶液を室温まで昇温させ、室温でさらに1時間攪拌した後、10%の希硫酸を少量ずつ加え、室温で4時間攪拌した。
【0140】
反応液に酢酸エチル200mlと水100mlを加えて分液し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。有機溶媒を減圧で留去し、淡黄色オイル状の粗精製物を得た。
【0141】
この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、さらに酢酸エチル/テトラヒドロフランの混合溶媒で再結晶することにより白色固体状の中間体2を18g得た。(構造は1HNMR,FDマススペクトルで確認した)
(中間体3の合成)
トリフェニルアミン25.2gをクロロホルム200mlに室温で溶解し、その溶液を氷浴で内温約0℃とした。そこに、臭素49.2gを200mlのクロロホルムに溶解した溶液を約2時間かけて滴下した。滴下後約2時間室温で攪拌した後、約50℃に暖めたn−ヘキサン300mlを加えて静置した。析出した粗結晶を取り出し、さらにトルエン/エタノール=3/4の混合溶媒で再結晶することにより、白色結晶の中間体3を46.6g得た。(構造は1HNMR,FD−マススペクトルで同定した。)
(例示化合物A−3の合成)
300mlの3頭フラスコに、中間体2を15.2g(45mmol)と中間体3を5.8g(12mmol)および1,4−ジオキサンを150ml加え、加熱して溶解させた。次に、炭酸カリウム10.45gを水100mlに溶かし、これを上記ジオキサン溶液に加えた。この溶液に窒素ガスを約30分導入した後、触媒のトリフェニルホスフィンパラジウム(Pd(PPh3)4:アルドリッチ社製)1.74gを加えた。その後、窒素気流下、内温85〜90℃で8時間加熱攪拌しカップリング反応を行った。
【0142】
反応終了後、反応液を室温まで冷却したところ黄褐色の固体が生成した。反応液にテトラヒドロフランを加えてこの固体を溶解させ、不溶物を吸引濾過した後に飽和食塩水とテトラヒドロフランを加え分液して有機相を得た。この有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去し、褐色オイル状の粗生成物約14gを得た。
【0143】
この粗生成物4.7gを取り、カラムクロマトグラフィーで精製(展開溶媒はシクロヘキサン:トルエン=9:1〜2:1)し、得られた固体をトルエン/メタノールの混合溶媒で再結晶することにより、白色の例示化合物A−3を1.13g得た。(構造は1HNMR,FD−マススペクトルで同定した。融点は約220〜250℃であった。ガラス転移温度(Tg)は170℃であった。)
図1に例示化合物A−3のテトラヒドロフラン中での蛍光スペクトルおよび吸収スペクトルを示す(吸収極大波長:361nm、蛍光極大波長:441nm)、更に励起スペクトルを示す。なお、蛍光量子収率は0.57であった。
【0144】
図2に例示化合物A−3の高速液体クロマトグラフィーチャートを示す。なお、測定に用いたカラム(固定相)はGLサイエンス社製Inertsil ODS−2(充填剤の平均粒径5μm、口径4.6mm、長さ250mm)、移動相はアセトニトリル100%、流速4ml/min、カラム温度60℃で測定した。
【0145】
図2でわかるように例示化合物A−3には2つの成分がある(RTで7.38分と8.57分の成分)。また用いたカラムが非光学活性の充填剤(オクタデシルシリカ)であることから、この2つの成分は鏡像体ではない。さらに、この2つの成分を分取しそれぞれマススペクトルを測定したところ、両者ともにm/e=1001の分子イオンピークを示し、フラクションパターンも全く同じであった。以上のことから、この2つのピークはジアステレオマー異性体に相当するものであることが明らかになった。
【0146】
実施例2(高密度記録媒体の作製)
厚さ約0.5mmのガラス板上に金属クロムを蒸着して光熱変換層を形成した。一方、光学研磨された厚さ1.2mmのガラス基板上に本発明の化合物A−3の10%テトラヒドロフラン溶液をスピンコート法により塗設した後80℃の真空オーブンで2時間乾燥させ(乾燥後の膜厚約80nm)本発明の化合物を含有した有機薄膜を得た。この有機薄膜の有機物側にさらに厚さ約0.5mmのガラスを載せ、厚着後四方をエポキシ系接着剤で封止した。以上のようにして、ガラス基板\記録層\光熱変換層\ガラス板という構造の本発明の化合物を含有した記録媒体を作製した。
【0147】
この記録媒体を900rpmで回転させながら、半導体レーザーから波長780nmのレーザービームをスポット径1μm、照射強度10mWの条件で照射した。この後、光記録媒体を蛍光顕微鏡(励起光の波長350nm)で観察した結果、レーザービーム照射部のみが緑色に強い蛍光を発する幅約1μmのラインが観察された。なお非照射部は紫色に見えた。
【0148】
また、同じ記録媒体を900rpmで回転させながら、半導体レーザーから波長780nmのレーザービームをスポット径1μm、照射強度1mWの条件で照射した。この後、光記録媒体を蛍光顕微鏡(励起光の波長350nm)で観察した結果、レーザービーム照射部のみが青色に強い蛍光を発する幅約1μmのラインが観察された。なお非照射部は紫色に見えた。
【0149】
以上のように本発明の化合物を含有した記録媒体を用いることにより、高密度に情報の記録および再生ができることがわかり、さらに書き込む時のエネルギーを変化させることにより他の色に蛍光を発する記録部を作製することができることもわかった。即ち、照射エネルギー量の調整により多値記録が可能であることがわかった。
【0150】
実施例3(高密度光記録媒体)
記録層として、構造式(A−3)で示される化合物の代わりに構造式(A−20)で示される化合物を用いた以外は実施例1と同様にして、ガラス基板\記録層\光熱変換層\ガラス板という構造の光記録媒体を作製した。
【0151】
この光記録媒体を900rpmで回転させながら、半導体レーザーから波長780nmのレーザービームをスポット径1μm、照射強度10mWの条件で照射した。この後、光記録媒体を蛍光顕微鏡で観察した結果、レーザービーム照射部のみが緑色に強い蛍光を発する幅約1μmのラインが観察された。なお非照射部は紫色に見えた。
【0152】
また、同じ記録媒体を900rpmで回転させながら、半導体レーザーから波長780nmのレーザービームをスポット径1μm、照射強度1mWの条件で照射した。この後、光記録媒体を蛍光顕微鏡(励起光の波長350nm)で観察した結果、レーザービーム照射部のみが青紫色に強い蛍光を発する幅約1μmのラインが観察された。なお非照射部は紫色に見えた。
【0153】
その他、記録層に本発明の化合物B−4,B−12,B−18,B−19を用いた記録媒体においても同様の結果が得られた。
【0154】
実施例4(高分子分散型高密度記録媒体)
厚さ0.5mmのガラス基板上に金属クロムを蒸着して光熱変換層を形成した。また、構造式(A−3)で示される化合物とポリメチルアクリレートとを質量比1:2の割合で含有するシクロペンタノン溶液を調製した。次いで、前記光熱変換層上にこのシクロペンタノン溶液をディップ塗布法で塗布し、80℃の真空オーブンで2時間乾燥させ(乾燥後の膜厚約150nm)本発明の化合物を含有した有機薄膜を得た。この有機薄膜の有機物側にさらに厚さ約0.5mmのガラスを載せ、厚着後四方をエポキシ系接着剤で封止した。以上のようにして、ガラス基板\記録層\光熱変換層\ガラス板という構造の本発明の化合物を含有した記録媒体を作製した。
【0155】
この光記録媒体を900rpmで回転させながら、半導体レーザーから波長780nmのレーザービームをスポット径1μm、照射強度10mWの条件で照射した。この後、光記録媒体を蛍光顕微鏡(励起光の波長350nm)で観察した結果、レーザービーム照射部のみが緑色に強い蛍光を発する幅約1μmのラインが観察された。なお非照射部は紫色に見えた。
【0156】
また、同じ記録媒体を900rpmで回転させながら、半導体レーザーから波長780nmのレーザービームをスポット径1μm、照射強度1mWの条件で照射した。この後、光記録媒体を蛍光顕微鏡(励起光の波長350nm)で観察した結果、レーザービーム照射部のみが青色に強い蛍光を発する幅約1μmのラインが観察された。なお非照射部は紫色に見えた。
【0157】
以上のように本発明の化合物を高分子に分散させた記録媒体を用いることにより、高密度に情報の記録および再生ができることがわかり、さらに書き込む時のエネルギーを変化させることにより他の色に蛍光を発する記録部を作製することができることもわかった。即ち、照射エネルギー量の調整により多値記録が可能であり蛍光発光を読み取ることが可能であることがわかった。
【0158】
実施例5(ジアステレオ異性体混合物を含有した有機エレクトロルミネッセンス素子)
比較用トリアリールアミン(PA−3)の合成
実施例1で合成した本発明の化合物A−3(ジアステレオ異性体混合物)100mgを分取用高速液体クロマトグラフィーによりジアステレオマーを分取し、鏡像体のみで構成されるジアステレオ異性体を含まないA−3(以降PA−3と称す)20mgを得た。
【0159】
(有機エレクトロルミネッセンス素子の作製)
陽極としてガラス上にITOを150nmの膜厚で成膜した基板(NHテクノグラス社製NA−45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行なった。この透明支持基板を、市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方、モリブデン製抵抗加熱ボートに、銅フタロシアニン(CuPc)を入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに本発明のトリアリールアミンのジアステレオ異性体混合物(A−3)を入れ、真空蒸着装置に取付けた。次いで、真空槽を7×10-4Paまで減圧した後、CuPcの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1〜0.3nm/secで透明支持基板に蒸着し、膜厚15nmの正孔注入層を設けた。さらに、A−3の入った前記加熱ボートを通電して加熱し、蒸着速度0.1〜0.3nm/secで前記正孔注入層上に蒸着して膜厚70nmの発光層を設けた。なお、蒸着時の基板温度は室温であった。次に、真空槽をあけ、電子注入層の上にステンレス鋼製の長方形穴あきマスクを設置し、一方、モリブデン製抵抗加熱ボートにマグネシウム3gを入れ、タングステン製の蒸着用バスケットに銀を0.5g入れ、再び真空槽を3×10-4Paまで減圧した後、マグネシウム入りのボートに通電して蒸着速度1.5〜2.0nm/secでマグネシウムを蒸着し、この際、同時に銀のバスケットを加熱し、蒸着速度0.1nm/secで銀を蒸着し、前記マグネシウムと銀との混合物からなる対向電極とすることにより、有機エレクトロルミネッセンス素子EL−1を作製した。
【0160】
また、EL−1で使用した本発明のトリアリールアミンのジアステレオ異性体混合物(A−3)の替わりに、比較のジアステレオ異性体混合物を含まないトリアリールアミン(PA−3)を用いた以外はEL−1と全く同じ方法で作製した比較用有機エレクトロルミネッセンス素子EL−2を作製した。
【0161】
これらの素子のITO電極を陽極、マグネシウムと銀からなる対向電極を陰極として温度23℃、乾燥窒素ガス雰囲気下で15V直流電圧印加による連続点灯を行い、点灯開始時の発光輝度(cd/m2)および輝度の半減する時間を測定した。
【0162】
その結果、本発明のEL−1では初期輝度380cd/m2の青紫色の発光が得られ、その半減時間はおよそ215時間であった。一方、比較のEL−2では初期輝度160cd/m2の青緑色発光で、半減時間もおよそ49時間と短いことがわかった。
【0163】
つまり、構造式上では同一に記載されるA−3とPA−3の間に有機エレクトロルミネッセンス材料として性能の差があることが明らかになった。このことは、おそらく複数のジアステレオ異性体混合物であるA−3は素子にした際に結晶化しにくく、安定なアモルファス膜を形成しやすいことに起因しているものと考えられる。
【0164】
実施例6(ジアステレオ異性体混合物を含有した有機エレクトロルミネッセンス素子のレーザー光照射による発光色変化)
実施例5で作製した本発明の素子EL−1を窒素気流下にて陰極上に0.5mmのガラス板をエポキシ樹脂系接着剤で張り合わせ簡易的な封止を行った。
【0165】
その素子の陽極側から波長780nmの半導体レーザービームを集光しスポット径10μm、照射強度10mWの条件で照射した。このレーザー照射を連続して横方向に走査し10μm×2mmの範囲を加熱した。
【0166】
この素子に15Vの直流電圧を印加したところ、レーザー照射した部分のみが緑色に、照射しなかった部分が青紫色に発光する素子が得られた。
【0167】
つまり、有機層を蒸着した後に加熱することで発光色を変化させることができた。
【0168】
実施例7(不可逆性温度マーカーの作製およびそれを用いた温度測定)
(温度検量線の作製)
本発明の例示化合物であるジアステレオ異性体混合物A−3の約3mgを昇温速度10℃/minで加熱し、最終到達温度300℃,350℃,400℃,450℃および500℃まで加熱したサンプルを作製した。それら各サンプルの固体状態での蛍光スペクトルを励起光348nmにて測定し各々の極大発光波長を求めた。
【0169】
その結果を表1に、さらにその結果から作製した検量線を図3に示す。
【0170】
【表1】
【0171】
(不可逆性温度マーカーの作製)
厚さ0.1mmの5mm四方のアルミニウム板の中央部に2mm四方の大きさになるようにマスキングし、本発明のジアステレオ異性体混合物A−3の20%テトラヒドロフラン溶液をウエット膜厚約0.2mmでキャストコートした。マスキングしたまま室温で乾燥させ、さらにマスキングを取り除いて80℃の真空オーブンで約1時間乾燥させた。
【0172】
そのアルミニウム板の塗布物を覆うように5mm四方の厚さ0.2mmのガラス板を接着し温度マーカー(TM−1)とした。
【0173】
(有機エレクトロルミネッセンス素子作製用加熱ボートの内部温度測定)
実施例5の銅フタロシアニン(CuPc)を入れた製抵抗加熱ボート内に本発明の温度マーカーTM−1実施例6と同じ条件で真空蒸着を行った。
【0174】
素子作製終了後、加熱ボート内のTM−1を取り出し、TM−1のガラス側に348nmの励起光を照射し、その蛍光極大波長を測定したところ、497nmに極大発光波長を有することがわかった。
【0175】
この測定結果と表1(図3)の検量線から、蒸着時のCuPcは約440℃まで昇温されていたことがわかった。
【0176】
【発明の効果】
与える熱に応じて蛍光波長が不可逆に変化する新規な熱感応性化合物を用いた記録媒体、記録方法および再生方法、該化合物からなる組成物を含有した有機エレクトロルミネッセンス素子およびその多色化方法さらに高温領域で温度計測の可能な温度マーカー等の記録素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】例示化合物A−3のテトラヒドロフラン中での蛍光スペクトルおよび吸収スペクトル。
【図2】例示化合物A−3の高速液体クロマトグラフィーチャート。
【図3】例示化合物A−3を用いた温度検量線。
Claims (10)
- 与えられた熱に応じて分子の異性化が起こり、その結果として蛍光波長が変化し、かつその変化が実質的に不可逆である、分子内に複数個の内部回転異性を付与しうる結合軸をもつビアリール基を有する熱感応性有機化合物の組成物を含有する熱記録媒体。
- 与えられた熱に応じて分子の異性化が起こり、その結果として蛍光波長が変化し、かつその変化が実質的に不可逆である、分子内に複数個の内部回転異性を付与しうる結合軸をもつビアリール基を有する熱感応性有機化合物の組成物を含有する追記型情報記録要素。
- 請求項1又は2に記載された熱記録媒体にレーザー光で情報を書き込むことを特徴とする記録方法。
- 請求項1又は2に記載された熱記録媒体に書き込まれた情報を蛍光発光により読みとることを特徴とする情報の読み出し方法。
- 少なくとも2つの電極間に、与えられた熱に応じて分子の異性化が起こり、その結果として蛍光波長が変化し、かつその変化が実質的に不可逆である、分子内に複数個の内部回転異性を付与しうる結合軸をもつビアリール基を有する熱感応性有機化合物の組成物を含有する少なくとも1種の有機化合物層を挟持する有機エレクトロルミネッセンス素子の発光波長を該組成物に熱を与えることにより変化させることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の多色化方法。
- 熱の供給手段がレーザー光線であることを特徴とする請求項7記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の多色化方法。
- 与えられた熱に応じて分子の異性化が起こり、その結果として蛍光波長が変化し、かつその変化が実質的に不可逆である、分子内に複数個の内部回転異性を付与しうる結合軸をもつビアリール基を有する熱感応性有機化合物の組成物を含有する物体 を不可逆性温度マーカーとして使用し、その蛍光波長変化により該物体が存在した場所の温度を測定することを特徴とする温度測定方法。
- シートまたはペレット中に、与えられた熱に応じて分子の異性化が起こり、その結果として蛍光波長が変化し、かつその変化が実質的に不可逆である、分子内に複数個の内部回転異性を付与しうる結合軸をもつビアリール基を有する熱感応性有機化合物の組成物を含有することを特徴とする不可逆性温度マーカー。
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